役 割

by 夏井高人


<サイバー法研究会メーリング・リストへの10月28日付の投稿記事をもとにしたリフォーム版>

 

岡村久道先生の「情報法学日記」<http://www.law.co.jp/okamura/nikki.htm>で紹介されている

http://www.zdnet.co.jp/news/9810/27/mp3.html

にある「MP3の出荷解禁」という趣旨のニュース記事の中にあったAudio Home Recording Act(AHRA)の条文をインターネット上で入手できるかどうか,検索エンジンを使って探してみたら,

http://www.law.cornell.edu/uscode/17/ch10.html

に,United States Code TITLE 17 - COPYRIGHTS CHAPTER 10 - DIGITAL AUDIO RECORDING DEVICES AND MEDIA として立法されていることが分かりました。

私が明治大学で研究活動に専念するようになり,アメリカ合衆国の連邦及び各州のコンピュータがらみの法律の調査に本格的に取り組み初めてから約1年半を経過しようとしておりますが,とにかく立法が豊富であり,しかも,必要に応じて頻繁に改正がなされていることに毎日のように驚かされます。

先頃アメリカ合衆国で成立したデジタルミレニアム著作権法(デジタル著作物に付された著作権保護システムすなわち電子すかしなどの迂回や破壊行為を禁止している。)でもそうですが,アメリカ合衆国の立法議会では,迅速に時代の要請に即した立法がなされています。このほかにも,10月20日から21日にかけては,「青少年オンライン保護法案」Child Online Protection Actやインターネット上の関税免除に関する法律など,恐るべき分量のインターネット関係の新たな法律が誕生しました。でも,日本では,そんな話題は耳にしません。また,アメリカ合衆国の司法も,その新たな立法にまずいところがあれば,迅速に憲法違反なりなんなりの判断をしています。たとえば,昨年の通信品位法(CDA)の違憲判決<http://www.asahi-net.or.jp/~VR5J-MKN/index3.htm><http://tachiyama.econo.yamaguchi-u.ac.jp/#tokushu>に至る道程は,日本の司法ではとても考えられないほどの早さでした。こういう問題に関しては,日本の状況は,非常に悲しいですね。

このように,インターネットをはじめ,デジタル環境への対応を考えた立法の議論が日本ではさっぱり起きてこない原因の一つとしては,「何が問題であるのか」ということに関する情報が十分に,かつ,分かりやすく,かつ,利用しやすいかたちで国民に提供されていない,ということがあると思います。

サイバー法の研究者がインターネット上で研究成果を公表し続けることは,その意味でも,非常に価値あることだと思います。

ただし,日弁連のいわゆる弁護士広告規制だけではなく,その他いろいろ,まるで時代遅れで,(自己の利権維持以外の目的では)特に維持すべき学問的・経済的・社会的・哲学的・芸術的・科学的価値もほとんどなく,逆にそのまま維持したのでは(私の子供達の未来を含めた)現在及び将来の日本を明らかに破滅へと向かわせる最大要因の一部を構成するような,そうした無価値な考え方とそのような考え方によって保護されていると思いこんでいる状況(一種の錯覚ないし幻想)から抜けられないでいる不明な人たちがまだまだ多数存在することも事実ではありますが・・・

かつて,幕末の頃,浦賀に来航したペリーの軍艦(いわゆる黒船)に2名の日本人の若者(すなわち,吉田松陰ら)が小舟で寄りつき,国禁を破っても渡米したいと依頼したことについて,ペリーは,その著書『日本遠征記』の中で,「このように学問の探求のために死をも恐れない若者達がいるということは,日本という国は何と希望に満ちていることか(full of hope)」と記載しているということですが(ただし,私は,まだ原書を確認していない。),その後の吉田松陰の運命と明治維新の動乱,そして,その過程で流された幾多の血と涙,しかも,それが暗愚なリーダー達のためにそうなってしまったことがいかに多いか,そのような状況が現代の日本とどれくらい違うのか,あるいは,同じなのか,に思いを寄せると,何かしら考えさせられてしまうことがたくさんあります。


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Last modified :Oct/28/1998

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