トップレーサー事件判決


東京地裁昭和59年(ワ)第9604号損害賠償等請求事件(擬制自白)


判        決

原        告        株式会社ナムコ

被        告        アロー電機株式会社

主        文

一 被告は,別紙物件目録(一)記載の物件を製造販売してはならない。

二 被告は,別紙物件目録(二)記載の物件を廃棄せよ。

三 被告は,原告に対し金4160万円及び内金3990万円に対する昭和58年2月5日以降,内金170万円に対する昭和59年12月6日以降各支払済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。

四 訴訟費用は,被告の負担とする。

五 この判決は,仮に執行することができる。

事 実 及 び 理 由

一 原告訴訟代理人は,主文同旨の判決及び仮執行の宣言を求め,請求の原因として次のとおり述べた。

1 原告は,昭和49年から娯楽機械の一種であるビデオゲーム機の研究開発をし,昭和57年6月にコックピットタイプのビデオゲーム「ポール・ポジション」(以下,括弧書きで「ポール・ポジション」と表示する場合は,ビデオゲーム「ポール・ポジション」のことをいう。)を完成させ公表し,昭和58年2月までに完成品約3000台を販売するに至っている。

2 ビデオゲーム機とは,次の(一)ないし(四)を主たる構成要素とする遊戯用映画機械の一種である。

(一) 登場人物の影像データを記憶した回路(ROM−影像データ群)と音楽,効果音及びストーリーのプログラムを記憶した回路(ROM−プログラム群)

(二) 各ROMから出される信号を受け,CPU(中央演算処理装置)その他の電子部品とそれらの配線によって,登場人物,効果音,音楽及びストーリーを発生させるための信号を出力する制御回路

(三) (二)の制御回路からの出力信号を外部に表現するためのスピーカー及びブラウン管からなる表示装置

(四) 遊戯者が(三)の表示装置に表現されるストーリーに参加するための操作装置

3 遊戯者は,ブラウン管画面上の移動影像及び固定影像の変化をみながら,操作装置を操作して特定の影像をコントロールすることにより,両影像が表現するゲームストーリーに参加して楽しむことができる。

4 ビデオゲーム機の影像は,一般に遊戯者の参加が可能なプレイ影像並びに遊戯者の介入が不可能で,影像データ群とプログラム群に基づいて一定の時間的単位の連続 影像が繰り返し現れるアトラクト影像,挿入影像及びクレジット影像の4つに分けることができる。但し,挿入影像がないものもある。

(一) プレイ影像

(1) コイン投入後に表現される影像である。遊戯者は特定の影像をコントロールすることにより,移動影像及び固定影像が表現するゲームストーリーに参加でき,一定条件(時間又は失敗の回数)になるまでゲームを楽しむことができる。また, 影像とともに色々な音楽,効果音が発生する。

(2) 遊戯者の操作による特定の影像の変化に応じて移動影像及び固定影像は変化するが,これは遊戯者の操作に基づいて移動影像及び固定 影像に一定の変化を加える命令がプログラム群に組み込まれていることによるのであって,遊戯者が影像を創作しているのではない。したがって,ある 遊戯者が行ったのと同一の操作を別の遊戯者が行った場合には,移動影像及び固定影像の変化は必ず同一となる。すなわち,プレイ影像は,ROMに固定された 影像データ群とプログラム群に基づいて表現されるのである。

(二) アトラクト影像

 ゲーム終了後又は電源入力後コインが投入されるまでの間規則的に繰り返し表現される影像である。この影像はROMに固定された影像データ群 及びプログラム群に基づいて表現される。音楽及び効果音は出ないことが多い。

(三) 挿入影像

 遊戯者がプレイ中に一定条件を充たすごとに表示される影像である。この影像は,ROMに固定された影像データ群とプログラム群に基づいて表現される。音楽及び効果音を伴うことが多い。

(四) クレジット影像

 コイン投入時の影像である。

5 「ポール・ポジション」の内容

 「ポール・ポジション」は,F1レースをテーマにしたアニメーション映画で,遊戯者は,画面下方に位置しているF1マイカーをステアリング,アクセル,ブレーキ,ギアチェンジの操作で運転し,富士スピードウェイを二次元的に再現したコースにおいてコンピューターにより操作される他のF1カーとレースを行うというビデオゲームである。

 これをプレイ影像についてみると,ゲームスタートすると,レース開始前に富士スピードウェイの一周コースが映し出されこの時別紙楽譜(一)の予選スタートファンファーレが鳴る。

 次に,女性の声で「予選スタートです」と遊戯者に予選開始が告げられた後,予選レースが始まる。予選は一周のラップ・タイムにより,グランプリ・レースに出場できるか否か,またグランプリに出場できたときに如何なる順位・位置でスタートするかが決められる。

 そして,マイカーの一周のラップ・タイムが一定時間内のときは,グランプリ・レースに出場でき,右時間を超えるラップ・タイムのときは,マイカーは当初の手持時間が経過するとレースは終了する。レース終了後には,別紙楽譜(六)の音楽が流れる。

 予選通過一位(ポール・ポジション)のときは,別紙楽譜(二)の効果音,それ以外のときは同(三)の効果音が発せられる。

 グランプリ・レースは女性の声で「予選通過,グランプリ・レースです」と遊戯者にグランプリの開始が告げられた後開始する。グランプリには,マイカーを始め8台出場するが,スタート時の位置は予選のラップ・タイムで決められる。

 グランプリ・レースにおいては,マイカーがコースを一定時間内で1周すると,残り時間が延長され(この時別紙楽譜(四)のエキステンド音が発せられる。),レースは更に続く。一定時間内に 1周できなかったときは,その場でマイカーはストップし,レースは終了する。

 マイカーがグランプリで3周又は4周(ディップスイッチで切替できる。)続けて一定時間内でコースを回ると,チェッカード・フラッグを受けてゴールインし,レースは終了する(この時別紙楽譜(五)の音楽が流れる。)。

 なお,マイカーは,他のF1カーや看板に激突すると衝突音と共に炎上するが,一定時間後再び炎上地点に現れレースは再開される。更に,マイカーがコースをはずれると,マイカーのスピードは遅くなる。

 その他の音楽,効果音は別紙楽譜(七)乃至(一五)のとおりである。

6 以上の「ポール・ポジション」の視聴覚的効果は,「ポール・ポジション」のPCBに装置されたROMに収納されたオブジェクト・プログラムに基づくものである。

 右のソース・プログラムは,「ポール・ポジション」の極めて高度な影像,音楽,効果音及びストーリーを表現するために必要な種々の問題を細分化して分析し,そのそれぞれについて解法を発見したうえで,その発見された解法に従って作成されたフローチャートに基づき,専門的知識を有する第三者に伝達可能な記号語(アッセンブリ言語)によって,種々の命令及びその他の情報の組合せとして表現されたものであ り,当然のことながら右の解法の発見及び命令の組合せの方法においてプログラム作成者の論理的思考が必要とされ,また最終的に完成されたプログラムは,その作成者によって個性的な相違が生じるものであることは明らかであるから,右各プログラムは,その作成者の独自の学術的思想の創作的表現であり,著作権法上保護される著作物に当り,そのオブジェクト・プログラムは右プログラムの複製物に該当する。

7 以上に述べたとおり,「ポール・ポジション」は映画の著作物に該当すると共に,そのオブジェクト・プログラムは著作権法上保護される著作物に該当するものである。

8 被告の権利侵害行為

 被告は,昭和58年1月以降昭和58年2月5日に至るまで少なくとも「ポール・ポジション」のPCBに装着されたROMに収納された原告著作物の複製 物であるオブジェクト・プログラムと殆ど同じオブジェクト・プログラムを収納したROMを用いて殆ど同じ視覚的効果を表現するコピー品「トップレーサー」と題するビデオゲーム機を合計133台製造し,これを販売した。

 被告製造にかかるビデオゲーム「トップレーサー」のPCBに装着されたROMに収納されたオブジェクト・プログラムは原告の前記プログラムの複製権を侵害するものであり,別紙目録(二)記載のプリンテッド・サーキット基板,ビデオゲーム機の完成品及び未完成品は著作権法112条2項に定める「侵害の行為を組成した物 ,侵害の行為によって作成された物又はもっぱら侵害の行為に供された機械若しくは器具」に該当する。更に被告が,本件「ポール・ポジション」のPCBに装着されたROMに収納されたオブジェクト・プログラムの著作権者であることを知悉していることは,被告がビデオゲーム業界に通じており,更には「ポール・ポジション」の周知性からも異論の余地がない。

9 損  害

(一) 原告は,「ポール・ポジション」を1台製造販売するにつき金30万円を下らない純利益をあげているので,被告が前記「トップレーサー」を133台製造販売したことにより,原告は,合計金3990万円の得べかりし利益を失った。

(二) また,原告は,被告の本件侵害行為に対処すべく,原告訴訟代理人らを代理人として仮差押手続をし,更に本件訴訟につき原告訴訟代理人に委任し,合計金170万円を着手金として支払った。右合計金170万円は,被告の本件侵害行為と相当因果関係ある損害というべきである。

10 よって,原告は,被告に対し,別紙物件目録(一)記載のプリンテッド・サーキット基板の製造販売の禁止及び別紙物件目録(二)記載のビデオゲーム機の完成品,未完成品,プリンテッド・サーキット基板の廃棄並びに損害賠償として金4160万円及び内金3990万円に対する不法行為後である昭和58年2月5日以降,内金170万円に対する訴状送達の日の翌日である昭和59年12月6日以降各支払済に至るまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二 被告は,適式の呼出を受けたのに,本件口頭弁論期日に出頭せず,答弁書その他の準備書面も提出しないので,民事訴訟法140条第3項,第1項の規定により請求原因事実はすべて自白したものと看做される。

三 右事実によれば,原告の請求はいずれも理由がある。

 

裁 判 長  裁 判 官   元   木     伸

       裁 判 官   飯  村   敏  明

       裁 判 官   高   林     龍

 


<別  紙>

物 件 目 録 (一)

 

「TOP RACER」と題する左記内容のビデオ・ゲームの影像をブラウン管上に顕出し(影像の一部は別添写真@ないしIのとおり),別紙楽譜(一)ないし(一五)の音楽及び効果音をスピーカーを通じて発振することのできるプリンテッド・サーキット基板

F1レースをテーマとし,二次元的に再現した富士スピードウェイのコースに位置するF1マイカーを遊戯者がステアリング,アクセル,ブレーキ及びギアチェンジを操作して運転し,コンピューターによって操作される他のF1カーと予選レース及び予選を通過した場合にはグランプリレースにおいてレースを行うことを内容とするビデオ・ゲーム。


<別  紙>

物 件 目 録 (二)

 

一 債権者原告,債務者被告間の東京地方裁判所昭和58年(ヨ)第2508号動産仮差押決定に基づく執行により同裁判所執行官西崎貢が保管する左記物件

1 トップレーサーメインプリンテッドサーキット基板  10枚入5箱

二 債権者原告,債務者被告間の東京地方裁判所昭和58年(ヨ)第252号動産仮差押決定に基づく執行により同裁判所執行官保田剛史が保管する左記物件

1 テレビゲーム機(トップレーサー)完成品本体部分    146台

2 テレビゲーム機(トップレーサー)未完成品本体部分    8台


<別添写真及び別紙楽譜は省略>


Copyright (C) 1998-2001 Takato Natsui, All rights reserved.

Published on the Web : Apr/23/1998

Error Corrected : Jun/18/2001

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