ジグザグ事件判決


東京地裁昭和59年(ワ)第12619号損害賠償等請求事件(擬制自白)


判        決

原        告        株式会社ナムコ

被        告        株式会社ティー・アイ・エム

主        文

一 被告は,別紙物件目録記載の物件を譲渡及び貸与してはならない。

二 被告は,前記記載の物件を廃棄せよ。

三 被告は,原告に対し金1272万円及びこれに対する昭和57年6月1日以降支払済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。

四 訴訟費用は被告の負担とする。

五 この判決は,仮に執行することができる。

事 実 及 び 理 由

一 原告訴訟代理人は,主文同旨の判決及び主文第一ないし第三項につき仮執行の宣言を求め,請求の原因として次のとおり述べた。

1 原告は,昭和49年から娯楽機械の一種であるビデオゲーム機の研究開発をし,昭和57年にはビデオゲーム「ディグダグ」(以下,括弧書きで「ディグダグ」と表示する場合は,ビデオゲーム「ディグダグ」のことをいう。)を完成し,原告名で約1万2000台販売するに至っている。

2 ビデオゲーム機とは,次の(一)ないし(四)を主たる構成要素とするゲームプレイヤー介入型コイン作動式ゲーム機である。

(一) 登場人物の影像データを記憶した回路(ROM−影像データ群)と音楽,効果音及びストーリーのプログラムを記憶した回路(ROM−プログラム群)

(二) 各ROMから出される信号を受け,CPU(中央演算処理装置)その他の電子部品とそれらの配線によって,登場人物,効果音,音楽及びストーリーを発生させるための信号を出力する制御回路

(三) (二)の制御回路からの出力信号を外部に表現するためのスピーカー及びブラウン管からなる表示装置

(四) 遊戯者が(三)の表示装置に表現されるストーリーに参加するための操作装置

 遊戯者は,ブラウン管画面上の移動影像及び固定影像の変化を見ながら,操作装置を操作して特定の影像をコントロールして,両影像が表現するゲームストーリーに参加して楽しむことができる。(一)及び(二)がプリンテッド・サーキット基板(以下 ,「PCB」という。)を構成する。

3 ビデオゲーム機の影像は,一般に遊戯者の参加が可能なプレイ影像並びに遊戯者の介入が不可能で,影像データ群とプログラム群に基づいて一定の時間単位の連続 影像が繰り返し現れるアトラクト影像,挿入影像及びクレジット影像の4つに分けることができる。但し,挿入影像がないものもある。

(一) プレイ影像

(1) コイン投入後に表現される影像である。遊戯者は特定の影像をコントロールして,移動影像及び固定影像が表現するゲームストーリーに参加でき,一定条件(時間又は失敗の回数)になるまでゲームを楽しむことができる。また, 影像とともに色々な音楽,効果音が発生する。

(2) 遊戯者の操作による特定の影像の変化に応じて移動影像及び固定影像は変化するが,これは遊戯者の操作に基づいて移動影像及び固定 影像に一定の変化を加える命令がプログラム群に組み込まれていることによるのであって,遊戯者が影像を創作しているのではない。したがって,ある 遊戯者が行ったのと同一の操作を別の遊戯者が行った場合には,移動影像及び固定影像の変化は必ず同一となる。すなわち,プレイ影像は,ROMに固定された 影像データ群とプログラム群に基づいて表現されるのである。

(二) アトラクト影像

 ゲーム終了後又は電源入力後コインが投入されるまでの間規則的に繰り返し表現される影像である。この影像はROMに固定された影像データ群とプログラム群に基づいて表現される。音楽及び効果音は出ないことが多い。

(三) 挿入影像

 遊戯者がプレイ中に一定条件を充たすごとに表示される影像である。この影像は,ROMに固定された影像データ群とプログラム群に基づいて表現される。音楽及び効果音を伴うことが多い。

(四) クレジット影像

 コイン投入時の影像である。

4 「ディグダグ」の内容

 「ディグダグ」は,追跡劇をテーマにしたアニメーション映画であり,プレイヤーがディグダグとなって4方向にレバーを操作して自らプレイイングフィールドを作成して地層中のモンスターを退治するゲームである。

(一) 影像の構成

(1) ゲームがスタートすると,地層の表面が表われ,地上の右端から中央までディグダグは歩いて行きそこから地層中心部の空間まで掘り下げる。この時,スタート音楽が演奏される。

(2) 他の空間にはモンスターがいて,巣の中で往復運動をしている。

(3) モンスターの出現数は,最大8匹(ラウンドによって異なる。)である。

(4) モンスターは,プーカア(ゴーグルをした赤色モンスター)とファイガー(火を吐く緑色のモンスター)の2種類である。

(5) モンスターは目に変容して,巣から出て,ディグダグを追ってくる。ただし巣と通路がつながっていると実体化したままで通路を追って来る。

(6) ディグダグは上下左右方向に地中をほり進むことができる。掘ったあとは通路として残る。もちろん通路を歩くこともできる。この時も音楽が演奏される。

(7) ディグダグはモリをモンスターに打ちこんで,ポンプでモンスターをふくらませてパンクさせたり,モンスターを岩の下へさそいこみ,岩を落してモンスターをつぶしたりして,モンスターを退治する。

(8) 各ラウンドで2個目の岩を落すと,ベジタブルターゲットがディグダグのスタート位置(地層中央の空間)に10秒間出現する。

(9) モンスターを全滅させるか,また最後の1匹を逃がしてしまうと次のラウンドへ進む。この時も音楽が演奏される。

(10) ディグダグがモンスターに接触するか,ファイガーの火をあびるか,岩の下敷きになるとミスとなる。

(11) ディグダグが全滅するとゲームオーバーとなり終了音楽が演奏される。

(12) ゲームオーバー時に得点がベスト5以内にはいるとイニシャル(3文字)を入れることができる。この時も音楽が演奏され,得点がベスト1の時はまた別の音楽が演奏される。

(二) 登場人物の説明

(1) モンスター

イ 次に掲げる名称のものがあって,いずれも土中は目玉で移動し,通路,空間,地上に出ると実体化してディグダグを追跡する。

@ プーカア

 赤い体でゴーグルをしている。ディグダグを賢く追跡するが攻撃法として体当りしか持ち合わせていない為に弱い。得点はファイガーの半分である。

A ファイガー

 プーカアに比べて賢くないが,スピードは上であり攻撃法として体当り以外に火を吐くことができる。

ロ 移動速度

 大別して目玉と実体化の時の速度は異なり,また,プーカア,ファイガーの間でも異なる。そして,ラウンドと時間の経過によって変化する。目玉は常にディグダグより移動速度は遅く,時間による変化はない。実体はファイガーの方がプーカアより速く,それぞれ時間による変化を伴う。また,たて通路を降りるときはスピードアップする。

ハ ディグダグのモリが命中した時,ホースにつながれた時,ファイガーが火を吐こうとする時の3状態の時移動を停止する。
 ディグダグのモリが命中して空気を送られるとモンスターは3段階のキャラクター変化を伴い,パンクして得点が表示される。しかし,ふくらまされた途中でホースを解除されると時間経過によ り復元される。但し,復元時間はラウンドにより異なる。
 数は最大限8匹であり,ラウンドにより出現数は異なる。但し,モンスターの内訳は,プーカア,ファイガーとも最大4匹となっている。
 空間内を何往復かするとモンスターは目玉となり,ディグダグを追跡するが次の空間に入ってしまうと1・5往復でまた目玉となる。
 モンスターは次の場合ディグダグから逃げる。

@ 岩石が落ちようとしてゆれ始めたとき。

A 最後の1匹となったとき。

(2) ディグダグ

イ ディグダグはプレイヤーが操作し,レバーを上下左右の4方向に動かすことにより,指示どおりの方向に進行し地中にあっては,あな堀りをなし,自らプレイイングフィールドを作成する。
 あな掘り速度と地上・空間・通路内の移動速度は異なり前者の方が遅い。

ロ レバーを倒した方向に移動及び方向転換をする。

 但し,次の場合は例外である。

@ 進行先の直前に岩石が存在している。

A 画面の端に到達する。

B モリを発射した時,あるいはホースでつながっている。

ハ 攻撃方法

@ モリを発射し,ホースをなげてポンプでパンクさせる。

A モンスターの頭上に岩石を落し,押しつぶす。

ニ ミ  ス

@ 岩石の下敷になる。

A ファイガーの火をあびる。

B モンスターの体に接触する。

 但し,モリに当ったか,ふくらんだモンスターに接触してもミスとはならない。

ホ READYの表示後,画面中央付近にある空間内に出現する。但し,第1ラウンドでは,地上の右端に出現し中央まで歩き,そこから中心部まで掘り下げる。

ヘ モリ・ホース

 発射ボタンを押すとモリが飛びその後にホースが付き,ディグダグの前方に伸びる。但し,1画面に1本しか存在しない。

 モリが命中した場合モンスターは痛そうな顔をして止まりディグダグとモンスターの間がホースでつながる。プレイヤーが発射ボタンを放してレバーを動かすと解除される。

ト ポンプ

 モンスターとディグダグがホースでつながった時,ディグダグの前に現れる。

 ポンプボタン(発射ボタン兼用)を押すことにより,モンスターに空気を送り込みパンクさせる。ボタンを3回押すとモンスターは2段階にふくらみ,3回目にパンクする。ボタンを押したままでいると自動的に相手方をパンクさせることも可能である。

(3) 岩  石

 ディグダグが岩の下を掘りぬけるか,岩の下へ向きをかえると岩がゆれ始めて2秒後に落下,うすい壁をつきぬけて厚い土の部分又は地層部の最低部まで落下する。ディグダグやモンスターは岩の落下線上にいるとつぶされる。

5 以上の「ディグダグ」の視聴覚的効果は,「ディグダグ」のPCBに装着されたROMに収納されたオブジェクト・プログラムに基づくものである。

 右のソース・プログラムは,「ディグダグ」の極めて高度な影像,音楽,効果音及びストーリーを表現するために必要な種々の問題を細分化して分析し,そのそれぞれについて解法を発見したうえで,その発見された解法に従って作成されたフローチャートに基づき,専門的知識を有する第三者に伝達可能な記号語(アッセンブリ言語)によって,種々の命令及びその他の情報の組合せとして表現されたものであって,当然のことながら右の解法の発見及び命令の組合せの方法においてプログラム作成者の論理的思考が必要とされ,また最終的に完成されたプログラムは,その作成者によって個性的な相違が生じるものであることは明らかであるから,右各プログラムは,その作成者の独自の学術的思想の創作的表現であり,著作権法上保護される著作物に当り,そのオブジェクト・プログラムは右プログラムの複製物に該当する。

6 以上に述べたとおり,「ディグダグ」は映画の著作物に該当すると共に,そのオブジェクト・プログラムは著作権法上保護される著作物に該当するものである。

7 被告の権利侵害行為

 訴外株式会社ジャクソン及び訴外藤佐木電子工業株式会社は,原告が「ディグダグ」PCBの一般市販をした昭和57年3月中旬頃から,「ディグダグ」PCBに装着されたROMに収納されたオブジェクト・プログラムとほとんど同一のオブジェクト・プログラムを収納したROMを用いて,「ディグダグ」とほとんど同一の視聴覚的効果を表現する「ジグザグ」と題するPCBを合計318台製造してこれを被告に販売し,被告は,右製品が無断複製品であることを知りながらこれを買受け,少なくとも昭和57年5月31日までに広く一般に販売した。

 「ディグダグ」と被告の販売した製品の相違は,製品名であるディグダグ(DIGDUG)とあるをジグザグ(ZIGZAG)としていること,モンスターのプーカア(POOKA),ファイガー(FYGER)とあるを,フーガ,ブォーブォーとし,製造社名を示すナムコ(NAMCO)の表示を消しているだけで,ゲーム内容,各機能仕様,難易度,効果音等すべて同一であるから,被告の販売した製品は,「ディグダグ」のROMに固定された 影像の極く一部を改変しただけの複製品であり,そのオブジェクト・プログラムも「ディグダグ」のオブジェクト・プログラムの極く一部を改変しただけの複製品であるといえる。

8 損  害

(一) 原告は,自ら研究開発したビデオゲームを他社が無断で製造販売した場合に,これに事後的に許諾を与えるにあたっては,1台について4万円の許諾料を徴収している。
 したがって,原告は,7項記載の被告の著作権侵害行為により,1272万円(40000×318)に相当する損害を被った。

(二) 別紙物件目録記載の物件は,被告の所有する前述の「ディグダグ」無断複製品PCBであり,侵害行為を組成し,侵害行為によって作成されたものであるから,その譲渡,貸与を禁じ,かつ廃棄しなければ該物件が被告の手により市場に出回ることになる。

9 よって,原告は,被告に対し,別紙物件目録記載の物件の譲渡,貸与の禁止及び右物件の廃棄並びに8項記載1272万円及びこれに対する不法行為後である昭和57年6月1日以降支払済に至るまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二 被告は,適式の呼出を受けたのに,本件口頭弁論期日に出頭せず,答弁書その他の準備書面も提出しないので,民事訴訟法140条第3項,第1項の規定により請求原因事実はすべて自白したものと看做される。

三 右事実によれば,原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容し,訴訟費用の負担について民事訴訟法第89条,仮執行の宣言につき同法第196条の各規定を適用して,主文のとおり判決する。

 

裁 判 長  裁 判 官   元   木     伸

       裁 判 官   飯  村   敏  明

       裁 判 官   高   林     龍

 


<別  紙>

物  件  目  録

 

 債権者原告,債務者被告間の東京地方裁判所昭和57年(ヨ)第2538号仮処分決定に基づく執行により同裁判所執行官鈴木敏雄が保管する左記物件

「ZIGZAG」 プリンテッドサーキット基板 10枚


Copyright (C) 1998-2001 Takato Natsui, All rights reserved.

Published on the Web : Apr/23/1998

Error Corrected : Jun/18/2001

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