タオヒューマンシステムズ事件判決


東京地裁平成7年(ワ)第23663号給料等請求事件(本訴),同平成8年(ワ)第209号報酬返還等請求事件(反訴)


判        決

本訴原告・反訴被告      <省  略>

本訴被告・反訴原告      株式会社タオヒューマンシステムズ
右代表者代表取締役      芹  澤   正  信
右訴訟代理人弁護士      武  田   博  孝

主        文

一 本訴被告(反訴原告)は,本訴原告(反訴被告)に対し,金70万6535円並びに内金46万8495円に対する平成7年12月9日から支払済みまで年14・6パーセントの割合による金員及び内金23万8040円に対する平成7年12月9日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

二 本訴原告(反訴被告)のその余の請求及び本訴被告(反訴原告)の請求をいずれも棄却する。

三 訴訟費用は,本訴反訴を通じてこれを3分し,その1を本訴原告(反訴被告)の負担とし,その余を本訴被告(反訴原告)の負担とする。

四 この判決は,第一項に限り,仮に執行することができる。

事 実 及 び 理 由

第一 請  求

(本  訴)

 本訴被告(反訴原告,以下,被告という)は,本訴原告(反訴被告,以下,原告という)に対し,金145万4471円及びこれに対する平成7年12月9日から支払済みまで年1割5分の割合による金員を支払え。

(反  訴)

 原告は,被告に対し,金62万9720円及びこれに対する平成8年1月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要

 本訴請求は,原告と被告との契約が労働契約であることを前提として,原告が未払賃金,解雇予告手当及び付加金等の支払いを求めているものであり,反訴請求は,右契約が労働契約ではなく単なる請負契約であることを前提として,債務不履行による解除に基づき被告が既払金の返還と損害賠償を求めている事案である。

一 争いのない事実

1 被告は,コンピュータ・ソフトウェアの企画,制作及び販売を主たる業務とする会社である。

2 原告は,平成7年4月18日(以下,特別に記載しない限り平成7年の意味である)から8月17日まで,被告の社内において,アドベンチャーゲームソフト「タトゥーンマスター」(以下,本件ゲームという)のプログラムの作成に従事した(なお原告と被告との契約が労働契約であるか否かについては争いあり)。

3 被告は,原告に対し,5月15日ころまでに9万円,6月15日ころに25万350円,7月14日ころに24万7850円を交付した。

4 被告は,8月17日,原告に対し,原告と被告との間の契約を解除する旨を通知した。

二 争  点

 原告と被告との間の契約が労働契約であるか等

三 当事者の主張

(原  告)

1 原告と被告は,労働契約を締結し,4月18日から8月17日まで就労した。労働契約の内容は,月給25万円(税金を含み,交通費は別途支給),毎月末日締めで翌日5日払い,1日の実働が7・5時間で土・日曜日と祝日は休日という約束であった。

2 被告は,8月17日,原告を解雇した。

3 被告は,8月に支給される給与(7月の労働分の対価)23万8040円及び8月1日から8月17日までの給与6万9960円(勤務時間64・6時間に対して時間単価1086円で計算した内金,時間単価については後述)を支払わない(合計額30万8000円)。

 また,被告は,6月中の交通費2500円,7月中の交通費1万2310円,8月中の交通費2580円を支払わない(合計金額1万7390円)。

4 原告の5月から8月までの各勤務日における勤務時間は,別紙一の1ないし4記載のとおりである。5月の法内残業時間(7・5時間を超えて8時間以内の部分)は10時間,法外残業時間(8時間を超える部分)は71・5時間,6月の法内残業時間は11時間,法外残業時間は32時間,7月の法内残業時間は10・5時間,法外残業時間は124・5時間であり,右期間中の合計は,法内残業時間が31・5時間,法外残業時間が228時間である。

 また,時間単価は,退職前3か月の総月給学75万円(本来の6月支給分から8月支給分まで)を所定労働時間(1日7・5時間)の総計(92日間,690時間)で除した1086円(小数点以下切捨て)であり,法外残業時間の時間単価は,2割5分増しの1357円(小数点以下切捨て)である。

 右によると,法内残業に基づく賃金が3万4209円,法外残業に基づく賃金が30万9396円であり,その合計が34万3605円である。

5 被告は,解雇予告手当23万8040円を支払わない。

6 被告は,原告に対し,労働基準法114条に基づき,法外残業時間に関する未払賃金と同額の付加金30万9396円及び解雇予告手当の未払い額と同額の付加金23万8040円の支払いをすべき義務がある(合計54万7436円)。

7 したがって,原告は,被告に対し,未払賃金(時間外賃金及び交通費も含む)及び解雇予告手当の合計90万7035円及び付加金54万7436円(以上合計145万4471円)と年1割5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

8 被告の主張1ないし5は争う。前記主張のとおり,原告と被告との間の契約は労働契約であり,被告の反訴請求はこれを前提としていないので理由がない。

(被  告)

1 原告と被告は,4月半ばころ,原告が本件ゲームのプログラムを作成すること,納期を7月末日,報酬が75万円(但し約1か月毎に分割払い),本件ソフト作成は被告の社内において行うこと,交通費は別途実費を支給することを内容とする請負契約を締結した。

2 被告は,右契約に基づき原告に対し,5月15日に報酬として9万円,6月15日に報酬として23万8040円,交通費として1万2310円,7月14日に報酬として23万8040円,交通費として9810円の合計58万8200円を支払った。

3 原告は,8月17日までに,本件ゲームのプログラムを完成させることができなかった(動作が非常に遅く商品としての完成度が著しく低いものしか提出できなかった)。そこで,被告は,右同日,原告に対し,債務不履行により契約を解除する旨の意思表示をした。

4 原告は,右契約が雇用であることを前提として,労働基準監督署への申出と東京簡易裁判所への調停申立てを行ったため,被告の取締役は,8月28日に労働基準監督署へ出頭し,9月27日,10月20日及び11月17日に東京簡易裁判所へ出頭した。右により,被告は,取締役の半日分の報酬相当額として少なくとも1回1万円の損害を被り(4回分合計4万円),交通費として労働基準監督署の分として1回560円,東京簡易裁判所への分として1回320円の損害を被った(4回合計1520円)。

5 したがって,被告は,原告に対し,請負契約の債務不履行解除に基づく既払金返還として58万8200円,右に基づく損害賠償として4万1520円の支払い(以上合計62万9720円)と年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

6 原告の主張1ないし7は争う。前記主張のとおり,原告と被告は,請負契約を締結したが,原告の債務不履行により解除したものであり,労働契約の存在を前提とした原告の本訴請求には理由がない。なお,被告が右契約を解除したのは,指示に従ったプログラムの組み方をしていなかったこと,中間段階のプログラム提出に異常に時間がかかっていること,作業内容に疑問のあること等によるものである。

 次に,原告主張の別紙一の1ないし4の在社時間については,次のとおり認否するが,認めるものについても,原告が被告の社内で仕事をしていたことまでを認める趣旨ではない。5月1日及び2日は否認する。5月8日ないし11日は認める。5月12日は出社時間は認めるが退社時間は不知。5月15日ないし19日は認める。5月22日ないし31日は否認する。6月1日ないし3日は認める。6月5日は14時45分から22時までの範囲で認め,その余は否認する。6月6日ないし9日は不知。6月10日は出社時間は認めるが退社時間は不知。6月12日ないし14日は認める。6月15日は出社時間は認めるが退社時間は不知。6月16日ないし19日は認める。6月20日ないし23日は否認する。6月26日及び27日は否認する。7月3日ないし7日,10日及び11日は認める。7月12日は出社時間は認めるが退社時間は不知。7月13日は出社時間及び退社時間は認めるがその余は否認する。7月14日及び15日は認める。7月16日は否認する。7月17日は出社時間は認めるが退社時間は不知。7月18日及び7月19日は否認する。7月20日,21日及び24日は認める。7月25日は出社時間は認めるが退社時間は不知。7月26日は否認する。7月27日は認める。8月分は認める。

第三 争点に対する判断

一 本件の経緯については,前記争いのない事実,証拠<略>によれば,次の事実が認められる。

1 被告は,4月ころ,求人誌にアルバイトと契約社員の求人広告を出した。その内容は,賃金がアルバイトが時給900円以上,契約社員が月給25万円以上,業務内容がコンピュータグラフィックスの制作,マッキントッシュ及びウィンドウズ版でのプログラム,ゲーム制作での進行管理,勤務時間が10時から18時30分で実働が7・5時間,休日が土・日曜と祝日等というものであった。

2 原告は,右広告を見て被告に応募し,4月12日ころに被告の取締役幡垣裕二(以下,幡垣という)から面接を受け,4月15日ころに幡垣及び被告代表者らから面接を受け,その中でPC98によるゲームプログラムの制作には携わったことがあるものの,マッキントッシュ及びウィンドウズ版でのプログラム作成の経験はないこと,大学の夜間部に通学していること等を話し,幡垣及び被告代表者らから,原告に本件ゲームのプログラムの作成を行ってもらうこと,発注元会社への納期が7月末日でありこれに間に合うようにすぐにでも作業を始めて欲しいこと等の話を聞いた。なお,原告と被告は,本件ゲームのプログラム作成(以下,本件作業という)を被告の社内において行うこと,本件作業については基本的には被告の業務時間である10時から18時30分までの間に行うが厳密な意味での拘束はしないこと等を明示又は黙示に合意した。

3 原告の被告への出社状況,出社時間及び退社時間,本件作業時間については,別紙二の1ないし4記載のとおりである(具体的認定は後記三記載のとおり)。原告は,被告の休日以外では,6月28日から30日,7月28日,31日,8月1日及び2日には被告に出社していないが,その他の日には出社している。原告の出社時間(平日)は,5月と7月は概ね10時から11時の間であるが,6月は半分程度が午後になっている。

4 本件ゲームの制作は,現実には進行管理と企画が北村玲(以下,北村という),シナリオは小黒圭(以下,小黒という),プログラムは原告,グラフィックは社員又はアルバイトの者で約7人,音響その他は外部の者が行っていた。プログラムについては,当初,小田典広(以下,小田という,被告の社員ではない)が一定部分について関与する予定であり,それに基づいて工程も組まれていたが,現実にはほとんど関与することはできなかった。

 また,原告は,本件作業のほとんどについて,被告の社内において,被告の器材等を使用して行っていた。原告は,右作業のほか,被告のグラフィックの担当者には十分に経験のある者が少なかったため(いずれも5月ころに採用された者が多かった),これらの者に対し,新規に導入された器材の設置やソフトウェアの管理,操作の説明等を行っていた。

5 被告は,原告に対して交通費以外に,5月9日ころに4万5000円,同月15日ころに4万5000円,6月15日ころ及び7月14日ころにそれぞれ23万8040円を交付している。幡垣が5月9日ころに原告に対して4万5000円を交付した際,同時に交付したメモには,4月18日から2日の間の実働が9日間で,研修期間なので1日5000円で計算すると9日間で4万5000円との趣旨の記載がある。また,被告が原告に対して23万8040円を交付した際に同時に交付した明細書には,給与総額25万円,源泉額1万1960円,支給額23万8040円との記載がある。

6 被告は,原告に対し,6月1日ころ雇用に関する契約と題する書面を交付し,翌日,一部を訂正した書面を交付した。右書面には,業務内容,勤務時間,報酬(月額25万円)等の記載があったが,原告及び被告は,これに署名捺印をしなかった。また,原告は,6月ころには被告の幡垣に対し,時間外手当の要求をしたが,被告は,この段階では請負契約であるので時間外手当は支給できないとの明確な説明をしていない。

7 被告は,5月8日から6月30日まで,アルバイト出勤表と題する書面に,契約社員及びアルバイトの者に出社時間と退社時間の記載をさせ,7月1日からはタイムカードにより右の者の出退勤管理を行っていたが,原告に対しても出退勤時間の記載を行うように指示していた。また,原告は,6月上旬ころ,5月初めから6月6日までの勤務時間と作業内容を一括して記載した勤務報告書と題する書面を幡垣に提出し,6月7日以降は出社した日については,勤務時間と業務内容を記載した日別の業務報告書を幡垣又は北村に提出していた。右業務報告書には監督者の承認とコメントの欄があり,7月5日の欄に「どんな小さな作業でも他にやってもらえるものがあれば報告下さい」,7月6日の欄に「なんとかプログラマーを増やすようにがんばっておりますが,それまでは現在のメンバーで作業するしかないです」,7月13日の欄に「藤井君と上手く作業の分担 をして下さい」,7月15日の欄に「今後のラインではプログラムメンバーを増強していくつもりです。但し外注やアルバイトになるかもしれません」,7月16日の欄に「休みや時差の出勤は事前に報告して下さい」等の記載がある。

8 被告は,本件ゲームの制作について,発注元会社に対して7月17日までに中間段階の作品を仕上げることを約束していた。しかしながら,原告がゲームソフトのプログラム制作に必ずしも習熟していなかったこと,当初の工程表を作った段階では小田がプログラム作成の一定部分について関与する予定であったが,現実にはほとんど関与しなかったこと,小黒が担当していたシナリオの作成が遅れていたこと等が原因で,7月17日までには,本件ゲームの中間段階の作品を制作できなかった。そして,原告は,7月27日ころ,それまでに仕上がったものを被告に提出したものの,これは,動作が遅く中間段階の作品としても充分なものではなかった。

9 被告は,8月17日,原告に対し,契約を解除する旨を通知した。

1 原告と被告との間の契約について,原告は労働契約であると主張し,被告は労働基準法の適用のない単なる請負契約であると主張するので判断する。

2 前記一で認定した事実によれば,契約段階での合意はもちろん現実の作業においても原告の本件作業は被告の社内で,被告が調達した器材を使用して行っていたこと,原告は被告から出社時間及び退社時間が わかるようにタイムカード等への記載を指示されて現実に記載していたこと,原告への金員交付時の明細書には給与と記載されて源泉徴収も行われていたこと,殊に最初の金員交付時には被告担当者が研修期間と称して日給計算を行っていること,本件作業については被告の北村から進行管理を受けており,本件作業の状況等については業務報告書を被告担当者に6月7日以降は毎日提出していること,そして右報告書中の被告の担当者のコメント欄には原告が被告の内部の者であることを前提とした記載が見られるほか,少なくとも7月ころには被告の従業員(アルバイトの者を含む)と密接に連携をとったうえで作業を遂行していたことを窺わせる記載のあること,原告は本件作業以外にもグラフィック担当者らに器材の操作説明等も行っていたこと,原告はもともと被告の契約社員等の募集広告に応募した者であること,被告は原告に対して両者の署名捺印はないものの雇用に関する契約と題する書面を交付していること,原告は6月ころには被告の幡垣に対して時間外手当についての要求をしているが被告は十分な説明もせずに放置していること(請負契約であり残業をしても時間外手当が出ないとの認識であれば,被告としてはこの段階で明確な合意をしておくべきものである)等の事実が認められ,また被告から原告に対して契約時に,本件作業のみの契約であり7月末日までに完成しなかった場合には途中で支払った金員を全て返還してもらうこと等を明確に説明していたと認めるに足りる証拠がなく,これらの点に原告の供述をあわせて考慮すると,原告と被告との間の契約は,賃金を毎月25万円(交通費は別途支給)とする期間の定めのない労働契約であるというべきである。

3 ところで,被告は,@幡垣が契約時に原告に対して請負契約であることを明確に示した旨を供述していること,A原告の出社時間をみると勤務の開始時間である10時には出社していないこと,B休日以外でも出社していない日があること,C原告に関するタイムカード等の記載は防犯上のものであり,欠勤遅刻に対して制裁を行っていないこと,D被告が応募広告を出したのはマッキントッシュ及びウィンドウズ版のプログラマーであるが原告はPC98のプログラマーであって募集広告に基づいて採用したわけではないこと,E報酬の支払いも分割して前渡金として支払ったものであること等を主張し,右契約に労働基準法の適用のないことを主張する。

 しかしながら,@,D及びEについては,幡垣(あるいは被告代表者)が原告に対して7月末日までに本件ゲームのプログラムが完成しなかった場合には途中で支払った金員を全て返還してもらうことを明確に説明していたとするには,この点のやりとりについて必ずしも具体的に証言されていないし(この説明がなされていないとすると前記二2の状況下では労働契約といわざるを得ない),金員の交付もすべて給与ということで明細を交付していること等に鑑みると理由がない。AないしCについては,原告が面接時に提出した履歴書にも在学中なのでフレックス出退勤を利用したい旨の記載があり,労働契約を前提として考えても契約時に原告と被告との間で勤務時間については10時から18時30分までとは拘束しない旨の約束があったとしても不自然ではないこと,被告の社員でシナリオを担当していた小黒も10時を過ぎて出社することも少なくはなかったこと(特にタイムカード導入後,概ね実働7・5時間を超えて働いており,これを下回る時もその前後で7・5時間を超えて働いていること,原告は7月28日,31日,8月1日及び2日に被告に出勤していないが,これは7月半ばころに休日出勤や被告の社内に泊まり込んで勤務する状況が多かったために事実上その振替の意味をもっていること,8月14日ないし16日にも出勤していないが被告が夏休みであったこと,そして休日以外に原告が出勤していないのは右を除けば6月28日から30日の期間だけであること,タイムカードへ記載させたことが防犯上の理由というだけでは必ずしも合理的な説明になっていないし,業務報告書の被告担当者のコメント欄には「休みや時差の出勤は事前に報告下さい」との記載も存すること等を考慮すると理由がない。

4 したがって,原告と被告との契約が請負契約であることを前提とする被告の反訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

1 原告の被告における勤務状況は,別紙二の1ないし4記載のとおり認められるが,その詳細は以下に記載するとおりである。

 5月1日は10時30分から19時30分まで在社したものと認められるが,被告の社員については勤務時間が基本的には10時から18時30分までと定められ,その中で1時間の休憩時間が定められていること等を考慮すると,在社時間の中で1時間は休憩時間に充てられたものと認められ,その余の時間は勤務に従事したものと認められる(弁論の全趣旨,以下特別に説示する場合以外はすべて休憩時間を1時間,その余の時間を勤務した時間と認定した)。なお,残業については,納期と比較して本件作業の進行状況が遅れていたことを考慮すれば,被告の明示又は黙示の指示によるものと認められる(以下,特別に説示する場合以外は,全て同様である)。

 5月2日は10時30分から18時まで在社したものと認められる。

 5月8日ないし11日の在社時間については争いがない。なお,5月9日ないし5月11日はいずれも10時間以上在社しているが,在社時間を考慮すると1時間30分の休憩時間がとられたものと認められ,その余の時間を勤務したものと認められる(弁論の全趣旨,以下特別に説示する場合以外は10時間以上の在社の場合は1時間30分の休憩時間がとられたものとして勤務時間を認定した)。

 5月12日は10時10分から18時30分まで勤務したものと認められる。証拠<省略>には19時30分まで在社した旨の記載があるが,アルバイト出勤表には何らの記載もないところ,原告は拘束時間も緩やかであり,被告において原告が残業したか否かを把握し,翌日以降も残業をすべきか否かの指示を出すための基礎となる資料は右出勤表であるから,これに退社時間を記載していない以上,残業指示のあることを前提とする請求(定時の18時30分を超えて勤務したことを前提とする請求)はできないものというべきである。

 5月15日ないし19日の在社時間については争いがない。

 5月22日ないし31日については,証拠<省略>には勤務時間の記載があるもののアルバイト出勤表には何らの記載もない。証拠<略>は6月6日ころ5月以降の勤務状況を原告が被告に報告したものであるが,勤務時間については,原告は毎日アルバイト出勤表に記載すべき義務があったというべきである。すなわち,被告において原告が残業をしたか否かを把握し,翌日以降も残業をすべきか否かの指示をだすための基礎となる資料は右出勤表であるから,これに勤務時間を記載していない以上,残業指示のあることを前提とする請求(時間外手当や休日 手当の請求)はできないものというべきである。もっとも,証拠<省略>により勤務自体は認められるから,5月22日ないし26日と29日ないし31日は所定の7時間30分の勤務として計算されるべきものと認められる。

 6月1日ないし3日の在社時間については争いがない。

 6月5日は14時45分から22時まで在社したものと認められる。

 6月6日ないし9日の在社時間については争いがない。

 6月10日は16時から21時まで在社したものと認められる。但し,在社時間が6時間に満たないので休憩時間は30分として算定した(弁論の全趣旨,以下同様の方法で算定した)。なお,原告作成の業務報告書の監督者の承認とコメント欄には何ら記載がないものの,アルバイト出勤表には出社時間の記載が存することを考慮して,右のとおり認定した。

 6月12日ないし14日の在社時間については争いがない。

 6月15日は13時30分から20時15分まで勤務したものと認められる。業務報告書には勤務時間の記載があり,監督者の承認とコメント欄に一応の記載があるので,右のとおり認定した(以下,同様の記載のものは同じ方法で認定した)。

 6月16日及び19日の在社時間については争いがない。

 6月20日は10時20分から23時30分まで在社したものと認められる。

 6月21日は15時45分から22時45分まで在社したものと認められる。

 6月22日は14時15分から23時15分まで在社したものと認められる。

 6月23日は16時30分から22時まで在社したものと認められる。

 6月26日は11時45分から13時30分までと15時35分から21時30分まで在社したものと認められる。

 6月27日は,アルバイト出勤表には全く記載がなく,業務報告書には勤務時間の記載があるものの,監督者の承認とコメント欄には何ら記載がないので,所定の7時間30分の範囲で勤務したと計算されるべきものと認められる。

 7月3日ないし7日,10日及び11日の在社時間については争いがない。

 7月12日は10時22分から24時まで在社したものと認められる。なお,タイムカードには退社時間の記載がないが,業務報告書には勤務時間の記載があり,監督者の承認とコメント欄に一応の記載があるので,右のとおり認定した(以下,同様の記載のものは同じ方法で認定した)。

 7月13日は零時から8時までと10時から24時まで在社したものと認められる。但し,右在社時間に鑑みて3時間が休憩時間に充てられたものと認められる。

 7月14日及び15日の在社時間については争いがない。

 7月16日は零時から9時30分までと12時30分から24時まで在社したものと認められる。但し,右在社時間に鑑みて3時間が休憩時間に充てられたものと認められる。

 7月17日は零時から7時30分までと10時から24時まで在社したものと認められる。但し,右在社時間に鑑みて3時間が休憩時間に充てられたものと認められる。

 7月18日は零時から24時まで在社したものと認められる。タイムカード及び業務報告書に勤務時間の記載はないものの,本来は7月17日までに中間段階の本件ゲームソフトを制作しなければならなかったものの,右期限までに制作できず,このころ(一応の提出を行った7月27日ころまで)原告は社内に泊まり込んで作業を行っていたことが認められる(なお,この残業については被告も認めていたものと認定できる)。但し,右在社時間に鑑みて3時間が休憩時間に充てられたものと認められる。

 7月19日は零時から21時35分まで在社したものと認められる。但し,右在社時間に鑑みて3時間が休憩時間に充てられたものと認められる。

 7月20日,21日及び24日の在社時間については争いがない。但し,7月21日及び24日は右在社時間に鑑みて3時間が休憩時間に充てられたものと認められる。

 7月25日は10時49分から24時まで在社したものと認められる。

 7月26日は,少なくとも7時間30分の勤務を行ったことが認められる。

 7月27日は,少なくとも7時間26分の勤務を行ったことが認められる。

5 8月分の在社時間については争いがない。

1 原告は,7月の労働の対価として8月に支給されるべき基本給として23万8040円を請求するところ,前記認定のとおり,原告と被告との契約は賃金を毎月25万円とする労働契約であると認められるから,右請求は理由がある。

 また,原告は,8月1日から8月17日までの賃金として,時間単価に勤務時間を乗じた額(但し6万9960円)を請求している。ところで,原告は時間単価を1086円と主張しているところ(退職前3か月の総月給額75万円を690時間[1日の所定労働時間7・5時間に所定労働日を92日として計算]で除して小数点以下を切り捨てたもの),右 は1か月の賃金額を1か月の所定労働時間で除して算出した時間単価以内の額であるから,原告主張の1086円を時間単価として計算する。そして,原告の8月の勤務時間は前記認定のとおり60時間59分であるから(別紙二の4,月間労働時間欄記載),これに時間単価を乗ずると6万6228円(小数点以下四捨五入)であるから,8月1日から8月17日までの賃金は6万6228円の範囲で理由がある。

2 原告は,平成7年6月中の交通費2500円,7月中の交通費1万2310円,8月中の交通費2580円を請求するところ,原告と被告との労働契約では交通費を支給する約束になっていること(前記二で認定のとおり),原告が被告に通勤するための1か月定期券代が9810円(但し1日の交通費は860円)で駐輪場代が2500円であるのに,6月分の駐輪場代,7月分の交通費全額,8月分の交通費の支給はなされていないことから,原告の請求(合計1万7390円)には理由がある。

3 原告は,5月から7月にかけての勤務に関し,未払いとなっている時間外手当を請求している(34万3605円)。ところで,原告は,各月の月間労働時間について所定の月間労働時間(所定月間労働日数に7・5時間を乗したもの)を超えて,所定月間労働日数に8時間を乗じた合計の労働時間以内の部分については法定残業として,右時間数に時間単価を乗じた額を,また,右時間を超える部分については時間単価の2割5分増しの1357円(小数点以下切捨て)を乗じた額を,時間外手当としてそれぞれ請求している。本件においては,右の計算方法によっても被告に有利なので,これに基づき時間外手当を 算出する(原告は,5月は法定休日以外の被告の休日[土曜日]に出勤していないし,6月は月間労働時間が所定月間労働日数に8時間を乗じた合計の労働時間以内に収まっているし,7月は法定休日以外の被告の休日に出勤した時間数が平日に欠勤した時間数を下回っている)。

 5月の未払時間外手当の合計額については,所定の月間労働時間が150時間であるところ(20日に7・5時間を乗じたもの),原告の月間労働時間が162時間10分であるから,10時間(20日に8時間を乗じた160時間から150時間を減じたもの)も1086円を乗じた1万860円及び2時間10分に1357円を乗じた2940円(小数点以下四捨五入)の合計1万3800円と認められる。6月の未払時間外手当の合計額については,所定の月間労働時間が165時間であるところ(22日に7・5時間を乗じたもの),原告の月間労働時間が168時間35分であるから,3時間35分に1086円を乗じた3892円(小数点以下四捨五入)と認められる。7月の未払時間外手当の合計額については,所定の月間労働時間が157時間30分であるところ(21日に7・5時間を乗じたもの),原告の月間労働時間が254時間46分であるから,10時間30分(21日に時間を乗じた168時間から157時間30分を減じたもの)に1086円を乗じた1万1403円及び86時間46分に1357円を乗じた11万7742円(小数点以下四捨五入)の合計12万9145円と認められる。したがって,5月ないし7月の未払時間外手当の合計は,14万6837円であり,原告の請求は右の範囲で理由がある。

4 したがって,未払賃金額(未払交通費及び未払時間外手当を含む)の合計は46万8495円であり,遅延損害金については,賃金の支払確保等に関する法律6条1項,同法施行令1条により,右に対する14・6パーセントの割合の範囲で理由がある。

五 原告は,解雇予告手当として23万8040円を請求しているので判断する(解雇を受忍したうえでの請求であると認められる)。前記二で認定のとおり,原告と被告との間の契約は労働契約であり,被告は原告を8月17日に即時解雇したものであるところ,原告は本件ゲームのプログラム作成に関して習熟した能力を有していたわけではなく,8月17日までに提出したプログラムも中間段階のものとしても不十分なものであったが(前記二8),これらの事実は解雇事由にはあり得るとしても,労働基準法20条所定の解雇予告手当を支払わない即時解雇を基礎付ける理由とはならないから,原告には解雇予告手当を支払う義務があるというべきであり(なお,原告の請求は,右解雇直前の賃金締切日である平成7年7月末日以前の3か月(92日)の賃金総額75万円を92日で除して平均賃金を算定し,それに30日を乗じたものの範囲内である),原告の請求には理由がある。

六 原告は,時間外手当の割増賃金部分(法外残業時間に関する未払賃金部分)及び解雇予告手当について,それぞれ同額の付加金を請求している。しかしながら,前記一及び二で認定判断したとおり,本件は原告と被告との間の契約に労働基準法の適用があるか否かが問題となったもので,労務供給の客観的な事実関係が右判断の重要な要素となっているものであり,殊に,本件はゲームソフトのプログラム作成に従事している者の問題で,このような労務供給形態は比較的最近になって問題となってきたものであること等を考慮すると,被告が本件契約に労働基準法の適用がないと考えて右金員の支払いをしなかったことをもって,制裁としての付加金の支払いを命ずることは相当ではないと認められるから,原告のこの点に関する請求は理由がない。

七 以上によれば,原告の本訴請求は,未払賃金(未払交通費及び未払時間外手当を含む)46万8495円とこれに対する平成7年12月9日から支払済みまで年14・6パーセントの割合による遅延損害金の支払い並びに解雇予告手当金23万8040円とこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却し,被告の反訴請求は理由がないからこれを棄却することとして,訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条,92条を,仮執行宣言について同法196条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第11部

裁 判 官   片  田  信  宏

 


<別紙:省略>


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Published on the Web : Mar/30/1998

Error Corrected : Sep/25/2001

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