東日本テクノコム対大成火災海上保険事件判決


東京地裁平成6年(ワ)第23363号保険金請求事件


判        決

原       告      東日本テクノコム株式会社
右代表者清算人        白  鳥   信  夫
右訴訟代理人弁護士      堀     裕   一
同              木  島  昇 一 郎

被       告      大成火災海上保険株式会社
右代表者代表取締役      佐  藤   文  夫
右訴訟代理人弁護士      松  山   正  一

主        文

一 原告の本件訴えを却下する。

二 訴訟費用は、原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第一 原告の請求

一 被告は、原告に対し、金3181万0372円及びこれに対する平成6年12月13日から完済に至るまで年6分の割合による金員を支払え。

二 訴訟費用は被告の負担とする。

第二 事案の概要

一 (前提事実)

1 原告は、IBM製中古コンピュータの売買、保守等を事業内容とする株式会社であり、コンピュータのユーザーとの間で保守契約を締結し、メーカーに対して故障の際の修理費等を支払うために保守契約の対象たるコンピュータに損害保険をかけていたものである(弁論の全趣旨)。

2 被告は、損害保険会社である(当事者間に争いがない)。

3 原告(保険契約者)は、被告(五反田支社・担当柳橋)との間で、以下のとおり、多数のIBM製等コンピュータ(中古品)を保険の目的として、いずれも免責額を3万円とする、損害保険の一種である動産総合保険契約を締結した(当事者間に争いがない。以下「本件各損害保険契約」という。)。

(一) (渡辺パイプ分)

契約日  平成4年9月29日(証券番号76597649)
保険期間 平成4年10月23日〜平成5年10月23日
被保険者 渡辺パイプ株式会社
保険金額 3929万円
保険料  月額8万7570円

(二) (ブラウンジャパン分)

契約日  平成4年12月10日(証券番号76598711)
保険期間 平成4年12月10日〜平成5年12月10日
被保険者 ブラウンジャパン株式会社
保険金額 1200万円
保険料  月額2万7500円

(三) (日本グッドイヤー分)

契約日  平成4年12月10日(証券番号76598712)
保険期間 平成4年12月10日〜平成5年12月10日
被保険者 日本グッドイヤー株式会社
保険金額 2500万円
保険料  月額5万8440円

(四) (日本電子分)

契約日  平成4年12月10日(証券番号76598872)
保険期間 平成4年12月10日〜平成5年12月10日
被保険者 日本電子株式会社
保険金額 2億5555万円
保険料  月額53万2400円

二 (原告の主張)

(本案前の原告適格・任意的訴訟担当に関する主張)

1 本件損害保険において保険金請求権を有するのは、被保険者とされているが、任意的訴訟担当によって、保険契約者である原告にも原告適格があるというべきである。

2 任意的訴訟担当を許容する基準

 任意的訴訟担当は、弁護士代理の原則、訴訟信託の禁止といった脱法のおそれがなく、かつ、これを認める合理的必要がある場合は許容されるべきである(最判昭和45年11月11日民集24巻12号1854頁)。

3 本件における具体的契約状況

(一) コンピュータの最終ユーザーは、その所有するコンピュータが故障するのに備えて、IBM等のコンピュータメーカー等との間で保守契約を締結し、あるいは故障した毎に個別に修理依頼を行なう。

(二) ところで、大量のコンピュータを抱えるユーザーは、メーカーの保守料が高額であることから、メーカーとの保守契約を嫌う。他方、故障の都度にメーカーに対して修理依頼を行ない、その費用を支払うことは煩雑であるし、また、しばしば修理費用が多額に及ぶ。それに費用負担の事前予測も困難であり、予算作りにも頭を痛めることになる。ユーザーは業務の効率化と費用の平準化、低廉化を求めている。

(三) そこで、ユーザーは原告のような保守会社との間で保守契約を締結する。即ち、ユーザーは原告に対して毎月一定の保守料(これはメーカー保守料より低廉である。)を支払うことで、その余の作業及び費用負担からは解放されるメリットがある。

(四) 他方、保守会社である原告は、突発的に多額の修理代金が発生し、ユーザーから受け取る保守料とIBM等に支払う修理費が逆鞘になっては事業自体が成り立たないため、ユーザーの保有するコンピュータに対して損害保険をかけてリスクをヘッジしている。即ち、原告が損害保険会社との間で動産総合保険に加入し(契約者は原告)、保険料も原告が保険会社に支払う。そして、万が一保険事故が発生した場合は、原告が損害保険会社から保険金を受領し、修理費用をIBM等に支払うものである。右のような保守業務はアメリカで発生したものと言われている。

(五) このように日本電子等のユーザーは、被保険者であり、保険金請求権の帰属主体ではあるが、保険料も支払っておらず、保険証券も所持せず、被告と会ったこともなく、自らが保険金請求の当事者であるとは考えていないのである。

4 このような状況に照らせば、本件においては、任意的訴訟担当の弊害もなく、これを許容すべき合理性があるから、任意的訴訟担当によって原告に当事者適格を認めるべきである。

(本案の主張)

 保険の目的であるコンピュータが別紙「大成火災請求金額」一覧表記載の事故日に故障し、修理費用が発生した。

 よって、前記のとおり、任意的訴訟担当によって、原告は被告に対し、保険金3181万0372円と訴状送達の翌日からの遅延損害金の支払を求める。

三 (被告の主張)

(本案前の原告適格・任意的訴訟担当に関する主張)

 損害保険契約において、保険事故発生の際に保険金支払請求権を有するのは、商法629条により、損害を受けた者(被保険者)と規定されており、同条所定の損害保険の一種である本件各損害保険契約の約款においても被保険者が保険金請求権者であると規定されているのであるから(約款26条)、保険金請求権者が被保険者である渡辺パイプ株式会社、ブラウンジャパン株式会社、日本グッドイヤー株式会社及び日本電子株式会社に限られることは明白である。したがって、商法629条の趣旨に照らしても、任意的訴訟担当は許されず、保険金請求権を有しない原告には原告適格がない。

(本案の主張)

1 本当に原告主張の保険事故が発生したかどうか疑問がある。

2 支払保険金の計算方法(比例塡補方式)

 支払保険金(損害保険金の額)の計算方式は、次の(一)の比例填補方式と、(二)のような方式があり、原告は(二)の方式で計算しているが、本件は、いずれも(一)比例填補方式をとるべきである(約款22条)。

(一) 保険金額が保険価額を下回るとき

支払保険金=(損害額−免責金額)×(保険金額÷保険価額)

なお、右の保険価額は、事故当時の再調達価額に残価率を乗じたもの(時価主義)を採用する(約款18条)。

(二) 保険金額が保険価額を上回るとき(超過保険のとき)

支払保険金=損害額−免責金額

3 「損害額」の算定方法

 また、原告は、損害額につき、修理費用をそのまま損害額とみなして計算しているが、コンピュータが中古品であっても修理には新品部品を使用し、その分修理後の物件は損傷当時の時価を上回る状態になっているので、修理費用に残価率を乗じたものを損害額とすべきである(約款19条2項の解釈)。

4 保険金不払

 原告は、証券番号76598872(被保険者・日本電子株式会社)の契約について平成5年8月31日以降保険料を支払っておらず、同年9月30日までに支払をしないことにより、右契約は同年8月31日をもって失効しているので、被告には同年9月1日以降発生の事故につき保険金の支払義務はない。

第三 当裁判所の判断

一 任意的訴訟担当は、弁護士代理の原則、訴訟信託の禁止といった脱法のおそれがなく、かつ、これを認める合理的必要がある場合には許容される(最判昭和45年11月11日民集24巻12号1854頁)。

二 そこで、本件において検討するに、損害保険契約において、保険事故発生の際に保険金支払請求権を有する主体は、商法629条により、損害を受けた者(被保険者)と規定されており、同条所定の損害保険の一種である本件各損害保険契約の約款においても被保険者が保険金請求権者であると規定されているのであるから(約款26条)、保険金請求権者が被保険者である渡辺パイプ株式会社、ブラウンジャパン株式会社、日本グッドイヤー株式会社及び日本電子株式会社に限られることは商法629条及び当事者の合意内容からみて、明白である。しかるに、原告に対して任意的訴訟担当を認めるとすれば、保険金請求権者を、損害を受けた者に限定している商法629条の趣旨を潜脱する結果となる。また、仮に原告主張のような契約実態(システム)が認められるとしても、保険金の支払を求める訴訟は商法629条や契約の文言に従って被保険者らが提起し、取得した保険金を原告と被保険者らとの間の内部関係として別途解決すれば足りるはずであり、保険契約者である原告に任意的訴訟担当を許容する合理的必要は、認め難いというべきである。

 したがって、本件において、任意的訴訟担当は許されず、本件原告には原告適格が認められない。

 よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の訴えを却下することとし、主文のとおり、判決する。

裁 判 官   齋  木  教  朗

 


Copyright (C) 1998-2001 Takato Natsui, All rights reserved.

Published on the Web : Mar/18/1998

Error Corrected : Jun/18/2001

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