EOSシステム事件第一審判決


東京地裁昭和63年(ワ)第11776号損害賠償請求事件(甲事件),平成元年(ワ)第3052号リース料金請求反訴事件(甲事件反訴),昭和63年(ワ)第11795号情報処理料等請求事件(乙事件)


判        決

甲事件原告・乙事件被告         セイコー辻本株式会社
右代表者代表取締役           辻  本   俊  二

乙事件被告               株式会社音羽
右代表者代表取締役           田  舞  徳 太 郎

甲事件原告・甲事件反訴被告       プラスパーシステム株式会社
右代表者代表取締役           藤  井   勝  嘉

甲事件原告・甲事件反訴被告       株式会社キープロン
右代表者代表取締役           久  保   皓  一

甲事件原告・甲事件反訴被告       フィチュアシステム株式会社
右代表者代表取締役           中  勢   俊  也

甲事件原告・甲事件反訴被告       日本漢方同仁株式会社
右代表者代表取締役           首  藤   正  伸

右6名訴訟代理人弁護士         川  原   俊  明
右訴訟復代理人弁護士          橋   田     浩

甲事件被告・甲事件反訴原告・乙事件原告 株式会社ジャコス
右代表者代表取締役           栗  山   民  毅
右訴訟代理人弁護士           槇  枝   一  臣
同                   高  橋   一  嘉

甲事件被告               株式会社インテックリース
右代表者代表取締役           中  尾   哲  雄
右訴訟代理人弁護士           川  端   楠  人

主        文

一 甲事件反訴被告プラスパーシステム株式会社は,甲事件反訴原告に対し,192万7400円及びこれに対する昭和63年1月7日から支払済みまで年14・6パーセントの割合による金員を支払え。

二 甲事件反訴被告株式会社キープロンは,甲事件反訴原告に対し,205万3100円及びこれに対する昭和62年10月7日から支払済みまで年14・6パーセントの割合による金員を支払え。

三 甲事件反訴被告フィチュアシステム株式会社ば,甲事件反訴原告に対し,145万3500円及びこれに対する昭和63年2月7日から支払済みまで年14・6パーセントの割合による金員を支払え。

四 甲事件反訴被告日本漢方同仁株式会社は,甲事件反訴原告に対し,273方4800円及びこれに対する昭和62年11月7日から支払済みまで年14・6パーセントの割合による金員を支払え。

五 乙事件被告らは,乙事件原告に対し,連帯して99万180円及びこれに対する昭和62年12月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

六 甲事件原告らの甲事件被告株式会社ジャコスに対する請求,乙事件原告の乙事件被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

七甲事件原告らの甲事件被告株式会社インテックリースに対する訴えを却下する。

八 訴訟費用は,甲事件について生じたものは本訴反訴を通じこれを10分し,その1を甲事件本訴原告セイコー辻本株式会社の,その余をセイコー辻本株式会社を除く甲事件本訴原告らの各負担とし,乙事件について生じたものはこれを28分し,その1を乙事件被告らの,その余を乙事件原告の各負担とする。

九 この判決の第一項ないし第五項は,仮に執行することができる。

事        実

第一 当事者の求めた裁判

  一 甲事件

1 請求の趣旨

(一) 甲事件被告(甲事件反訴原告,乙事件原告)株式会社ジャコス(以下「被告ジャコス」という。)は,甲事件原告(乙事件被告)セイコー辻本株式会社(以下「原告セイコー辻本」という。)に対し,1905万円及びこれに対する昭和62年12月27日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(二) 被告ジャコスは,甲事件原告(甲事件反訴被告)プラスパーシステム株式会社(以下「原告プラスパーシステム」という。)に対し,2327万円及びこれに対する昭和62年1月21日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(三) 被告ジャコスは,甲事件原告(甲事件反訴被告)株式会社キープロン(以下「原告キープロン」という。)に対し,1022万1635円及びこれに対する昭和63年4月19日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(四) 被告ジャコスは,甲事件原告(甲事件反訴被告)フィチュアシステム株式会社(以下「原告フィチュアシステム」という。)に対し,896万3945円及びこれに対する昭和63年4月21日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(五) 被告ジャコスは,甲事件原告(甲事件反訴被告)日本漢方同仁株式会社(以下「原告日本漢方同仁」という。)に対し,375万5194円及びこれに対する昭和62年10月21日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(六) 原告プラスパーシステムと甲事件被告株式会社インテックリース(以下「被告インテックリース」という。)の間において,右両名間の昭和61年10月6日付リース契約に基づく原告プラスパーシステムのリース料債務が存在しないことを確認する。

(七) 原告キープロンと被告インテックリースの間において,右両名間の昭和61年10月18日付リース契約に基づく原告キープロンのリース料債務が存在しないことを確認する。

(八) 原告フィチュアシステムと被告インテックリースとの間において,右両名間の昭和61年11月6日付リース契約に基づく原告フィチュアシステムのリース料債務が存在しないことを確認する。

(九) 原告日本漢方同仁と被告インテックリースの間において,右両名間の昭和62年4月1日付リース契約に基づく原告日本漢方同仁のリース料債務が存在しないことを確認する。

(一〇) 訴訟費用は被告らの負担とする。

(一一) 仮執行宣言

2 請求の趣旨に対する答弁

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟責用は原告らの負担とする。

  二 甲事件反訴

1 請求の趣旨

(一) 主文第一項ないし第四項と同旨

(二) 訴訟費用は原告プラスパーシステム,原告キープロン,原告フィチュアシステム及び原告日本漢方同仁の負担とする。

(三) 仮執行宣言

2 請求の趣旨に対する答弁

被告ジャコスの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は被告ジャコスの負担とする。

  三 乙事件

1 請求の趣旨

(一) 原告セイコー辻本及び乙事件被告株式会社音羽(以下「被告音羽」という。)は,被告ジャコスに対し,連帯して2827万5180円及びこれに対する昭和62年12月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は原告セイコー辻本及び被告音羽の負担とする。

(三) 仮執行宣言

2 請求の趣旨に対する答弁

被告ジャコスの請求を棄却する。

訴訟費用は被告ジャコスの負担とする。

第二 当事者の主張

  一 甲事件

1 請求原因

(一) 当事者

(1) 原告セイコー辻本は,事務用品,オフィスオートメーション機器の販売,コンピュータ事務処理(VAN)事業を主な目的とする株式会社である。

(2) 原告プラスパーシステムは,コンピュータ利用技術(ソフトウェア)の開発,受託販売,コンピュータ操作の請負及びコンピュータ機器(ハードウェア)の販売を主な業務とする株式会社である。

(3) 原告キープロンは,印刷・製本・建材用機械及び関連資材の輸出入及び国内販売並びにコンピュータシステムの販売等を主な業務とする株式会社である。

(4) 原告フィチュアシステムは,コンピュータソフトウェアの開発,製作請負及び販売並びにコンピュータハードウェアの開発,製作請負及び販売を主な業務とする株式会社である。

(5) 原告日本漢方同仁は,漢方医薬品の製造販売を主な業務とする株式会社である。

(6) 被告ジャコスは,コンピュータハードウェアの製造販売,ソフトウェアの開発販売を主な業務とする株式会社である。

(7) 被告インテックリースは,情報・通信機器,生産・流通・商業設備の賃貸及び売買を主な業務とする株式会社である。

(二) 代理店契約・ユーザー契約の締結

(1) 原告セイコー辻本は,被告ジャコスとの間で,昭和61年10月16日,被告ジャコスが保有する超大型コンピュータを電話回線を使って利用者(以下「ユーザー」という。)のパーソナルコンピュータ(以下「パソコン」という。)で活用できる。販売・購買・在庫管理システム,財務管理システムのパッケージ・ソフトウェア「凌駕システム」(以下「凌駕システム」という。)及び被告ジャコスが開発販売するオンライン受発注・伝票処理システム「EOSシステム」(以下「EOSシステム」という。)販売についての総合代理店契約を締結した。

(2) 原告プラスパーシステムは,被告ジャコスとの間で,昭和61年11月6日,凌駕システム販売についての代理店契約を締結した。

(3) 原告キープロンは,被告ジャコスとの間で,昭和61年11月6日,凌駕システム販売についての代理店契約を締結した。

(4) 原告フィチュアシステムは,被告ジャコスとの間で,昭和61年11月6日,凌駕システム販売についての代理店契約を締結した。

(5) 原告日本漢方同仁は,被告ジャコスとの間で,昭和62年4月1日,凌駕システムについての利用契約(以下「ユーザー契約」という。)を締結した。

(三) 被告ジャコスの債務不履行

(1) 凌駕システムの欠陥

 被告ジャコスは,前記代理店契約及びユーザー契約に基づき,原告らに対して,被告ジャコスが自ら宣伝するような機能,性能を有する凌駕システムをユーザーに利用させるとともに,その機能,性能を十分に発揮できるように凌駕システムの利用体制を整備する義務を有していた。すなわち,被告ジャコスは,凌駕システムが@オフコン(オフィスコンピュータ)を凌駕する3大特徴(リアルタイムすなわち即時処理,操作が極めて容易,入量データを無限)を備えたもの,A大阪以外のユーザーでも市内通話料金だけで被告ジャコスが東京に有しているホストコンピュータをオンライン(通信回線)を通じて使えるもの,Bパスワード等による利用者の資格チェックなど機密対策保護が講じられているもの,C全国数百か所にアクセスポイント(中継基地)の設置されたコンピュータ通信のネットワーク網を利用できるもの,という機能,性能あるいは体制整備をする義務を有していた。にもかかわらず,被告ジャコスが提供する凌駕システムはソフト(利用技術)が全く不備であるのみならず,回線にもエラー(誤動作)が発生するなどの事故が続出し,被告ジャコスが凌駕システムについて説明するために作成,配付したパンフレット等(以下「パンフレット」という。)の記載と現実の性能には相違があり,代理店契約及びユーザー契約の本旨に従った履行はなされなかった。その具体的内容は次のとおりである。

@ 被告ジャコスが提供すべき,ネットワーク情報サービスのオンラインが整備されていない。すなわち,原告らのパソコンに入力したデータをホストコンピュータに送信した場合,その処理までは機能するが,処理したデータを原告らのパソコンを通じて出力する(プリントアウト)段階でオンラインエラーが発生する。

A 商品名は漢字で20文字までマスター登録できるものの,端末機「ジャコ端スリー」(以下「ジャコ端スリー」という。)のモニター画面上には17文字までしか表示されない。

B 仕入・売上伝票入力時において,スポット商品(一時商品。マスター登録上,商品名が未登録のもの。)の入力ができないのみならず,プリントアウトもできない。

C パンフレットでは売上伝票(納品書)が24種類作成できるとされているが,2種類しか使用できない。しかも,荒利益を印字するか否かは選択できるものの,納品書にはすべて1枚ずつに売掛残が印字されてしまう。

 また,ユーザー契約書添付の入出力体系図に記載のある「在庫商品一覧表」が作成できない。

D 凌駕システムを使用するにあたり,被告ジャコスが「対話方式で素人にでも使える」と宣伝しているものの,ガイドメッセージが不親切であるため,操作ミスが多数発生し素人には使用が困難である。

E 使用説明書が分かりにくく,マニュアル(使用説明書)としての役割を果たしていない。マニュアルが不備であるためパソコンの利用未経験者にとっては操作方法の習得自体が困難である。商品名の初期登録などに必要な漢字変換処理操作がマニュアルに記述されておらず,被告ジャコスが登録の代行をしないため,登録のための専用オペレータが必要となる。

F ユーザーが初期登録をできない場合を考えて入力代行会社を設置することになっていたが実行されていない。

G 各支店に技術員が常駐しでおらず,メンテナンス(保守,点検)がまったくできない。

H 被告ジャコスでは,凌駕システムに多くの欠陥問題が発生したため,すでに同システムの販売,取扱いを停止しており,同システムを購入した原告らにとって,完全に使用不能の状態となっている。

I パンフレットには「リアルタイム(即時)処理」とあるが,ホストコンピュータを使用する情報処理のうち,請求処理及び月次処理は前日作成を依頼し当日出力するものとされており,要求時に即時出力する本来のリアルタイム処理ではない。また,ホストコンピュータに接続するための電話回線を他のユーザーが使用中の場合に「回線使用中」となりホストコンピュータにつながらないため,リアルタイム処理ができない。ホストコンピュータに接続するための電話回線は大阪には3回線のみ設置され3つ以上のユーザーが同時使用の場合右のとおりの状況が発生する。

J パンフレットには「電話料金4000円前後」「市内通話料金だけ」と表示されている。

 しかし,被告ジャコスの提供する電話回線ネットワークに欠陥があり,大阪のアクセスポイントを通すと使用中に回線が突然切れてしまう。回線エラーになるとまた最初からやり直ししなければならないが,切断とやり直しの繰返しで到底利用に堪えない。大阪のアクセスポイントを通さずに東京の被告ジャコスに直接回線を接続するのでは電話料金が膨大になり,凌駕システムを使うメリットがない。

 しかも,関西地区ではアクセスポイントが大阪市にしか設置されていないため,大阪市以外のユーザーは大阪のアクセスポイントを通したとしても市外通話料金を支払わざるを得ない。

K パンフレットによれば,パスワード等による利用者の資格チェック,ネットワークの閉域接続による通信保護,データの暗号化による回線上の盗難防止を行なっているとの説明があるが,実際にはなんら機密保護対策は施されていない。

L 凌駕システムの操作を簡単にするために取引先の登録が電話番号で登録できる,という販売代理店に配付した被告ジャコスの説明書の内容が実行されていない。

(2) 凌駕システムの代埋店に対するバックアップ体制の不備

 被告ジャコスには,代理店契約に基づき原告らの販売活動支援義務・販売用カタログ等提供義務,研修指導義務,ショールーム開設義務等の義務があり,特にパンフレットには「バックアップ体制は万全です」との表示があるにもかかわらず,関西地区においては昭和62年3月より,以下のとおり被告ジャコスからのバックアップ及びセールスフォロー(販売支援)がなくなった。

@ 各種販促ツールの提供

 各種販促ツールの提供との表示にもかかわらず,代理店契約締結当初にパンフレット6種類,ビデオ2種類のみが提供されただけで,その後の販売促進物が提供されないため,代理店は新規販売体制をとれなくなった。

A ショールーム開設

 ショールーム開設とあるのも昭和62年3月で廃止されているほか,媒体による広告宣伝(マス広告)という表示も本来継続的に実施されるべきものが最初だけに終わっている。

B 研修会の実施

 関西地区においては研修会らしきものが2度実施されたが,その時点において被告ジャコス側の凌駕システムに対する説明不足のため,研修会の意味をなさなかった。その後研修会はまったく開催されていない。

C セールステクニック集の配付

 パンフレットには「セールストーク集」や「セールステクニック集」などの存在を示しておきながら,被告ジャコスから右のような指導書は全く発行されていない。

(三) EOSシステムの欠陥

 EOSシステムはユーザーである被告音羽の受発注業務に関し,当然機能すべき商品管理ができず,業務に使用できないものであった。すなわち,寿司チェーン店である被告音羽の各店舗で必要な小数点発注(例・鮪の切り身4分の1の注文)ができず,商品コードも不足していた。

(四) 解除の意思表示

 原告らは被告ジャコスに対し前記債務不履行の改善方を再三申し入れたが,被告ジャコスはなんら改善策を講じなかったので,原告らは被告ジャコスに対し代理店契約あるいはユーザー契約の解除の意思表示をし,右意思表示は次の日時に被告ジャコスに到達した。

(1) 原告セイコー辻本の意思表示 昭和62年12月26日到達

(2) 原告プラスパーシステムの意思表示 昭和63年4月18日到達

(3) 原告キープロンの意思表示 昭和63年4月18日到達

(4) 原告フィチュアシステムの意思表示 昭和63年4月20日到達

(5) 原告日本漢方同仁の意思表示 昭和62年10月20日到達

(五) 原告らの損害等

 原告らは被告ジャコスの債務不履行により,次のとおり損害を被った。

(1) 原告セイコー辻本(合計1905万円)

@ 凌鴛システムの代金前払分 985万円

A 展示用に原告セイコー辻本が購入した凌駕システム及びジャコ端スリー各1台の代金相当額 195万円

B 原告セイコー辻本が被告ジャコスの総合代理店として被告音羽に納入したEOSシステムに関し,同システムが機能しないことから,原告セイコー辻本が被告音羽に対し支払いを余儀なくされたEOSシステム発注機26台及び本部端末機1台の代金相当損害金 725万円

(2) 原告プラスパーシステム(合計2327万円)

@ 凌駕システムの既払リース料 58万6600円

A 凌駕システム販売のために原告プラスパーシステムが設立した別会社「株式会社凌駕サービス」の設立・営業経費相当損害金 1562万4400円

B 凌駕システムがパンフレット記載どおりの機能を有していたならば得られたはずの凌駕システム販売代理店としてのリベート(1台につき45万円,14台分)相当の逸失利益 630万円

C 原告プラスパーシステムが,被告ジャコスの代理店として訴外株式会社ぴいえいとに販売した凌駕システムに関し訴外株式会社ぴいえいとに対し支払いを余儀なくされた凌駕システムの既払リース料相当損害金 75万9000円

(3) 原告キープロン(合計1022万1635円)

@ 凌駕システムの既払リース料 46万900円

A 人件費(女子オペレーター1人) 44万335円

B 展示ルーム開設費用 60万円

C 凌駕システム宣伝用パンフレット印刷代金 56万400円

D 凌駕システム販売代理店としてのリベート相当逸失利益(1台につき45万円,14台分) 630万円

E 原告キープロンが,被告ジャコスの代理店として訴外株式会社ティーエムアソシエイツに販売した凌駕システムに関し訴外株式会社ティーエムアソシエイツに対し支払いを余儀なくされた凌駕システムの既払リース料相当損害金 186万円

(4) 原告フィチュアシステム(合計896万3945円)

@ 凌駕システムの既払リース料 45万2200円

A 人件費 187万5130円

B 凌駕システム販売諸経費 33万6615円

C 凌駕システム販売代理店としてのリベート相当逸失利益(1台につき45万円,14台分) 630万円

(5) 原告日本漢方同仁(合計375万5194円)

@ 凌駕システムの既払リース料 36万1200円

A 凌駕システム専用伝票用紙作成費用 50万円

B 凌駕システム登録のパンチ入力外注費用 32万7800円

C 凌駕システムが作動しないため別に要した昭和62年7月から同63年6月までの請求書作成事務経費(1か月20万円,12か月分)240万円

D 電話切り換え工事等費用 16万6194円

(六) 被告インテックリースは,原告プラスパーシステム,原告キープロン,原告フィチュアシステム及び原告日本漢方同仁に対し,凌駕システムについてのリース料債権を有すると主張する。

(七) よって,原告らは,被告ジャコスに対し,債務不履行による損害賠償及び契約解除による原状回復請求として,原告セイコー辻本につき1905万円,原告プラスパーシステムにつき2327万円,原告キープロンにつき971万7635円,原告フィチュアシステムにつき896万3945円,原告日本漢方同仁につき375万5194円及びこれらに対するそれぞれ解除の意思表示の通知到達の日の翌日である,原告セイコー辻本につき昭和62年12月27日から,原告プラスパーシステムにつき昭和62年1月21日から,原告キープロンにつき昭和63年4月19日から,原告フィチュアシステムにつき昭和63年4月21日から,原告日本漢方同仁につき昭和62年10月21日から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による各遅延損害金の支払いを求め,被告インテックリースに対し,原告セイコー辻本を除く原告らの被告インテックリースに対する各リース料債務の存在しないことの確認をそれぞれ求める。

2 請求原因に対する認否

(被告ジャコス)

 請求原因(一)(1)ないし(5)は知らない。同(6)は認める。同(二)は認める。但し,被告ジャコスが原告セイコー辻本と締結した契約は凌駕システムの総合代理店契約である。同(三)は否認する。同(四)は認める。同(五)は否認する。

(被告インテックリース)

 請求原因(六)は否認する。被告インテックリースは,原告らに対するリース料債権をいずれも平成元年3月8日被告ジャコスに譲渡しており,右債権譲渡については債務者である各原告もこれを承諾している。原告らの被告インテックリースに対する債務不存在確認の訴えについては,確認の利益がない。

3 抗弁(損害賠償額の限度の合意)

 原告らと被告ジャコスの間には,損害賠償の額について被告ジャコスに対する代金支払または被告インテックリースに対するリース料支払の合計額を限度とする旨の合意がある。

4 抗弁に対する認否

 抗弁事実は否認する。

  二 甲事件反訴

1 請求原因

(一) リース契約の締結

 被告インテックリースは,次のとおり原告プラスパーシステムらとそれぞれリース契約を締結した(以下これらを併せて「本件各リース契約」という。)。右各契約はいずれも,期間を60か月,支払期日を毎月6日とし,リース料の支払いを一度でも怠ったときは当然に期限に利益を失う旨及びリース料の支払いを遅滞したときは年14・6パーセントの割合による遅延損害金を支払う旨の持約が存する。

  借  主          契約日     月額リース料

原告プラスパーシステム   昭和61年11月6日   4万1900円

  (リース物件 凌駕システム1台,ジャコ端スリー1台)

原告キープロン       昭和61年11月6日   4万1900円

  (リース物件 凌駕システム1台,ジャコ端スリー1台)

原告フィチュアシステム   昭和61年11月6日   3万2300円

  (リース物件 凌駕システム1台)

原告日本漢方同仁      昭和62年4月9日    5万1600円

  (リース物件 凌駕システム1台,ジャコ端スリー2台)

(二) 期限の利益喪失

 原告プラスパーシステムにつき昭和63年1月6日,同キープロンにつき同62年10月6日,同フィチュアシステムにつき同63年2月6日,同日本漢方同仁につき同62年11月6日,いずれも所定の月額リース料支払期日が経過した。

(三) 債権譲渡

 被告ジャコスは,平成元年3月8日,被告インテックリースとの間で,左記の債権を譲渡人被告インテックリースから譲受人被告ジャコスヘ譲り受ける旨約した。

(1) 被告インテックリースが前記(一)記載のリース契約に基づいて原告プラスパーシステムに対し有するリース料債権192万7400円及び右金員に対する期限の利益喪失の翌日である昭和63年1月7日から支払済みまで約定の年14・6パーセントの割合による遅延損害金

(2) 被告インテックリースが前記(一)記載のリース契約に基づいて原告キープロンに対するリース料債権205万3100円及び右金員に対する期限の利益喪失の翌日である昭和62年10月7日から支払済みまで約定の年14・6パーセントの割合による遅延損害金

(3) 被告インテックリースが前記(一)記載のリース契約に基づいて原告フィチュアシステムに対し有するリース料債権145万3500円及び右金員に対する期限の利益喪失の翌日である昭和63年2月7日から支払済みまで約定の年14・6パーセントの割合による遅延損害金

(4) 被告インテックリースが前記(一)記載のリース契約に基づいて原告に日本漢方同仁に対し有するリース料債権273万4800円及び右金員に対する期限の利益喪失の翌日である昭和62年11月7日から支払済みまで約定の年14・6パーセントの割合による遅延損害金

(四) よって,被告ジャコスは,原告プラスパーシステムに対しリース料192万7400円,原告キープロンに対しリース料205万3100円,原告フィチュアシステムに対しリース料145万3500円,原告日本漢方同仁に対しリース料273万4800円及びこれらに対する期限の利益喪失の翌日である原告プラスパーシステムについて昭和63年1月7日から,原告キープロンについて昭和62年10月7日から,原告フィチュアシステムについて昭和63年2月7日から,原告日本漢方同仁について昭和62年11月7日から各支払済みまで約定の年14・6パーセントの割合による各遅延損害金の支払いを求める。

2 請求原因に対する認否

 請求原因(一)は認める。同(三)は知らない。

3 抗 弁

(一) 被告インテックリースとのリース料請求停止の合意

 原告プラスパーシステム,同キープロン,同フィチュアシステム及び同日本漢方同仁が被告インテックリースに対し,被告ジャコスの前記一1(三)(1),(2)記載の債務不履行を報告したところ,右原告らと被告インテックリースとの間でリース料の請求を停止する旨の合意をした。したがって右原告らは期限の利益を喪失していないのみならず,リース料債務を免除されたものである。

(二) 信義則

 被告ジャコスは,本件リース契約に関し,自らサプライヤーとして前記一1(三)(1),(2)記載の債務不履行をしているのだから,原告プラスパーシステム,同キープロン,同フィチュアシステム及び同日本漢方同仁に対しリース業者としての地位に基づくリース料請求をすることは信義則上許されない。

(三) 相 殺

 原告プラスパーシステム,同キープロン,同フィチュアシステム及び同日本漢方同仁は,被告ジャコスに対し,平成元年3月29日の本件口頭弁論期日において,前記甲事件請求原因記載の損害賠償債権をもって,被告ジャコスの甲事件反訴請求債権とその対当額において相殺する旨の意思表示をした。

  三 乙事件

1 請求原因

(一) 当事者

(1) 被告ジャコス 前記一1(一)(6)と同じ

(2) 原告セイコー辻本 前記一1(一)(1)と同じ

(3) 被告音羽は,料理飲食店用の食材等の仕入,加工及び販売並びに料理飲食店の経営その他の業務を目的とする株式会社である。

(二) 業務委託契約の締結

 被告ジャコスは,昭和62年6月27日,被告音羽との間で,被告音羽の仕入商品に関するEOSシステムの情報処理業務について契約期間を5年間とする業務受託契約(以下「本件業務委託契約」という。)を締結した。被告ジャコスは,右契約を遂行するため,被告音羽から被告音羽指定にかかる品揃・納品伝票についてのプリントアウト・プログラムの作成を代金200万円で受託し,代金につき被告ジャコスが請求する額を被告ジャコス指定の支払期日に支払うとの約定のもとに被告音羽の指示による被告音羽用のオーダーブック(発注表)の作成を受託した。

(三) 被告ジャコスの履行

 被告ジャコスは,被告音羽指定の商品マスター846件を被告ジャコス電算センターのホストコンピュータに登録し,被告音羽の26支店からの情報出入力回線として26回線を確保した。また,右受託したプリントアウト・プログラム及びオーダーブックを作成した。

(四) 代金額の確定と請求

 被告ジャコスは,昭和62年11月5日ころ,被告音羽に対し左記内訳による代金合計2827万5180円を同月30日を支払期日として請求した。

(1) プリントアウト・プログラム作成費 200万円

(2) オーダーブック作成費 20万7500円

(3) 商品マスター登録料 6万7680円

(4) 端末回線登録基本料金 2600万円

(五) 原告セイコー辻本の連帯保証

 原告セイコー辻本は,被告ジャコスに対し,本件業務委託契約につき,被告音羽が被告ジャコスに対して負担する一切の債務につき連帯して弁済することを約した。

(六) よって,被告ジャコスは,被告音羽に対して本件業務委託契約に基づき,原告セイコー辻本に対して保証契約に基づき,連帯して業務処理料金2827万5180円及びこれに対する弁済期の翌日である昭和62年12月1日から支払済みまで商法所定の年6分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

2 請求原因に対する認否

 請求原因(一),(二)は認める。同(三)は否認する。同(四)は知らない。同(五)は認める。

3 抗  弁

(一) 解 除

(1) 本件業務委託契約には,昭和62年2月までにEOSシステムの稼働を開始させる旨の合意があつた。

(2) 昭和62年11月30日が経過した。

(3) 被告音羽は,被告ジャコスに対し,昭和62年12月24日付内容証明郵便をもって本件業務委託契約を解除する旨の意思表示をし,右意思表示は同月26日に被告ジャコスに到達した。

(二) 解約の告知

 被告音羽は,右(一)(3)記載の内容証明郵便をもって,本件業務委託契約を将来に向かって終了させる旨の意思表示をした。したがって,本件業務委託契約の対価である端末回線登録基本料金について,被告音羽は右意思表示が到達した昭和62年12月26日以降に相当する分の支払義務を負わない。

(三) 詐欺を理由とする取消し

(1) 被告ジャコスは,被告音羽に対し,本件業務委託契約の締結に際し,本件業務委託契約のうち端未回線登録基本料金の支払義務が,被告音羽の実際の回線使用の有無すなわち被告音羽の業務に適するソフトの提供及びEOSシステムの稼働とかかわりなく発生するものであることを秘して,被告音羽をして被告音羽が実際にEOSシステムの端末回線を使用して初めて対価の支払義務が発生する旨誤信させた上,右契約を締結させた。

(2) 被告音羽は,被告ジャコスに対し,平成2年5月8日,本件日頭弁論期日において,本件業務委託契約締結の意思表示を取り消す旨の意思表示をした。

(四) 錯誤による無効

(1) 被告音羽は,本件業務委託契約において被告ジャコスが被告音羽の業務に適合するソフトを提供しEOSシステムを稼働させ,被告音羽が端末回線を使用するまでは右契約の対価の支払義務が発生しないと誤信していた。

(2) 被告音羽は,被告ジャコスに対し,本件業務委託契約に際し,被告ジャコスが被告音羽の業務に適合するソフトを提供しEOSシステムを稼働させるまでは右契約の対価の支払義務が発生しない旨を黙示的に表示した。

(五) 公序良俗違反による無効

 本件業務委託契約において,被告昔羽のEOSシステムの稼働の有無にかかわらず一方的に稼働の対価を支払わせるのは,コンピュータソフトに関する被告音羽の無知に乗じた契約の締結である。被告音羽はコンピュータの部門では門外漢であり,被告ジャコスの主張する端末回線登録基本料金なるものが右回線を使用することがなくとも当然に支払義務が発生するという内容であることは把握できなかった。しかも,被告ジャコスにおいてはEOSシステムを稼働させないことによる実害がなんら生じておらず,契約上の不均衡が著しい。本件業務委託契約は民法90条の公序良俗の精神に反し,無効である。

(六) 相 殺

(1) 原告セイコー辻本,被告ジャコス間の総合代理店契約には,EOSシステムの販売に関し,顧客への機器納入総額の50パーセント及びオンラインによる通信処理サービス料金の10パーセントを総合代理店の販売手数料として被告ジャコスが原告セイコー辻本に支払う旨の約定がある。

(2) 原告セイコー辻本は,被告ジャコスと被告音羽間の本件業務契約締結にあたり,被告ジャコスの総合代理店としで右契約の仲介をした。被告音羽は被告ジャコスから発注機(1台あたり25万円)を26台,本部端末機(1台あたり75万円)を買い受けた。また,EOSシステムの端末登録基本料金は2600万円である。したがって,原告セイコー辻本は,被告ジャコスに対し,622万5000円の販売手数料債権を有している。

(3) 原告セイコー辻本は,被告ジャコスに対し,平成5年9月3日の本件口頭弁論期日において,右(2)記載の債権をもって,被告ジャコスの乙事件請求債権とその対当額において相殺する旨の意思表示をした。

4 抗弁に対する認否

 抗弁事実はいずれも否認ないし争う。

5 再抗弁

(一) 抗弁(一)に対し

 被告ジャコスは,受託したプリントアウト・プログラム及びオーダーブックを昭和62年10月初旬までに作成して納品した。その後の被告音羽の変更申出に基づき同年12月15日までに被告音羽の指示どおりにプリントアウト・プログラム,オーダーブックの修正を行ない実施用プログラムに即した品揃表をプリントアウトして送付した。

(二) 抗弁(二)に対し

 本件業務委託契約は受任者である被告ジャコスの利益のためにも締結されている。また,本件業務委託契約は期間を定めた契約であり解除権は制限される。

6 再抗弁に対する認否

否認する。

第三 証  拠

<省  略>

理        由

第一 甲事件本訴請求

一 被告ジャコスに対する請求原因について

1 代理店契約等の締結

 原告セイコー辻本と被告ジャコスが凌駕システムについての総合代理店契約を締結したこと,原告プラスパーシステム,同キープロン及び同フィチュアシステムが被告ジャコスと凌駕システムについての代理店契約を締結したこと並びに原告日本漢方同仁が被告ジャコスと凌駕システムのユーザー契約を締結したこと(請求原因(二))は,いずれも当事者間に争いはない。

 そして,証拠<省略>によれば,凌駕システムに関する総合代理店及び代理店契約の概要は次のとおりであることが認められる。

 被告ジャコスは凌駕システムを直接販売せずに,代理店を通じてのみ販売する。代理店契約の際支払う代理店加盟料には凌駕システム1台分の代金が含まれ,代理店は自動的に凌駕システムのユーザーにもなる。代理店に加盟後3か月以内に15以上の代理店を獲得すると総合代理店となり,販売実績に対して代理店が被告ジャコスから受け取るマージン率が代理店に比べ有利になる。総合代理店のマージン率は,代理店獲得につき30パーセント,ユーザー獲得につき25パーセントを原則とする。総合代埋店は,自己の下に設けた代理店が被告ジャコスに対して負担する一切の債務及び右代理店又は自己が販売した凌駕システムに関しユーザーが被告ジャコスに対して負担する一切の債務について,ユーザーまたは代理店として連帯して弁済する責に任ずる。契約期間は契約締結の日から1年間とし,契約満了の1か月前までにいずれか一方から別段の申し出がない限りさらに1年間契約を延長するものとし以後も同様とする。

 さらに,証拠<省略>によれば,原告セイコー辻本は総合代埋店としての地位を獲得すべく,被告ジャコスと代理店契約を結ぶ際に自ら予め凌駕システム15台分の代金を払い込み,実際にユーザーを獲得できたら順次その凌駕システムを納入することとしていたことが認められる。

 以上の事実を前提とすれば,原告セイコー辻本,同プラスパーシステム,同キープロン及び同フィチュアシステムはそれぞれ被告ジャコスと代理店契約を結ぶと同時に凌駕システムのユーザーとしての地位も有するものと認められるから,被告ジャコスに対する損害賠償請求の根拠である債務不履行の存否については,まず代理店契約とユーザー契約に共通する債務(契約の本旨にしたがって凌駕システムを提供する債務)についての債務不履行の存否を検討し,次に代理店契約に基づく債務についての債務不履行の存否を検討する。

2 凌駕システムの欠陥の有無

 被告ジャコスの原告らに対する前記契約に基づく債務の内容のうち,被告ジャコスがユーザー契約で定められた機能,性能を有する凌駕システムを提供したか否か,すなわち凌駕システムのシステム自体としての欠陥の有無をまず検討する。

(一) パンフレットの位置付け

 原告らは凌駕システムの欠陥について凌駕システムに関するパンフレットの記載内容と比較して実際の性能が異なると主張しているので,パンフレットの記載内容と被告ジャコスの契約上の債務の内容すなわちユーザー契約によって凌駕システムが備えるものとされる性能等との関係を検討するに,証拠<省略>によれば,原告らのいうパンフレットとは,被告ジャコスが凌駕システムの利用及び代理店加入を広告,勧誘する目的で作成したものであり,その内容は凌駕システムや凌駕システム代理店制度の概況,利点等を説明するものであること,原告らは右パンフレットにより凌駕システムの内容等を知り契約締結に至ったものであるが右パンフレットはユーザー契約及び代埋店契約の契約書に添付されその一部を構成しているものではないこと,ユーザー契約において凌駕システムの仕様として被告ジャコスが保証する内容は,契約書添付の凌駕システム入出力体系図(以下「仕様書」という。)に記載のとおりとされていることが認められる。被告ジャコスが原告らとの代理店契約及びユーザー契約に基づいて負う債務の内容は右契約書によって定まることは論を俟たないのであって,右契約書とは別に被告ジャコスが作成したパンフレットがあるとしても,それに記載された内容がそのまま直接被告ジャコスの負う債務の内容を左右するものではないことは明らかである。しかしながら,被告ジャコスが凌駕システムに関して作成したパンフレットの内容は凌駕システムについての当時の被告ジャコスの認識をうかがわせるものであるし,契約書には凌駕システムの性能について別段詳しく記載されていないことを考え合わせると,原告らがこれらのパンフレットを見て凌駕システムを理解し契約を締結した以上,契約締結にあたって原被告らが合意した凌駕システムの性能は右パンフレットの基本的な記載内容を含むものであったことを確認することができ,右推認を覆すに足りる証拠はない。とはいえ,前記のとおり右パンフレットは原被告間の合意内容を推認する目的で作成された書面ではなく,被告ジャコスが凌駕システムのユーザー及び代理店の勧誘するため,読む者に凌駕システムやその代理店制度に対する興味を抱かせることを主目的として作成されたものであるのだから,凌駕システムの便利さや代理店となることの利点が強調されて表現,記載されるきらいがあることもまた当然であり,仕様書のほかに右パンフレットの記載も前提として凌駕システムの性能や欠陥の有無を判断するにあたっては,パンフレットの表現の一語一句にとらわれることなく,その基本的な記載内容との比較において欠陥の存否を論じるのが相当である。

(二) 凌駕システムの概要

 以上を前提にしたうえで,証拠<省略>を総合すれば,凌駕システムは,利用者のパソコンと被告ジャコスの保有する超大型コンピュータをオンラインで結び,利用者が被告ジャコス保有コンピュータの中枢機能部分を共同利用することにより,安価かつ容易に超大型コンピュータを利用することができるとの発想で作られたシステムであり,原被告らがユーザー契約締結にあたって前提とした性能等の概要は次のとおりであると認められる。

 端末機はユーザーが保有するパソコンを使うが,希望すれば被告ジャコスのオリジナル端末機であるジャコ端スリーをサービス価格で購入することができる。ユーザーが端末機に処理する伝票データを打ち込み,オンラインで被告ジャコス保有の超大型ホストコンピュータに伝送すれば,ホストコンピュータが各種データ処理を行なって売上統計や債権管理,在庫管理等必要な管理形態に変換・整理し,再びユーザーの端末機に伝送する。右処理は即時(リアルタイム)に行なわれるため,ユーザーはホストコンピュータをいつでも自由に利用することができることになる。ホストコンピュータは大型コンピュータなので,入力,処理できるデータ量はほぼ無制限である。一連の操作は画面に対話形式で指示されるため,ユーザーはその指示に従う形で容易に操作することができる。ユーザーとホストコンピュータは公衆電話回線網によって結ばれるが,被告ジャコスは全国各地に中継基地(アクセスポイント)を設置することを予定しており,各アクセスポイントから被告ジャコスのコンピュータまでの通信費用は被告ジャコスが負担するので,各ユーザーは最寄りのアクセスポイントまでの電話料金を負担するだけですむ。大阪をはじめとする関西の各地域にアクセスポイントが設置される。各ユーザーのデータについては,パスワード等による利用者の資格チェック及びデータの暗号化による回線上の盗難防止により,機密保護対策が講じられている。ユーザーはホストコンピュータに接続するためのプログラムのみを持ち,データ処理のプログラムやデータ台帳はすべてホストコンピュータに記億されているため,ユーザーはプログラムの改善,修理やデータの保管についてコストを負担する必要がない。

 したがって,被告ジャコスの提供した凌駕システムが,右の基本的性能を備えていないものであれば,合意内容にしたがった本来の履行がないのであるから原被告間の契約の解除原因になりうると考えられる。

(三) 原告主張の具体的欠陥について

 そこで,原告が請求原因(三)(1)@ないしLにおいて主張する凌駕システムの具体的な欠陥について,その存否を検討する。

@ オンラインエラー

 原告らは,プリントアウトの段階でオンラインエラーが発生するため,凌駕システムは利用に堪えないと主張する。確かに,証拠<省略>によれば,昭和62年9月5日及び同月7日ないし9日の4日間,原告日本漢方同仁において請求明細書をプリントアウトしようとした際,全部のプリントアウトが完了しないまま開始から20分ないし50分で回線が突然切れるという事態が繰り返されたため,結局,原告日本漢方同仁は請求明細書を全件プリントアウトすることを断念した事実が認められる。しかし,前記証拠によってはオンラインエラーが発生したこと自体は認められるものの,その原因は不明であるというほかはない(前記証拠ではアクセスポイントからホストコンピュータをつなぐ経路に問題がある可能性も指摘されているが,アクセスポイントを通さずに東京の被告ジャコスに直接電話してホストコンピュータに接続してみても回線切断が発生したとのことであり,そこに原因を認めることもできない)から,このオンラインエラーが凌駕システムの欠陥が原因で発生したものであると認めることができない。そして,これ以外にオンラインエラーが発生したとの具体的事実の存在及びその状況については,証拠上明らかではないから,オンラインエラーが多数回発生した事実を認めることができず,そこから凌駕システムの欠陥の存在を推認することもできないといわざるを得ない。もっとも,証拠<省略>にもプリントアウトの段階でオンラインエラーが発生する旨の記載があり,右書面の作成時期は判然としないもののその内容が原告プラスパーシステムが凌駕システムを3か月稼働させたうえでの認識事項をまとめた形式になっていることから昭和62年1月末ころに作成されたものと推認されるので,右に記載するオンラインエラーは同年9月に発生した原告日本漢方同仁についての前記事実とは別の事実を指しているものと見られないではない。しかし,その記載もオンラインエラーが発生したと抽象的に指摘するにとどまるものであって具体的状況は不明であり,これをもって凌駕システムにオンラインエラーの欠陥があったことを認めるには足りないのは前記と同様である。他にオンラインエラーの欠陥を認めるべき証拠はない。

A モニター画面の表示

 弁論の全趣旨により,ジャコ端スリーのモニター画面には17文字までしか表示されないことが認められる。しかし,17文字表示されれば商品名を識別するためには一般的には十分であると考えられるから,右事実をもって凌駕システムに欠陥があるということはできない。

B スポット商品の入力

 証拠<省略>によれば,商品名等としてマスター登録に何を登録するかはユーザーが決めることであり凌駕システムはその選択を制限ないし左右するものではないこと,登録してある商品名はそのコードを入力することにより自動表示されること,未登録の商品名は自動表示はされないが諸口という項目でその都度商品名を入力することができるから,独立した商品として登録する必要のない一時商品(スポット商品)についてもデータの入出力が可能であることの各事実が認められる。ユーザーの販売・購買・在庫管理のためにはスポット商品の扱いが不可欠なものであるとしても,凌駕システムを使用しても前記のような方法で右商品に関するデータを処理できるのであるから,何ら欠陥はない。

C 売上伝票が2種類のみであること

 証拠<省略>によれば,被告ジャコスが作成した凌駕システムに関するパンフレットには売上伝票が24種類作成できると記載されていることが認められ,証拠<省略>によれば凌駕システムで作成できる売上伝票は2種類であることが認められる。しかし,右パンフレットの記載と実際の性能との相違は,それが前判示の基本的内容に関するものでない限り欠陥と即断すべきではないことは前述のとおりであるところ,売上伝票が24種類作成できなければ販売・購買・在庫管理に支障があると認めるべき証拠はなく,また,支障の存在について原告らの具体的な主張もないから,これをもって欠陥というにはあたらない。

D ガイドメッセージが不親切

 原告らはガイドメッセージが不親切と主張し,証拠<省略>にもその旨の記載がある。しかし,不親切か否かは多分に評価の問題といえるうえ,一般的に画面上ガイドメッセージとしてどのようなものが表示されると使い勝手がよいかは使う側の好みの問題に属する部分もあり,どのようにガイドメッセージを表示させるかは当該プログラムを作る際の営業上の判断である面があると考えられる。そうであるから,ガイドメッセージの不親切が契約の解除原因にあたるべき欠陥であるというためには,当該システムの一般的利用者を基準として,使用に堪えられないほど不親切であることが必要であると解するのが相当である。本件においては,原告らが不親切と感じたこと以外には,証拠上実際に生じた不都合の具体的事実を認めることができず,凌駕システムのガイドメッセージが一般的利用者を基準として使用に堪えられないほど不親切であると認めることはできない。

E マニュアルが不備

 証拠<省略>によれば,凌駕システム動作のために必要な操作はひととおり説明されていることが認められる。確かに,原告らが主張するように,右マニュアルには漢字入力方法についての記載はないが,凌駕システムを利用するにあたって漢字入力が必要となるのは仕入先,得意先,商品名等を登録する時であり,日常の運用にあたってはテンキー及びファンクションキーの操作のみでほぼ用が足りると認められるうえ,凌駕システムで使用する漢字変換システムが凌駕システム自体に組み込まれているもので独自の操作を要するものなのか,別の日本語変換プログラムを組み込んで使うものなのか証拠上不明であり,漢字変換システムがそもそも凌駕システムの一部といえるか否かが明らかでないから,漢字入力方法の記載がないことをもってマニュアルが不備であるということはできない。

F 入力代行会社の設置

 本件全証拠をもってしても,被告ジャコスが入力代行業務を行うことないし入力代行のための会社を設置することが凌駕システムユーザー契約時の合意事項となっていたことを認めるに足りる証拠はないうえ,入力代行会社は被告ジャコスが設置しなくても他にあるのだから(現に,証拠<省略>によれば,原告日本漢方同仁のための入力業務を訴外FTSシステム販売株式会社が代行している事実が認められる。),被告ジャコスが入力代行会社を設置したか否かは凌駕システムの欠陥とは無関係というべきである。

G 技術員が常駐していない

 証拠<省略>によれば,当時ユーザーが凌駕システムを仕様書にしたがって使用してもうまく動かなかった場合には,訴外株式会社ジャコスシステムサービスの社員が対応する態勢がとられていたこと,大阪のユーザーから要請があれば東京から右訴外会社の者が行って説明等することになっていたこと,そのための人員として十数名の者がいたこと,大阪にはユーザーからの要望に対応できる技術員は常駐していなかったことが認められる。しかし,大阪に技術員が常駐していないことがユーザーにとって多少は不便であったことは推測できるけれども,ユーザーは東京の被告ジャコス本社に問い合わせることもできるのであるし,ともあれ当時被告ジャコスの派遣する技術員が大阪のユーザーの要望に対応する態勢はとられていたのであるから,大阪に技術員が常駐していないことが凌駕システムの使用に堪えられないほどの欠陥に値するとは認められない。

H 取扱い中止による使用不能

 本件全証拠によっても,被告ジャコスが凌駕システムの販売を停止していること又は被告ジャコスが凌駕システムの取扱いを停止したことにより既存のユーザーらが凌駕システムを使用することが不可能となっていることを認めるに足りる証拠はない。

I リアルタイム処理

 証拠<省略>によれば,リアルタイム処理とは依頼を受ければ即時に処理して結果を返すことをさすところ,凌駕システムのデータ処理のうち,請求処理(1か月ごとの請求書作成)と月次処理(月報作成)については処理を依頼した翌日に出力するシステムになっており,即時処理といえないことが認められる。しかし,それ以外の大部分のデータ処理はリアルタイムでできるのであり,請求処理や月次処理は在庫の状況や得意先の状態等の管理データと異なり緊急性が乏しいものであるから,依頼した翌日に出力されるのであれば十分使用に堪え得るといえ,欠陥にはあたらない。

 さらに,アクセスポイントに接続する電話回線がふさがっている場合には,「回線使用中」となりホストコンピュータにつながらないため,リアルタイム処理ができないという原告の主張について検討する。証拠<省略>によれば,被告ジャコスは訴外ネットワークサービス株式会社と契約を結び,アクセスポイントとホストコンピュータを結ぶ回線として右ネットワークサービス株式会社が設置管理するアクセスポイント及び特定回線を使用することとしたこと,大阪とホストコンピュータを結ぶ特定回線は26回線とする契約であったこと,右ネットワークサービス株式会社のサービス提供開始日は昭和62年2月1日であったこと,右サービス開始までの間は被告ジャコスの大阪支店に転送電話を設置し,転送電話とホストコンピュータをつなぐ電話回線を用意して,ユーザーが被告ジャコス大阪支店の転送電話を通じてホストコンピュータとデータをやりとりすることによって,大阪支店から東京のホストコンピュータまでの電話通信費用を被告ジャコスが負担する方法をとっていたこと,右転送電話のために設置した回線は3回線であったこと,3回線という数は1つの端末がデータをやりとりするのに20分から25分かかり,単一時間内に4,5件端末から電話がかかってくるとの想定のもとに,NTTで使われている計算式により必要な回線数を算出した数であることがそれぞれ認められる。以上によれば,訴外ネットワークサービス株式会社がサービス提供を開始するまでの間は,ユーザーの端末からのアクセスが被告ジャコスが想定した前記の数を大幅に超えれば必要回線数計算の前提が狂うのであるから,いつでも回線がふさがっていてユーザーが使いたいときに利用できないという状況が発生することは考えられるけれども,本件においては端末からのアクセスが想定数を超えて殺到した事実は認められないし,原告らの主張も一般的にそのような事態がありうるという観念的な指摘の域をでるものではない。そして,実際に回線がしばしば塞がっていて不便であるとの状況が生じたならば,被告ジャコスは回線数を増やすことによりいつでもその状況を改善することが可能であると考えられるから,凌駕システムにはホストコンピュータにつながらないためリアルタイム処理ができない欠陥があるとは認められない。

J 電話料金

 回線エラーがしばしば発生した事実又はその原因が凌駕システムの欠陥によるものである事実が認められないことは前判示のとおりである。したがって,大阪の凌駕システムユーザーが東京のホストコンピュータに直接電話をかけるのでなければ凌駕システムを使用することができないため,大阪から東京までの膨大な電話料金を負担せざるを得ないとの事実は認められない。

 証拠<省略>によれば,当時近畿地区では大阪だけにアクセスポイントが設置されていたため,大阪を除く近畿地区から凌駕システムを使用するとすれば,ユーザーは大阪のアクセスポイントまでの市外通話料金を負担することになることは認められる。しかし,大阪の周辺地域から大阪市内までの通話は市外通話とはいえ全国的視野から見れば市内通話とほぼ同視できるものであるし,前記証言により被告ジャコスは大阪以外の周辺地区においても需要があれば順次アクセスポイントを設置していく予定であったことも認められるところ,当時実際に大阪以外の近畿地区にアクセスポイントを設けるほど凌駕システム利用の需要があったとは証拠上認められないから,大阪以外にアクセスポイントが設置されていなかったことをもって債務の内容たるパンフレットの基本的記載内容に相違するとはいえず,債務不履行にはあたらない。

K 機密保護

 証拠<省略>によれば,凌駕システムはフロッピーディスクがあれば当該フロッピーディスクのユーザーのデータの内容を知ることができるものであると認められ,これを覆すに足りる証拠はない。だとすれば,パスワード等で利用者の資格チェックをすることによって機密保護を図っているとのパンフレットの記載は,実際の機能と相違するものであるといわざるを得ないが,他人のフロッピーディスクを入手して使用することによりデータを盗取する蓋然性は低いと考えられ,一方,ネットワーク上でのデータ盗難防止措置がとられていないことを認めるに足りる証拠はないから,フロッピーディスクを盗取された際に当該ユーザーのデータ内容が知られるおそれがあることをもって,凌駕システムが営業のための使用には堪えない機密保護上の欠陥を有すると認めることはできない。

L 電話番号での登録

 証拠<省略>には,凌駕システムについて取引先の登録が電話番号でできる旨の記載があることが認められるが,証拠<省略>に照らし,それが凌駕システム利用の契約内容であることを認めるには足りず,他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

3 バックアップ体制について

(一) パンフレットの位置づけ及びその内容

 次に,代理店契約に基づくバックアップ体制に関して,被告ジャコスの債務不履行の有無を検討する。ここにおいても,被告ジャコスが作成したパンフレットの記載のうち,基本的な内容が被告ジャコスの代理店契約における債務の内容を補充しているとみるべきことは,前記凌駕システム自体の欠陥について論じたのと同様である。

 証拠<省略>によれば,本件代理店契約において代理店に期待される主な役割は凌駕システムを使用する顧客を開拓して被告ジャコスに紹介することであり,代理店になろうとする者が凌駕システム及びコンピュータについての十分な知識を有していることを予定せず,凌駕システムの維持運営に関わる顧客サービスは被告ジャコスが主に担当することとされていたこと,代理店は販売実績に応じて売上額の25ないし35パーセントのバックマージンを得るとされていること,販売についてのノルマや制裁は別段課されていないこと,被告ジャコスは代理店の販売活動を支援するため有償での販売用ツールの提供や要員教育等を行うこととされていることが認められる。

(二) 継続的契約関係の解消について

 ところで,本件における代理店契約はいわゆる継続的契約関係であるところ,一般に継続的契約関係においては当事者間の信頼関係が契約関係成立の基礎となるので,右関係の解消にあたっては,一方当事者に信頼関係を破壊し契約関係の継続を期待できなくするような債務不履行があることが必要とされるものである。さらに本件においては,前記のとおり契約期間の定めがあるので,甲事件原告らの主張する右期間中の契約解消が認められるためには,前記のバックアップ体制に関して被告ジャコスにささいな契約違反が認められたとしても,右契約違反が信頼関係を破壊するものであり,もはや契約関係の継続を期待できないというべき事情が認められない限り,解除原因にはあたらないと解するのが相当である。

(三) 請求原因1(三)(2)の各不履行事実の存否

 そこで,甲事件原告らが債務不履行であると主張する事実の存否をまず検討する。

@ 販促ツールの提供

 証拠<省略>によれば,被告ジャコスは原告キープロンに対して一定部数のパンフレットを渡したものの,追加提供を求めても受け入れられなかったことが認められ,これを覆すに足りる証拠はない。その余の原告らについては,被告ジャコスに対してパンフレットの提供を要求しても得られなかったことをうかがわせる事実は証拠上認められない。

A ショールーム開設

 証拠<省略>によれば,被告ジャコスは凌駕システムのショールームを開設したこと,それを昭和62年3月または昭和63年4月に廃止したことが認められ,これを覆すに足りる証拠はない。

B 研修会の実施

 原告プラスパーシステム代表者本人尋問の結果によれば,被告ジャコスは代理店の研修会を開いたことが認められる。

C セールステクニック集の配付

 証拠<省略>によれば,代理店勧誘のためのパンフレットにはセールストーク集等を被告ジャコスが用意するから営業活動が容易に行える旨の記載があることが認められるところ,証拠<省略>によれば,被告ジャコスは甲事件原告らに販売指導書の配付をしなかったことが認められ,これを覆すに足りる証拠はない。

(四) 解除原因の存否

 以上によれば,原告らがバックアップ体制の不備として主張する事実は,研修会の不実施を除き一応認めることができる。しかしながら,前記のとおり本件代理店契約においては,代理店は加盟金名下に凌駕システム1台を購入することにより代理店となることができ,他に代理店契約に基づく金銭支払い義務を負わないこと,代理店には販売ノルマは課せられておらず,その義務の内容は代理店としての忠実義務を中心として消極的なものであること,コンピュータソフトという商品の性質上,代理店は在庫の保管,配送等について費用を要しないこと,ユーザー契約自体は通常顧客と被告ジャコスとの間で結ばれることが想定されており,売主としての責任は被告ジャコスが全て負担すること,凌駕システム販売の際に被告ジャコスから代理店に支払われるバックマージンは売上額の25ないし30パーセントとされていること等,代理店にとっては負担が少なく利益の大きい条項を有するものである。また,逆に被告ジャコスの側にとってみれば,代理店契約はバックマージンを支払うことによって自らは凌駕システム販売のための営業活動をしなくてすむという利点があるのであり,双方が代理店契約を結ぶに至った利害の一致はこの点にみることができる。そうすると,営業活動自体は第一次的には代理店の責任においてなすべきであり,代理店契約における被告ジャコスの主たる義務は代理店が見つけてきた顧客に対して遅滞なく凌駕システムのユーザー契約を締結して,顧客において凌駕システムを使用可能な状態におくことであると考えられ,被告ジャコスの行うべき販売支援義務は凌駕システムの販売営業活動全体からみれば副次的なものにすぎないというべきである。さらに,パンフレット等の印刷やショールームの開設運営にはある程度費用がかかることを考え合わせると,パンフレットやショールームの存在によって凌駕システムに興味を示す顧客の多寡に応じて被告ジャコスが右の費用投下を決することは経済活動としてやむを得ないことでもあるといえる。前判示のとおり被告ジャコスはその主たる義務である凌駕システムの供給義務を尽くしていると認められるのであるから,原告らが被告ジャコスのバックアップ体制の不備として主張する各事実は,原被告らの代理店契約関係の継続を期待できなくするような債務不履行にはあたらないものというべきである。

4 EOSシステムの欠陥について

 後述のとおり,EOSシステムが被告音羽の受発注業務に使用できないものであるとは認められない。

5 凌駕システムについての結論

 結局,原被告間の凌駕システムについてのユーザー契約及び代理店契約並びにEOSシステムについての総合代理店契約に関し,被告ジャコスに債務不履行は認められないから,その余の点について考慮するまでもなく,甲事件原告らの被告ジャコスに対する請求には理由がない。

二 被告インテックリースに対する請求原因について

 被告インテックリースが凌駕システムについてのリース料債権をすでに被告ジャコスヘ譲渡したと主張しており,甲事件原告らに対して凌駕システムについてのリース料債権を有すると主張していないことは当裁判所に顕著である。したがって,甲事件原告らの被告インテックリースに対する債務不存在確認請求は訴えの利益を欠くものである。

第二 甲事件反訴請求

一 請求原因について

1 甲事件反訴被告らが被告インテックリースと凌駕システムについての本件各リース契約を締結したことは当事者間に争いがない。

2 甲事件反訴被告らが請求原因(二)に記載する各日時に所定の月額リース料を支払わなかったことは当事者間に争いがない。

3 被告ジャコスが請求原因(三)で主張する被告インテックリースからジャコスヘのリース料債権譲渡の事実及び被告インテックリースが右債権譲渡について債務者である各甲事件反訴被告らに通知した事実は,証拠<省略>により認められる。

二 抗弁(一)(リース料請求停止の合意)について

 被告インテックリースが,甲事件反訴被告らに対し,本件各リース契約に基づくリース料の支払を催告することを昭和63年ころから事実上停止していたことは,弁論の全趣旨により認められる。しかしながら,一方で前記のとおり被告インテックリースがジャコスに本件リース契約の残債権を譲渡している事実が認められること及び弁論の全趣旨に照らせば,右事実上の請求停止をもって,被告インテックリースが甲事件反訴被告らに対するリース料債権を免除ないし放棄していたと推認することはできず,他に甲事件反訴被告ら主張のような請求停止ないし免除の合意を認めるに足りる証拠はない。

三 抗弁(二)(信義則)について

 凌駕システムについてのユーザー契約及び代理店契約に関し,ジャコスに債務不履行は認められないことは前判示のとおりであるから,債務不履行の存在を前提とする甲事件反訴被告らの主張は,理由がないことが明らかである。

四 抗弁(三)(相殺)について

 前判示のとおり甲事件本訴請求における甲事件反訴被告らの損害賠償請求は認められないから,これを自働債権とする相殺の主張もまた理由がない。

第三 乙事件請求

一 請求原因について

1 業務委託契約及び保証契約の締結

 被告音羽が被告ジャコスとの間で本件業務委託契約を締結したこと及び右契約により被告音羽が被告ジャコスに対し負担する債務について原告セイコー辻本が連帯保証をしたことは,当事者間に争いがない。

2 被告ジャコスの履行

(一) 本件業務委託契約の内容

 証拠<省略>によれば,本件業務委託契約の締結に至る経緯及びその内容は,次のとおりであることが認められる。

(1) 被告音羽は26店舗を有する寿司のチェーン店を経営しているが,各店舗で使うネタの仕入,発注について,従前は各店が被告音羽の本部に手書きの注文書を持参し,本部においてそれを集計して,まとめて市場に買い付けに行く方法をとっていたところ,昭和61年春ころから,注文書の持参及び集計に要する時間及び労力を省くため,コンピュータシステムの導入を検討するようになった。そして,被告ジャコスの特約店である原告セイコー辻本を通じて,被告ジャコスが運営するEOSシステムを利用して受発注業務を行なうこととし,本件業務委託契約を締結した。

(2) EOSシステムを使った受発注業務の方法の概要は,およそ次のとおりである。

 被告音羽の本部に端末機1台をおき,各店舗には入力用のハンディターミナルを各1台設置する。各店舗では,被告ジャコスが作成提出した注文台帳(オーダーブック)の注文したい品種及び量に対応するバーコードをハンディターミナルに接続する読取器(スキャナー)でなぞり,発注の入力をして,そのデータを電話回線を使って被告ジャコスのセンターに送信する。右センターのコンピュータは集録された各店の発注データを集計処理して被告音羽本部の端末機に配信する。各店舗からの送信は,センターのコンピュータがデータ処理に要する時間帯(約1時間)を除き,24時間体制で可能である。被告音羽本部では,センターコンピュータから配信された受発注データにより発注業務を行ない,各店舗別に作成される品揃表にしたがって各店舗に納品することができる。

 EOSシステムを利用する場合には,システムの基本ソフトとして被告ジャコスが開発した「ニューオーダーVANU」を他のユーザーと共用し,そのうえで各ユーザーに応じた応用ソフトを付け加える方法がとられ,商品台帳に登録する商品の種類等はユーザーの要望に沿って決定されるものである。

(3) 本件業務委託契約の期間は5年間と定められ,その5年間に本件業務委託契約に基づき被告音羽が負担する費用額は,EOSシステム構築のため当初要する費用として,契約料50万円,端末機器代金725万円(本部端末機1台75万円,ハンディターミナル26台・単価25万円),被告音羽用特殊ソフト開発料金200万円,商品マスター登録料(1品につき80円),システム稼働基本料金(端未回線登録基本料金)2600万円(ハンディターミナル1台につき100万円)とされ,その他にデータ処理1件につき2円の料金を支払うことと定められたが,商品マスター登録料及びオーダーブック作成費用は,登録する商品量にもよることから,費用が確定してから被告ジャコスにおいて請求するものとされた。

(二) 被告ジャコスの履行

 証拠<省略>により,以下の事実が認められる。

(1) 被告ジャコスでは,被告音羽の商品マスター台帳を登録するために被告音羽と登録する商品の種類について打ち合せをしたところ,被告音羽が営んでいるのは寿司店であり26店舗の中には小さい店もあることから,受発注の際には,「マグロ半身」や「マグロ四半身」等,1未満の単位で注文できることが必須であると確認された。被告音羽の見積りでは,登録する商品の数は1000未満ということだったので,13桁のコードナンバーのうち3桁を商品名に当てることにして登録作業を進めたところ,たとえばハマチ1キロ,ハマチ2分の1,ハマチ4分の1をそれぞれ別の商品として登録したため,商品数が当初の見積りである1000を超えることになり,商品コードを4桁に増やしてコードナンバーを入力し直す結果になった。

(2) 被告ジャコスは昭和62年9月11日ころまでには商品の登録及びオーダーブックの作成を作成し,ハンディターミナルから被告ジャコスのセンターヘデータを送るテストをしたうえ,同年10月13日までに被告音羽の各店舗にハンディターミナルを,被告音羽本部に端末機をそれぞれ設置して,同日,被告音羽の酒匂総務部長と地区長ら及び原告セイコー辻本の営業担当者の立会いで説明会を開いた。

(3) 昭和62年11月4日から,被告音羽では実際にEOSシステムでの受発注業務を始めてみたところ,たとえばハマチ1キロとハマチ2分の1を別の商品としてバーコードをスキャナーで擦る方法よりも,まずハマチのバーコードを擦った後にキーボードで注文量を入力する方法の方が便利であるとの結論になり,同月18日ころその旨のソフトの改善を被告ジャコスに要望し,被告ジャコスは同年12月15日ころまでに要望にそったソフトの変更をした。

(4) 以上の経過により,被告ジャコスはEOSシステム構築のための作業を完了し,被告音羽において右システムが使用可能となった。

3 代金額の確定

 オーダーブック作成費と商品マスター登録料がそれぞれ請求原因(四)記載のとおり確定したこと及び被告ジャコスが被告音羽に対し右記載の代金合計2827万5180円を昭和62年11月30日を支払期限として請求したことは,証拠<省略>により認められる。

二 抗弁(一)(解除)について

1 稼働開始時期の合意

 被告音羽は本件業務委託には昭和62年11月までにEOSシステムの稼働を開始させる旨の合意があったと主張する。被告音羽と被告ジャコスの打ち合わせの結果,寿司店が繁忙になる12月にはシステムが順調に稼働できるようにするため,11月1日に本番がスタートするよう日程が組まれたことは,証拠<省略>により認められる。

2 昭和62年11月30日が経過したことは当裁判所に明らかである。

3 被告音羽が昭和62年12月26日到達の内容証明郵便をもって契約解除の意思表示をしたことは,証拠<省略>により認められる。

三 抗弁(一)に対する再抗弁について

 前記のとおり,被告ジャコスは昭和62年11月上旬までに被告音羽のためのEOSシステムの構築を一応完了したものの,被告が音羽が実際に使ってみた結果改善要求が出され,そのソフト改良がすんだのは同年12月15日ころであることが認められ,右認定を覆すに足りる証拠はない。

 右によれば,被告ジャコスが被告音羽のためのソフトを最終的に完成させたのは,当初計画した11月を過ぎてからであることは被告音羽の主張のとおりである。しかし,一般的に,使い勝手のよいシステムを構築するためには,実際に使うユーザーの意見を聞いて改良するという手順が繰り返される必要があり,そのためにはユーザーからの積極的な意見の提出や協力が不可欠であるところ,前掲証拠によれば,被告音羽内部においては,仕入業務を実際に行なう各店舗の現場担当者の意見吸い上げが不十分だったため,被告ジャコスとの打ち合せを行なう本部の担当者は現場で使いやすい注文方法について十分には把握しきれていなかったきらいがあるように見受けられ,その結果,前記のとおりの経過でシステム構築に余計時間がかかったと認めることができる。もっとも,システムを提供する被告ジャコスの側としても,コンピュータシステムに慣れていないユーザーに対しては,ユーザーからの的確な情報を引き出すために,注文入力の方法としてどのようなものがあるか,それぞれの方法にはどんな長所短所があるか等の情報を十分提供することが必要であり,さらに場合によっては,被告ジャコス自らが被告音羽の現場に出向いて実際に操作する担当者の意見,感想も集めたうえで,使いやすいシステムを作っていく努力が求められるものであるが,被告ジャコスにおいては,被告音羽の登録商品数を聞き取るに際して具体的な入力方法の例を十分説明したか疑問が残るし,被告ジャコスが自ら現場の意見を集めることはしなかったことは証人野林の証言からも認められる。そうしてみれば被告ジャコスにも若干不親切な点があったうらみはあるが,いずれにしろユーザーが満足するシステムの構築にはユーザーの意見協力が不可欠なのである以上,被告音羽からの改善要求にしたがってソフトの手直しを繰り返した前記の経過のもとにおいては,システムの完成が当初の予定より若干遅れたことがすべて被告ジャコスの責任によるものであるとはいえない。また,前記のとおり11月末という期限は被告音羽の繁忙期までにシステムに慣れるという目的で定められたものであって,被告音羽において右期限を過ぎればシステム導入の意味がなくなるような性質のものではないことに鑑みれは,被告音羽が11月半ばをすぎてから注文量の入力方法変更を被告ジャコスに申し入れている事実は,被告音羽においても11月中にシステムが完成しないことを容認していたと推認させるものである。

 以上の経過によれば,被告ジャコスのEOSシステム構築の履行は,被告音羽との合意の期限から違法に遅れたものであるということはできず,被告ジャコスには解除原因となるべき履行遅滞は認められない。

四 抗弁(二)(解約告知)及び同抗弁に対する再抗弁について

 本件業務委託契約の契約期間は契約締結の日から5年間とし,期間満了の3か月前までに被告ジャコス,被告音羽のいずれからも特段の意思表示がないときはさらに5年間延長するものとし,以後もその例によるとする定めがあることが証拠<省略>によって認められるところ,被告音羽は契約期間中の中途解約を主張する。

 本件業務委託契約は,被告音羽が被告ジャコスに対しEOSシステムによる受発注データ処理業務を委託する契約であるから,法律行為以外の事務をなすことを委託する準委任契約であり,原則として委任者は自由に契約を解約でき,その限りで被告音羽の抗弁は理由がある。

 被告ジャコスは本件業務委託契約は同被告の利益のためにも締結されていると主張する。しかしながら,本件業務委託契約の内容は前記のとおりであり,被告ジャコスはシステム構築費用として一定の対価を受ける外システムの稼働に伴うものとしてシステム稼働料金(端末回線登録基本料金),データ処理料金(1件につき2円)を対価として受けるようになっているが,右対価はいわゆるハード,ソフトの代金のほかは,証拠<省略>によれば,データ処理に伴う報酬と認められ,本件業務委託契約上この報酬以上に被告ジャコスが本件業務委託契約により利益を受けることは予定されてはおらず,もとよりデータ処理をすること自体が被告ジャコスにとっての利益とはいえないから,本件業務委託契約が被告ジャコスの利益のためにも締結されているとはいえない。

 また,被告ジャコスは本件業務契約は期間を定めた契約であり解除権は制限されると主張する。準委任契約であっても当事者が契約期間を定めているときは,事情により当事者が契約の自由な解除権を放棄をしたものと認められる場合があり,このような場合には,当事者は特段の事情がない限り定められた期間中は契約を解除することができないと解すべきであるから,本件業務委託契約において右のような事情があるかどうか検討する。

 本件では,証拠<省略>によれば,回線登録基本料を定めるにあたって,1店舗につき月額2万円を基準として,1年間で24万円,5年間で120万円となるところを5年分一括して支払うなら100万円とするとの計算のもとに,26店舗分の回線登録基本料が2600万円と定められた経緯が認められ,このことからすれば,契約締結当時被告音羽においても一応は5年の間契約関係を継続することが予定していたというべきであるが,前記のとおり右登録基本料はデータ処理の報酬であり元来はデータ処理に応じて支払われれば足りるものであり,それゆえ,右のとおり基本的には月単位で定められ,それを5年分一括して支払う形を取っているものと認められるのであって,必ずしも5年の期間が必然的なものでないこと,前記のとおりデータ処理はホストコンピュータに対する回線を通じて行われ,被告ジャコスは被告音羽に対し右処理のため回線を確保しているのであるが,右確保にかかる回線については,本件業務委託契約が中途で打ち切られても,別の顧客に提供できるので,中途で契約が終了しても被告ジャコスに格別の不利益を与えないこと,本件のようなコンピュータによるデーター処理についてはソフト,ハードに対する信頼が重要であり,その使い勝手は勿論,ユーザーの立場からすれば,新規に開発されたより良いもの(より信頼度の高いもの)に交換する自由を保証されてしかるべきこと等からすれば,本件業務委託契約において5年の期間中,被告音羽において解除権を放棄したとまでいうことはできない。

 被告ジャコスの再抗弁は埋由がなく,本件業務委託契約は昭和62年12月26日限り終了したものであり,被告ジャコスは本件業務委託契約の対価につき,端末回線登録基本料金を除く費用については,既に作業を終了しているものであるから,その全額227万5180円,右基本料金については,期間経過分,すなわち,昭和62年6月27日から昭和62年12月26日までの6月間260万円(5年間2600万円の6月分,前記のとおり本件業務委託契約にかかるシステムが稼働し始めた時期は契約締結日より遅れているが,契約締結日から被告音羽に対する回線の確保がなされていたものというべきであるから,右期間の経過に対応する料金の請求が認められるべきである。),以上合計487万5180円を,被告音羽及び原告セイコー辻本に請求し得るものというべきである。

五 抗弁(三)(詐欺により取消し)について

 被告音羽の主張は,EOSシステムが被告音羽において使用できないものであることを前提するところ,前判示のとおり,被告ジャコスは被告音羽に適するEOSシステムの構築を履行しているので,抗弁(三)はその前提を欠き理由がない。

六 抗弁(四)(錯誤無効)について

 被告音羽の主張は,右抗弁(三)と同様,EOSシステムが使用できないことを前提とするものであるから,理由がない。

七 抗弁(五)(公序良俗違反による無効)について

 被告音羽は,被告音羽が実際にはEOSシステムを稼働させていないにもかかわらず端末回線登録基本料金の支払義務を負う合意は公序良俗に反すると主張する。しかしながら,前判示のとおり,被告ジャコスは本件業務委託契約に基づいて被告音羽に対し受発注業務に関するシステム構築を履行していると認められるのであり,本件業務委託契約におけるEOSシステム利用の対価は前記のとおり端未1台あたり5年間で100万円の登録基本料金と1件2円のデータ処理料金からなる旨定められているのであるから,被告音羽が自己の都合によりEOSシステムを使用しなかったとしても,データ処理件数とは別に登録基本料金の支払義務は負うものである。右料金は端未1台あたり5年間で100万円,1か月あたりでは2万円に相当するが,右金額は前記のような受発注データ処理業務を委託する対価として不相当に高額ということはないし,被告ジャコスにとってはコンピュータでデータ処理をするための費用以外に,EOSシステム開発費やデータエリアの確保のための費用等,固定的に発生する費用もあるのであるから,データ処理件数に応じた処理料金とは別に一定額の基本料金を定めることにも合理性が認められる。したがって,本件業務委託契約における端末回線登録基本料金の定めが公序良俗に反することはないから,抗弁(五)は理由がない。

八 原告セイコー辻本の抗弁(六)(相殺)について

 証拠<省略>によれば,原告セイコー辻本と被告ジャコスとの間に原告セイコー辻本が主張するとおりの総合代理店販売手数料についての合意が存したことが認められ,これに反する証拠はない。したがって,原告セイコー辻本は被告ジャコスに対し,機器納入総額(725万円)の50パーセント(362万5000円)の販売手数料債権を有している。なお,端未登録基本料金の販売手数料については,前判示のとおり本件業務委託契約が原則として自由に解約できるものであり,かつ,代理店は顧客が被告ジャコスに対して負う債務を連帯保証しているものであることを考慮すれば,右の販売手数料の額は被告ジャコスにおいて現実に顧客に請求し得る額を基準として算出するのが相当であり,本件では前記のとおり260万円の限度で端末登録基本料金が認められるから,その10パーセント(26万円)が右の販売手数料債権額になる。よって,原告セイコー辻本が後記意思表示の時点で有する販売手数料債権は,合計388万5000円である。

 原告セイコー辻本が被告ジャコスに対し相殺の意思表示をしたことは当裁判所に顕著である。

 右相殺の意思表示により,被告ジャコスが乙事件原告らに対して有している前記本件業務委託契約上の債権487万5180円と,原告セイコー辻本の有している販売手数料債権388万5000円は,相殺適状となった本件業務委託契約の成立時(昭和62年6月27日)に対当額においてそれぞれ消滅した。

第四 結  論

 以上の事実によれば,甲事件本訴請求のうち,被告ジャコスに対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却し,被告インテックリースに対する請求は訴えの利益がないからこれを却下し,甲事件反訴請求は理由があるからこれを認容し,乙事件請求は前記の限度で理由があるからこれを認容し,その余は棄却し,訴訟費用の負担につき民訴法89条,93条を,仮執行の宜言につき同法196条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。

 

裁 判 長  裁 判 官  小  田   泰  機

       裁 判 官  永  野   厚  郎

       裁 判 官  河  本   晶  子

 


Copyright (C) 1998-2001 Takato Natsui, All rights reserved.

Published on the Web : Apr/13/1998

Error Corrected : Nov/09/2004

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