工友社対テクニカル・ユニオン事件第一審判決


東京地裁昭和62年(ワ)第6311号損害賠償請求事件(本訴),昭和63年(ワ)第3020号同反訴請求事件


判        決

本訴原告・反訴被告      有限会社工友社(以下「原告会社」という。)
右代表者代表取締役      布   施     正
右訴訟代理人弁護士      渡  部   照  子
同              羽  鳥   徹  夫

本訴被告・反訴原告      株式会社テクニカル・ユニオン(以下「被告ユニオン」という。)
右代表者代表取締役      戸  倉   貴  史
右訴訟代理人弁護士      内  田   公  志
同              長   浜     隆
同              小  杉   丈  夫
同              松   尾     翼
同              谷  口   正  嘉
同              石  井  藤 次 郎

本 訴 被 告        日本電素工業株式会社(以下「被告電素」という。)
右代表者代表取締役      川  端   庄  造
右訴訟代理人弁護士      小  峰  長 三 郎

主        文

一 被告ユニオンは,原告会社に対し,金1441万0525円及びこれに対する昭和62年3月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

二 原告会社のその余の請求を棄却する。

三 被告ユニオンの請求を棄却する。

四 訴訟費用は,本訴反訴を通じ,原告会社に生じた費用の2分の1と被告ユニオンに生じた費用の2分の1を被告ユニオンの負担とし,原告会社に生じたその余の費用と被告電素に生じた費用を原告会社の負担とし,被告ユニオンに生じたその余の費用は被告ユニオンの負担とする。

五 この判決は,第一項,第四項に限り,仮に執行することができる。

事        実

第一 当事者の求めた裁判

  一 本  訴

1 請求の趣旨

(一) 被告ユニオン及び被告電素は,原告会社に対し,各自金5970万0620円及びこれに対する昭和62年3月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は,被告らの負担とする。

(三) 仮執行宣言

2 請求の趣旨に対する答弁

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

  二 反  訴

1 請求の趣旨

(一) 原告会社は,被告ユニオンに対し,金100万円及びこれに対する昭和63年3月18日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は原告会社の負担とする。

(三) 仮執行宣言

2 請求の趣旨に対する答弁

(一) 被告ユニオンの請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は被告ユニオンの負担とする。

第二 当事者の主張

  一 本  訴

1 請求原因

(一) 原告会社は,ロットリング日本株式会社(以下「ロットリング社」という。)代理店であり,数値制御システム支援ソフト開発及び販売,文字・図形パタンデータ作成及び販売,データ入力・各種トレース版下サービス等を業とする会社である。

(二) 被告ユニオンは,電子計算機及び関連機器の設計,製造,販売,サービス並びにソフトウェア(以下「ソフト」という。)のサービス等を業とする会社である。

(三) 被告電素は,集積回路,半導体,オフィスコンピュータ,パーソナルコンピュータ(以下「パソコン」という。),日本語ワードプロセッサ(以下「ワープロ」という。),ファクシミリその他のオフィスオートメーション機器の販売,ソフトの製作,販売等を業とする会社である。

(四) 原告会社は,被告電素の紹介で知った被告ユニオンとの間で,昭和61年3月27日ころ,トレース作業処理等の関連システムのためのパソコンのプログラム作成について,代金650万円,同年5月末日までにそのソフトを納入するとの約定で請負契約を締結し(以下「本件契約」という。),同年7月31日,本件契約代金のうち550万円を支払った。

(五) トレースとは,JISの製図規格に基づいて図面を書き改める作業であるが,それには読みやすく正確な図案化された文字を図面に書き込む作業が不可欠である。従来,この作業は手作業で行われていたが,原告会社は,パソコンによる右作業の機械化のシステムを考案し(以下「本件システム」という。なお,ロットリング社のNCスクライバー20という機械(以下「スクライバー」という。)は,ある程度,この機能を有する小型コンピュータを内蔵した機械であったが,漢字は書けなかった。本件システムは,パソコンに接続してその機械を利用しようとするものである。),このためのプログラム作成が本件契約の目的である。本件システムの具体的内容は,以下のとおりである。

 まず,原告会社が文字をデザインし,これをパソコンif800M60(以下「モデル60」という。)を用いてデータとして入力し,フロッピーディスク(以下「フロッピー」という。また,文字が入力されたフロッピーを「文字ファイル」という。)に記憶させる。文字ファイルに入力された文字は,句点コードあるいはかな漢字変換によって呼び出すことができ,さらに,呼び出した文字を並べて単語を作成し,フロッピーに記憶させることができる(単語が入力されたフロッピーを「単語並びファイル」という。)。そして,これをスクライバーにより印字する。
 本件システムの利用を希望する者(以下「ユーザー」という。)は,パソコンifCOM7(以下「コム7」という。)かモデル60を用い,原告会社からフロッピーの送付を受け,あるいはパソコンの電話回線による通信を利用して,文字ファイル及び単語並びファイルに入力されたデータを呼び出し,それぞれ作成した図面に印字する。この際,ユーザーにおいても,呼び出した文字や単語を並べて新たな単語を作ることができる。
 原告会社及びユーザーが入力された文字を用いて単語を作成する際には,一般のワープロと同様に,センタリングや右揃え等の編集を行うことができる。
 また,文字ファイルから,よく用いられる60字前後の文字をICカード(外部記憶装置の一種)に記憶させ(記憶させたものを「ビーカード」という。),ユーザーは,ビーカードをスクライバーに直接読み込ませて印字することができ,パソコンを操作しなくても常用の漢字について原告会社の入力した文字を利用することができる。

(六) 被告ユニオンは,当初予定された納期に完成したプログラムを納入することができず,以後も延び延びになっていったが,原告会社と被告ユニオンは,同年10月ころ,最終納期を同年12月28日とすることを合意した。

(七) 被告ユニオンは,原告会社に対し,同年12月25日にモデル60のワープロプログラムを,同62年2月17日にモデル60の文字デザインプログラムと印字プログラムを最終納入した。

 しかし,右最終納入されたプログラムを用いても,入力した文字から文字列を作成してスクライバーに出力することが全くできず,また,文字を入力する際にも,途中動作が止まって電源を一旦切らないと入力できなくなることがある,前消しをしても線が消えない,フロッピー初期化を行うのに46分40秒もかかる,作画枠設定(文字をデザインする範囲の設定)が100ミリ各四方しかできない,入力した文字を印字する際,印字の途中で動作が止まることがあるなどの不都合が生じ,なお,作成された文字列について,ワープロ機能であるセンタリング等もできないものであった。
 また,被告ユニオンは,原告会社に対し,コム7に関するプログラムを一切納入しなかった。

(八) 原告会社は,完全なプログラムを納入するよう求めたが,被告ユニオンは,同年2月25日,完成させることができないと回答した。

 そこで,原告会社は,納入されたプログラムには,重大な瑕疵があり,本件契約の目的を達成することができないので,被告ユニオンに対し,同年3月13日付書面にて,本件契約の解除と損害賠償を請求し,右書面は,同14日に被告電素に,同16日に被告ユニオンに到達した。

(九) 被告電素の責任

(1) 保証契約に基づく責任

 モデル60及びコム7は,沖電気工業株式会社(以下「沖電気」という。)の製品であり,被告電素は,沖電気の特約店としてこれを取り扱っている。被告電素は,原告会社に対して被告ユニオンを紹介したが,同61年3月27日ころ,原告会社との間で,被告ユニオンの本件契約上の義務について保証契約を締結した。
 また,被告電素は,同年9月ころ,原告会社が本件契約解除の意向を示した際にも,責任をもって被告ユニオンに本件契約を履行させるから本件契約を続行してほしいと要請し,改めて保証契約を締結した。

(2) 不法行為責任

 被告電素は,十分被告ユニオンの能力を調査しないまま,原告会社に対して技能優秀な会社であると紹介し,原告会社の支払った550万円のうち110万円を取得し,また,たびたび被告電素が責任をもって納期までにプログラムを完成させるといって,原告会社に対して本件契約を続行させたり,沖電気の「1987年OAフェア展」等のショーに本件システムを出展することを強く要請したりしながら,被告ユニオンに対して何ら指導せず漫然と対応し,本件の結果を招いた。

(一〇) 原告会社の被った損害は,以下のとおりである。

(1) 被告ユニオンに対して請負代金の内金として支払った550万円

(2) 原告会社は,本件システム開発に必要なハードウェア機材をそろえるため,以下のとおり出費した。

@ 被告電素に対し,モデル60,ビーボックス等のリース代金として312万6000円,コム7,ハードディスクドライブ,コム7用の5インチフロッピーディスクドライブ,コム7通信用の電話の買受代金として93万5800円

A テクノリサーチに対し,カード読取器50台の購入代金として60万円

B 東京日立情報株式会社に対し,図形作成用キャドの購入代金として30万円,デジタイザー3台の購入代金として121万8000円

C 桜井株式会社に対し,スクライバー5台の購入代金として150万円

D ロットリング社に対し,スクライバー及び関連機器の購入代金として772万7770円

(3) 広告宣伝費として,株式会社プリプラ21,株式会社クリエイティブバンク等8社に対し,合計金208万2070円

(4) 本件システム開発のため,人件費として先の@及びAの合計927万3055円を支払った。

@ 本件システム開発のため短期アルバイトとして雇った者5名に対し137万3220円

A 本件システム開発のため資料収集,デザイン文字作成の専従者として昭和61年1月新規採用し,同62年3月に退職した堤貴美子に対して給与として支払った231万7725円

B 本件システム開発のため一般事務職に従事する者として新規採用した布施ゆう子に対して,同61年1月から同62年2月まで給与として支払った218万2100円

C 原告会社代表者は,昭和60年10月から同62年2月の17か月にわたり,その業務の4割を本件システムの開発に関する仕事のために費やした。したがって,原告会社が同人に対して支払った右期間の役員報酬の4割に相当する340万円

(5) 得べかりし利益

@ 原告会社は,完成されたプログラムを含む本件システムをユーザーに対して販売する計画を有していたが,鹿児島ソフトサイエンスから,本件システム1式(コム7,スクライバーを含む。)を完成次第1式200万円で21式購入する旨の仮注文を受けていた。本件システム1式あたり100万円の利益が上がるから,少なくとも2100万円の利益が見込まれた。

A 原告は,ビーカードを使用するに際して用いるビーボックスという装置の販売を計画しており,右は少なくとも60台売却できたはずであり,かつ1台当たり11万円の利益が上がったはずなので,660万円の利益が見込まれた。

(一一) よって,原告会社は,被告ユニオンに対し,解除に基づく損害賠償請求として((一〇)(1)については,解除に基づく原状回復請求も含む。),被告電素に対し,保証契約に基づき,あるいは不法行為に基づく損害賠償請求として,各自金5970万0620円及びこれに対する履行請求の翌日である昭和62年3月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2 請求原因に対する認否

(一) 被告ユニオン

(1) 請求原因(一)のうち,原告会社が数値制御システム支援ソフト開発及び販売を業とする会社であることは否認し,その余は不知。

(2) 同(二),(三)は認める。

(3) 同(四)のうち,同61年3月27日に同年5月末日までにソフトを納入するとの合意があった事実は否認し,原告会社が550万円を支払った日時は不知,その余は認める。

(4) 同(五)のうち,同年3月27日合意された本件システムの内容に,文字列を作成する際に編集を行えること及びコム7でも文字列を作成できることが含まれていた事実は否認し,その余は認める。

(5) 同(六)のうち,原告会社と被告ユニオンが同年10月ころ,本件契約の期限を同年12月25日と合意した事実は認め,その余は否認する。

(6) 同(七)のうちフロッピー初期化に46分40秒かかる事実,前消しをしても線が消えないことがある事実,印字をする際に動作が止まることがある事実は認め,その余は否認する。
 フロッピーの初期化にどの位の時間がかかるかはパソコンの問題でプログラムの欠陥ではない。また,前消しをしても線が消えないのは,プログラムに欠陥があるのではなく,バグ(プログラム作成上のミス)を除去しきれていないことに原因があるものと思われる。また,印字する際に動作が止まるのは,スクライバーの制約によるものであってプログラムの欠陥ではない。
 また,仮に,原告会社が,被告ユニオンの納入したプログラムによって文字列を印字できなかったとしても,原告会社の操作ミス等の原因の可能性もあり,直ちにプログラムの欠陥とはいえない。

(7) 同(八)のうち,被告ユニオンがソフトを完成させることができないと回答した事実は否認し,その余は認める。

(8) 同(一〇)のうち,(1)の事実は認め,その余の事実は否認する。

@ 同項(2)ないし(4)は,仮に原告会社がこれらを支払ったとしても,これらは本件システム開発のための経費であるから,プログラムに瑕疵があったことと相当因果関係のある出費とは認められない。これらの支出は,得べかりし利益の算出において,経費として控除されるべき支出である。

A 同項(2)については,原告会社が現在使用,管理している設備及び機器の評価額を控除することなく売買代金等全額を損害と評価することはできない。

B 同項(2)のうちAないしDは,転売目的の機器購入費用であるが,これは予見不可能な特別損害である。また,転売目的の機材の購入は,通常プログラム完成前になされることではなく,右費用について因果関係の相当性は認められない。

C (5)の@は,原告が本件システムを売却する利益を挙げているが,本件契約上,プログラムの著作権は被告ユニオンが有しているから,プログラムを複製して売却する権利は原告会社にはなく,これを前提とした利益もあり得ない。
 また,同項(2)ないし(4)は,本件システムの売却を予定した支出と認められるので,右によれば,これらも不当な支出であり,損害賠償の対象とならない。

(二) 被告電素

(1) 請求原因(一)ないし(三)の事実は認める。

(2) 同(四)のうち,原告会社と被告ユニオンが,昭和61年3月27日ころ,パソコンによるトレース作業処理等の関連システムのためのプログラムについて請負契約を締結した事実は認め,その余は不知。

(3) 同(五)は不知。

(4) 同(六)は不知。

(5) 同(七)は否認する。

(6) 同(八)のうち,被告ユニオンが,プログラムを完成できないと回答した事実は否認し,その余は認める。

(7) 同(九)のうち,被告電素が原告会社に対して被告ユニオンを紹介した事実,110万円を受領した事実,原告会社がその主張のフェア等のショーに本件システムを出展した事実は認めるが,その余は否認する。

 被告電素が受領した110万円は,被告電素の営業行為に対する被告ユニオンからの報酬である。

(8) 同(一〇)の(1)の事実は認める。

(9) 同(一〇)の(2)のうち,被告電素が,原告会社から商品代金として93万5800円を受領した事実は認めるが,その余は不知。
 これらは,原告会社主張商品の代金ではなく,本件と関係のない商品の代金である。

(10) 同(一〇)の(3)ないし(5)の事実は否認する。 

3 被告らの主張

 昭和61年3月27日合意された内容は,コム7では原告会社の入力した文字又は単語を出力することしか予定しておらず,コム7で文字を並べて単語を作ることは考えられていなかった。また,単語を作る際にも,文字を呼び出して並べるという単純な機能だけで,編集を行う機能は予定されていなかった。
 被告ユニオンは,右当初の内容のプログラムを,同年6月ころ納入した。納入したからこそ,原告会社は550万円を支払ったのである。原告会社は,その後,システム全般にわたってさみだれ式に機能や仕様の追加変更を求め,このためにプログラムの完成が遅れた。同年10月ころ,原告会社との間で話合いがされた際,コム7で単語を作る機能と,単語を作る際に編集も行う機能を加えることと,右機能を加えたプログラムを同年12月28日限り納入することが合意された。
 被告ユニオンは,右合意された内容に対応するプログラムを,同年12月から同62年1月にかけて納入した。
 しかし,原告会社は,さらにプログラムの追加変更を求め,被告ユニオンが追加変更のための作業をしているうちに,突然,機材を引き上げてしまった。
 コム7のプログラムについては,同61年12月25日ころ納入した。ただし,単語を作成するためのプログラムは含まれていない。右プログラムは,モデル60で単語を作成するためのプログラム(編集機能を含む。)が完成してから,これをコム7用に変換する方法で作成することが予定されていたところ,モデル60用の右プログラムが,原告会社の仕様・機能の追加変更の要求のため完成に至らなかったので,コム7用に変換することもできなかったのである。

 以上のとおり,被告ユニオンは,その都度,原告会社との間で合意された内容を満たすソフトを納入しており,そのプログラムに瑕疵はない。

4 抗  弁

 仮にプログラムに瑕疵があった結果,原告会社が損害を被ったとしても,それは,原告会社が作成を依頼するソフトの仕様を十分特定せず,かつ,たびたび機能・仕様の追加変更を強引に求めたことによるところが大きい。したがって,過失相殺は免れない。

5 抗弁に対する認否

 否認する。

 原告会社は,始めから,本件システムの内容を十分特定,説明していたのに,被告ユニオンがこれを理解しなかったのである。

  二 反  訴

1 請求原因

(一) 原告会社は有限会社であり,被告ユニオンは株式会社である。

(二) 被告ユニオンは,原告会社との間で,昭和61年3月27日,本件契約(但し,納期を除く。)を締結した。

(三) 被告ユニオンは,原告会社に対し,昭和62年1月14日ころ,完成したソフトを納入した。

(四) しかし,原告会社は,本件契約代金のうち550万円を支払ったのみで,残金100万円の支払をしない。

(五) よって,被告ユニオンは,原告会社に対し,本件契約代金として金100万円及び反訴状送達の日の翌日である昭和63年3月18日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2 請求原因に対する認否

(一) 請求原因(一),(二),(四)の事実は認める。

(二) 同(三)の事実は否認する。

3 抗  弁

 原告会社は,納入されたプログラムに重大な瑕疵があり,本件契約の目的を達成することができないので,被告ユニオンに対し,同年3月13日付書面にて,本件契約を解除し,右書面は同14日に被告電素に,同16日に被告ユニオンに到達した。

4 抗弁に対する認否

 納入されたプログラムに重大な瑕疵があり,本件契約の目的を達成することができないとの事実は否認し,その余は認める。

第三 証  拠

<省  略>

理        由

第一 本  訴

一 まず,本件契約に関する経緯(請求原因(一)ないし(六)及び(八))についてみるに,同(二),(三)の事実,同(四)のうち,原告会社と被告ユニオンが,昭和61年3月27日ころ,パソコンによるトレース作業処理等の関連システムのためのソフトウエア作成について請負契約を締結した事実,同(八)のうち,原告会社が被告ユニオンに対し,同62年3月13日付書面にて本件契約の解除と損害賠償を請求し,右書面が同14日に被告電素に,同16日に被告ユニオンに到達した事実については,当事者間に争いがない。
 また,同(五)のうち,本件契約を締結した際,本件システムの内容に,モデル60で文字を入力できること,文字を呼び出して文字列を作成できること,ユーザーがコム7又はモデル60を用いて原告会社の入力した文字ファイル又は単語並びファイルから文字又は単語を呼び出して印字できること,ビーカードに約60文字を記憶させることが含まれていた事実は,原告会社と被告ユニオンとの間で争いがない。

 右争いのない事実,証拠<省略>によれば,以下の事実が認められる。

1 原告会社は,版下作成(ポスターやパンフレット等の印刷原稿を清書する業務),トレース(JISの製図規格に基づいて図面を書き改める作業)を主な業務とする有限会社である。

2 右業務では,作成した図面に正確で分かりやすい文字や記号,図形を書き入れる作業やレタリング(図面に合うようデザイン化された文字を書く作業)が必要であるが,従来,右作業は,高度の技術を有する者の手作業に委ねられていた。
 昭和54年ころ,ロットリング社から,スクライバーが発売され,文字や記号等を図面に書き入れる作業の一部を機械によって行うことができるようになった。スクライバーの内蔵コンピュータにはアルファベット,数字,よく使う記号や図形が記憶されており,キー操作によって使いたい文字等を選択し,スクライバーのアームに製図用ペンを取り付けて図面に印字することができる。右によって,熟練した技術を持たない者でも図面に文字等を書き入れることができるようになり,時間や手間も著しく短縮された。
 しかし,スクライバーには,漢字は入力されていなかったので,結局,漢字は従来通り手作業によって書き入れるしかなかった。

3 原告会社は,ロットリング社の販売代理店としてスクライバーを扱い,かつ,業務に使用していたが,ロットリング社の勧めもあり,原告会社の技術によってレタリングした漢字等をスクライバーで印字できるようにするシステムを開発することとした。
 スクライバーに内蔵したコンピュータでは記憶容量が足りず,JIS第一水準の約3000文字を記憶させることができないので,スクライバーにパソコンを繋いで文字を入力する必要があった。原告会社は,右のためのパソコンのプログラムの作成を依頼する業者を捜していたところ,同61年2月ころ,被告電素から,右プログラムを完成させることのできる業者であるとして被告ユニオンを紹介された。

4 原告会社代表者と被告ユニオンの担当者平野勝久(以下「平野」という。)は,数回打合せを重ね,原告会社代表者が作成してほしいプログラムの内容を説明した上で,被告ユニオンから原告会社に対し,同年3月7日付の見積書及び同18日付の仕様書が提出され,これに基づいて同27日ころ,本件契約が締結された。
 右段階で,本件契約の内容は,以下のプログラムを作成するものとして合意された(以下「バージョン1」という。)

(一) モデル60において,原告会社がデザインした文字の形状を座標値に置き換えて入力し,文字ファイルに記憶させるためのプログラム(入力したひとつひとつの字を印字する機能を含む。以下「文字デザインプログラム」という。)。文字ファイルには,個々の文字に番号(句点コードという。)を付け,JIS第一水準の約3000字を記憶させることができる。

(二) 文字ファイルに入力した文字から,約60文字をビーカード1枚に記憶させるためのプログラム(以下「ビーカードプログラム」という。)。
 なお,原告会社は,ビーカードを1度に5枚収納でき,しかも収納したカード間の選択をスイッチ操作によって行えるようにしたビーボックスという装置を考案した。ビーボックスは被告電素が作成し,原告会社が販売する計画だった。

(三) モデル60において,句点コードあるいはかな漢字変換を用いて,文字ファイルから複数の文字を呼び出して文字列を作成し,これを単語並びファイルに記憶させておき,印字するためのプログラム(以下「単語生成プログラム」という。)

(四) 原告会社からユーザーの使用するモデル60あるいはコム7に対して,電話回線を用いて文字フロッピー及び単語並びファイルに記憶された情報を伝達することができるようにするためのプログラム

(五) コム7において,単語並びファイルから入力した文字列を呼び出し,スクライバーに出力して印字するためのプログラム
 バージョン1は,原告会社がモデル60を使って文字及び単語を入力し,入力したデータをユーザーにフロッピーごと送付するか電話回線によって伝達し,ユーザーは,コム7を使って,受け取った文字又は単語のデータをスクライバーに出力して印字する,あるいは,原告会社は,ビーカードに文字を入力し,ユーザーは,これを直接スクライバーに出力して印字する,というシステムのためのプログラムを作成するという内容である。
 原告会社は,バージョン1に,コム7で使用できる単語生成プログラム及びコム7とモデル60で編集を行うためのプログラムが含まれていたと主張し,原告会社代表者はこれに沿う供述をしているが,被告ユニオンがこの段階で最終的に作成し原告会社の確認を受けた仕様書には,右プログラムの存在を示す記述は全くないことに照らすと,原告会社の当初の構想や希望はともかくとして,原告会社と被告ユニオンとの間でこれらのプログラムの作成が合意されたと認めることはできない。

5 被告ユニオンは,原告会社に対し,同年6月初めころ,文字デザインプログラムを納入し(以下「第1納入文字デザインプログラム」という。),原告会社は,7月31日,被告ユニオンに対して本件契約代金の内金として550万円を支払い,このうち,被告電素が被告ユニオンから紹介料110万円を受領した。なお,3月7日の被告ユニオンの見積りの段階では,文字デザインプログラムの納期は,同年4月15日,データ通信・交換プログラムの納期は,同年5月末日,その他の納期は,同年5月15日となっていた。
 被告ユニオンは,右納入後,原告会社の申入れに基づき,文字デザインプログラムの修正や機能の追加等の作業を行っていたが,同年9月ころ,原告会社は,プログラムの完成が遅れてしまったので本件契約を破棄したい旨を申し入れた。被告ユニオンとしても,原告会社からの苦情が多岐にわたり,その要求を十分把握できないでいたところもあったので,原告会社代表者と被告ユニオンの担当者土屋らは,同24日ころから同年10月21日ころまで何度か打合せ,作成すべきプログラムの内容と現在の履行状況を確認し,書面化した。右打合せのうち,何回かに被告電素も立ち会った(被告電素の社員中村四郎が同席した。)。原告会社と被告ユニオンは,右確認された内容に従って契約を続行することを合意し,同年12月16日,被告ユニオンから工程表(以下「第1工程表」という。)が提出された。右により確認された本件契約の内容は,以下のとおりである。(以下「バージョン2」という。)。

(一) 文字・図形デザインプログラムについて

 被告ユニオンは,バージョン1において合意された文字デザインプログラムの仕様・機能及び納入後原告会社が要求した仕様の変更や機能の追加のうち被告ユニオンが既に着手しているものを,12月1日までに完成させ納入する。なお,現在納入されているプログラムについて,文字ファイルに192文字しか記憶できないこと及び入力した個々の文字をスクライバーで印字できないことが確認され,被告ユニオンは,約3000文字記憶でき,かつ印字できるよう修正することを合意した。
 また,被告ユニオンは,原告会社の希望に従い,文字デザインだけでなく複数の文字の集合や非定形図のデザイン(以下「図形デザイン」という。)をする機能等を追加したプログラム(以下「文字・図形デザインプログラム」という。)を同年12月25日までに納入することを合意した。

(二) モデル60のワープロプログラムについて

 原告会社が,個々の文字を並べて単語を作成する際に,編集機能も希望していることが確認されたので,被告ユニオンは,単語生成機能に,複数行の単語の中心を揃える機能(センタリング),複数行の単語の右端又は左端を揃える機能等の編集機能を追加したプログラム(以下「ワープロプログラム」という。)を同年12月25日までに納入することを合意した。

(三) コム7ワープロプログラムについて

 原告会社が,コム7についても単語生成及び編集機能を希望していることが確認され,被告ユニオンは,コム7で単語生成及び編集を行うためのプログラム(以下「コム7ワープロプログラム」という。)を同年12月14日までに納入することを合意した。コム7ワープロプログラムが加わることによって,ユーザーが,原告会社の入力した文字あるいは単語を組み合わせて,自分の使いたい単語を自ら作成することができるようになる。

(四) 被告ユニオンは,同年12月25日までにすべてのプログラムを納入することを合意した。

6 被告ユニオンは,同年12月10日ころ,文字・図形デザインプログラムを納入し(以下,右納入されたプログラムを「第2納入文字・図形デザインプログラム」という。),同25日ころ,ワープロプログラムを納入した。
 右納入後,原告会社から被告ユニオンに対して,右納入されたプログラムで文字を入力していたところ,途中で操作が続けられなくなってしまうことがある等の強い苦情が申し入れられた。

7 同62年2月18,19日,池袋サンシャインシティにおいて沖電気OAフェア(以下「フェア」という。)が開催される予定になっていたが,同年1月末ころ,原告会社は,被告電素から本件システムをフェアに出展しないかと勧められた。これに対し,原告会社は,フェアに出展する条件として,出展する前に,少なくともフェアにおいて実演する途中で操作不能になる等の事態に陥らないよう文字・図形デザインプログラムを修正すること及び若干の機能の追加,画面上出される表示の変更等を求めた。被告ユニオンは,同年2月5日,原告会社の要望する機能の追加や仕様の変更をすべてフェアまでに完成させることは不可能であったので,原告会社との間で,そのうち期間的に可能な範囲を完成させてフェアに出展し,残った部分はフェアの後に完成させて納入することを合意した。また,原告会社は,被告ユニオンに対し,まだ納入されていないコム7ワープロプログラムを含めて本件プログラムの最終的な完成までの工程表の提出を再度求め,被告ユニオンは,同年2月5日,工程表(以下「第2工程表」という。)及び工程確認書を提出した。右工程表等では,文字・図形デザインプログラム,コム7ワープロプログラムを同年3月25日までに納入することになっていた。
 右合意に基づいて,被告ユニオンは,原告会社に対し,同年2月17日,文字・図形デザインプログラムを納入し(以下「第3納入文字・図形デザインプログラム」という。),原告会社は,右プログラムを用いてフェアに本件システムを出展したが,初日の午後の実演中,操作不能になり,実演を中止した。
 その後,原告会社代表者は,平野に対して,果たして第2工程表等のとおり3月25日までに完成したプログラムを納入することができるのかと問い合わせたところ,明確な返答が得られなかった。そこで,原告会社は本件契約を解除し,同年2月21日,被告ユニオンに預けていた機材を引き上げた。

 以上の事実が認められる。

二 納入されたプログラムの瑕疵の有無等(請求原因(七))

1 前記認定した事実によれば,被告ユニオンは,昭和61年12月16日の合意に基づき,バージョン2として,文字・図形デザインプログラムを除くプログラムを同年12月25日までに納入する義務を負い,また,文字・図形デザインプログラムについては,同日までに納入した第2納入文字・図形デザインプログラムについて,更に原告会社から苦情が寄せられていた操作中動作が止まる等の事態がないようにし,原告会社の要望のうち一部の機能の追加と仕様の変更をした上,フェア前日の同62年2月17日までに納入する義務を負っていたものと認められる。なお,前記認定によれば,被告ユニオンから原告会社に対して,同月5日ころ,第2工程表が提出されていた事実が認められるが,フェアの実演中に操作が止まったことや平野の対応等によって,原告会社が機材等を引き上げ,本件契約を解除した結果,右工程表に基づき2月17日以後に完成すべきとされたプログラム等についての合意も,右契約の解除により,一体として解除されたものと認めるのが相当である。

 したがって,以下,被告ユニオンの責任(不完全履行の特則というべき請負契約における瑕疵担保責任と解される。)の有無については,同61年12月25日に納入されたワープロプログラム(以下「最終納入ワープロプログラム」という。)と,同62年2月17日に納入された,第3納入文字・図形デザインプログラムが不完全なものであり,瑕疵があると認められるか(なお,被告ユニオンはバグとプログラム自体の欠陥を区別して主張するが,通常予定された使用をする際に合意された機能に支障を生じさせるようなバグが残っていた場合には,プログラムは不完全なものであると認めるのが相当である。)及び被告ユニオンが同年12月25日までにコム7ワープロプログラムを納入したと認められるか(この点は,これだけを取り上げれば,単なる債務不履行ともいえる。)を判断する。

 被告らは,第2納入文字・図形デザインプログラムがバージョン2に対する完成品であり,第3納入文字・図形デザインプログラムは,バージョン2に対し原告会社が求めた機能の追加や仕様の変更をする途中で,フェアに出展するため暫定的に納入したものであるが,その後被告ユニオンは原告会社が機材を引き上げたためにこれを完全なものにする機会を与えられなかったのであるから,仮に第3納入文字・図形デザインプログラムが不完全なものだったとしても,瑕疵があるとはいえない,と主張する。しかし,前記のとおり,被告ユニオンは,フェア出展に当たり,バージョン2に原告会社から要望されたうちの一部の機能追加と仕様の変更を加えた内容の限りでは完全な製品を納入することを合意したと認められるから,右被告らの主張は採用することができない。

 2 請求原因(七)のうち,第3納入文字・図形デザインプログラムについて,前消ししても線が消えないことがあること,フロッピーの初期化に46分40秒かかること,スクライバーによって印字している途中で動作が止まることがあることについては,原告会社と被告ユニオンの間では,争いがなく,被告電素との間では,弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。

 右争いのない事実,証拠<省略>によれば,次の事実が認められる。

 第3納入文字・図形デザインプログラムを使用すると,文字や図形を入力している際電源を一度切らないと入力が続けられなくなることがある事実,直線や円弧を印字する際動作が途中で止まってしまったり一部が欠けて印字されてしまったりすることがある事実,さらに,最終納入ワープロプログラムを用い,第3納入文字・図形デザインプログラムによって入力した文字から文字列を作成して印字しようとすると,スクライバーに出力できなかったり,印字できても,文字間隔がまちまちで文字と文字が重なって印字されてしまったり,文字列が真っ直ぐに並んで印字されなかったりすることがある事実が認められる(なお,最終ワープロプログラムを納入する際の被告ユニオンの説明が不十分だったため,原告会社は,当初ワープロプログラムの操作方法を十分理解できず,作動させることができなかったが,右は,正しい操作方法に基づいて操作した結果である。)。この認定に反する証人平野の供述は,前掲各証拠に照らし,たやすく採用することができない。なお,作画枠を100ミリメートル四方しか設定できないことを認めるに足りる的確な証拠はない。
 右のうち,初期化に46分40秒かかることについては,前記認定によっても,原告会社と被告ユニオンとで初期化の時間についてなんらかの合意をしたものではないし,また,弁論の全趣旨によれば,初期化に時間がかかるとしても,複写の方法を用いればデータフロッピーを短時間で作成できることが認められるから,これをプログラムの欠陥であるということはできない。
 しかし,その他の点は,被告ユニオンが納入すべき文字・図形デザインプログラム及びワープロプログラムの内容に反するから,第3納入文字・図形デザインプログラム及び最終納入ワープロプログラムは,不完全なもので,瑕疵があると認められる。
 被告ユニオンは,プログラムを用いて操作に支障が生じるとしても,それには種々の原因が考えられ,右事実からプログラムの欠陥を認定することはできない旨主張するが,本件契約の際に前提とされた機材等を用いて,被告ユニオンの指示する操作方法に従ったにもかかわらず,前述のように,しばしば操作に支障が生じる場合には,十分な根拠に基づいて他の原因が示されない限り,被告ユニオンの作成したプログラムに欠陥があると認定することが合理的である。

 右について更に被告ユニオンの具体的な主張を検討すると,まず,被告ユニオンは,印字に支障があるとしても,これはスクライバーの制約によるものであってプログラムの欠陥ではないと主張し,確かに証拠<省略>によれば,スクライバーでは極端に直径の大きい円弧は印字できないことが認められるが,右主張は直線についても印字に支障がある事実を十分説明するものではない。
 また,被告ユニオンは,2月17日に納入したプログラムは,図形デザインプログラムであって,ワープロプログラムによって文字列を作成することを予定していないから,第3納入文字・図形デザインプログラムで入力した文字から文字列を作成して印字できなくても,最終納入ワープロプログラムが不完全とはいえないと主張するようであるが,前記認定のとおり,図形をデザインする機能が付加されたのは昭和61年10月ころであり,同62年2月17日までに納入することが合意されたプログラムは,第2納入文字・図形デザインプログラムに機能追加と仕様の変更を加えたプログラムであるから,右主張は採用することができない。

 その他,データフロッピーに入っていた他のデータが原因となってスクライバーに出力できなかった等の被告ユニオンの主張も,いずれも十分な根拠に基づくものとは解されず,前記認定を覆すには至らない。結局,第3納入文字・図形デザインプログラムは不完全なもので瑕疵があると認められる。
 また,被告ユニオンが,原告会社に対し,同61年12月25日までにコム7ワープロプログラムを納入したかどうかについては,証人平野はこれに沿うかのような供述をするが,これを否定する証拠<省略>に照らし,たやすく採用することができず,他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。

 したがって,被告ユニオンの納入したプログラムには,全体として重大な瑕疵があるといえ(一部は未納入),前記認定の機械引上げに至る経緯及び後記認定の同種のシステムの開発状況も併せ考えると,原告会社は本件契約を締結した目的を達成することができないと解されるから,本件契約を解除し,被告ユニオンに対し,損害賠償を請求することができるというべきである。

三 損  害

1 請求原因(一〇)について

 請求原因(一〇)のうち,原告会社が被告ユニオンに対して本件契約代金のうち550万円を支払った事実については,当事者間に争いがなく,原告会社が被告電素に対して商品の購入代金として93万5800円を支払った事実については,原告会社と被告電素との間で争いがない。

 右争いのない事実,証拠<省略>によれば,以下の事実が認められる。

(一) 原告会社は被告ユニオンに対して本件契約代金として550万円を支払った。

(二) 本件システム開発費用

(1) 機材の購入費等

 原告会社は,日本信販株式会社に対し,モデル60のリース料金として合計217万2000円,コム7のリース料金として95万4000円を,被告電素に対し,モデル60の関連機材,5インチフロッピー,ビーボックス,ビーカード,EEと呼ばれる市販のソフト(ワープロプログラムと組み合わせて用いられる。)等の購入代金として合計93万5800円を,東京日立情報機器株式会社に対し,デジタイザー(文字を入力する際に使う機器)購入のため41万7200円を支払った。
 前記認定した原告会社の業務及び本件契約の経緯に照らすと,右機材は本件システムの開発ないし製品化のために購入したものと認めることができる。
 以上の出捐の合計額は447万9000円である。

 なお,右のほか,原告会社が,テクノリサーチに対しICカード読取器50台の購入代金として60万円を,東京日立情報株式会社に対し図形作成用キャド購入代金として30万円を,スクライバー購入代金として,ロットリング社に対し772万7770円,桜井株式会社に対し149万9200円を支払った事実が認められるものの,ICカード読取器及び図形作成用キャド購入代金が本件システムの開発や製品化のため具体的にどう必要かは,原告会社の主張自体明らかでないし,右必要を認めるに足りる証拠もない。また,前記認定のとおり,原告会社が,スクライバーを通常の業務に使用しロットリング社の代理店として販売していること,スクライバーは本件システムが完成しなくては販売できないものではないことに照らすと,原告会社がスクライバーを購入したからといって,直ちに本件システムの開発又は製品化のためだけに購入したとは認められず,また,これが利用価値のないものとはいえない。

 したがって,これらの出捐は,いずれも,直ちに本件システムの開発及び製品化のための出捐とは認め難く,また,損害とも結びつかない。

(2) 広告宣伝費

 原告会社は,ビーボックスの広告作成代金として株式会社プリプラ21に対し36万4615円,フェアの案内状の印刷代金として株式会社クリエイティブバンクに対し3万5000円,宣伝用の印字代金等として,ユニオン企画に12万7000円,株式会社トレールに9万4000円を支払い,また,昭和61年7月4日から同6日まで開催された「伸びゆく軽印刷展」に本件システムを出展するため21万1400円を,「オートテック86」に出展するため35万0055円を支出した。
 右合計は,118万2070円である。

 なお,原告会社は,右に加え,「伸びゆく軽印刷展」出展のための諸経費として20万円,「オートテック86」出展のための小間代や諸経費として64万円,「ハイテック東京」出展のための諸経費として20万円,「メカトロニクスフェア」出展のための諸経費として10万円を支出したと主張し,証拠<省略>にはこれに沿う記述があるが,領収書等の裏付けとなる証拠がなく直ちに採用することができず,他に右支出を認めるに足りる証拠はない。

(3) 人件費

@ 原告会社は,昭和61年1月,デザイン文字作成の専従者として堤貴美子を雇い入れ,同人は同62年3月に退職した。原告会社は同人に対し,給与及び交通費として,合計231万7725円支払った。

A 原告会社は,堤貴美子の補助者としてデザイン文字作成の仕事をしてもらうために,石井宏子をアルバイトとして雇い,同人に対し,昭和61年1月から同62年2月までの間,給与及び交通費として,合計93万1730円支払った。
 右合計は,324万9455円である。

 なお,原告会社は,短期アルバイトとして雇った者に対して給与及び交通費として44万1490円を支払った事実,布施ゆう子に対して同61年1月から同62年2月までの給与(時間給)として合計218万2100円を支払った事実が認められるが,しかし,短期アルバイトとして雇われた者や,原告会社の一般事務に従事していた布施ゆう子が,どの程度本件システム開発のために必要であり,また,具体的にどのような仕事に従事していたのかは,原告会社の主張自体においても明らかでなく,右を認定すべき証拠もない。また,原告会社は,原告会社代表者に対して支払われた給与の4割相当額340万円を損害として主張するが,右は固定給として支払われたものであるから,本件システム開発のためにした支出とは認められない。

(4) 以上によれば,原告会社が本件システム開発のためにした支出の合計額は,891万0525円であると認められる。

 本件契約が,そもそもコム7に関するプログラムや通信のためのプログラム等,広くユーザーに本件システムを利用させることを予定したプログラムを目的としていることに照らすと,原告会社が本件システムを販売する計画に基づいて前記出捐をすることは,本件契約から通常予定されるところと認められる。また,前記認定の本件の経緯に照らせば,原告会社が当初から本件システムを将来販売等する計画で開発し,かつ,被告ユニオンも原告会社の右計画を知っていたことは明らかである。そして,原告会社は,右計画に基づいて前記出捐をしたものの,前記瑕疵等のため本件契約を解除して右計画の断念を余儀なくされ,販売等の収益を得て(後記認定のとおり,ある程度の販売が見込まれた。)開発費用を回収する機会を奪われたのであるから,右出捐は,これと相当因果関係を有する損害と認められる。

 なお,被告らは,請求原因(一〇)の(2)の機材の購入費について,原告会社は機材を保管,使用できる利益があるので,購入費自体は損害にならないと主張するが,前記認定の原告会社の業務に照らせば,原告会社に右機材を保管,使用する利益があるとは認められないので,被告らの主張は採用することができない。
 また,証拠<省略>によれば,確かに,被告ユニオンが本件システム(プログラム)の著作権を有している事実が認められるが,被告ユニオンが承諾すれば本件システムを販売できるのであるし,被告ユニオンが原告会社の前記販売計画を知った上でプログラムを作成していたことは前記認定のとおりであるから,直ちに原告会社が将来本件システムを販売することができないとはいえない。まして,被告ユニオンが著作権を有しているからといって,原告会社が本件システムの販売を見越して前記出捐をすることが本件契約から通常予定されるところでないということはできず,右事実は前記認定を左右するものではない。

(三) 得べかりし利益について

(1) 請求原因(一〇)(5)@について

 原告会社は,コム7,スクライバー,ビーボックス各1台,ビーカード5枚にユーザーのための作画入力サービスをセットして,ロットリングNCスクライバーifシステム(以下「ifシステム」という。)として販売することを計画し,昭和61年12月22日,鹿児島ソフトサイエンスというグループから,ifシステムを21組,代金1組200万円にて購入するとの仮注文を受けた事実が認められる(なお,原告会社は,右仮注文を受けた以外にもifシステムは1000組以上販売できたようにも主張するが,これを認めるに足りる的確な証拠はない。)。
 原告会社は,右販売代金のうち,1組100万円の利益が見込まれたと主張する。しかし,右売却による純利益とは,販売代金から,右システムに含まれる機材の仕入れ価格,本件システム開発のための諸経費(前記認定のとおり既に支出した費用のほか,本件システムを完成させるために更に見込まれる費用も含む。),本件契約代金,ifシステムの販売活動のため必要とされる諸経費,ifシステムに含まれる作画入力サービスのために必要な経費等を差し引いた額をいうと解されるところ,原告会社の右主張は,どのように利益を算出したものなのか主張自体も判然としない上に,前記認定のとおり,既に開発のための諸経費として少なくとも891万0525円を支出としており,元来,被告ユニオンに対し既に支払った550万円のほか100万円を支払うべきことになることや弁論の全趣旨によれば,後記認定のように,同種のシステムの開発が他社によっても計画されていたことが窺われることなどに照らすと,右代金からすべての諸経費を差し引いて,更にどの程度の具体的な利益があるといえるのか,これを認定することは困難であるといわざるをえない。そして,他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(2) 同項(5)Aについて

 証拠<省略>によれば,昭和61年2月ころ,被告電素が,ビーボックスを60台販売できるとの見込みを述べている事実(但し,約束はできないとも述べている。)が認められるが,右は開発前の見込みに過ぎない上に,証拠<省略>によれば同年11月ころ既にマックス株式会社が漢字4386文字を含む文字・記号を印字できる機械を発売したことが認められ,右に照らすと,本件契約において最終的に本件システムが完成すべき期限として合意された昭和62年2月17日の時点において,ビーボックスが何台販売できたかを認めるに足りる的確な証拠はないといわざるをえず,また,ビーボックス1台当たりいくらの利益が見込まれるかについての証拠もない。

 したがって,原告会社の主張する得べかりし利益を認めることはできない。

2 被告主張の抗弁について

 前記認定した本件の経緯によれば,昭和61年3月に本件契約を締結した時点では,原告会社と被告ユニオンとの間に本件契約で完成させるべきプログラムの内容に理解の食違いがあったものの,被告ユニオンと原告会社は,同年10月の時点で作成すべきプログラムの内容を確定しており(文字・図形デザインプログラムについては,同62年2月5日に再度確認している。),被告ユニオンは,右確定された内容のプログラムを納入することができなかったのであるから,原告会社がプログラムの内容を十分特定せず,たびたび仕様の変更を求めたことによりプログラムの完成が阻害されたとの被告らの主張は(これを民法636条の主張と解するとしても),採用することができない。

3 以上によれば,原告会社が前記瑕疵により本件契約を解除せざるを得なくなり,その結果被った損害は1441万0525円であると認められ,被告ユニオンは,これを賠償する責任を負う。

四 被告電素の責任(請求原因(九))

 請求原因(九)のうち,被告電素が原告会社に対して被告ユニオンを紹介した事実,原告会社が被告ユニオンに対して支払った契約代金550万円のうち110万円を受領した事実,原告会社が本件システムをフェア等に出展した事実は,当事者間に争いがない。

 また,被告電素が原告会社に対し,本件プログラムを完成させる能力を有する業者として被告ユニオンを紹介したこと,本件システムに使用するモデル60及びコム7が被告電素が沖電気の特約店として扱う商品であること,被告電素が受領した110万円は被告ユニオンから本件契約に関し,紹介料として交付を受けたものであること,昭和61年9,10月ころ原告会社と被告ユニオンとが話合いをしたうちの何回かに被告電素の社員も立ち会っていること,被告電素が原告会社に対しフェアへの出展を勧めたことは,前記認定のとおりである。

 原告会社代表者は,被告電素は,被告ユニオンを原告会社に対して紹介する際,同年9月ころ原告会社が契約を解除する意向を示した際及びフェアへの出展の話が出た際,原告会社に対し,被告ユニオンが本件プログラムを完成させるように被告電素が責任をもって監督,指導する旨を述べたことや,被告電素が原告会社に対しフェアへの出展を強く要請したと供述するが,証人平野及び同中村四郎はこれを否定する供述をしており,原告会社代表者の右供述はにわかに採用することができず,他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

 右事実に照らすと,被告電素は,あくまでも被告ユニオンを原告会社に紹介し,本件システムに関し,被告電素の扱うモデル60やコム7を販売するという立場の限度で,本件契約にかかわっていたに過ぎず,被告電素が原告会社と本件契約について保証契約を締結したという事実を認めることはできず,また,本件証拠上,被告電素に違法,不当な行為があったとは,到底認めることができない。他に原告会社主張の事実を認めるに足りる証拠はない。

 なお,仮に,被告電素の社員が,前記認定の経緯の中で被告ユニオンを監督,指導して責任を持つかのような発言をしたことがあったとしても,右事実から直ちに,被告電素が原告会社に対し,被告ユニオンの本件契約上の責任ひいては瑕疵担保責任を負う旨を合意したとまで認めることはできない。

 したがって,いずれにせよ原告会社の被告電素に対する保証契約に基づく請求,不法行為に基づく請求は,いずれも理由がない。

第二 反  訴

 反訴請求原因(一),(二),(四)の事実については当事者間に争いがない。

 同(三)については,本訴において認定したとおり,被告ユニオンが,原告に対し,本件契約の履行として,文字・図形デザインプログラム及びワープロプログラムを納入した事実が認められる(但し,コム7ワープロプログラムについては未納入)。

 反訴抗弁については,本訴において認定したとおり,右納入された文字・図形デザインプログラム及びワープロプログラムには瑕疵があり,本件契約を締結した目的を達成することができず,このため,原告会社は,本件契約を解除したものと認められる。

 したがって,被告ユニオンの原告会社に対する請求は理由がない。

第三 結  語

 よって,原告会社の本訴請求は,被告ユニオンに対し金1441万0525円及びこれに対する昭和62年3月17日から支払済みまでの年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し,原告会社のその余の請求及び被告ユニオンの反訴請求は理由がないのでこれを棄却することにし,訴訟費用の負担について民事訴訟法89条,92条本文,93条1項但書 ,仮執行宣言につき同法196条を各適用して主文のとおり判決する。

 

裁 判 長  裁 判 官   浅  野   正  樹 

       裁 判 官   小   川     浩

       裁 判 官   岡  部   純  子

 


Copyright (C) 1998-2001 Takato Natsui, All rights reserved.

Published on the Web : Mar/18/1998

Error Corrected : May/28/2001

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