株式会社エポック社対株式会社バンダイ事件第一審判決


東京地裁平成6年(ワ)第10276号損害賠償請求事件


ロ頭弁給終結の日 平成10年10月9日

判      決

原        告   株式会社エポック社
右代表者代表取締役    前  田   竹  虎
右訴訟代理人弁護士    内   田     実
同            椙  山   敬  士
右訴訟復代理人弁獲士   堀  井   敬  一
右補佐人弁理士      羽  村   行  弘

被        告   株式会社バンダイ
右代表者代表取締役    山   科     誠
右訴訟代理人弁護士    柳  瀬   康  治
同            金  丸   精  孝
同            千  葉   道  則
右補佐人弁理士      高  田   修  治

主      文

一 被告は,原告に対し,金1億1418万0160円及びこれに対する平成6年6月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

二 原告のその余の請求を棄却する。

三 訴訟費用は,これを2分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。

四 この判決は,第一項に限り,仮に執行することができる。

事 実 及 び 理 由

第一 請  求

被告は,原告に対し,金2億6400万円及びこれに対する平成6年6月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要

一 争いのない事実等

1 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許請求の範囲第1項に係る発明を「本件特許発明」という。)を有している。

特許番号    第1961761号

発明の名称   力−ドゲーム玩具

出願日     平成元年12月22日

公開日     平成3年8月22日

公告日     平成5年5月10日(平5-30475)

登録日     平成7年8月25日

特許請求の範囲 別紙特許公報(以下「本件公報」という。)の特許請求の範囲記載のとおり。

2 本件特許発明の構成要件を分説すると,次のようになる(以下「構成要件A」などという。)。

A 必要なデータをバーコード表示したカードのバーコード読取手段を有すること

B 該読取手段で読み取った対戦データを記憶する記憶手段を有すること

C 該記憶手段で記憶された対戦データのうち,一方を攻撃側,他方を守備側とする先攻判定手段を有すること

D 前記データに従ってカードを対戦させるときに攻撃側が押す攻撃キーを有すること

E 該攻撃キーを押したときに守備側力−ドのダメージを計算する計算手段を有すること

F 該計算手段で計算されたダメージと守備側力−ドのデータとで計算し生存を判定する生存判定手段を有すること

G 該生存判定手段による判定結果を表示する勝敗表示手段を有すること

H カードゲーム玩具であること

3 本件特許発明の効果は,次のとおりである(甲1)。

「カードとカードとの攻撃防御の判定がテンポがよく,迅速,的確に出されろために,対戦に緊迫感があり,しかも戦術性や判定の公平性があるなどの優れた効果を奏するものである。」

4 被告は,平成4年7月から,別紙物件目録記載のカードゲーム玩具(以下「イ号物件」という。)を製造し,同年8月から販売していた。

5 イ号物件の構成は,次のとおりであった(以下「構成a」などという。)。

a 必要なデータをバーコード表示したカードのバーコード読取手段を有し,

b 該読取手段で読み取った対戦データを記憶する記憶手段を有し,

c 各プレイヤーは,攻撃するのかディフェンス(攻撃をせず生命力・守備率・命中率の向上をはかる。以下同じ。)するのかを,自らの自由な意思により選択することができるが,その選択をいずれのプレイヤーが先に行うのかを判定する選択順番判定手段を有し,

d 前記データに従ってカードを対戦させるときに,前記選択順番判定手段に基づいて決定された選択順番に従って,それぞれのプレイヤーが順次選択する,攻撃選択キー及びディフェンス選択キーを有し,両プレイヤーが攻撃を選択するか,又はいずれか一方のプレイヤーが攻撃を選択し他方のプレイヤーがディフェンスを選択した場合に,いずれかのプレイヤーが押す戦闘開始キーを有し(両プレイヤーがいずれもディフェンスを選択した場合には戦闘開始キーを押す必要はなく,cに戻る。)。

e 該戦闘開始キーを押したときに,両プレイヤーがいずれも攻撃を選択した場合は互いに攻撃を受けた側の,一方のプレイヤーが攻撃を選択し他方のプレイヤーがディフェンスを選択した場合はディフェンスを選択した側(攻撃を受けた側)のカードのダメージを計算する計算手段を有し,

f 該計算手段で計算されたダメージと,両プレイヤーがいずれも攻撃を選択した場合は互いに攻撃を受けた側の,一方のプレイヤーが攻撃を選択し他方のプレイヤーがディフェンスを選択した場合はディフェンスを選択した側(攻撃を受けた側)のカードのデータとで計算し,生存を判定する生存判定手段を有し,

g 該生存判定手段によって,少なくともプレイヤーのいずれか一方の生存を否定する判定結果が出た際,ゲームを終了させ,判定結果を表示する勝敗表示手段を有し,

h 該生存判定手段によって,いずれのプレイーヤーの生存も肯定されたときには,cに戻り,該生存判定手段によって,少なくともプレイヤーのいずれか一方の生存が否定されるまで,以後の手順が繰り返される手段を有する

i カードゲーム玩具

(一) 本件特許の出願時及び公開時における特許請求の範囲第1項は次のとおりであった。

「必要なデータをバーコード表示したカードのバーコード読取手段と,そのデータに従ってカードを対戦させ,攻撃側が攻撃キーを押したときに守備側力−ドのダメージの計算と生存を判定する生存判定手段と,勝敗表示手段とを備えたことを特微とするカードゲーム玩具」

(二) 原告は,被告に対し,平成4年5月25日に到達した書面によって,被告が製造販売を予定している「スーパーバーコードウォーズ」は,右出願及び公開された原告の発明に抵触する旨の警告(以下「本件警告」という。)をした。

(三) 原告は,平成4年12月16日,手続補正書を提出して,特許請求の範囲第1項を本件公報特許請求の範囲第1項のように補正した(以下「本件補正」という。)。

二 本件は,原告が,被告に対し,特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律116号)による改正前の特許法65条の3第1項に基づく補償金請求として,2億6400万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案であり,争点は,次の各点である。

1 イ号物件が本件特許発明の技術的範囲に属するかどうか

2 本件特許には無効事由があるから本件特許権の行使は権利濫用であるかどうか

3 被告には先使用権があるかどうか

4 本件警告の有効性

5 補償金の額

三 争点1(イ号物件が本件特許発明の技術的範囲に属するかどうか)について

1 原告の主張

(一) 構成a,b,iが,それぞれ構成要件A,B,Hを充足することは明らかである。

(二) 構成要件Cについて

構成要件Cの「攻撃側」は,先に攻撃をなし得る側,すなわち先に攻撃キーを押すことができる側を意味し,「先攻判定手段」は,どちらが先に攻撃をなし得る側になるかを判定するものである。イ号物件では,選択順番判定手段によって,いずれのプレイヤーが,先に,攻撃するのかディフェンスするのかの選択を行うことができるかの判定を行い(構成c〉,右選択に際して攻撃を選択したプレイヤーは攻撃選択キーを押すことになる(構成d)ところ,イ号物件の攻撃選択キーは,構成要件Dの「攻撃キー」に当たるから,イ号物件は,どちらが先に攻撃キーを押すことができるかを判定する手段を有している。したがって,イ号物件は,「先攻判定手段」を有しており,構成要件Cを充足する。

(三) 構成要件Dについて

イ号物件の攻撃選択キー(構成d)は,構成要件Dの「攻撃キー」に他ならないから,イ号物件は,構成要件Dを充足する。

仮に,攻撃選択キーのみでは構成要件Dの「攻撃キー」といえないとしても,イ号物件の攻撃選択キーと戦闘開始キー(構成d)を合わせたものが,構成要件Dの「攻撃キー」に該当する。

(四) 構成要件Eについて

イ号物件では,右攻撃選択キーが押された後に(又は右攻撃選択キーが押され,その上戦闘開始キーが押されたときに)攻撃を受けた側のカードのダメージが計算される(構成e)から,構成要件Eの「計算手段」を有しており,構成要件Eを充足する。

(五) 構成要件Fについて

イ号物件では,計算手段で計算されたダメージと,攻撃を受けた側のカードのデータとで計算し,生存を判定する生存判定手段を有している(構成f)から,構成要件Fを充足する。

(六) 構成要件Gについて

イ号物件では,生存判定手段によって,少なくともプレイヤーのいずれか一方の生存を否定する判定結果が出た際,ゲームを終了させ,判定結果を表示する勝敗表示手段を有している(構成g)から,構成要件Gを充足する。

2 被告の主張

(一) 構成要件Cについて

(1) 構成要件Cの「攻撃側」は,攻撃を行う側,「守備側」は,攻撃を行わず守備のみを行う側を意味し,「先攻判定手段」は,各プレイヤーのいずれが「攻撃側」に,いずれが「守備側」になるかを判定するものである。これに対し,イ号物件では,各プレイヤーは,攻撃するかディフェンスするかの選択を行うことがてき,選択順番判定手段は,そのような選択をいずれのプレイヤーが先に行うことができるかを判定するものであるから,攻撃を行う側と守備のみを行う側を判定するにすぎない「先攻判定手段」とは異なるものである。

 また,本件特許発明では,「先攻判定手段」によって攻撃側が決まった時点でダメージ計算の結果は論理的に確定していることになるが,イ号物件では,選択順番判定手段によって,プレイヤーが,攻撃するかディフェンスするかの選択を行う順番が決まっただけでは,ダメージ計算の結果は確定しない。イ号物件において,先に選択した側が攻撃を行い,後に選択した側がディフェンスを行うという例を考えると,先に選択した側が攻撃選択キーを押して攻撃力が確定し,後に選択した側がディフェンスキーを押して,守備率等が確定して初めてダメージ計算の結果が確定する。このように,本件特許発明の「先攻判定手段」は,イ号物件の選択順番判定手段とは異なっている。

 さらに,本件特許の出願時に,「LSIGAMEカードベースボール熟血スタジアム」というゲーム(以下「カードべースボール」という。)と「シミユレーションゲームSDガンダム大決戦」というゲーム(以下「SDガンダム」という。)が既に発売されていたが,本件特許発明の構成要件のうら,構成要件A,Cは,カードベースボールに存し,構成要件Cの「攻撃側」を先に攻撃をなし得る側,「先攻判定手段」をどららが先に攻撃をなし得る側になるかを判定するものと解した場合の,構成要件BないしHは,SDガンダムに存し,それらを組み合わせることは,当業者にとって極めて容易に推考することができたものである。したがって,構成要件Cの「攻撃側」を先に攻撃をなし得る側,「先攻判定手段」をどちらが先に攻撃をなし得る側になるかを判定するものと解すると,本件特許は無効であるということになるから,そのように解することはできず,被告の右主張のように解さなければならない。

(2) イ号物件では,先に選択することができるプレイヤーが,攻撃を選択したとしても,後に選択するプレイヤーも攻撃を選択すれば,攻撃は同時に行われるから,先に攻撃をなし得るということはない。したがって,仮に,構成要件Cの「攻撃側」が,先に攻撃をなし得る側を意味し,「先攻判定手段」が,どちらが先に攻撃をなし得る側になるかを判定するものであるとしても,イ号物件は,それらものを備えていない。

(3) 後記四1(一)の出願経過からすると,構成要件Cは,「対戦データに従って,一方を攻撃側,他方を守備側とする先攻判定手段」と解さなければならない。イ号物件では,対戦データとは関係なく選択順番の判定を行っているから,構成要件Cを充足しない。

(二) 構成要件Dについて

 構成要件Dの「攻撃キー」は,対戦データが入力され,一方を攻撃側,他方を守備側とする先攻判定手段による判定が行われた後に,攻撃側によって押されるものである。これに対し,イ号物件では,「戦闘開始キー」によって攻撃が開始されるが,「戦闘開始キー」は,対戦データが入力され,選択順番手段によって選択の順番が判定され,その順番に従って,各プレーヤーが攻撃又ディフェンスを選択した後に,押されるもので,攻撃を選択したプレーヤーのみならず,ディフェンスを選択したプレーヤーも押すことができる。このように,イ号物件の「戦闘開始キー」は,構成要件Dの「攻撃キ‐」とは異なっており,イ号物件は,構成要件Dを充足しない。

(三) 構成要件E,Fについて

 構成要件Eの「計算手段」では,守備側のダメージのみを計算するし,構成要件Fの「生存判定手段」では,守備側の生存のみを判定する。しかし,イ号物件においては,両プレイヤーがいずれも攻撃を選択した場合には,攻撃を行ったプレイヤーのダメージを計算し,その生存を判定するから,構成要件E,Fを充足しない。

(四) 構成要件Gについて

 構成要件Cでは,生存の判定は,勝敗の判定に結びついており,生存の判定によって必ず勝敗の判定が行われ,それが表示される。いいかえるならば,本件特許発明は,一回だけ対戦するゲームであるといえる。これに対し,イ号物件は,対戦を繰り返すゲームであり,生存判定手段によって,少なくともプレイヤーのいずれか一方の生存を否定する判定結果が出なければ,勝敗は判定されず,それが表示されることはない。したがって,イ号物件は,構成要件Gを充足しない。

(五) 構成要件Cの「攻撃側」を先に攻撃をなし得る側,「先攻判定手段」をどららが先に攻撃をなし得る側になるかを判定するものと解した場合には,右(一)(1)のとおり,本件特許発明は,その出願前に発売されたカードベースボール及びSDガンダムから容易に推考することができたものであるから,本件特許発明の技術的範囲に属さない。

四 争点2(本件特許には無効事由があるから本件特許権の行使は権利濫用であるかどうか)について

1 被告の主張

(一) 本件特許の出願当初の明細書及び図面には,「記憶手段で記憶された対戦データに従って,一方を攻撃側,他方を守備側とする先攻判定手段を有すること」しか記載されていない。ところが,原告は,本件補正によって,「記憶手段で記憶された対戦データのうち,一方を攻撃側,他方を守備側とする先攻判定手段を有すること」という構成要件(構成要件C)を付け加えた。この構成要件は,「対戦データに従って,一方を攻撃側,他方を守備側とする先攻判定手段」のみならず,「対戦データと関係なく,一方を攻撃側,他方を守備側とする先攻判定手段」を含むから,本件補正は,この点において,要旨を変更するものである。

 原告は,本件補正によって,「生存判定手段による判定結果を表示する勝敗表示手段を有すること」という構成要件(構成要件G)を付け加えたが,この構成要件は,前記三2(四)のとおり生存判定手段による判定によっで勝敗が必ず決まることを意味している。ところが,本件特許の出願当初の明細書には,生存判定手段による判定がされても,守備側力−ドの生命力(HP)が零でないときは,勝敗が決まらない旨の記載があり,この明細書の記載によると,生存判定手段による判定によって勝敗が必ず決まるとはいえない。したがって,本件補正は,この点においても,要旨を変更するものである。

 そして,本件補正が要旨の変更に当たり認められないとすると,本件特許の出願は,本件補正の時点においてされたものとみなされるところ,その時点においては,本件特許発明は,本件特許に関する公開公報の発行により,新規性,進歩性を失っているから,無効である。

(二) 構成要件Cの「攻撃側」を先に攻撃をなし得る側,「先攻判定手段」をどららが先に攻撃をなし得る側になるかを判定するものと解した場合には,前記三2(一)(1)のとおり,本件特許発明は,その出願前に発売されたカードべ−スボール及びSDガンダムから容易に推考することができたということができるから,無効である。

(三) したがって,本件特許権の行使は,権利の濫用に当たる。

2 原告の主張

(一) 本件補正は,特許請求の範囲の記載を明瞭にしただけで,要旨を変更するものではない。

(二) カードベースボールは,バーコード読取手段があるものの,他の構成は本件特許発明とは全く異なるし,SDガンダムは,バーコードを使用したゲームではないから,それらのゲームが存したからといって,本件特許が無効になるということはない。

五 争点3(被告には先使用権があるかどうか)について

1 被告の主張

(一) 前記四1(一)のとおり,本件特許の出願は,本件補正の時点においてされたものとみなされるところ,被告は,イ号物件を本件補正以前から製造販売していたから,被告には,先使用権がある。

(二) 仮に,本件特許の出願の特点が繰り下がらないとしても,被告は,本件特許の出願日以前に,前記三2(一)(1)のとおり,本件特許発明の構成要件をすぺて含むカードベースボール及びSDガンダムを発売していたから,被告には,先使用権がある。

2 原告の主張

被告の主張を争う。

六 争点4(本件警告の有効性)について

1 原告の主張

 本件警告後,本件補正を行ったが,イ号物件は,本件補正の前後を通ジて本件特許発明の技術的範囲に属するから,本件補正後に改めて警告する必要はない。

2 被告の主張

 警告後に特許の許否に重大な影響のある補正がされた場合には,補正後の特許請求の範囲の内容を記載した書面によって再度警告しなければ,補償金の請求をすることはできないと解すべきである。

 本件補正前の特許請求の範囲に記載された発明は,その出願前に発売されていたSDガンダムとは,必要なデータの読取方法を除いては一致しており,必要なデータの読取りをバーコードを用いて行うことは,その出願時には,既に周知慣用の技術であったから,特許されないものであった。

 このように,本件補正前の発明は特許されないものであったから,本件補正は,特許の許否に重大な影響のある補正ということができる。

 したがって,原告は,本件補正後の特許請求の範囲の内容を記載した書面によって再度警告しなけれぱ,補償金の請求をすることはできないと解すベきである。

七 争点5(補償金の額)について

1 原告の主張

 被告は,平成4年7月から平成5年1月までの間に合計33万5624台のイ号物件を製造し,平成4年8月から平成5年3月までの間に合計32万8140台のイ号物件を販売した。イ号物件の小売価格は1台6800円であり,実施料率はその10パーセントが相当であるから,補償金の額は,右製造台敷に6800と0・1を乗じた2億2836万0320円となる。

2 被告の主張

原告の主張を争う。

第三 当裁判所の判断

一 争点1(イ号物件が本件特許発明の技術的範囲に属するかどうか)について

1 イ号物件の構成a,b,iが,それぞれ本件特許発明の構成要件A,B,Hを充足することは明らかである。

2 構成要件Cについて

(一) 本件公報(甲1)には,本件特許発明に係るカードグーム玩具の実施例について,次のような記載があることが認められる。

「前記ディスプレイ4の左側P1には,攻撃キー(バトルキー)5aとパワーアップキー6a,右側P2には攻撃キー5bとパワーアップキー6bがそれぞれ設けられている。
 また,ディスプレイ4の下縁(手前)側には攻撃側か守備側かの指示や攻撃表示などを示す豆電球(LED)L1〜L5が配列され,」(3欄34行ないし40行)

(二) 本件公報(甲1)では,右(一)のカードゲーム玩具の構成についての説明に続いて,そのカードグーム玩具の遊ぴ方が説明されているが,その中では,@まず,P1側のプレイヤーが手持ちカードを入力し,カードのデー夕を表示させた後,P2側のプレイヤーが手持ちカードを入力し,カードのデータを表示させる,Aその後,先攻判定手段によってP1側かP2側のいずれが先攻かが判定され,P1側が先攻と判定された場合は,P1側のプレイヤーが攻撃キーを押す,Bそうすると,直ちにP1側からP2側へ攻撃が行われ,その結果によって,P2側の生命力値からダメージ値を減算して,減算後のP2側の生命力値を算出する,Cその生命力値が零かどうかが判定され,零のときはP1側の勝ちとなるが,その生命力値が零よりも大きいときは,次に,P2側のプレイヤーが攻撃キーを押す,Dそうすると,P2側からP1側への攻撃が行われ,右BCが繰り返される旨の記栽がある。

 そして,本件公報には,右記載に引き続いて,「また,上記フローチャートでは,P1側,P2側の「攻撃」と,相手側(守備側)の生命力を零にする戦いのみを示したが,「攻撃権」に代えてパワーアップキー6a,6bが使えるようにしたり,他の武器力−ド,防具力−ド,アイテムカード等が使えるようにしてもよい。」(6欄37行ないし42行)との記載がある。

(三) 構成要件Cの「攻撃側」,「守備側」を,右実施例の記載に基づいて解釈すると,「攻撃側」は,「攻撃をするか,パワーアップキーを便うかを選択することができる側」を意味し,「守備側」は,「攻撃をするか,パワーアップキーを使うかを選択することができない側」を意味するということができ,いずれの側がまず右の意味での「攻撃側」になり反対側が右の意味での「守備側」になるかを判定するものが「先攻判定手段」であるということができる。

(四) イ号物件の構成Cにおいて,選択順番判定手段によって判定されるのは,攻撃するのかディフェンスするのかの選択をいずれのプレイヤーが先に行うかということであるところ,ディフェンスは,「攻撃をせず生命力,守備力,命中率の向上をはかる」というものであるから,本件特許発明においてパワーアップキーを使うということと同義であると解される。

 そうすると,構成Cの選択順番判定手段は,いずれの側がまず右(三)の意味での「攻撃側」になり反対側が右(三)の意味での「守備側」になるかを判定するものであるから,本件特許発明にいう「一方を攻撃側,他方を守備側とする先攻判定手段」であるということができる。

(五) 証拠(検甲1,2)と弁論の全趣旨によると,イ号物件における右判定は,構成bの記憶手段で記憶された対戦データについてされるものであることが認められるから,イ号物件は,構成要件Cを充足する。

(六) 被告は,本件特許発明では,「先攻判定手段」によって攻撃側が決まった時点でダメージ計算の結果は講理的に確定している旨主張し,そのことを前提として,イ号物件の選択順番判定手段は,本件特許発明の「先攻判定手段」とは異なる旨主張する(前記第二の三2(一)(1))が,本件特許発明の構成要件Cの,「攻撃側」,「守備側」を右(三)のとおり解すると,「先攻判定手段」によって攻撃側が決まった時点では,攻撃をするか,パワーアップキーを使うかの選択はされておらず,ダメージ計算の結果が論理的に確定していないことは明らかであるから,それが輪理的に確定していることを前提とする右主張は採用できない。

 また,被告は,本件特許発明の構成要件のうち,構成要件A,Cは,本件特許の出願時に発売されていたカードペースボールに存し,構成要件cの「攻撃側」を先に攻撃をなし得る側,「先攻判定手段」をどちらが先に攻撃をなし得る側になるかを判定するものと解した場合の,構成要件BないしHは,本件特許の出願時に発売されていたSDガンダムに存し,それらを組み合わせることは,当業者にとつて極めて容易に推考することができたものであるとの主張を前提として,構成要件Cの「攻撃側」を先に攻撃をなし待る側,「先攻判定手段しをどちらが先に攻撃をなし得る側になるかを判定するものと解すると,本件特許は無効であるということになるから,そのように解することはできない旨主張する(前記第二の三2(一)(1))ところ,証拠(乙19の1,乙21,31,検乙1,2)と弁論の全趣旨によると,カードベースボールは,選手のデータをバーコード表示した力ードから読み取って記憶させ,その記憶されたデータに基づいてチームを編成して対戦するという野球ゲームであること,SDガンダムは,二人で連合軍とジオン軍を対戦させて遊ぶゲームで,各プレイヤーがマップ上に自軍のコマを並ぺ,コマを移動したり,相手のコマを攻撃したりして,相手の首都コマを撃破した方が勝ちになるというものであること,SDガンダムでは,一方の側(連合軍側)が常に先攻で,5回移動,攻撃等を行うと,相手と交代すること,SDガンダムでは,自軍のコマと相手のコマを判定器にセットすると,判定器がコマの裏側のピン状突起(ドット)を読み取り,その後,攻撃する側がアタックボタンを押すと,攻撃が行われて,戦闘結果が表示され,各々受けたダメージの分だけパワーゲージが減り,その結果コマのパワーが零になると,マッブ上から除かなければならないこと,以上の事実が認められる。以上の事実によると,カードベースボール及びSDガンダムは,それそれ本件特許発明の構成要件の一部を備えており,SDガンダムのコマを,データをバーコード表示したカードに置き換えると,本件特許発明に近いものができるともいえるが,そのような置換えをすることが容易であったとまでいうべき事情は認められない(乙31)。したがって,カードベースボール及びSDガンダムが本件特許の出願時に存したとしても,直ちに本件特許が無効であるとは認められず,そのことを前提とした被告の右主張は採用できない。

 さらに,被告は,イ号物件では,先に選択することができるプレイヤーが,攻撃を選択したとしても,後に選択するプレイヤーも攻撃を選択すれぱ,攻撃は同時に行われるから,先に攻撃をなし得るということはない(前記第二の三2(一)(2))とも主張する。しかし,右(三)認定のとおり,構成要件Cの「攻撃側」は,「攻撃をするか,パワーアップキーを使うかを選択することができる側」を意味しており,攻撃そのものをする側を意味しているのではない。イ号物件では,攻撃が同時に行われることがあるとしても,既に述ぺたとおり,攻撃かディフェンスかの選択は順次されており,それをいずれの側が先に行うかを判定するのが「先攻判定手段」であるから,イ号物件が「先攻判定手段」を備え構成要件Cを充足する旨の右判断が左右されることはない。

(七) 被告は,構成要件Cは,「対戦データに従って,一方を攻撃側,他方を守備側とする先攻判定手段」と解さなければならないとも主張する。しかし,構成要件Cは,文言上,先攻の判定を対戦データに従って行うというような限定はなく,後記二1のとおり,そのように解さないと本件補正が要旨の変更に当たり認められないということもないから,構成要件Cを被告の右主張のように限定して解釈すべき理由はない。

3 構成要件Dについて

 構成要件Dの「攻撃キー」は,対戦データが入力され,一方を攻撃側,他方を守備側とする先攻判定手段による判定が行われた後に,攻撃側,すなわち「攻撃をするか,パワーアップキーを使うかを選択することができる側」によって押されるものであっで,攻撃側の攻撃意思を機械に伝えるものであるということができる。イ号物件の「攻撃選択キー」(構成d)は,右のような意味での「攻撃キー」に当たるということができるから,イ号物件は,構成要件Dを充足する。

 なお,イ号物件においては,「攻撃選択キー」が押されたのみでは戦闘は開始されず,「戦闘開始キー」が押されることによって戦闘が開始される(構成d)ところ,右2(二)認定のとおり,本件公報に記載されている実施例では,「攻撃キー」が押されると直ちに攻撃が開始されるのであるから,この点でイ号物件とは異なっている。しかし,特許請求の範囲に「攻撃キー」が押されると直ちに攻撃が開始されなけれぱならない旨の記載はなく(構成要件Eについては次に述べるとおり),本件特許発明の効果に照らしても,本件特許発明をそのように限定して解さなければならない必然性はなく,他にそのように解すべき事情も露められないから,イ号物件が,「攻撃選択キ−」が押されたのみでは戦闘は開始されず,「戦闘開始キー」が押されることによって戦闘が開始されるものであっても,そのことは,構成要件Dの充足性についての右判断を左右するものではない。

4 構成要件Eについて

 右2(二)認定のとおり,本件公報に記載されている実施例では,「攻撃キー」が押されると直ちに攻撃が開始され,ダメージ計算が行われる。しかし,構成要件Eの「攻撃キーを押したときに」は,文言上「攻撃キーを押した場合に」の意味に解することができる上,本件特許発明の効果に照らしても,構成要件Eの「攻撃キーを押したとき」」を「押すと直ちに」の意味に限定して解さなけれぱならない必然性はなく,他にそのように解すべき事情も認められないから,構成要件Eの「攻撃キーを押したときに」は,「攻撃キーを押した場合に」の意味に解することができる。

 イ号物件においては,戦闘開始キーを押したときに,両プレイヤーがいずれも攻撃選択キーを押していた場合は互いに攻撃を受けた側の,一方のプレイヤーが攻撃選択キーを押し他方のプレイヤーがディフェンスを選択していた場合は,ディフェンスを選択した側(攻撃を受けた側)のカードのダメージを計算する計算手段を有している(構成e)。右2(三)認定のとおり,構成要件Cの「攻撃側」は「攻撃をするか,パワーアップキーを使うかを選択することができる側」を意味しており,「守備側」はその反対側を意味するから,イ号物件においては,戦闘が開始される段階では,各プレイヤーは,既に「攻撃側」「守備側」のいずれにも立っているということができる。そして,「守備側」においては,「攻撃」を選択する余地がなく,相手が「攻撃側」のときに「攻撃キーを押した場合」にば,ダメージを受けることがあるものと認められ,かつ,そのダメージを計算する手段が存する(構成e)のであるから,イ号物件は,構成要件Eを充足するということができる。

5 構成要件Fについて

 イ号物件においては,右4の計算手段で計算されたダメージと,両プレイヤーがいずれも攻撃を選択した場合は互いに攻撃を受けた側の,一方のプレイヤーが攻撃を選択し他方のプレイヤーがディフェンスを選択した場合はディフェンスを選択した側(攻撃を受けた側)のカードのデータとで計算し,生存を判定する生存判定手段を有している(構成f)が,これも,右4の場合と同様に,「守備側」についてされるものと認められるから,イ号物件は,構成要件Fを充足する。

6 構成要件Gについて

 イ号物件においては,右5の生存判定手段によって,少なくともプレイヤ−のいずれか一方の生存を否定する判定結果が出た際には,ゲームを終了させ,判定結果を表示する勝敗表示手段が存する(構成g)から,構成要件Gを充足する。

 この点について,被告は,本件特許発明は,1回だけ対戦するゲームであり,生存の判定によって必ず勝敗の判定が行われ,それが表示される旨主張する(前記第二の三2(四))が,特許諸求の範囲には,必然的にそのように解さなければならない記載はない上,右2(二)の実施例には,一方の生命力値が零になるまで攻撃(又は守備)が練り返される旨の記載があるから,本件特許発明について,被告の右主張のように解することはできない。したがって,右主張を前提して,イ号物件は,対戦を繰り返すから,構成要件Gを充足しない旨の被告の主張(前記第二の三2(四))は,採用できない。

7 右2(六)のとおり,本件特許発明は,カードベースボール及びSDガンダムから容易に推考することができたものとは認められないから,そのことを前提として,イ号物件は本件特許発明の技術的範囲に属さない旨の被告の主張(前記第二の三2(五))は,前提を欠き,採用できない。

8 以上の次第で,イ号物件は本件特許発明の技術的範囲に属する。

二 争点2(本件特許には無効事由があるから本件特許権の行使は権利濫用であるかどうか)について

(一) 前記第二の一6の事実に証拠(乙1の1,2)を総合すると,本件特許の出願当初の特許請求の範囲には,先攻判定手段に関する記載は存しないこと,本件特許の出願当初の明細書には,実施例として,「バーコード読取手段によって読み取られ,記憶手段に記憶されたカードのデータに従って,対戦力−ドの先攻判定を行う」旨記載されていること,本件待許の出願当初の明細書及び図面には,右実施例の記載以外に先攻判定手段に関する記載は存しないこと,以上の享実が認められる。しかし,右実施例の記載は一つの例にすぎないものと認められ,本件特許の出願当初の明細書及ひ図面には,カードのデータに依拠しない周知慣用の方法による先攻判定手段も含まれていたものと解することができる。しかるところ,原告が本件補正によって加えた「記憶手段で記憶された対戦データのうぢ,一方を攻撃側,他方を守備側とする先攻判定手段を有すること」(構成要件C)は,「対戦データに従って,一方を攻撃側,他方を守備側とする先攻判定手段」及び「対戦データと関係なく,一方を攻撃側,他方を守備側とする先攻判定手段」を含むものであるが,それらは,本件特許の出願当初の明細書及び図面に含まれていたものであるから,本件補正は,要旨を変更するものではない(甲5)。

(二) 前記第二の一6の事実によると,原告は,本件補正によって,勝敗表示手段について,「生存判定手段による判定結果を表示する」という構成要件を付け加えたものと認められる。被告は,この構成要件について,生存判定手段による判定によって勝敗が必ず決まることを意味していると主張するが,これが認められないことは,前記一6で判示したとおりであって,右主張を前提として,右の点が本件特許の出願当初の明細書に含まれていないから,本件補正は,要旨を変更するものである旨の被告の主張は,採用できない。証拠(乙1の1,2)によると,本件特許の出願当初の明細書には,前記一2(二)の実施例が記載されていたものと認められるから,生存判定手段による判定結果を表示する勝敗表示手段は,本件待許の出願当初の明細書に含まれていたということができる。したがって,本件捕正は,要旨を変更するものではない

(三) 被告は,本件補正が要旨の変更に当たり認められないことを前提として本件特許は無効であると主張する(前記第二の四1(一))が,本件補正は,右のとおり要旨の変更に当たらないから,被告の右主張は認められない。

2 前記一2(六)のとおり,本件特許発明は,カードベースボール及びSDガンダムから容易に推考することができたものとは認められないから,そのことを理由とする本件特許は無効である旨の被告の主張(前記第二の四1(二))は,採用できない。

三 争点3(被告には先使用権があるかどうか)について

1 被告は,本件補正は要旨の変更に当たり認められないから,本件特許の出願は本件補正の時点においてされたものとみなされるところ,被告は,イ号物件をそれ以前に製造販売していたから,先使用権を有すると主張する(前記第二の五1(1))が,本件補正は,前記二1のとおり要旨の変更に当たらないから,被告の右主張は認められない。

2 前記一2(六)で認定したカードベースボール及びSDガンダムのゲームの内容からすると,それらがイ号物件と異なることは明らかであるから,被告が本件特許の出願前からカードベースボール及びSDガンダムを製造販売していたとしても,先使用権を有するとは認められない。

四 争点4(本件警告の有効性)について

1 特許出願人が出願公開後に第三者に対して特許出願に係る発明の内容を記載した書面を提示して警告をするなどして,第三者が右出願公開がされた特許出願に係る発明の内容を知った後に,補正によって特許請求の範囲が補正された場合において,その補正が,願書に最初に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において補正前の特許請求の範囲を減縮するものてあって,第三者の実施している物が補正の前後を通して特許発明の技術的範囲に風するときば,右補正の後に再度の響告等により第三者が補正後の特許請求の範囲の内容を知ることを要しないと解するのが相当である(最高裁昭和63年7月19日第三小法廷判決民集42巻6号489頁参照)。

2 前記第二の一6の事実によると,本件補正は,出願当初の特許請求の範囲を限定したもので,本件補正後の特許発明の技術的範囲に含まれるイ号物件が出接当初の発明の技術的範囲に属することは明らかである上,本件補正は,前記二1のとおり,本件特許の出願当初の明細書及び図面に含まれていた事項の範囲内でされたものであるから,原告は,再度の警告をすることなく,被告に対して,補償金の請求をすることができるというべきである。

なお,前記一2(六)のとおり,SDガンダムのコマを,データをバーコード表示したカードに置き換えることが容易であったとまでは認められないから,本件補正前の特許請求の範囲に記載された発明が,SDガンダム及び必要なデータの読取りをバーコードを用いて行う技術から容易に推考することができたとは認められない。したがって,本件補正前の発明が特許されないものであったとの被告の主張(前記第二の六2)は採用できない。

五 争点5(補償金の額)について

1 証拠(乙24)と弁論の全趣旨によろと,被告は,平成4年7月から平成5年1月までの間に合計33万5824台のイ号物件を製造し,平成4年8月から平成5年3月までの間に合計32万8140台のイ号物件を販売したこと,イ号物件の小売価格は1台6800円であること,以上の事実が認められる。

2 証拠(甲7)と弁論の全趣旨によると,原告と被告は,競争関係にある会仕で,通常,特許の実施を許諾することは考えられないことが認められる。他方,弁論の全趣旨によると,被告は,イ号物件を右小売価格で直接消費者に販売するのではなく,問屋等に,これよりも低い価格で販売していたものと認められる。そして,これらの事実に本訴に現れた諸事情を考慮すると,実施料率は,右小売価格の5パーセントとするが相当であるから,補償金の額は,右製造台数に6800と0・05を乗じた1億1418万0160円となる。

六 よって,本訴請求は,1億1418万0160円及びこれに対する平成6年6月15日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるので,この限度で認容することとする。

東京地方裁判所民事第29部

裁 判 長  我 判 官   森     義   之

       裁 判 官   榎  戸   道  也

       我 判 官   中   平     健


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省   略


別紙特許公報

省   略


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最終更新日: Jan/26/1999

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