コンピュータランド事件仮処分判決


札幌地裁昭和58年(ヨ)第46号営業表示使用差止等仮処分事件


判        決

債 権 者       コンピュータランド・コーポレーション
右訴訟代理人      大  場   正  成
同           花  水   征  一

債 務 者       株式会社コンピューターランド北海道
右訴訟代理人      廣   井     淳
同           廣  井  喜 美 子

主        文

 債権者が金100万円の保証を立てるときは,

一 債務者は,その営業について,別紙第一目録記載の表示を自ら使用したり,第三者に対しその使用を許諾してはならない。

二 債務者は,別紙第一目録記載の標章を付したコンピュータープログラム用のテープもしくはフロッピーを販売し,もしくは販売のために展示し,又は右各商品に関する広告,定価表もしくは取引書類に右標章を付して展示もしくは頒布してはならない。

三 前項記載の物件に対する債務者の占有を解いて,債権者の委任する札幌地方裁判所執行官にその保管を命ずる。

四 申請費用は債務者の負担とする。

事        実

第一 当事者の求めた裁判

<省  略>

第二 当事者の主張

一 申請の理由

1 当事者

(一) 債権者

 債権者は,昭和51年9月,カリフォルニア州法に基づいて設立された米国法人であり,同52年4月に現商号であるコンピュータランド・コーポレーションに社名変更をし現在に至っている。

 債権者は,別紙第一目録記載の表示(以下,本件営業表示という。)を営業表示として使用し,パーソナルコンピューター(以下「パソコン」という。)の小売販売を行うフランチャイズチェーンを展開し,そのフランチャイズチェーンにおいてフランチャイザーとして活動することを目的としている。すなわち,各フランチャイジーに対し,パソコン,周辺装置,ソフトウェアを販売するほか,統一システムによる経営システムの提供,統一宣伝広告活動,販売上の経営管理ノウハウの提供,販売店教育等を行っている。そして,日本においては,昭和57年7月兼松江商株式会社と共同出資して設立した子会社コンピュータランド・ジャパン株式会社を通じ,「コンピュータランド」という本件営業表示を用いてパソコン等の小売販売を行うフランチャイズチェーンを展開し,同年12月に岡山市に1号店を開店させて以来続々と全国各地に店舗数を増加させチェーンを拡大してきている。

(二) 債務者

 債務者は,昭和55年5月2日,社名を「株式会社コンピュータランド北海道」,本店を札幌市白石区中央二条3丁目1番53号として設立され,同56年6月24日本店を同市中央区北三条西2丁目1番地に移転し,今日に至っている。

 債務者の事業目的はパソコンの販売及びそのソフト技術の提供等であり,現に札幌市内の店舗でパソコン及びそのソフトウェア(コンピュータープログラム用のテープ等)を小売販売するほか,パソコン及びそのソフトウェアを販売している第三者に「コンピューターランド」との表示の使用を許諾している。さらに,自らソフトウェア(コンピュータープログラム用のテープ及びフロッピーデスク)を製作し,卸売商を通じて小売店に販売している。

2 営業表示使用の差止

(一) 債権者の営業表示の周知性

 債権者は,昭和52年アメリカ合衆国ニュージャージーに第1店目のストアを開店してから僅か2年後の昭和54年にはフランチャイジーの数は82店に及び,その内5店はオーストラリア,その他ベルギー,フィリッピン,シンガポールにも店舗をオープンし,短期間にフランチャイジーの数を増加させ,その営業表示を世界的に知れ渡らせた。同58年10月現在,25か国に560の加盟店を有し,年間売上高2400億円に達する世界最大のパソコン販売ネットワークである。

 このように債権者の営業表示が全世界に短期間に周知になったのは,債権者の営業形態がフランチャイズ方式でパソコン及びソフトの小売を行ったことにあり,メーカーから独立しているため幅広い品揃えを可能にし,統一イメージサービスを提供することにより,顧客,メーカー等から信頼を得ることができたためである。

 従って,債権者は,アップル,IBM等日本国内で人気のあるパソコンメーカーの製品販売における世界最大手であり,これらの製品に関心を有する者は債権者の営業表示を当然知ることになるのである。

 また,債権者は,昭和57年12月の第1号店を皮切りに,日本国内において,子会社を通じてフランチャイズチェーンを展開し,「コンピュータランド」との営業表示をする店舗を続々開店させ,昭和59年1月現在全国における加盟店は15に及び,そのフランチャイズストアによる宣伝広告活動のほかに,フランチャイザーの地位にある右子会社は,フランチャイズチェーンの統一イメージ作り及びフランチャイジーの募集活動の目的で全国的規模での宣伝広告活動を新聞,雑誌その他を通じて積極的に行っており,また専門雑誌等でも報道されている。

 なお,コンピュータランド札幌中央店も,昭和58年4月札幌市中央区南三条西4丁目エイト3階にオープンした。

 以上のとおり,現在(本訴訟口頭弁論終結時である昭和59年1月),「コンピュータランド」という本件営業表示は,日本国内において,債権者の営業表示として,パソコン取引業者及び需要者の間でも広く認識されている。

(二) 債務者の営業表示の類似性

 債務者は,別紙第一目録(1),(2)記載の表示を自ら営業表示として使用してパソコンの販売活動を行い,さらに同(3)記載の表示でフランチャイズチェーンを展開して「コンピューターランド釧路」「コンピューターランド恵庭」に対して「コンピューターランド」との表示の使用を許諾している。

 右表示は,いずれも債権者の営業表示「コンピュータランド」と地域を意味する「北海道」を除いては全く同一である。

(三) 混同のおそれ

 債権者と債務者の営業は,いずれもパソコン本体,その周辺機器及びソフトウェアの小売販売並びにフランチャイズチェーン展開を目的としており,同一営業に属する。そして,営業表示は前記のとおり酷似し,特に英文では字体が殆ど同一であるから,債権者と債務者がその営業活動において誤認混同されるおそれが極めて高い。

(四) 債権者の営業上の利益が害されるおそれ

 右誤認混同により,債権者はフランチャイジー募集が妨げられたり,取引業者や需要者の信用を失ったりして営業活動が困難になり,利益が害され,また害されるおそれがある。

3 商標使用の差止

(一) 債権者の登録商標

 債権者は,左記の登録商標(以下「本件商標」という。)を有する。

登録番号  1576305号

出 願 日  昭和53年10月2日

公 告 日  昭和57年2月23日

登 録 日  昭和58年3月28日

指定商品  第11類電子計算機,電子計算機用磁気テープ等

商  標  別紙第三目録記載のとおり   

(二) 債務者の商標権侵害

 債務者は,別紙第一目録記載の標章を付したコンピューター用プログラムテープ,フロッピーデスク等を製作販売している。右商品は,いずれも本件商標の指定商品に該当することは明らかであり,かつ債務者の使用する標章は地名を意味する「北海道」の部分を除いて本件標章と呼称及び観念が全く同一である。

 債務者は,別紙第一目録記載の標章について,商標としてはその使用を中止したと主張しているが,広告において依然として「コンピューターランドソフト」という表示を使用しており,なお右標章を商標として使用しているというべきであり,商標権の侵害ないしそのおそれがある。

4 保全の必要性

 債務者の前記営業表示及び商標の使用により,債権者の営業や商品と債務者の営業や商品が誤認混同され,債権者の営業利益が害されるだけでなく,取引業者や需要者にも多大の混乱と迷惑を与えることは必至である。

 しかるに,債務者は債権者の再三の警告にもかかわらず,使用を中止しようとしない。コンピューター業界は,技術面,営業面ともに急速に動いており,競争もし烈である。債務者の行為を直ちに差止めなければ,債権者は後日回復不可能な損害を被ることになる。

5 よって,債権者は,債務者に対し,不正競争防止法1条1項2号(申請の趣旨第二項)及び商標法36条(申請の趣旨第二,三項)に基づいて,申請の趣旨記載の裁判を求める。

二 申請の理由に対する認否

(一) 申請の理由1(一)の事実は,知らない。

(二) 同1(二)の事実のうち,「コンピューターランド」との営業表示の使用を第三者に許諾していることは否認する。その余は認める。

(一) 同2(一)の事実は,否認する。

 周知性の認識主体は,債権者の営業内容がパソコン小売店のフランチャイズチェーン展開であるから,末端の需要者と解するべきである。そうすると,現在においても,債権者の本件営業表示は,日本国内の末端需要者の間では周知になっているとはいえない。

(二) 同2(二)の事実のうち,債務者が別紙第一目録(1),(2)記載の営業表示を使用していること,右表示が債権者の営業表示と類似していることは認める。その余は否認する。右表示の商標としての使用は現在していない。

(三) 同2(三)の事実のうち,債権者と債務者が同一の営業に属することは認める(但し,債務者はフランチャイズチェーン展開はしてない。)。その余は否認する。

(四) 同2(四)の事実は,否認する。

(一) 同3(一)の事実は,認める。

(二) 同3(二)の事実は,否認する。

 債務者は,別紙第一目録(1),(2)の標章について,商標としてはその使用を中止し,現在は「デービーソフト」という標章を用いている。

4 同4の事実は,否認する。

三 債務者の主張

 仮に,債権者の本件営業表示が現在周知であるとしても,債務者は先使用の抗弁権を有する。

1 昭和55年5月当時の周知性

 債権者の本件営業表示「コンピュータランド」は,債務者が設立され,「コンピュータランド北海道」との商号の使用が始められた昭和55年5月には日本国内において周知ではなかった。すなわち,周知性の認識主体は,先に述べたとおり,末端の需要者と解すべきところ,債権者の店舗が日本国内になかった昭和55年5月当時,一般需要者の間で債権者の本件営業表示が広く認識されていたとは考えられない。アメリカ合衆国の雑誌等で債権者の営業や本件営業表示が広く取り上げられていたとしても,一般の需要者は米国雑誌まで目を通したりはしない。

2 債務者の善意

 債務者は,代表取締役梁川修と専務取締役古谷貞行が中心となって設立されたが,右両名は,九州地方のシリコンアイランドの名にちなみ,北海道をソフトウェアのメッカにしたいという希望をこめて,コンピューターアイランド北海道という名を考えたが,これを縮めて「コンピューターランド北海道」と独自に決定したものであり,字体も独自に選定したものにすぎなく,当時,債務者は債権者の存在すら知らなかった。従って,債務者は,「コンピューターランド北海道」との表示の使用を始めるに際して,不正競争の目的はなかった。

四 債務者の主張(抗弁)に対する認否

 債務者の主張(抗弁)事実は,いずれも否認する。

1 債権者の本件営業表示は,昭和55年5月当時,すでに日本国内において周知であった。すなわち,債権者は,前記のとおり,設立後短期間のうちにフランチャイジーの数を世界各地で増加させ,米国の雑誌等にも広く取り上げられていて,昭和55年以前にすでに世界的に広く認識されていた。また,債権者は昭和53年には,日本国内へのフランチャイズチェーンの展開を計り,日本国内で雑誌広告,説明会等を行っており,昭和54年暮には,交和通商株式会社とフランチャイズ契約交渉に入る段階まで来ていたほか,昭和55年5月には,コンピュータランド大阪店,東京店が雑誌広告を始めていた。

 周知性の認識主体は,債務者の主張するように末端の需要者に限定されるものではなく,取引業者,需要者いずれであっても差しつかえないが,パソコンの販売は,製品が高額であるうえ,コンピューター本体の操作のほか,プログラムに関する知識が要求され,メーカーやプログラムの供給者の研究や選択が重要であり,従って需要者といっても,一般大衆ではなく,コンピューター雑誌等を読んでパソコンに関心を有する客層に限定され,コンピューターに関心のない者は全く関係がない。

 従って,雑誌に取り上げられ,日本国内でも契約交渉に入っていた昭和55年5月当時,パソコンの取引業者やパソコンに関心のある需要者の間では,すでに「コンピュータランド」なる本件営業表示は周知になっていたといえる。

2 債務者の使用は善意(不正競争の目的がない)ではない。すなわち,債務者がパソコン小売業という専門的事業を始めるにあたって,内外の小売店舗の事情を調査しないはずがなく,世界最大のパソコン販売ネットワークである債権者の存在を知らなかったとは考えられない。また,別紙第一目録記載(2)の標章は,債権者の営業表示である別紙第二目録記載の標章とロゴが酷似しており模倣としか言いようがない。さらに,債務者の実質的経営者である古谷貞行は,債務者を設立する僅か1か月半前にサンフランシスコのコンピューターフェアのツアー参加し,債権者を含むマイコンショップを建学したのであって,債務者は,債権者の社名及び英文文字のロゴを悪意で模倣したというべきであり,不正競争の目的がなかったとは言いがたい。

第三 証  拠

<省  略>

理        由

一 営業表示差止関係

1 債権者の営業表示の周知性について(申請の理由1(一)及び2(一))

(一) 証拠<省略>によれば,次の(1)ないし(4)の事実が一応認められる。

(1) 債権者は,昭和51年9月アメリカ合衆国カリフォルニア州で設立された法人であり,「コンピュータランド」という本件営業表示を使用して,パソコン小売販売を行うフランチャイズチェーンを展開している。すなわち,債権者は,右フランチャイズチェーンのフランチャイザーとして,チェーンに参加する店舗(フランチャイジー)を募集し,各フランチャイジーに対しては商品である各種メーカーのパソコン本体,周辺機器,ソフトウェア,書籍等を販売するほか,統一イメージによる経営システムの提供,統一的宣伝活動,販売上の経営管理ノウハウの提供,販売教育等を行い,各フランチャイジーは,右指導にしたがって本件営業表示である「コンピュータランド」を冠した営業表示を使用して統一イメージにより,パソコン,ソフトウェア等の小売店を営業している。

(2) 債権者は,昭和52年2月ニュージャージーに最初の店舗を開いて以来,極めて短期間のうちにフランチャイズチェーン店を増加させ,マクドナルドのような独特なフランチャイズ方式で昭和54年時にはすでに80店余を数え,アメリカ合衆国内のみならず,オーストラリア,ベルギー,フィリッピン,シンガポール等にも店舗を開設し,昭和58年8月現在25か国で500店余の加盟店を擁し,年間売上高2千数百億円に達する世界最大のパソコン販売ネットワークを形成している。債権者の営業形態はフランチャイズ方式でパソコン及びソフトウェアの販売を行うことにあり,IBM社,アップル社等メーカーから幅広い仕入れを可能にするとともに,統一イメージによる効果的な宣伝活動とノウハウの提供によって,メーカーや顧客から信頼を獲得した。

 また,債権者は,日本国内においては,昭和57年7月兼松江商と共同出資して子会社コンピュータランド・ジャパン株式会社を設立し,同社を通じて日本国内にもパソコン等小売販売のフランチャイズチェーンの展開を始め,同年12月に岡山市に1号店を開いたのを皮切りに,松戸,新宿(東京都),静岡,札幌,千葉,天満橋(大阪市),筑波(茨城県新治郡桜村),浜松,大手町(東京都),調布,神田(東京都),北浜(大阪市),京都,天理と続々店舗を開いてきた。そして,日本国内の右各フランチャイジーは,「コンピュータランド岡山店」「コンピュータランド新宿店」のように本件営業表示たる「コンピュータランド」を冠した店名を使用してパソコン,ソフトウェア等販売の営業を行っている。

(3) 債権者は,前記のように,短期間のうちにアメリカ合衆国はもとより,ヨーロッパ,カナダ,オーストラリア等世界的規模において,次々にフランチャイズ店を開設するとともに,フランチャイズチェーンの統一イメージ作りやフランチャイジー募集活動のため,アメリカ合衆国で発行されるコンピューター関連雑誌やテレビ,ラジオ等の媒体を通じて,積極的な宣伝活動を展開し,右英文の雑誌は日本国内においても昭和55年当時パソコンに関心を有する層に読まれていた。

 ところで,債権者が子会社を設立して日本に進出した際には,右のような債権者の地位実績にため,流通関係の雑誌,コンピューター関係の雑誌はもとより,一般の新聞でも広くとりあげられ,さらに,その後のフランチャイズチェーン拡大の状況も,同様に新聞,雑誌で報道され,右報道において,本件営業表示である「コンピュータランド」の名は債権者の営業表示として掲載されてきた。

(4) 債権者は,日本国内においてフランチャイズチェーン展開を始めて以来,フランチャイズシステムの効用を図るためチェーン全体や新たに開いた店舗を統一イメージにより,大々的な宣伝活動を行ってきたが,右宣伝は,パソコン雑誌や経済雑誌,新聞,テレビ,電車の中づり広告等を利用して広く行われ,その広告には本件営業表示たる「コンピュータランド」の名が営業表示として使用されてきた。

(二) 右(1)ないし(4)の事実を総合すると,債権者の本件営業表示たる「コンピュータランド」という名称は,少なくとも本件口頭弁論の終結時である昭和59年1月には,日本国内においても,パソコンを取扱っているメーカーや販売業者はもとより,パソコンを購入しようとする顧客層すなわちパソコンに関心を有する需要者の間にも,債権者の営業活動であることを示す表示として,広く認識され,周知となっていたものと解するのが相当である。

2 債務者の営業表示の類似性について(申請の理由1(二)及び2(二))

(一) 債務者が昭和55年5月2日商号を「株式会社コンピューターランド北海道」,本店を札幌市白石区中央二条3丁目1番53号として設立され,同56年6月24日本店を同市中央区北三条西2丁目1番地に移転し今日に至っていること,同社の事業目的はパソコンの販売及びそのソフト技術の提供等であり,現に札幌市内の店舗でパソコン及びソフトウェアの小売販売をするほか,自らコンピュータープログラム用テープ及びフロッピーデスク等のソフトウェアを製作し,卸売商を通じて小売店に販売していること,債務者が別紙第一目録(1),(2)記載の営業表示を現に使用していること,債務者の右営業表示が債権者の本件営業表示と類似していることは,当事者間に争いがない。

(二) 証拠<省略>によれば,昭和58年1月現在,恵庭市内に「コンピューターランド恵庭」,釧路市内に「コンピューターランド釧路」という名のパソコン等販売店が存在し,両店とも,債務者の新聞広告に債務者の店舗と並べて記載され,債務者自身の店舗又はその傘下の店舗のように宣伝されていたこと,その後,両店の営業表示は「パソコンランド恵庭」等と改められたものの,恵庭店については,「コンピューターランド北海道グループ」あるいは債務者の姉妹店として宣伝されていることが一応認められる。

 右事実からすると,これらの店は債権者が行っているようなフランチャイズチェーンか否かはともかく,債務者と密接な関係を持っている店舗であって,債務者との結び付きを示すため債務者の許諾ないし指示にしたがって「コンピューターランド」という表示を冠した店名を用いていたものと推認できる。そうだとすると,債務者は,第三者に「コンピューターランド」という表示を許諾したことがあり,また許諾するおそれがあるといわねばならない。

3 混同のおそれについて(申請の理由2(三))

 債権者は,パソコン,周辺機器及びソフトウェア小売販売のフランチャイズチェーン展開を営業目的としていること,債務者は自らパソコン,ソフトウェア等を小売販売するほか,債務者の「グループ」あるいは「姉妹店」と称するパソコン小売店が存在することはいずれも先に認定したとおりである。したがって,債務者の営業活動は債権者の営業活動であるフランチャイズチェーン展開と類似しており,また債権者のチェーンに参加しているフランチャイジーの営業活動と同一であると認められる。

 そして,債権者及び債務者のフランチャイズチェーンに参加するフランチャイジーの営業表示と債務者のそれとが類似していることも前項で認定したとおりである。証拠<省略>によれば,実際に債権者と債務者が混同されたことがあると一応認められる。

 以上の諸点を総合すると,債務者は,別紙第一目録記載の表示を使用することにより,債権者と同一営業主体であると誤信させる行為ないし債権者のフランチャイズチェーンに属する店舗として債権者と密接な営業上の関係が存するものと誤信させる行為をしたものであり,結局,債権者の営業活動と混同を生ぜしめる行為をしたということができる。

4 債権者の営業上の利益が害されるおそれについて(申請の理由2(四))

 証拠<省略>によれば,右認定の誤認混同により,債権者はフランチャイジー募集が妨げられたり,フランチャイジーの行うパソコン小売販売が妨げられたりして,債権者は営業上の利益が害されるおそれがあるものと一応推認される。

5 債務者の先使用の抗弁,債務者の善意について(債務者の主張2)

(一) 証拠<省略>によれば,昭和43年以降,株式会社シャープ北海道サービスセンターに勤務し,昭和53年夏以来パソコン等の販売業務に従事していた古谷貞行は,パソコン業界の将来性を見越し,昭和55年初め頃,自動車修理業を経営する梁川修にパソコン等の販売会社を設立する話しを持ちかけ,これに応じた同人を代表者として債務者が設立されたこと,債務者の設立時から現在までの株主構成は,代表者たる梁川修の持株比率は,設立当時において17パーセント,さらに現在では10パーセントにすぎないのに対し,古谷及びその親族のものを合計したそれは,設立当時から50パーセント近くに及び,その後の増資においても大多数の株式を引受け,現時点での持株比率は80パーセント以上に達していること,古谷は昭和56年11月前記会社を退職し債務者の専務取締役に就任したが,債務者設立の当初から経営に参画し,パソコン業界にさして精通していない梁川に代わり会社の運営を実質的に担当してきたことの各事実が認められ,証拠<省略>は採用せず,他にこれを左右する証拠はない。

 右事実によると,債務者の実質的な設立ないし経営をしているのは古谷貞行というほかなく,債務者の営業表示の決定についても,同人が深くかかわったものと推認するべきものであり,債務者の善意に関する判断にあたっては,同人のそれを問題とせざるを得ない。

(二) しかるところ,証拠<省略>によれば,古谷貞行は,債務者が設立される直前である昭和55年3月に,有限会社ハドソンが企画した第5回ウエストコーストコンピュータフェア視察旅行に北海道在住のパソコン愛好家らとともに参加したこと,右フェアは,サンフランシスコ市で催されるコンピューター及びその関連機器の展示即売会で債権者のフランチャイズチェーンの店舗も数店参加しその宣伝に努めていたこと,右視察団は,フェアの見学に3日間を費やしたが,その他にサンフランシスコにある債権者のフランチャイズチェーンの見学も当初からの旅行目的に組み込まれ,同市に到着した当日,同店舗を訪れたことが一応認められる。

(三) さらに,証拠<省略>によれば,債権者は,日本国内にフランチャイズチェーンの展開をはかり,昭和53年には,日本において英文の新聞広告を出してフランチャイジーを募集し,昭和54年末からは,交和通商株式会社とフランチャイズ契約の交渉に入り,昭和55年3月に交和通商グループによって,「コンピュータランド東京」,「コンピュータランド大阪」という名称のパソコン小売を目的とする販売会社が設立され,新聞報道がなされ,広告もなされていたことが一応認められる。

(四) 債権者の本件営業表示と別紙第一目録(2)記載の表示を対比すると,そのレタリングは殆ど同一であり,字間を一部離しているとはいえ,「L」の字に大文字を使用する等酷似するものというほかはなく,また全体的構成も似ており,債務者は債権者の本件営業表示を知りながら,これを模倣して自己の標章を決定したものと推認するのが相当である。証拠<省略>は信用することができない。

 また,前記のように,債務者は,フランチャイズ方式類似の商法を展開しているうえ,債務者の商号である「株式会社コンピューターランド北海道」という名称自体,「コンピューターランド」に「北海道」を付加した名であり,コンピューターランドという組織の中で北海道をエリアとする会社のような印象を与えるものである。

 以上,(一)ないし(四)の諸点を勘案し前記古谷と債務者代表者との関係に照らすと,債務者はその営業表示を決定するにあたり,債権者の営業表示を知っていたばかりでなく,その標章を模倣し,またあたかも債権者と系列関係など密接な営業上の関係があるような名称を選定したものといわざるを得ず,従って債権者の営業活動を利用しようとしたものというべきである。そうすると,債務者がその商号を決定し,別紙第一目録記載の表示を使用するについて不正競争の目的がなかった,すなわち善意であったとは認められない。

6 よって,その余の点を判断するまでもなく債務者の抗弁は理由がなく,債権者の営業表示使用差止請求権が一応認められる。

二 商標使用差止関係

1 債権者の登録商標(申請の理由3(一))の存在については,当事者間に争いがない。

2 債務者の商標権侵害について(申請の理由3(二))

(一) 別紙第一目録記載の標章と債権者の登録商標(本件商標)とを対比すると,地名を意味する「北海道」の部分を除いて呼称,観念が全く同一であり,全体として本件商標に類似していると認められる。また債務者の営業がコンピューター用プログラムテープ,フロッピーデスク等のソフトウェアの製作,販売であることは,先に認定したとおりであり,右商品は本件商標の指定商品に該当するものと一応認められる。

(二) 証拠<省略>によれば,債務者は,昭和58年1月ころ,別紙第一目録(2)記載の標章をその販売する商品に付していたが,その後右標章を商品に付することを中止したこと,しかし,右標章を付した商品の在庫がまだ存在すること,また債務者はその新聞広告において,「コンピューターランドソフト」という表示を続けていることが一応認められる。そして,債務者が別紙第一目録記載の表示を営業表示として,使用あるいは使用許諾をしたこと,また使用を継続していることは先に認定したとおりである。

 そうであるならば,債務者において,別紙第一目録記載の標章を商標として付する商品の製作を中止しているとしても,かつて商標として使用したことがあり,使用した商品の在庫があるうえ,広告でこれと紛らわしい表示をしたり,営業表示としては同じ表示を続けている以上,今後債務者が右標章を再び商標として使用するおそれがないとはいえない。

3 よって,債権者の商標権使用差止請求権が一応認められる。

三 保全の必要性

 債務者による債権者と類似する営業表示の使用及び類似商標の使用により,債権者と債務者との間で営業活動及び商品につき誤認混同が生じ,債権者は営業上の利益が害されるおそれがあると推認されるところ,弁論の全趣旨によれば,パソコン小売販売業は短期間に成長し,また現在においても成長しつつある業種で競争は熾烈を極めて各会社とも広範な宣伝活動により企業イメージの確立と知名度の向上に努めていることから,かかる現状においての営業活動,あるいは商品についての誤認混同は,企業に莫大の損害をもたらす危険のあることが一応認められ,とくに債権者は,前記のとおり日本全域に亘って統一イメージによるフランチャイズチェーンの拡大を目指すフランチャイザーとして営業活動を開始したところであることに照らすと,本案判決の確定まで債務者の行為を放置するときは,債権者に回復困難な損害を被らせることになると推認される。

 従って,債権者は,本案判決の確定前に保全処分を求める必要があるというべきである。

 

裁 判 長  裁 判 官   伊   藤     博

       裁 判 官   光  前   幸  一

       裁 判 官   中   西     茂

 


<別紙目録:いずれも省略>


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Published on the Web : Apr/03/1998

Error Corrected : May/28/2001

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