JR新幹線特急回数券等偽造事件名古屋地裁判決


名古屋地裁平成9年(わ)第771号,同第1184号,同第1428号偽造有価証券行使,詐欺,詐欺未遂(変更後の訴因・有価証券偽造,同行使,詐欺,詐欺未遂),通貨偽造,同行使,有価証券偽造,同行使,詐欺被告事件


判      決

<被告人氏名等省略,関係者氏名等は仮名>

主      文

被告人甲野太郎を懲役2年10か月に,被告人甲野花子を懲役2年6か月にそれぞれ処する。

被告人両名に対し,未決勾留日数のうち120日をそれぞれの刑に算入する。

被告人両名から,偽造千円札12枚(平成9年押第239号の1,2),偽造商品券3枚(同押号の3から5),偽造新幹線指定席特急回数券5枚(同押号の6から10),偽造新幹線自由席特急回数券7枚(同押号の11),偽造新幹線自由席特急回数券の紙片13枚(同押号の12)を没収する。

理      由

(犯罪事実)

 被告人両名は,共謀の上

第一 平成9年3月21日ころから4月3日ころまでの間,名古星市南区三条<地番省略>の有限会社A社と同港区木場町<地番省略>の被告人両名方等において,行使の目的で,カラー複写機と白黒複写機等を用い,複写用紙に東京都区内と名古屋市内を乗車区間とする新幹線自由席特急回数券の表面及び裏面を複写し,これを裁断するなどして,有価証券である東京都区内と名古屋市内を乗車区間とする新幹線自由席特急回数券6枚(平成9年押第239号の11,ただし表紙を除く)を偽造した上,同年4月3日午後6時30分ころ,同南区立協町2丁目1番地のJR笠寺駅出札窓口において,被告人甲野花子(以下「被告人花子」という)が,出改札業務係員の川口博之に対し,偽造した新幹線自由席特急回数券6枚を,本物であるかのように装って提出して行使し,「今,この回数券を洗濯してしまったので,交換してくれませんか」などとうそを言って回数券の交換を請求し,正当な権利に基づく本物の新幹線自由席特急回数券の交換請求であると信じ込ませ,束京都区内と名古屋市内を乗車区間とする新幹線自由席の特別補充券計6枚(時価合計5万4300円相当)をだまし取った。

第二 平成9年4月4日午後7時ころ,同熱田区森後町2丁目502番地のJR熱田駅出札窓口において,被告人甲野太郎(以下「被告人太郎」という)が,出改札業務係員の大橋道博に対し,東京都区内と名古屋市内を乗車区間とする偽造新幹線自由席特急回数券12枚分の紙片13枚(平成9年押第239号の12)を,本物の新幹線自由席特急回数券のように装って示しながら,「あんまり破れていないものは,自分の嫁さんが笠寺駅に持っていって補充券6枚と交換してもらったが,まだ破れたのが家にあったので,この駅で交換してほしい」などとうそを言って回数券の交換を請求し,正当な権利に基づく本物の新幹線自由席特急回数券の交換請求であると信じ込ませ,東京都区内と名古屋市内を乗車区間とする新幹線自由席の特別補充券計12枚(時価合計2万0760円相当)をだまし取ろうとしたが,大橋らが不審を抱き,特別補充券を交付しなかったため,その目的を遂げなかった。

第三 平成9年3月26日ころから3月31日ころまでの間,前記被告人両名方において,行使の目的で,パソコンとスキャナープリンターを用い,複写用紙に金額千円の本物の日本銀行券の表面及び裏面を複写し,これを裁断するなどして,通用する金額千円の日本銀行券12枚(平成9年押第239号の1,2)を偽造した上,同年4月1日午前10時10分ころ,同南区明治<地番省略>乙山商店において,被告人花子が,缶ジュース等を購入するに当たり,経営者の乙山春子に対し,偽造した金額千円の日本銀行券1枚を手渡して行使した。

第四 平成9年3月26日ころから3月28日ころまでの間,同南区道徳新町<地番省略>のBと前記被告人両名方において,行使の目的で,パソコンと白黒複写機等を用い,複写用紙にユニー株式会社が発行する額面千円の商品券の表面及び裏面を複写し,これを裁断するなどして,有価証券である額面千円のユニー商品券3枚(平成9年押239号の3から5)を偽造した上,いずれも被告人花子が

一 同年3月28日午後9時51分ころ,同南区南陽通<地番省略>のCにおいて,店員の尾関芳文に対し,本物であるかのように装って,前記偽造商品券1枚を提出して行使し,商品券で商品を購入したいと申し込み,尾関に本物のユニー抹式会社 発行の商品券による商品の購入申し込みであると信じ込ませ,紙おむつ1袋(販売価格450円)をだまし取った。

二 同年3月30日午後7時48分ころ,同南区内田橋<地番省略>のDにおいて,店員の小林篤史に対し,一と同様に装って,偽造商品券1枚を提出して行使し,商品券で商品を購入したいと申し込み,小林に一と同様に信じ込ませ,現金72円と紙おむつ1袋ほか2点(販売価格合計908円)をだまし取った。

三 同年3月31日午後零時33分ころ,同熱田区五本松町<地番省略>のEにおいて,店員の本田純代に対し,一と同様に装って,偽造商品券1枚を提出して行使し,商品券で商品を購入したいと申し込み,本田に一と同様に信じ込ませ,現金588円とカップ入リデザート2個(販売価格合計400円)をだまし取った。

第五 平成9年4月7日ころから4月9日ころまでの間,前記A社と前記被告人両名方において,行使の目的で,カラー複写機とワープロ等を用い,複写用紙に東京都区内と名古屋市内を乗車区間とする新幹線指定席特急回数券の表面及び裏面を複写し,これを裁断するなどして,有価証券である東京都区内と名古屋市内を乗車区間とする新幹線指定席特急回数券5枚(平成9年押第239号の6から10)を偽造した上,同年4月9日午後8時20分ころ,同南区呼続<地番省略>のFにおいて,経営者の伊藤桂子に対し,被告人花子が,偽造新幹線指定席特急回数券5枚を,本物であるかのように装って提出して行使し,回数券5枚を換金したいと申し込み,伊藤に本物の新幹線指定席特急回数券の換金申し込みであると信じ込ませ,現金3万5000円をだまし取った。

(証 拠)

<省 略>

(法令の適用)

罰  条

第一,第四,第五の行為のうち

回数券,商品券を偽造した点  包括して刑法60条,162条1項

偽造回数券,同商品券を行使した点  刑法60条,163条1項

詐欺の点  刑法60条,246条1項

第二の行為

刑法60条,250条,246条1項

第三の行為のうち

千円札を偽造した点  包括して刑法60条,148条1項

偽造千円札を行使した点  刑法60条,148条2項

科刑上一罪の処理

第一,第四,第五の各行為

いずれも刑法54条1項後段,10条(刑及び犯情の最も重い偽造有価証券行使罪の刑で処断)

第三の行為

刑法54条1項後段,10条(犯情の重い偽造通貨行使罪の刑で処断)

刑種の選択

(第三の罪) 有期懲役刑

併合罪の処理

刑法45条前段,47条本文,10条,14条(最も重い第三の罪の刑に加重)

酌量減軽

刑法66条,71条,68条3号

未決勾留日数の算入

刑法21条

没 収

刑法19条1項1号,2号,2項本文

(量刑の理由)

 本件は,被告人両名が,新幹線回数券やユニー商品券を偽造,行使して,新幹線の特別補充券や商品等をだまし取り(第一,第四,第五),あるいは,偽造新幹線回数券を使って新幹線の特別補充券をだまし取ろうとしたが未遂に終わり(第二),また,千円札を偽造,行使し,商品をだまし取った(第三)という各事案である。

 被告人両名は,自宅マンションの購入や弁当店の経営の失敗などにより7000万円以上の多額の負債を抱え,日々の生活費にも困って本件犯行に及んだものであるが,被告人らの計画性の無さによる面が大きく,特に酌むべき事情があるとはいえない。被告人両名は,新幹線回数券,商品券,千円札と次々と偽造,行使を重ねており,その枚数も少なくなく,それらが社会で果たす役割,特に通貨は経済取引の根幹をなし,その信用性が損なわれれば社会に深刻な影響を及ぼすものであることなどを考えると,本件犯行は悪質といわざるを得ない。新幹線回数券や千円札の偽造,行使,詐欺等については,いったん失敗した後,さらに犯行を繰り返すなど執拗である。偽造のためにパソコンやスキャナープリンター,さらには,カラーと白黒の複写機を使用するなど,計画的で巧妙な犯行である。OA機器が普及しつつある現在,本件のような犯罪は模倣される危険性が高い。被害弁償もなされていない。その他,被告人両名は互いに協力しながら本件犯行を行っており,犯行への関与の程度に 特に大きな差はないこと,被告人太郎については罪の重い通貨偽造を自ら行っていること,生活態度が芳しくなく,暴行,傷害の罰金前科が2回あることなども考慮すると,被告人両名の刑事責任はいずれも重く,実刑が相当である。

 他方,被告人両名とも,2人の幼い子どもを抱え,生活費にも事欠く切羽詰まった状況の中で犯行に及んでおり,犯行によって得た商品や現金などもそれほど多くはなく,主に食費など当座の生活に充てられている。また,被告人両名とも,捜査段階の途中から犯行を認めて反省の態度を示しており,被告人太郎については,今後は郷里に帰り,両親のもとで漁師として人生をやり直したいと述べていること,被告人花子については,準看護婦の資格もとって,被告人太郎と知り合う前は通常の社会生活を送っていたもので,前科もないこと,本件犯行への関与の程度は被告人太郎に比べ決して低くないが,主婦として生活の必要に迫られていた上,夫である被告人太郎の影響を受け,あるいは被告人太郎の暴力を恐れる等の理由から,その意向に添う形で犯行に深入りしている面も窺われること,加えて,養育すべき2人の幼い子どもがいることなど,酌むべき事情もある。

 以上の事情を総合考慮して,酌量減軽の上,被告人両名をそれぞれ主文の刑とした。

裁 判 長 裁 判 官   安   江     勤

      裁 判 官   山  本   哲  一

      裁 判 官   水  野   将  徳


Copyright (C) 1998-2001 Takato Natsui, All rights reserved.

Published on the Web : Aug/26/1998

Error Corrected : Jun/18/2001

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