システムサイエンス事件第一審判決


事        実

第一 当事者の求めた裁判

  一 原  告

1 主文第一項と同旨。

2 被告東洋測器株式会社(以下「被告東洋」という。),被告株式会社日本テクナート(以下「被告日本テクナート」という。)は,別紙物件目録一(一)ないし(四)記載の各プログラムを複製し,又は翻案してはならない。

3 被告株式会社永井商会(以下「被告永井商会」という。)は,別紙物件目録一(四)記載のプログラムを複製し,又は翻案してはならない。

4 被告東洋は,別紙物件目録一(一)記載のプログラムを収納した別紙物件目録二(一),(三)記載の各装置,別紙物件目録一(二)記載のプログラムを収納した別紙物件目録二(二),(四)記載の各装置,別紙物件目録一(三)記載のプログラムを収納した別紙物件目録二(五)ないし(八)記載の各装置及び別紙物件目録一(四)記載のプログラムを収納した別紙物件目録二(九)記載の装置を頒布し,または頒布のために広告,展示してはならない。

5 被告東洋は,右第4項記載の各装置を廃棄せよ。

6 被告日本テクナートは,別紙物件目録一(一)記載のプログラムを収納した別紙物件目録二(一),(三)記載の各装置,別紙物件目録一(二)記載のプログラムを収納した別紙物件目録二(二),(四)記載の各装置及び別紙物件目録一(三)記載のプログラムを収納した別紙物件目録二(五)ないし(八)記載の各装置を頒布してはならない。

7 被告日本テクナートは,右第6項記載の各装置を廃棄せよ。

8 被告永井商会は,別紙物件目録一(四)記載のプログラムを収納した別紙物件目録二(九)記載の装置を頒布してはならない。

9 被告永井商会は,右第8項記載の装置を廃棄せよ。

10 被告東洋,被告村谷紀夫(以下「被告村谷」という。),被告前田俊夫(以下「被告前田」という。),被告永井商会,被告武部赳夫(以下「被告武部」という。)は,原告に対し,速帯して,金3138000円及び内金2728000円に対する昭和61927日から,内金50万円に対する平成276日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

11 被告東洋,被告村谷,被告前田,被告日本テクナート,被告小島三郎(以下「被告小島」という。)は,原告に対し,連帯して金126094000円及び金89662000円に対する平成元年71日から,内金500万円に対する第一事件訴状送達の日の翌日から,内金31432000円に対する平成341日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

12 被告東洋,被告村谷,被告前田は,原告に対し,連帯して金440万円及び内金1364000円に対する平成元年71日から,内金3036000円に対する平成341日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

13 被告東洋,被告村谷,被告前田は,原告に対し,本判決確定後60日以内に

一 別紙記載の謝罪広告一を連名で,別紙記載の掲載規格一により株式会社日本経済新聞社発行の「日本経済新聞」紙面上に,

二 別紙記載の謝罪広告二を連名で,別紙記載の掲載規格二により社団法人日本薬学会発行の「ファルマシア」,社団法人日本農芸化学会発行の「日本農芸化学会誌」の各誌紙面上に,

それぞれ各一回掲載せよ。

14 訴訟費用は,被告らの負担とする。

仮執行宣言。

  二 被告ら

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二 当事者の主張

  一 請求の原因

1 当事者

(一) 原告は,計測,制御システム機器の設計,製造,販売を行うことを主な目的として,昭和52722日に設立された株式会社である。

(二) 被告東洋は,分析機器,計測機,医療機器の製造,販売,輸出入を目的として昭和48417日に設立された会社である。

(三) 被告村谷は昭和49515日に被告東洋の取締役に就任し,同年1130日から平成4313日まで同社の代表取締役の地位にあった。

(四) 被告前田は昭和52520日に被告東洋の取締役に就任し,平成4313日に同社の代表取締役に就任し,現在もその地位にある。

(五) 被告日本テクナートは,電子機器,情報処理システムの設計,開発,製造,販売等を目的として昭和50123日に設立された会社であり,被告小島は設立と同時に同社の代表取締役に就任し,今日に至っている。

(六) 被告永井商会は,光学機械,電気器具の設計・製作販売並びに伸立を目的として,昭和32820日に設立された会社であり,被告武部は遅くとも昭和5611日から現在まで同社の代表取締役の地位にある。

2 原告著作物

(一) ゾーンアナライザーシステムZA-FMU暫定版及びZA-FXU暫定版(以下「ZA-FMU暫定版」,「ZA-FXU暫定版」といい,これらを「ZA-FU暫定版」と総称することがある。)は,ゾーンアナライザーシステムZA-FMZA-FX(以下「ZA-FM」,「ZA-FX」という。)の改良型であり,種々の培地上の阻止円や発育体,コロニーの数,面積,直径等を正確に自動認識測定し,種々の方式により抗生物質等検体の力価計算を自動的に行い,また各種菌株の面積を自動測定し,活性判断や薬剤に対する感受性判断を自動的に行う最小発育阻止濃度測定装置である。

 このうちZA-FMU暫定版は,単一シャーレ検体用システムであり,ZA-FXU暫定版は,80阻止円まで培養可能な大型平板を用いて計測する大量検体用システムである。

 別紙物件目録一(一)記載のプログラム(以下「ZA-FMU暫定版プログラム」という。),同一(二)記載のプログラム(以下「ZA-FXU暫定版プログラム」という。)は,それぞれZA-FMU暫定版,ZA-FXU暫定版の回路基盤のリードオンリーメモリーIC(以下「ROM」という。)に収納されている。

 なお,阻止円とは,例えば,特別に管理された細菌を塗布した寒天を敷き詰めたシャーレ上に一定量の抗生物質等の試験薬を置き(置き方にはカップ法,ディスク法,ホール法がある),これを一定温度にて一定時間培養(細菌を増殖させる)したときに該試験薬が阻止した細菌の非増殖部分をいい,非増殖部分が円状となって見えることから,阻止円といわれる。右の阻止円の面積,直径を計測し,その力価計算を行うことにより該試験薬の効能を数字的に現すことができる。

 発育体とは,シャーレ上に塗布された発育栄養素(試験薬。例えばビタミンを活性化させる物質)上に置かれた薬剤等(例えばビタミン)のことであり,発育体の拡散度(活性化物質によりビタミンの大きさが広がる)をその拡散部分の面積,直径を計測し,標準化された一定式にあてはめることにより試験薬の効果を力価として現すことができる。

 コロニーとは,シャーレ上の培地に発育した細菌(検体)などの群落をいう。例えば,シャーレ上にアルカリ性の培地を作り,培地にある種の酵母菌を混ぜておくと,その酵母菌がアルカリに強いものであれば培地の養分を得て群落を作ることになり,その数或いは面積直径等を計測することによりその検体のアルカリ性に対する抗性等を検査することができる。

 最小発育阻止濃度測定とは,薬が効果を表す最小の濃度を測定することであり,例えば,12枚位のシャーレ上に薬の2のn乗で薬剤濃度を変えた培地(寒天に薬を混ぜたもの)を作り,その培地上にそれぞれ検体の菌を何種類か置き,それぞれの菌が薬により発育を阻止される最小濃度を測定することによりその菌の該薬剤に対する感受性を自動的に測定することができる。

(二) コロニーアナライザーシステムCA-7U(以下「CA-7U」という)は,コロニーアナライザーシステムCA-7の改良型であり,薬学,食品検査,医学,生化学,粉粒等の分野における種々多様なコロニー,プラーク,各粒子等検体の面積と数及び直径を計測し,更にグループ計算や阻止円の力価計算から,データのプリントアウトまでを行う画像処理装置である。

 別紙物件目録一(三)記載のプログラム(以下「CA-7Uプログラム」という。)は,CA-7Uの回路基盤のROMに収納されている。

(三) 画像処理法最小発育阻止濃度測定装置MIC(以下「MIC」という。)は,ZA-FUの最小発育阻止濃度の測定を行う装置であり,右機能を持たないCA-7のオプション装置として開発されたものである。

 別紙物件目録一(四)記載のプログラム(以ト「MICプログラム」という。)は,MICの回路基盤のROMに収納されている。

3 著作権の帰属

(一) ZA-FMU暫定版プログラム,ZA-FXU暫定版プログラム

(1) ZA-FMU暫定版プログラム,ZA-FXU暫定版プログラムは,原告の法人著作物であって,その著作権は,原告に帰属する。

(2) すなわち,原告代表者である菅野清,原告の取締役である唐沢誠は,原告の業務に従事しているものであるが,原告の発意に基づき,職務上,両名において,昭和591110日頃から昭和60630日頃までの間に,ZA-FUのシステム分析検討,プログラムの仕様検討を行い,また,唐沢において,同年320日頃から同年930日頃までの間に,ZA-FMU暫定版プログラム,ZA-FXU暫定版プログラムのゼネラルフローチャート及びディテイルフローチャートを作成し,右ディテイルフローチャートをアッセンブラー言語でコーディングして手書きのソースプログラムを作成し,これを電子計算機に入力し,アッセンブルしてオブジェクトプログラムを作成し,デバッグを行い,最後に,両名において,同年915日頃から総合テストを行い,同月26日頃,右各プログラムを完成させた。

(3) ZA-FXU暫定版プログラムは,ZA-FMU暫定版プログラムの全てを包含しており,ZA-FMU暫定版は,そのROM内にFXU暫定版プログラムが収納されており,ハード面においてFX用のプログラムの部分が作動しないようにしてあるものである。

(4) 原告は,ZA-FXU暫定版プログラムを複製してROM内に収納し,右ROMZA-FMU暫定版の回路基盤に装着し,昭和60926日に2台,昭和61220日に3台,その他に6台のZA-FMU暫定版を被告東洋に納品した。

 ZA-FMU暫定版プログラム,ZA-FXU暫定版プログラムは,ZA-FMU暫定版,ZA-FXU暫定版プログラムのためにのみ作成されており,それ自体を独立したソフトウェアとして取引の対象とすることは予定されておらず,また,ZA-FMU暫定版,ZA-FXU暫定版プログラムには原告の製造銘板が貼付されているから,ZA-FMU暫定版プログラム,ZA-FXU暫定版プログラムは,原告がZA-FXU暫定版プログラムの複製物を収納したROMを装着したZA-FMU暫定版の販売を開始した時点又は遅くとも5台納品された昭和61220日の時点で原告名義で公表された。

(5) 仮に,前記記載の事実では未だ公表したものと解されないとしても,ZA-FMU暫定版プログラム,ZA-FXU暫定版プログラムを作成した唐沢,菅野は,右プログラムを公表するようなことになれば当然原告のものとして公表することを予定していたものである。また,右各プログラムは,菅野,唐沢が原告の勤務時間内に,原告の計算機等の機械を使用して作成したものであり,かつ他の資料とあいまって原告の将来の組織的な共同研究開発作業の基礎となり,またその過程で必要な修正等を加えられるべき性質のものである。更に,原告は,右各プログラムに関して,ソースプログラム,製造仕様書等の重要書類も合わせて作成者を含む全社員に公表を禁止していたものであって,このような事実からすれば,ZA-FMU暫定版プログラム,ZA-FXU暫定版プログラムは,仮に公表されるとしたら,当然に原告名義で公表される性格のものであったから,昭和60年法律第62号による改正前の著作権法15条の規定にいう「公表」の要件を充足する。

(二) CA-7Uプログラム

(1) CA-7Uプログラムは,原告の法人著作物であって,その著作権は,原告に帰属する。

(2) すなわち,菅野及び唐沢は,原告の業務に従事しているものであるが,原告の発意に基づき,職務上,両名において,昭和60101日頃から同年215日頃までの間に,CA-7Uのシステム分析検討,プログラム仕様検討を行い,次に,唐沢において,同年1020日頃から同年1230日頃までの間,ゼネラルフローチャート,ディテイルフローチャートを作成し,右ディテイルフローチャートをアッセンブラー言語でコーディングして手書きのソースプログラムを作成し,これを電子計算機に入力し,アッセンブルしてオブジェクトプログラムを作成し,デバッグを行い,最後に,両名において,昭和6115日頃から総合テストを行い,同年320日頃,CA-7Uプログラムを完成させた。

(三) MICプログラム

(1) MICプログラムは,原告の法人著作物であって,その著作権は,原告に帰属する。

(2) すなわち,菅野及び唐沢は,原告の業務に従事しているものであるが,原告の発意に基づき,職務上,まず,両名において,昭和54111日頃から昭和55115日頃までの間に,MICのシステム分析検討,プログラムの仕様検討を行い,次に,唐沢において,昭和541220日頃から昭和55320日頃までの間に,ゼネラルフローチャート,ディテイルフローチャートを作成し,右ディテイルフローチャートをアッセンブラー言語でコーディングして手書きのソースプログラムを作成し,これを電子計算機に入カし,アッセンブルしてオブジェクトプログラムを作成し,デバッグを行い,最後に,両名において,同年320日頃から総合テストを行い,同年420日頃,MICプログラムを完成させた。

(3) MICプログラムは,MICのためにのみ作成されており,また,原告の製造銘板を貼付して昭和56314日に1号機を,同年523日には2号機を被告東洋に納品しているから,1号機を納品した昭和56314日,あるいは遅くとも2号機を納品した昭和56523日には,MICプログラムの公表があった。

(4) 仮に公表の事実が認められないとしても,前記(一)(5)と同様の理由により,MICプログラムも,原告の名義で公表される性格のものであったから,昭和60年法律第62号による改正前の著作権法15条の規定にいう「公表」の要件を充足する。

(四) 仮に,ZA-FMU暫定版プログラム,ZA-FXU暫定版プログラム,CA-7Uプログラム,MICプログラムが原告の法人著作物と認められないとしても,原告は,昭和63523日,唐沢及び菅野から,右各プログラムの著作権を無償で譲り受けた。

4 確認の利益及び被告らの権利侵害行為

 被告らは,本件各プログラムの著作権が被告東洋に帰属すると主張して,原告が本件各プログラムの著作権を有することを争い,次のとおり原告の権利を侵害する行為を行っている。

(一) 昭和5781日から平成元年630日までの間の侵害行為

(1) 被告東洋は,昭和617月から9月頃被告日本テクナートに対し,ZA-FXU暫定版と同様の装置の製作を依頼し,これを受諾した被告日本テクナートは,原告が被告東洋に既に納入し在庫となっていたZA-FMU暫定版3台を別紙目録二(二),(四)記載のゾーンアナライザーZA-FXU,ZA-FXV(以下「被告ZA-FXU」,「被告ZA-FXV」という。)に改造し,その際,被告日本テクナートは,ZA-FXU暫定版プログラムを複製して,他のROMに収納し,被告ZA-FXU,被告ZA-FXVの回路基盤に装着した。被告東洋は,被告日本テクナートから,これらの被告ZA-FXU,被告ZA-FXVの納入を受けて,右期間に販売した。

(2) 被告東洋は,被告日本テクナートに対し,右(1)とは別にZA-FXU暫定版と同様の装置の製作を依頼し,これを受諾した被告日本テクナートは,被告ZA-FXV1台を製造したが,その際,被告日本テクナートは,ZA-FXU暫定版プログラムを複製して,他のROMに収納し,被告ZA-FXVの回路基盤・に装着した。被告東洋は,被告日本テクナートから,この被告ZA-FXVの納入を受けて,右期間に販売した。

(3) 被告東洋は,被告日本テクナートに対し,ZA-FMU暫定版と同様の装置の製作を依頼し,これを受諾した被告日本テクナートは,別紙目録二(九)記載のゾーンアナライザーZA-FMV(以下「被告ZA-FMV」という。)13台を製造し,その際,被告日本テクナートは,ZA-FMU暫定版プログラムを複製して,他のROMに収納し,被告ZA-FMVの回路基盤に装着した。被告東洋は,被告日本テクナートから,これらの被告ZA-FMVの納入を受けて,右期間に販売した。

(4) 被告東洋は,被告日本テクナートに対し,CAUと同様の装置の製作を依頼し,これを受諾した被告日本テクナートは,別紙目録二(五)ないし(八)記載のコロニーアナライザーシステムCA-9ACA-9MCA-9FCA-9D(以下「被告CA-9A」,「被告CA-9M」,「被告CA-9F」,「被告CA-9D」といい,これらを「被告CA-9」と総称することがある。)合計17台を製造したが,その際,被告日本テクナートは,CA-7Uプログラムを複製して,他のROMに収納し,被告CA-9A,被告CA-9M,被告CA-9F,被告CA-9Dの回路基盤に装着した。被告東洋は,被告日本テクナートから,これらの被告CA-9A,被告CA-9M,被告CA-9F,被告CA-9Dの納入を受けて,右期間に販売した。

 被告らは,平成元年630日までに販売した被告CA-9の台数を17台から16台に変更しているが,原告は,被告らの右自白の撤回に異議がある。また,右自白が真実に合致しないことの証明もない。

(5)

(ア)被告東洋は,被告永井商会に対し,MICと同じ装置の製作を依頼し,これを受諾した被告永井商会は,別紙目録二(九)記載の画像処理法最小発育阻止濃度測定装置(以下「被告MIC」という。)4台を製造したが,その際,MICプログラムを複製して,他のROMに収納し,右ROMを被告MICの回路基盤に装着した。被告東洋は,被告永井商会から,これらの被告MICの納入を受けて,右期間に販売した。

(イ) また,被告東洋は,昭和592月頃から,被告MIC 2台を製造したが,その際,MICROMに収納されているMICプログラムの複製物を複製して,他のROMに収納し,右ROMを被告MICの回路基盤に装着し,これらの被告MICを右期間に販売した。

(二) 東京地方裁判所昭和62年(ヨ)第2531号著作権侵害差止仮処分申請事件の却下決定に対する抗告事件(東京高裁平成元年(ラ)第327号)についての決定(以下「別件高裁決定」という。)後である平成元年71日から平成3331日までの間の侵害行為

(1) 被告東洋は,被告日本テクナートに対し,ZA-FXU暫定版と同様の装置の製作を依頼し,これを受語した被告日本テクナートは,被告東洋が販売済の被告ZA-FMV4台を被告ZA-FXVに改造したが,その際,被告日本テクナートは,ZA-FXU暫定版プログラムを複製して,他のROMに収納し,被告ZA-FXVの回路基盤に装着した。被告東洋は,被告日本テクナートから,これらの被告ZA-FXVの納入を受けて,右期間に販売した。

(2) 被告東洋は,被告日本テクナートに対し,ZA-FXU暫定版と同様の装置の製作を依頼し,これを受諾した被告日本テクナートは,被告ZA-FXV2台を製造したが,その際,被告日本テクナートは,ZA-FXU暫定版プログラムを複製して,他のROMに収納し,被告ZA-FXVの回路基盤に装着した。被告東洋は,被告日本テクナートから,これらの被告ZA-FXVの納入を受けて,右期間に販売した。

(3) 被告東洋は,被告日本テクナートに対し,ZA-FMU暫定版と同様の装置の製作を依頼し,これを受諾した被告日本テクナートは,被告ZA-FMV2台を製造したが,その際,被告日本テクナートは,ZA-FMU暫定版プログラムを複製して,他のROMに収納し,被告ZA-FMVの回路基盤に装着した。被告東洋は,被告日本テクナートから,これらの被告ZA-FMVの納入を受けて,右期間に販売した。

(4) 被告東洋は,被告MIC4台を製造したが,その際,MICROMに収納されているMICプログラムを複製して,他のROMに収納し,右ROMを被告MICの回路基盤に装着し,これらの被告MICを右期間に販売した。

(三) 被告東洋の責任

 被告東洋は,ZA-FMU暫定版,ZA-FXU暫定版,CA-7U,MICにそれぞれ収納されているZA-FMU暫定版プログラム,ZA-FXU暫定版プログラム,CA-7Uプログラム,MICプログラムの著作権が原告に帰属していることを知りながら,右(一),(二)のとおり,被告日本テクナート及び被告永井商会に右各プログラムの複製を指示し,また,自らMICプログラムを複製したものである。

 そして,右のように複製したプログラムを収納したROMを装着した各装置を,被告日本テクナート及び被吉永井商会から情を知って買受け,販売したものであり,これは,被告日本テクナート及び被告永井商会を利用した複製行為そのものであり,仮にそうでないとしても運法な複製行為の教唆として,複製者と同様の責任を負うものである。

 更に,情を知って取得している以上,前記各装置を鎖布する行為は著作権法11312号により侵害行為とみなされる。

 被告東洋の,本件侵害行為時の代表取締役であった被告村谷は,本件各プログラムは原告の菅野,唐沢が作成したことを承知しており,各プログラムを収納した装置を原告から継続的に買い受けて販売するに至った経緯から,本件各装置のROMに収納されている各プログラムの著作権が原告に帰属していることを知っていた。

 仮に,被告東洋に故意が認められないとしても,被告東洋は原告との本件各装置の供給契約を解約するにあたり,弁護士に委任して原告に対して契約解除の通告書を送付し,これに対し,原告から昭和6171日付けで本件各装置の全ての権利が原告に帰属している旨の回答書の送付を受けていた。被告東洋の代表者であった被告村谷は,弁護士に相談すれば,プログラム著作権が誰に帰属するかを容易に知り得たはずであるが,相談することなく漫然と他社にプログラムを複製させて装置に装着させて,あるいは自らプログラムを複製したうえ装置に装着して販売したもので,被告東洋には重過失がある。

 更に,被告東洋は,仮処分手続中に「本件装置は今後販売しないし,現に販売してもいない」と主張し,また,平成元年620日に,ZA-FMU暫定版プログラム,ZA-FXU暫定版プログラム,MICプログラムを取納した被告ZA-FMV,被告ZA-FXV,被告MICを頒布してはならないという仮処分決定を受けたにもかかわらず,その後も頒布を継続していたものであり,右期間については故意というよりも悪意,害意があったといわざるを得ない。

(四) 被告日本テクナートの責任

 被告日本テクナートは,被告東洋からZA-FU暫定版,CA-7U装置と同様の装置の製作を依頼された際,被告東洋が原告の承諾なく原告装置のハード,本件プログラムを含めたソフトをそっくり複製して販売することを承知のうえ,あえて被告東洋の依頼を受諾し,その製造を行うようになったものである。

 被告日本テクナートは特許権を有していて,工業所有権やプログラム著作権に詳しい会社である。そういう会社であれば,仮に被告東洋が装置の開発をしたりプログラムの権利を有しているというのであれば,当然に装置の製造のために必要な設計図面や回路図面,プログラムリスト等の技術的資料,ROM内のプログラムのソースプログラム,製造仕様書等権利者であれば所持しているはずの書類を所持していないことに気付くはずである。被告東洋がいかなる説明をしたとしても,これらの資料を有していない被告東洋を権利者であると判断したはずはない。

 また,前記のとおり,被告日本テクナートが工業所有権等の権利関係に詳しい会社であること,被告東洋から渡されたという装置の現物に原告の製造銘板が貼付してあったこと,被告日本テクナートにおいては,原告に連絡をとってプログラムの権利関係について確認をとろうと思えば容易に確認し得たはずであること,被告日本テクナートの代表者である被告小島は,原告から東洋への納品価格が一般の下請け業者の卸値であると認識していながら,それより大幅に安い卸値で取引していること等からすれば,仮に被告日本テクナートに故意が認められないとしても,重過失がある。

 更に,原告代理人から被告日本テクナートに対して昭和63723日付け内容証明郵便(同月25日到達)で権利侵害の事実を伝えて警告し,原告代理人から事情を説明する旨も伝えたものである。したがって,少なくとも昭和63725日以降の複製分については,被告日本テクナートに故意又は重過失がある。

 仮処分の高裁決定後にZA-FMのハードウェアのみを納入したものとしても,これに被告東洋がZA-FMU暫定版プログラム,ZA-FXU暫定版プログラムを複製し,収納して,販売した以上,被告日本テクナートには故意がある。

(五) 被告東洋と被告日本テクナートの共同不法行為

 被告東洋は,ZA-FMU暫定版,ZA-FXU暫定版,CA-7Uにそれぞれ収納されているZA-FMU暫定版プログラム,ZA-FXU暫定版プログラム,CA-7Uプログラムの著作権が原告に帰属していることを知りながら,また,被告日本テクナートは,右各プログラムの著作権が被告東洋に帰属していないことを知りながら,あるいは過失によりそれを知らないで,前記(一)(1)ないし(4),(二)(1)ないし(3)の行為をしたものであるところ,被告東洋は,右行為によって原告の卸値より大幅に安い価格で被告ZA-FXU,被告ZA-FXV,被告ZA-FMV及び被告CA-9A,被告CA-9M,被告CA-9F,被告CA-9Dの供給を受け,販売することができ,被告日本テクナートは,各プログラムを複製し,右各装置を製造,販売して利益を得ることができ,いわば一体となって,相互に補完しながら複製,販売を継続することによって利益を上げることができるという関係にあったもので,客観的な関連共同は勿論,主観的にも関連共同しながら原告のプログラム著作権を侵害したものである。

(六) 被告村谷,被告前田,被告小島の責任

 右に被告東洋及び被告日本テクナートの行為と主張した行為は,具体的には,被告東洋の代表取締役であった被告村谷,同じく取締役であった被告前日,被告日本テクナートの代表取締役である被告小島が,被告村谷についてはその職務として被告東洋の行為をし,被告小島についてはその職務として被告日本テクナートの行為をし,また,被告前田についてはその業務執行として被告東洋の右行為をしたものである。

 したがって,被告村谷,被告前田,被告小島の右各行為は個人の行為としても共同不法行為を構成するとともに,商法2613項,782項,民法441項の規定又は民法7151項の規定により,被告東洋と被告日本テクナートも不法行為上の責任を負うものであり,右5名の被告らの行為は共同不法行為を構成する。

 また,被告村谷,被告前田,被告小島は,それぞれ被告東洋又は被告日本テクナートの職務を忠実に遂行する義務に重大な過失により違反して前記の行為をしたものであるから商法第266条の3の規定に基づき,原告に対し,右行為によって原告が被った損害を賠償すべき義務がある。

(七) 被告永井商会の責任

 被告永井商会は,被告東洋から事情説明を受け,被告東洋が原告の承諾なく原告製品のハード,ソフトをそっくり複製して販売することを承知の上,あえて被告東洋の依頼を受諾し,ロムライターを用いて原告のMICプログラムを複製し,MIC装置の製造を行うようになったものであり,原告の権利侵害につき故意がある。

 仮にそうでないとしても,被告永井商会は,被告東洋が本件装置のROM内のプログラムのソースプログラム,製造仕様書等権利者であれば当然所持しているはずのプログラムの権利に関する重要な書類も持たずに製造を依頼してきたにもかかわらず,あえてその製造を行うようになった。

 すなわち,被舎永井商会は,被告東洋が持ち込んだ原告の装置の回路基盤に装着されたROMに収納されたオブジェクトプログラムをロムライターを用いて原告に無断で他のROMに移し替え,あるいは,被告東洋が持ち込んだ原告のオブジェクトプログラムを違法に複製収納したROMから更に他のROMに移し替え,新たにそのオブジェクトプログラムを収納したROMを用いて原告の装置と同じ機能,形態,名称を有する分析精密機器を製造して被告東洋に販売し,被告東洋は被告永井商会から仕入れた右装置を販売したものである。

 被告永井商会では,当時,社長の息子である武部明が何度も原告を訪問していたし,原告代表者菅野とは旧知の間柄であったのだから,プログラムの権利について原告に確認しようと思えば容易に確認できたにもかかわらず,あえて確認せず複製行為を行ったものであり,少なくとも過失がある。

(八) 被告東洋と被告永井商会の共同不法行為

 被告東洋は,MICに収納されているMICプログラムの著作権が原告に帰属していることを知りながら,また,被告永井商会は,右プログラムの著作権が被告東洋に帰属していないことを知りながら,あるいは過失によりそれを知らないで,前記(一)(5)(ア)の行為をしたものであるところ,被告東洋は,右行為によって原告の卸値より大幅に安い価格で被告MICの供給を受け,販売することができ,被告永井商会は,右プログラムを複製し,被告MICを製造販売して利益を得ることができ,いわば一体となって,相互に補完しながら複製,販売を継続することによって利益を上げることができるという関係にあったもので,客観的な関連共同は勿論,主観的にも関連共同しながら原告のプログラム著作権を侵害したものである。

(九) 被告村谷,被告前田,被告武部の責任

 右に被告東洋及び被告永井商会の行為と主張した行為は,具体的には,被告東洋の代表取締役であった被告村谷や,同じく取締役であった被告前田,被告永井商会の代表取締役である被告武部が,被告村谷についてはその職務として被告東洋の行為をし,被告武部についてはその職務として被告永井商会の行為をし,また,被告前田についてはその業務執行として被告東洋の右行為をしたものである。

 したがって,被告村谷,被告前田,被告武部の右各行為は個人の行為としても共同不法行為を構成するとともに,商法2613項,782項,民法441項の規定又は民法7151項の規定により,被告東洋と被告永井商会も不法行為上の責任を負うものであり,右5名の被告らの行為は共同不法行為を構成する。

 また,被告村谷,被告前田,被告武部は,それぞれ被告東洋又は被告永井商会の職務を忠実に遂行する義務に重大な過失により違反して前記の行為をしたものであるから商法第266条の3の規定に基づき,原告に対し,右行為によって原告が被った損害を賠償すべき義務がある。

5 差止請求権,廃棄請求権

(一) 被告東洋は,前記4(一)ないし(三)のとおり,ZA-FMU暫定版プログラムを収納した被告ZA-FMV,ZA-FXU暫定版プログラムを収納した被告ZA-FXU,被告ZA-FXV,CA-7Uプログラムを収納した被告CA-9A,被告CA-M,被告CA-9F,被告CA-9DMICプログラムを収納した被告MICを製造,販売しているので,原告は,著作権法1121項,2項又は同法11312号の規定に基づき,被告東洋の右行為の際の本件各プログラムの複製,翻案及び右各装置の頒布等の差止請求権並びに同法1122項の規定に基づき,被告東洋の所有する右各装置の廃棄請求権を有する。

(二) 被告日本テクナートは,前記4(一)(1)ないし(4),(二)(1)ないし(3),(四)のとおり,ZA-FMU暫定版プログラムを収納した被告ZA-FMV,ZA-FXU暫定版プログラムを収納した被告ZA-FXU,被告ZA-FXV,CA-7Uプログラムを収納した被告CA-9A,被告CA-9M,被告CA-9F,被告CA-9Dを製造,販売しているので,原告は,著作権法112条1項又は同法113条1項2号の規定に基づき,被告日本テクナートの右行為の際の右各プログラムの複製,翻案及び右各装置の頒布の差止請求権並びに同法1122項の規定に基づき,被告日本テクナートの所有する右各装置の廃棄請求権を有する。

(三) 被告東洋,被告日本テクナートは,ZA-FMU暫定版プログラムを複製してZA-FMU暫定版と同様な機器を製作していたのであるから,ZA-FMU暫定版と同一の別紙目録二(一)記載のゾーンアナライザーZA-FMU(以下「被告ZA-FMU」という。)を製造販売するおそれがあるので,原告は,被告東洋,被告日本テクナートの右行為の予防請求権を有する。

(四) 被告永井商会は,前記4(一)(5)(ア)のとおり,MICプログラムを収納した被告MICを製造,販売しているので,原告は,著作権法1121項又は同法11312号の規定に基づき,被告永井商会の右行為の際の右プログラムの複製,翻案及び右装置の頒布の差止請求権並びに同法1122項の規定に基づき,被告永井商会の所有する右装置の廃棄請求権を有する。

6 損 害 額

(一) 主位的主張

(1) 昭和5781日から平成元年630日までの間に販売した分

(ア) ZA-FMU暫定版を改造した被告ZA-FXU,被告ZAFXV 3台について

 被告東洋による被告ZA-FXU,被告ZA-FXV各1台の実績販売価格(標準小売価格1500万円の8割)は1200万円である。

 他方,ZA-FMU暫定版の原告から被告東洋への販売価格は400万円であり,ZA-FMU暫定版を被告ZA-FXVに改造する場合は,更に材料費668198円を要するから,材料原価は,4668198円である。

 被告日本テクナートの工場部門の直接作業看の時間単価(アワーレート)は4000円とするのが相当であるところ,ZA-FMU暫定版を被告ZA-FXU,被告ZA-FXVに改造するのに要する製造・調整・検査等の工数時間は,6418時間であるから,製造・調整・検査等の工賃は2567200円である。

 また,被告東洋の販売経費は,実績販売価格の10%の120万円である。

 したがって,被告ZA-FXU,被告ZA-FXVに要した総原価は1台当たり8435398円であり,標準小売価格に対する利益率は約23%となる。この標準小売価格,利益率を基に被告東洋及び被告日本テクナートが得た3台分の利益の額を算出すると合計約1035万円となり,著作権法1141項の規定により,原告は同額の損害を被ったものと推定される。

(イ) 被告ZA-FXV 1台について

 被告東洋による被告ZA-FXV 1台の実績販売価格(標準小売価格1500万円の8割)は1200万円である。

 他方,材料原価は2168198円であり,外注組立配線費は55850円である。

 被告日本テクナートの工場部門の直接作業者の時間単価は4000円とするのが相当であるところ,被告ZA-FXVの製作に要する製造・調整・検査等の工数時間は7172時間であるから,製造・謂整・検査等の工賃は2868800円である。

 また,被告東洋の販売経費は,実績販売価格の10%の120万円である。

 したがって,被告ZA-FXVの製造販売に要した総原価は一台当たり6292848円であり,被告東洋及び被告日本テクナートが得た利益の額は約570万円であり,原告は同額の損害を被ったものと推定される。

(ウ) 被告ZA-FMV13台について

 被告東洋による被告ZA-FMV1台の標準小売価格は770万円であるが,実績販売価格の平均値は6325000円でめる。

 他方,材料原価は1408940円であり,外洋組立配線費は78515円である。

 被告日本テクナートの工場部門の直接作業者の時間単価は4000円とするのが相当であるところ,被告ZA-FMVの製作に要する製造・調整・検査等の工数時間は7537時間であるから,製造・調整・検査等の工賃は301480円である。

 また,被告東洋の販売経費は,実績販売価格の10%の632500円である。

 したがって,被告ZA-FMVの製造販売に要した総原価は1台当たり2421435円であり,標準小売価格に対する利益率は50%を上回るので50%とみて,標準小売価格と利益率を基に被告東洋及び被告日本テクナートが得た13台分の利益の額を計算すると合計約5005万円となり,原告は同額の損害を被ったものと推定される。

(エ) 被告CA-9 17台について

 被告東洋による被告CA-9 1台の標準小売価格は420万円であるが,実績販売価格の平均値は283万円である。

 他方,材料原価は90万円であり,外注組立配線費は64387円である。

 被告日本テクナートの工場部門の直接作業者の時間単価は4000円とするのが相当であるところ,被告CA-9の製作に要する製造・調整・検査等の工数時間は47825時間であるから,製造・調整・検査等の工賃は191300円である。

 また,被告東洋の販売経費は,実績販売価格の10%の283000円である。

 したがって,被告CA-9の製造販売に要した総原価は1台当たり1438687円であり,標準小売価格に対する利益率は約33%となる。この標準小売価格と利益率を基に被告東洋及び被告日本テクナートが得た17台分の利益の額を計算すると合計約23562000円となり,原告は同額の損害を被ったものと推定される。

(オ) 被告MIC 6台について

 被告東洋による被告MICの標準小売価格は20万円であるが,実績販売価格は88万円である。

 他方,材料原価は23400円である。

 被告永井商会の工場部門の直接作業著の時間単価は4000円とするのが相当であるところ,被告MICの製作に要する製造・調整・検査等の工数時間は約20時間であるから,製造・調整・検査等の工賃は8万円である。

 また,被告東洋の販売経費は,実績販売価格の10%の88000円である。

 したがって,被告MICの製造販売に要した総原価は1台当たり191400円であるので,標準小売価格に対する利益率は約62%となり,標準小売価格と利益率に基づいて被告東洋及び被告永井商会が被告MIC 4台の販売によって得た利益の額を計算すると合計約2728000円であり,被告東洋が被告MIC 2台の販売によって得た利益の額を計算すると合計約1364000円であり,原告は合計約4092000円の損害を被ったものと推定される。

(2) 別件高裁決定後の平成元年71日から平成3331日までの間に販売した分

(ア) 被告ZA-FMVを改造した被告ZA-FXV 4台について

 被告東洋による被告ZA-FXVの実績販売価格(標準小売価格1500万円の8割)は1200万円である。

 他方,改造前の被告ZA-FMVの実績販売価格は6325000円であり,ZA-FMVを被告ZA-FXVに改造するに要した材料費は668198円であるから,材料原価は6993198円である。

 製造・調整・検査等の工賃は,前記(1)(ア)と同様に,2567200円である。

 また,被告東洋は,別件高裁決定後,被告ZA-FXVの販売活動はしていないというので,基本的には販売経費はかかっていないことになるが,少なくとも荷造運送費程度の販売経費が必要であるところ,これを多く見積もっても1%を越えることはないから被告東洋の販売経費は,実績販売価格の1%の12万円である。

 したがって,被告ZA-FXVの改造,販売に要した総原価は1台当たり9680398円であるので,標準小売価格に対する利益率は約15%となり,標準小売価格と利益率に基づき被告東洋及び被告日本テクナートが得た4台分の利益の額を計算すると合計900万円であるから,原告は同額の損害を被ったものと推定される。

(イ) 被告ZA-FXV2台について

 被告東洋による被告ZA-FXVの実績販売価格(標準小売価格1500万円の8割)は1200万円である。

 他方,前記(1)(イ)と同様に,材料原価は2168198円であり,外注組立配線費は55850円であり,製造・調整・検査等の工賃は2868800円である。

 また,被告東洋の販売経費は,前記(ア)と同様に,12万円である。

 したがって,被告ZA-FXVの製造,販売に要した総原価は1台当たり5212848円であるので,標準小売価格に対する利益率は約45%となり,標準小売価格と利益率に基づき被告東洋及び被告日本テクナートが得た2台分の利益の額を計算すると合計1350万円であるから,原告は同額の損害を被ったものと推定される。

(ウ) 被告ZA-FMV 2台について

 被告東洋による被告ZA-FMVの1台の標準小売価格は770万円であるが,実績販売価格の平均値は6325000円である。

 他方,前記(1)(ウ)と同様に,材料原価は1408940円であり,外注組立配線費は78515円であり,製造・調整・検査等の工賃は301480円である。

 また,被告東洋の販売経費は,前記(ア)と同様に,実績販売価格の1%の63250円である。

 したがって,被告ZA-FMVの製造,販売に要した総原価は1台当たり1852185円であるので,標準小売価格に対する利益率は58%となり,標準小売価格と利益率に基づき被告東洋及び被告日本テクナートが得た2台分の利益の額を計算すると合計8932000円であるから,原告は同額の損害を被ったものと推定される。

(エ) 被告MIC 4台について

 被告東洋による被告MICの標準小売価格は20万円であるが,実績販売価格は88万円である。

 他方,前記(1)(オ)と同様に,材料原価は23400円であり,製造・調整・検査等の工賃は8万円である。

 また,被告東洋の販売経費は,前記(ア)と同様に,実績販売価格の1%の8800円である。

 したがって,被告MICの製造販売に要した総原価は1台当たり112200円であるので,標準小売価格に対する利益率は約69%となり,標準小売価格と利益率に基づき被告東洋が得た4台分の利益の額を計算すると合計3036000円であり,原告は届額の損害を被ったものと推定される。

(二) 予備的主張(その1)

(1) 昭和5781日から平成元年630日までの間に販売した分

 仮に前記(一)(1)(ア)ないし(オ)の被告東洋の販売経費率10%が認められないとしても,被告東洋の昭和62年度,昭和63年度,平成元年度の売上に占める販売経費率の平均は132%である。

 この販売経費率の平均値132%に基づいて前記(一)(1)(ア)ないし(オ)を計算しなおすと次のとおりである。

(ア) ZA-FMU暫定版を改造した被告ZA-FXU,被告ZA-FXV3台について

 被告ZA-FXU,被告ZA-FXVに要した総原価は1台当たり8819398円であるので,標準小売価格に対する利益率は約21%となり,標準小売価格と利益率に基づいて被告東洋及び被告日本テクナートが得た3台分の利益の額は合計945万円である。原告は同額の損害を被ったものと推定される。

(イ) 被告ZA-FXV1台について

 被告ZA-FXVの製造販売に要した総原価は1台当たり6676848円であるので,標準小売価格に対する利益率は約35%となり,標準小売価格と利益率に基づき被告東洋及び被告日本テクナートが得た1台分の利益の額を計算すると525万円であり,原告は同額の損害を被ったものと推定される。

(ウ) 被告ZA-FMV13台について

 被告ZA-FMVの製造販売に要した総原価は1台当たり2623835円であるので,標準小売価格に対する利益率は約48%となり,標準小売価格と利益率に基づき被告東洋及び被告日本テクナートが得た13台分の利益の額を計算すると合計48048000円であり,原告は同額の損害を被ったものと推定される。

(エ) 被告CA-9 17台について

 被告CA-9の製造販売に要した総原価は1台当たり1531287円であるので,標準小売価格に対する利益率は約31%となり,標準小売価格と利益率に基づいて被告東洋及び被告日本テクナートが得た17台分の利益の額を計算すると合計22133000円であり,原告ば同額の損害を被ったものと推定される。

(オ) 被告MIC 6台について

 被告MICの製造販売に要した総原価は1台当たり219500円であるので,標準小売価格に対する利益率は約60%となり,標準小売価格と利益率に基づいて被告東洋及び被告永井商会が被告MIC 4台の販売によって得た利益の額を計算すると合計264万円であり,被告東洋が被告MIC 2台の販売によって得た利益の額を計算すると合計132万円であり,その合計は396万円となり,原告は合計396万円の損害を被ったものと推定される。

(2) 別件高裁決定後の平成元年71日から平成3331日までの間に販売した分

仮に前記(一)(2)(ア)いないし(エ)の被告東洋の販売経費率1%の主張が認められないとしても,別件高裁決定により販売が差し止められていることを考慮すれば,別件高裁決定前の被告東洋の昭和62年度,昭和63年度,平成元年度の売上に占める販売経費率の平均132%の2分の166%とするのが相当である。

 この販売経費率66%に基づいて前記(一)(2)(ア)ないし(エ)を計算しなおすとつぎのとおりである。

(ア) 被告ZA-FMVを改造した被告ZA-FXV4台について

 被告東洋による被告ZA-FXVの実績販売価格,材料原価,製造・調整・検査等の工賃は,前記(一)(2)(ア)と同様である。

 したがって,被告ZA-FXVの改造,販売に要した総原価は1台当たり10352398円であり,標準小売価格に対する利益率は約11%となり,標準小売価格と利益率に基づいて被告東洋及び被告日本テクナートが得た4台分の利益の額を計算すると合計660万円であり,原告は同額の損害を被ったものと推定される。

(イ) 被告ZA-FXV2台について

 被告ZA-FXVの製造,販売に要した総原価は1台当たり6004848円であるので,標準小売価格に対する利益率は約40%となり,標準小売価格と利益率に基づいて被告東洋及び被告日本テクナートが得た2台分の利益の額を計算すると合計1200万円であり,原告は同額の損害を被ったものと推定される。

(ウ) 被告ZA-FMV2台について

 被告ZA-FMVの製造,販売に要した総原価は1台当たり1369635円であるので,標準小売価格に対する利益率は53%となり,標準小売価格と利益率に基づいて被告東洋及び被告日本テクナートが得た2台分の利益の額を計算すると合計8162000円であり,原告は同額の損害を被ったものと推定される。

(エ) 被告MIC4台について

 被告MICの製造販売に要した総原価は1台当たり170280円であるので,標準小売価格に対する利益率は約65%となり,標準小売価格と利益率に基づいて被告東洋が得た4台分の利益の額を計算すると合計286万円であり,原告は同額の損害を被ったものと推定される。

(3) 被告東洋,被告日本テクナートがZA-FMU暫定版,ZA-FXU暫定版,CA-7Uを複製するために要した複製初期費用18357910円は,8年間で償却されるものとするのが相当であるところ,複製初期費用を機種別の開発費,ハード,ソフトごとの開発費に分析して算出すると,被告東洋,被告日本テクナートがZA-FMU暫定版プログラム,ZA-FXU暫定版プログラムを複製して製造した被告ZA-FMV,被告ZA-FXU,被告ZA-FXVについての5年分の償却額は6116000円となり,CA-7Uプログラムを複製して製造した被告CA-9A,被告CA-9M,被告CA-9F,被告CA-9Dについての3年分の償却額は3215000円となるから,右(1)の(ア)ないし(エ),右(2)の(ア)ないし(ウ)の行為によって被告東洋及び被告日本テクナートが得た利益から減額される複製初期費用の償却額は,9331000円である。

 よって,右(1)の(ア)ないし(エ),右(2)の(ア)ないし(ウ)の行為によって被告東洋及び被告日本テクナートが得た利益の合計額12643000円から右償却額を控除した102312000円が,被告東洋及び被告日本テクナートが得た利益として,原告が受けた損害額と推定される。

(三) 予備的主張(その2)

(1) 昭和5781日から平成元年630日までの間に,被告東洋,被告日本テクナートは,共同して,少なくともZA-FMU暫定版を改造した被告ZA-FXU及び被告ZA-FXV3台,被告ZA-FXV1台,被告ZA-FMV13台,被告CA-9(被告CA-9A,被告CA-9M,被告CA-9F,被告CA-9D16台を製造,販売した。

 また,別件高裁決定後の平成元年71日から平成3331日までの間に,被告東洋,被告日本テクナートは,共同して,少なくともZA-FXV2台,被告ZA-FXV1台,被告ZA-FMV2台を製造,販売した。

 被告東洋,被告日本テクナートが右行為によって得た利益は,42475606円である。

(2) 被告東洋,被告永井商会は,昭和5781日から平成元年630日までの間に,共同して,被告MIC4台を製造,販売した。

 被告東洋,被告永井商会が右行為によって得た利益は,1451700円である。

(3) 被告東洋は,被告MICを,昭和5781日から平成元年630日までの間に少なくとも1台,別件高裁決定後の平成元年71日から平成3331日までの間に少なくとも2台,各製造,販売した。

 被告東洋が右行為によって得た利益は,725850円である。

(四) 本件各装置の販売利益に対する本件各プログラムの寄与度

 本件各装置は,ハード部分もプログラムも,それぞれ密接に関係しており,ハード部分もプログラムも全く代替性のないものである。

 本件各プログラムは各装置の機能を発現させるためにのみ作成されたものである。また,本件各装置のハード部分は本件各プログラムを離れて機能することは全く不可能であり,専ら本件各プログラムを有効に機能させる手段として使用されているものである。原告も被告らも,本件各装置のハード部分とプログラムを切り離して別個に販売したことは一切ない。

 原告は,本件各装置に関しては,本件プログラム著作権以外には,ハードウェア部分についてもプログラムについても他に著作権や特許権等の工業所有権を有しておらず,また,他人がそれらについて著作権や特許権等の工業所有権を有してもいない。

 以上のような,本件各プログラムの不代替性,装置の構成部分における重要度,他の権利の不存在,本件各装置のハード部分もデッドコピーされているという各事実からすれば,被告らが本件各装置を販売して得た利益に対する本件各プログラムの寄与度は100%である。

(五) 弁護士費用

 原告は,被告らの本件著作権侵害行為に対処すべく原告訴訟代理人らを代理人として,本件訴訟に先立ち仮処分申請を委任し,金100万円の着手金を支払い,さらに本件訴訟を委任し着手金50万円を支払い,更に第一東京弁護士会弁護士報酬規則所定の報酬金を支払う旨約束した。被告らの本件侵害行為と相当因果関係にある弁護士費用は金550万円を下らない。

(六) 損害額の結論

(1) 主位的主張

 被告東洋,被告前田,被告村谷と被告日本テクナート,被告小島は,民法709条,商法2613項,782項,民法441項,715条,7191項,商法266条の3の規定に基づき,連帯して,被告らの前記4(一)(1)ないし(4),4(二)(1)ないし(3)の行為によって,前記(一)(1)(ア)ないし(エ)及び(一)(2)(ア)ないし(ウ)のとおり原告が被った損害金121094000円及び右(五)の弁護士費用相当の損害金の内500万円の合計126094000円を賠償すべき義務がある。

 また,被告東洋,被告前田,被告村谷と被告永井商会,被告武部は,民法709条,商法2613項,782項,民法441項,715条,7191項,商法266条の3の規定に基づき,連帯して,被告らの前記4(一)(5)(ア)の行為によって,前記(一)(1)(オ)のとおり原告が被った損害金の内2728000円及び右(五)の弁護士費用相当の損害金の内50万円の合計3228000円を賠償すべき義務がある。

 更に,被告東洋,被告前田,被告村谷は,民法709条,商法2613項,782項,民法441項,715条,7191項,商法266条の3の規定に基づき,連帯して,被告らの前記4(一)(5)(イ)及び4(二)(4)の行為によって,前記(一)(1)(オ)のとおり原告が被った損害の内1364000円及び(一)(2)(エ)のとおり原告が被った損害金3036000円の合計440万円を賠償すべき義務がある。

(2) 予備的主張(その1)

 被告東洋,被告前田,被告村谷と被告日本テクナート,被告小島は,民法709条,商法2613項,782項,民法441項,715条,7191項,商法266条の3の規定に基づき,連帯して,被告らの前記4(一)(1)ないし(4),4(一)(1)ないし(3)の行為によって,前記(二)のとおり原告が被った損害金102312000円及び前記(五)の弁護士費用相当の損害金の内500万円の合計107312000円を賠償すべき義務がある。

 また,被告東洋,被告前田,被告村谷と被告永井商会,被告武部は,民法709条,商法2613項,782項,民法441項,715条,7191項,商法266条の3の規定に基づき,連帯して,被告らの前記4(一)(5)(ア)の行為によって前記(二)(1)(オ)のとおり原告が被った損害金の内264万円及び右御の弁護士費用相当の損害金の内50万円の合計314万円を賠償すべき義務がある。

 更に,被告東洋,被告前田,被告村谷は,民法709条,商法2613項,782項,民法441項,715条,7191項,商法266条の3の規定に基づき,連帯して,被告らの前記4(一)(5)(イ)及び4(二)(4)の行為によって,右(一)(1)(オ)のとおり原告が被った損害金の内132万円及び(一)(2)(エ)のとおり原告が被った損害金286万円の合計418万円を賠償すべき義務がある。

(3) 予備的主張(その2)

 被告東洋,被告前田,被告村谷と被告日本テクナート,被告小島は,民法709条,商法2613項,782項,民法441項,715条,7191項,商法266条の3の規定に基づき,連帯して,被告らの前記(三)(1)の行為によって原告が被った損害金42475606円及び前記(五)の弁護士費用相当の損害金の内500万円の合計42475606円を賠償すべき義務がある。

 また,被告東洋,被告前田,被告村谷と被告永井商会,被告武部は,民法709条,商法2613項,782項,民法441項,715条,7191項,商法266条の3の規定に基づき,連帯して,被告らの前記(三)(2)の行為によって原告が被った損害金1451700円及び前記(五)の弁護士費用相当損害金の内50万円の合計1951700円を賠償すべき義務がある。

 更に,被告東洋,被告前田,被告村谷は,民法709条,商法2613項,782項,民法441項,715条,7191項,商法266条の3の規定に基づき,連帯して,被告らの前記(三)(3)の行為によって原告が被った損害金725850円を賠償すべき義務がある。

7 謝罪広告の請求

 被告東洋は,本件各プログラムの著作権が自己に帰属していないことを知りながら,顧客に対して,被告東洋が開発して開発費も払っていたにもかかわらず,下請けである原告が勝手に製造,販売を開始した,などと虚偽の事実を伝えて販売を継続している。

 被告東洋が,別件高裁決定の後も,従前とほぼ同一の広告を繰り返しているので,原告は,顧客に対し,仮処分事件において原告にプログラム著作権が帰属する旨認められた(但し,被告東洋が変更したと主張するCA-9プログラムを除く)こと及び被告東洋の製品が原告のプログラムを含む全てをデッドコピーした製品であることを知らしめ,ユーザーに対し,注意を喚起するとともに,原告の製品と被告東洋の製品との混同を生じないよう注意した。

 ところが,被告東洋は,その後も,社団法人日本薬学会発行の「ファルマシア」,社団法人日本農芸化学会発行の「日本農芸化学会誌」等の雑誌に,従来と同一の内容の広告を掲載し続けるとともに,平成元年8月頃,原告と競含する被告東洋の取引先に対し,「システムサイエンス株式会社は昭和52年に菅野が一人で独立し,東洋測器に『何か仕事をさせて欲しい』と訪問してきた」,「東洋測器の社外技術員の一人としてコロニーアナライザーの開発に従事させた」,「そのうち社員も増え会社組織(総員3名)として整ったのでその後は完全な製造下請けの会社として仕事を出すようになった」,「システムサイエンス株式会社は電気技術員のみでスタッフが占められ,……微生物分野の測定装置を自主開発する能力はない」,「微生物分野での測定の自動化にかかるノウハウは全て東洋にあり」,「東洋はシステムサイエンス株式会社を指導して二,三の機器を開発させた」,「開発に係わる費用はすべて東洋測器が持ち」,「システムサイエンス株式会社が作成したソフトはあまりにも無駄が多い」,「コロニーアナライザーの新規ソフトは全く問題ないと東京地裁が判断した」等の虚偽の事実を挙げ,また,別件高裁決定について,「システムサイエンス株式会社が下請けとしてソフトを作ったことに鑑み……製品の販売等しないように」との判断を下した旨故意に事実を歪曲する内容の文害を送付し,原告の営業を妨害し,かつ原告の名誉を著しく侵害する行為を行ってきた。

 被告東洋が右のような文書を送付したことにより,製薬会社等の客先から原告が被告東洋の装置を勝手に作って販売しているかのように言われ,また原告の説明さえ聞こうとしない取引先さえあり,原告の名誉,信用は著しく害された。

また,被告東洋は,平成元年8月頃,取引先に対して無差別に,事実とは異なる内容を記した「システムサイエンス株式会社の件に関する事情説明書」と題する害面を送付し,客先によっては更に口頭により虚偽の事実を告げて回った。

 たとえば,右書面には,「CA-7Uプログラムについては,(原告の主張には)理由がないとして認められなかった」,「その三は,『システム』(原告)の主張するプログラム(本件各プログラム)や機器については,当社は,現在,全く製造,販売しておらず,当社の販売しているものは,全て当社の開発し製造したもので『システム』の主張するプログラム・機器とは関係のないものであることであります。」,「裁判所の決定は,『システム』のその余の申請を却下し,当事者の責任割合を基準に決める『申請費用及び抗告費用』はこれを2分し,『システム』が2分の1を,当社が2分の1を負担とする旨決定しております。このことはその責任分担割合を均等と認めたものといってよいものであります。」,「もっと重要なことは,これら裁判所の決定が,本裁判を前提とした仮処分申請に対する決定であって,これらプログラムや機器の実質的権利については,本裁判において審理が行なわれ」,「当社は,『システム』のいうこれら機器及びプログラムの製作については,当社が多額の開発費を『システム』に対し,支払ってきたこと,そして,『システム』のいうプログラムや機器の製作に当たっては,…村谷紀夫が……指導して今日に至ったという事実」や「当社は『システム』から一方的に仕掛けられた裁判に対し,やむなく防御措置をとって斗わざるをえませんが」等と虚偽又は事実を歪曲する事実が記載されている。

 被告東洋の右のような行為によって,常に独創的な装置の開発,製造に勤しんできた原告の名誉,信用が,著しく毀損された。

 これを回復するためには本件各装置を現場で扱う購入,使用担当者を対象として,例えば農芸化学関係の研究者,技術者向けには「日本農芸化学会誌」,薬学関係の研究者,技術者向けには「ファルマシア」,企業の購買,工務担当者向けには「日本経済新聞」に謝罪広告を掲載させる他に途はない。

8 結  論

 よって,原告は,

(一) 原告と被告らとの間で,原告が本件各プログラムについて著作権を有することの確認,

(二) 著作権法22条,及び同法1131項の規定に基づき,

(1) 被告東洋,被告日本テクナートに対する本件各プログラムの複製,翻案の差止め,

(2) 被告永井商会に対するMICプログラムの複製,翻案の差止め,

(3) 被告東洋に対する@ZA-FMU暫定版プログラムを収納した被告ZA-FMU,被告ZA-FMV,AZA-FXU暫定版プログラムを取納した被告ZA-FXU,被告ZA-FXV,BCA-7Uプログラムを収納した被告CA-9A,被告CA-9M,被告CA-9F,被告CA-9D,CMICプログラムを収納した被告MICの頒布,頒布のための広告,展示の差止め,

(4) 被告東洋に対する同被告の所有する右(3)項記載の各装置の廃棄,

(5) 被告日本テクナートに対する@ZA-FMU暫定版プログラムを収納した被告ZA-FMU,被告ZA-FMV,AZA-FXU暫定版プログラムを収納した被告ZA-FXU,被告ZA-FXV,BCA-7Uプログラムを収納した被告CA-9A,被告CA-9M,被告CA-9F,被告CA-9Dの頒布の差止め,

(6) 被告日本テクナートに対する司被告の所有する右(5)項記載の各装置の廃棄,

(7) 被告永井商会に対するMICプログラムを収納した被告MICの頒布の差止め,

(8) 被告永井商会に対する同被告の所有する右(7)項記載の装置の廃棄,

(三) 被告東洋,被告前田,被告村谷,被告永井商会,被告武部に対し,連帯して,損害金3138000円及び内金2728000円に対する昭和61927日から,内金50万円に対する平成276日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払い,

(四) 被告東洋,被告前田,被告村谷,被告日本テクナート,被告小島に対し,連帯して,損害金126094000円及び内金89662000円に対する平成元年71日から,内金500万円に対する第一事件の訴状送達の日の翌日から,内金31432000円に対する平成341日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払い,

(五) 被告東洋,被告前田,被告村谷に対し,連帯して,損害金440万円及び内金1364000円に対する平成元年71日から,内金3036000円に対する平成341日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払い,

(六) 被告東洋,被告前田,被告村谷に対し,民法723条の規定に基づき,本判決確定後60日以内に,

(1) 別紙記載の謝罪広告一を連名で,別紙記載の掲載規格一により株式会社日本経済新聞社発行の「日本経済新聞」紙面上に,

(2) 別紙記載の謝罪広告二を連名で,別紙記載の掲載規格二により社団法人日本薬学会発行の「ファルマシア」,社団法人日本農芸化学会発行の「日本農芸化学会誌」の各誌紙面上に,

それぞれ各1回掲載すること,

をそれぞれ求める。

  二 請求の原因に対する認否

1 請求の原因1は認める。

2 請求の原因2は認める。

3 著作権の帰属について

(一) ZA-FMU暫定版プログラム,ZA-FXU暫定版プログラムについて

(1) 請求の原因3(一)(1)は否認する。

 同(2)のうち,菅野,唐沢がいずれも原告の取締役であること,ZA-FMU暫定版プログラム,ZA-FXU暫定版プログラムの制作に関わったこと,唐沢が右各プログラムの具体的な制作作業に従事したことは認め,菅野及び唐沢の原告内部における業務内容や制作作業の進捗状況ば知らない。原告の発意に基づくとの点は否認する。

 同(3)は知らない。

 同(4)のうち,原告が被告東洋にZA-FMU暫定版を11台納品したこと,ZA-FMU暫定版プログラムは,ZA-FMU暫定版のためにのみ作成されており,それ自体を独立したソフトウェアとして取引の対象とすることが予定されておらず,ZA-FMU暫定版に製造銘板が貼付されていたことは認め,原告名義で公表されたことは否認する。

 ZA-FMU暫定版は,被告東洋の製品として宣伝広告され,装置に貼付されている製造銘版には被告東洋を示す「TOYO」の表示があり,被告東洋の製品であることが社会的に認知されているから,被告東洋名義で公表されたものである。

 同(5)のうち,菅野,唐沢と原告との内部関係は知らない。右プログラムが仮に公表されるとしたら当然に原告名義で公表される性格のものであったとの点は争う。

(2) 後記三1のとおりZA-FMU暫定版プログラム,ZA-FXU暫定版プログラムは,被告東洋の法人著作物である。

(二) CA-7Uプログラムについて

(1) 請求の原因3(二)のうち,菅野及び唐沢がCA-7Uプログラムの制作に関わったこと,唐沢が右プログラムの具体的な制作作業に従事したことは認め,菅野及び唐沢の原告内部における業務内容や制作作業の進捗状況は知らない。原告の発意に基づくとの点は否認する。

(2) 後記三1のとおりCA-7Uプログラムは,被告東洋の法人著作物である。

(三) MICプログラムについて

(1) 請求の原因3(三)(1)は否認する。

 同(2)のうち,菅野及び唐沢がMICプログラムの制作に問わったこと,唐沢が右プログラムの具体的な制作作業に従事したことは認め,菅野及び唐沢の原告内部における業務内容や制作作業の進捗状況は知らない。原告の発意に基づくとの点は否認する。

 同(3)のうち,MICプログラムがMICのためにのみ作成されている点は認め,その余は否認する。

 同(4)のうち,菅野あるいは唐沢と原告との内部関係は知らない。右プログラムが仮に公表されるとしたら当然に原告名義で公表される性格のものであったとの点は争う。

(2) 後記三1のとおりMICプログラムは,被告東洋の法人著作物である。

(四) 請求の原因3(四)は知らない。

4 確認の利益及び被告らの権利侵害行為について

 被告らが,本件各プログラムの著作権が被告東洋に帰属すると主張して,原告が本件各プログラムの著作権を有することを争っていることは認める。

(一) 昭和5781日から平成元年630日までの間の侵害行為

(1) 請求の原因4(一)(1)のうち,被告東洋が,被告日本テクナートに対し,ZA-FXU暫定版と周様の装置の製作を依頼し,これを受諾した被告日本テクナートが,原告が被告東洋に既に納入し在庫となっていたZA-FMU暫定版3台を被告ZA-FXUに改造し,被告東洋が,右被告ZA-FXU3台の納品を受けて右期間に販売したとの事実は認める。

 右被告ZA-FXU3台の内昭和63627日分1台については,被告日本テクナートが60検体用のX-Yテーブル及びソフトを作ったもので,ZA-FXU暫定版プログラムの複製,収納と評価すべき余地はない。

(2) 請求の原因4(一)(2)は認める。ただし,被告日本テクナートが製造した被告ZA-FMVを被告ZA-FXVに改造したものである。

(3) 請求の原因4(一)(3)は認める。

(4) 請求の原因4(一)(4)は,被告CA-9 16台について認め,その余は否認する。

 被告らは,準備害面(七)で,被告東洋が被告日本テクナートから納品を受けて販売したCA-917台であることを認めたが,台帳を再度検討したところ重複記載した例があり,被告東洋が被告日本テクナートの納品を受けて販売した被告CA-9A,被告CA-9M,被告CA-9F,被告CA-9DCA-7Uプログラムが収納されたものは合計16台である。

(5) 請求の原因4(一)(5)(ア)は認める。同(イ)は,被告MIC1台について認めその余は否認する。

 甲第175号証記載の「CA-9MIC測定システム」は「CA-9」の誤記であり,これは,昭和621022日に販売した被告CA-9Aとして乙第41号証に記載されているものに相当する。

(二) 別件高裁決定後である平成元年71日から平成3331日までの間の侵害行為

(1) 請求の原因4(二)(1)は,被告東洋が,別件高裁決定前に販売した被告ZA-FMV2台を客の依頼により被告ZA-FXVに改造し,これを右期間に客に納品した限度では認め,その余は否認する。

 右別件高裁決定前に販売した被告ZA-FMV2台は,請求の原因4(一)(3)に計上されているものである。

 被告日本テクナートは,被告ZA-FMVのハードウェアを製造して被告東洋に納入したが,プログラムは収納していない。このハードウェアには新しいプログラムが収納されている。

(2) 請求の原因4(二)(2)は,被告東洋が被告ZA-FXV1台を販売したことは認め,その余は否認する。

 被告東洋は,顧客に販売前の被告ZA-FMV1台を被告ZA-FXVに改造して販売した。

 被告日本テクナートは,被告ZA-FMVのハードウェアを製造して被告東洋に納入したが,プログラムは収納していないことは右1のとおりである。

(3) 請求の原因4(二)(3)中,被告東洋が被告ZA-FMV2台を販売したことは認め,その余は否認する。

 被告東洋は,顧客との間で,別件高裁決定前に納入する約束をしていたのに,遅れて在庫のままであった被告ZA-FMV2台を,別件高裁決定後に納品したものであ

(4) 請求の原因4(二)(4)は,被告MIC2台について認め,その余は否認する。

 原告主張の1台は,顧客から「研究で比濁法と寒天平板法との比較データを採りたいので貸してくれないか」との依頼があったために被告東洋の在庫のMICを無料で貸し出して,これがそのままになっていたところ,数年後,右顧客が新たに右装置関係のソフト等の導入が必要となり,そのため費用(予算)を捻出するために右の被告MICを購入した取り扱いにしたのである。したがって被告東洋としては同顧客にMICを販売したことも,それによって利益を得たこともない。

(三) 請求の原因4(三)は否認する。

 被告東洋の代表者であった被告前田,取締役であった被告村谷は,右各プログラムり著作権が被告東洋に帰属していると確信していたものである。

(四) 請求の原因4(四)は否認する。

 被告日本テクナートの代表者の被告小島は本件各プログラムの著作権が被告東洋にあると理解しており,一点の疑念も持っていなかった。

 下請けが注文者に技術的資料を渡さずに抱え込んでいる例は稀ではなく,注文者も現に発注している機械の技術的資料はそのまま下請けに持たせている。被告日本テクナートは,被告東洋が技術的資料をもっていなかったこともよくありがちなことと受け止めたのである。

 また,受注者である被告日本テクナートが,注文者である被告東洋と紛争関係にある第三者である原告に,被告東洋と原告との間の紛争に関連する内部関係を問い合わせる義務はない。

 更に,原告の卸値には開発費用が加算されているのに,被告日本テクナートの卸値には開発費用が含まれていないこと(別途請求する取扱いであった。),原告は納品価格の吊り下げが目立ったのに,被告日本テクナートは納品価格の低滅に努力したことからすれば,卸値の高低をもって被告日本テクナートの故意又は重過失の根拠とすることはできない。

(五) 請求の原因4(五)は否認する。

 被告東洋と被告日本テクナートは,資本参加や役員の派遣の関係のない全く別個独立の企業体であり,ただ,本件で対象となっている装置について,被告日本テクナートが被告東洋から注文を受けて,その製造を請け負ったにすぎない。このような請負契約関係をもって客観的な関連共同があるとはいえない。

(六) 請求の原因4(六)は否認する。

(七) 請求の原因4(七)は否認する。

 被告永井商会の代表者被告武部は,右プログラムの著作権が被告東洋に帰属していると確信していた。

 被告東洋が,原告の指摘する重要な書類を持たなかったことを理由に被告永井商会に重過失があったということはできない。

 また,受注者である被告永井商会が,当該装置の従前の受注者である原告と注文者である被告東洋との内部関係を原告に問い合わせるべき義務はない。

(八) 請求の原因4(八)は否認する。

 被告東洋と被告永井商会は,全く別個独立の企業体であり,ただ,本件で対象となっている装置について,被告永井商会が被告東洋から注文を受けて,その製造を請け負ったにすぎない。このような請負契約関係をもって客観的な関連共同があるとはいえない。

(九) 請求の原因4(九)は否認する。

5 請求の原因5は争う。

 被告東洋が,現在カタログを作り販売しているゾーンアナライザーZA-FMV,コロニーアナライザーCA-9Aには被告東洋が独自に開発したプログラムを収納している。したがって,原告製造の同等機種ZA-FMU暫定版,CA-7Uとは全く別機種である。

 被告日本テクナートは,仮処分決定の前の段階で本件各プログラムの複製等を中止しているから,被告日本テクナートに対する差し止めの必要性はない。

 また,本件各プログラムをROMに記億させる行為が複製であるとしても,各プログラムを取納した装置は,「侵害の行為を組成した物」でも「侵害の行為によって作成された物」でもなく,その他著作権法1122項に定める物には該当しない。したがって,各プログラムを収納した装置を差止め,廃棄の対象とすることはできない。

6 損害額について

(一) 請求の原因6の内(五)は知らない。その余は全て争う。

(二)本件において著作権法1141項の適用はない。

 すなわち,著作物の無断複製・利用等によって著作権者が受ける「損害」とは,複製,利用行為そのものによって著作権者が被った損害である。

 本件の著作物たる本件各プログラムについて原告が著作権法1141項を援用しようとする場合,本件各プログラムを複製,利用することによって原告が著作権者として得べかりし利益に対応する被告東洋の得た利益を主張し立証しなければならない。

 ところで,本件各機器は,それぞれ役割を与えられた部品群が有機的に結合,作動してはじめて財貨としての意義を持つものであり,部品一つ一つだけでは全くの無価値であり何の役にも立たない。本件に則していえば,原告が本件各プログラムだけを取り出してその価値を主張しても,本件各プログラムだけでは何の商品価値も認められない。

 本件各プログラムは,本件各機器の一個の部品として他の部品と有機的に結含して初めて機器として商品価値が認められるにすぎないから,仮にこれ自体について原告の得べかりし利益を想定することが可能であるとしても,これと部品たる本件各プログラムを内蔵した機器を販売することによって得られた利益との間には何らの論理的対応関係も認めることができない。つまり販売利益額を損害額として推定すべき基礎を欠くのであり,このような場合には著作権法1141項は適用されない。

 本件で対象となっている各機器の構造の中では測定装置部分がメインである,本件各プログラムは右測定装置を効率的に作動させる手段的なものであること,微生物関係を扱う特定分野を市場とするものであることから販売に当たっては営業努力が大きな要因となること等を考慮すれば,各機器の販売による利益に対する本件各プログラムの寄与率は極めて小さい。

(三) 仮に,本件において著作権法1141項の適用があるとしても,原告の損害額の算定は,主位的主張も予備的主張も全て争う。

 まず,著作権法1141項にいう「利益」とは,被告らがそれぞれの「行為」によって得た利益である。利益額は,いわゆる純利益として算出すべきもの,換言すれば,被告らが現実に得ることができたと評価できるものでなければならない。そうすると,右規定の「利益」とは,売上高から売上原価を差し引いて算出された売上総利益から,更に販売費,一般管理費(給与,賞与その他の人件費,通信費,旅費交通費,賃借料,広告宣伝費,運搬費,保管費,荷作費等の諸費用),営業外損益及び特別損益を差し引いた純利益である。

 被告東洋による本件各機器の実際の販売価格,商品原価,経費は,別紙期別売り上げ利益一覧表のとおりである。右一覧表のとおり,被告東洋の利益額の合計は多くとも27553888円であるが,他方,被告テクナートは3957万円の赤字であり,結局,被告らは,本件において利益を得ていない。

(四) 仮に,原告の損害額の算定によるとしても,その算定方法は争う。

(1) 被告日本テクナートの時間単価を4000円とするとの点は争う。

(2) 被告東洋の経費を10%とする点は争う。

 被告東洋の展開する販売関係の業務は,取扱機器についての需要が特殊専門化しており,しかもしばしば潜在化しているので需要の掘り起しに相当の企業努力が強いられ,しかも1台の単価が比較的高いこともあって取引関係の成立まで数年を要し,その間,数限りない訪問,説明,資料提出その他の働き掛けを重ねる。その過程で莫大な販売経費を投下している。したがって,販売経費が実際の販売価格(原告のいう実績販売価格)の10%で収まるということはありえない。

 また,一つ一つの売上げは,被告東洋の一体となった企業活動の成果として具体化する。営業部門の社員の販売活動だけで売上げが成り立つわけではなく,営業活動の本拠(事務所)が確保され,在庫の管理,保管が適切になされ,技術(工場)部門による営業活動の支えがあって初めて成り立つものである。営業,技術(工場),事務の各業務は,直接・間接に製品の販売に寄与しており,これらがなければ企業活動としての販売活動は不可能である。それゆえ諸経費のうち「販売経費」のみを取り上げる計算では,投下された経費を過小に評価することになる。

7 請求の原因7は争う。

 別件仮処分事件について,東京地方裁判所では原告の申請が全て退けられ,その抗告審の別件高裁決定では,原告の申請の一部が認容されたものの,CA-7Uプログラム,被告CA-9は右差止め決定の対象外となった。

 ところが,原告は,平成元年727日付けで,別件高裁決定の一部を複写したものを添付した「デッドコピー製品についての御注意」と題する,被告東洋の名誉を毀損し,業務を妨害する書面を被告東洋の取引先に頒布した。右文書の内容は,概ね次のとおりのものであった。

 「従前,東洋測器鰍ヘ,当社が権利を有するコロニーアナライザーCA-7U,ゾーンアナライザーZA-FMU,ZA-FXU,画像処理法MIC装置を販売しておりましたが,昭和615月をもって販売関係を解消いたしました。東洋測器鰍ヘ,当社の各装置のデッドコピー(複製)を行い,それぞれコロニーアナライザーCA-9,ゾーンアナライザーZA-FMV,ZA-FXV,画像処理法MIC装置と紛らわしい名称で販売してまいりました。これに対し,当社は東京地方裁判所に裁判を起こしましたが,東洋測器鰍ェプログラムのデッドコピーを中止するということを約束したため差止の決定が出されませんでしたが,この度,東京高等裁判所において,これら東洋測器鰍フ各装置が当社の各装置のプログラム著作権を侵害していることが認められ,平成1620日付で各装置について,製造,販売,広告,展示の差止の決定が出されました。但し,CA-9については平成11月中旬に東洋測器鰍ェプログラム変更を行い,変更前(平成11月中旬以前)の装置は販売しないということを約束したため,販売差止が出されませんでした。しかし,東洋測器鰍フ上記各装置は当社のプログラム,ハードウェアを共に全くデッドコピーしていた製品であり,性能,仕様共に当社の現在の製品(CA-7U,ZA-FMU,ZA-FXU,MIC装置)と大きく異なりますので,混同され,ご迷惑を被らぬ様に御注意申し上げます。」

 原告の頒布した右文害は文字どおり公然事実を摘示し,被告東洋の名誉,信用を毀損するものであると同時に被告東洋の営業を妨害するものである。

 被告東洋は,右のような原告の名誉毀損,業務妨害行為に困惑して被告東洋に問い合わせを行った顧客に対し,個別に原告主張の文書を配布し,事情を説明したものにすぎない。

8 請求の原因8は争う。

  三 被告らの主張

1 本件各プログラムは,被告東洋を権利帰属主体とする法人著作である。

(一) 被告東洋は,昭和484月に設立された微生物関係の測定機器等を専門とする製造販売会社である。

 被告東洋は,かねてよりこの分野の測定機の製品化のための専門的知識,情報を有しており,本件各機器はこのような知識・情報をもとに製品化された。

 すなわち本件各機器は,微生物問係の測定機であり,検体の科学的特徴や測定内容・測定技法に関し専門的知識を有し,研究測定作業現場における具体的な要望を把握してはじめて開発可能なものである。

 一方,原告にそのようなノウ・ハウはなかった。電子工学,システム工学,機械工学関係の人員はいたとしても,検査対象の微生物関係の知識を有するものは皆無であった。コンピュータ・プログラミング技術があっても,何を,どういう目的で,どのような尺度で測定し,そのためには如何なる構造の機械に,如何なる機能を持たせるかが定まらなければ,測定機械の開発は不能である。原告にはその前提となる能力がなかった。

(二) 被告東洋は測定機器の製造販売を目的とする会社であるが,開発を決定した機器を製品化する際の製造作業は外注することにしていた。当該機器がコンピュータを使用する場含には,製造外注の中にはプログラム作成作業も含まれていた。

 昭和52年,訴外SIC退社後,菅野が被告東洋に仕事を求めて来たのも,被告東洋が右のように製品の製造を外注する体制をとっていたことを知悉しており,それを前提に被告東洋製品の製造を菅野あるいは同人の設立にかかる原告において受け持つことを企図してのものであった。

 原告は,こうして被告東洋の開発した諸製品の製造を担当する会社として出発した。その製造にはプログラム作成も含まれた。法人格こそ別であるが,数人の技術者を擁するにすぎない原告は被告東洋のいわば製造部門,更にはプログラミング部門という位置付けの存在であった。被告東洋の与えるアイデアや資料をもとに,被告東洋の指示・指導を受けて原告の技術者が製造作業を行うというのがその実態であった。

(三) 原告の人的構成は変遷があったが,概していえば,菅野,唐沢,井上の3名が中心となり,それに数名の社員がいるだけという実態であった。

 そのうちプログラミングの技術者は唐沢であり,同人以外では,菅野はシステム設計,井上は板金・機構設計,片岡は基盤・回路設計という職務分担となっていた。つまり原告はソフト技術者1人,ハード関係の技術者23人という陣容の企業であり,いわゆるソフト開発会社でもなければ微生物関係の測定機器を自主開発できるような会社でもなく,外部から企画や製品仕様を具体的に提示され,その製造作業を受注してはじめて業務活動が成り立つ会社である。

 実際のところ,創立から暫くの間,原告にとってほぼ唯一の発注元となったのが被告東洋であった。原告は,被告東洋に依存してのみ存続可能な企業として出発したもので,ゾーンアナライザーZA-F,コロニーアナライザーCA-7MICなどの機器が開発された当初の5年間において,原告の総売上において被告東洋に対する売上の占める割合は90%を越えていた。原告が,被告東洋のいわば製造部門(さらにはプログラミング部門)という位置付けの存在であったというのはこの意味である。

 被告東洋と原告間に存在した通常の外注関係を越える一体性が被告東洋と原告の技術者との間の指揮監督関係の基盤になっていたのも,こうした企業としての能力の違いや経済的な依存性からくる被告東洋の原告に対する主導性である。原告そして原告の技術者は被告東洋の主導性のもとでこれに従いながら作業せざるを得なかったのである。

(四) 製品の開発は,資金力を背景に,需要を把握する力と製品の企画力そして実用化し得る技術力が総合されて初めて可能となる。本件各機器の開発においては,被告東洋が顧客の需要をとらえ,製品の企画を練ってこれを定め,これに基づいて原告が実用化の作業を行った。本件各機器は技術的に特に新規なものが含まれているわけではなく,既存の技術の組み合わせや応用によって製造することが可能なものであった。その意味で,製品の企画(機器の基本構造と基本動作をどのようなものにするか。具体的な製品像)が決まれば,実用化にさほどの困難はないもので,需要の把握と製品企画が開発の決定的な要素であった。それを行ったのが被告東洋である。

(五) 被告東洋と原告の技術者との間には,法人著作として被告東洋に本件各機器のプログラムの著作権を帰属させるのに必要な指揮監督関係があった。

 すなわち,第一に,開発の全過程を主導したのは被告東洋であり,原告の技術者はこれに従って製品の具体化作業を担当したに過ぎない。こうした被告東洋の主導性は被告東洋と原告間に存在した特殊な企業関係の反映であり,原告そして原告の技術者は被告東洋の主導性のもとでこれに従いながら作業せざるを得なかった。

 第二に,被告東洋が,製品の具体化に必要な資料,情報を供与した。原告の技術者に参考機器を分析させたり(例えば,コロニーアナライザーの先行機器であるNBS社製コロニーカウンター。その資料として「NBS社自動コロニーカウンター取扱説明書」(乙第6号証)),必要な技術資料(例えば,ゾーンアナライザーの先行機器であるゾーンプロセッサーFの開発資料で,訴外SICから被告東洋が取得したもの。(乙第7号証))その他の関連資料(例えば,関連または類似する機器の取扱説明書その他の資料。あるいは乙第8号証のような論文)を供与したりした。

 第三に,被告東洋は,右の資料,情報の供与とともに,あるいはこれと別途に,多様な形態で製作過程を統制していた。資料,情報の供与だけで素人である原告の技術者が企画を理解し現実の製造作業に入れるわけではなく,被告東洋による説明や指示が必要である。被告東洋は,原告の技術者と常に密接に接触しながら,開発の初期段階では市場の状況や製品像の概要を説明し,次いで,具体的な製品仕様を定め,製造過程においても逐次生ずる機能,技術面の諸問題に対処し,必要な指示や決定を行って製品を完成に導いた。

 このような事実関係からすれば,被告東洋の社員が作業現場に臨んで陣頭指揮をしながら文字どおり原告の技術者を手足として具体的な製造作業を行ったような事実はないにしても,原告の技術者は,その作業の全過程において被告東洋が製品企画,製品仕様,機能や改善点の指摘,資料の提供などを通じて行った製品製造のための各種指示に従って作業をしなければならない立場にあり,これに反して作業することのできない状況にあったということができ,本件各機器の製造過程が,プログラムの制作作業を含めて,被告東洋の指揮監督のもとで進められたものである。

(六) 本件各プログラム自体に被告東洋名義の表示はないけれども,本件各プログラムについて被告東洋名義での公表があったと解して差し支えない。

 昭和60年法律第62号による改正前の著作権法15条に「公表」の要件が設けられた趣旨は,法人名義で公表される著作物であれば,対外的にも法人のものとして受け取られるであろうし,当事者(特に制作者)としても法人が著作権の主体としての地位に就くことを当然のこととして予想するであろうとの考慮に基づくものである。しかし,公表がなくとも法人の発意に基づき法人の業務に従事する者が職務上これを作成したときには,その著作物の著作権が法人に帰属することを予定しているのがむしろ通常のあり方であろう。その意味で公表の要件の存在意義には疑問があり,少なくとも厳密な意味で法人名義の公表を要求して徒に法人著作の成立範囲を狭くするのは法人著作を認めた趣旨にも反することになろう。したがって適宜これを緩やかに認定すべきである。

 原告も主張するように,本件各プログラムは本件各装置のためにのみ作成されており,それ自体独立したソフトウェアとして取引の対象とすることは予定されておらず,また,物理的にも本件各装置の部品の一つであるROMに記憶された上でROMそのものとともに本件各装置のハードウェアに組み込まれた存在である。特段のことのない限り右ROMは本件各装置と物理的にも法的にも一体となって処理される。

 そして本件各装置は,被告東洋の製品として宣伝広告され,装置自体にも「TOYO」という表示プレートが付着されている。つまり,東洋測器の製品であることが表示されかつ社会的に認知されている。装置自体がそうである限り,その部品たるROMについても,更には,ROMに収納された本件プログラムについても被告東洋名義での公表があったとして差し支えない。

(七) 被告東洋が自ら企画し,仕様を定め,製造のために必要な技術資料を与え,製造過程においても適宜指示を与えて作られたものが本件各装置とその使用に供される本件各プログラムである。それは被告東洋の発意に基づき被告東洋の業務に従事する原告の技術者が職務上作成したものとしての実態を有している。完成後は,本件各プログラムの作成費用を含めた開発費用を被告東洋が負担している。これらの事実に加え原告と被告東洋との取引関係の実態を勘案すれば,本件各プログラムにつき被告東洋に法人著作が成立したことは明らかである。

2 仮に右1の主張が認められないとしても,被告東洋は,次のとおり,原告から,本件各プログラムの著作権をそれぞれ有償で取得した。

(一) 被告東洋と原告とは,被告東洋が企画したZA-FMU暫定版,ZA-FXU暫定版,CA-7U,MICを外注先たる原告が製造しこれを被告東洋に納品する旨の有償契約を各締結していた。

(二) ZA-FMU暫定版プログラム,ZA-FXU暫定版プログラムは,ZA-FMU暫定版,ZAFXU暫定版の,CA-7UプログラムはCA-7Uの,MICプログラムはMICの,それぞれいわば一部品として右装置に関する権利関係に当然に従属,付随するものである。

 すなわち,本件各プログラムは,ZA-FMU暫定版,ZA-FXU暫定版,CA-7U,MICの各一部品であるROMに収納されて右各装置に組み込まれており,右各装置を作動させる際に所定の役割を果たす限りで意味のあるものであり,右各装置のハードウェア以外のハードウェアの使用に供しえず,独立のソフトウェアとして流通におかれることも予定されていないものである。しかも,右各装置においてソフトウェアの果たす役割は小さく,右各プログラムの技術水準も高いものではない。そのため,被告東洋と原告との間の取引において,右各装置の製造,発注と右各プログラムの製造,発注は一体化されており,後者は前者に当然に含まれるものとして取り扱われていた。

(三) 被告東洋は,本件各プログラム取得の対価として,開発費用(ハードウェアの設計,試作費,ソフトウェアの設計,デバッグ費,いいかえれば,被告東洋より基本設計仕様を呈示,説明されてから製品が完成するまでの間に原告が製品完成のために行った作業の費用)を負担した。

(四) したがって,被告東洋は,原告が受注したZA-FMU暫定版,ZA-FXU暫定版,CA-7U,MICの各1号機を完成し納品した時点で,右各装置に対する権利とともにZA-FMU暫定版プログラム,ZA-FXU暫定版プログラム,CA-7Uプログラム,MICプログラムの著作権を取得した。

3 請求原因7において原告が主張する被告東洋が送付した文書の記載内容はいずれも真実である。

  四 被告らの主張に対する認否

 被告らの主張はいずれも否認する。

第三 証拠関係

<省  略>

 


Back