第4章 最終条項

 幾つかの例外を除き,本章に含まれる条項は,その大部分において,1980年2月に開催された第315回代表者会合の際に閣僚委員会によって承認された「欧州委員会内で締結される条約及び協定のためのモデル最終条項」に基づいている。第36条ないし第48条のほとんど全部は,モデル条項の標準用語を使用するか,又は,欧州評議会における長年の条約起草作業の実務に基づいており,それらについては特に注釈を要しない。しかしながら,標準モデル条項を修正した部分又は幾つかの新しい条項については,若干の説明が必要である。この文脈においては,条項を拘束しないセットとしてモデル条項が採用されたことに留意すべきである。印刷されたモデル条項のイントロダクションが指摘するように,「これらのモデル最終条項は,専門委員会の職務遂行を促進し,かつ,現実の正当化事由も持たない条文の分岐を避けることを意図するだけである。モデルは,どのような方法によっても,特別の場合に適合させるために採用された別の条項を拘束するものではない」。

調印及び発効

 第[36]条第1項は,欧州評議会の基本的な枠組みの範囲内で練られた条約で確立された幾つかの先例に従って起草された。 例えば,有罪判決を受けた者の移送に関する条約 (ETS No. 112)及びロンダリング,捜索,押収及び犯罪からの果実の没収に関する条約(ETS No. 141)がそうであり,これらは,欧州評議会の構成国のみならず,その起草作業に参加した非構成諸国によっても,その発効以前に調印することが許されている。条項は,単に欧州評議会の構成国に限らず,利害関係のある国の最大多数が可能な限り早期に加盟国となることができることを意図している。このことから,条項は,条約の起草作業に積極的に参加した4つの非構成諸国,すなわち,カナダ,日本,南アフリカ及びアメリカ合衆国に適用されることを意図している。ひとたび条約が発効すると,第3項に従い,本条項によってカバーされない他の非構成諸国は,第37条第1項の要件を満たして条約を承認するよう勧奨されることになるだろう。

 第[36]条第3項は,条約への加入が発効するために必要な批准,受諾又は承認の数を5と定めている。この数は,欧州評議会条約中の通常の必要最低数(3)より高いもので,国際的なコンピュータ犯罪又はコンピュータ関連犯罪からの挑戦に対して,これから取り組み始め,それを成功させる必要のある国のグループが,そんなに多くはないだろうという確信を反映するものである。しかしながら,この数は,条約加入の発効を不必要に遅延させるほど高いものではない。最初の5カ国の中で,少なくとも3カ国は欧州評議会の構成国でなければならないが,他の2カ国は,条約の起草作業に参加した4つの非構成諸国がなることができる。本条項は,もちろん,欧州評議会の構成国である5カ国によって締結される同意の表明に基づいて条約を発効させることも許している。

本条約への加入

 第[37]条は,また,他の欧州評議会条約において確立された先例に基づいて起草されたが,付加的で明示の要件を伴っている。長年の実務慣行に基づき,閣僚委員会は,主体的に又は要請に基づき,構成国であるか否かにかかわらず,条約の起草作業に関与しなかった非構成諸国に対し,全ての条約加盟国と協議を持った後に,条約に加盟するよう勧告するかどうかを決定する。このことは,協議をする加盟国が非構成諸国の加盟に反対する場合には,閣僚委員会が条約への加盟を勧めないのが普通だろうということを意味している。しかしながら,公式見解によれば,非構成諸国である加盟国がその加盟に反対した場合であっても,委員会への出席権を有する構成国である加盟国全部の同意を得た場合には,(理論上は) 閣僚委員会は,その非構成諸国に対し,条約への加盟を勧告することができるはずである。このことは,(理論上は)欧州評議会条約を他の非構成諸国に拡張する過程において,非構成諸国である加盟国には,通常,議決権が与えられていないということを意味する。しかしながら,非構成諸国に対して条約加盟を勧告する前に,閣僚会合は,(欧州評議会の構成諸国のみではなく)加盟国全部と協議し,その全員一致の同意を得るという明示の要件が挿入された。上記のとおり,このような要件は,実務と一致し,条約関係に入るという約束をする全ての国が,条約関係に入るべき非構成諸国と決定をすることができなければならないという認識とも一致するものである。それでもなお,非構成諸国の加入についての形式上の決定は,通常の実務運営に従い,閣僚委員会への出席権を有する加盟国の代表者によってなされるだろう。この決定もまた,全員一致でなければならない。

本条約の効果

 第[39]条第1項及び第2項は,他の国際協定又は合意と条約との連携と取り組んでいる。欧州評議会の条約が,欧州評議会の外で結ばれた二国間条約又は多国間条約との間において,どのような関係に立つべきかという課題は,上記に参照したモデル条項では扱われてない。刑事法の分野での欧州評議会条約(例えば,不法海運に関する合意(ETS N°156))で用いられている通常のアプローチは,次のように規定している。すなわち,(1)新たな条約は,特別の事項に関する既存の国際的な多国間条約に由来する権利及び取扱に影響しない,(2)新たな条約の加盟国は,その条約に具現されている原則の補足若しくは強化又はその原則の適用促進のためには,条約によって扱われる事情について,相互に二国間条約又は多国間条約を締結することができる,そして,(3) 新たな条約への2カ国以上の加盟国が,この課題に関する当該国間の関係を設定する条約その他のものの中で取り扱われている課題に関して,既に協定又は条約を結んでいる場合には,それが国際的な協力関係を促進する限りにおいて,当該加盟国は,新たな条約の代わりに,その新たな協定又は条約を適用し,あるいは,それに従って加盟国間の関係を規律する権限を有する,とされている。

 一般に,加盟国間の多国間又は二国間の合意及び協定の補足を意図するものであり,かつ,これに代わることを意図するものではない条約である限り,起草者は,「特別事項」に言及する可能な制約が特に有益であるとは考えなかったし,また,それが無用な混乱を招き得るものだと考えた。その代わりに,第[39]条第1項は,単に,この条約が,加盟国間で適用され得る他の条約又は協定を補足するものであることを示し,そして,排除されない条約の例として,欧州評議会の特別の3つ条約,すなわち,引渡に関する1957年欧州条約(ETS N° 24),刑事関連事項に関する1959年欧州条約(ETS N° 30)及びその1978年追加議定書(ETS N° 99)に言及するのみである。従って,一般的な事項に関しては,サイバー犯罪条約の加盟国は,原則として,そのような合意又は協定を適用しなければならない。本条約が特定の事項だけを扱う場合に関しては,「特別法は一般法を破る(lex specialis derogat lege generali)」という解釈原理は,加盟国が本条約のほうに目を向けるべきだということを定めている。第30条がその一例であり,特定の通信の経路を特定するために必要な場合には,保全されたトラフィック・データを速やかに開示しなければならないと規定している。この特定の領域では,条約は,特別法(lex specialis)として,より一般的な共助条約中の条項よりも優先する一等地の原則を提供していることになる。

 同様に,起草者は,既存の又は将来の合意を適用することが,協力関係を「強化」又は「促進」するかどうか疑わしくする言葉を検討した。何故なら,加盟国は,国際協力の章の中に設けられたアプローチに基づき,当面の問題に関連する国際的合意及び協定を適用するだろうと推測されるからである。

 協力の根拠として既存の共助条約又は共助合意がある場合,現在の条約は,それが必要な場合には,既存のルールを補充するだけである。例えば,元の条約又は合意中に存在しない場合には,本条約は,応急の通信手段 (第[26]条第3項参照)による共助要請の伝送(のための条項)を提供するだろう。

 条約の補充的な性質及びとりわけ国際協力のアプローチと一致して,第2項は,加盟国が既に発効し又は将来発効するかもしれない合意を適用する自由を有すると規定している。このような接合は,有罪の宣告を受けた者の引渡に関する条約(ETS N° 112)の中に見いだされる。確かに,国際協力という文脈の中では,他の国際的合意(それらの多くは,国際支援のために証明された積年の方式を提供している。)を適用することが,事実上,協力を促進するだろうということが期待されている。この条約の用語に合致するものとして,加盟国は,また,他の合意の代わりに,条約中の国際協力条項を適用することに同意することもできる(第27条参照(脚注1))。この場合,第27条に規定する関連協力条項は,当該他の合意中の関連規則に優先する。

 更に,他の国際的合意と条約との関係決定する際に,起草者は,加盟国が,条約法に関するウィーン条約中の関連条項への追加ガイダンスを参照することができるということにも同意した。

 条約が国際調和のために正に必要なレベルを提供しているということは,コンピュータ犯罪又はコンピュータ関連犯罪に関係する全ての未解決問題に取り組むことを意味しない。そこで,第3項は,条約のみがその取組みに影響するような場を作るために挿入された。存在するとしても条約によっては取り扱われない他の権利,規制,義務及び責任は,影響を受けないものとして置かれる。このような「救済規定」の先例は,他の国際的な合意(例えば,国連のテロリスト資金条約)の中に見いだすことができるだろう。

宣言

 第40条は,主として,条約によって実体法の節の中で設けられる犯罪行為に関連して,一定の条項と関係している。そこでは,加盟国は,条項の適用範囲を修正する,ある特定の付加的要件を採り入れることが許されている。このような付加的な要件は,一定の概念上の相違点又は法律上の相違点への適応を狙いとしている。それらは,おそらく,純粋に欧州評議会という文脈の中でというよりも,グローバルな大志をもつ条約の中において,より正当化されるものである。宣言は,条約中の条項についての可能な解釈として理解されるもので,留保とは区別されなければならない。留保は,加盟国に対し,条約中に規定されている義務に服さないことを許している。条約の加盟国にとっては,もし宣言が存在するのであれば,他の国によって付加的な要件が付されたことを知ることが重要なので,調印時点又はその批准書,受諾書,承認書若しくは加入書の寄託の時点において,欧州会議の事務局長に対してそれを宣言する義務がある。加盟国が一定の手続権限を行使する結果として,双罰の場面に遭遇してしまうような場合には,この留意点は,犯罪行為の定義との関連で,特に重要である。この宣言に関しては,数の制限の必要性は感じられない。

[連邦条項

 条約の加盟国となる国の数を最大限にすることを狙いとする目標に合致するように,第[41]条は,連邦制宣言を許している。他の国際協定への連邦国家の宣言又は連邦国家の留保については,刑法の領域外では存在している。ここに,第41条は,連邦国家である加盟国の国内法と実務の結果として,カバーできる範囲内での小さなバリエーションがあることを認識する。このバリエーションは,中央政府と構成国その他の領土主体との間の刑事関連事項における法律上の権限の分配に関する憲法その他の基本原則に基づくものでなければならない。

 例えば,合衆国においては,その憲法及び連邦制度の基本原則に基づき,連邦の刑事立法は,一般的に,行為が州際取引又は外国貿易に対して及ぼす影響を根拠として当該行為に対する規制がなされ,他方において,微細な事項又は純粋に地域的な利害関係を持つ事項に関しては,伝統的に,連邦を構成する州によって規制されている。連邦制度へのこのような取組みは,合衆国連邦の刑法に基づく場合であっても,なお,本条約に包含される違法行為を広くカバーするものであるが,単に軽微な影響を持つ行為又は純粋に地域的な性格の行為について,連邦を構成する州が規制しようとすることを容認するものである。連邦法ではなく州によって規制される狭い行為のカテゴリーの範囲内にあるのでなければ,連邦を構成する州が,本条約の範囲に入ると思われる措置について規定することはできない。たとえば,スタンド・アロンのパーソナル・コンピュータ又は一個の建物内で相互に接続されたコンピュータ・ネットワークに対する攻撃は,その攻撃が行われた州の法律で規定されている場合にのみ犯罪となる。しかしながら,インターネットの使用は,連邦法に含まれるべき州際取引又は外国貿易に影響を及ぼすのであるから,この攻撃は,コンピュータへのアクセスがインターネットを通じてなされた場合には,連邦犯罪となり得る。以上に述べたように,米国連邦法を通じて本条約を履行することは,第41条の要件に適合するものとなるであろう。

 第[41]条に従い,条約に基づいて発生する義務を負わない範囲を示す宣言をしなければならない。]

留保

 第[42]条は,留保可能な数について規定する。このアプローチは,条約が,多くの国にとって比較的不慣れな刑法及び刑事手続法の領域をカバーしているという事実から生じている。加えて,欧州評議会の構成国及び非構成諸国に対して署名のために開放される,という本条約のグローバルな性質は,必然的に,そのような留保の可能性を持つことになる。これらの留保の可能性は,それらの国がその国の国内法と一致する一定のアプローチ及び概念を維持することを可能にしつつ,条約の加盟国となる国の数を最大限にすることを狙いとしている。同時に,起草者は,加盟国による条約の統一的な運用を可能な最大限まで確保するために,留保をする可能性を制限するように努めた。従って,ここに列挙されている以外の留保をすることは許されない。加えて,留保は,加盟国により,調印の時点又はその批准書,受諾書,承認書若しくは加入書を寄託する時点においてなされる場合のみ,可能である。

 条約は,いくつかの加盟国にとっては,加盟国の憲法又は基本的な法律上の諸原則との衝突を回避するために,一定の留保をすることが重要であると認識して,第[43]条は,留保の撤回についての時間制限を課していない。その代わりに,留保は,状況が許す限り速やかに撤回されなければならない。

 加盟国に対する何らかの影響力を維持し,少なくとも,加盟国に対してその留保の撤回を考慮させるために,条約は,欧州評議会の事務局長に対して,撤回の見込みについて定期的に照会する権限を与えた。この照会ができるということは,欧州評議会の文書に基づき,現在なされている実務である。そして,加盟国は,特定の条項に関する留保を維持する必要があるか,又は,もはや必要がないものとしてそれを撤回するかどうかを示す機会を与えられている。条約の統一的な実施を可能な限り促進するために,期限切れの加盟国は,その留保中の多くのものを削除できるだろうと期待されている。

改正

 第[44]条は,ロンダリング,捜索,押収及び犯罪からの果実の没収に関する条約(ETS N°141)を先例に採った。この条約は,欧州評議会の基本的な枠組の範囲内で練られた刑法条約に関連する改革として導入された。改正手続は,手続の性質上,主として,比較的小さな変更のためのものとして想定されている。起草者は,条約の大規模な変更は,追加議定書の形式でなされるべきものと考えた。

 加盟国は,自ら,第[46条]に規定する協議手続に基づく改正又は議定の必要の有無を検討することができる。欧州犯罪問題委員会(CDPC)は,この点に関して,定期的に情報提供を受ける状態に置かれるだろうし,また,条約の改正又は補足をする加盟国の努力について,加盟国を支援するために必要な手段をとることが求められた。

 第5項に従い,加盟国がその受諾を事務局長に通知した場合に限り,採択された改正が発効する。この要件は,統一的なあり方で条約が発展することを確保しようとするものである。

紛議の解決

 第[45]条第1項は,欧州犯罪問題委員会(CDPC)が,条約中の条項の解釈及び適用に関する情報提供を受け続けなければならないと規定する。第2項は,加盟国に対し,条約の解釈又は適用に関する紛議を平和的に解決することを義務付けている。紛議を解決するための手続は,関係加盟国の交渉により決定されなければならない。紛議を解決するための可能な3つのメカニズムは,本条項によって示唆されている。すなわち,欧州犯罪問題委員会(CDPC)それ自体,仲裁裁判所又は国際司法裁判所である。

加盟国間の協議

 第[46]条は,条約の履行,コンピュータ犯罪又はコンピュータ関連犯罪の対象及び電子的な形式による証拠の収集に関係する重要な法律上の影響,政策上の影響又は技術開発の影響,並びに,条約の補足又は改正の可能性について,加盟国が協議するための基本的な枠組みを設けている。手続は柔軟であり,そして,加盟国が望む場合に,いつ,どのようにして協議するかの決定は,加盟国に任されている。条約の起草者は,欧州犯罪問題委員会(CDPC)の権能を維持する一方で,欧州評議会の非構成諸国を含む全ての条約加盟国が(平等な立場で)全てのフォローアップ機能に関与することが必要だと考えた。後者については,加盟国間で起こる協議に関して定期的に情報提供を受け続けるだけではなく,それを促進し,かつ,条約を補足又は改正しようとする加盟国の努力について,加盟国を支援するために必要な措置をとらなければならない。

 第3項は,発効の3年後に,条約の運用の見直しをすると規定している。その時点で,適切な改正が提案されるであろう。

 第4項は,加盟国自身が第[46]条第1項に従って行なわれる任意の協議について,その費用負担をするだろうと欧州評議会が想定している場合には,(支援の)除外となるということを意味している。しかしながら,欧州犯罪問題欧州委員会(CDPC)とは別に,欧州評議会事務局は,条約に基づく加盟国の努力を支援しなければならない。


Copyright (c) 2001 Takato NATSUI, All Rights Reserved.

Published on the Web : May/01/2001

Index of Draft Memorandum Translation