第3章 国際協力

 

 第3章は,犯罪人引渡及び加盟国間の司法共助に関する多数の条項を含んでいる。

 

第1節 一般原則

 

第1款 国際協力における一般原則

 

国際協力における一般原則

 第24条は,第3章に基づく国際協力に関して,3つの基本原則を規定する。

 最初に,条文は,加盟国間において,「可能な限り広い範囲で」国際協力がなされなければならないことを明確にしている。この原則は,加盟国に対し,加盟国相互間での広範な協力関係を提供すること要求し,そして,情報と証拠の国際的な流通を円滑にし,迅速にすることに対する障害を極小化することを要求している。

 第2に,協力義務の一般的範囲は,第24条条に規定するとおりである。即ち,協力は,コンピュータ・システム及びコンピュータ・データに関連する全ての刑事犯罪(例えば,第14条第2項第a項及び第b項によってカバーされる刑事犯罪)並びに犯罪行為の電子的な形式による証拠の収集に対して拡張されなければならない。このことは,犯罪行為がコンピュータ・システムを使用して実行される場合,又は犯罪行為がコンピュータ・システムを使用して実行されるのではないが,それが電子的な証拠を含むものである場合の両方について,第3章の要件が適用され得るということを意味している。しかしながら,第25条(引渡),第33条(トラフィック・データのリアルタイム収集に関する共助)及び第34条(コンテント・データの傍受に関する共助)は,加盟国に対し,これらの措置の適用について異なる範囲を規定することを許している,ということは留意しなければならない。

 最後に,協力は,「本章の各条項に従い」,かつ,「刑事関連事項における国際協力に関する国際的な文書,統一的又は互恵的な法律に基づいてなされた合意及び国内法の適用を通じて」実施されなければならない。後者の文言は,第3章の各条項が司法共助及び引渡に関する国際的合意中の条項,加盟国間の互恵的な合意中の条項(これらについては,以下の第27条の議論中でより詳細に述べられている。)又は国際協力を担う国内法上の関連条項を無効にするものではない,ということを確認している。この基本原則は,第25条(引渡),第26条(共助に関する一般原則),第27条(適用される国際協定がない場合の共助の要請に関する手続),第27条の2(使用に関する条件及び制限),第31条(記憶されたコンピュータ・データへのアクセスに関する共助),第33条(トラフィック・データのリアルタイム収集に関する共助)及び第34条(コンテント・データの傍受に関する共助)中において明示的に補強されている。

 

第2款 引渡に関する原則

 

引渡に関する原則

 第1項は,条約の第2条ないし第11条に従って設けられる犯罪行為についてのみ,引渡を適用すべき義務を定める。これらの犯罪は,関係する加盟国双方の法律に基づき,刑の長期が短くとも1年以上である自由刑又はそれよりも厳しい刑で処罰される。起草者は,最低刑をさしはさむことを決めた。何故なら,条約に基づき,加盟国は,幾つかの犯罪行為(例えば,第2条の違法アクセス及び第4条のデータ妨害)について,比較的短い刑期の拘禁で処罰するかもしれないからである。だからといって,起草者は,第2条ないし第11条に設けられる各犯罪行為が引渡の対象とされるべきだとは考えることが適当だとは考えていない。結果として,(引渡に関する欧州条約(ETS N° 24)第2条にもあるように)引渡の対象となる犯罪行為に科される刑罰が最短でも少なくとも1年以上の拘禁刑である場合に,その犯罪行為が引渡の対象とされるべきである,という一般原則に到達して合意がなされた。その犯罪が引渡可能なものであるかどうかの判定は,眼前にある具体的な事件において実際に科された刑に基づくのではなく,引渡が求められている犯罪行為に対して科され得る法定刑の長期によって定まることになる。

 それと同時に,第3章に基づく国際協力は加盟国間で拘束力のある文書に従いなされなければならないという一般原則に従い,第1項は,また,統一的又は互恵的な法律に基づいて,2カ国以上の加盟国間で拘束力のある引渡条約又は相互協定が存在し(以下の第27条の議論におけるこの要件に関する記載を参照。),それが引渡について異なる最低刑を要件としている場合には,その条約又は相互協定に規定された最低刑が適用されなければならないと規定する。例えば,欧州各国及び非欧州各国間の引渡条約の多くは,刑の長期が1年の拘禁刑よりも重いか又はそれよりも厳しい刑である場合にのみ,その犯罪行為が引渡可能であると規定する。このような場合,国際的な引渡の実務担当者は,犯罪行為が引渡可能であるかどうかを決定するために,彼らの条約実務が基づいている通常の最低刑を適用し続けるだろう。

 第2項は,本条第1項に示す刑事犯罪が,加盟国間に存在する全ての引渡条約において引渡可能な犯罪に含まれ得るものとみなされなければならず,そして,当該加盟国間で将来締結される引渡条約の中に含められなければならないと規定する。このことは,請求がなされた場合全部について引渡が認められなければならない,ということを意味するものではなく,むしろ,そのような犯罪行為のゆえにその者の引渡を認める可能性が選択可能だということでなければならない。第5項に基づき,加盟国は,引渡についてその他の要件を規定することができる。
 第3項により,請求をする加盟国との間では引渡条約が存在しないという理由又は現行の条約では本条約に従って設けられる犯罪行為に関する請求をカバーしていないという理由により,引渡を認めることができそうにない加盟国は,請求を受けた者を引渡す根拠として本条約それ自体を用いることができる。ただし,そうすべきことが義務付けられているわけではない。

 加盟国が,引渡条約による代わりに,引渡の実施するための一般的な制定法というスキームを利用する場合には,第4項は,第1項中に規定する犯罪行為すべてについて引渡を可能とするために,それらの犯罪行為を(制定法中に)含めることを求める。

 第5項は,適用可能な引渡条約又は法律に規定する要件及び条件が満たされていない場合には,請求を受けた加盟国が引渡をする必要がないと規定する。そして,これは,加盟国間で拘束力のある適用可能な国際文書,互恵的な協定又は国内法の要件に従って協力がなされなければならないという原則の,もう一つの例である。例えば,引渡に関する欧州評議会条約(ETS N° 24)及びその追加議定書(ETS N°s 86 and 98)中に規定されている条件及び制限は,これらの合意の加盟国に対して適用され,そして,そのような理由に基づいて引渡を拒絶することができる(例えば,引渡に関する欧州条約第3条は,犯罪行為が政治的な性質を有するものである場合,または,とりわけ,人種,信教,国籍若しくは政治的意見を理由として訴追又は処罰するためにその請求がなされたと考えられる場合には,引渡を拒絶しなければならないと規定している。)。

 第6項は,「降伏か裁判か(aut dedere aut judicare)」(引渡か訴追か)の原則を適用する。多くの国々は,その国民の引渡を拒絶するので,加盟国の国民であり,加盟国内で発見された犯罪者については,国内の官署が訴追を義務付けられているのでない限り,他の加盟国内で実行した犯罪に対する責任を免れることができるだろう。第6項により,他の加盟国が犯罪者の引渡を請求した場合であり,かつ,その犯罪者が請求を受けた加盟国の国民であることを理由にしてその引渡が拒絶された場合には,請求を受けた加盟国は,請求をする加盟国の請求に基づき,自国の刑事訴追機関にその事件を付託しなければならない。引渡請求を拒絶されなかった加盟国が,国内捜査及び刑事訴追のために事件を付託するよう請求しない場合には,請求を受けた加盟国は,起訴すべき義務を何ら負うことがない。更に,引渡請求がなされない場合,又は,国民であること以外の理由によって引渡が拒絶された場合には,本項は,請求を受けた加盟国に対し,国内で訴追するために事件を付託する義務を負わせるものではない。加えて,第6項は,国内の捜査及び刑事訴追を実施するよう努力することを求めている。即ち,事件の付託をする加盟国において,「その性質が,他の犯罪の事件と比較しても」悪質なものであるとして扱われるべきである。その加盟国は,請求をした加盟国に対し,その捜査及び刑事手続の最終結果を報告しなければならない。

 誰に対して各加盟国が仮逮捕又は引渡を請求すべきであるかについて,第7条は,欧州評議会事務局長に対し,何ら引渡条約が存在しない場合に,引渡請求をし,引渡請求を受け又は仮逮捕をすることについて責任を有する機関の名称及び住所を通知することを求めている。この規定は,関係加盟国間に拘束力のある引渡条約が存在しない場合に限定した。というのは,加盟国間で(ETS N° 24のような)二国間条約又は多国間条約が発効している場合には,加盟国は,登録要請をしなくても,誰に対して仮逮捕又は引渡を請求すべきかを知ることができるだろうからである。事務局長に対する通知は,各加盟国の調印時点又はその批准書,受諾書,承認書若しくは加入書の寄託の時点において,なされなければならない。権限ある者による調印は,外交チャネルを通じてすることもできるということを排除しないことに留意すべきである。

 

第3款 共助に関する一般原則

 

共助に関する一般原則

 共助を提供すべき義務を規律する一般原則は,第1項中に規定されている。相互協力は,「可能な限り広い範囲」提供されなければならない。そして,第24条(共助に関する一般原則)中にもあるように,共助は,原則として,その障害を断固として制限することによって,可能な限り広く拡張されなければない。第2に,第24条にもあるとおり,協力義務は,原則として,コンピュータ・システム及びコンピュータ・データに関連する犯罪行為(例えば,第14条第2項(a)及び(b))並びに犯罪行為の電子的な形式による証拠の収集の両方について適用されなければならない。国際協力という能率的なメカニズムが必要であるという需要が,これら両方のカテゴリーに関して同等に存在するという理由により,この広範なクラスの犯罪について協力義務を負わせることが合意された。しかしながら,第34条及び第35条は,加盟国に対し,これらの措置を異なる範囲で適用することを許している。

 本章の他の条項によって,一般に,適用され得る司法共助条約,法律及び合意の要件に従って,共助を提供すべき義務が履行されるべきこと明らかとなるだろう。第2項に基づき,加盟国は,司法共助条約,法律及び合意がまだそのような条項を採り入れていない場合には,本章の残りの条項中に規定する特定の協力方式を履行するための法律上の根拠を持つことを求められている。このようなメカニズム,とりわけ第29条ないし第35条(特定の条項-第1款,第2款,第3款)中にあるメカニズムの適用可能性は,コンピュータと関連する刑事関連事項における効果的な協力にとって必須のものである。

 幾つかの加盟国は,第2項に示す条項を適用するための国内法化の立法を必要としないだろう。というのは,詳細な共助の仕組みを設けている国際条約の条項は,その性質上,当然に施行されるべきものと考えられているからである。加盟国は,本章に基づいて設けられる共助措置を実施するための既存の共助立法に基づいて十分な柔軟性を既に有している場合には,その条項を当然に施行となるものとして取り扱うことができるだろうということ,あるいは,そのようにするために速やかに立法することができるだろうということが期待されている。

 コンピュータ・データは,高度に浮動的である。ほんの僅かなキー・ストロークによって,又は,自動的なプログラムの実行によって,削除されるかもしれず,犯罪の容疑者を追跡することが不可能にされ,あるいは,有罪とするための決定的な証拠が破壊されるかもしれない。コンピュータ・データ中のある形態のものは,それが削除される前のほんの短時間だけ記憶される。他方では,証拠が迅速に集められないと,身体や財産に対する重大な侵害行為がなされるかもしれない。そのような緊急の場合には,要請だけではなく,応答もまた応急措置によってなされ得るべきである。第3項の目的は,従って,共助の要請が準備され,伝送され,それに対する応答がなされ得る前に決定的な情報又は証拠が削除されてしまうことにより,それが失われないようにするために,共助を獲得するプロセスの加速を促進することにある。第3項は,(1)によって,外交行嚢又は郵便配達システムを介してなされる従来の遅い書面による署名された文書によってではなく,通信という応急手段を通じて,加盟国が,緊急の協力要請をすることを支援しており,また,(2)は,そのような状況下では,要請に対して応答するために,要請を受けた加盟国に対し,応急手段を使用することを求めている。各加盟国は,その共助条約,法律又は合意がまだそのような条項を規定していない場合には,この手段を提供できることが求められている。ファックス及び電子メールの列挙は,その性質上,例示である。即ち,眼前にある特定の状況下にあっては,他の応急用通信手段も適切なものとして使用可能とされるだろう。技術の進歩により,より迅速な通信手段が開発されるだろうし,共助の要請のために使用されるだろう。この項の中に含まれている真正性及び機密性の要件に関しては,加盟国は,通信の真正性をどのようにして確実なものとするかについて,あるいは,特に高度の慎重性を要する場合に必要となるかもしれない特別のセキュリティ保護(暗号化を含む。)が必要であるかどうかについては,加盟国がそれぞれ決定することができる。最後に,この項は,また,要請を受けた加盟国が選択する場合には,応急の伝送をフォローするために,在来型の経路を通じて,正式の確認を求めることも許している。

 第4項は,共助は適用され得る共助条約(MLATs)及び関連国内法の要件に従う,という原則を規定する。この枠組みは,要請を受けた加盟国の国内にあり,共助の要請の対象となり得る個人の権利の保障を提供する。例えば,捜索及び押収のような侵入的な措置は,要請を受けた加盟国の国内の事件で適用され得る同様の措置に必要な基本的要件が充足されない限り,要請を受けた加盟国のために実行されることはない。また,加盟国は,司法共助を通じて捜索され提供される対象に関して,個人の権利の保護を確保することができる。

 しかしながら,第4項は,「本章中に特段の規定がある」場合には,適用されない。この文言は,条約が原則に対する幾つかの重要な例外を含んでいるということを警告しようとしている。そのような例外の最初のものは,本条第2項中に見られる。それは,MLATs,共助協定又は共助法律が現時点でそのような措置を提供していると否とを問わず,加盟国に対し,本章中の残りの条項に規定する(保全,データのリアルタイム収集,捜索及び押収,24/7ネットワークの維持のような)協力の方式を提供すべき義務を課している。他の例外は,第27条中に見つけることができる。それは,要請をした国と要請を受けた国との間にMLAT又は共助協定が存在しない場合において,要請を受けた加盟国の国内法が規律する国際協力の代わりに,常に,要請の実施が適用されるべきものとしている。第27条は,拒絶のための条件及び理由のシステムを規定する。本項中に特に規定する他の例外は,要請を受けた加盟国がその要請に「国庫」犯罪が含まれると考えることを理由として,協力を拒否することができないということである。(税法上の罰則違反について共助が求められる状況では,一般に,行われる)「国庫犯罪の適用除外」は,共助の拒絶理由としては,国際法上では,次第に好ましいものではなくなってきている。このような犯罪に関連する国庫会計記録は,次第に電子的な形態のものとなってきており,この理由に基づいて加盟国がする援助拒絶によっては,そのような捜査及び刑事手続が邪魔されないようにすることを確保することが必要だと考えられた。最後に,第29条は,例外であり,その点についての留保をすることができる場合であってもなお,双罰性を理由に保全を拒絶することはできない。

 第5項は,基本的には,本章に基づく共助の目的における双罰性の定義である。要請を受けた加盟国は,援助の提供条件として,双罰性を求めることが許容されている場合(例えば,第29条第6項「記憶されたコンピュータ・データの応急保全」に基づくデータの保全と関連して,要請を受けた加盟国が双罰性を求める加盟国の権利を留保する場合)には,もし,求められている援助の原因となっている犯罪行為が,その要請をした加盟国の法律によっても犯罪行為となる行為となる限り,たとえ要請をした国の法律がその犯罪行為を異なるカテゴリーに位置付けている場合又はその犯罪に関する規定の仕方について異なる用語を用いている場合であっても,双罰性の問題に当面していると考えられなければならない。本条は,双罰性の原則が適用される場合に,要請を受けた加盟国が余りに厳格なテキストをしないで済むことを確保するために必要であると考えられている。国家法システム間における所与の相違点,犯罪行為の用語法及び分類における多様性があり得る。その行為が両国のシステムの双方において犯罪行為を構成するのであれば,そのような技術的な相違点は,援助を妨げてはならない。むしろ,双罰性の原則が適用され得る事項については,援助の提供を促進するような柔軟な方法で,それが適用されるべきである。

自発的情報提供

 本条は,ロンダリング,捜索,押収及び犯罪からの果実の没収に関する条約(ETS N°141)第10条並びに涜職に関する刑事法条約(ETS N°173)のような,欧州評議会の初期の外交文書中にある条項に由来する。ある加盟国が刑事事件の捜査又は刑事手続において他の加盟国を支援することになるだろうと思われる価値ある情報を保有しておりながら,捜査又は刑事手続を実行している加盟国にはその存在に気づいていないというような場合が頻繁にある。このような場合には,共助要請がなされないだろう。そこで,第1項は,事前の要請がなくても,情報を保有している加盟国が,他の加盟国に対して,その情報を送る権限を認めている。幾つかの国では,要請がなくても援助を提供するためには,そのような法的根拠を積極的に付与する必要があるので,この条項が有用であると理解されている。加盟国は,他の加盟国に対して自発的に情報を送る義務を負わない。眼前の事件の状況に照らして,その自由裁量が行使されることになるだろう。更に,情報の自発的開示をしたとしっても,開示をする加盟国が,その管轄件を有する限り,開示される事実に関連して捜査をし,又は,刑事手続を実施することを妨げるものではない。

 第2項は,ある状況下においては,加盟国は,慎重な取扱を要する情報について,その使用に関し機密保持その他の条件を維持する義務を負わせることを条件として,自発的に情報を送信することになるだろう,という事実に対応している。特に,当該情報が公開されることによって,提供をする国の重要な利益が損なわれる可能性がある場合には,機密性の保持が重要である。例えば,情報収集の手段が何であるか又は当該犯罪グループが捜査中であるという事実を保護すべき必要性があるときは,そうである。その条件を受領する加盟国から,提供する加盟国の求めに応ずることができないという回答がなされた場合(例えば,公開の裁判での証拠としてその証拠が必要であることを理由に,機密保持の条件に従うことができない場合)には,受領する加盟国は,提供をする加盟国に対し,その場合には情報の不提供を選択することができるということを通知しなければならない。しかしながら,受領する加盟国が条件に同意する場合には,その条件を遵守しなければならない。本条に基づいて課される条件は,受領国からの共助要請に応じて提供をする加盟国によって課され得る条件と一致することになるだろうと予想される。

 

第4款 適用される国際協定がない場合の共助の要請に関する手続

 

適用される国際協定がない場合の共助の要請に関する手続

 第27条は,加盟国に対し,要請をする加盟国と要請を受ける加盟国との間に統一的又は互恵的な法律に基づく共助条約又は共助協定が存在しない場合に,一定の共助手続及び条件を適用することを義務付けている。そして,本条は,共助に関連する条約及びこれに類する協定の適用を通じて実施されなければならないという共助の基本原則を補強するものである。起草者は,本条約中に,共助に関して,他の適用され得る文書及び合意を代替して適用され得る別個の基本的枠組みを創設することは否決した。起草者は,その代わりに,基本事項については,現行のMLATの枠組みに依拠することがより実際的であるということを合意した。それによって,共助担当者は,より親しみのある文書や協定を用いることが許されることになるし,また,競合する枠組みを新設することから生ずる混乱を避けることもできるだろう。既に述べたとおり,第29条ないし第35条(特別規定−第1款,第2款,第3款)における共助のように,刑事犯罪事項に関連するコンピュータについての迅速で効果的な協力のための実務運営上必要なメカニズムに関してのみ,加盟国は,現行の共助条約,共助協定又は共助法律が既にそうしているのではない場合に,そのような形態での共助を運用できるようにするための法的根拠を設けるべきことを要求される。

 従って,本条約に基づく共助の殆どすべての方式については,刑事関係事項の共助に関する欧州条約(ETS N° 30)及びその議定書(ETS N° 99)に従うものとして,この文書の加盟国間では,運営され続けることになるだろう。他方で,本条約の加盟国であって,加盟国間で有効な多国間のMLATsを持つ国,又は,(欧州連合加盟国間でのように)刑事事件についての共助を規律する他の二国間合意を持つ国は,それらの代わりに本条の規定の全部又は一部を適用することに合意するのでない限り,第3章の残りの部分に規定するコンピュータ犯罪若しくはコンピュータ関連犯罪に対応するためのメカニズムによって補われたものとして,その要件を適用し続けなければならない。共助は,刑事関係事項の共助に関する欧州条約(第26条第4項)によっても承認されている北欧諸国間で確立された共助システムや英連邦諸国間で確立された共助システムのように,統一的又は互恵的な立法に基づいて合意された協定を,その基礎とすることもできる。最後に,統一的又は互恵的な立法に基づく共助条約又は共助協定という指示は,この条約が発効する十点で発効しているものに限られず,将来発効するかもしれない文書をもカバーしている。

 第27条(適用される国際協定がない場合の共助の要請に関する手続)第2項ないし第10項は,統一的又は互恵的な立法に基づくMLAT又は共助協定が存在しない場合に,共助を提供するための数多くのルールを規定する。その中には,中心機関の設立,条件を課すること,延期又は拒絶の場合の手続,要請についての機密保持及び直接連絡が含まれる。このような統一的又は互恵的な立法に基づく共助合意又は共助協定が存在しない場合に明示にカバーされる事項に関しては,共助について規律する他の適用可能な国内法の代わりに,本条の各条項が適用されるべきである。それと同時に,第27条は,国際的共助を規律する国内法中で典型的に取り扱われているその他の事項については,何もルールを提供していない。例えば,要請の形式及び内容,要請を受けた加盟国又は要請をする加盟国内における証人の証言の取扱方法,官庁の記録又は企業の記録の提供,拘束中の証人の移送,没収に関する事項についての共助を取り扱う条項は存在しない。このような事項について,第26条第4項は,本条約に特段の定めがないときは,要請をする加盟国の法律が,要請をするタイプの共助の提供についての特定の様式を規律すべきものとしている。

 第2項は,共助要請の送付若しくはその応答について責任を負う中心機関又は機関の設立を求めている。中心機関を組織することは,刑事関係事項の共助を扱う現代の文書に共通の特徴であり,それは,とりわけ,コンピュータ犯罪又はコンピュータ関連犯罪との闘いにおいては有益なものとなる迅速な反応を確保するための助けとなる。まず,そのような機関相互間での直接伝送は,外交チャネルを通じた伝送よりも,よりスピーディであり,より効果的である。加えて,活動的な中心機関を設立することは,要請を送ったり受けたりすることを誠実に遂行することを確保し,外国の法執行機関に対して,要請を受けた加盟国内での法律上の要件を充足するためにはどのようにするのが最善であるのかについて助言することを確保し,そして,緊急の要請又は慎重な取扱を要する要請が適正に取り扱われることを確保するための重要な機能を提供する。

 加盟国は,能率に関する事項として,共助のための1個の中心機関を指定すべきものとされている。一般に,本条が適用可能である場合には,中心機関を提供するための加盟国のMLATs又は国内法に基づき,共助のための中心機関を指定するのが最も効果的であろう。しかしながら,加盟国は,自国の共助システム上では適切であるのであれば,2以上の中心機関を指定する柔軟性も持っている。2以上の中心機関が設立される場合,そのようにする加盟国は,それら各機関が条約を同じように解釈し,かつ,それら各機関が要請の受付及び送付を迅速かつ効果的に取り扱うことを確保しなければならない。各加盟国は,欧州評議会事務局長に対し,本条に基づく共助要請を受けて応答するために指定される中心機関又は機関の名称及び住所を(電子メール及びファックス番号を含め)通知しなければならない。また,加盟国は,その指定が最新なものに保たれることを確保する義務を負っている。

 要請をする国の主要な目的は,しばしば,その国の国内法が規律する証拠能力の要件を充足することを確保すること,そして,その国の裁判所が結論を下す前に証拠を使用することを確保すること,である。このような証拠法上の要件への適合性を確保するために,第3項は,要請を受ける加盟国に対し,そのようにすることが自国の法律と適合しない限り,要請をする加盟国が指定した手続に従って要請を実行すべき義務を負わせている。本項は,技術的な手続法上の要件に関する義務のみに関連するものであって,基本的な手続法上の保護に関するものではない,ということを強調しておく。そして,例えば,要請をする加盟国は,要請を受ける加盟国に対し,要請を受ける加盟国の当該措置に関する基本的な法律上の要件に適合しないような捜索及び押収を実行することを求めることはできない。義務の制限的な性質に鑑み,要請を受ける加盟国の法システムがそのような刑事手続を知らないということは,要請をした加盟国から要請された手続の適用を拒絶するための十分な根拠とはならないこと,その代わりに,刑事手続は,要請を受ける加盟国の法律上の諸原則に適合するものでなければならないこと,が合意された。例えば,要請をする加盟国の法律の下では,証人の証言は宣誓の下に行われなかればならないということが手続法上の要件となり得る。もし,要請を受ける国が,その国内法上,証言が宣誓の下に行われるという要件を持っていないとしても,要請をする加盟国の要請は,名誉あることとすべきである。

 第4項は,本条に基づいて送られた共助要請に対して拒絶の申し出ができることを規定する。援助は,第26条第4項に規定する事由(例えば,要請を受けた加盟国の法律中で規定する事由)に基づいて,拒絶することができる。この理由には,国家の主権,安全,公序その他の基本的利益に対する侵害が含まれ,また,要請を受けた加盟国が,その犯罪行為は政治犯罪又は政治犯罪に関係する犯罪であると判断する場合が含まれる。広範な協力手段を提供するという圧倒的な原則を促進するために(第24条,第26条参照),要請を受けた加盟国が設けることのできる拒絶事由は,狭められるべきであり,制限的に検討されるべきである。証拠又は情報のカテゴリーが広範であることと関連して,援助が類型的に拒絶され,又は,煩雑な条件に服するという潜在的可能性を作り出す余地は,そんなに大きなものではないだろう。

 第5項は,直ちに要請に応ずることが要請を受けた加盟国における犯罪捜査上又は刑事手続上で問題があるような場合に,要請を受けた加盟国が,拒絶するのではなく,延期することを許している。例えば,要請をした加盟国が,犯罪捜査又は刑事公判のための証拠又は証言の入手を求めている場合において,同じ証拠又は証言が,要請を受けた加盟国において開始される刑事広範で使用するためにも必要である場合には,要請を受けた加盟国は,援助の提供を延期することが正当化されるだろう。

 第6項は,求められた援助が拒絶又は延期されないような場合に,要請を受けた加盟国は,その代わりに,援助に条件を付することができることを規定している。その条件が要請をした加盟国に受け入れられない場合には,要請を受けた加盟国は,それを修正することができ,あるいは,援助の拒絶又は延期の権利を行使することができる。要請を受けた加盟国は,援助措置を可能な限り広範に提供すべき義務を負っているので,拒絶及び条件の根拠事由は抑制的に行使されるべきである,と合意された。

 第7項は,要請を受けた加盟国に対し,要請をした国へ要請の結果を報告すべき義務を負わせており,そして,援助の拒絶又は延期の場合にはその理由を通知することを求めている。理由を提供することは,とりわけ,要請をした国が,本条の要件について要請を受けた国がどのように解釈したのかを理解する助けとなり,共助の将来の時点での有効性を促進するための協議の基盤を提供するものであり,そして,証言又は証拠の利用可能性ないし利用条件についての未知の事実情報を,要請をした加盟国に予め提供することになる。

 加盟国が,特別に慎重な取扱を要する事案,又は,要請の基礎となっている事実が一般に公開されると大失敗に至るような事案について要請をすることがある。そこで,第8項は,要請をする加盟国が,要請があったという事実及びその内容について機密を保つように要請することを許している。しかしながら,要請を受けた加盟国が求められている証拠又は情報を入手することができないだろうと予想される範囲では,機密性を求めることができない。例えば,援助を有効なものとするためには裁判所の命令を得るために情報が公開されなければならない場合,あるいは,要請を成功裏に実行するためには,証拠を保有している私人に対して要請があったことを告知しなければならない場合がそうである。要請を受けた加盟国が機密性保持の要請に従うことができないときは,要請をした国に対し,その要請の撤回又は修正という選択肢があることを通知しなければならない。

 第2項により設置される中央機関は,相互に,直接に連絡を取り合わなければならない。しかしながら,緊急の事態においては,要請をする加盟国の裁判官及び検察官から,要請を受ける加盟国の裁判官及び検察官に対して,直接に,共助要請が送られるかもしれない。この手続を担当する裁判官及び検察官は,要請を受ける側の中央機関へ伝送するという見地から,自国の中央機関に対して,要請書の写しを送付しなければならない。第b号に基づき,国際刑事警察機構(Interpol)を経由して要請をすることができる。要請を受ける加盟国の機関は,その担当権限外のものとして要請を受ける場合には,第c号に従い,二重の義務を負う。第1に,その機関は,要請を受けた加盟国の権限ある機関に対し,その要請を回付しなければならない。第2に,その機関は,要旨をした側の機関に対して,その伝送をしたことを通知しなければならない。第d号に基づき,緊急性がない場合には,要請を受ける加盟国の機関が強制手段を用いなくても要請に応ずることができる限りにおいて,他からの干渉を受けず直接に,中央機関の要請を伝送することができる。最後に,第e号は,加盟国が,欧州評議会の事務局長を通じて,それが効果的であるのであれば,中央機関に対して直接の連絡を送付すべきことを,他の加盟国に対して通知することを可能としている。

[機密性保持及び使用制限](6)

[第26条及び第27条で規定する拒絶の条件又は理由に加え],本条は,当該情報又はマテリアルがとりわけ慎重な取扱を要する場合において,要請を受けた加盟国が,援助を承認するについてその使用を制限し,あるいは,要請をした加盟国の法執行機関の範囲を超えてそれが拡散しないようにすることができるよう,情報又はマテリアルの使用に関する制限を特に規定する。これらの制限は,とりわけ,データ保護のために用いることのできる保障を提供する。

 第27条の場合と同じように,第27条の2は,要請をする加盟国と要請を受ける加盟国との間の統一的又は互恵的な立法を基盤とする共助条約又は共助協定が存在しない場合にのみ適用となる。そのような条約又は協定が有効である場合には,加盟国間で別段の合意をしない限り,本条の規定の代わりに,そこに規定された機密保持及び使用制限に関する条項が適用されなければならない。このことは,二国間又は多国間の共助条約(MLATs)及びこれに類する協定との重複を避けるためであり,それによって,実務担当者は,競合し相互に矛盾するかもしれない2つの文書の適用しようとするのではなく,普通の良く理解できる枠組みに基づいて,その運用を継続することができるようになる。

 第2項は,要請を受けた加盟国が,共助の要請に応ずる場合において,2つのタイプの条件を課することを許している。第1に,機密情報の本体が含まれている場合のように,(機密保持の)条件なしには要請に応えることができない場合には,提供される情報又はマテリアルを機密に保つことを要求することができる。要請を受けた加盟国が要請された援助を提供すべき義務を負う場合には,完全な機密性保持を要求することは適切ではない。というのは,そのようにすることは,多くの場合,(強制開示を含め)公開の裁判で証拠として使用する場合のように,要請をする加盟国が,犯罪を成功裏に捜査し起訴することができる能力を遮断することになると思われるからである。

 第2に,要請を受けた加盟国は,要請中に記述された犯罪捜査又は刑事手続以外には使用しないという条件を付して,情報又はマテリアルの提供をすることができる。この条件を適用するためには,それが要請を受けた加盟国によって明示に示されていなければならず,そうでない場合には,要請を受けた加盟国による使用制限は何も存在しないことになる。条件が示されている場合には,この条件によって,情報及びマテリアルが要請中に予め記載されていた目的のためにのみ使用することができ,また,それによって,要請を受けた加盟国の同意なしに他の目的でマテリアルを使用すればルール違反となる,ということが確保される。使用制限の利用できることに対する2つの例外が交渉担当者によって認識された。それは,本項の要件の中で暗に示されている。第1に,多くの国々における法律上の基本原則に基づき,提供されるマテリアルが起訴された者を弁護する証拠である場合には,それは,弁護人又は司法機関に対して開示されなければならない。加えて,共助の枠組みの中で提供されたマテリアルは,(強制的な開示を含め)通常は公開の手続による裁判の場での使用が意図されている。一度そのような開示がなされると,マテリアルは,基本的に,パブリック・ドメインとなってしまう。このような場合には,共助が求められた捜査又は刑事手続の範囲内で機密性を確保することは不可能である。

 第3項は,情報を転送された加盟国が負わされた条件に従うことができない場合には,それを提供する加盟国に対して,「条件に従うことができないのであれば情報不提供という選択肢がある」という通知をしなければならないと規定する(7)。しかしながら,要請を受ける加盟国が条件に同意する場合には,名誉なことであるに違いない。

 第4項は,要請を受けた加盟国が,当該条件の遵守してもらえるかどうかを確認するために,第2項に示す条件に従って,要請をした加盟国によってなされる受領した情報又はマテリアルの使用に関し説明を求めることができる,ということを規定する。要請を受けた加盟国は,例えば,提供されたマテリアル又は情報がいつアクセスされたかといった,かなり瑣末な事項については,問い合わせができないということが合意された。

第2節 特別規定

 本節の狙いは,コンピュータ関連犯罪及び電子的な形式による証拠を含む場合における国際的な活動を効果的に連携させるために,特別のメカニズムを提供することにある。

 

第1款 応急の措置に関する共助

 

記憶されたコンピュータ・データの応急保全

 本条は,国内法のレベルで用いるために第16条に規定しているのと同じレベルのメカニズムを国際的にも提供する。本条第1項は,加盟国が要請をする権限を付与する。そして,第3項は,データ入手のための共助要請を準備し,伝送し,実行するのに必要な時間内に,データが改変,消去又は削除されないようにするため,要請を受けた加盟国の領土内で,コンピュータ・システムという手段によって記憶されたデータの応急保全を適法に得ることができるようにすることを,各加盟国に求めている。保全は,在来型の共助を実行するよりもずっと迅速にするための,限定的で暫定的な措置である。それは,ほんの僅かなキー・ストロークによって,又は,自動的なプログラムの実行によって,削除され,改変され又は移動されるかもしれず,犯罪の容疑者を追跡することが不可能にされ,あるいは,有罪とするための決定的な証拠が破壊されるかもしれない。コンピュータ・データ中のある形態のものは,それが削除される前のほんの短時間だけ記憶される。そこで,数週間ないし数ヶ月を要するかもしれない正式の共助要請の実施過程を含む期間よりも長い期間を待っている間に,そのようなデータの利用可能性を確保するためのメカニズムが必要であるとの合意がなされた。

 通常の共助を実施するよりもずっと迅速になされるので,同時に,このメカニズムは,より侵害的ではない。要請を受けた加盟国の共助担当機関は,データの管理者からデータの保有を入手することを要求されない。望ましい手続は,後の段階になって法執行機関のために開始されるべき手続の開始を待っている間に,要請を受けた加盟国のために,管理者(しばしば,サービス・プロバイダその他の第三者である。)がそのデータを保全(即ち,削除ではない。)することを確保することである。この手続は,迅速であり,データに関係する者のプライバシーを保護するものであるという利点を持っている。というのは,そのデータは,通常の共助の枠組みに従った完全な開示のための基準が満たされるまでは,いかなる政府機関によっても開示され又は検査されることがないからである。それと同時に,要請を受けた加盟国は,データの提出命令又は捜索令状の発行及び実施を含め,データの迅速な保全を確保するための他の手続を利用することも許されている。キーとなる要請は,再現不可能な喪失からデータを守るためになされる最高度に迅速な手続を持つことである。

 第2項は,本条に従ってなされる保全要請の内容を規定する。これが暫定的な措置であること,要請は迅速に準備され伝送される必要があるだろうということ,提供される情報は要約であるかもしれず,データの保全を可能とするために必要な最小限の情報を含むのみであるかもしれないということは,銘記されなければならない。保全を求める機関及び措置を求める官署の特定に加え,要請をするには,事実の要約,保全されるべきデータ及びその所在を特定するのに十分な情報,並びに,そのデータが,関連する犯罪の捜査及び刑事訴追に関係するものであり,その保全が必要であることの証明を提供しなければならない。最後に,要請をする加盟国は,それに続けて,データの提出を得ることができるようにするために,共助要請の申出をしなければならない。

 第3項は,保全の提供の条件として双罰性を要しないという原則を規定する。一般に,双罰性の原則を適用することは,保全という文脈においては,その意図とは反対の結果を招くことになる。第1に,現代の共助実務上の問題として,捜索及び押収又は傍受といった最も侵害的な刑事手続上の措置においてさえ,双罰性の要求が無視される傾向がある。起草者が想定する保全は,しかしながら,実質的に侵害的ではない。というのは,管理者は,その保有するデータを適法に保有し続けることができるだけであり,そのデータは,データの開示を求める正式な共助が実施されるまでは,要請を受けた加盟国の官署によって開示又は検査されることがないからである。第2に,実際上の問題として,双罰性の存在を確実に確立するのに必要な証明を提供するためには,その間に,データが削除,消去又は改変されるかもしれないだけの長い時間を要することが多い。例えば,捜査の初動段階では,要請をする加盟国は,自国の領土内に所在するコンピュータへの侵入があったことについては注意が払われるかもしれないが,後の段階になるまでは,損害の性質及び範囲について正しい理解を持たないかもしれない。要請を受けた加盟国が,双罰性を確実に確立されるのを待っている間に,侵入行為の発信地を追跡するトラフィック・データの保全を遅延するような場合,サービス・プロバイダが,伝送がなされた後のわずか数時間ないし数日間だけ保持されている重要なデータを日常業務として削除してしまうというようなことがしばしば発生してしまうだろう。その後に,要請をした加盟国が双罰性を確立することができたとしても,重要なトラフィック・データは,復元できなくなっており,そして,犯罪の容疑者が誰であるのかを確定できなくなってしまうかもしれない。

 従って,加盟国は,保全の目的では双罰性の要件を免除しなければならない,というのが一般原則であることになる。しかしながら,第4項に基づいて,それを制限する留保を利用することはできる。加盟国が,データ提出の共助の要請に応ずるための条件として双罰性を要求する場合であって,かつ,開示の時点では双罰性の要件が充足されていないと信ずべき根拠を有する場合には,保全の条件として双罰性を要求する権利を留保することができる。

 このほかの場合には,第5項により,要請を受けた加盟国は,その要請を実行によって,自国の主権,安全,公序その他の基本的な利益を損なう場合,又は,その犯罪が,政治犯罪又は政治犯罪に関係する犯罪であると判断する場合に限り,保全の要請を拒絶することができる。コンピュータ犯罪又はコンピュータ関連犯罪について効果的に捜査及び刑事手続をするためのこの措置の求心力を持つようにするため,保全の要請を拒絶するための他のいかなる理由を主張することも許されないものとすることが合意された。

 要請を受けた加盟国は,時として,データの管理者が,要請をする加盟国の捜査についての機密保持を破る行動その他の違法な行動に走ろうとするような事態に遭遇するだろう(例えば,保全されるべきデータが犯罪者グループの支配下にあるサービス・プロバイダによって保持され,又は,捜査対象となっている者自身によって保持されている場合)。このような場合には,第6項に基づき,要請をした加盟国が,保全要請を通じて負うことになるリスクを担うべきかどうかを評価し,あるいは,提出命令又は捜索及び押収のようなより侵害的ではあるが安全な共助方式を求めるかどうかを評価することができるように,要請をした加盟国に対して,速やかに通知がなされなければならない。

保全されたトラフィック・データの応急開示

 本条は,第17条で国内使用のために設けられる権限と同じ国際的な権限を提供する。その発信地へと伝送を遡り,犯罪の容疑者を同定し,決定的な証拠を探し出すために,犯罪が実行された加盟国の要請に際して,要請を受けた加盟国は,しばしば,自国のコンピュータを介してなされた通信に関するトラフィック・データを保全することになるであろう。そのようにする際,要請を受けた加盟国は,自国の領土内で見つかったトラフィック・データによって,第三国に所在するサービス・プロバイダ又は要請を受けた加盟国自身の中に所在するプロバイダからなされた伝送の経路が明らかになる,ということを発見するだろう。このような場合,要請を受けた加盟国は,要請をした加盟国に対し,応急のものとして,他の国に所在するサービス・プロバイダがどこであるかを確認し,他の国からの通信経路がどうなっているのかを確認するために十分な量のトラフィック・データを提供しなければならない。伝送が第三国から来たものである場合には,その情報は,要請をした国が,その最初の発信地へと伝送を遡るために,当該他の国に対し保全及び応急の共助を求めることができるようにするだろう。伝送がぐるりと回って要請をした加盟国に戻ってきてしまった場合には,国内法上の手続を通じて,更にトラフィック・データの保全及び開示を得ることができるだろう。

 第2項により,要請を受けた加盟国は,開示をすることが自国の主権,安全,公序その他の基本的な利益を損なうことになりかねない場合,あるいは,当該要請を受けた加盟国が,政治犯罪又は政治犯罪に関係する犯罪であると判断する場合にのみ,トラフィック・データの開示を拒絶することができる。第29条(記憶されたコンピュータ・データの応急保全)中にあるように,このタイプの情報は,本条約の範囲内にある犯罪を実行した者が誰であるかを確認し,決定的な証拠を探し出すために非常に重要なものであることから,拒絶事由は,厳しく限定されており,援助を拒絶するために他の事由を主張することは許されないということが合意されている。

 

第2款 捜査権限に関する共助

 

記憶されたコンピュータ・データへのアクセスに関する共助

 各加盟国は,第19条(記憶されたコンピュータ・データの捜索及び押収)に基づき,自国のためにする能力を持たなければならない。それと同時に,各加盟国は,他の加盟国に対して,自国の領土内に所在するコンピュータ・システムという手段によって記憶されたデータを捜索若しくは捜索と類似するアクセス,押収若しくは押収と類似する確保,又は開示するための能力を持たなければならない。 第1項は,加盟国に対し,このタイプの共助を要請する権限を授与し,第2項は,要請を受ける加盟国に対し,それを提供できるようにすることを求める。また,第2項は,そのような協力を提供するための要件及び条件は,刑事関連事項における司法共助を規律する適用可能な条約,協定及び国内法の中にそれが規定されていなければならない,ということを定める。第3項により,(1) 関連するデータがとりわけ滅失又は改変され易いと信ずべき根拠がある場合又は(2)そこに規定する文書,協定及び法律が別の定めをしている場合には,要請は,応急ベースで応答されなければならない。

同意に基づき又は公然と入手可能な記憶されたコンピュータ・データに対する国境を越えたアクセス

 加盟国が他の加盟国内に所在する記憶されたコンピュータ・データに対し,共助要請なしに片面的にアクセスをすることが許されるのはどのような場合かという問題は,条約の起草者がかなりの議論を交わした問題だった。国家が片面的に行動することが承認されている場合,及び,そうではない場合について細部にわたる考察がなされた。最終的に,起草者は,この領域を規律する納得のいく法的な拘束を用意することは,まだできないという結論になった。ある部分は,現在までのところ,そのような場合に関する確実な経験に欠けているという理由に基づくものであったし,また,ある部分は,個別事案の仔細な状況を考慮しなければ適切な解決が得られず,従って,一般ルールを構築することが困難であるという理由に基づくものであった。最終的に,起草者は,条約の第32条において(片面的アクセスが可能となる)場合を規律するのにとどまった。そこでは,片面的な行動を許容することについて,起草者全員が同意した。起草者は,更に経験が集積され,そして,それに焦点を当てた議論が更になされるような時代になるまでは,(片面的アクセスが可能となる)別の場合については規定しないことに同意した。これに関して,第39条第3項は,(片面的アクセスが可能となる)他の場合については,その権限を授与するものではなく,また,排除するわけでもないということを規定している。

 第32条(同意に基づき又は公然と入手可能な記憶されたコンピュータ・データに対する国境を越えたアクセス)は,2つの場合に対応している。第1は,アクセスされるデータが公然と利用可能なものである場合であり,第2は,加盟国が,自国の領土内のコンピュータ・システムを通じて,他の加盟国に所在するデータにアクセスし又はこれを受領し,かつ,当該システムを通じてそのデータを当該加盟国に開示することについての適法な権限を持つ者の適法かつ自発的な同意を得られる場合である。これら両方の場合において,データの所在場所である加盟国は,アクセスする国のよって採られる片面的な措置について,拒否し,処罰し又は苦情を言うための行動をとることができない。

トラフィック・データのリアルタイム収集に関する共助

 多くの場合において,捜査官は,過去の伝送記録上の痕跡をなぞることによって,通信の発信源まで追跡することを確保できない。というのは,鍵となるトラフィック・データは,それが保存される前に,伝送の鎖の中で,サービス・プロバイダによって自動的に削除されてしまったかもしれないからである。従って,捜査のためには,各加盟国が,他の加盟国にあるコンピュータ・システムを経由してなされる通信に関し,リアルタイムでトラフィック・データを入手することのできる能力を持つことが非常に重要である。そこで,第33条(トラフィック・データのリアルタイム収集に関する共助)により,各加盟国は,他の加盟国のために,リアルタイムで,トラフィック・データを収集すべき義務を負う。本条は,加盟国に対し,ここでは,これらの事項に関する協力を求める一方,他のところでは,共助の既存の様式を提供している。そして,そのような協力が提供される場合の要件及び条件は,一般に,刑事関連事項における司法共助を規律する適用可能な条約,協定及び法律の中で規定されている。

 多くの国々では,トラフィック・データのリアルタイム収集に関する共助が広く提供されている。というのは,そのような収集は,コンテント・データの傍受,捜索及び押収よりも侵害的ではないと見られているからである。しかしながら,多くの国では,より狭いアプローチを採っている。従って,国内法上で同様のことをする場合の適用範囲に関する第14条第3項(手続条項の適用範囲)に基づいて加盟国が保全をすることのできるのと同じ方法で,第2項は,加盟国に対し,第24条(国際協力に関する一般原則)に規定する犯罪行為よりも狭い範囲で,この措置を適用する範囲を限定することを許している。1つの制限が規定されている。即ち,犯罪行為の範囲は,国内の同種事件でその措置を利用することができる犯罪行為よりも,狭めることができない。もちろん,トラフィック・データのリアルタイム収集は,時として,犯罪の容疑者の同一性を確認する唯一の方法であるし,また,この措置がより侵害的でないものでもあるので,第2項中の「少なくとも」という要件は,例えば,双罰性が存在しない場合でさえ,加盟国が,可能な限り広い援助を許容するようにすることを期待している。

コンテント・データの傍受に関する共助

 傍受の侵害性が非常に高度であるので,コンテント・データの傍受のための共助の提供義務は,限定されている。援助は,加盟国の適用され得る条約及び法律によって許容されている範囲内で,提供されなければならない。コンテントの傍受を求める共助に関する条項は共助実務の限界領域にあるので,共助義務の範囲及び制限に関しては,既存の共助の枠組み及び国内法に任せると決定された。これに関しては,第14条,第15条及び第21条の注釈,並びに,通信傍受のための書面照会との関係で刑事関連事項の共助に関する欧州条約の運用実務に関する勧告N-R (85) 10を参照されたい。

 

第3款 24/7ネットワーク

 

24/7ネットワーク

 既に述べたとおり,コンピュータ・システムを利用した犯罪と効果的に戦い,電子的な形式による証拠を効果的に収集するには,非常に迅速な対応が必要である。更に,ほんのわずかなキー・ストロークだけで,何千キロもの距離と幾つものタイム・ゾーンの彼方へと簡単に結果がもたらされるような世界の中の一部で行動するようになるべきだろう。この理由から,現代の警察上の協力及び共助の様式は,コンピュータ時代からの挑戦に効果的に対応するための補充的なチャネルを必要としている。本条で設けられるチャネルは,G8諸国グループの賛助により創設され既に機能しているネットワークから得られた経験を基盤としている。本条により,加盟国は,本章とりわけ第35条第1項(a)ないし(c)で規定する適用範囲内で,捜査及び刑事手続における即時の援助を確保するために,週7日間,24時間ベースで利用可能な連絡先を指定する義務を負う。このネットワークの設立が,本条約によって提供される手段の中でも最も重要なものであり,そして,加盟国が,コンピュータ犯罪又はコンピュータ関連犯罪によって提起された法執行上の挑戦に効果的に対応し得るものであることが合意された。

 各加盟国の24/7連絡場所は,とりわけ,技術的な助言の提供,データの保全,証拠の収集,法情報の供与及び容疑者の所在特定を促進し,かつ,直接に実施するためにある。第1項中の「法情報」という用語は,公式な協力又は非公式な協力を提供するための法律上の必須要件についての協力を求めている加盟国に対し,助言をすることを意味する。

 各加盟国は,自国の法執行構造の範囲内で連絡場所をどこにするのかを決定する自由を有する。幾つかの加盟国は,共助のための中央機関内に24/7連絡場所を設置することを望むかもしれないし,他の加盟国は,コンピュータ犯罪又はコンピュータ関連犯罪と戦うための警察の特別部門内に置くのが最善だと考えるかもしれないが,しかし,他の加盟国では,その政治構造及び法律システムに従い,特定の政党を連絡場所とするのが適切なこともあるかもしれない。24/7が攻撃の防止又は追跡のための技術的な助言を提供するためのものであると同時に,容疑者の所在特定のような国際的な協力上の義務でもあることから,1個の正解だけが存在するわけではないし,また,ネットワーク構造は,時代を越えて発展するだろうと予測される。国内の連絡場所を設計するについては,他国の言語を用いる連絡場所との通信の必要性について,しかるべく配慮されなければならない。

 第2項は,24/7連絡場所それ自体で直接に実行しない機能を迅速に実行できるようにする能力を持つことがその最重要な職務だ,と規定する。例えば,加盟国の24/7連絡場所が警察機構の一部である場合には,適切な行動がその日のうちにとられ得るようにするために,国際的引渡又は共助のための中央機関のようなその国の政府内の関連機構と応急的に協働する能力を持たなければならない。更に,第2項は,各加盟国の24/7連絡場所が,応急ベースで,他のネットワーク構成員と通信を行う能力を持つことを求めている。

 第3項は,ネットワーク上の各連絡場所が,適切な装置を持つことを求めている。ネットワークの円滑な運営のためには,最新の電話,ファックス及びコンピュータ装置が必要である。また,その他の通信方式や分析装置が,技術発展に即応して,システムの一部となっていることが必要である。第3項は,また,ネットワーク上の加盟国チームの一部を構成する職員が,コンピュータ犯罪又はコンピュータ関連犯罪に関して,そして,それに対していかに効果的に対応するかについて,良く訓練されていることを求めている。


脚注

(6) 本条についての説明は,本条の現在の条文について完全な合意ができていないので,第27条の2に関する今後の議論に従う。

(7) [本条は,第27条に対する先入観を持っていない。これらの条項の適用に際しての情報の利用制限は共助を実質的に妨げる効果を持ってはならないと理解されている。第27条の2は,第27条第6条の基礎となっている性質を有する他のデータ保護条件を付加する可能性を排除するものではない。]


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Published on the Web : May/01/2001

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