法情報学の目的と法情報データベースの構築

by 夏 井 高 人


初出: 教育システム情報学会第24回全国大会講演論文集315頁


  1 法情報学の位置づけ

 法情報学は,法に関連する情報を対象する情報学の一分野である。

 法情報は,本来国民のものであり,国民が自由にアクセスできるはずのものである。しかし,法情報は,現実には国民の手の上には存在しない。このような現実が存在する限り,法情報学は,民主主義を名目だけではなく実質的なものとするための社会的機能を営むことになる。そして,そのための手段を模索・検討し,有効な技術的手段を構築することを目的とすべき必然性がある。

2 法情報へのアクセスの手段

 現在のところ,法情報へのアクセスは,六法全書や判例集といった印刷物,CD-ROM化された判例集,リモートでの判例データベースへのアクセスなどの方法によってなされている。

 しかし,これらの法情報は,個別ばらばらに収集,蓄積されたものであり,また,電子データ化された情報であっても,そのデータ形式やレコード形式等が相互に異なっているためにデータの互換性に乏しい。さらに,インターネット上で増加しつつある法情報の基本的な記述フォーマットであるHTMLは,データ内容の論理構造の記述には不向きである。

3 XMLの応用

 XMLは,DTDによってユーザが任意にタグの構造を決定することのできる記述言語である。

 法情報は,法令にしろ判決にしろ,法学専門家による構造解析を踏まえてなされる限り,XMLによる記述に適しており,また,XMLにより個々に構築された法情報データベースを相互に互換性のあるものとして運用するのにも適している。

 したがって,XMLによる法情報データベースの構築のための基本技術の確立こそが法情報学の緊急課題である。

4 XML応用研究の現状

 日本においては,夏井がプロジェクト・リーダとなっている学術フロンティア「社会・人間・情報プラットフォーム・プロジェクト」が最も大きな研究組織であり,5カ年計画によってXMLの応用である法情報データベースを構築すべく研究中である。

 同様の研究は,アメリカ合衆国でも開始されており,幾つかの大学のサイトでは,その研究内容がWeb上でも公表されている。

5 XML応用研究の問題点

 DTDの記述それ自体は非常に自由度の高いものであるが,そこに記述されるべき法情報の構造解析は,必ずしも容易ではなく,また,情報技術について素人の法律家がXMLによるデータ記述をすることは無理である。したがって,データ入力(XML変換)の自動化システムや関連ツールを大量に提供する必要がある。

 XMLデータベースは比較的新しいものであるため,従前のSQLデータベースやDBMSなどとの互換性を確保するためには,そのエンジン部分に関しては,相当高度なデータベース構築技術が必要となる。

 以上の問題を解決するためには,法律専門家と情報技術の専門家との共同研究が不可欠である。

6 XMLデータベースの教育への応用

 XMLによる法情報データベースは,情報の論理構造が明確に記述されているため,たとえば,法学自習用の教育システムや遠隔授業用の補助手段などへの転用が比較的容易であると思われる。


<参考サイト>

http://www.isc.meiji.ac.jp/~sumwel_h/legalinfo/index.html

http://www.isc.meiji.ac.jp/~sumwel_h/legalinfo/doc/SHIP-proj.htm

http://home2.highway.ne.jp/sui_feng/index.html

http://ctl.ncsc.dni.us/xmlconcept2.htm

http://gsulaw.gsu.edu/gsuecp/

http://www.uelp.org/


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Last Modified : Mar/17/2000