シェル・空間構造研究室

研究テーマ:ラチスシェルのTMDによる制振

研究背景

近年,構造物の地震応答低減に対する社会的要求の多様化と,建築周辺の分野における技術発展により,応答低減機構を備える建築物が多くなってきている。建築物の中でも空間構造物は,災害時の避難所としても利用されるため,安全性に対する社会的要求が高い。 しかし,2016年の熊本地震等の大地震において空間構造物には,屋根構造部材の損傷だけでなく,天井材の落下や屋根支承部,柱脚部の破壊等の耐震性能の低下につながる多くの被害が発生している。 そのことを受け,地震応答の低減を目的とした空間構造物の振動制御に関する研究が数多く行われている。 これらの研究で用いられている制振デバイスとしては,制振ブレース,粘弾性ダンパー,TMD (Tuned Mass Damper)等が挙げられる。 制振ブレース,粘弾性ダンパーによる制御方法では設置された2点間の応答変位の差を利用するため,空間構造物の屋根面における面外方向振動を直接的に抑制するには工夫を必要とする。

一方,TMDはパッシブ型の制振装置であり,構造物に対して1~3%の質量で,制振効果を得ることができるという利点を有する。さらに,TMDは1つの支点で設置可能であるため設置の自由度が高く,形状が複雑で意匠性に対する要求の高い空間構造物に適した制振装置と考えられる。 TMDは,建築分野では高層建物や大スパン床スラブ,土木分野では吊り橋や斜張橋に適用されており,地震時・強風時における構造物の応答制御や,交通振動・歩行振動対策等においてその応答低減効果が報告されている。 空間構造物には,水平方向入力に対して鉛直応答が励起される,固有振動数の近接した複数の振動モードが卓越するという振動特性がある。このような特性を有する空間構造物へのTMDの適用に関して研究がなされている。 また,振動実験によってもTMDによる応答低減効果が分析されている。実大体育館の1/4縮小模型などを対象として振動台実験が行われており,二重TMD設置による応答低減効果が検討されている。

しかし数値解析による既往の研究では,TMDの変位振幅に限界値を設けずにTMDによる応答低減効果が分析されており,実際にTMDを製作した場合には,応答変位の振幅には限界値が存在し,振幅限界に到達した場合には応答低減効果が悪化する可能性がある。

研究目的

本研究では,既往の最適条件式に基づいて設計した多重TMDを屋根面に設置した上で,水平地震動を受ける場合にTMDの応答変位が振幅限界に達した際の応答低減効果への影響について分析する。
最終的に,上記の分析から得られる結果に基づき,TMDの振幅限界値の設定のための手法を構築する。

対象構造物

本研究の対象構造物は,屋根型円筒ラチスシェルです。

ここに対象構造物のモデルの写真が表示される予定

▲ 対象構造物のモデルの写真

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