step09 プレゼンテーションのためのPowerPoint利用法
この単元では、プレゼンテーション(特定のテーマについて、一定の時間と場所で説明すること)の技法について学び、次のstepで短いプレゼンテーションを実践できるよう準備する。
テキストとして、図9-1に示す本を使用する(購入は不要)。詳細な説明はテキストを参照しながら行うので、この単元資料ではポイントのみまとめておく。

プレゼンテーションとは
正式に機会が設定され、あるテーマについて話すことはすべてプレゼンテーションだと考えてよい。
- 学内での研究発表
- 入社試験の面接
- 社内での企画の発表
- 客先への提案
- 昇進試験における発表
とは言え、人前で話すことに苦手意識を持ち、プレゼン恐怖症になっている人は少なくない。だが、そもそも、最初からプレゼンが得意な人などいないのである。
私がよく言うのは、社会人になって3年くらいまでの間に、10回くらいはプレゼンの機会があるので、1回1回のプレゼンをちゃんと準備し、終わった後に反省してつぎのプレゼンテーションに活かすという改善のサイクルさえ回していけば、ある程度までは確実に上達するということだ(あるところから先は話芸の領域だから、才能の問題になるが)。
この単元でのプレゼン実践を、そのための機会の1つとして捉えていただきたい。
プレゼンテーションソフト(MS PowerPoint)
プレゼンにはプレゼンソフト(MS PowerPoint)を使うのがデファクト・スタンダードになって久しい。だが、PowerPointの使い方を習得するのは容易であるし、それがこの単元の目標ではない。Excelが表用のワープロだとすれば、PowerPointはプレゼンスライド用のワープロに過ぎない。基本ソフトのおかげで、GUIは類似しているから、Wordからの類推で、すぐに習得できるはずだ。
PowerPointは、正式にはプレゼンテーショングラフィックスソフトと呼ばれる。これを用いることで、人前で発表する際の資料を効率的に作成でき、アプリを使ってプレゼンを実行できる。
プレゼンソフトが登場するまでは、発表資料は、OHPシート(トランスペアレンシ)や35mmスライドフィルムで作成・呈示されていた。過渡期には、プレゼンソフトで作成した資料をOHPシートに印刷し、OHP(オーバーヘッドプロジェクタ)で投影したり、印刷した紙を書画カメラで投影することもあった。パソコンを接続できるプロジェクタが高価で、あまり普及していなかったからである。
現在では、発表資料をプレゼンソフトで作成し、発表者が持参したノートPCをプロジェクタに繋いでプレゼンを実施する方法がすっかり定着した。したがって、PowerPointの操作は、Word、Excelと並んで社会人として必須のスキルだといえる。だが、習得は容易であり、何度かプレゼンを実践するうちに、自然に身につく。
作成できる資料
PowerPointでは、以下の資料を作成できる。これらの資料を1つの文書ファイルにまとめたものが、プレゼンテーション(文書)である。各スライドに書式を設定したり、デザインを工夫することで、外見的には魅力的なプレゼン資料が仕上がる。もちろん、プレゼンの説得力は、外見より内容次第である。
- スライド
- 従来のOHPシートや(フィルムの)スライドにあたる。スライドには、タイトル、本文テキスト、グラフ、図形、SmartArt(図表を作成するウィザード)や、他のアプリで作成したオブジェクト(Excelの表など)も含められる。必要に応じて、各ページにロゴ、日付、ページ番号などを挿入することもできる。
- 配布資料(ハンドアウト)
- プレゼンの場で配布する、出席者のための資料。配布資料には、1ページあたり2、3、6枚のスライドが縮小印刷される。
- 発表者用ノート
- 発表者の覚えのためのノート。プレゼンの際にノートを読むのではなく、発表内容を頭に入れた上、スライドと聴衆の反応を見ながら発表できるよう練習するべきである
- アウトライン
- プレゼン資料を作成するとき、アウトライン形式(1.5次元のデータ)で作業を進めることもできる。アウトラインを用いて、プレゼンテーションの論旨が明確になってから、各スライドの内容やデザインを工夫すればよい
効果的なプレゼンのために
プレゼンを行う場合に、留意すべきポイントをつぎに挙げる。これを見るだけでも、プレゼンはたいへん奥が深い世界だと分かるだろう。単なるスキルに留まらず、持てるコミュニケーション力のすべてが試される。プレゼンテーション道と呼んでもおおげさではない。実際に発表の場数を踏むしか、上達の道はない。
- 目的
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- 何のためのプレゼンか? 自分のアイデアを説明する、何かを報告する、誰かの同意を取り付けるなど
- 最も言いたいこと、最低限言うべきことはなにか?
- 目的を達成するのに、どのデータ(材料・ネタ)を使うのが効果的か?
- 聞き手
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- 誰に対するプレゼンか? 同僚か、上司か、顧客か、学生か?
- 人数は? 10人、100人、1000人……
- テーマに対する聞き手の予備知識は?
- 興味をもってもらうには?
- 環境
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- 発表時間、質問時間※1
- 設備(投影・音響・板書……)
1 時間的条件は、まっ先に確認すべきである。たとえば8/2の発表といえば、発表時間8分、質疑応答2分の発表のことであり、学会の全国大会などがこれに相当する。ここから、準備期間や、スライドの枚数など、さまざまな条件が派生してくる。もちろん、短いプレゼンの方が楽だということではない。
はじめに認識すべきことは、プレゼンとレポートは違うということである。
レポートなら、これまでの学生生活で経験があるかもしれない。レポートは報告書と訳すように、調査した結果のまとめである。あるテーマについて調べたことを、読み手にわかりやすく説明し、理解してもらう目的で書かれる。その内容には、客観的な正確さが求められる。
これに対し、プレゼンは話し手の主張を聞き手に伝え、賛同してもらう目的で行う。内容の客観的な正確さよりも、主張に説得力を持たせることが重要だ。たとえば、自分がある会社の営業担当者として、客先でコンペのプレゼンをする場合を考えればよい。ライバル社の提案との得失を、冷静に、客観的に分析してもしかたがない。明白なウソは、後で報いを受けるだろうが、自社にとって不都合な真実を隠すことには、なんの問題もない。B社の提案にくらべて、自社の提案がいかに優れているかを顧客に印象づけるのが目的である。そうでなければ、わざわざ身振り手振りを交えてしゃべる必要などない。
プレゼンテーションの参考になるもの
社会はビジネスでできているので、プレゼンに類する活動はいくつもあり、注意深く観察すれば、自分のプレゼンの参考になる。たとえば、マスコミが発信する情報は、事実をそのまま伝えるスタイルは少なく、あるテーマをどう効果的に伝えるかという観点から検討済みであることが多い。その手法から学ばない手はない。
テーマ、タイトル
プレゼンのテーマとタイトルは違う。○○についてはテーマであり、それに、読み手の興味をそそる要素(キャッチ)を加えたものがタイトルである。たとえば週刊誌の中吊り広告に並んでいるのは、タイトルであり、プレゼンのタイトル選びには、とても参考になる。内容を正確に表すことを重視するか、センセーショナルに人目を惹くかは、各自の好みによる※2。読み手の興味をそそるタイトルが難しければ、タイトルにサブタイトルを添えたらどうだろうか。たとえば、
川内原発の再稼働
~誰が笑い、誰が泣きを見るのか~
なら、タイトルはほぼテーマそのままでよい(「~について」はさすがに不要)。サブタイトルがキャッチ的な役割を受け持つわけだ。もちろん、このサブタイトルだけだと、テーマが不明になってしまう。
2 もちろん、みなさんは「週刊○○」や「日刊××」や「△△スポーツ」ではないので、あまりあざといタイトルをつける必要はない。やりすぎると聞き手のレベルによっては顰蹙を買ってしまい、内容の信憑性まで疑われることになる。
ストーリー
ストーリーとは、ある主張をするにあたり、それを聞き手に納得させるための話の持って行きかたである。主張が同じでも、ストーリーは幾通りもあるし、逆に、同じ事実から出発しても、ストーリー次第で正反対の主張に行き着くことさえある。プレゼン資料(スライド)の構成としては、ストーリーは本論で展開される。
ストーリー展開の参考になるのが、テレビの報道番組である。それも、今日の出来事を伝えるだけのニュースではなく、個別の事件に対してある程度の時間をかけて解説し、自分たち(ニュースキャスター自身や放送局)の主張も織り込むニュースショーと呼ばれるジャンルの番組である。具体的には、
- ニュース10(NHK)
- NEWS23(TBS)
- 報道ステーション(テレ朝)
