固体・液体・気体の間で状態変化することを,相変化(phase change)と呼びます。
液体から気体への相変化を蒸発(evaporation),
特に液体中から気泡の発生を伴う相変化のことを沸騰(boiling)と呼びます。
一方,気体から液体への相変化を凝縮(condensation)と呼びます。
理科の実験で,アルコールランプで水を沸騰させた際の水温変化を観察したことがあると思いますが,
沸騰が始まり沸点(100℃)に達すると,時間が経っても温度が上昇しなくなりました。
これは,液体から固体へ相変化をする際に,外からエネルギーを吸収するためで,
この相変化に伴う熱の吸収・放出を潜熱(latent heat)と呼びます。
このため,相変化を伴う加熱・冷却は,
通常の温度変化に伴う熱(顕熱(sensible heat))に比べ,
同じ温度差でより多くの熱量を運ぶことができます。
沸騰現象は,伝熱面の温度が液体の飽和温度を超えた際に生じ,液体の流動形態,液温,沸騰様式などの組み合わせにより分類されます。
流動形態による分類では,鍋ややかんの中のように伝熱面が周囲の流体に浸っているプール沸騰(pool boiling)と,
加熱された管内を相変化しながら流れていく流動沸騰(flow boiling)に分類されます。
液体の温度による分類では,液体の温度が飽和温度に達している場合を飽和沸騰(saturated boiling),
飽和温度より低い場合をサブクール沸騰(subcooled boiling)と呼びます。
飽和沸騰では全体が激しく沸騰状態になりますが,サブクール沸騰では伝熱面近傍のみで沸騰が生じます。
沸騰様式による分類では,周期的に気泡が発生するような沸騰を核沸騰(nucleate boiling),
伝熱面全体が蒸気膜で覆われるような沸騰を膜沸騰(film boiling)と呼び,
核沸騰と膜沸騰の間には,遷移沸騰と呼ばれる領域があります。
伝熱面上に沸騰が生じると,気泡の発生・成長・離脱にともない,潜熱および流れのかく乱によって熱伝達率は沸騰を伴わないときに比べて飛躍的に増大します。 ここで,飽和温度 Tsat と伝熱面壁面温度 Tw の差を過熱度 ΔTsat, 飽和温度 Tsat と液体温度 Tl との差を過冷度(サブクール度) ΔTsubとそれぞれ次式のように定義します。
過熱度: ΔTsat = Tw - Tsat
サブクール度: ΔTsub = Tsat - Tl
この過熱度 ΔTsat を横軸に,縦軸に熱流束 q とした沸騰現象の概略を示す曲線を沸騰曲線と呼び, 東北大学の抜山先生により明らかにされ,日本人による大きな業績です。
沸騰状態の熱伝達率は,伝熱面の表面性状,圧力,熱流束といった因子に支配されます。
多数の整理式が提案されていますが,適用範囲と予測精度からみて利用しやすい整理式はまだ見つかっていません。
ここでは,大気圧の水平面上でプール沸騰している水について,Jakob and Hawkins が提案している簡略化した整理式を示します。
q kW/m2 | h W/m2 |
---|---|
~ 16 | 1042(ΔTsat)1/3 |
16 ~ 240 | 5.56(ΔTsat)3 |
ボイラに代表される外部から加熱された管内を流体が相変化しながら流れる形態を流動沸騰と呼びます。
管内流動沸騰では,流体が液体から気体へと蒸発するに従って,気体と液体の割合が変化し,
流れの様子および熱伝達率が変化します。
ここでは,鉛直方向に流れる場合の様子を図示します。
管の下から流れてきた流体は,液単相→気泡流→スラグ流→環状流と蒸発が進み,
やがて管壁の液膜がなくなります(ドライアウト(dryout))。
このとき熱伝達率が下がるため,急激に壁温が上昇します。
凝縮現象は,冬のガラス窓に代表されるように,伝熱面の温度が周囲の気体の飽和温度以下の際に生じます。
生じる凝縮液の形態から,伝熱面全体を液膜が覆う膜状凝縮(film condensation)と,
伝熱面に滴状に付着する滴状凝縮(dropwise condensation)に分類されます。
膜状凝縮は,伝熱面を液膜が覆ってしまいますが,
滴状凝縮は,液滴部分と伝熱面が露出した部分があり,さらに液滴は重力で流下して更新されます。
このため,滴状凝縮の熱伝達率は膜状凝縮の二十倍程度と大きくなります。
2024.07.11 更新