前回までは,現象が安定し時間と共に変化しないケースを考えてきました。 今回は,温度が時間と共に変化する非定常(unsteady-state)現象を考えます。
熱伝導率k が一定とみなせる場合の熱伝導方程式は,
熱伝導方程式を解くことができるのは,形状が単純で境界条件が簡単な場合に限定され,
複雑な形状や時間変化するような場合などでは,
熱伝導方程式を差分法 (Finite difference method) により数値的に解く手法が広く用いられている。
差分法による数値解析については,機械工学実験2にて実習します。
ここでは,問題を単純化し一次元での非定常熱伝導現象を考えよう。
図1に示したように,厚さ2l の平板が初期温度 Ti に保たれている。
この板の表面を時刻t = 0で T∞ の温度の風にさらされる。
この熱伝導を表す式は,次式で与えられる。
この様な場合,板内の非定常温度分布は,物体回りの熱伝達率 h と物体内の熱伝導率 k の比である, 無次元数ビオ数 (Biot number) Bi によって異なります。
ここで,L は,物体の体積を表面積で割った特性長さである。
Bi << 1 の場合,つまり,物体の大きさが小さく,熱伝導率が大きい場合,物体内が一様な温度として考えられる 集中熱容量(lumped capacitance)モデルとして扱うことができます。 初期条件 t = 0 で,T = Ti を用いて解くと,次の様になります。
ここで,
は,時間の無次元数であるフーリエ数(Fourier nubber)で, θ は,温度差の無次元数を表します。
Bi >> 1 の場合,壁面の温度が瞬時に外部の温度となり,壁面の温度一定として扱えます。 初期条件および境界条件は,
t = 0 で,T = Ti
t > 0, x = -L, L で,T = T∞
この条件で解くと,誤差関数(error function)erf(ξ) を用いて解析的に求まります。
この場合の解は,無限級数の和として解析的に求まります。 計算の手間を省くため,解析結果を線図としてまとめたハイスラー線図(Heisler chart)が用意されています。 ハイスラー線図は,縦軸に平板の無次元中心温度,横軸にフーリエ数をとった図で, 物体の熱伝導率,対流熱伝達率および代表長さが与えられると,平板の中心温度が求まります。
次の表は,式(7) の各パラメータをビオ数について示したもので,ビオ数からパラメータを決定し,フーリエ数から平板の中心温度を求める事ができる。
Bi | A1 | A2 |
0.01 | 1.002 | 0.010 |
0.02 | 1.003 | 0.020 |
0.04 | 1.007 | 0.039 |
0.06 | 1.010 | 0.059 |
0.08 | 1.013 | 0.078 |
0.1 | 1.016 | 0.097 |
0.2 | 1.031 | 0.187 |
0.3 | 1.045 | 0.272 |
0.4 | 1.058 | 0.352 |
0.5 | 1.070 | 0.427 |
0.6 | 1.081 | 0.497 |
0.7 | 1.092 | 0.563 |
0.8 | 1.102 | 0.626 |
0.9 | 1.111 | 0.685 |
1 | 1.119 | 0.740 |
2 | 1.179 | 1.160 |
3 | 1.210 | 1.422 |
4 | 1.229 | 1.599 |
5 | 1.240 | 1.726 |
6 | 1.248 | 1.821 |
7 | 1.253 | 1.895 |
8 | 1.257 | 1.954 |
9 | 1.260 | 2.002 |
10 | 1.262 | 2.042 |
20 | 1.270 | 2.238 |
30 | 1.272 | 2.311 |
40 | 1.272 | 2.349 |
50 | 1.273 | 2.372 |
100 | 1.273 | 2.419 |
∞ | 1.273 | 2.467 |
2021.03.08 更新