第6回 非定常熱伝導

前回までは,現象が安定し時間と共に変化しないケースを考えてきました。 今回は,温度が時間と共に変化する非定常(unsteady-state)現象を考えます。

ビオ数

熱伝導率k が一定とみなせる場合の熱伝導方程式は,

Eqn1
(1)

熱伝導方程式を解くことができるのは,形状が単純で境界条件が簡単な場合に限定され, 複雑な形状や時間変化するような場合などでは, 熱伝導方程式を差分法 (Finite difference method) により数値的に解く手法が広く用いられている。
差分法による数値解析については,機械工学実験2にて実習します。

Fig1

ここでは,問題を単純化し一次元での非定常熱伝導現象を考えよう。
図1に示したように,厚さ2l の平板が初期温度 Ti に保たれている。 この板の表面を時刻t = 0で T の温度の風にさらされる。
この熱伝導を表す式は,次式で与えられる。

Eqn2
(2)

この様な場合,板内の非定常温度分布は,物体回りの熱伝達率 h と物体内の熱伝導率 k の比である, 無次元数ビオ数 (Biot number) Bi によって異なります。

Eqn3
(3)

ここで,L は,物体の体積を表面積で割った特性長さである。

Fig2

集中熱容量モデル(Bi << 1)

Bi << 1 の場合,つまり,物体の大きさが小さく,熱伝導率が大きい場合,物体内が一様な温度として考えられる 集中熱容量(lumped capacitance)モデルとして扱うことができます。 初期条件 t = 0 で,T = Ti を用いて解くと,次の様になります。

Eqn4
(4)

ここで,

Eqn5
(5)

は,時間の無次元数であるフーリエ数(Fourier nubber)で, θ は,温度差の無次元数を表します。

壁温一定の場合(Bi >> 1)

Bi >> 1 の場合,壁面の温度が瞬時に外部の温度となり,壁面の温度一定として扱えます。 初期条件および境界条件は,

     t = 0 で,T = Ti
     t > 0, x = -L, L で,T = T

この条件で解くと,誤差関数(error function)erf(ξ) を用いて解析的に求まります。

Eqn6
(6)

ビオ数の影響を受ける場合(Bi ≈ 1)

この場合の解は,無限級数の和として解析的に求まります。 計算の手間を省くため,解析結果を線図としてまとめたハイスラー線図(Heisler chart)が用意されています。 ハイスラー線図は,縦軸に平板の無次元中心温度,横軸にフーリエ数をとった図で, 物体の熱伝導率,対流熱伝達率および代表長さが与えられると,平板の中心温度が求まります。

Eqn7
(7)

次の表は,式(7) の各パラメータをビオ数について示したもので,ビオ数からパラメータを決定し,フーリエ数から平板の中心温度を求める事ができる。

Bi A1 A2
0.01 1.002 0.010
0.02 1.003 0.020
0.04 1.007 0.039
0.06 1.010 0.059
0.08 1.013 0.078
0.1 1.016 0.097
0.2 1.031 0.187
0.3 1.045 0.272
0.4 1.058 0.352
0.5 1.070 0.427
0.6 1.081 0.497
0.7 1.092 0.563
0.8 1.102 0.626
0.9 1.111 0.685
1 1.119 0.740
2 1.179 1.160
3 1.210 1.422
4 1.229 1.599
5 1.240 1.726
6 1.248 1.821
7 1.253 1.895
8 1.257 1.954
9 1.260 2.002
10 1.262 2.042
20 1.270 2.238
30 1.272 2.311
40 1.272 2.349
50 1.273 2.372
100 1.273 2.419
1.273 2.467

今週の課題

  1. (集中熱容量モデル)厚さ 20mm (L = 0.01 m)の十分大きい炭素鋼板が均一温度 800K に十分加熱された後,300K の空気中で冷却される。 空気との熱伝達率を 80W/(m2K) とすると,冷却開始から300秒後の鋼板の温度を求めなさい。 炭素鋼板の熱伝導率は,43W/(mK) ,熱拡散率は,1.18×10-5 m2/s とする。
  2. (ビオ数の影響を受ける)10℃ の冷蔵庫から取り出した厚さ 1cm (L = 0.005 m)の肉を 200℃ 一定のオーブンで焼く。 熱伝達率を 43 W/(m2K) ,肉の物性値をそれぞれ,密度:1100 kg/m3,比熱:3.3 kJ/(kg K),熱伝導率:0.43 W/(mK)で一定とする。 加熱開始から300秒後の肉の中心温度を求めなさい。

2021.03.08 更新