明治大学理工学部物理学科 Department of Phisics, Meiji University

特色ある研究

流体物性研究室

粘性計測からレオロジー特性を探る

平野 太一 准教授
平野 太一 准教授
2002年 東京大学 工学部 物理工学科 卒業
2004年 東京大学 工学系研究科物理工学専攻 修士課程修了
2004年 - 2014年 東京大学生産技術研究所 技術職員
2009年 東京大学工学系研究科
博士(工学) 取得 ※論文博士
2014年 - 2020年 東京大学生産技術研究所 技術専門職員
2017年 - 2019年 東京電機大学 理工学部 非常勤講師
2019年 - 2020年 明治大学 農学部 兼任講師
2020年 - 2021年 東京大学生産技術研究所 特任助教
2021年 - 明治大学 理工学部 物理学科 准教授
平野 太一
既存の高性能粘度計(レオメータ)と独自開発の粘性解析手法による蒸留水の測定結果の比較。低いせん断速度でも精度良く測れるようになり、レオロジー計測の幅を広げることに成功しました。現在さらなる性能向上に取り組んでいます。

気体・液体は固体と異なり、物質内部の粒子に対する束縛が弱く比較的自由に運動できるため、何かしらの力が作用すれば結果として集団としての移動=“流動”が生じます。このような性質を示すことから、気体・液体のことを流体と呼ぶこともできます。流体における流動がどのように発生し、時間経過とともにどのように変化するかについては、ナビエストークス方程式(運動方程式の流体バージョンに相当)を調べれば容易に予測できます。この予測に必要な物性値は密度と粘度の2種類しかありませんが、密度に比べて粘度は流動条件や流動環境に応じて変化する性質*1 を持っているため、この“粘度変化の特性”までを精密に調べることが学術的にも産業応用的にも求められています。
このような背景から本研究室では、粘度をより精密に測定したり、より多様な条件・環境下で測定したりするための技術開発に取り組みます。さらに、自分たちで開発した測定システムを用いてデータ解析を行い、マクロな流動現象に潜んでいるミクロな物理ダイナミクス(粒子の伸び縮み、ミセルの形成・崩壊、長鎖分子の絡み合い、etc...)を解明する手掛かりを見つけます。そして粘度計測を通して複雑流体が“複雑さ”を示すメカニズムを探求し、その複雑さを誰もが定量的に認識できるように指標化する*2 ことを目指します!

*1 例えば歯磨きペーストやマヨネーズを思い浮かべてみましょう。チューブからしぼり出す際には流動性を示しますが、しぼり出した後は垂れ流れることなく形状を保っていますよね?
*2 ちょっと小難しい表現と感じたかもしれませんが…スープを口に含んだとき、飲み込んだときの感覚とか、化粧品を肌に馴染ませるときの使い心地とか、嬉しいとき/悲しいときの涙の流れ落ち方とか、日常で目にする流体の気になる挙動を物理計測による差異で議論できたら面白いと思いませんか?

Q: そもそも粘性とはどんなものですか?
A: ねばねば/さらさらの度合いを表す物理量で、液体や気体のマクロな運動(流動)に対して作用する“摩擦抵抗”の大きさを決める物性パラメータとして知られています。 より正確に言えば粘性の大きさの指標である「粘度」は、流動によって引きずられる隣接領域同士に単位面積あたりにはたらく力(せん断応力)と単位長さ辺りの隣接領域間の速度差(せん断速度あるいは速度勾配)との『比』として定義されます。

Q: レオロジー計測とは何をどのように調べるのですか?
A: 対象としている物質を触ったり、突っついたり、すくい上げたり、塗りつけたり…したときにどのような挙動を示すか?について調べるために、粘性(必要に応じて弾性)の温度に対する変化、せん断速度に対する変化、観察の時定数に対する変化などに注目して測定を行います。このような計測データをもとに、物質の使用条件(環境)に応じた特徴の“差異”を定量比較したり、支配的な物理現象を解析・予測したりする学問領域をレオロジーと呼んでいます。

現在の研究内容

(1)粘性の高精度計測に向けた独自システムの開発
(2)レオロジー計測による食感・触感の定量化
(3)複雑流体における動的挙動の解析・解明