理工学研究科機械工学専攻では,機械工学の知識と高い専門性,豊かな人間性をバランスよく身に付けた高度技術者及び研究者の養成を目的として,2009年度より「豊かなものつくり工学人材育成プログラム」と題した活動を実施してきた.このプログラムでは,従来の専修科目及び特修科目の内容に加えて,「先端ものつくり実習」による先端技術および先端機械の実物教育,企業見学,神奈川県や川崎市などとの技術交流会,大学間相互見学会などの交流活動,韓国・慶尚大学校との国際交流シンポジウムISMAI(International Symposium on Mechanics, Aerospace and Informatics Engineering) などの幅広い活動を展開してきている.図1に示す国際交流シンポジウムISMAIにおける学生発表件数(発表・講演論文執筆とも全て英語)の推移の例にも見られる通り,これらの活動は着実に成果を上げてきているといえる. 2013年度は従来のプログラムをさらに発展させ,特に国際感覚の涵養に重点を置いた「国際感覚を備えたものつくり工学人材育成プログラム」を実施する.このプログラムにおいて,国際会議における研究発表能力の育成を目的として,Practical training of technical writing and presentation (仮名称)と題した実習科目の設置を検討する.この科目の詳細については「研究科・専攻の教育課程」の項で述べるが,国際交流シンポジウムISMAIにおける発表を単位修得条件の一つとするという特徴がある.これは,申請プログラムの活動を通し,学生に単位を付与することを想定した取り組みであるといえる. 併せて,国際会議における発表件数の増加を図る取り組みを実施する.具体的には,国際交流シンポジウムISMAI開催時期の前倒しや,本教育プログラムによる国際会議への学生派遣を検討する.前述した実習科目による指導と連携を図り,機械工学専攻博士前期課程および後期課程の学生による国際会議発表の件数を,3年間で50%増やすことを目標とする.国際会議での発表という国際感覚を磨くうえでまたとない機会をより多くの学生に提供するとともに,本学の海外に対する研究発信力を高めることを狙いとする. また,従来実施していた先端ものつくり実習および国内交流活動についても継続して活動を行う.国内交流活動については,産学交流プログラム,シンポジウムなどへの参加を通して,社会性やコミュニケーション能力を高める機会を提供する.これらのイベントにおいて,学生が主体的に企画・運営を行う経験を持たせ,プロジェクトの企画遂行能力を養う.また,長期インターンシップや留学などにより,異なる分野や環境においても問題解決を遂行できる学際領域横断能力を養成し,高度な専門性,広範な機械工学の知識,豊かな社会性や倫理観を持ち,リーダーシップとマネジメント力を備えたグローバルな人材を育成する. |
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ミクロ熱工学特論では,ミクロ・ナノテクノロジーに関する先端技術の講義を受講後,受講者グループで,フォトリソグラフィを用いたセンサ製作実習を実施している.今年度は,受講者6名が2つのグループを作り,カバーガラス基板に金属薄膜抵抗体を蒸着し,圧力センサの製作・性能評価実験を実施した. 各グループ共に,ガラス基板圧力センサを製作し,フォルダーに取り付け,センサーが圧力に応答することを確かめた.センサパターンを設計する際には,基盤の力学的変形が大きくとれる場所に抵抗体を排するなど工夫が見られた.自ら設計し,製作,特性評価を行うことでモノづくりの難しさと新たなモノを生み出す喜びを味わったようである. |
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ロボット工学特論では,移動ロボットのメカニズムの概念設計,詳細設計およびミニチュアモデルの製作を通して,プロジェクトチームによるものづくりを学習することを行った.本年の課題は,リンク機構を持つ不整地用のサスペンションメカニズム(NASAの火星探査機にも使われているロッカー・ボギーサスペンションと呼ばれる機構)をもち,さらに,出来るだけ少ない付加物と操作によって,小さく格納出来る構造を設計することであった.また,実証の為に実際に機能するミニチュアモデルを製作することとした.非常に多くのアイディアを様々な角度から検討し,議論した結果採用された最終案では,全長比で約50%,外接直方体の体積比で約40%程度まで小さく格納可能となった.また展開時には正しく機能するミニチュアモデルを実際に製作し,モータを搭載することで自走できることも確認した. |
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先端ものつくり実習科目の一つとして破壊力学特論では「破壊力学実習」を行っている.まず,破壊力学の基礎を学ぶためにDavid Broek著「Elementary engineering fracture mechanics」の一部を輪読した.さらに,破壊靭性試験方法の規格としてASTM E813およびD5045を取り上げ,市販のポリカーボネイトを試験片とした破壊靭性試験を計画し,実施した.得られた応力拡大係数KQ値に対して板厚条件等を考慮して破壊靭性値KICを決定すると同時に破面観察を行う.また,破壊靭性試験に際に生じるき裂先端の応力分布を有限要素解析によって求め,応力拡大係数の理解を深めた. |
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大学院授業科目,メカトロニクス特論(前期・2単位)ではマイクロコンピュータの動作原理や構造を教えている.学習効果をあげる試みとしてマイクロコンピュータの心臓部であるCPUを設計させた.まず座学でCPUの内部回路およびデジタル電子回路を記述するHDL言語を教え,つぎにHDL言語を使ってCPUを設計させた.課題としたCPUは9つの命令を持つ4ビットCPUで,CPLDにこのCPUを実装して動作確認をさせる.実習は授業の空き時間を使って実施し,全員に実習報告書を提出させる.各自のパソコンあるいはメカトロニクス研究室のパソコンにインストールしたHDL開発ツールを用い,動作確認はメカトロニクス研究室に機材を用意して,CPLD書き込みとLEDランプ点滅による動作確認をおこなう.最後の授業は各自製作結果の発表会とし,本人が教卓の壇上でHDL言語ソースの公開,書き込みそして動作紹介を行った.なお,課題とした全ての命令が実行できた者にはCPU作成認定書を全員の前で授与した. |
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熱流体工学特論では,統計熱力学,分子動力学,分光学など,近年の最先端熱流体計測技術の基礎となる学問分野で扱われる重要な概念について授業前半でわかりやすく講述したうえで,これらの知識の応用例として,近赤外半導体レーザー吸収分光法による水蒸気分布の可視化実験実習を行った.実験は授業の最後の3回(2013年12月18日〜2014年1月15日)を用いて実施した.参加者は履修者大学院生4名,聴講者学部4年生1名であった.計測用光源には1.39μmの近赤外半導体レーザーを使用した.動作電流及び動作温度により発振波長を制御したレーザー光を直径4cm程度の平行ビームとしたうえで,電気湯沸ポット注ぎ口から噴出する水蒸気流に透過させ,当該実習のために株式会社ビジョンセンシングより借用した近赤外カメラ(NIRCam-640 波長感度 0.9〜1.7μm 最大フレームレート100fps)デモ機を用いて透過光画像を撮影した.本実験は水分子によるレーザー光の吸収で生じる減衰(明暗)から,簡便かつリアルタイムに水蒸気分布の可視化を試みるという新規性のあるテーマである.1.39μm帯の水蒸気による吸収強度は小さく,限られた時間内での実験的検討では可視化の成功に至らなかったが,参加者からは,講義内容と実際の計測が密接に関連し,大変興味深い内容だったとの感想が寄せられた. |
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本講義では例年,各種測定に関連したセンサー技術・AD変換技術・ディジタル信号処理技術を概説した後,不可視情報の可視化・計測システムの代表例として,種々の画像診断システム(X線CT・MRI・超音波診断装置等)や熱・流れに関する計測システムの原理・構成を紹介している.本年度の『先端ものつくり実習』は,これらの知識と下記のプロジェクト背景・目標に基づいたCTシステムの構築を課題とした.
<プロジェクトの背景> 独国GPS社が北米放射線学会で家庭用生体形状診断システムを発表した.この装置では,光・超音波を使用しているらしいが,競合可能なシステムを上市したい. <プロジェクトの目標> 限られた使用部品・ツールで高精度・高速(少ない計測手順)に物体形状を再構成可能なシステムを設計・構築する. |
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2日目に韓国側参加者96 名(学生66 名,教員30 名)と合同でシンポジウムを行った.シンポジウムでは,基調講演2 件(明治大学,慶尚大学校各1名),口頭発表30 件,ポスター発表49 件,合計81 件の発表が行われた.今回,シンポジウム開催場所と宿泊場所を同じホテルに設定したことで,時間を効果的に使うことができ,かつ会場も格調高く,快適であった.またポスターセッションでは各教員が定められた件数のポスターを担当して審査するという新しい試みが行われ,よりいっそう意見交換することができた.これまで当学が担当していたベストプレゼンの準備や評価を韓国側で統括されて,終始スムーズにシンポジウムを進行することができた.シンポジウム後のバンケットでは,ベストプレゼンテーション賞として厳正なる審査の結果,口頭発表,ポスター発表において日韓各1 名の合計4名の学生が表彰された. 本学からの渡航に際しては,2013年度 大学院学内GP(教育改革プログラム)「国際感覚を備えたものつくり工学人材育成プログラム」から8名,および大学院教育振興費から22名分の支援を受けることができた.国際交流を目的とした懇親会では,日韓の学生同士,教員を交えて,交流が図られた. 3日目には柳先生の案内で慶尚大学校のキャンパス内にある歴史資料館を見学し,その後バスで移動してKorea Aerospace Industries(KAI)および斗山重工業を視察した.慶尚大学校では何よりもその広大さが印象的であった.加えて,KAIでは日本でほとんど目にする機会のない戦闘機の組立工場を視察し,背後に某国を抱える隣国ならではの緊張感を学生も肌で感じ取ることができ,また斗山重工業の圧延工場では大迫力の1万4千トンプレス機が熱く焼けた鉄インゴットを鍛造するのを間近に見ることができ,学生らも感激すると共に,その活力に大変刺激を受けたようである. 今回のシンポジウムでは,日本側からは機械系の比較的若い教員の参加が多かった.このように,新たな運営形態を模索し続けることで,継続的な開催を期待したい.また,感想文からは,学生自らが英語で発表し議論を深めることで,研究に関することのみならず異文化,グローバルコミュニケーションを経験し,隣国学生同士の交流がより深めたことが分かる.このように,自発的な学部生の参加および大学院生の国際感覚に対する意識の高まりを背景として,質のみならず意識の向上が伺われた.慶尚大学校はBK21 PLUS(Brain Korea 21 Program for Leading Universities & Students)に新たに採択され,よりいっそう本会の重要性が問われている.次回ISMAI-09 は日本での開催が検討されている. |
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2013年7月26,27日の両日,神奈川県相模原市のJAXA宇宙科学研究所において,特別公開が行われた.2日間合計で2万人近い一般客が訪れた.大学院生7名が参加し,惑星探査機のデモンストレーションを行うと共に,一般客に対して機能の説明など,交流も行った. |
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修士2年生の発表は発表10分,質疑10分,合計20分で行われ,研究背景,目的,実施状況等が報告され,活発な質疑が行われた.博士課程学生については,発表20分,質疑10分,合計30分と研究内容を十分に説明できる時間が準備され,期待に答えるプレゼンテーションが行われた. 本合同発表会は今回が第1回であるが,修士2年生の中間発表としての意味合いもあり,できるだけ継続することとした. |
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2013年8月11〜13日に羽田空港において,最先端テクノロジーの展示会「テクノパーク2」が行われ,自律移動型ロボットの動態展示を行った.ここでは一般客に対して説明するだけではなく,ロボットを操作してもらい,会場を走らせるデモンストレーションを行った.3日間合計で6,000人を超える来客があった. |
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2013年10月15〜17日にかけて,つくば市において自律移動型ロボットの競技会,「つくばチャレンジ2013」が行われ,当研究室の大学院生が参加した.結果は残念ながらロボットのトラブルで走行するに至らなかったが,多くの知見が得られた.また他チームの大学院生との交流や,その後,結果の発表のために「計測自動制御学会システムインテグレーション講演会」および「つくばチャレンジシンポジウム」などで成果発表を行った. |
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2013年11月6〜9日に,東京ビッグサイトにて国際ロボット展が開催され,当研究室のロボットの展示を行った.主に大学院生が説明員として現場にたち,数多くの来客に対して機能説明等を行った.また展示されている他の研究所,大学,企業の展示を見学することができ,多くの知見が得られた. |
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氏名 | 現在の専門 | 役割分担 |
椎葉 太一 | 車両運動学 | 取組実施責任者 |
南雲 愼一 | 流体エネルギ工学 | プログラム管理 (専攻主任) |
石原 康利 | 計測工学 | プログラム管理 (系主任) |
下坂 陽男 | 応用力学 | 国際交流担当 |
土屋 一雄 | 熱工学 | 国際交流担当 |
小山 紀 | メカトロニクス | 実習担当 |
加藤 和夫 | 生体情報工学 | 交流活動担当 |
宮城 善一 | 計測工学 | 交流活動担当 |
阿部 直人 | 制御工学 | 交流活動担当 |
納冨 充雄 | 材料力学 | 実習,国際交流担当 |
中別府 修 | 熱工学 | 実習,国際交流担当 |
黒田 洋司 | ロボット工学 | 実習,国際交流担当 |
小林 健一 | 流体工学 | 交流活動担当 |
相澤 哲哉 | 熱工学 | 実習,国際交流担当 |
市原 裕之 | 制御工学 | 交流活動担当 |
加藤 恵輔 | 機械制御システム | 交流活動担当 |
松岡 太一 | 機械力学 | 国際交流担当 |