ぼくの子育て歳時記(6)鼓膜を破ってシマッタ!

   西川伸一  * 投書で闘う人々の会『語るシス』第12号(1999年10月)掲載

 子どもは病気をしながら強くなっていくという。かぜや伝染性の病気なら仕方がないとあきらめもつく。が、こちらの不注意でけがをさせてしまった場合は、おおいに落ち込む。先月は大失敗をしてしまった。

 9月4日の土曜日の夜。夕飯を食べさせ、入浴を終え、あとは遊ばせて寝かせるだけ。娘が綿棒をほしがるので渡してやる。耳の穴を綿棒でくすぐってやると喜ぶのだ。こちらが手に持ってするのだが、「少しくらい大丈夫だろう」と娘に持たせたまま、紙おむつをつけ、パジャマを着させようとした。

 その瞬間、娘が急に左耳をおさえて「痛い!」と叫ぶ。着替えで動かしたときに、左耳をいじっていた綿棒が奥まで入ってしまったようだ。綿棒を見たが血はついていない。しかし、20分経っても痛がるので、タクシーで市民医療センターにいくことに。府中市が夜間・休日診療を行っているところだ。

 8時半すぎに到着。ところが、いってみると耳鼻科は受け付けていない、という。このあたりでは三鷹にある杏林大学病院しかないそうだ。ちぇっ、きちんと確認してから来ればよかった。そのころには娘はケロッとしていたので、帰ろうとすると、「耳は大切だから診てもらったほうがいい」とのアドバイスを背中に受けた。

 またタクシーをよんで三鷹へ。やがて杏林大学高度救命救急センターといういかめしい名前の建物に着く。ここの耳鼻咽喉科は一躍有名になった。そう、綿あめの割りばし事件で。

 時刻は9時を回っていた。娘は痛がらず元気だ。おいおい、やっぱり大したことなかったのかな。

 30分くらいで名前がよばれる。診察の結果を聞いて、びっくり仰天。鼓膜に穴があいているのだった。鼓膜が破れると、場所によってはめまいがして立っていられなくなるそうだ。不幸中の幸いで、傷つけたところは、そうした部位ではなかった。

 このまま帰って大丈夫なこと、耳に水が入らないよう入浴時は十分注意すること、月曜日に近所の耳鼻科で診てもらうことなど指示を受ける。とにかく、タクシーを飛ばして正解だったと胸をなで下ろす。

 診察をおえ、またタクシーで帰る途中、娘が「痛い」と泣き出す。帰宅後ようやく寝かしつけるが、夜中も痛がって泣く。

 翌朝、娘の枕をみて息をのむ。血のあとだ。すぐさま妻が杏林大学病院に電話する。昨晩診察してくれた医師が出てくれた。血が止まっているようなら問題ない、いつでも診察を受け付けているから、容態が急変したらすぐくるように、と親切な応対ぶり。

 しかし、娘自身はもう痛がることもなく、日曜日は元気に遊んでいた。そして、翌日から耳鼻科通いがはじまった。これで近所の医院はすべて制覇したといってよい。娘の診察券はたまる一方。しょっちゅうあちこちの医院にかかっているので、娘も慣れたもので、先生に「バイバイ」と愛想をふりまく。

 耳鼻科通いは10日間続いた。その間、入浴時には、耳に荷造り用のガムテープをはって水の浸入を防いだ。やっと医師から、「きょうで終わりですよ」といわれたときには、どんなにほっとしたことか。

 まったく育児は一寸先は闇。なにがあるかわからないと実感する。これまで娘が大きな病気やけがをしたときを振り返ってみると、必ずこちらが娘をおろそかにしがちであったことに気づく。

 今回は妻の夏休みがおわって、私の育児負担が増え、一方で抱える原稿はなかなかはかどらず、イライラしていた矢先だった。娘が体を張ってこちらにメッセージを伝えようとしたのだろうか。ただただ反省あるのみ。

 追記・懲りないものでまたやってしまった。つめを切ってやっている最中、いやがって動くので、指の肉をつめ切りではさんで、切ってしまった。今度は妻が合宿で1週間不在のとき。ごめん。娘よ、許せ。


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