サブプロジェクトA「文字・図像研究」

文字・図像から日本古代文化の基層に迫る。
課題は、出土文字資料のデータベース構築、文字資料と律令法(公式令)との比較研究、日本古代の画像資料における宗教思想・文化の研究、中国石刻資料の集成と日本の文字資料との比較研究。

研究分担者

研究者名 所属・職
共同研究プロジェクトにおける研究課題 共同研究プロジェクトに果たす役割
吉村武彦 明治大学文学部・教授
(サブプロジェクト@と兼任)
墨書土器のデータベース構築と文字資料と律令法との比較研究。

研究代表者と第2サブプロジェクトの研究総括。日本古代史からみた国家と文化、及び文字資料研究。

佐々木憲一  明治大学文学部・准教授
(サブプロジェクト@と兼任)
文字瓦と瓦の研究。 日本考古学からみた文字・図像研究。
氣賀澤保規 明治大学文学部・教授
(サブプロジェクトBと兼任)
中国石刻資料の集成と日中の文字資料の比較研究。 中国古代・中世史からみた文字・図像研究。
川尻秋生

早稲田大学文学学術院・准教授

墨書土器・文字瓦のデータベース構築と文字資料と律令法との比較研究。 日本古代史からみた文字資料研究。
山路直充 市立市川考古博物館・学芸員 墨書土器・文字瓦のデータベース構築 日本考古学からみた文字・図像研究
吉村稔子 神田外語大学・教授 日本古代の画像資料における宗教思想・文化の研究。 日本美術史からみた図像と宗教の総合研究。

サブプロジェクトAの年次別計画

○平成16年度(2004年)
 ・山梨県、千葉県地域の墨書土器の画像を含む詳細なデータベースの構築
 ・千葉県五斗蒔瓦窯跡出土瓦の調査
 ・文字瓦の文献収集と文献データベースの集成
 ・令集解公式令の校訂とデータ入力
 ・日本古代関係の画像資料の集成と研究
 ・中国石刻資料の集成とデータ入力

○平成17年度(2005年)
 ・北関東地域の墨書土器の画像を含む詳細なデータベースの構築
 ・千葉県五斗蒔瓦窯跡出土瓦の調査・整理
 ・文字瓦の文献収集と文献データベースの集成
 ・令集解公式令の校訂とデータベースの完成
 ・日本古代関係の画像資料の研究と中国との比較研究
 ・中国石刻資料の集成とデータ入力

○平成18年度(2006年)
 ・近畿、中部、北陸地域の墨書土器の画像を含む詳細なデータベースの構築
 ・近畿地域における文字瓦出土遺跡の調査とデータベースの構築
 ・文字資料と古代の意思伝達方法の研究
 ・古代画像資料と文字資料の相関関係研究
 ・中国石刻資料の集成と日中比較研究

○平成19年度(2007年)
 ・九州、中国地域の墨書土器の画像を含む詳細なデータベースの完成
 ・文字瓦出土遺跡の調査とデータベースの完成
 ・出土文字資料と画像資料の総合的研究
 ・中国石刻資料の集成と日中比較研究

○平成20年度(2008年)
 ・墨書土器の画像データベースの最終補訂
 ・文字瓦データベースの最終補訂
 ・出土文字資料と行政書式(公式令)の総合的研究


サブプロジェクトAの進捗状況・研究成果等

○1年目
 研究を具体化するため、(1)墨書土器についての全国版データベース(簡易版)、関東地域の墨書土器悉皆調査とデータベース化、(2)文字瓦の研究・調査とデータベースの作成、(3))古代律令制国家の文書主義の解明と公式令の研究(この研究課題は、サブプロジェクト@の「日本と中国の文書行政をめぐる王権の比較研究」と関連する)、(4)日中の文字資料と画像資料の比較研究の4課題を設定した。
 (1)と(2)の出土文字資料(墨書土器・文字瓦)に関しては、文献調査と研究文献のデータベース化を進めた。(1)墨書土器については、武蔵国の悉皆調査を行い、千葉県(房総三国)の詳細なデータ集成の作業に着手した。また、山梨県(甲斐国)については、帝京大学山梨文化財研究所の平野修氏を中心に研究現況の打合せを行い、データベース作成の段取りを決めた。本年度は、研究文献の集成を中心に行い、墨書土器研究文献データベース作成に着手した。なお、墨書土器研究と関係して、墨の研究を行い、和歌山県大塔村で現在の墨と松煙煤の製法を調査した。
 (2)文字瓦については、現地研究者の協力が不可欠なので、そのネットワークづくりに取り組んだ。山路直充をコアとする研究分担者の組織化をはかり、栃木県・長野県・奈良県・大阪府・三重県・島根県・鳥取県・兵庫県・岡山県・熊本県・福岡県(実施順)に出張し、地域の研究者と打合せを行ってデータの集成を開始した。
 地域研究としては、栄町教育委員会と協定を結び、千葉県栄町の五斗蒔瓦窯跡出土の瓦(コンテナ300箱)・文字瓦(約1850点)に関して、悉皆調査を開始した。五斗蒔瓦窯跡の文字瓦は、7世紀後半の東国出土文字資料では最もまとまっており、大きな成果が期待できる。また、平成17年5月に史跡指定された茨城県水戸市台渡里廃寺跡の文字瓦の悉皆調査を水戸市教育委員会川口武彦氏の協力のもと実施した。併せて、兵庫県西宮市辰馬考古資料館所蔵の同廃寺出土文字瓦の調査も行った。『古代学研究所紀要』第1号には、その中間報告を行っている。さらに文字瓦の文献収集と文献データベースの構築の準備を始めている。
 (3)の課題としては、意思伝達の方法を明確にするため、古代の文書に関する法律である公式令をはじめとする令集解のデータベース作成をめざすことにした。当初は、公式令に限定する予定であったが、令の体系は公式令では完結しないので、令集解全体に拡大することにした。鷹司本(宮内庁書陵部所蔵)を底本にして、東山御文庫本(同文庫所蔵)で校合する予定であり、宮内庁の承認を経て、公表にこぎつけたい。ただし、本作業は定本の作成を目的としたものではないので、諸写本との対校や意改は最小限に留めたい。なお、公式令に関しては、逐条研究を深めるために、各条文に関する従来の研究論文のデータベースを作成することにし、集成をはじめた。
 (4)中国石刻資料の集成に関しては、中国の研究動向を調査するとともに、氣賀澤研究室所蔵拓本の整理を行い、「北朝隋墓誌目録」の作成を開始した、また、馬長寿著『碑銘所見前秦至隋初的関中部族』(中華書局、1985年)の訳注を行った(平成18年9月刊行予定)。なお、墓誌・墓碑と日本古代の画像資料については、基礎的研究を開始した。

○2年目
 基本的には初年度の柱である、(1)墨書土器と文献とのデータベース作成、(2)文字瓦の研究・調査とデータベースの作成、(3)公式令の研究とデータベース作成、(4)日中の文字資料と画像資料の比較研究、を継続している。
 (1)墨書土器に関しては、武蔵国の詳細なデータベースをほぼ完成させた。山梨県(甲斐国)は、平野修氏を中心に進めるとともに、千葉県(房総三国)の詳細なデータ集成の作業を継続した。新たに茨城県(常陸国)は川井正一氏、栃木県(下野国)は仲山英樹氏、群馬県(上野国)は高島英之氏、神奈川県(相模国)は荒井秀規氏を中心に詳細なデータベースを作成することにし、その段取りを決定した。墨書土器研究文献データベースは、論文・報告書の点数が1600点弱になった。平成17年3月に開催した公開研究会シンポジウム「都城とシンボリズム」の成果として、新たに研究分担者の川尻秋生・山路直充氏らを加えて、青木書店から学術書として出版することが決定した。当初は平成17年度中の刊行をめざしたが、一部研究者の執筆が遅れ、平成18年度の刊行を予定している。また、墨については、韓国の出土資料を扶余と清州の国立博物館で調査を行った。
 (2)文字瓦は、今年度もネットワークづくりを進めた。研究分担者の研究促進を兼ねて、山梨県・奈良県・京都府・岐阜県・愛知県・福島県・宮城県・福岡県・茨城(実施順)に出張し、地域の研究者と打合せを行った。文字瓦の文献収集と文献データベース作成は継続している。本年度の調査成果は、@平城宮文字瓦の集成の終了、A静岡県では文字瓦が未確認、B岐阜県(旧飛騨国)での数点の確認、C栃木県下野国分寺の文字瓦の報告とデータベースの雛形の作成、D千葉県龍角寺瓦窯跡資料の集成と分析、E千葉県五斗蒔瓦窯跡資料の集成と分析、F茨城県台渡里廃寺跡出土資料の調査成果のまとめ、などがある。五斗蒔瓦窯遺跡・台渡里廃寺跡の成果は、『古代学研究所紀要』第1号に中間報告を行い、公開研究会で発表を行った。また、東アジアにおける日本の文字瓦を位置付けるため、韓国百済地域の文字瓦の調査をおこなった。平成18年度に韓国の研究者を招聘して文字瓦についての国際シンポジウムを計画した。
 (3)令集解データベースの作成は、鷹司本を底本にして平成18年度中に完成する目処がついた。また、公式令に関する条文別の研究論文データベース作成を促進している。
 (4)中国石刻資料の集成に関しては、平成17年3月の山東省の仏教石刻調査に続き、平成17年9月に氣賀澤が卒業生・院生および学外の研究者と中国河北省に主要仏教石刻・遺跡の調査を実施した。その調査成果の一端は、11月の唐代史研究会秋期シンポジウムで報告するとともに、翌年3月の研究セミナーで全報告をした。
 平成18年1月と3月に、石刻研究成果公開セミナーを開催した。第1回は「中国石刻史料をめぐる諸問題」のテーマで、第2回は「石刻史料から探る北朝隋唐仏教の世界」のテーマで多くの研究者や市民の参加を得た。平成17年10月の公開研究会で、中国社会科学院の徐建新氏が好太王碑、氣賀澤が中国の石碑、高島英之氏が日本の石碑群について詳細な報告を行い、朝鮮半島・中国・日本の石碑についての共同研究を行った。なお、徐建新氏は、当該年に明治大学で博士(文学)を取得し、著書『好太王碑拓本の研究』を東京堂出版から平成18年2月に刊行した。
 平成17年12月に『東アジア石刻研究』創刊号を刊行した。本誌では、RAの梶山智史編「北朝墓誌所在総合目録」「隋代墓誌所在総合目録」が発表され、充実した内容が評価された。
 平成18年3月に日本側12名で洛陽を訪れ(氣賀澤が団長)、洛陽師範学院と合同の石刻文化をめぐるシンポジウムを開催し、今後の着実な研究交流を進めることを確認した。従来洛陽は長安と比べて学術交流の機会は少なく、今回のシンポがその最初の突破口となるものであった。

○3年目
 基本的には初年度の柱である、(1)墨書土器と文献とのデータベース作成、(2)文字瓦の研究・調査とデータベースの作成、(3)公式令の研究とデータベース作成、(4)日中の文字資料と画像資料の比較研究、を継続し成果をあげている。
 (1)墨書土器に関しては、千葉県(房総三国)、茨城県(常陸国)、神奈川県(相模国)のデータ集成について目処がたった。また、墨書土器研究文献データベースは、論文・報告書の点数が1608点になった。
 (2)文字瓦は、今年度もネットワークづくりを進め、集成の促進を進めた。研究分担者の研究促進を兼ねて、奈良県・京都府・大阪府・長野県・福島県・宮城県(実施順)に出張し、地域の研究者と打合せを行った。文字瓦の文献収集と文献データベース作成は継続している。本年度は、@藤原宮・山田寺・薬師寺など飛鳥地域の調査終了、A10月に五斗蒔瓦窯跡の資料をめぐり、畿内・韓国の資料、国語学、文献史学と関連させた国際シンポジウムの開催、B千葉県龍角寺五斗蒔瓦窯・龍角寺瓦窯出土瓦のまとめ、を予定している。
 (3)令集解データベースの作成は、鷹司本を底本にして平成18年度中に完成する目処がついた。公式令に関する条文別の研究論文データベース作成を促進している。
 (4)中国石刻資料の集成に関しては、平成18年4月に明治大学東アジア石刻文物研究所が新たに設置され(氣賀澤と吉村が参加し、氣賀澤が所長)、設立を記念して「明治大学新収中国石刻貴重拓本展」が明治大学博物館特別展示室で開催された(4月22日〜5月10日)。1千名を越える見学者があり、好評を博した。最終日には、牧田諦亮氏(京都大学人文科学研究所名誉所員)を招聘して、記念講演会も実施された。
 なお、7月に洛陽学石刻ミニシンポジウムを、明治大学東アジア石刻文物研究所も共催に加わり実施した。

 

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