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五行思想と五つの視点で読みとく中国文明史
分類マニア的な民族性と美意識
Chinese Civilization through the Lens of the Five Elements: A Passion for Classification and Aesthetic Sensibility
最新の更新2025年6月29日 最初の公開2025年6月29日
07/01 五行
07/08 五味
07/15 五倫
07/22 五音
07/29 五族
以下、https://www.wuext.waseda .jp/course/detail/64992/ より引用
火曜日 10:40〜12:10 全5回 2025年07月01日 〜 07月29日
目標
・歴史の真実を知る面白さを学ぶ。
・現代と近未来の問題を歴史をヒントに考える。
・中国社会の特徴を理解することで、日本社会への教訓を得る。
講義概要
中国の「五行思想」は、あらゆる事物を五種類に整理して相互関係を設定するという、自然認知の哲学です。現代の科学から見ると奇妙な点もありますが、古代においては進歩的な世界観であり、日本や中国の歴史にも大きな影響を与えてきました。実際、複雑怪奇に見える中国史の事象も、五行的な視点で「五つの要素」に注目すると、すんなりと本質がわかることが多い。その理由は、中国人が過去二千年にわたり、個人レベルでも社会レベルでも「五行」を意識して生きてきたからです。本講座では、紀元前11世紀から現代までの中国文明史を「五行」の視座を使って読み解き、豊富な映像資料を使い、予備知識のないかたにもわかりやすく解説します。
第一回 五行
2400年前の戦国時代から2千年前の漢代にかけて形成された「五行思想」は、中国人(以下、主に漢民族を指します)の日常生活から天下国家の政治運営に至るまで、絶大な影響を与えてきました。世界的に見ても、中国人の「分類マニア」ぶりは異常です。人や事物に対するレッテル貼りを好みます。「木・火・土・金・水」の「五行」を基本として、五方、五時、五倫、五臓、五味、五穀、五音、五族・・・など、さまざまな事物を強引に「五つ」に分類したうえで、それぞれの協調と敵対の関係を設定してきました。1949年に成立した中華人民共和国の国旗も五つの人間集団を黄色い星であらわす「五星紅旗」であり、文革中は出自家族のレッテル貼り「紅五類」「黒五類」が横行しました。中国人の強みでもあり弱みでもある「五行的視点の呪縛」について、わかりやすく解説します。
また「自分という人間に対して、中国人が好意的なレッテルを貼るよう、相手を誘導する秘訣」という中国人相手の処世術についても言及します。
参考 waseda20230718.html#01
YouTube https://www.youtube.com/playlist?list=PL6QLFvIY3e-l0m_S5ExI_6FZoW5YW2Cm7
VIDEO
○ポイント、キーワード
天円地方 てんえんちほう
天(天空、大自然)はまるく、地(大地、人間社会)は四角い、という美意識。
天は、星空や四季の循環のように、なだらかにぐるぐる回る。地は、「国」「品行方正」「地方」のように方形(四角形)であるべき、というのが中国人の美学である。
五行思想は、モノやコトを5つの行列の四角形に並べる「四角形の美意識」と、それぞれが「五行相生」「五行相克」の円環運動で結びつくという「円順の美意識」をミックスした、いかにも中国的な発想である。
クローズド・エンド
中国人は「閉じた世界」「閉じた宇宙」を好む。
排列の美意識
儒教の「礼」の本質は、ヒトやモノやコトを並べること。中国人は並べることで、豊かな気持ちになれる。
自然 しぜん
現代人は「大自然」や「天地山川(てんちさんせん)」の意味で使うことが多いが、本来は、人間のドロドロとした部分も含める。cf.自然主義文学は田山花袋『蒲団』(1907年)など
天人感応説 てんじんかんのうせつ
「天人相関説」とも言う。天地人の「三才」は密接につながっており、宇宙・大自然・人間社会・個人は一体であるという自然認知の考え方。
北極星や銀河はそれぞれ地上の天子や黄河に対応し、地震や洪水、日食や彗星などの天変地異は悪政の結果である、と信じる思想である。
10世紀の北宋以降は薄まった。
陰陽五行思想
陰陽論は自然界の対立と調和を説く思想で、五行説は木・火・土・金・水という五つの要素で万物を説明する理論である。両者は別個に発生したが、後に融合した。
五行の初出は『尚書』(書経)洪範で、戦国時代の鄒衍(すうえん)がこれを王朝交代に応用して五徳終始説を唱えた。
漢代には董仲舒(とうちゅうじょ)が陰陽と五行を体系化し、災異説と結びつけて政治の正当性を天意によって説明した。
この思想は『淮南子』(えなんじ)や『易』、さらに讖緯説(しんいせつ)とも結びつき、医術・暦法・兵法・占術など多方面に広がった。
唐・宋代には哲学的深化が進み、儒教と融合した。民間でも占い・呪術に影響を与え、日本では陰陽道 (おんみょうどう)として発展した。
陰陽五行説は、古代中国の宇宙観・社会秩序・思想体系の中核をなす理論として、長く東アジア世界に影響を与え続けた。
○辞書的な説明