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『三国志』の世界を愉しむ
――古典からサブカルチャーまで――

http://www.geocities.jp/cato1963/sangokushi20160210.html
最初の公開2016-2-4 最新の更新 2016-3-16


文京アカデミー 『三国志』の世界を愉しむ 講師:加藤徹
日本でも愛されている『三国志』の物語の魅力について、映像や図版を使いながら、わかりやすく解説します。
古代中国の歴史書だけではなく、映画や小説、ゲームなどの『三国志』にも言及します。
  1. 2016/02/10『三国志』とは何か アカデミー文京 学習室 10:30−12:00
  2. 2016/02/17『三国志』の名場面(1)アカデミー文京 学習室 10:30−12:00 [PDF]
  3. 2016/02/24『三国志』の名場面(2)アカデミー文京 学習室 10:30−12:00 [PDF]
  4. 2016/03/09『三国志』の名場面(3)アカデミー文京 学習室 10:30−12:00 [PDF]
  5. 2016/03/16 日本人と『三国志』 アカデミー文京 学習室 10:30−12:00
三国志,加藤徹,劉備,馬超,張飛,二将軍 「三国志」を一度も読んだことのない人も、この古典作品の本質を理解できるよう、豊富な映像資料を使いつつ、作品の根底にある中国的な人間観について解説する。今から1800年前の史実を土台にした三国志の物語は、日本でも絶大な人気を博してきた。日本人は漢文としての三国志のほかにも、江戸時代は歌舞伎や浮世絵で、昭和世代は小説で、平成世代はパソコンのシミュレーションゲームで、時代とともに独自の三国志文化を創ってきた。一見、荒唐無稽な現代日本における「三国志」のアレンジも、古典としての「三国志」のポテンシャリティーの発揚に他ならない。
 古典としての「三国志」は、日本の古典には該当ジャンルが存在しない「人間観文学」である。「天の時、地の利、人の和」と「知、情、意」という二つをキーワードに、中国の人間観の本質を、わかりやすく論じる。

三国志は、すべての「次元」において面白い。他の文芸作品(例えば『論語』とか『西遊記』など)は、必ずしもそうではない。
「歴史シミュレーションゲーム」にできる「歴史物語」は、意外と少ない。
0次元点。禅の悟り、等。
1次元線。言語の線状性(linearity)。文字文芸、ラジオ劇、等。
2次元(2D)平面。絵画、写真、映画、漫画、動画、等。
2.5次元(2.5D)物体の裏側や内部に関する情報がないこと。 サブカルの俗語ではフィギュア、アイドル声優、コスプレ、など。舞台演劇やSLG(シミュレーションゲーム)の本質も2.5D。
3次元(3D)立体、現実界。史跡、彫刻、茶道、等。
4次元科学的には「ミンコフスキー時空(時間を第4の次元とする)」「空間が4次元あるもの」。俗語では「異次元」「電波系」等。
cf.PDFファイル「京劇のコンセプトの特異性 ―歴史と「次元」の視点から― 」2013.3.7
http://www.youtube.com/watch?v=3eANm5IqDMg&feature=share&list=PL6QLFvIY3e-n0EnGjE8kL9BTngsOSZwA9

神戸市長田区の人々が、復興するための絆として選んだのは、
「三国志」だった。なぜ? ここに「三国志」の本質を考えるヒントがある。
京劇の諸葛孔明
神戸市長田区の商店街のコスプレ

魏は天の時、呉は地の利、蜀は人の和。
中国語「人際関係」「智謀学」
(1)「三国志」の乱世
 184年 黄巾の乱。
 208年 赤壁の戦い。
 220年 後漢、滅亡。三国時代の開始。
 234年 蜀の諸葛孔明、五丈原で陣没。
 239年 邪馬台国の女王・卑弥呼が、魏に遣使。
 280年 西晋が中国を再統一。

 参考:中国の王朝  (夏)、殷、西周、春秋、戦国、秦〜前漢〜後漢〜三国、・・・

(2)三つの「三国志」、三国志と日本人
漢文の正史『三国志』陳寿(233年-297年)の著。いわゆる「魏志倭人伝」も含む。
古典小説『三国志演義』14世紀ごろ成立か。作者は羅貫中あるいは施耐庵とも。
アレンジ系(自由訳、翻案)吉川英治『三国志』、横山光輝の漫画『三国志』など。

日本における三国志のブームは江戸時代に始まる。
江戸時代の普通の日本人にとっての三国志とは、漢文の参考書『十八史略』の三国志の部分と、湖南文山訳の読本(よみほん)『通俗三国志』であった。その後、昭和の作家・吉川英治の新聞連載小説『三国志』が国民的な人気を得て、今日に至る。
三国志というコンテンツは、近世社会のシーズとウォンツに合致していた。
ニーズ(顕在的)需要 (消費者側の欲求)
シーズ新しい技術・システム・アイディア(を使いたいという企業側の欲求)
ウォンツ潜在的需要 (消費者側の欲求)

吉川英治『三国志』序より引用
(略) 原本には「通俗三国志」「三国志演義」その他数種あるが、私はそのいずれの直訳にもよらないで、随時、長所を択(と)って、わたくし流に書いた。これを書きながら思い出されるのは、少年の頃、久保天随氏の演義三国志を熱読して、三更四更まで燈下にしがみついていては、父に寝ろ寝ろといって叱られたことである。本来、三国志の真味を酌むにはこの原書を読むに如くはないのであるが、今日の読者にその難渋は耐え得ぬことだし、また、一般の求める目的も意義も、大いに異(ちが)うはずなので、あえて書肆(しょし)の希望にまかせて再訂上梓(じょうし)することにした。
参考 青空文庫 http://www.aozora.gr.jp/cards/001562/files/52409_51059.html
注…「少年」という語が指す範囲、性別や年齢層が、昭和初期と現代日本語では違うことに注意。

元禄時代湖南文山訳『通俗三国志』 1689〜92年刊
明治時代久保天随(1875-1934) 『新訳 演義三国志』 1912年刊(明治45年=大正元年)
昭和時代吉川英治(1892-1962)『三国志』 1939〜1943年に新聞連載
柴田錬三郎『柴錬三国志 英雄ここにあり』 1968年
陳舜臣『秘本三国志』 1977年
平成時代北方謙三『三国志』 1996年
……その他、多数
参考 http://blogs.yahoo.co.jp/yonakanoaccordion/48620709.html
日経ビジネスオンライン(総合トップ > アジア・国際 > 再来一杯中国茶)の記事
中島 恵「江戸期は空前の中国ブーム、『三国志』が大流行 明治大学法学部・加藤 徹 教授に聞く【後編】」2016年3月9日(水)
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/238780/030400005/

三国志,京劇,曹操,三国志フェス (3)ことわざや故事成語の宝庫
中国語のことわざ・成語・歇後語(けつごご)でも、三国志関係の言葉は多い。
cf.「少不読水滸、老不読三国」。若い人には水滸伝を読ませるな。老人には三国志を読ませるな。
 少年、青年、壮年、中年、老年のそれぞれの三国志の愉しみかたがあることの裏返しのことわざ。

(4)三国志の魅力
         さまざまな男たち・・・「士」「侠」「漢」
諸葛孔明関羽
雅俗共賞劉備趙雲
張飛


階層人物の例必要な知恵
リーダー劉備(玄徳、昭烈帝)大戦略(暗黙知、結晶性知能、知性的)
スタッフ諸葛亮(孔明)戦略(形式知、流動性知能、知能的)
ライン関羽、張飛戦術
フロント趙雲戦闘術
フリー簡雍技術、ユーモア、その他

(5)中国古典の人材観・・・「三国志」の周辺

〇中国語の諺「人挪活、樹挪死」(人は動いてこそ生きる、木は動くと死ぬ) cf.石の上にも三年
 「三十年河東、三十年河西」cf.上り坂、下り坂、「まさか」
 「少不読水滸、老不読三国」「男不読金瓶、女不読西廂、老不読三国、少不読水滸」
 「劉備的江山是哭出来的」cf.判官贔屓、「説曹操、曹操就到」cf.噂をすれば影・・・

○インテリジェント(知能的) と インテレクチュアル(知性的)。
『老子』「大巧如拙、大弁如訥」。 大巧は拙なるが如く、大弁は訥なるが如し。

○流動性知能 と 結晶性知能
『論語』雍也第六「子曰、知者楽水、仁者楽山。 知者動、仁者静。 知者楽、仁者寿」。
 子曰く「知者は水を楽しみ、仁者は山を楽しむ。知者は動き、仁者は静かなり。知者は楽しみ、仁者は寿(いのちなが)し」と。
     →水を楽しむ=流動性知能。山を楽しむ=結晶性知能。

〇『論語』為政第二「子曰、君子不器」。
     子曰く「君子は器(うつわ)ならず」と。

〇伊尹(いいん)の土功──『淮南子』(えなんじ)斉俗訓
 故伊尹之興土功也、修脛者使之蹠钁、強脊者使之負土、眇者使之准、傴者使之塗、各有所宜、而人性齊矣。胡人便於馬、越人便於舟、異形殊類、易事而悖、失處而賤、得勢而貴。聖人總而用之、其數一也。
 故に伊尹の土功を興すや、修脛(しゅうけい)なる者には之をして钁(くわ)を蹠(ふ)ましめ、強脊(きょうせき)なる者には之をして土を負はしめ、眇者(びょうしゃ)には之をして准せしめ、傴者(うしゃ)には之をして塗らしむ。各(おのおの)宜しき所有りて、人の性は斉(ひと)し。胡人は馬に便に、越人は舟に便なり。形を異にし類を殊にするもの、事を易(か)ふれば而ち悖(もと)り、処を失へば而ち賤しく、勢を得れば而ち貴し。聖人は総(す)べて之を用ふ、其の数は一なり。


(6)辞書の説明より
 参考:ネット辞書「コトバンク」https://kotobank.jp/
〇おう‐どう〔ワウダウ〕【王道】1 儒教で理想とした、有徳の君主が仁義に基づいて国を治める政道。⇔覇道(はどう)。2 《royal roadの訳語》安易な方法。近道。「学問に王道無し」[補説]書名別項。→王道(デジタル大辞泉)
〇りゅうび【劉備】(161〜223) 中国,三国の蜀漢(しよつかん)の初代皇帝(在位221〜223)。字(あざな)は玄徳,諡(おくりな)は昭烈皇帝,河北の人。前漢景帝の子孫。関羽・張飛らとともに黄巾の乱鎮圧に尽力。諸葛亮(しよかつりよう)の天下三分の計により,呉の孫権と結んで魏(ぎ)の曹操を赤壁で破り,蜀を平定。221年成都で帝位につき国号を漢と号し,呉・魏と天下を争った。 (大辞林 第三版)
〇とうかい【韜晦】( 名 ) スル 〔「韜」はつつみかくす,「晦」はくらます意〕 自分の才能・地位・身分・行為などをつつみかくすこと。人の目をくらますこと。 「互に深く−して,彼豪族らに油断をなさしめ/慨世士伝 逍遥」(大辞林 第三版)
〇ほうがんびいき【判官贔屓】〔源義経が兄頼朝に滅ぼされたのに人々が同情したことから〕 弱者や薄幸の者に同情し味方すること。また,その気持ち。はんがんびいき。(大辞林 第三版)
〇りゅうほう【劉邦】(前247〜前195) 中国,前漢初代皇帝(在位 前202〜前195)。廟号(びようごう)は高祖。江蘇省沛(はい)の農民の出身。秦末に陳勝・呉広に続いて兵を起こす。項羽軍と連合して秦と戦い,項羽に先んじて関中に入って,秦の都咸陽を占領。前202年項羽を垓下(がいか)の戦いで破り天下を統一。都を長安に定め,帝位についた。郡国制を敷き,一族・功臣を分封して王とした。(大辞林 第三版)
〇りゅうしゅう【劉秀】(前6〜後57) 中国,後漢の初代皇帝(在位25〜57)。字(あざな)は文叔,諡(おくりな)は光武帝,廟号(びようごう)は世祖。漢室の一族。22年南陽に挙兵,王莽軍を昆陽に破り,漢を再興,洛陽(らくよう)に都した。儒学を奨励し,礼教・名節を尊び,万機を親裁し内治に努めた。 (大辞林 第三版)



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