哲学的問題第九問 > このページ
哲学的問題9 あなたが死んだあとのこと
「悪乎往而不可哉」(『荘子』)を読むための補助線
解答例
 高校ていどの化学と数学の知識があれば、電卓を使って簡単に計算できます。
(1)まず、体重60kgの人体を構成する原子の数(単位は個)を求める。

 体重60kgの人体を構成する物質のモル数の合計は、表より、
2438 + 900 + 6000 + 129 + 23 + 19
 = 9509(モル)

体重60kgの人体を合成する物質の構成する原子の個数は、
モル数 × アボガドロ数 = 原子の数
なので、
9509 × (6.02 × 1023)
 = 57244.18 × 1023
 ≒ 5.72 × 1027(個)

 つまり、体重60kgの人体を構成する原子の個数は、おおざっぱな見積もりで、
5.72 × 1027
となる。

(2)次に、地球大気の総量(単位はリットル)を求める。

 大気圏の厚さは上空10kmまでと見なすから、大気の体積を、
(「地球の半径+10km」を半径とする球の体積) −(地球の体積)
=地球大気の総量
として計算する。πを3.14として計算すると、
4/3・π(63803 − 63703)
 = 4/3・π{(6.38 × 103)3 − (6.37 × 103)3}}
 = 4/3・π(6.383 − 6.373) × 109
 ≒ 4/3 × π × 1.22 × 109
 ≒ 5.11 × 109(km3)
 1立法キロは「1 × 1012リットル」にあたる。結局、地球大気の総量は、おおざっぱな見積もりで、
5.11 × 1021リットル

と見なすことができる。


(3)最後に、(1)で求めた原子の個数を、(2)で求めた地球大気総量で割る。

(5.72 × 1027) ÷ (5.11 × 1021)
 ≒ 1.12 × 106(個/リットル)
 つまり、もし体重60kgの人体を完全にガス化して地球大気に均等に混ぜたと仮定すると、ごくおおざっぱな概算で、
空気1リットル中に約10万個の原子
が含まれる計算になる。
概算終わり
 余裕のある人は、以下の問題にもチャレンジしてみてください。
応用問題 ある人の最後の吐息
 いまから二千年くらい前、地球のどこかで、ある人が最後の息を吐いて亡くなった。
 その最後の息に含まれていた分子を、あなたは一回の呼吸あたり、何個吸い込んでいる計算になるか?
 だいたいの個数を試算せよ。

 一回の呼吸量は1リットルとする。また、空気は大地や海に吸収されず、ずっと気体のまま存在し続けるものと仮定する。


解答例

 上記の「ある人」とは、お釈迦様でも、クレオパトラでも、イエス・キリストでも、マルクス・アウレリウスでも、諸葛孔明でもかまわない。
 地球の生命圏が意外に小さいこと、古人とのつながりが意外に濃いことに思いをはせることが、この試算の目的である。

1気圧、摂氏0度の理想気体1モルの体積は
22.4 リットルである

という、高校の化学の知識を使って計算する。
 1 リットルの空気に含まれる分子の数は、
1 ÷ 22.4 ≒ 0.0446 (モル)
 これを分子の個数に直すには、
モル数 × アボガドロ数 = 分子の個数
という高校の化学の知識を使って計算すればよい。
0.0446 × (6.02 × 1023)
  ≒ 2.68 × 1022 (個)
 この分子の数を、地球大気の体積 5.11 × 1021 リットルで割れば、空気1リットルあたりに含まれる分子の個数が求められる。
(2.68 × 1022 個) ÷ (5.11 × 1021 リットル)
 ≒ 5.24 (個/リットル)


 つまり、あなたが地球のどこにいようと、一回呼吸するたびに、昔、誰かがどこかで一回呼吸したときに吐いた空気の分子を5個くらい吸い込んでいる計算になる。


[参考]
私は自然にかなう道を歩み、
ついに時が来れば倒れて休息し、
毎日吸い込んでいた空気の中へ最後の息を吐き出し、
私の父が種を、
母が血を、
乳母が乳を汲みとった地の上に倒れるであろう。
その地から私はこの長年月の間毎日食物を得、
飲物を得ている。
また私はその上を歩き、
いろいろな風にこれを利用しているが、
その私を地は支えていてくれるのである。

マルクス・アウレーリウス(121-180)
『自省録』第五章第四節
神谷美恵子訳(岩波文庫版)



哲学的問題第九問 > このページ