注 by 加藤先生
>80歳になる女形の先生
お名前は李金鴻(リー ジンホン)先生です。猫耳さんがお書きになっているとおり、王金(ワンジン)[王路(ルー)]先生と中華戯曲専科学校(拙著『京劇』208頁、322頁参照)での同期生だったので「金」の字を共有しています。故・李玉芝(りぎょくし)さんの先輩でもあります。
授業参観のときは、三人の若い女生徒に尼僧の基本演技を教えていらっしゃいました。小柄なかたですが、80歳には見えず、60代に見えました。女生徒たちに、目の演技や微笑のタイミングをみっちり御指導なさっていましたが、温和で愛想のよいかたで、その後、私どもとの記念撮影に快く応じてくださったほか、立ち話でしたがいろいろ歓談しました。
>だいたい5元(75円くらい)で食べられます。
5元の高級?メニューもありましたが、私が注文した刀削麺(ダオシャオミェン)は3元(日本円で約45円)でした。刀削麺(ダオシャオミェン)も拉麺(ラーメン)も、注文を受けてから、目のまえで料理人が麺のカタマリから作ってくれます。「学生食堂」とはあなどれぬ、本格的な手打ち麺でした。麺のつゆは、肉味噌ダレとトマト卵スープのどちらかを選べます。
中国戯曲学院の先生は「あの食堂、味はイマイチだったでしょ?」と言ってましたが、私はおいしくいただきました。
>期末試験でもある学生が行なう舞台
中国戯曲学院四年生(大学四年生)による舞台でした。俳優も楽隊も学生さんで、観客は先生や同級生・後輩、そして私達でした。沈健瑾(しん けんきん)さん(李光(りこう)先生の夫人)も来ていて、
開演前、舞台上で楽屋から出て来た私達と挨拶(あいさつ)をし、会食に李光(りこう)さんが来れなくなったお詫びを言われていました。演目は「春閨夢(しゅんけいむ)」「秦瓊観陣(しんけいかんじん)」「売水(ばいすい)」「淮河営(わいがえい)」「鐘馗嫁妹(しょうきかめい)」(鐘妹さんのHNの由来となった芝居)など8演目で、一般の劇場で観客に見せる舞台と全く同じように上演しました。
・『春閨夢(しゅんけいむ)』あらすじ
後漢末、『三国志』にも出てくる公孫?(こうそんさん)が劉虞(りゅうぐ)と戦争したときの話。若い女性・張氏は、新婚半月で夫を兵隊にとられたが、夫は戦死して遺骨さえ帰ってこなかった。張氏は夢のなかで悲惨な戦場をさまよい、死んだ夫と束の間の再会を果たす。拙著『京劇』180頁参照。
・『秦瓊観陣(しんけいかんじん)』あらすじ
隋(ずい)の時代の末の争乱期。英雄・秦瓊は、悪い権力者に憎まれ、武術試合をさせられることになる。実は武術の試合にことよせて秦瓊を殺すのが、悪い権力者の目的だった。試合の前日の夕方、秦瓊は馬に乗り、親友の王周といっしょに翌日の試合会場を見て回る。王周は秦瓊に、明日は試合とは名ばかりで、実は秦瓊を殺すための陰謀なのだよ、と打ち明ける。秦瓊は悩む。そのとき、秦瓊の顔見知りの山賊が物売りに変装してあらわれ、翌日の試合で秦瓊を救出することをこっそり暗示する。
・『売水(ばいすい)』あらすじ
ある立派なお屋敷に、お嬢様と、お嬢様にお仕えする侍女が住んでいた。お嬢様には、立派な婚約者がいたが、婚約者の家がおちぶれてしまったために、お嬢様の父親は、婚約を破棄してしまった。お嬢様の元婚約者は、家がおちぶれたため、今は町を歩きまわり水を売ってその日ぐらしをしていた。
お嬢様につかえる侍女は、なんとか二人のよりをもどしてあげようと、あれこれ手を考えた。ある日、お嬢様を花園に連れ出し、水売りとなった元婚約者に引き合わせようとした。だが、元婚約者はなかなか来ない。侍女は、花にちなむ言葉を歌いつつ時間をかせぐのだった。http://home.hiroshima-u.ac.jp/cato/KGZms.html に詳しいあらすじを載せてあります。
・『淮河営(わいがえい)』あらすじ
前漢の高祖・劉邦(りゅうほう)が死んだあと、彼の妻の呂后(りょこう)が政治を牛耳り、皇帝の地位が呂氏に乗っとられそうになったころの話。淮王(わいおう)の劉禅(りゅうぜん)(たまたま『三国志』の劉備の息子と同名だが、別人)は、劉邦(りゅうほう)と呂后(りょこう)のあいだにできた息子で、大軍をひきいる実力者だった。彼は、呂后(りょこう)を自分の実の母親だと信じていたので、呂氏が劉氏から天下を奪うつもりなら、それでもよい、と思っていた。漢の忠臣たちは呂氏の専横を憎み、劉禅(りゅうぜん)のところに行き、衝撃の真相を告げた。「淮王(わいおう)さま、実はあなたは呂后(りょこう)の子供ではありません。あなたの本当の生みの親は趙姫(ちょうき)という人です。趙姫(ちょうき)は呂后(りょこう)に惨殺されたのですよ」と。が、劉禅(りゅうぜん)は、自分と呂氏一族の仲を裂くため大臣たちがウソを言っているのだと思いこんで激怒し、かえって忠臣たちを逮捕してしまう。正義の人物である田子春は、劉禅(りゅうぜん)のもとに行き、趙姫(ちょうき)が呂后(りょこう)によって殺された当日のようすを生々しく訴え、劉禅(りゅうぜん)が真実に目覚めるよう決死の説得を試みる。−−名優・馬連良(ばれんりょう)が得意とした演目の一つ。
先生たちに見つめられて緊張して足がふるえてる人、服のすそがひっかかってめくれたまま演技しつづけて見兼ねた先生に注意された人、など、内部上演ならではの光景もありましたが、さすがは中国戯曲学院。全体のレベルは高く、学生さんたちの演技も真剣そのもので、迫力がありました。
ただ、次の目的地があるため、最後まで見ることができず、「淮河営(わいがえい)」が終わった段階で抜け出ねばならなかったのは残念でした。
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