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Defamiliarization 異化

Last updated 2019-7-5Since 2019-7-5

★学問の目的は、おのれを知ること。そのために、自分を含むあらゆるモノやコトを相対化すること。そのために考えること。
 芸術の目的(の一つ)は、あたりまえのモノやコトは実はあたまりえではない、という真実を実感すること。
 「相対化」という意味で、学問と芸術はつながっている。「相対化」のための手法の一つが、芸術における「異化」である。

https://www.youtube.com/playlist?list=PL6QLFvIY3e-kz3yxGS3_kHOFtoipMRMPn
石川智晶・作詞作曲「アンインストール」(TVアニメ「ぼくらの」op)
「♪あのとき最高のリアルが向こうから会いに来たのは 僕らの存在はこんなにも単純だと笑いに来たんだ」(以下省略)
芸術の「異化」では、日常的言語ではなく、詩的言語(およびそのような言語と相互作用の関係にある思考)を使い、日常が実は「日常」でないことに気づかせる。
日常的言語…理解しやすさ、平明をたっとぶ。
詩的言語…芸術の目的は知覚のプロセスそのものなので、わざと難しい変な表現を使い、認識の過程を長引かせる。

★「異化」という術語は、芸術以外でも使い、それぞれの学問分野で意味用法が違うので注意すること。「異化」は、言語学や音声学ではdissimilationの意(似ている音が一語の中にあるとき、片方が異なる音に変わる現象)、生物学ではcatabolism(カタボリズム)の意、心理学では「まったく異なる性質や分量をもつモノやコトを接近させると、かえってその差異がきわだつ、という逆説的な心理作用」を指す。

★異化は、ロシア語остранение(オストラネーニエ ostranenie)の定訳。20世紀以降の現代芸術を理解するうえで、はずせない概念の一つ。
 異化とは、簡単に言えば、私たちが見慣れている常識的な日常を、見たこともない異様なものに変えてしまう魔法のような作用、という意味である。芸術の目的や手法、作品の批評のときに使われる。シクロフスキーは、1917年に発表した論文「手法としての芸術」の中で、芸術の目的は人間に生の感触を取り戻させることであり、芸術は事物を知識としてではなく感触として伝えるものだと主張し、「異化」という概念を提唱した。
 定訳は「異化」だが、かつては「脱自動化」や「異常化」などの訳語を使う人もいた。韓国語訳は「낯설게하기」(不慣れにする)、中国語訳は「陌生化」「疎離」「間離(効果)」など。
 「異化」は、1910年代から1920年代末(ないし30年代)にかけて、ロシアの文学研究者や言語研究者が推進した文学・芸術運動「ロシア・フォルマリズム」Russkiy formalizmの中で、ヴィクトル・シクロフスキー(Viktor Borisovich Shklovskiy 1893-1984)が提唱した理論。のちの構造主義や記号論にも多大な影響を与えた。
 演劇では、ブレヒトの「異化効果」Verfremdungseffekt (英語訳は“alienation”) の理論が有名。
参考サイト 「【クイズで学ぼう】“異化”ってなんだ? 小説用語を徹底解説

例 前衛芸術家・赤瀬川原平(1937-2014)の「宇宙の缶詰」

 異化の手法はさまざまである。
 次元を変える。例えば、日常の見慣れた世界(三次元)を、(二次元の)アニメなどで表現する。
 色彩を変える。例えば、カラーの世界を、わざと「白黒」で表現する。白黒テレビ時代、「銀髪鬼ブラッシー」の流血試合を見てショック死した人がいたのは、白黒映像のドロリとした血のほうが、カラー映像の血よりもショッキングだったから。
 サイズ的スケールを変える。マクロ的視点ないしミクロ的視点から日常世界を見直す。
 時間的スケールを変える。何十年という単位の時間を、わずか数分に縮めて表現したりする。
 末期患者がたどる死の五段階説「否認と孤立、怒り、取り引き、抑鬱、受容」(エリザベス キューブラー・ロス Elisabeth Kübler-Ross著、鈴木晶訳『 死ぬ瞬間―死とその過程について』 中公文庫) 。『余命1ヶ月の花嫁』は悲劇だが、「余命5分の男」(cf.ONTV Network: Why Me? (1978))が喜劇になる理由。
 参考 [演劇と科学]

〇関連事項

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