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病膏肓に入る 東洋医学のコンセプト

2012-4-20 朝日カルチャーセンター新宿教室 13:30-15:00
最初の公開2012-4-19 最新の更新2012-4-20
[ポイント] [病膏肓に入る] [血気は風雨なり] [女子は七、男子は八]

拙著『怪の漢文力
中公文庫 本体800円)
ポイント
  1. 「未病」の思想…「黄帝内経」四気調神大論篇第二の「是故聖人、不治已病、治未病。不治已乱、治未乱。此之謂也」。「孫子の兵法」の「知彼知己者、百戦不殆」「上兵伐謀、其次伐交、其次伐兵、其下攻城」との類似性
  2. 「柔弱」の思想…「老子」の思想との類似性。「人之生也柔弱、其死也堅強。萬物草木之生也柔脆、其死也枯槁。故堅強者死之徒、柔弱者生之徒。是以兵強則不勝、木強則折。強大處下、柔弱處上。」
  3. 「全体」の思想…「淮南子」精神訓の「血気は風雨なり」の自然哲学。風水思想、五行思想との共通性
  4. 「天命」の思想…「論語」雍也第六の「伯牛有疾、子問之、自牖執其手、曰、亡之、命矣夫、斯人也而有斯疾也、斯人也而有斯疾也。」
『荘子』知北遊篇第二十二
 舜問乎丞曰「道可得而有乎」。曰「汝身非汝有也。汝何得有夫天道」。舜曰「吾身非吾有也、孰有之哉」。曰「是天地之委形也(下略)」。
 舜(しゅん)、丞(じょう)に問(と)ひて曰(いは)く「道(みち)は得(え)て有(ゆう)すべきや」と。曰く「 汝の身すら汝の有に非ざるなり。汝、何(なん)ぞ夫(か)の天道を有するを得んや」と。舜曰く「吾(わ)が身、吾が有に非ざれば、孰(たれ)か之(これ)を有するや」と。曰く「是(こ)れ天地の委形(いけい)なり(下略)」と。


二豎・二竪…ふたりの子供。病気のこと。
病膏肓に入る(やまいこうこうにいる)…不治の病に冒されること。「膏」は胸の下の方、「肓」は胸部と腹部との間の薄い膜。
藪医者…語源は一説に「野巫(やぶ)医者」

『春秋左氏伝』成公十年(前581年)、晋の景公の条
(一)晉侯夢。大飼髮及地、搏膺而踊。曰、殺余孫、不義。余得請於帝矣。壞大門及寢門而入。公懼入于室。又壞戸。 晋侯しんこうゆめみる。たいれいはつこうむりておよび、むねちておどる。いわく、まごころすは、不義ふぎなり。ていうことをたり、と。大門たいもん寝門しんもんとをやぶりてる。こうおそれてしつる。またやぶる。
(二)公覺。召桑田巫。巫言如夢。公曰、何如。曰、不食新矣。 こうむ。桑田そうでんす。げんゆめごとし。こういわく、何如いかん、と。いわく、しんらわず、と。
(三)公疾病。求醫于秦。秦伯使醫緩爲之。未至。公夢。疾爲二竪子曰、彼良醫也。懼傷我。焉逃之。其一曰、居肓之上、膏之下、若我何。醫至。曰、疾不可爲也。在肓之上、膏之下。攻之不可。達之不及。藥不至焉。不可爲也。公曰、良醫也。厚爲之禮而歸之。 こうやまいへいなり。しんもとむ。秦伯しんぱくかんをしてこれおさめしむ。いまいたらず。こうゆめみる。やまい竪子じゅしりていわく、かれ良医りょういなり。おそらくはわれきずつけん。いずくにかこれのがれん、と。いちいわく、こううえこうしたらば、われ若何いかんせん、と。いたる。いわく、やまいおさからず。こううえこうしたり。これむるもならず。これたっせんとするもおよばず。くすりいたらず。おさからず。こういわく、良医りょういなり、と。あつこれれいしてこれかえす。
(四)六月丙午、晉侯欲麥。使甸人獻麥。饋人爲之。召桑田巫、示而殺之、將食。張。如厠。陷而卒。 小臣有晨夢負公以登天。及日中、負晉侯出諸厠、遂以爲殉。 六月ろくがつ丙午へいご晋侯しんこうむぎほっす。甸人でんじんをしてむぎけんぜしむ。饋人きじんこれおさむ。桑田そうでんし、しめしてこれころし、まさしょくせんとす。る。かわやく。おちいりてしゅつす。 小臣しょうしんあしたこういてもってんのぼるをゆめみるり。ちゅうするにおよび、晋侯しんこういてこれかわやよりだし、ついもっじゅんとせらる。

五行
五色
五方 中央 西
五時 土用
五事
五常
五臓
五腑 小腸 大腸 膀胱
五虫
五味
五声

夏目漱石が22歳のとき正岡子規に送った手紙の一節。
「近頃の熱さでは無病息災のやからですら胃病か脳病、脚気、腹下シなど種々な二豎先生の来臨を辱ふする折からなれば、貴殿の如き残柳衰蒲も宜しくといふ優にやさしき殿御は、必ず療養専一摂生大事と勉強して女の子の泣かぬやう余計な御世話ながら願上候。」

福澤諭吉の漢詩
腰間秋水一揮揚 腰間の秋水一とたび揮揚す
自是先生養老方 自から是れ先生の老を養うの方なり
二豎多年侵不得 二豎多年侵さんとして得ず
知他寶剣吐龍光 知んぬ他の宝剣の龍光を吐けるを

芥川龍之介「野人生計事」
室生(犀星)の陶器を愛する病は僕よりも膏肓にはひつてゐる。尤も御同様に貧乏だから、名のある茶器などは持つてゐない。


『淮南子』精神訓より「耳目は日月なり、血気は風雨なり」
  拙著『怪の漢文力』p.160参照
夫精神者所受於天也、而形体者所稟於地也。故曰、一生二、二生参、参生万物。万物背陰而抱陽、冲気以為和。 夫れ精神は天より受くる所にして、形体は地より稟(う)くる所なり。故に曰く、一は二を生じ、二は参を生じ、参は万物を生ず。万物は陰を背にして陽を抱き、冲気以て和を為す、と。
故曰、一月而膏、二月而[月失]、参月而胎、四月而肌、五月而筋、六月而骨、七月而成、八月而動、九月而躁、十月而生。形体以成、五蔵乃形。 故に曰く、一月にして膏(あぶら)たり、二月にして[月失](てつ)たり、参月にして胎たり、四月にして肌あり、五月にして筋あり、六月にして骨あり、七月にして成り、八月にして動き、九月にして躁ぎ、十月にして生る。形体以て成り、五蔵乃ち形す、と。
是故肺主目、腎主鼻、胆主口、肝主耳、脾主舌。外為表而内為裏、開閉張歙、各有経紀。 是の故に肺は目を主り、腎は鼻を主り、胆は口を主り、肝は耳を主り、脾は舌を主る。外を表と為して、内を裏と為し、開閉張歙、各々経紀あり。
故頭之円也、象天、足之方也、象地。天有四時・五行・九解・参百六十六日、人亦有四支・五蔵・九竅・参百六十六節。天有風雨寒暑、人亦有取与喜怒。故胆為雲、肺為気、肝為風、腎為雨、脾為雷、以与天地相参也、而心為之主。是故耳目者日月也、血気者風雨也。日中有[足歉烏、而月中有蟾蜍。日月失其行、薄蝕無光、風雨非其時、毀折生災、五星失其行、州国受殃。 故に頭の円なるや、天に象り、足の方なるや、地に象る。 天に四時・五行・九解(九野)・参百六十六日有り、人に亦た四支・五蔵・九竅・参百六十六節有り。天に風雨寒暑有り、人に亦た取与喜怒有り。 故に、胆を雲と為し、肺を気と為し、肝を風と為し、腎を雨と為し、脾を雷と為し、以て天地と相参(まじ)はりて、心、之が主たり。 是の故に耳目は日月なり、血気は風雨なり。日中に[足歉烏(しゅんう)有り、月中に蟾蜍(せんじょ)有り。日月、其の行を失へば、薄蝕して光なく、風雨其の時に非ざれば、毀折して災を生じ、五星其の行を失へば、州国、殃(わざわひ)を受く


『黄帝内経』上古天眞論篇 第一より。
女子七歳、腎気盛、歯更髪長。 二七而天癸至、任脈通、太衝脈盛、月事以時下、故有子。 三七腎気平均、故真牙生而長極。 四七筋骨堅、髪長極、身体盛壮。 五七陽明脈衰、面始焦、髪始墮。 六七三陽脈衰於上、面皆焦、髪始白。 七七任脈虚、太衝脈衰少、天癸竭、地道不通、故形壊而無子也。 女子は七歳にして、腎気盛んにして歯更り髪長ず、二七(14)にして、天癸至り任脈通ず、太衝の脈盛んにして、月事(月経)時を以て下る、 故に子有り、三七(21)にして、腎気平均す、故に真牙生じて長極す、四七(28)にして、筋骨は堅く髪は長じ極まる、身体盛壮なり、 五七(35)にして、陽明の脈が衰え、面始めて焦(やつ)れ髪始めて堕つ、六七(42)にして、 三陽の脈が上に衰え、面皆焦れ髪は始めて白し、七七(49)にして、任脈虚し太衝の脈衰少し、天癸竭(つ)く、地道通せず、故に形壊(くず)れて子無きなり
丈夫八歳、腎気実、髪長歯更。 二八腎気盛、天癸至、精気溢写、陰陽和、故能有子。 三八腎気平均、筋骨勁強、故真牙生而長極。 四八筋骨隆盛、肌肉満壮。 五八腎気衰、髪墮歯槁。 六八陽気衰竭於上、面焦、髪鬢頒白。 七八肝気衰、筋不能動、天癸竭、精少、腎蔵衰、形体皆極。 八八則歯髪去、腎者主水、受五蔵六府之精而蔵之、故五蔵盛乃能写。 今五蔵皆衰、筋骨解墮、天癸尽矣、故髪鬢白、身体重、行歩不正、而無子耳。 丈夫八歳にして腎気実し、髮長じ歯更る。 二八(16歳)にして腎気盛し、天癸至り、精気溢写し陰陽和す。故に能く子あり。 三八(24歳)にして腎気平均し、筋骨勁強たり。故に真牙生じて長極まる。   四八(32歳)にして筋骨隆盛にして、肌肉満壮たり。 五八(40歳)にして腎気衰え、髮墮ち、歯槁る。 六八(48歳)にして陽気上に衰竭し、面焦れ、髮鬢頒白たり。 七八(56歳)にして肝気衰え、筋動くこと能ず。天癸竭き、精少なく、腎藏衰え、形体皆極れり。 八八(64歳)にしてすなわち歯髮去る。腎は水を主り、五臓六腑の精を受けてこれを蔵す。…

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