Katou's accordion room

アコーディオン用語集

Names and Terms of the Accordion

Nov.14,1997 Last Updated July 20th, 2003

 ここでは、アコーディオンのカタログなどに出てくる独特のカタカナ単語を解説いたします。カタログを見るとき、多少なりともご参考になれば幸いです。
 Here, I will explain some terms about accordions which would sound strange to Japanese beginners. These words are not seen in Japanese ordinary dictionaries although they are always used in accordion catalogues in Japan. Perhaps, you may know the meanings of the terms below. So, English summary of this page is omitted.
  1. ボディの色
  2. 形状
  3. メーカー
  4. 価格
  5. 重さ
  6. クロマチック
  7. クロマチック・ボタン・アコーディオン
  8. 鍵盤式(ピアノ式)アコーディオン
  9. ディアトニック(ダイアトニック)
  10. 鍵数
  11. リード(「HMML」「MMM」「M」等の意味)
  12. ベース
  13. ストラデラ・ベース
  14. フリー・ベース
  15. S.B.とF.B.のちがい
  16. ベースのボタン数
  17. スイッチ
  18. マスタースイッチ
  19. チャンバー・トーン
  20. ミディ対応電子アコーディオン
  21. マイク付「電気アコーディオン」
[Accordion Top Page]





ボディの色 body color


 音色の機能とは全く関係無いが、アコーディオンの場合、外観のファッション性も大きな要素である。
 中級機種以上では、ふつう同一機種でも赤・黒・白・青など各色が用意されているが、どの色を選ぶかは個人的なこのみによる。あなたがバンドに属していて、ライブ・ハウスなど舞台での演奏を考えるならば、照明があたったときアコーディオンの本体や蛇腹がタマムシ色に輝くような派手な機種を使ってもよかろう。

日本では黒と赤が圧倒的に多い。これは小学生のランドセルの色と同じ現象である(日本ではランドセルの色を校則で規定している小学校は無いのに、みな黒か赤である。ある親が、子供の個性を伸ばそうと黄色の模様つきランドセルを買い与えたところ、子供は登校拒否になってしまったので、結局、普通の黒いランドセルに換えた、という新聞記事を前に読んだことがある)。

 ただ、没個性の黒には、実用的にも一つの大きな魅力がある。一般にアコーディオンの表面は木製ボディのうえに色付の不燃性セルロイドを張り付けたものであり、塗装ではない。たとえば赤パールは十数年以上も使いこめばところどころネズミ色に脱色してくるし(特に腿とこすれあう胴体下部など)、白パールも次第に新品当初の輝きを失ってくる。この点、黒セルロイドはいちばん脱色しにくく、また仮に一部が脱色しても「パール色」と違ってうえから塗料で黒く塗り直せばよい。そして、長い目でみれば「黒色ボディーで蛇腹は模様なしの無地」という地味な組み合わせが一番「あき」が来ないし、祝宴でも追悼の席でも、どんな場所でも演奏しやすい。
 最終的には好みの問題である。




形状 the shape


 アコーディオンという楽器は、広義での機械の一種である。
 自動車や時計、といった他の機械が、時代によって形を変えてきたように、アコのデザインも時代によって変わってきた。
 外見を見れば、だいたいの製造年代が推定できるほどである(写真は1930年代製のアコ)。

 一般的に言って、
・押引異音式のダイアトニック系の蛇腹楽器は、スペックも決まっており、発明当初から完成しているので、デザインはあまり変わっていない。
・押引同音式のクロマチック系の蛇腹楽器は、比較的大型で余裕のある設計が可能なうえ、20世紀以降も不断の改良が加えられたため、デザインはどんどん変わっている。

 ピアノ式アコーディオンは、クロマチック系なので、時代ごとに大きくデザインを変化させてきた。
 自動車の形の変遷と同じく、20世紀前半までのピアノ式アコは、写真のように、角張った「アール・デコ調」のデザインが多かった。こうしたタイプのアコは、今日でも中古市場などで見ることができる。一般に装飾が多く、鍵盤の両脇は古代ギリシャの竪琴(ライヤー)をかたどってふくらんでおり、鍵盤は細長い。

 これに対して、20世紀後半以降のピアノ式アコは、より機能的なデザインになった。自動車のデザインの変遷と同じく、角に少し丸みをもたせ、また装飾的なデザインも少なめである。
 アコのデザインで一番目につくのは、楽器の「顔」にあたるグリル(鍵盤部に隣接した本体の正面の部分)である。
 通常、音を出すためにこのグリル部分には「穴」「すきま」「空間」があけてある。その部分の模様のデザインの変更は、同一メーカーでも、十数年おきくらいに更新される。

 なお、アコの場合、目に見えない内部の機械的部品などでは、不断の改良が積み重ねられている。そのため、ギターやバイオリンなどと違い、古い骨董品のほうが鳴りが良い、とは一概には言えない。
 アコのビンテージ・モデルを中古市場などで購入する際は、自動車のクラシック・カーを購入する際と同様の注意が必要である。




メーカー maker


 結論を先に言えば、これも個人の好みの問題である。
 コンピューターの世界に、MAC派、ウィンドウズ派などがいるように、アコの世界にもそれぞれのメーカーの根強いファンがいる。この手の議論をはじめたら、
「はなやかなに鳴るエキセルシャー(イタリア)が最高ですね。輸入品では、日本で一番普及しているという実績もあります。あの横森良造さんも使ってるし、修理・保持のサービスも良いし」
「たしかにそうかもしれませんわ。でも、あたくしは、やわらかで上品な音色のジュリエッティ(イタリア)を使っておりますの。オホホホ」
「イタリア? やはりドイツ職人気質の誇りと伝統のある、重厚なホーナー(ドイツ)の音色こそが芸術だ。御喜美江さんも使ってるじゃないか」
「ドイツ職人気質? ははは、ホーナーだって、子供むけのおもちゃのアコを作ってるのだよ。我が輩はブガリ(イタリア)のしぶさこそ、アコーディオンの本質に近いと認める」
「しぶさというなら、トンボ(日本)を忘れてもらってはこまります。あの、MMを完全同音高に調節するという世界独自のチューニング。ドイツのアコーディオニスト、ヘルツレさんも『トンボの音色は素晴しい。どうしてトンボは高級機種を生産して世界に輸出しないのか』とトンボ楽器の社長さんに質問したそうです。しみじみ弾けるのはトンボだけです」
「ボクも友達にはトンボをすすめまーす。でも、ボクはCOBA(小林靖宏)のファンですから、自分で買うなら、やっぱキャバニョロ(フランス)しかないと思いまーす」
「この若僧が。COBAのファンなら、彼が日本人に推奨しているヴィクトリア(イタリア)を使うべきだろうが。TCS式もあるし、とにかくファッション感覚抜群で楽しい」
「聞いてられないよ。ソプラーニの名前が出てこないなんて、こんな次元の低いやつらとは話はできない」
「あのう、ところで皆さん、むかしフロンタリーニ(イタリア)ってメーカーがあったの知ってますか」
(以下、百二十行省略)
と、果てしない泥沼の中にのめりこんでしまうこと受け合いである。やはり自分で現物を見て、試奏して選ぶしかない。
 ただ、長い目でみると、メーカー選択の基準として、
  • 修理時の部品の互換性の確保。電気機器と違って、アコーディオンは内蔵部品の互換性が高いので、あまり気にしなくてよい。ただし、グリル部をとめるネジとか、ボタン式アコーディオンのボタンなど、外装部品はメーカー間の互換性が低い。ちなみに、ボタン式アコのボタンは、よくポロリと落ちて、そのままなくしてしまうことも多い。日本では珍しいメーカーの機種のアコーディオンを使う人は、大事に使いましょう。
  • 本当の生産国」の確認。近年の欧米や日本のメーカーは、アコーディオンの製造コストをおさえるため、中級以下の機種については部品の一部もしくは全部を人件費のやすい東欧や中国などで下請け生産させている。仮に「イタリア製」「ドイツ製」とあっても、部品の何パーセントかは(ときには全部が)別の国の製品だったりする。気にしなくてもよいことだが、念のため。
といった点も、ある程度考慮したほうがよい。




価格 price


 基本的に、アコは安い楽器ではない。
 バイオリンの場合、価格数千円ていどの安物(ほとんど消耗品)から数億円の名器まで、ピンキリである。
 アコの場合は、新品で数万円から五百万円くらいである。バイオリンと違ってアコには「数百年前の数億円の名器」は存在しない。
 以下、新品の価格に限定して話をすることにする。アコの価格帯は、おおむね三つに分けられる。

  自転車が買える値段 数万円台。
  バイクが買える値段 数十万円台。
  自動車が買える値段 百万円以上〜五百万円(ビンテージ・モデルや特注品の価格は上限なし)

 日本のメーカーが作っているアコは、高くてもバイクなみである。
 日本に輸入される中国製アコは、大半が、自転車なみの値段である。
 自動車なみ価格のアコは、ヨーロッパ製に限られる。
 日本では、全てのプロ奏者が高価なアコを使っているわけではない。
 が、高級なアコを使っているプロは、たしかに多い。
 横森良造さんが使っているエクセルシャー社のコンチネンタルとか、cobaさんが使っているキャバニョロは、百数十万円くらい。
 御喜美江さんが使っているホーナー社の「ゴラ」は、五百万円くらいだろう。
 外国製アコの価格は、円の為替相場の影響が大きいうえ、特注のオプションなどで価格は変動するから、以上はあくまでおおまかな推定であるが・・・・・・。

 バイオリンの名器「ストラディバリウス」の値段は数億円もするから、それにくらべれば、五百万円の高級アコでもかなり安い楽器と言える。
 とはいえ、小生の月給からすると、価格数万円の普及品のアコでも、かなりつらい……(涙)。

   さて、数万円の自転車なみ価格のアコと、新車が買えるほどの高級ブランド・アコは、どこが違うか?

 答え。どこからどこまで、違っている。(^^;;
 自動車なみ価格の百万円以上のアコは、やはり、それなりのお金や手間がかかっている。
 ボディの材質、リードの材質、皮の材質、部品の精巧さ、組み立ての手間、デザイン・・・・・・。どれもハイレベルである。
 音色も、これは個人の好みの違いが大きいが、やはり値段の高いアコのほうが良い。
 特に大事なのは「レスポンス」である。
 筆者が持っているのは、「
マイ・アコーディオン」に写真を載せているようにボロな中古アコばかりである。(^^;;
 しかし、アコ仲間(いずれもアマチュア)が持っている百万円以上のアコを弾かせてもらったことが、何度かある。
 キャバニョロ、コンチネンタル、ゴラ……やっぱり、弾き心地が全然違う(^^;;
 自分で弾いたことはないが、ビクトリア社のグランデポエタは、プロの生演奏を目の前で聴いたことがある。
 やはり高級アコは、それだけの音がする。
 例えば「チャンバー」の音の響きは、自動車でたとえると、超高級スポーツカーのエンジン音のように心地よい(もっとも小生はスポーツカーを運転したことはありません)。
 本当に「響く」のだ。まるでヨーロッパの大聖堂の中での演奏のような豊かな反響が、アコのボディの中から聞こえてくる不思議さ。ヨーロッパの楽器製作技術は、たいしたものである。
 またレスポンス、すなわち瞬発的な反応も、全然ちがう。百万円以上の高級アコは、蛇腹を1ミリ動かしただけで、ちゃんと1ミリぶんの繊細な音がでる。もちろん蛇腹を大きく烈しく動かせば、すばらしく鳴る。
 下手なしろうとでも、それなりに良い音がする。まして熟練のプロが百万円以上のアコを使いこなせば、すばらしい効果である。
 やっぱり世の中、ただではお金はとらない。・・・・・・

 バイクなみ価格の数十万円台のアコだって──実はアコ教室などで見かけるアコはこの価格帯のものが多いが──それなりに良い音がする。
 実は、欧米のプロのアコーディオン奏者は、この価格帯のアコを使用している人が、意外に多い。
 一例をあげると、アイルランドのアコ奏者アラン・ケリー(Alan Kelly)が使っているアコは、フランスのサルタレル社(Saltarelle)の「Clifden」(クリフデン)という中型機種で、新品価格は数十万円である。
 筆者もアラン・ケリーのCDを何枚か持っている。YouTubeなどで彼の名前を入力するとその演奏の動画を見ることもできる。価格百万円以上のアコに勝るとも劣らぬ、すばらしい音色である。
 自分がどういう音楽を弾きたいのか、ちゃんとしたコンセプトをもっているなら、数十万円のアコでも十分なのであろう。
 日本のプロ奏者でも、数十万円台のアコを使う人は、少なくない。もっとも一口に「数十万円」と言っても、二十万円と九十万円とでは、数倍も差があるのだけれど──
 なお、2007年現在、日本のメーカーが生産しているアコの最高価格は、三十万円ていどである(SUZUKI-A120 税込\320,250。現在もアコを作っている日本のメーカーはこちら)。

 最後に、私でも手が届く数万円台のアコについて(^^;;
 外国の民族音楽などの路上演奏で使われている楽器は、実は、このクラスが多い。
 新品価格2万円台〜4万円台のアコ(中国製が多い)は、ギターで言えば一万円未満の安物に相当する。基本的には「安かろう悪かろう」である。値段が値段だけに、ボディやリードの材質も安物を使わざるをえないし、部品も、例えばネジを使うべきところを接着剤で済ませたりしている(つまり、一度こわれると修理が効かない部品が多い)。
 一般に、楽器は弾きこめば弾きこむほど、音色がよくなる。ただしこれは、バイクなみ価格以上のアコについて言えることである。数万円のアコは、古びて鳴りが悪くなるだけである。
 安いアコで最悪なのは「レスポンス」の悪さである。数万円台でも品質はピンキリだが、概して、蛇腹の瞬発的反応力は、おおあじである。蛇腹を数ミリ動かしてもウンともスンとも鳴らず、数センチ動かすといきなり大きな音が出る。 たとえて言えば、太くてやわらかいクレヨンで細密画を描こうとするような、イライラ感もつのる。
 もっとも物は考えようで、逆に言えば、こういう特性にあった通俗音楽を演奏するには、数万円台のチープな音色のほうが良い場合もある。
 ピアノでも、西部劇の居酒屋の音楽のような場合は、調律がずれまくったホンキー・トンク調のボロいピアノのほうが、味がある。
 アコも同じで、ある種の曲を弾く場合は、数万円台のアコのほうが効果がある場合もある。
 なお数万円台のアコでも、左手のベースボタンが少ない小型アコや、ベースボタンが全くない「合奏用アコ」など、スペック上の理由で低価格を実現できているアコの中には、比較的よい音色のものもある。

 数百万円の超高級自動車で、広大な道路をスッとばすのは、気持ちがよい。
 いっぽう、数万円台の自転車で、町の路地をスイスイと走るのも、気持ちがよい。
 数万円台の自転車で鈴鹿サーキットを走っても、あまり気持ちはよくないだろう。
 数百万円の超高級車で、東京の下町のゴチャゴチャした路地裏を走っても、たぶん気持ちよくないだろう。

 結局、アコは嗜好品である。どんな音楽をめざすか、それによって、自分の財布と相談してアコを購入すればよい。
 小生の場合、音楽性よりも財布の要素のほうが大きいが(^^;;

 さて、もし同じ予算内ならば、新品のアコを買うか。それとも、中古品の高級アコを買うか。
 その一長一短については、別の項目で論ずることにする。


重さ weight


 本来、アコは、とても軽い楽器だった。
 1822年にベルリンのフリードリッヒ・ブッシュマン(Friedrich Buschmann)が発明した「ハンド・エリオーネ」も、1829年にシリル・デミアンが考案した「アコーディオン」も、片手で軽々と持てる「一列ダイアトニック(ディアトニック)・アコーディオン」であった。
 左の写真にあるような「一列ダイアトニック・ボタン・アコーディオン」の重さは、機種によっても違うが、おおむね2キログラムから4キログラムていどである。
 ボタン列が二列に増えた「二列ダイアトニック・ボタン・アコーディオン」の重さも、実は、それほど変わらない。
 くどいようだが、これがアコ本来の重さなのだ。
 21世紀の現代でも、アコの「初心」を留めるダイアトニック・ボタン式アコは健在である。アイルランドの伝統音楽(いわゆる「アイリッシュ」)で使われるアコも、このサイズのものが多い。

 中型〜大型のアコは、アコの歴史においては、後になってから現れた。
 ピアノのような鍵盤をもつアコーディオンとか、クロマチック・ボタン式アコーディオンなどは、音域が広くなったかわりに、金属リードの数が増えて、重く大きくなっている。
 ベースボタンが120個ついている大型のアコの重さは、10キログラムから15キログラムまでのあいだ。
 これは、女性や子供には明らかに重すぎる。
 つらいだけでなく、自分にとって重すぎるアコを長く弾いていると、体をこわしかねない。
 現在、日本国内で販売されている高級アコは、大半がヨーロッパ製である。その重さも大きさも「外人サイズ」だ。
 そもそも、アコの本場であるヨーロッパでは、日本人よりずっと大柄な成人男性が、意外に小さなアコーディオン(ダイアトニック・アコとか、鍵盤数の少ないピアノ式アコーディオン、など)を弾いているケースも多い。
 西洋人にとっても、実はアコの理想的な重さは、数キロていどなのだ。
 しかし日本のアコーディオン教室などでは、小柄な高齢者の男性とか、女性などが、10キログラム以上もある外人サイズの120ベースのアコを弾いていたりする。
 ちょっと滑稽な光景、と言えなくもない。
 たしかに、重くて大きな高級機種には、軽いアコにはないメリットがある。
 音域が広く、音色切り替えスイッチも豊富なので、一台でいろいろなジャンルの音楽の演奏が楽しめる。
 また蛇腹が長くとってあるので、たっぷりと空気を吸い込める。蛇腹の「息つぎ」をせず、うんと長い音をずっと出し続けることもできる。
 そのいっぽう、重くて大きなアコには、弱点もある。
 重いぶん、演奏者が疲れやすい。また蛇腹のなかの空気がなまじ多いせいで、手で押し引きして力を加えても「空気圧」の変化がそのぶん鈍感で、メリハリの効いた演奏がしにくい。
 大柄な白人男性並の筋肉量をもっている演奏者なら、重くて大きなアコのメリットを充分に生かしたうえで、メリハリの効いた演奏も可能である。
 しかし、外人より小柄で筋肉量が少ない演奏者(日本人の多くがこれ)にとっては、重くて大きなアコは、メリットよりデメリットのほうが大きい。
 小柄な日本人演奏者は、手の長さも短いので、外人サイズのアコの蛇腹を、めいっぱい左右に引っ張りきれない。これは、もったいない。
 また小柄な演奏者は、蛇腹を押し引きするパワーも貧弱なので、アコの音色もメリハリがなく平板で弱いものになりがちである。これも、もったいない。

 外人よりも自分は小柄だからといって、悲観する必要は、全くない。
 体重が50キログラム未満の人でも、自分の体格にあった小型軽量のアコを使えば、すばらしく音が響くメリハリの効いた演奏が可能である。
 たとえていうと、砲丸投げで金メダルをとるような筋骨隆々の選手と、小柄で俊敏な卓球(ピンポン)の選手との違いだ。
 小柄な卓球の選手が、重い砲丸をがんばって投げても、大柄な選手には負けるであろう。日本人でも、オリンピックの砲丸投げでメダルを取るような選手は、だいたい日本人離れした体格の持ち主である。
 しかし、筋骨隆々たる大柄の外人選手と、小柄で俊敏な卓球の選手が、卓球で試合をしたら、どうであろう? たぶん小柄で俊敏な選手のほうが勝つはずだ。
 音楽はスポーツと似ている。スポーツにさまざまな種目があるように、音楽にもさまざまなジャンルや風格がある。
 アコも同じだ。
 たしかに小柄な演奏者でも、修練して「技」を磨けば、重くて大きなアコを軽々と扱えるようになる。  例えば、日本女性の御喜美江さんは、ドイツ人の男性にとっても重くて大きなホーナー社のゴラを、自由自在に弾きこなす。
 しかし御喜さんは、プロ中のプロである。世界に認められた天才である。一般のアコ初心者が「女性の御喜さんでも弾けるのだから」と安易に考えて、重くて大きなアコに手を出すのは、必ずしも論理的とは言えまい。

 小柄な人(日本では標準サイズの人も、外人から見れば小柄)が、外人サイズのアコを頑張って使いつづけていると、アコが重すぎて腰が痛くなったり、鍵盤の幅が広すぎて指が痛くなったりすることがある。
 アコでも何でも、日本人の生徒はまじめなので、自分の体が痛くなっても「これは自分が未熟なせいだ」と思い、黙って耐えたりする。中には「この痛みを耐えたむこうに、上達がある」と思いこむ生徒もいる。しかしそれは、とんでもない思い違いである。
 アコは、漫画のスポーツ根性ものではない。体や指が痛くなるのは、技術の上達のうえでもマイナスでしかない。
 体や指が痛くなったら、それはもはや「楽器」ではない。「苦器」である。
 アコには、鍵盤の幅も、重さも、実にいろいろなサイズがある。どんな体型・体格の人でも、探せば、最適のアコを見つけることができる。
 無理までして重くて大きなアコにこだわる必要は、本来はないのだ。
 セカンド楽器、あるいは、よそ行きの楽器として、重くて大きなアコを所有し、気分転換にときどき弾くというのなら、問題はない。しかしその場合でも、メインのアコは、自分の体型にあった軽さのものを選ぶのが正しい。
 それがアコを長く続ける秘訣の一つでもあろう。




クロマチック chromatic

 もともとは「半音階」の意。ただしアコーディオンに限っては、「押引同音」の意味にも使う。
   アコの世界で「クロマチック」と言うと、次項の「クロマチック・ボタン・アコーディオン」の略語であることが多い。
 右手がピアノと同じ黒鍵と白鍵の組み合わせからなっている「鍵盤式(ピアノ式)アコーディオン」は、当然のことながら、すべて「クロマチック」である。しかし、上記のような事情で、鍵盤式アコを「クロマチック式」と呼ぶことはない。
 問題は、右手がボタンである「ボタン式アコーディオン」の場合である。これは「鍵盤式」と違い、「クロマチック式」と「ディアトニック式(後述)」の2方式がある。
 ちなみに日本では「ディアトニック式」は、戦前のアコーディオンの主流だったが、現在ではマイナーになってしまった。そのため、今の日本では「ディアトニック式」は逆に「おしゃれな楽器」になっている。




クロマチック・ボタン・アコーディオン chromatic button accordion

写真: 両手ともボタン操作で演奏するボタン式は、高速演奏にも有利。

 「クロマチック・ボタン式」のボタンの並べ方は、大きく分けて、B式(ロシアのバヤンなど)とC式(フランスなどで普及)の二つに大別できる。両者はボタンの並ぶ向きが違うだけで、難易度に差はない。一口に「ボタン式」と言っても、このようにいろいろなタイプがあるので、購入にあたっては注意を要する


[コラム] ピアノ式(鍵盤式)とクロマチック式、楽器として優れているのはどっち?


  結論を先に言うと、ピアノ式とクロマチック式の違いは優劣の差ではなく、奏者の好みの問題である。
 たしかに「クロマチック・ボタン式」アコーディオンには、ピアノ式にまさる特長がいくつかある。
 まず、狭い空間にたくさんのボタンを配列できる。つまり、鍵盤式にくらべると、同じスペースにたくさんの音域を取れる。その結果、手が小さい日本人でも、手が大きな外国人並に広い音域を弾ける(アコはもともと欧米人サイズの楽器である)。指が楽だし、素早く弾けるし、楽器も相対的に軽量小型で済む。
 また、鍵盤式(ピアノ式)では、鍵盤と鍵盤がスキマもなくぴっしり並んでいるため、初心者は、同時に二枚の鍵盤を押して「変な音」を出してしまいがちである。だがクロマチック式は、ボタンとボタンのあいだに十分なスキマを取ってあるため、ミスタッチをしても、同時に二つの音を鳴らしてしまうことはない。
 イタリア、フランス、ドイツ、北欧、ロシアなどの「アコーディオン先進国」で「クロマチック・ボタン式」が多数派であるのも、こうした特長を好む奏者が多いからである。
 いっぽう、ピアノ式にも、クロマチック式にまさる特長がある。
 例えば、ピアノ式で黒鍵と白鍵がデコボコと並んでいるのは、一見すると平坦なクロマチック式よりも弾きにくそうだが、プロ奏者の場合、この黒鍵の「でっぱり」を「手がかり」として、2オクターブくらい指をピョンと飛ばしたりする。また、パイプオルガンやピアノなど、他の鍵盤楽器が何百年もかけて蓄積してきた指の演奏技巧を、ほぼそのまま生かすことができる。
 ただし、日本でピアノ式が普及している理由は、このような楽器本体の特長によるのではない。もっと現実的な経済的な理由による。
 日本のアコ人口は外国より少ない。アコだけで生活しているプロは少ない。
 だから日本の「楽器屋さん」にとっては、アコを鍵盤楽器の一種として売らないと、採算が取れないのだ。鍵盤楽器として売れば、義務教育の教材として小学校にも買い上げてもらえるし、バンドのキーボードとしても買ってもらえる。
 このため、日本の国産メーカーでクロマチック式を作っているところは、今のところ無いのである。
 とはいえ、変化の兆しもある。日本では「クロマチック・ボタン式」を弾く人はまだ希少だが、少しずつ増える傾向にある。筆者の知るかぎり、ピアノ式アコからクロマチック式に転向した日本人は、みな異口同音に「慣れればピアノ式よりも弾きやすい」と言う。
 筆者自身はクロマチック式を弾かないので断言はできないが、現代曲などを弾く場合は、たぶん、そうなのだろう。

クロマチック奏者に「ドヘタ」はいない、というのは、本当か?


 日本では、
「ピアノ式奏者にはドヘタもいるが、クロマチック式奏者にドヘタはいない」
 という声をときどき聞く。これは、どう解釈したらよいのだろう? クロマチック式のほうが、ピアノ式よりもうまく弾ける(あるいは、うまく聴こえる)のだろうか?<
 たしかに、日本のクロマチック奏者には、うまい人が多い。
 しかし、ちょっと考えてみれば、これは当たり前である。日本国内でクロマチック式アコは少数派で、楽器を買うのも、先生を見つけるのも、ピアノ式より何倍も苦労する。東京だったら
金子万久先生のアコ教室、大阪だったらソハマ楽器などでクロマチック式を習うことができるけれど、地方の田舎では、まず先生を見つけるのは無理である。だから、地方在住者でクロマチック式を習いたい人は、大都市に引っ越すか、思い切ってフランスなど海外に留学するしかないのだ。
 つまり、日本でわざわざクロマチック式を習おうという人は、熱心で、それなりにお金をかける覚悟がある人たちである。特に「他人と違うアコを弾きたい」と考えてクロマチック式に転向したプロ奏者の場合は、そうである。日本でもし「超ドヘタ」なクロマチック式奏者がいたら、そのほうが不思議だ。
 いっぽう、日本のピアノ式奏者は、世界的な達人から、聞くに耐えない超ドヘタまで、層がそろっている。超ドヘタな永久初心者でもピアノ式を弾く、という事実は、ピアノ式の恥とは言えない。むしろ、下手から名奏者までの間口の広さは、日本のピアノ式アコの特長の一つと言えよう。
 きっと、海外のクロマチック式アコが普及している国では、超ドヘタなクロマチック奏者もいることであろう。一度(一度でじゅうぶんだが)そんな奏者の演奏を聴いてみたい気もする。

結論


 クロマチック奏者である金子万久先生は「ボタン式もピアノ式も、弾きやすさに大差ない」とご自分の数十年にわたる経験からおっしゃる。
 あのCOBAこと小林靖宏(こばやし・やすひろ)さんも、愛機はフランス・キャバニョロ社製の「鍵盤式」アコーディオンである。本来、キャバニョロ社のアコはボタン式が大半なのだが、小林さんはわざわざ特注の鍵盤式をあつらえ、あれほど見事にバリバリに弾きこなしている。
 これらの事例を見ただけでも、「ピアノ式よりボタン式のほうが優れている」と単純には言えないことがわかる。
 なお、ヨーロッパのアコーディオン先進諸国(および中国)では音楽大学に「アコーディオン科」を置き、アコーディオンによる芸術音楽を教授しているが、そこでの鍵盤式とボタン式の比率は半々くらいである。





鍵盤式(ピアノ式)アコーディオン piano type accordion

写真: 中国製の鍵盤式アコーディオンを北京で弾く筆者。

 右手部分がピアノやオルガンと同じ鍵盤式であるアコーディオンのこと。日本で「アコーディオン」というと、通常このタイプを指す。日本では、御喜美江(みき・みえ)、小林靖宏などトップ・プレイヤーもピアノ式を使っている。
 鍵盤式とクロマチック・ボタン式の違いは、右手の操作部分の形状の差で、音色には本質的な違いはない。
 世界における分布を見ると、「鍵盤式アコーディオン」は、アメリカ・日本・中国など、どちらかというと「アコーディオン後発国」において多数派の地位を保っている。その理由については前項のコラム参照。
 ただし、世界のアコーディオン・プレイヤーの使用機種を見ると、国籍を問わず結構ピアノ式の愛用者も多い。
 鍵盤式の最大の特長は、右手については他の鍵盤楽器との演奏技術および教材の「互換性」がある点である。ピアノやエレクトーンが弾ける人なら、鍵盤式アコーディオンもすぐ上達する。たとえば中国では「ツェルニー練習曲集」や「(バッハの)インヴェンション」を初等アコーディオン練習教材として採用しているほどである。
 アコーディオンは、鍵盤楽器の歴史の中で比較的新しく開発されただけあって、鍵盤楽器の技術の粋を尽くしてある。アコーディオンの鍵盤のタッチは「羽毛感触(フェザー・タッチ)」と呼ばれるほど軽く、また鍵盤が縦に並んでいるので手の動きも人間工学的に見て自然である。アコーディオンが鍵盤楽器中最高の弾き心地を誇ることは、ピアニストやオルガニストたちも認めている。もっとも、筆者が使っている安い値段の入門機種では、この指の触角を楽しむのはのぞむべくもない。




ディアトニック(ダイアトニック) diatonic

コンサーティーナのイラスト
「全音階」の意。アコーディオンに限っては「押引異音」の意味にも使う。
 ハーモニカは、吹くときと吸うときで、それぞれの穴から違う音が出る。19世紀初頭、ハーモニカと兄弟のようにして生まれた初期のアコーディオンは、蛇腹を押すときと引くときとで、それぞれのボタンが違う音階を出すディアトニック・ボタン式だった。
 ディアトニック式は、一般に小型軽量で、ピアノ式(=鍵盤式)にくらべ値段も比較的安い(ただし、手工品のディアトニック式は、むしろピアノ式よりも高価である)。
 日本でも、戦前にはこのディアトニック・タイプのボタン・アコーディオンがトンボなどで国産化されていた。高価なピアノ式が普及するのは、戦後になってからである。
 豊かになった現在の日本では、奏法にクセのあるディアトニック式は国内では製造されておらず、楽器店に陳列してあるのは全て輸入品である。しかし世界的に見ると、このディアトニック・タイプは今日でも民俗音楽(民族音楽)などで多用されている。
 ディアトニック・アコーディオンで演奏できる音は「全音階」に限られる。これは、ピアノでたとえて言うと白鍵部分の「ドレミファ」だけで、「半音」つまりフラットやシャープなどのついた黒鍵部分は演奏できない。
 ただし、ディアトニックでも、半音ボタンを追加した高級機種などでは、制約はあるが半音も演奏できる。
 例えば、C調とC#調の「ドレミファ・・・」を2列ならべたタイプの押引異音式アコーディオン(写真)の場合は、ピアノ式アコの白鍵と黒鍵にあたる音を、すべて出すことができる。

 このように、ディアトニック式は、鍵盤式やクロマチック・ボタン式にくらべると演奏能力には限界が多い。が、その反面、大きな特長として
 ・ リード数を節約でき、構造も簡単、低価格で耐久性にすぐれ、修理も楽、しかもクロマチック式よりずっと軽量小型で済む
 ・ 民謡や民族音楽などで、特定の調の限られた音階を素早く弾くときは、むしろクロマチック式より有利
 ・ アコーディオンが発明された当時の特長(軽量で携帯に便利、演奏が容易で楽しい、等)を残す
など捨てがたい面も多い。
 ディアトニック・タイプのアコーディオンには、コンサーティーナ(concertina)メロディオン(melodeon)バンドネオン(bandoneon)(クロマチック配列の改良型もある)などいろいろな仲間がある。そして、アルプスやイギリスの民俗音楽、アメリカのケイジャン音楽、中南米のエスニック音楽など、それぞれの地域と風土に密着したディアトニック・アコーディオン音楽のファンは日本にも多い。
 ちなみにピアノ式アコーディオンが普及している日本では、本来バンドネオンで演奏するアルゼンチン・タンゴの場合でも、ピアノ式で代用する場合が多い。
 バンドネオンにも、ディアトニック式とクロマチック式の両方がある。アストル・ピアゾラや小松亮太のバンドネオンは、ディアトニック式である。
   なお、これは現在の日本に限っての現象であるが、ディアトニック・アコーディオン奏者には外国語とインターネットに精通している人が多い(日本ではこの楽器の情報が限られているため、必然的に外国語の文献やホームページに親しむから)。
参考[ディアトニック・アコについて]



鍵数 number of the keys

写真: 45鍵、「あごによる切り替えスイッチ」を装備したプロ用大型アコ。フリーベース付なので、アコ曲はもちろん、パイプオルガンの三声曲も難なく弾ける。演奏者はロシア人だが、楽器はイタリア製。

 ピアノ式アコーディオンの右手の鍵盤の数のこと。白鍵・黒鍵あわせて「41鍵」が標準。以下、軽い機種になるにしたがって、37鍵、34鍵、26鍵、などと鍵数は減る。プロ用の高級機種には「45鍵」という大型のもある(写真)。
 鍵数は、どれくらいあれば良いのだろう?
 歌謡曲を弾く場合そう極端に広い音域は必要無いが、クラシックの名曲をバリバリに弾こうとすれば41鍵でも足りない場合が出てくる。
 とはいえ、鍵盤数が多ければ、たしかに「大は小を兼ねる」けれども、もともとアコーディオンは「外人サイズ」の楽器なのである。自分にあった大きさ・鍵数のアコーディオンを選ぶのも大切だと思う。

 民族音楽を弾く場合は、鍵盤の絶対数よりも、むしろ音域のほうが重要になる。
 例えば、アイルランド音楽(アイリッシュ、ケルト)をアコで弾こうと思ったら「最低音はGで、音域は2オクターブ半(鍵盤数約30)」が理想である。これは、フィドル(バイオリン)など他の演奏楽器の音域との関係から見ても、そうである。
 それ以上の鍵盤数をもつ大型のアコでもアイリッシュを弾くことは可能だが、楽器本体が大型になると、そのぶんどうしても演奏が大味(おおあじ)になってしまいがちである。

 ちなみに、ピアノと違って、アコーディオンの鍵盤の幅には、やや狭い「レディス・サイズ」などバラエティがある。前述のクロマチック・ボタン式なら、なおさら手の大きさは気にしなくて弾ける。アコを選ぶ前に、まず自分の指と手の大きさを外人とくらべてみよう。




リード reed

 アコーディオンの音源である、金属性の薄い板。東洋の笙(しょう)などでは数千年前から使われていた。これが西洋に伝えられ、19世紀はじめハーモニカ、オルガン、アコーディオンなど一群の「フリー・リード」楽器が誕生した。つまり、アコーディオンは、日本人がお正月の「雅楽」などで耳にするあの笙の遠い子孫なのである。西洋の楽器なのに、ハーモニカやアコーディオンがなぜかなつかしい感じがするのは、そのせいかもしれない。
 リードは普通、鋼製である。それほど錆びやすい訳ではないし、また多少錆びても問題はないけれども(アコーディオンは一般の想像以上に丈夫な楽器)、高温多湿の日本列島の特に潮風を受ける海岸部では、アコーディオンの保管に気を使ったほうがよい。
 アコーディオンはリードを音源としているおかげで、ピアノなどと違い、それほど調律に気をつかわなくても良い。
 特に高級なプロ用の機種では「ハンド・メイド・リード」つまりプロの職人が手作りしたリードを使用している。
 アコーディオンの楽器の重さの半分は、この金属リードで占められている。一般に高級機種ほどリードのセット数が充実しているので重たい。たとえ外観は同じ大きさでも、機種によってアコーディオンの重さがひどく違うのは、こうした理由による。
例) HMML
 Hは高音リード、MMは中音リード2枚、Lは低音リードを表わす。
 高級なアコーディオンは、胴体の「音色切り替えスイッチ」を操作することによって、同時に鳴らすリードの組み合わせを選び、音色を変えることができる。
 安くて軽い機種ではMMないしML(2笛列)、中級機種ではMML(3笛列)、高級機種ではMMMLないしHMMLの組み合わせ(4笛列)が普通。
 高級機種の場合、Mのリード一枚だけをボタンで選ぶとハーモニカ風の音色が、HLすなわち高音と低音のリードを同時に鳴らす組み合わせならパイプオルガン風の音色が、MMないしMMMつまり複数の中音を同時に鳴らす組み合わせを選ぶと「ミュゼット・トーン」と呼ばれるフランス風のシャリシャリした音色が、それぞれ楽しめる。
 このうち「ミュゼット・トーン」は最もアコーディオン的な音色なので、日本の演歌や歌謡曲でもよく使われる。
例) 三笛列 
 右手の鍵盤部のリードの組み合わせの数を表わしている。前述のように「三笛列」なら「MML」か「HML」、「四笛列」なら「HMML」か「MMML」が普通。中級機種は三笛列高級機種は四笛列が普通。小型機種では、二笛列、単笛列が多い。
 プロ用の高級機種には「五笛列」というのもあるが、こうなるとリードだけで大変な重量となり、「持ち運びもでき、立奏も簡単」というアコーディオンの特徴は犠牲になる。




ベース bass

 右手の鍵盤部を「メロディー部」と呼ぶのに対し、蛇腹の反対側、左手で弾く低音部分を「ベース」という。
 左手でアコーディオンの蛇腹の押し弾きをする関係上、左手で操作するベースは、鍵盤式ではなく、ボタン式である。このボタンの配列のしかたによって、ベースは「ストラデラ・ベース(またの名をスタンダード・ベース。S.B.)」と「フリー・ベース(F.B.)」の二つに分かれる。
 日本で使用されているアコーディオンのほとんどは、前者の「ストラデラ・ベース(S.B.)」という配列を採用している。
 アコーディオンのカタログで、特にことわりがないかぎり、単に「ベース」と言えばこの「ストラデラ・ベース」を指している。




ストラデラ・ベース Stradella bass (standard bass)

 左手のベース・ボタンの配列方法の一つ。日本のアコーディオンの9割以上は、ベース・ボタンをこの配列方法でならべた機種である。
 イタリアの「ストラデラ」はアコーディオンの一大生産地として知られていた。その土地で確立したベース配列なので、こう呼ばれる。
 アコーディオンの特長は、初心者でも、ピアノに比べてはるかに簡単に左手で「ブンチャッチャ」と伴奏が付けられることである。また、プロであればなおさら素晴しいスピードで伴奏が付けられる。その秘密は、この「ストラデラ・ベース(S.B.)」にある。
 「ストラデラ・ベース」は、次の二種類のボタンの組み合わせから成り立っている。
  • 一つは、ある一つのボタンを押すと例えば「ドミソ」のように和音が鳴る「コード(和音)・ベース(chord basses)」ボタンである。「コード」はさらに、「メジャー・コード(長和音)」「マイナー・コード(短和音)」「セブンス・コード(属七和音)」「ディミニッシュト・コード(減七和音)」の4種類がある。値段の安い入門機種には「メジャー」と「マイナー」の2種類しか着いていないが、この2種類があれば、弾ける曲は限られるものの、最低限の必要は満たせる。
  • もう一つは、右手の鍵盤部と同じく、ある一つのベースボタンを押すと「ド」だけの音が鳴るという「ダブル・ベース(fundamental bass)」および「対位ベース(counter bass)」ボタンである。
 「ストラデラ・ベース」は、この二種類のボタンを独特の規則で配列している。
 アコーディオンを弾くとき、右手のメロディー部はピアノやオルガン同様に動かせるが、左手はアコーディオン本体をささえ蛇腹を押し引きしなければならない。だからアコーディオンでは、左手は自由に動かせぬというハンデを負っている。が、この「ストラデラ・ベース」のおかげで、左手でも簡単に和音の伴奏ができるのである。
 ただ、左手の和音演奏能力を最大限に優先した副作用として、左手で1オクターブ以上のメロディーを演奏することは構造上不可能である。
 左手でもメロディーを数オクターブにわたって演奏できるように工夫されたのが、次に述べる「フリー・ベース」である。




フリー・ベース free bass

写真: 右手は鍵盤式、左手はフリーベース(単独型)のイタリア製アコを弾く南米の女性奏者。

 左手のベースボタンの配列方法の一つ。または、その方式を採用したアコーディオンのこと。
 「フリーベース(F.B.)」は、左手のベースボタンを「クロマチック・ボタン式アコーディオン」の右手部分と同様の配列でならべたものである。S.B.が左手の指一本で「コード(和音)」を演奏できるのに対し、F.B.の場合はピアノなどと同様自分で左手の指の形をつくり複数のボタンを同時に押す。F.B.が考案されたことで、アコーディオンでもピアノやオルガンのように左手で自由に旋律を弾くことが可能になった。これは、クラシックの曲とか、ピアノ譜をそのまま弾くときなどに必須の機能と言える。
 日本では、この「フリー・ベース」方式のアコーディオンはまだ少数派で、一部のプロや若手が使用しているにすぎない。しかし、JAA(日本アコーディオン協会)主催のアコーディオン・コンテストの上位入賞者が「フリー・ベース」式で占められたように、最近は日本でもそれなりに普及しはじめている。
 「フリー・ベース」ボタン配列は、さらに、その並べ方によって「B式クロマチック」「C式クロマチック」「TCS(タイタノ・コンバータ・システム)方式」の三種類に大別される。多数派はB式およびC式のクロマチック式で、TCS方式は少数派である。この三種はそれぞれ一長一短があり、どの方式を選ぶかは個人の選択による。
 ちなみに、小林靖宏氏は「TCS方式」の推奨者であるが、御喜美江氏やシュテファン・フッソング氏はクロマチック式F.B.を使用している。
 国産メーカーは「ストラデラ・ベース(S.B.)」機種しか作っていないので、「F.B.」機種は全て輸入品である。世界のアコーディオン主要生産国の中でいまだに「S.B.」機種ひとすじというのは、現在では日本くらいだろう(隣の中国でも近年F.B.を国産化した。欧米の数分の一という低価格である)。




S.B.とF.B.のちがい diffirences between S.B. and F.B.

 「ストラデラ・ベース」機種がほとんどを占める日本では「F.B.機種は、値段が高く、ひどく重い」とか「F.B.の方が洗練されていて芸術的」などの誤解が横行している。S.B.とF.B.の違いは、優劣の差ではなく、それぞれ一長一短を持つ設計思想のちがいに過ぎないのに、なぜか日本では「フリー・ベース崇拝(?)」ないし「敬遠」の風潮が見られる。
 左手のベース部が「フリー・ベース」だけの「単独型」の機種は、価格的にも重量的にも「ストラデラ・ベース」機種と大差ない。欧米ではこのF.B.単独型機種が相当に普及している。ところが日本にかぎっては、楽器輸入業者の事情もあって、この「単独型」はあまり入ってきていない。
 日本で輸入販売されている「フリーベース」の大半は、実は、一台のアコーディオンでF.B.もS.B.も両方できるという欲張った「混合型」なのである。「混合型」は「単独型」にくらべると、構造が複雑なぶん重量が5キロほども増して総重量15キロに達し、価格も二、三十万円くらい高くつく。
 ただし混合型といえども、前述のTCS方式に限っては、重量・価格ともS.B.単独型と大差なくて済む。このような特長を持つにもかかわらず、フリーベース機種の市場においてTCSが占めるシェアが少ないことは、上述した。
 大阪の藤林克寿先生(JAA理事)は「F.B.は単独型が良い」と断言なさっている。その一方で「単独型もいいが、一台でいろいろなことができる混合型はもっといい」というF.B.ユーザーの声も根強い。ひとつだけ確実なことは、日本で「F.B.」イコール「混合型」という思い込みが無くならない限りF.B.機種がS.B.なみに普及する日は遠い、ということである。




ベースのボタン数 number of the bass buttons

 通常の「ストラデラ・ベース」の場合120ボタンが標準。以下、軽量になるにつれ、96ベース、80ベース、60ベース、などと減ってゆく。特に小型の入門機種では12ベースなどというのもある。また、極端なのは「ベースボタン数ゼロ」つまり右手だけで弾く「合奏用アコーディオン」というのもある(日本の小学生が学校で演奏するアコーディオンは、たいていがこのタイプ)。
 ボタン数は、重量・価格・演奏能力と比例している。当然、数が多いほど演奏能力は増す。ただし、ボタンの総数と同時に、ボタンの種類もまた演奏能力を決定する重要な要因である。
 たとえば120ボタンの場合、コード・ベース列の一番はじに「ディミニッシュト」(減七和音)というボタンが一列ならんでいるが、これは日本の歌謡曲の伴奏などでは使わなくても済む。つまり、「演歌」や「なつメロ」だけ弾く覚悟なら、まず120ベースも必要ない。ただし、クラシック曲などではよく使うので、完全な「盲腸」であるとも言えない。
 また、例えば同じ「48ベース」でも、和音以外の「ベース・ボタン」が2列か1列かでその機種の性格はずいぶん変わってくる。つまり「ダブル・ベース」と「対位ベース」の2列が揃っている機種では、左手でも一オクターブ内ながらメロディーが弾ける。同じ「48ベース」でも、もし「ダブル・ベース」だけで「対位ベース」が無いなら、そのぶん「コード(和音)・ベース」が豊富ということである。
 ちなみに、小型の入門機種では「対位ベース」列を省略したものも多い。しかし、アコーディオンをずっと弾いていくのであれば、やはり対位ベースが着いた機種を確保しておきたい。なぜなら、対位ベースがあれば、1オクターブ内ながら左手でもメロディーが弾けるし、また「和音ボタン」にない組み合わせの和音も自分で作って弾けるからである。
 自分がアコーディオンで何をやりたいかはっきりしてない人、何でもやってみたい人は、やはり120ベース機種を確保しておいた方がよい。
例) 120ベース(5セット)
 左手のベースボタン数が120ボタン。そして、それぞれリードが5セット(超低音、低音、中音、高音など)あることを示す。





スイッチ switch

 「音色切り替えスイッチ」のこと。右手のを「メロディー・スイッチ」、左手のを「ベース・スイッチ」と言う。中級以上の機種についている。
 アコーディオンは「時計じかけのシンセサイザーa clockwork synthesizer」とも言われる。例えばパイプオルガンは音栓を操作することで鳴るパイプの組み合わせをかえ、一台でいろいろな音色を出すことができる。アコーディオンも同様に鳴るリードの組み合わせをかえることによって、一台でいろいろな音色を出すことができる。例えば、ハーモニカのような音、パイプオルガンそっくりな音、南米のタンゴの伴奏で使われるバンドネオンの音、などを一台で出せる。これはピアノなどには真似できないアコーディオンの特長である。  小型軽量の機種は、リードのセット数(組み合わせ数)が少ないので、普通、スイッチは無い。中級機種以上のアコーディオンでは、「メロディー・スイッチ」は機種により2個から12個まで、「ベース・スイッチ」は2個から8個までついていて、弾く曲目によって荘重な音色や軽快な音色を自在に選べるようになっている。
例) スイッチ/12+8
 右手のメロディー部にスイッチが12個、左手のベース部にスイッチが8個あることを示す。
 ちなみに、スイッチは一般に指で操作するものであるが、プロが使用する高級機種では、演奏中でも自由に音色が切り替えられるよう「あご」で音色を切り替える特注のスイッチが付いているものもある。




マスタースイッチ master switch

 右手の鍵盤部の端に板状に突き出ている大きな「音色切り替えスイッチ」。オプションなので、全ての機種についている訳ではない。演奏中でもメロディー部の音色を切り替えるための工夫である。これが無くても、通常の曲の演奏には困らない。ただし、コンクールや演奏会などで弾くときは、このスイッチをたくみに使用することが奏者の腕の見せどころとなる。
 面白いことに、この「マスタースイッチ」は日本向け仕様のアコーディオンに多く、アコーディオンの本場である欧米では高級機種でもこのスイッチは付いていない。欧米のプロのアコーディオニストは、ある意味で中途半端なこの「マスタースイッチ」より、特注の「あご式音色切り替えスイッチ」を巧みに使う。




チャンバー・トーン chamber tone

 プロ用の高級アコーディオンにのみに付いている「チャンバー装置」によって出されるリードの音色のこと。
 リードをアコーディオン胴体内の「chamber」すなわち「特別室」の中で反響させることで、普通のリードと音の高さは同じだが、柔らかで上品な音色を出せるようになっている。
 チャンバーの有無による音の味わいの違いは、たとえて言うと、最上級の抹茶と、スーパーでビニールパックで売っている「ほうじ茶」ほどの差がある。ただし、抹茶よりも「ほうじ茶」をがぶ飲みする方がおいしい場合もある。要は、どういう曲を弾きたいのか、ここでも好みの問題となる。




ミディ対応電子アコーディオン MIDI type electric accordion

 ギターに対してエレキ・ギターがあるように、アコーディオンにも「電子アコーディオン」というのがある。これは、通常のアコーディオンと違い、蛇腹を押し弾きしなくても音を電気的に出す装置がついたアコーディオンのことである。
 「ミディ(MIDI)対応」とは「ある電子楽器を、他の電子楽器(エレキ・ギターとか、シンセサイザーとか、パーソナル・コンピューターなど)と電線で連動して問題なく演奏できる」ということを表わす。たとえば「ミディ対応」の電子楽器を組み合わせれば、たった一人で、シンセサイザー、電子アコーディオン、エレキ・ギター、キーボード(電子ピアノ) などを同時に合奏することが可能である。
 逆に、電子楽器といえども、「ミディ対応」設計でなければ、通常の非電気楽器と同じく、それぞれ別々にしか演奏できない。
 MIDI対応楽器には製造国や楽器の種類を問わず電気的に連動操作できるという利点がある。「電子アコーディオン」に限らず、最近の中級以上の電子楽器は「ミディ対応」が多い。




マイク付「電気アコーディオン」inner-microphoned accordion

 「電子アコーディオン」と混同しやすいが、全く違うので要注意。
 「電気」の方は普通のアコーディオンに内蔵マイクを取り付けて、音を電気的に拡大しやすくしたものである。蛇腹を押し弾きしなくても鍵盤やボタンを押すだけで自動的に( 電気的に)音が出る「電子」とは、本質的にちがう。
 価格は普通のアコーディオンにくらべ、マイク取り付けの値段(数万円くらい)だけアップする。
 内蔵マイクは、あれば便利だが、無くても特に不自由というわけではない。現に、コンサート・ホールで演奏する一流のプロの愛機でさえ、内蔵マイク付とはかぎっていない。
 ただ専用内蔵マイクを使用すると、外部マイクでアコーディオンの音を拾うのにくらべて、低音部と高音部の音を均質に拾えるなど、たしかに大きな利点がある。








Katou's accordion room