研究期間:平成26年度から平成31年度
かつて、新人の弁護士は、司法研修所での司法修習修了後、ほとんどが小規模の弁護士事務所(親弁事務所)か経費共同事務所に勤務弁護士(イソ弁)として所属し、そこで5年~10年勤務し、その後,顧問会社をいくつか親弁(ボス弁)から分けてもらい独立して自分の個人事務所を持つというのが、一般的であったといえる。当時は、単独あるいは数名の弁護士が勤務する小規模な法律事務所が東京などの大都市においても大部分であり、渉外関係の規模の大きな事務所(ほぼ東京に一極集中であった)でも,20名から30名程度の規模であった。
しかし、過去20年の間に、こうした法律事務所の光景は大きく変化し、今も変わり続けている。それは、第一には、四大あるいはビッグ・ファイブといわれる企業法務・金融法務を中心に扱う大規模法律事務所の出現であり、より一般的にいえば、法律事務所の規模の拡大である。第二に、こうした法律事務所の規模の拡大は、徐々に法律業務の専門化傾向を導いてきたように思われる。ビッグ・ファイブと呼ばれる法律事務所のなかで、各部門の弁護士がそれらの専門的領域の業務を継続して行う状況が存在する。個人を依頼者とする法律業務分野においても、労働法、家族法、刑事、交通事故などを多かれ少なかれ専門的に扱う弁護士が現れてきている。第三に、個人依頼者を対象とする法律事務所で、これまでのように紹介などによらず、テレビやインターネットで宣伝をし、顧客を直接獲得する法律事務所が出現してきている。第四に、組織内弁護士の急速な増大である。20年前にはほとんど存在しなかった企業法務部に勤務する弁護士の数が2010年以降急速に増加し、今では2千人近くにまでなっている。また官公庁に勤務する弁護士の数も200人を数えるに至っている。
以上のような弁護士の就業形態の多様化は,弁護士数の増加のみならず,弁護士への社会的ニーズの多様化にも対応したものであり,かつ,逆に弁護士の就業形態の多様化は弁護士に対する社会的ニーズの多角化・多面化をもたらし,そこにはシナジー的な相互作用が生じると期待される.こうして,弁護士の社会的使命は,訴訟代理・弁護という伝統的には弁護士の専業的色彩のあった紛争解決の使命から,紛争予防,交渉(私的な秩序形成),規範形成(社会秩序形成)などへと拡大してゆくと期待される。
本研究においては、近年のこうした傾向を法律業務の多様化,弁護士の社会的使命の拡張ととらえ、その現状がどのようになっているかをまず把握し,これからの弁護士の進むべき道の模索の基礎資料とすることにしたい。そしてさらに、法律業務の多様化がどのような背景の下に出現してきたのか、組織内弁護士の急増はどのように進んできたのかを跡付け、上記の4つの傾向の背後にある社会的・制度的な力がどのようなものであるのかを検討し、そして、これからも法律業務の多様化は進むのかどうか、進むとすればどのような方向においてであるのかを明らかにしたい。
研究代表者 | 村山眞維(明治大学) |
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研究分担者 | 太田勝造(明治大学) |
ダニエル・フット(東京大学) | |
杉野勇(お茶の水女子大学) | |
飯考行(専修大学) | |
石田京子(早稲田大学) | |
森大輔(熊本大学) | |
連携研究者 | 森際康友(明治大学) |
池田康弘(熊本大学 |