冷戦期アジアの軍事と援助
(横井勝彦編、日本経済評論社、2021年)

  • 概 要
     本書は、冷戦期にアジア諸国で形成された兵器産業の歴史を世界史的全体構造の中で明らかにすることを課題としている。 冷戦期に米ソは世界的規模で軍事援助と戦略的武器移転を展開したが、その時代のアジア諸国、とりわけインド、台湾、韓国、日本が追求した軍事的自立化は、そうした米ソの世界戦略とどのように関連していたのか。 本書では、こうした点に注目して、冷戦後の兵器拡散とその生産拠点拡大の構造解明を試みた。
     第Ⅰ部では、総力戦、軍民転換、武器移転・技術移転が国民経済や地域社会に及ぼした影響を、課題の性格上、冷戦期ではなく両大戦期における個別実証の中で確認している。 第Ⅱ部では、米英とソ連の国際援助が冷戦期のアジアに対して、いつ、どのような形態で、そしていかなる目的で展開されたのかを、やはり第Ⅰ部と同じように個別事例を紹介しながら解明している。 以上を踏まえて第Ⅲ部では、米ソの軍事援助とアジア諸国の軍事的自立化との関係に注目した。 ここで扱うのはインド、台湾、韓国、日本の四カ国であるが、この四カ国の軍事的自立化に関しては、その契機も世界史的全体構造の中での位置も、さらにはその到達点も同じではない。 第Ⅲ部ではそうした相違点に注目すると同時に、米ソの軍事援助と戦略的武器移転に大きく依存する中で追求されたアジア諸国の軍事的自立化と国民経済との関係に関しても可能な限り議論を展開した。

    目 次
    序章 冷戦期アジアの軍事と援助(横井勝彦)
    第Ⅰ部 冷戦前の軍民転換・武器移転・地域経済

    第1章  総力戦と非軍事工業の軍需生産動員・変容の日英比較(白戸伸一)

    第2章  光学産業における疎開工場の意義
          -日本光学の塩尻への疎開と八陽光学によるカメラ製造の事例-
          (山下雄司)

    第3章  インド航空機産業の創設と国際ネットワーク
          -一九四〇〜六四-(アパラジス・ラムナス)

    第Ⅱ部 冷戦期の国際援助 -援助の時代区分、種類、目的-

    第4章  戦後アメリカの対外軍事援助と軍産複合体
          -共同防衛市場構想の形成-(須藤 功)

    第5章  アメリカの技術援助とインド鉄鋼業
          -フォード財団の活動から-(下斗米秀之)

    第6章  英米共同体制による対インド軍事援助の展開
          -MiG-21取引をめぐって-(渡辺昭一)

    第Ⅲ部 冷戦期アジアの軍事的自立化

    第7章  冷戦期インドの軍事的自立化と頭脳流出(横井勝彦)

    第8章  冷戦以降の台湾の安全保障政策
          -軍事援助と国内防衛産業の発展に関する考察-(劉 復國)

    第9章  韓国の安全保障政策の特徴と冷戦期における軍事的独立の追求
          (ソン・キョンホ)

    第10章 冷戦期日本の防衛産業と防衛政策
          -自立と同盟の狭間で-(纐纈 厚)

    あとがき