《江戸川柳選》

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玄宗は 泣き泣き耳の 垢を掘り(誹風柳多留)

←唯将舊物表深情 鈿合金釵寄将去
 釵留一股合一扇 釵擘黄金合分鈿
        (『長恨歌』から)

 


 

一の富 何処かの者が 取りは取り(誹風柳多留・一五・11)

 


 

薦被こもかぶ り ととでまんまを 食った奴(誹風柳多留・一二・1)

←乞食も御乳母日傘で育てられた金持ちの坊ちゃんだった

 


 

あの女房 すんでにおれが 持つところ(誹風柳多留・四・9)

 


 

愛想の よいをほれられたと思い(誹風柳多留・八・28)

 


 

通り抜け 無用で通り抜けが知れ(誹風柳多留・八・35)

←藪蛇

 


 

仲条は むごったらしい 蔵を建て(誹風柳多留・三・1)

←仲条は江戸の有名な堕胎医一族

 


 

禿かむろ から 目にもろもろの 罪を見て(誹風柳多留・二・6)

←遊郭の少女(禿)の見聞

 


 

新田を 手に入れて立つ 馬喰町(誹風柳多留・初・5)

←→公事宿は馬喰町にあった

 


 

役人の骨っぽいのは猪牙ちょき に乗せ(誹風柳多留)

←堅物役人を落とすには遊里で饗応して篭絡する.猪牙:吉原へ行く小船

 


 

残念か いいか常盤は 泣いてさせ

←源義朝の後家の常盤御前は平清盛の意に従うことで3人の子供を救った.

 


 

小松殿 ぼぼ が敵と 世をなげき

←平清盛の嫡男小松内府重盛らは牛若(源義経)に滅ぼされた.

 


 

一門は 蟹と遊女に 名を残し

←平家一門は壇ノ浦で滅び平家蟹となる.生き残った官女は生活に困って遊女 となった.

 


 

西海のくろうも 水の泡となり

←源義経(九郎判官)は西海で平家を苦労して滅ぼしたが,奥州平泉で滅ぼされた.

 


 

おつむりと 下は違うと まさ子いい

←源頼朝は大頭だった.

 


 

親鸞は 世をひろく見て あなかしこ

弘法は裏 親鸞は表

 


 

手を握る ばかり志賀ない 老いの僧

← 高徳の老僧であって志賀寺の上人(しょうにん)が美女の京極の御息所 (みやすんどころ)に一目ぼれして,
   「はつ春の はつ子(ね)の今日の 玉ははき 手にとるからに ゆらぐ玉の緒」
と詠むと京極の御息所が
   「極楽の 玉のうてなの はちす葉に われをいざなえ ゆらぐ玉の緒」
と返歌した.

 


 

三つのうち 目も歯もよくて 哀れなり

 


 

ひとりもの 店賃たなちん ほどは 内にいず

 


 

おさしみの 前に土手をば ちょっとなで

 


 

歯は入れ歯 目はめがねにて 事たれど

 


 

遠くから 口説くを見れば 馬鹿なもの

 


 

むつかしい顔をうっちゃる袖の下

 


 

五右衛門は生煮えのとき一首よみ

 


 

蝿は逃げたのに静かに手を開き

 


神々も恵方果報の当り年

           ←恵方=吉の方向,果報=賽銭

 


知れて居るものをかぞへるせんがく寺

 


こらへかねこらへかねての短慮なり

 


手を出した方が負けだと下馬で言ひ

 


 

うし の日はのらくらとしたものを喰い

 


 

天地の出合楊貴妃織女なり

 


させもせずしもせぬ二人名が高し

           ←二人=小野小町と武蔵坊弁慶

 


 

瓜田かでん より炬燵こたつ の足の疑わし

           ←瓜田に履(くつ)をいるるなかれ

 


忍ぶ夜の蚊はたたかれてそっと死に

 


痩せこけた 死骸があると わらび取り

           ←伯夷・叔斉

 


その手代 その下女 昼はもの言わず

 


 

掛取かけと りが来ると作兵衛唸り出し

           ←作兵衛=仮病人

 


大三十日おおみそか 首でも取ってくる気なり

 


 

竈標かまじめ を聞きに来る新世帯

 


 

居酒屋のねんごろぶりは立って飲み

           ←ねんごろぶり=常連のフリ

 


神代にもだます工面は酒が入り

 


盃のときに何んにもおっしゃんな

 


酔ったあす女房のまねるはづかしさ

 


 

本降りになって出て行く雨宿り

 


 

ちかづきを考えて居る雨宿り

           ←ちかづき=近所の知り合い

 


雨やどりがく の文字をよく おぼえ

 


腹立って出るからかさ はひらきすぎ

 


 

店中たなじゅう の尻で大屋は餅をつき

           ←共同便所の肥取り代で餅をついた

 


 

末ながくいびる盃姑さし

 


 

嫁さえざえと牡丹餅を七つ喰い

           ←姑の四九日

 


 

牡丹餅を気の毒そうに晴れて喰い

 


 

死水を嫁にとられる残念さ

 


 

ねがはくは嫁の死水とる気なり

 


 

姑婆いびるがやむと寝糞をし

 


 

薮入りの戻ると来ぬですき(好き)がしれ(知れ)

 


 

医者衆は辞世をほめて立たれけり

           ←医者の偽善

 


 

にこにこと医者と出家がすれちがい

 


 

まま母とにらんで女衒ぜげん 安くつけ

 


 

つぶれ前女衒ぜげん まで来るむごい事

           ←つぶれ前=破産寸前

 


 

嘘も少しはつきますと女衒ぜげん いい

           ←女郎の最大の武器は嘘

 


 

なでまわし五一の金をさしはじめ

           ←五一の金=五両に月一分の利息←将棋の指し手

 


 

座頭のを借りて座頭の鳴りをやめ

           ←座頭からの借金を座頭から借りて返す

 


 

家督公事目鼻がつくと座頭来る

           ←家督相続の訴訟(公事)にけりで借金取り

 


なきなきもよい方をとるかたみわけ

 


 

五分五分に枕をよせる旅戻り

 

 


 

業平を見逃しにする大社

           ←人盛んにして神祟らず

 


 

杉の木は寝耳へ釘を打込まれ

           ←丑の時参り

 


 

かよう遊ばせと鶺鴒せきれい びくつかせ

           ←鶺鴒=神への性の教え鳥

 


 

も一つの伝授鶺鴒せきれい 泣いてみせ

 


 

鶺鴒せきれい は一度教えてあきれはて

 


 

鶺鴒せきれい の曰くさてさて御器用な

 


 

 

教えられたもうと 橋がみっしみし

           ←鶺鴒が教えたのは「天の浮橋」の上だっ た(『日本書紀』)

 


 

あれいっそ 神去りますと 橋の上

 


 

朕はもう 崩御崩御と のたまえり

 


 

人化かす狐も土の団子喰い

           ←稲荷へあげる土団子

 


 

暮の関越せぬは丙午ひのえうま に乗り

           暮の関(=借金),←持参金目当て

 


 

出家でもうけたを医者で遣いすて

           ←生臭坊主が医者に化けて花街へ

 


 

昼は釈迦夜は神農の弟子となり

 


 

学者虚して曰くすくな いかな腎

 


 

仲人はあばたの数をかぞえて来

           ←あばたの数で持参金が上昇

 


仲人は小姑一人殺すなり

           ←小姑の数を減らして仲人口

 


 

けちな医者さて犀角さいかく に困りはて

           ←犀角=犀の角の漢方薬

 


 

貧の病いに犀角さいかく はずぶ利かず

 


 

ああ腎が少ない哉と地黄丸じおうがん

 


 

日を呑んで月を流すは恋の道

           ←日=朔日丸=避妊薬・堕胎薬,月=月経

 


 

越しかたを思ふ涙は耳に入り

 


 

恋の味袂たもと をかんで娘知り

 


 

叱られて娘は櫛の歯をかぞへ

 


まくら絵を高らかに読み叱られる

 


我が好いた男の前をかけぬける

 


あたり見廻し絵の所娘あけ

 


 

十三と十六ただの年でなし

 


 

十六の春から稗をまいたやう

 


 

娘もういくのの道も承知なり

           ←大江山生野の道の遠ければ,まだふみもみず天の橋立(小式部)

 


くどかれてあたりを見るは承知なり

 


よしなあの低いは少し出来かかり

 


だんだんにそんならの出る面白さ

 


 

髪を結ふ時に女は目がすわり

 


 

男ならすぐに汲うに水鏡

 


 

相性は聞きたし年は隠したし

 


させたいとしたいは きに出来るなり

 


 

いひなずけたがひちがひに風邪をひき

 


くどかれて娘は猫にものを言ひ

 


お妾の昼間はしごく無口なり

 


 

マミムメモ今宵はじめてサシスセソ

 


 

ラリルレロこそタチツテトかな

 


 

箱入りのあったら金に嫁を添え

           ←親は箱入りと思っても持参金なしでは売れず

 


 

ひる過ぎの娘は琴の弟子も取り

           ←ひるすぎの娘=行き遅れ

 


抱いた子にたたかせてみる惚れた人

 


ふところに抱いてゐたのに滅ぼされ

           ←常盤御前の抱いていた頼朝と義経が平家 を滅ぼした

 


腹の立つ裾へかけるも女房也

 


病み上り女房ひやひやものでさせ

 


あら 世帯きざみかけてはしにはいり

 


 

いけんきく息子の胸に女あり

 


 

ふみの来るたんびに息子ちえがつき

 


 

ひと塩すると実体の息子なり

           ←ひと塩=道楽息子を銚子へ勘当,実体=実直

 


 

春や昔のと調子から文通い

           ←月やあらぬ春やむかしの春ならぬわが身ひとつはもとの身にして(伊勢物語)

 


 

我がすかぬ男の文は母に見せ

 


逃げしなにおぼえてゐろは負けたやつ

 


 

心中はほめてやるのが手向けなり

 


 

死に切って嬉しさうなる顔二つ

 


 

首くくり富の札などもってゐる

 


書置はめっかり安いとこへおき

 


 

夏草や野良者共の出合あと

         ←夏草やつわものどもの夢の跡(芭蕉)

           ←出合=村出合=村の男女の密会

 


出合する上をひばりは舞って居る

 


 

村出合させもが露にぬれるなり

           ←契りおきしさせもが露を命にてあわれことしの秋もいぬめり(千載集)

 


 

村社氏子ふやしにくる出合

 


 

仲人にかけては至極名医なり

           ←藪医者

 


 

させにくい祝言などと恩にかけ

           ←仲人の恩着せ

 


 

仲人の舌はぬかるる覚悟也

           ←仲人口

 


 

芝居にて見合い濡れ場が教え鳥

 


逃げのびた腰元前をよく合わせ

 


 

姑死に嫁片腕を継いだよう

 


 

持参金さあ出されれば出してみな

 


 

お土産をもって来るから持って来る

           ←お土産=お土産っ子

 


 

きりょうよい持参をと母女なり

           ←欲深い母

 


 

金箔のつかぬは木地のいい娘

           ←持参金なしでよいのは器量良し

 


 

入聟はわが物までに事をかき

 


 

女房だと思うが聟の不覚也

 


番頭も外ではおもしろい男

 


 

菅笠も夜は重なる夫婦旅

 


二人とも帯をしやれと大家いひ

 


寝てとけば帯ほど長いものはなし

 


昼みれば夜ばひ律儀なをとこなり

 


見つかって椎の実ほどにして逃げる

 


間男を切れろと亭主惚れている

 


 

女房の留守もなかなか乙なもの

 


 

女房をこわがる奴は金が出来

 


 

またしても前の仏でこぜりあい

           ←死んだ先妻

 


 

さわらねばなお祟りあり山の神

 


 

色男ちとそろばんはにちゅう也

           ←にちゅう=未熟

 


 

傾城の尾羽打ちからすいい男

           ←傾城が騙されるような色男

 


 

居候いつもせんべいかしわ餅

           ←せんべい=煎餅布団,かしわ餅=1枚の煎餅布団にくるまる寝方

 


居候よんどころなく子ぼんのう

 


掛人寝言にいふがほんのこと

           ←掛人=居候

 


口がるく尻のおもたい居候

 


 

恥ずかしさ知って女の苦のはじめ

 


 

ほれたとは女のやぶれかぶれなり

 


 

月夜と知らず提灯へ弓を張り

           ←提灯=老人の陽物

 


 

毛が少し見えたで雲をふみはずし

           ←久米仙人

 


 

雲となり雨となったで月を見ず

           ←雲雨=男女の営み,月=妊娠

 


 

弁天を大黒にして布袋にし

           ←弁天=美人,大黒=生臭坊主の隠し妻,布袋=妊婦

 


 

国の母生まれた文を抱き歩き

           ←江戸へ嫁いだ娘に子が生まれた喜び

 


 

赤い名を黒くしたがる里の母

           ←赤い名=娘の嫁入り先の姑

←黒=後家になって戒名を赤で書き,本当に死ぬと黒に書く

 


 

日傘をば買うにも御宰下駄をはき

 


 

天知る地知る二人知る御用知る

         ←天知,地知,我知,汝知:密事はばれる

 


 

出替りの乳母は寝顔にいとま乞い

           ←出替り=奉公人の交代

 


 

品川の客偏のあるとなし

           ←偏がある=侍,偏がない=寺=生臭坊主

 


 

野暮と化物品川に入りびたり

           ←野暮=田舎侍,化物=僧侶

 


 

細見さいけん を四書文選のあい に読み

           ←四書=大学,中庸,論語,孟子,細見=遊里の案内記

 


 

四つ手駕月の都をさして駈け

           ←四つ手駕=辻駕,月の都=八月一五夜と九月十三夜=吉原の紋日

 


 

光陰の矢よりも早い四つ手駕

 


 

孝行も四つ手不孝も四つ手なり

           ←孝行=親の借金返済のための身売娘,不孝=道楽息子

 


 

吉原は拍子木までが嘘をつき

           ←四つの拍子木=吉原の四つは十二時,日常の四つは十時

 


 

出すまじき所で浅黄武士を出し

           ←遊里で田舎侍が刀を抜く野暮

 


人は武士なぜ傾城にいやがられ

 


あまっ子のやうなにはまる浅黄裏

 


 

もてぬやつかんらかんらとうちわらひ

 


果し状泣くな泣くなと墨をすり

 


しんかんとして褌のしらみを見

 


 

馬鹿らしゅうありんす国の面白さ

           ←ありんす国=吉原

 


 

太鼓持ありんす国の通辞なり

 


 

年々歳々玉菊は客を呼ぶ

           ←玉菊=若死にした大夫玉菊の追善供養に灯籠をあげる吉原の祭り

 


 

灯籠の灯にとんで入る若盛り

 


 

月の前かこち顔なる売れのこり

           ←嘆けとて月やは物を思わするかこち顔なる我涙かな

 


 

月の嘘天にいつわりなきものを

           ←「いや,うたがいは人間にあり,天に偽りなきものを」『羽衣』

 


 

勘当はのの様を二度喰った奴

           ←ののさま=月

 


 

突出しの親人参をたんと飲み

           ←突出し=初見世の遊女,人参=病気の親に人参を飲ますための身売り

 


 

傾城の義理はちょっちょと風をひき

           ←特別の客や間夫(愛人)への義理立てに嘘の風邪で見世を休む(身揚がり)

 


 

売家と唐様で書く三代目

 


 

身揚りの部屋に村の名書いた笠

 


 

箸一ぜんの主となる面白さ

           ←小料理屋の常連扱いで自惚れる馬鹿

 


 

口偏に空おそろしい 起請文きしょうもん

           ←口偏に空=嘘の別字

 


 

水にする起請もかたい紙へ書き

           ←水にする=水に流すつもりの嘘起請

 


 

目がさめて今は仇なれ入れぼくろ

           ←入れぼくろ=女の名の刺青

 


 

命なりけり小夜ふけてもぐさ の香

           ←年たけて又こゆべしと思いきや命なりけり小夜の中山(西行)

           ←艾の香=艾で前の情夫の名の刺青を焼き消す

 


 

太えあま腕に火葬が二つ三つ

           ←火葬=捨てた愛人の名の刺青を艾で焼き消す

 

 


 

月の前かこち顔なる売れのこり

           ←嘆けとて月やは物を思わするかこち顔なる我涙かな

 

 


《阿 部 達 二『江戸 川柳で読む百人 一首』角川書店,2001年から》


 

かるたの絵 わが敷島の 道ならで

←『百人一首』

 


 

鶯も 蛙も鳴かぬ 小倉山

←『小倉百人一首』

 



 

夏来にけらし 白妙のところてん

←春すぎて 夏来にけらし 白妙の 衣乾すてふ 天の香具山『百人一首』


 

しだり尾の 長屋長屋に 菖蒲かな

←あし曳きの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を『百人一首』

 


 

すり鉢は みそひともじで ほめ足らず

←田子の浦に 打ち出でて見れば 白妙の 富士の高嶺に 雪は降りつつ『百人一首』


 

吉原は もみぢ踏み分け ゆく所

←奥山に 紅葉踏み分け 鳴く鹿の 声聞く時ぞ 秋はかなしき『百人一首』


 

出し月かもと 銚子の浜で見る

←天の原 降りさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出し月かも『百人一首』


 

禿頭を垂れて古里を思ふ

←頭を挙げて山月を望み 頭を低れて故郷を思ふ(李白)


 

花の色は 美しけれど 実はならず

←花の色は 移りにけりな いたずらに 我が身世にふる 眺めせし間に『百人一首』


 

気強いと 気の長いのが 九十九夜

←小野小町・深草少将


 

もうしめた もうしめたと九十五六夜目

←小野小町・深草少将


 

労して功なし 深草の行きだおれ

←小野小町・深草少将


 

黒主は そっと照る照る法師をし

←小野小町の雨乞い踊りと大伴黒主の対立


 

黒主は 武玉川から 盗み出し

←小野小町の雨乞い踊りと大伴黒主の対立


 

花の色 身のいたづらは せぬ女

←花の色は 移りにけりな いたずらに 我が身世にふる 眺めせし間に『百人一首』


 

蝶花を ながめせしまに 娘ふけ

←花の色は 移りにけりな いたずらに 我が身世にふる 眺めせし間に『百人一首』


 

語るなと 詠んだで落ちた ことが知れ

←僧正遍昭の落馬(名に愛でて折れるばかりぞ女郎花吾落ちにきと人に語るな)


 

親のため 我落ちにきと 女郎花

←借金の身売り


 

恋ぞつもりて 扶持となる 妾が兄

←築波根の 峯より落つる水無の川 恋ぞつもりて 淵となりぬる『百人一首』


 

しのぶずり召し 傾城に乱れそめ

←陸奥の 忍ぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れ初めにし 我ならなくに『百人一首』


 

しのぶずりよりも 高尾はしまを好き

←高尾太夫・島田重三郎・仙台侯伊達綱宗


 

うぬがため 春の野に出る なずな 売り

←君がため 春の野に出て 若菜摘む 我が衣手に 雪は降りつつ『百人一首』


 

面白く雨風にあふ中納言

←在原行平の須磨謹慎での松風村雨姉妹の寵愛


 

また流されておいでよと二人泣き

←在原行平の須磨謹慎での松風村雨姉妹の寵愛


 

芥川神代もきかぬ不埒なり

←ちはやぶる 神代もきかず 竜田川 唐紅に 水くぐるとは『百人一首』


 

恋の重荷は芥川桂川

←在原業平(芥川)・お半長右衛門(桂川)


 

問ふ人が ただの人なら ただの鳥

←名にし負はば いざ事問わん 都鳥 我が思ふ人は ありやなしやと(在原業平)


 

翌る日は いざこざ聞かん 都鳥

←名にし負はば いざ事問わん 都鳥 我が思ふ人は ありやなしやと(在原業平)


 

侘びぬれば 今はたおなじご借金

←わびぬれば 今はた同じ 難波なる みをつくしても逢はむとぞ思ふ『百人一首』


 

座敷牢 千々にものこそ悲しけれ

←月見れば 千々に物こそ 悲しけれ 我が身一つの 秋にはあらねど『百人一首』


 

このたびは ぬたにとりあへよ 紅葉鮒 (松江重頼)

←このたびは ぬさもとりあへず 手向山 紅葉の錦 神のまにまに『百人一首』


 

このたびは 雷公 雲の上へ落ち

←菅原道真の怨霊


 

どの蚊帳へ行っても 時平つき出され

←藤原時平の讒言による菅原道真の左遷


 

人と成り 神と成り また雷となり

←菅原道真


 

人目も草もいとはずに野糞たれ

←山里は 冬ぞ寂しさ 勝りける 人目も草も 枯れぬと思へば『百人一首』


 

力では並ぶものなき古今の序

←力をも入れずして天地を動かし 目に見えぬ鬼人をもあはれと思わせ(古今 集)


 

梅干も花ぞ昔を思ひ出し

←人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の香に にほひける『百人一首』


 

夏の夜は まだ酔ひながら 朝帰り

←夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを 雲のいずこに 月宿るらむ『百人一首』


 

誓ひてし人の命へ灸をすゑ

←忘らるる 身をば思はず 誓ひてし 人の命の 惜しくもあるかな『百人一首』


 

竹の子や あまりてなどか 人の庭

←浅茅生の 小野の篠原 忍ぶれど 余りてなどか 人の恋しき『百人一首』


 

逢ふことの たえて久しき 座敷牢

←逢ふことの 絶えてしなくば 中々に 人をも身をも 恨みざらまし『百人一首』


 

八重葎 茂れる宿へ 女衒くる

←八重葎 茂れる宿の 寂しきに 人こそ見えね 秋は来にけり『百人一首』


 

くだけても 割れても定家 百へ入れ

←風をいたみ 岩打つ波の 己のみ 砕けて物を 思ふころかな『百人一首』


 

わが命 長くもがなと 姑ばば

←君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな『百人一首』


 

あらざらむ 此世のほかの 嫁いびり

←あらざらむ 此世のほかの 思ひ出に 今一度の 逢ふこともがな『百人一首』


 

中ほどへ 定家女郎屋ほど並べ

←『百人一首』


 

傾くまでの月を見るどら息子

←やすらはで 寝なましものを 小夜更けて 傾くまでの 月を見しかな『百人一首』


 

家やしき 傾くまでの 月を見る

←やすらはで 寝なましものを 小夜更けて 傾くまでの 月を見しかな『百人一首』


 

詩は七歩 和歌は踏み見ぬうちに詠み

←大江山 幾野の道の 遠ければ まだふみも見ず 天橋立『百人一首』魏の曹植


 

奈良桜 一重よけいに 匂ふなり

←古の 奈良の都の 八重桜 今日九重に 匂ひぬるかな『百人一首』


 

心にも あらでおや良く 来なんした

←心にも あらで憂世に 永らへば 恋しかるべき 夜半の月かな『百人一首』


 

和田の腹 巴も初手は 探りかね

←わたの原 漕ぎ出て見れば 久方の 雲井にまがふ 沖津白波『百人一首』


 

百の内 二人変化で 神となり

←『百人一首』


 

鶯はないが里っ子集に入り

←ほととぎす 鳴きつる方を 眺むれば ただ有明の 月ぞ残れる『百人一首』


 

うしと見し勤めもうもういやになり

←永らえば また此ごろや 忍ばれむ 憂しと見し世ぞ 今は恋しき『百人一首』


 

年明けに 憂しと見し世を 恋しがり

←永らえば また此ごろや 忍ばれむ 憂しと見し世ぞ 今は恋しき『百人一首』


 

玉の緒よ たえなばたえね ふぐ が好き

←玉の緒よ 絶えなば絶えね 永らえば 忍ぶる事の 弱りもぞする『百人一首』


 

味噌煮ぞ 下戸の しるしなり鰹

←風そよぐ 奈良の小川の 夕暮れは 禊ぞ夏の 記(しるし)なりけり『百人一首』


 

喰うも憂し 喰はぬも辛し 居候

←人もおし 人も恨めし あぢきなく 世を思ふゆゑに 物思ふ身は『百人一首』


 

女の誉める女すくなし

←『武玉川』第五篇


 

あたらし蚊屋の隅の正直

←『武玉川』第五篇


 

聞き手があって思ふほど泣き

←『武玉川』第六篇


 

失念といへば立派な物忘れ

←『武玉川』第八篇


 

緑子の欠びの口の美しき

←『武玉川』第八篇


 

拝み倒しにまだ懲りぬ母

←『武玉川』第八篇


 

親の闇ほかの踊は目に附かず

←『武玉川』第九篇


 

親の闇ただ友達が友達が

←『武玉川』第九篇


 

親の昔を他人から聞く

←『武玉川』第十篇


 

叱る親父も叱られた果

←『武玉川』第十篇


 

蛤になりての不自由いかばかり

←『武玉川』第十一篇
←雀海中に入りて蛤となる


 

去年までただの寺なり泉岳寺

←『武玉川』第十一篇


 

俄分限の女房に飽き

←『武玉川』第十一篇


 

奥様といはれて顔が別になり

←『武玉川』第十五篇


 

惚れて報いる看病の恩

←『武玉川』第十七篇


 

遠くから見える蛍の息づかひ

←『武玉川』第十七篇


 

白鷺の田をきたながる足づかひ

←『武玉川』第十八篇


 

口留めに知った話のはがゆくて

←『武玉川』第十八篇


 

うつむけばいひわけよりも美しき

←『武玉川』第十八篇


 

面白き時憂き時の智慧はなし

←『武玉川』第十八篇


 

つまるところ酒屋がための桜咲く

←『武玉川』第十八篇


 

牡丹餅をこはごは上戸一つ食ひ

←柳樽


 

小豆飯かみしもほどのことでなし

←『武玉川』第十一篇


 

夜蕎麦切駆落者に二つ売り

←柳樽


 

聞いたかと問はれて喰ったかと答へ

←柳樽
←目には青葉 山不如帰 初鰹



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