《江戸狂歌選・巻之壱》

[表紙へ戻る]


 

(名所博打)

かつ事は遠つあふみの まけ博打

     もとでもいなさ細江なるべし (智惠内子)

        《参考》 遠つあふみいなさ細江のみをつく し

                 あれをたのめてあさましものを(万葉集)

 

 


 

君がかほ千世に一たびあらふらし

     よごれよごれて苔のむすまで (雄長老)

 

 


 

おうじうばひうばひおうじことごとく

     しなずに居ては何をくわせん (雄長老)

 

 


 

人の恋季はいつなりと猫とはゞ

     面目もなし何とこたへん (横井也有)

 

 


 

山吹のはながみばかり金いれに

     みのひとつだになきぞかなしき (四方赤良)

 

 


 

世の中は色と酒とが敵なり

     どふぞ敵にめぐりあいたい (四方赤良)

 

 


 

わが禁酒破れ衣となりにけり

     さしてもらおうついでもらおう (四方赤良)

 

 


 

をやまんとすれども雨の足しげく

     又もふみこむ恋のぬかるみ (四方赤良)

 

 


 

ものゝふも臆病風やたちぬらん

     大つごもりのかけとりの聲 (四方赤良)

 

 


 

いつ見てもさてお若いと口々に

     ほめそやさるゝ年ぞくやしき (朱楽漢江)

 

 


 

執着の心や娑婆にのこるらん

     よしのゝ桜更科の月 (朱楽漢江)

 

 


 

とれば又とるほど損の行く年を

     くるゝくるゝと思うおろかさ (唐衣橘洲)

 

 


 

(武家歳暮)

すゝとりて弓は袋におさめたり

     せめくる老を何でふせがん (唐衣橘洲)

 

 


 

世にたつはくるしかりけり腰屏風

     まがりなりには折れかゞめども (唐衣橘洲)

 

 


 

ぬれぬ先こそいとひしが

     をきをきて末は流るゝ質草の露 (手柄岡持)

 

 


 

死にとうて死ぬにはあらねど御年には

     御不足なしと人の言ふらん (手柄岡持)

 

 


 

(片思)

ちぎられぬ物とはいまぞしるこ餅

     一本箸のかた思ひにて (手柄岡もち)

 

 


 

月みてもさらにかなしくなかりけり

     世界の人の秋と思へば (つむりの光)

 

         (参考)月見れば千々に物こそ悲しけれ

                わが身ひとつの秋に はあらねど  (大江千里)

 


 

ほとゝぎす自由自在にきく里は

     酒屋へ三里豆腐やへ二里 (頭光)

 

 


 

(紅葉盗人といふ事を)

しかられて跡しらなみのたつた川

     顔も紅葉にかざす折枝 (馬屋厩輔)

 

 


 

(寒夜月)

しんしんと寒き月下の門徒寺

     僧たゝくは鳥のほねなり (馬屋まや輔)

 

 


 

(千鳥)

ゆきかへり友よびかはしなき上戸

     顔もあかしの浦千鳥足 (臍穴ぬし)

 

 


 

(辞世)

食へばへる眠ればさむる世中に

     ちとめづらしく死ぬも慰み (白鯉館卯雲)

 

 


 

(旅戀)

不自由な旅にしあれば椎のはに

     飯もりあげてたのしみぞする (白鯉館卯雲)

 

        《参 考》家にあれば笥に盛る飯を草枕

                 旅にしあれば椎の 葉に盛る (有間皇子)

 

 


 

(劒術によする祝)

あせ水をながして習ふ劒術の

     やくにもたゝぬ御代ぞめでたき (もとの木網)

 

 


 

としどしに目も弱りゆきはもかくる

     ふる鋸のひきてなき身は (加陪仲塗)

 

 


 

(鐘撞述懐)

一つづゝつくまにつくやため息の

     身は捨がねとかねて思えど (眞竹深薮)

 

 


 

(武士貧乏)

貧すれば質に奥のて太刀かたな

     さすがは武士のうけつ流しつ (山手白人)

 

 


 

(川向喧嘩)

はてしなき水かけ論の川むかひ

     わたりもつかで腹をたつ波 (一升夢輔)

 

 


 

(日ぐらしの里にて)

今日はけふあすはあすかの山近き

     その日暮しに遊ぶこそよき (日影土龍)

 

 


 

げに酒は愁をはらふはゝきとて

     たはこともはく青反吐もはく (宿屋飯盛)

 

 


 

かしましゝこのさと過ぎよほとゝぎす

     宮古のうつけいかに侍らむ (山崎宗鑑)

 

 


 

しき島のやまと心のなんとかの

     うろんな事を又さくら花 (上田秋成)

 


 

春になりてのこりすくなの塩鮭を

     去年のかたみと思ひぬるかな (今田部屋住)

 

 


 

我戀は闇路をたどる火縄にて

     ふらるゝたびに猶ぞこがるゝ (柳直成)

 

 


 

じやうはりの鏡が池のあつ氷

     うつしてみたき傾城のうそ (淺草市人)

 

 

[表紙へ戻る]