学会奨励賞受賞の言葉(第2回学会奨励賞著書部門)
学会奨励賞を受賞して


January 1, 2002
太 田 勝 造(おお た ・ しょう ぞう)



2000年度の学会奨励賞を拙著『社会科学の理論とモデル7 法律』(東京大 学出版会,2000年)に対して戴いて,棚瀬孝雄理事長,松村良之選考委員長ほ かの関係者の皆様,および,日本法社会学会の会員の皆様に感謝申し上げる次 第です.

この「社会科学の理論とモデル」シリーズは,東京大学出版会50周年の記念 事業として,小林良彰教授をシリーズ編者として企画されたもので,当初は社 会選択論や公共選択論をコアとしたシリーズになる予定でした.その後,著者 の範囲を拡大して現在のシリーズ名となったものです.私は当初から執筆陣の 一人に加えていただいておりましたが,現在のシリーズ名となって非常に書き やすくなりました.おかげで,社会選択論に限らず,進化論,ミーム論,ベイ ズ意思決定論,情報理論,進化ゲーム論など,社会科学の諸方法を自由に利用 できるようになったからです.若干心残りに思うことがあるとすれば,ゲーム 論を用いた交渉や紛争の分析の章,および,実態調査データの統計的分析の章 など,当初予定していた内容を,紙面の制約の都合で割愛しなければならなく なったことでしょう.

広い意味での「法学」の中で法社会学が周辺的分野と位置づけられるのは, 他の学問分野との境界領域にニッチを形成するという,学際的研究を法社会学 がその本質とする以上,必然的なことかもしれません.しかし,そのような法 社会学の地勢上においても,本書のような方法と理論を採用することは,異星 人の言葉のように受け取られる虞れが大きく,執筆しながら私は「二十億光年 の孤独」を覚悟しておりました.この私の「覚悟」は半ば的中し,半ば外れま した.半ば的中したことは,松村選考委員長による「異端の書」とのご評価に よって明らかでしょう.私自身,かなりの「奇書」を書いてしまったという 「自負」があります.他方,半ば外れたことは,学会奨励賞を戴いたことによっ て明らかでしょう.なんとなく,個人的な趣味の世界に法社会学を引きずり込 んでしまったような後ろめたさを感じなくもありません.

さて,「奨励賞」であるからには,受賞者には今後の研究の抱負を展開する 義務が課せられているのでしょう.現在従事している研究には,本書で割愛し た交渉や紛争の分析や,法意識や紛争行動についての実態調査データの統計的 分析があります.ともに学際的な共同研究ですが,前者については教材ヴィデ オのような形にできれば,と考えておりますし,後者については分析がだいぶ 進んできて,川島武宜教授の理論の社会科学的再検討となれば,と考えており ます.これらはいわば継続中の研究ですが,最近さらに力を入れ始めた研究と しては,社会規範や社会秩序のゲーム論的な研究があり,とりわけ「確率進化 ゲーム論」などを応用して,コンピュータ・シミュレイションを行ってみたい と考えています.進化アルゴリズムの場合,適切な適応度関数を構成できるか が問題で,今の段階では海のものとも山のものとも分からないような状況です が,もう少しの間かじりついて見ようと思っています.

本書のような「自由奔放」な研究をも暖かく支援して下さる法社会学会の, 多様性に対する寛容さと異質に見えるものへの理解力に甘えつつ,私としては 「異端のメインストリーム」となれるよう,法解釈学者の幼稚な無理解は意に 介することなく,「使えるものは何でも使ってやろう精神」を持ち続けて法社 会学研究に精進したいと,学会奨励賞の受賞を期に決意を新たにしている次第 です.

《日本法社会学会『学會報』No.60, 2002.1.1.》

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