特殊文字や通貨記号と簡単な数式

ここでは、日常的に用いられるパーセント記号「%」やドル通貨記号「\$」などLaTeXで特殊記号として取り扱われる記号や、$2^{10}$というような上付き H${}_2$O のような下付き文字の取り扱いを紹介しよう。

LaTeXの特殊記号

TeXには特別な意味を担っている文字があり、それらを特殊文字(special characters)といいい、特別な目的の貯めに用いられている。 次の10個の記号がそれである。

#  $  %  &  ~  _  ^  \  {  }

LaTeXの特殊文字・特別記号で説明しているように、これらの特殊文字をタイプセットするには、\ + 特殊文字 というように、$\backslash$(バックスラッシュ)をつけて特殊文字であることをエスケープするなどしてタイプセットしなければならない。

LaTeXの特殊文字
読み出力入力
hash$\#$ \#
dollar\$ $\backslash$$
percent$\%$ \%
ampersand$\&$ \&
tilde~ \textasciitilde
underscore$\_$ \_
caret^ \textasciicircum
backslash$\backslash$ \textbackslash (数式モード内では \backslash)
left brace$\{$ \{
right brace$\}$ \}

パーセント % やアンパサント & は日常の文中でしばしば利用されるので注意しよう。

他の特別な表記を要する記号
読み出力入力
vertical bar| \textbar
vertical bar< \textless
vertical bar> \textgreater

通貨記号

代表的な通貨記号、円やドル、ユーロなどの表示にはLaTeXにおいては次のようにしてタイプセットする。 円 ¥ のためには Y と = を重ねてタイプセットするためのコマンド \llap を使うのが一般的だ(苦しまぎれに漢字記号 ¥ を使うのは美しくない)。

LaTeXでの通貨記号
通貨出力入力パッケージ
ドル\$ $\backslash$$不要
円・人民元¥ Y\llap{=}不要
ユーロ \euro \usepackage{eurosym}を宣言する
ポンド£ \pounds 不要
演習: 本日の1ユーロのドル、円、ポンド相場を調べ、その結果をタイプセットしなさい。

簡単な数式

数式の基本で紹介したように、上付や下付文字は数式としてタイプセットする。

たとえば『$2^{10}$ や $(a + b)^n$ のようなベキ乗は』のように、文の行内で表される数式をインライン数式モードといい、インライン数式モード記号$で挟んで数式を表す。

$2^{10}$ や $(a + b)^n$ のようなベキ乗は

と書く。 一方、

\[ (a + b)^n = \sum_{k=0}^n \binom{n}{k} a^k b^{n-k} \]

のように、文章行中でなく数式行として表される数式をディスプレイ数式モードといい、ディスプレイモード記号 \[\] で挟んで数式を表す。 ただし、この間には空白行があってはならない。

\[
(a + b)^n = \sum_{k=0}^n \binom{n}{k} a^k b^{n-k}
\]

ディスプレイモードの数式をequation環境として \begin{equation}\end{equation})で挟んで書くことがある。

\begin{equation}
(a + b)^n = \sum_{k=0}^n \binom{n}{k} a^k b^{n-k}
\end{equation}
2項係数は ${}_n\mathrm{C}_k$ ではなく、近年では $\binom{n}{k}$ と表記する。

equation環境などでは式番号が追加される。

\begin{equation} (a + b)^n = \sum_{k=0}^n \binom{n}{k} a^k b^{n-k} \end{equation} 念のためにもう一つ数式を書いておこう(amsmathパッケージも併用)。
\begin{equation}
A = 
\begin{bmatrix}
a_{11} & a_{12} &\dots & a_{1n}\\
a_{21} & a_{22} &\dots & a_{2n}\\
\vdots &\vdots & \ddots & \vdots\\
a_{m1} & a_{m2} &\dots & a_{mn}\\
\end{bmatrix}
\end{equation}
\begin{equation} A = \begin{bmatrix} a_{11} & a_{12} &\dots & a_{1n}\\ a_{21} & a_{22} &\dots & a_{2n}\\ \vdots &\vdots & \ddots & \vdots\\ a_{m1} & a_{m2} &\dots & a_{mn}\\ \end{bmatrix} \end{equation}

数式番号の位置やスタイルは文書スタイルなどで変わる。

演習: $(a + b)^2=a^2 + 2ab + b^2$ および $(a + b)^n$ をそれぞれディスプレイモードとしてタイプセットしなさい。 数式番号を付けるようにequation環境でもタイプセットしなさい。

以上の例からわかるように、数式としての上付は数式内で肩に載せる文字列の後のキャレット ^ に続いて記号 { と } で挟さんだ数式

 {何かの数式}^{上付の数式表現}

によって表される。 同様に、数式としての下付は数式内で足下とする文字列の後のアンダースコア _ に続いて記号 { と } で挟んだ数式

 {何かの数式}_{下付の数式表現}

によって表される。

数式モードでは、ローマ字はイタリック(斜体)として表される。 数式内で\mathrm{...}で指定したローマ字はローマン体(立体)になる。 酸素分子は$O_2$ではなく$\mathrm{O}_2$と表記されるべきである。 読みやすく美しい文書を得るにはフォントの使い方にも細心の心遣いを投入する必要がある。

演習: $\mathrm{H}_2\mathrm{O}$ と H と O をローマン体で表すようにタイプセットしなさい。
演習: 炭素原子 C には原子量12以外に8から22までの同位体がある。 その中で炭素12と13が安定で、炭素14は半減期5700年で崩壊する。 このため、炭素14の含有量を測定することによって年代測定することができる。 炭素14を ${}^{14}\mathrm{C}$ で表す。 この表記をタイプセットしなさい。
演習: ディスプレイモードで次の表記を得るようにタイプセットしなさい。 分数を表すには \frac{分子}{分母} を使う。 \[ \frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{a+b}{ab} \]
演習: ディスプレイモードで、2次方程式 $ax^2+bx+c=0$ の2根を表す次の表記を得るようにタイプセットしなさい。 平方根を表すには \sqrt{...} を、また、記号 $\pm$ を表すために \pm を使う。 \[ x=\frac{-b\pm\sqrt{b^2-4ac}}{2a} \]

AMSパッケージを使おう

数式の利用に当たっては、その表現力を拡張するアメリカ数学会(AMS)が提供しているパッケージ amsmath と amssymb を使うとよい(AMSの論文はすべてAMS LaTeXによって記述されている)。 上の例では、二項係数$\binom{n}{k}$や行列表記にこれらのパッケージを使った。 AMSのパッケージ amsmath と amssymb 使うためには、プリアンブルで次のように宣言する。

\usepackage{amsmath,amssymb}

AMSパッケージ amsmath を読み込んでおくと便利なことが多い。 数式内に文字列を\text{...} 内に書いて、英語でも日本語でも埋め込むことができる。

\begin{equation} |x| = \begin{cases} x & \text{$x\geqq 0$ のとき}\\ -x & \text{$x < 0$ のとき} \end{cases} \end{equation}

また、上付や下付き文字は数式である必要はなく、$2^\text{負の数}$ のようにタイプセットするには数式モードで次のように書く。

2^\text{負の数}