8-5 研究方法の問題と展望

明治大学情報コミュニケーション学部教授
メタ超心理学研究室 石川 幹人

 本項では,超心理学の抱えている問題をまとめ,研究の妥当な進め方を展望する。

<1> 研究対象に起因する問題

 超心理学は,心霊やオカルトと同一視されやすい。超心理学者は,霊魂やオカルトパワーの信奉者であり,科学的手法でもって他の人々を説き伏せようとしている,と思われがちである。宗教家が超心理学に親近感を持ち,宗教活動の擁護の目的に利用されてしまう。そうした見方に反して,超心理学は経験的で実践的な研究である。PSIの体験や実験結果の理解をボトムアップに追求しているのであり,特定の理論や思想を支持しようとするものではない。こうした超心理学のスタンスを,広く広報する必要がある。
 超心理学には,詐欺がつきまとう。残念なことに,偽りのPSI能力がたびたび,詐欺師やカルト教団の教祖によって,ときには超心理学者自身の手によって作り出されてきた。超心理学のコミュニティは詐欺に対抗する手段を持たねばならない。詐欺の手口の研究や,詐欺の社会的背景をも研究する必要がある。
 妄想が,超心理の体験と結びつきやすい。ドラッグの影響や精神疾患では,通常の説明がつかない個人的な異常体験が多くなされる。そうした体験の中には超心理の体験と区別がつかないものがある。超心理学者は被験者を守るためにも,臨床心理学者や精神科医との連携を図って,研究を進めねばならない。

<2> 本流科学側に起因する問題

 超心理学は,科学的方法論に対する脅威と見なされやすい。確かに超心理学には,現在の科学的方法論をそのままの形では適用できない。だが,そうした特長を持つ研究対象は他にもたくさんある。複雑系,開放系,実験者が関与する系などがそれである。超心理学は,システム論的な発想でもって理論化を行なうなど,新たな科学的方法論を確立しようとする流れに寄与して行かねばならない。
 超心理学は,現在の生物学や心理学が退けてきた,生気論や意識研究をまた蒸し返しているとも見られがちである。しかしこれは逆に,科学の境界設定が厳し過ぎたと見ることもできる。超心理学は,他の科学から排除されている研究分野とも手を取り合って,境界の再設定を推進すべきである。
 超心理学は,確立した世界観に対する脅威と見なされやすい。超心理現象が存在すれば,これまでの科学的な物質還元的な世界観が揺らいでしまう。逆に神学からは,超心理学によって神聖な体験が低俗化されると批判される。超心理学者は,こうした板ばさみ状態にありながら,忍耐強く我々の自然理解の不完全さを指摘し続けねばならない。

<3> 超心理学研究上の問題

 超心理学には,潜在的に極めて大きな倫理上の問題がある。超心理学の実験や調査は,肉体的にも精神的にも負荷が大きいのは確かなことである。PSIのトレーニングも,それによって体得される能力の正体や,その個人差による影響の程度も分からぬまま行なうのは危険が大きい。にもかかわらず巷には,手軽で安易な能力開発ビジネスが横行している。超心理学の研究は,段階的に慎重に進める必要がある。絶対と言える倫理的対応は残念ながらないが,被験者や調査対象者と研究者とが相互理解できる環境作りは必要最低限の要件である。
 超心理学は,複雑な開放系の難解な研究になる。PSIとして時空間を越えた未知の相互作用を認めると,あるPSI現象に,他のどの要素が関わっているかを特定するのが極めて難しい。さらに実験者自身もその要素となり得るのであれば,なおさらである。ゆえに超心理学の理論は(反証可能性が低く)何でも説明できるものになりやすく,理論の評価も容易ではない。しかし,だからこそ超心理学では理論が重要となる。理論を背景にしない実験や調査は,関連する要素の範囲が絞れずに実施が不可能になるからである。複数の理論が,それらを個々に検証する実験・調査を伴って,互いに正当性を比較し合うのが,超心理学において当面追求すべき健全な状況だろう。

<4> 超心理学研究の進め方

 超心理学者ロバート・モリスは,上述の諸問題を踏まえて,将来の超心理学の進め方に次のような提言を行なっている。
 まず始めに,メタ分析などを利用して過去の研究を精査し,より完全な評価を行なうことである。その際には,PSIが起きなかったという否定的な結果をもっと重要視すべきである。そこから弱い効果が検出されることがある。一方で,うまく行っている実験法については,理論の評価が可能なまでに信頼性を上げるような努力が必要である。さらに,実験の見通しをつけるために,理論を先行して打ち立てて行くべきである。
 また,従来の「超心理学者」と「懐疑論者」という区分を捨て,超心理学の研究者は等しく,十分に懐疑的な姿勢が取れるようにしなければならない。さらに,他の専門的研究分野との交流を深め,協力して研究を進めていくこと,メディアとの連携を図って,研究成果を大衆に知らせていくことも重要である。

<5> 状態特異科学

 最後に,超心理学者チャールズ・タートの試みを紹介しよう。彼は1972年に,意識状態に特異的な諸科学が形成可能であると指摘した。科学の合理性は我々の認識によって正当化されるのであるから,我々の認識形態に多様性がある場合,それら各々に対応した科学がそれぞれ存在すると言うのだ。
 その指摘のうえで彼は,現在の本流科学は通常の「覚醒した」意識状態に対応する科学に過ぎず,変性意識状態には別な固有の科学が存在すると主張する。最先端の物理学の理解は,特別な学問体系を6,7年かけて学んだ一部の人間にのみ可能であるが,同じようにPSIが可能な世界を理解できる意識状態に至るのに,6,7年の訓練が必要であっても何も不思議ではない,と言う。
 こうしてタートは,変性意識状態を探究する学問として,トランスパーソナル心理学を推進したのである。トランスパーソナル心理学とは,個の垣根を超えて全体論的な世界観に至ることを目指す,実践的な心理学であり,PSIの理解を実現する研究に当たるのだろう。
 彼のアプローチでは,実証主義の科学的方法論をそのまま残したうえで,観察・理論化・検証の各段階で適用される我々の認識のほうを,PSIに適うよう変更すべきであるとした。状態特異科学は,超心理学を推進する1つの方向性を示していると言えよう。

チャールズ・タートのホームページ:http://www.paradigm-sys.com/cttart/

<X> 付記

 本項の内容はSSPにおけるモリス氏,アンサノ氏の講演をもとにしている。
 関連活動実績:モリス氏追悼


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