7-3 生まれ変わり事例の研究

明治大学情報コミュニケーション学部教授
メタ超心理学研究室 石川 幹人

 以下では,イアン・スティーヴンソンの膨大な研究によって開拓された研究分野を紹介する。肯定するにせよ否定するにせよ,「生まれ変わり」について考えようとする者はまず,彼の研究の要約を邦訳した,次の文献を一読すべきである。

 スティーヴンソン著『生まれ変わりの刻印』笠原敏雄訳(春秋社)

<1> ヴァージニア大学の超心理学研究

 ヴァージニア大学の精神科医スティーヴンソンは,1961年から生まれ変わり事例の実地調査を始め,1997年には「生まれ変わり」の信憑性が高い225例の調査報告を掲載した大著(写真)を出版した。また1998年には,「生まれ変わり」WEBサイトの運用を開始した(1-3)。

生まれ変わり文献
 (写真:A4版ほどの大きさで6分冊総計2000頁以上にも及ぶ文献)

 その間,乾式複写の発明者チェスター・カールソンの資金援助を受け,1968年にヴァージニア大学に超心理学研究室(1987年には人格研究室と改称)を設け,超心理学事例研究の一大拠点となった(7-1)。1965年にデューク大学の超心理学研究室がラインの退官を期に廃止された後には,ラインの片腕として活躍していたプラットもヴァージニア大学に移り,特異能力者を中心に研究を行なった。ヴァージニア大学のあるシャーロツヴィレは,デューク大学のあるダーラムの北西に位置し,車で3時間ほどの距離である。

<2> 前世を記憶する子供たち

 「生まれ変わり」とされる典型的なパターンには,次の5つの要素がある。(1)ある人物が死亡するに際して生まれ変わることを予言する。(2)生まれ変わりとされる子供を妊娠する女性が「お告げの夢」を見る。(3)生まれてきた子供に先天的な母斑(皮膚が変色していたり隆起や陥没が見られたりする部分)や身体欠損があり,それが「前世」の人物の,死亡時の身体的特徴と酷似している。(4)その子供が,「前世」の人物の死亡時の様子や家族関係,住んでいた場所などを感情的に語る。(5)また,「前世」の人物にふさわしい行動を見せる。個々の事例は,必ずしもすべての要素を含む訳ではない。スティーヴンソンは,客観的な検討が可能な(3)の要素に注目し,「前世」の人物のカルテや検死報告などによって確認できた事例のみを取り上げている。
 生まれ変わり事例は,生まれ変わり(輪廻転生)が「ある」とする文化圏でより多く報告されるが,「ない」とする文化圏でも報告されている。世界中の報告例(2700件以上になる)の内容には共通点が多いので,文化によって事例が形成されると考えるよりは,普遍的に事例が起きているのだが,生まれ変わりが許容されてない文化圏では報告されずに埋もれてしまうと考えるほうが妥当に見える。事例が報告される家庭の社会的地位や経済状態は様々である。社会的地位の高い人物が,低い家庭に生まれ変わる例もある。こうした事例では,子供が周囲とは異なる高貴な振舞いをするので,とくに注目される。
 子供たちが「前世」を語り始めるのは,2歳から5歳であり,ほとんど喋れるようになるのと同時に開始される。そして,5歳から8歳まで続くと,通常,ぱたりと語るのをやめてしまう。語られる内容は,「前世」の人物が死亡した時の様子,居合わせた人や物に関して,さらには死亡してから生まれ変わるまでの様子などである。普通,感情の高まりと共に自発的に語られる。「前世」の死から「現世」の生までの間隔は,死の直前という例から数十年後という例まで大きくバラついている。「前世」は,非業の死を遂げた人物であることが多く,殺人被害者の場合は,加害者に対して敵意を見せる。「前世」が,自殺者であることは少ないし,動物であることはほとんどない(少なくとも報告されてない)。
 その子供たちが示す行動には,「前世」の家族に対する親近感の表明,死亡時の状況に類似した事柄への恐怖の表明(水や火への恐怖など),「前世」の人物と同様の食べ物の好き嫌い,「前世」の人物を思わせるような遊び方がある。時には「現世」への違和感を表明し,「本当の親ではない,本当の親のところへ連れて行って」などと訴える。また「前世」と「現世」の性別が異なっている場合には,性の違和感が見られる。ただし,性同一性障害の子供たちが社会的圧力で「生まれ変わり」を偽装する例があるので,注意を要する。

<3> スティーヴンソンの見解

 生まれ変わり事例の解釈として最初に考えられるのは,捏造説である。生まれ変わりに肯定的な人々が,暗黙裡に共謀して物語を作り,それを語るように子供に教示したという説である。確かに,人間は信念や期待に操られて,ありもしない体験をしたり,誘導的な質問によって,架空の記憶を形成したりする(6-6)。ところが,スティーヴンソンが自ら訪問して集めた事例には,「前世」には,「現世」の村とはとても交流のない遠い村に住んでいたとし,村人は誰も知らないような(正しいことが後で確認される)情報を語る子供たちの例が,多数含まれている。それから,「前世」を語る子供の親は,子供の振舞いに当惑し,むしろ語りをやめさせようとしている場合が多く,話を作って子供に語らせると考えるには無理がある。自分の子供を,例えば「殺人被害者の生まれ変わりだ」とすることの,動機や利点が見当たらない。また,そうした子供が特段,被暗示性が高いということもなかった。
 次の解釈は偶然説である。すべてを単なる偶然の一致と片付ける説である。しかし,先天的な母斑や身体欠損は医学的に発生確率が推定されており,極めて稀な「複数の」身体欠損や母斑が,「前世」の人物の傷跡などと一致する場合には,偶然説に無理が出てくる。そして,そうした事例が積み重なっている現状では,他の妥当な説を模索することが求められている。
 スティーヴンソンは,「事例報告をつぶさに読んだうえで,各自が自分なりの結論を得るべきであるから,私の解釈は重要でない」としながらも,彼が一連の研究の結果至った解釈を述べている。それによると彼は,2つの超常的解釈を退けて,最終的に,ある種の「生まれ変わり説」を受け入れている。彼が退ける1つ目の超常的解釈は,PSI発揮説である。それによると,子供たちがPSI能力を発揮し,「前世」に当たる死者の状況を遠隔透視したと考えられる。ところが,子供たちには,「前世」を語る以外にPSIを発揮したらしい事実は見られていないので,PSI発揮説の説得力は弱い。親などの,子供たちの周辺人物がPSIを発揮し,母斑などもPKで形成させたとも考えられなくもないが,動機などの面から,それもかなり無理がある。
 2つ目の超常的解釈は,人格憑依説である。この説では,「肉体を持たない人格」という実体を認めて,それが肉体にとり付いて支配すると考える。しかし,子供たちに憑依したのならば,それほど支配に成功した人格が,子供たちが8歳になる頃までに一様に憑依をやめてしまうのは,奇妙である。子供たちに,憑依人格と成長する人格とが闘っているような,人格の分裂傾向は見られていない。
 最終的にスティーヴンソンが想定している説は,「生まれ変わり」である。彼によると,心的世界(8-3)は,生前の身体的特徴の記憶,認知的・行動的記憶を媒介する機構(彼は心搬体 Psychophore と呼んでいる)を持っており,それによって運ばれた死者の人格の一部が,直接受精卵や胎児に影響する。すなわち,人間の生物学的・心理学的発達は,遺伝要因と環境要因に加えて,「生まれ変わり」という第3の要因の影響(他の要因に比べて小さいが)を受けると言う。

<X> 付記

 本項の内容はSSPにおけるジム・タッカー氏の講演がもとになっている。タッカー氏は,長年スティーヴンソン氏のもとで共同研究を行なってきたが,最近スティーヴンソン氏がヴァージニア大学を退官したのに伴い,人格研究室を引き継いだ形になっている。なお,冒頭のスティーヴンソンの著書で補った点もある。


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