4-1 態度との相関研究

明治大学情報コミュニケーション学部教授
メタ超心理学研究室 石川 幹人

 本項では,被験者の動機,信念などと,PSIの発揮との関連性を検討する。また,「PSIミッシング」という重要概念が登場する。

<1> 下降効果と動機づけ

 ラインの統計的実験が始まって,まっ先に見つかった顕著な現象は,一連の実験セッションの後半に至るに従って,ESPスコアが低下し偶然平均に近くなる傾向であった。この要因は,単調な実験の繰返しで被験者が「退屈する」ためと考えられる。すなわち,実験に対する参加意識,あるいは動機づけを維持することが,PSI実験を成功に導く重要な要素と見られる。
 動機づけとの相関を直接調べた実験もある。ロジャーズは1966年,同一被験者の一連の実験内に,動機づけを高めて行なう試行と低めて行なう試行を混在させ,動機づけを高めた試行において,ESPスコアが有意に偶然平均から乖離することを示した。

<2> ヒツジ・ヤギ効果

 ニューヨーク市立大学のガートルード・シュマイドラーは,1945年,「信念」とESPスコアの奇妙な相関を発見し,PSIの特性研究の先導的人物となった。彼女の報告によると,PSIの可能性を信じる被験者(ヒツジ群)は,可能性を信じない被験者(ヤギ群)よりもESPの得点が有意に高いという。多くの場合,ヒツジ群が偶然平均より有意に高い得点を取る(PSIヒッティング)のに対し,ヤギ群は偶然平均より有意に低い得点(PSIミッシング)を取る。この現象を彼女は,「ヒツジ・ヤギ効果」と名づけた。
 ヤギ群は,いわば「PSIを発揮して正しいターゲットを知ったうえで,わざと別なコールをした」と理解される。これは,意識的にはそうとは知らないうちに意図しないかたちでPSIが発揮されるという,潜在意識の奇妙な性質を表わしている。
 彼女による1945年から1951年までの14の追実験(透視によるカード当て)は,いずれもその効果を裏づけ,ヒツジ群のヤギ群に対する有意性は1000万対1に至った。ヒツジ・ヤギ効果については,その後も多くの実験がなされた。必ずしもすべての実験が肯定的な結果ではなかったが,1993年にローレンスが行なったメタ分析では,1947年から1993年までの73の研究に渡って,4500人以上の被験者のスコアをまとめた。その結果,p値が10の-16乗(Z=8.17)までにもなっている。エフェクトサイズは0.029であった。引出し効果に対しては,1726の研究が埋もれている必要があると出た。

<3> ヒツジ群の分類

 ジョン・パーマーは,「PSIの可能性を信じるか」という問いに「私のPSI」という観点と「この実験において」という観点があることを指摘し,ヒツジ群を特定する信念を次の4つに分類した。

ヒツジ群の4類型 本実験において 一般的事実として
一般人について (1) (2)
私について (4) (3)

 (1) この実験でPSIが検出される
 (2) 一般にPSIは存在する
 (3) 私はPSI能力を持っている
 (4) この実験で私のPSIが検出される

 シュマイドラーの実験は(1)の観点でヒツジ群が特定されており,さらに「どちらともいえない」などと中間的な回答をする被験者をヒツジ群に入れていた(むしろ中間的な回答群の成績がよかった)。1970年までの研究を再調査し,(1)か(2)の観点でヒツジ群が特定されていると,ヒツジ・ヤギ効果が大きく現れていると判明した。その後シュマイドラーが,4つの観点それぞれの実験を別々に行なったものを,パーマーが比較したところ,(1)の観点のみからヒツジ・ヤギ効果が得られた。

<4> 「信念」よりも「心理的快適さ」か

 1981年,バーバラ・ロビッツがヒツジ・ヤギ効果を「反転」させた結果を得て,話題を呼んだ。彼女は,ESPのターゲットとなる全種類の記号を重ね合わせたサブリミナルパターンを被験者に示し,そこに浮き出て見える記号をESPのゲスとして扱う実験を行なった。ESPを実証する実験としてこれを行なうと,通常のヒツジ・ヤギ効果が現れるのであるが,ESPを反証する実験として行なうと,一転してヤギ群のスコアが,ヒツジ群を上回ることが報告された。反証実験に仕立てるには,被験者に「今からサブリミナルに提示した記号を答えてください。正しく答えられたらESPというのはサブリミナル効果にすぎないことが判明します」と教示すればよい(実は,提示されるのは全種類の記号を重ね合わせたパターンであるので,これはウソである)。1991年のローレンスの追実験では(当初は失敗として報告されたが),実証実験で高得点を挙げるのはおもに女性のヒツジ群であり,反証実験で高得点を挙げるのはおもに男性のヤギ群であることが改めて示された。
 ロビッツの実験から,「PSIを信じることがPSIを発揮させる」というよりは,「実験意図と自分の信念とに合ったかたちでPSIを発揮する」という解釈のほうが,より妥当と見られる。つまり,被験者が実験を成功に導くという社会的役割を果たすうえで,いかに心理的に実験状況が適合的かが鍵となる。上の(3)・(4)の観点からのヒツジ・ヤギ効果が現れにくいのも,「私のPSI」という観点が社会的に許容されないためかもしれない(5-1)。
 さらに,パーマーらは1972年に,ESPテストで当てた数に応じて賞金をさしあげる,という実験を行なうと,ヒツジ・ヤギ効果が失われることを見出していた。パーマーはヒツジ・ヤギ効果の一連の実験を検討し,ヒッティングとミッシングを分ける要素は実験の「心理的快適さ」であると主張している。つまり,実験者が「たくさん当てるのはよいことだ」と奨励し,被験者がそれに合致した信念を持っているとヒッティング傾向になり,被験者がそれに反した信念を持っているとミッシング傾向になるという。
 また,アンダーソンらは1956年,学校の先生が送り手で生徒が受け手になるテレパシー実験を実施し,その先生を「好き」な生徒はヒッティング,「嫌い」な生徒はミッシング傾向があることを報告した。この結果も「心理的快適さ」からうまく説明がつく。

<5> 認知的不協和

 実験者の奨励に対して反対する信念を持つ被験者(ヤギ)は何故ミッシングするのだろうか。この点の理解には,心理学の認知的不協和の理論が助けになる。1957年,心理学者のフェスティンガーは,無意識のうちに記憶が改ざんされる現象をとらえて,認知的不協和の解消のために自ら記憶を都合よく変更していると説明した。たとえば,つまらない単調な仕事を長時間やらされて不当に安い報酬を受けると,直後には憤りを感じるが,数週間後には「その仕事も結構ためになった」などと記憶が変更されている。この仕組みは「つまらない仕事」と「安い報酬」とが心のなかで認知的な不協和を起こし,知らず知らずのうちに「つまらない仕事」が「ためになった仕事」と変更され,認知的協和状態が自然と維持されるのである。
 ヤギの被験者も,実験者の奨励に対して思わずPSIを発揮してターゲットを知ってしまうが,それをそのままコールすると自分の信念に反する(PSIを証明してしまって認知的不協和になる)ので,わざと誤ったコールをすると,同理論によって説明される。

<6> 他の要因

 シュマイドラーらは,ヒツジ群に「社会的適応性」が高い被験者が多いと報告している。また,ヒツジ群には,外向的・友好的・陽気な被験者が多いとも指摘される。ヒツジ・ヤギ効果は「心理的快適さ」によるのならば,自ずと被験者の性格の要因も加わってくる(4-2)。また,オシスとディーンは,「極度のヒツジ」は,被験者によって,かえってESPスコアが低くなることを指摘した。あまりに強い動機づけがあると,かえって高いスコアを残そうとすることがストレスになる可能性もある(4-3)。

<X> 付記

 本項の内容はSSPにおけるパーマー氏の講演をもとにしている。


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