日本超心理学会月例会

2005年6月26日(日曜)


論評会

(1) ジョン・ホーガン『科学を捨て、神秘へと向かう理性』(徳間書店)

 『科学の終焉』で有名な科学ジャーナリストによる話題の最新邦訳書

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話題提供:中村薫子


(2) リン・マクタガート『フィールド 響き合う生命・意識・宇宙』(インターシフト/河出書房新社)

「ゼロ・ポイント・フィールド(ZPF)」をキーワードにして12種の異端(少数派)科学トピックを織り合わせた、いわゆるニューサイエンス調の啓蒙本。著者のリン・マクタガートは医療ジャーナリストであり、物理学の知識は必ずしも十分でない。訳者の野中浩一氏は、ラズローの『創造する真空(コスモス)』(日本教文社)の翻訳も手がけられている。こちらの本も同様のトーンをもった内容である。ただ『フィールド』のほうでは訳者解説をご自身で執筆してなく、訳者にとってさほど愛着の湧かない内容だったのかもしれない。(石川幹人)

@ アポロ14号の宇宙飛行士であるエドガー・ミッチェルが行なった、宇宙と地球とのESP実験の話。彼が設立したノエティックサイエンス(純粋知性)研究所の話(ちなみにこの研究所は今年度の超心理学協会年次大会の会場である)。彼の「すべてがつながっている」といった東洋的世界観がZPFの布石となる。

A ZPFを提唱する物理学者ハロルド・パソフが登場。この人はラッセル・ターグとともにスタンフォード研究所で遠隔視実験(スターゲート計画)を立ち上げた人である。ZPF自体は、量子効果のために粒子の最低エネルギー準位がゼロにならないこと、真空にみえる位置であっても遠距離の粒子の波動関数がわずかに存在すること、1940年代にそれが2枚の金属板を押し合う力として示されたこと(カシミール効果)から、あながち奇妙な概念ではない。宇宙膨張の加速に使われているエネルギーの出どころとしても注目されている。日経サイエンス1998年3月号や、竹内薫氏の『夜の物理学』の19節でも解説されているが、局所的にはわずかなエネルギーで実用化には遠いものである。しかし『フィールド』では、「ZPFは波動干渉の符号化によって、世界のなかでこれまでに起きたあらゆる情報を刻印している」とし、これが意識作用によって組織化され「記憶」として働く可能性がある(パソフのインタヴュー)とまで言っている。

B 生体発光(バイオフォトン)の話。人間が微小な光を放っているのも、今ではわりあい一般的知見になっているだろう。しかしここでは、光→電磁場→フィールドと連想させ、われわれがZPFに「接続」していると思わせたいようである。

C ホメオパシー(極微小濃度の毒を飲むとそれに対する抵抗力がつくらしい)の話。1分子も存在しないくらいに薄めても効果があるそうで、(ホントウなら)その分子が存在したという「フィールドの記憶効果」として説明がつくのだそうだ。またここで、治部・保江の量子脳理論を参照し、水分子ネットワークが記憶の役目をする可能性を述べている。確かに彼らの量子脳理論はそれを目指しているが、ZPFとの関連性は当面うすいだろう。

D プリブラムの記憶の脳ホログラフィー理論。これは現在、ハメロフや治部の量子脳理論とジョイントしている。しかし、脳の内部の理論を、全空間におよぶZPFと簡単に関連づけてしまうのは、気にかかるところだ。「ある意味でホログラフィーは、波動干渉(ZPFの言語)を手短かにうまくまとめたもの」(p.131)だそうで、以下、要所要所の用語がZPFに置き換えられている。

E シュミットやジャンのRNGによる念力実験の概説。ジャン自身『実在の境界領域』(技術出版)で量子論との関係を議論している。だが『フィールド』では、脳内部の意識がZPFを介して外部に働きかけると結びつけている。

F マイモニデス夢研究所などのテレパシー実験の概説。議論はおよそ同上。

G 遠隔視実験の概説。「左脳はZPFの敵なのだ」(p.232)など、安易な表現が目立つ。

H 予知や時間遡及念力実験の概説。これもZPFで説明したいようだが、量子効果の時間スパンと、超能力実験の時間スパンは、桁違いにちがうので、比較にならない。「ボームはその内臓秩序をゼロ・ポイント変動の一形態と想像していた」(p.253)とあるが、ボーム自身、予知が可能と言っているわけではない。

I ヒーリングの概説。研究者として活躍したエリザベス・ターグ(上記ターグの娘)が出てくるが、実は皮肉なことに、3年前に悪性脳腫瘍で若くして逝去している。

J 地球意識プロジェクトなどの概説。ZPF上の周波数同調が重要であり、「ZPFのような媒体を介してはたらく集団意識が、この世界を組織化する普遍的要因」(p.304)だそうである。

K ZPFの将来性の語り手として、再度パソフが登場する。うーん、絶句。。

※ 全体として語りたいことに共感を抱かないことはないし、個々の真摯な研究は尊重すべきであるとも思う。しかし、ZPFという概念で結びつけようとした本書の試みは、それが物理的に一定の具体性をもつだけにかなり無理がある。さらに、物理学の門外漢を、あたかも物理学的な裏づけがあるかのように錯覚させる、かなり問題をはらむ著作である。


(3) 竹内薫氏を囲んで(延期)

 上記ジョン・ホーガンの著書の翻訳者であり、最近出版された『夜の物理学』(インデックス・コミュニケーションズ)では、上記マクタガートの著書にも言及されている、サイエンスライター竹内薫さんを交えて討論する予定でしたが、竹内氏が急遽こられなくなり、自由討議になりました。


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