メタ超心理学研究室

映画「サスペクト・ゼロ」劇場プログラム掲載記事


執筆者:石川幹人

「本当に実在していた、謎のイカロス計画」

 

 この映画は,米国陸軍(DIA)およびCIA内にかつて実在した,遠隔透視(リモートビューイング)諜報計画「スターゲート」プロジェクトを題材にして制作されている(映画内で,それは「イカロス」と呼ばれている)。

 

 遠隔透視とは,無作為に選ばれたターゲット地点に存在する事物を,隔離された部屋からESPで感知するという超心理学実験であり,1970年代初頭に,カリフォルニア州にあるスタンフォード研究所(SRI)の物理学者ラッセル・ターグとハロルド・パソフが開発した手法である。通常は,実験者のうちの数名がその地点を訪問する様子を,被験者がその都度透視するという方法をとるが,能力者として知られたインゴ・スワンらは,地図上の緯度経度の座標を示すだけでその地点の風景や地下にある施設まで描写したと報告されている(『マインド・リーチ』邦訳集英社,1977年)。SRIでの実験結果は,1974年に学術雑誌『ネイチャー』に掲載され(笠原敏雄編『霊魂離脱の科学』叢文社に邦訳所収),世界的な注目を集めた。本映画でも、その実験方法が踏襲され、透視現象の典型的な現れ方が描写されている。

 

 この遠隔透視は,軍事上の重要な技術となる可能性があるとされ,米国政府の研究援助を得て,後の「スターゲート」プロジェクトとなり,1995年の終了まで約20年間にわたって極秘のうちに続けられたのである。1995年の最終評価報告書では,一連の実験では統計的に有意な結果を示しているものの,諜報活動に有効なデータは得られなかった,と否定的に見なされたが,その裏には政治的な背景が潜んでいる。当時のプロジェクト・リーダーの物理学者エドウィン・メイは,真実を曲げた不当な扱いであると,評価報告の内幕を暴露する記事を書いている(Journal of Parapsychology, March 1996)。

 

 プロジェクトの終了とともに,徐々に「スターゲート」の全貌が明らかになってきた。米国陸軍は兵士のなかから素質ある人物を選び出し,プロの遠隔透視能力者(リモートビューワー)として養成しようとしたのである(デヴィット・モアハウス『スターゲート―CIA「超心理」諜報計画』邦訳翔泳社,1998年)。この兵士の仕事として、透視を続けるというのが、かなりの心理的重圧である。現実と想像の区別がつかなくなるとか、感情がコントロールできなくなるとかの、病的な症状を呈する者が少なからず現れたという。本映画に登場するリモートビューワーも、まさにそうした一人であろう。

 

 本映画の遠隔透視のターゲットは犯罪捜査であるが、軍事応用が一段落した今日、そうした実用的な応用が注目されている。透視による失踪者捜査で日本でもよく知られているジョー・マクモニーグルは、実は、「スターゲート」でもっとも活躍し、「リモートビューワー001号」の称号を付与された人物である(『FBI超能力捜査官(原題はスターゲート物語)』邦訳ソフトバンク,2002年)。サスペンスタッチで描かれた本映画の随所に、リモートビューワーの苦悩を通して、未知の可能性がかいま見える。



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