本研究室志望の学生さんへ

本研究室の主な活動は,

○目的に合わせた動的な機械システムを自在に動かす
○人間と機械を取り持つ装置を考案する

ことに主眼を置いています.

ロボット工学のうち,主としてハードウェア開発を中心に,機構,センサ,サーボなどの動作原理を考案して自在な動きを作り出すこと,人間の思い通りに動かすための物理的なインターフェイス開発を行います.もちろん,制御にはソフトを使いますし,画像処理などのテーマにも取り組んでいます.

工学の中でも応用分野,総合技術の領域が対象となるため,関連する分野が広いのが特徴となります.
機械設計,装置製作,センサ開発,センサ系構成,サーボ技術,ソフトウェア開発,運動解析,制御系設計・解析,人間工学・・・,などいろいろなものが関係してきます.
これらをはじめから全部知っている必要はありませんが,興味を持ったものを軸としてそこから自分の意思でどんどん拡げていくと,できることが広がっていき,研究がもっと面白くなっていきます.

本研究室における研究の原動力は,発想創造です.これまでに勉強してきたことや新たに勉強したことを活用しながら,自ら決めたテーマを実現するために自らのアイディアを打ち立てていくことが中心の活動となります.そして,視野を拡げること,見方をいろいろと変えること,仲間たちと議論すること,試してみること,これらに果敢に取り組んでいかれることを期待しています.

よく調査して先行研究を知ること,自らの発想を実現するために計画すること,自らの知識や技量を上げて行くこと,現象を理解するモデルを考案し解析していくことはもちろん大切ですが,これに加えて,0から自ら発想していくこと,可能性を知るためにまず構想,設計,製作を始めること,実験を行って[できる]から[できた]にしていくこと,問題があったら新たな知見を得た好機と考えること,迷わず改善することなども大切だと考えています.

担当教員: 加藤恵輔


どのような学生が活躍できるか?

 自らの意思で装置(ソフトウェア含む)を発案し,創り出したい,設計して実現したい,と考えることが大切です.
 4年生から研究テーマを自ら設定していく進め方が本研究室の特徴です.もちろん,研究室として取り組むテーマもいろいろと揃えていますが,自らの意思と考えで進めていくことには変わりません.
 研究を進めていくとやりたいことがどんどん増えていくものですが,他の学生と相互に技術を出し合うことで,互いに多くのことに取り組むことが可能です.例えば1人で1テーマに取り組み,サブテーマに取り組みたくなった場合,なかなか大変ですが,技術を共有することで,2人で3テーマに取り組むことすらも可能と考えられます.
 行動することに重きを置くと楽しく研究できます.設計に迷いはつきものですが,考えているだけでは進まなくなるので,ひとまず試してみる,仮決定した上で後から妥当性を再評価するといった考え方も有効です.まず,ごく簡単なもので原理だけを確かめ,有効だろうと分かってから本格的な設計をすることも有効な進め方です.高度なもの,完全なものを作ることそのものを目標とせず,少し進めて分かったことから拡げていくことで研究を進められます.
 初めに全てを想定し,仕様を完全に決めてから,きっちりとした理論を立ててから計画を立ててこれに基づいて着実に進める,とできれば効率的でいいのですが,なかなかそうもいかないものなので,試行することを厭わない姿勢が研究を楽しくすると考えて下さい.
 従って,すでに世の中にあるものからヒントを得て研究につなげたり,やるべきことの道筋の見えていることを研究にしようと考えたり,効率を求めて最低限のことをして研究を進めようとする考え方に対して,ある意味対極にあるようなもので,これまでにないものをゼロから作ろうとか,遠回りや無駄があってもそこから得られるものですら利用しようと思えるような大らかな考え方で,[楽]することよりも[愉]しむことに価値を見出せる学生にとってよい環境になることを目指しています.


仮配属後の取り組み

 例年,機械工学科では10月中に卒業研究の中間報告会があって,その後に研究室志望調査があります.11月末〜12月初めくらいには仮配属として,研究室が決まります.12月中に研究室顔合わせ会を行いますが,年明け頃からゆっくりと研究活動を始めています.1月の卒業研究審査会,2月の修士論文審査会を見学して自身が取り組む研究テーマを検討していきます.
 機構設計,加工,回路製作,マイコン用プログラミングなどの基礎的な力を付けて頂くのと,修士学生とのつながりを作るという意味合いで早めに活動をスタートしています.
 もちろん,学生の任意なので,4年生の4月スタートでも全く問題ありませんが,就職活動をなどの影響もあるので,思いの外,卒業研究に取り組める期間は多くないので,12月からの早期開始をお勧めしております.

これまでに作られたものの例

小型全方向車輛 オムニホイルと呼ばれる,車輪軸方向に空回りする従動輪が放射状に取り付けられた車輪を用い,X-Yの並進動作,その場旋回などのヨー軸動作を自在に行える車輛が製作されました.後に改良され,研究用のプラットフォームとして使われることになったくらいなので,研修が実用につながった好例だと思います.
ゼネバ歯車 3Dプリンタの実力を知っておこうという意図から機構要素が製作されました.少々の追加工で90°毎に周期的に止まる機構で動くことを確認しました.動力には,センサの壊れたサーボモータを活用し,無限回転動作で利用しています.一般向けのロボット展示の片隅に置いたりしましたが,意外と面白がられる機構です.
電気式施錠・解錠機構 D館にあこがれた学生により,研究室の鍵をモータで施錠解錠できないかと考えて,mbedマイコンを使ってサーボモータを動かすような仕掛けが製作されました.もちろん,通常の手動に影響がないように設計されています.
施錠・解錠機構の画像処理機能の実装 画像処理に関心を持った学生により,顔認識やカードの模様を認識するような機能が実装されました.光の条件はシビアであるため,箱の中で光の条件を一定に保つような物理的な工夫もしています.
施錠・解錠機構の暗証キー機能の実装 確実な動作で,面倒に感じない動作を目指して10キーによる暗証番号入力システムが実装されました.
4足歩行ロボット 学内の工作工場,研究室の工作機械,マイコンと制御プログラムを学びたいという学生により標準的な脚構成の4足歩行ロボットが設計・製作されました.
左右独立操舵車輛 RCサーボの利用法,モータドライバの利用法を学ぶための車輪型の車輛を製作しました.ソフトウェア上で左右の舵角差を生成するような制御を行うことが特徴です.

良い成果に対しては,英語資料を作成し,ゼミナールの題材にして発表や議論に使われることもあります.


研究や技術についての考え方(気が付いたことを時々更新します.)

実験装置の設計についてありとあらゆる設計パラメータを最適にすることが可能か否か?

 そうなるように設計すべきではないかと考える方もいらっしゃるかと思います.最適とは何かと考えると,評価関数が必要となります,ではその評価関数が正しいのかどうか考える必要があるのです.ただ,すべて緻密に設定するとおそらく新しいものの設計は困難になるかと思います.
 設計にもセンスが求められる所以は,明確な最適状態を定義していなくても,ある程度の傾向とバランスを判断できることであり,多くの経験が求められます.卒業研究でこのセンスが備わっているかといえば,なかなかに難しいお話であるため,特に構想の段階からあまり最適化を意識し[過ぎる]のは得策ではないかも知れません.
 安全性は必ず考えないといけないことですが,それ以外のことは原理検証設計の段階では,思い切って形にしていくことがとても大切だと考えています.
 1つのパラメータを時間と工数を掛けて徹底的に調整しても,後で他の要素によって必ずしも最適ではなくなってしまうのが設計ですので,実験装置の設計では,皆さんのアイディアを形にして実現していくことに重きを置き,後で調整し直せば良いくらいの気持ちで果敢に設計を進めることが大切かと思っています.
 製品設計となると,価格,信頼性や安全性や生産性や品質など高いバランスでまとめなければならないので,新規の要素に挑戦するか,既存のものを改善するかなど慎重な判断が求められますが,卒業研究であれば,そもそもこれらのことを満たすのは難しいと言えますので,新規の機構・計測・制御の原理に目を向けて思い切った設計をしていきましょう.

創造的な試行と議論

 考案したアイディアに不備や弱点がある,真剣に考え出したつもりだが既存技術・研究例があった,設計に改良の余地がある,開発した装置が思ったほどの効果・性能が出なかった,装置類を壊してしまった,発表で上手く伝えられなかった,など上手くいかなかったと感じられることは多々あると思います.だからダメだと本研究室では考えません.むしろ,問題,課題は研究のための情報の宝庫だとすら考えています.
 考案したアイディアに不備や弱点があれば,そこが難しいのだから,さらに深掘りしてこれをなくすような解決策を考えることもできますし,アイディアの応用例を変えてみたりすることができます.
 既存技術・研究例があったのであればご安心下さい.少なくとも考えたアイディアの方向性は良かったのだと考えられます.方針を変えるのも一策ですが,例えば先行研究で為し得なかった部分を追求するのでも良いですし,異なる技術を組み合わせて新たな技術に仕上げるという方法もあります.要は次の一手を考えれば良いとも考えられます.
 実験装置を設計・開発したら芳しくなかったということは,課題が新たに見えたと考えれば良いので躊躇せずに改善すれば良いので慌てることもないですし,ここの方法はあまり良くないことが分かったと捉えることもできます.じっくりと,何故なのか,どのように問題なのかを考えることが重要かと思います.壊したときも同様だと思います.
 これらのことを行うには議論が必要ですが,私たちの研究室では討論は致しません.対立する2項から1つを選択するより,それぞれからさらに発展させたり,複合案を作ってさらに1つ2つのアイディアを新たに出していくことも技術的に面白いと考えているからです.あるいは本人がこれはダメかもと思っていたものが実は画期的だったり,画期的なことに繋がるヒントが隠れていたりするので,深掘りしたり,観点を変えてみたり,時には無理にでも肯定して議論の出発点にしてみることを試すのも発見に繋がるかも知れないと考えています.
 話をしていて急に思い付く,誰かの良い意味で無責任な発言にヒントがあることは往々にしてあることなので,発言の完全性を追求しすぎない,取り敢えずの練られていない質問も受け入れる,話題や質問を他の人に問い掛けてみる場を作り,アイディアの種が次々と生み出されるようにしたいと考えています.

できる理由,やる理由を見付けることが大事

 開発・研究には,ある種の熱意が必要です.研究の価値は特許と似ているところがあり,新規性があることと高度であることではないでしょうか.学術性を求めるのであれば,これまで分からなかったことが解明できた,というのもあるかも知れません.ロボットやメカトロニクスの場合,制御理論や新たな機構原理・解析に着目すればより学術的な雰囲気の研究ができるかも知れませんが,設計・開発の場合は,新規性が鍵となります.先行技術・研究調査委を綿密に行って,類似研究が見付かったとしても,だからできないと考えるのももったいないと思います.さらに高性能化するのも一策ですが,ない機能を追加したり,他の手法を組み合わせてこれらを実現するも良いですし,さらに簡単な方法で同様なことができないかを探ってみるのも良いかも知れません.高度でないように見えますが,実現可能性を上げることができていると考えることもできます.面白いことを考えたのであれば,できない理由を見付けようとするより,できるようにする方法を考える貪欲さが大事ではないでしょうか.