推薦図書(科学)
ピーブスの日記と新科学,M・H・ニコルソン著,浜口稔訳,白水社,2014
 ロバート・フックが生きた時代は科学の転換点である.宗教や思想から解き放たれ,実験が重要となる.つまり,確認できること.これがその結果の持つ価値の評価基準となった.さすれば様々な実験や観察が試みられるようになる.そのための道具も整っている.あるいは道具が整ったから評価基準が変わったといえるのかもしれない.この転換点を生きた人々の証言は,現代科学を理解する上で興味深い.その中心となる王立協会とは今の学会とは異なる不思議な会だったのだが,それでもなお今や世界中に存在する××学会の原点が見える気がする.なお,本書は浜口稔教授の訳である.
(2015/10/17)

脳のワーキングメモリを鍛える!:情報を選ぶ・つなぐ・活用する,トレーシー・アロウェイ,ロス・アロウェイ著,栗木さつき訳,NHK出版,2013
 本書では,ワーキングメモリは『意識して情報を処理する』能力と定義されている.『いわば脳の「指揮者」である.』この能力が上昇すれば,仕事のスピードがあがり,記憶力が飛躍的にアップするそうだ.それでは,脳の中にワーキングメモリがどこにあるのか?前頭前皮質,海馬,扁桃体…?多分,ワーキングメモリとは脳のいくつかの場所の総合的な働きを指すと考えている.
 本書には様々な事例があるが,一つだけ引用すると会議中に『いたずら書きをすることでワーキングメモリを稼働させれば,情報の記憶に役立てられる』とある.長い会議には眠くなる方なので,今度試してみたい.
(2014/08/11)

超心理学:封印された超常現象の科学,石川幹人,紀伊国屋書店,2012
 結晶構造に関する専門書を勉強している時,”分かった”と思える瞬間がある.これは,単に熟読しているだけではなく,同じところを何回も読み直し,そして,電車の中やトイレの中でも思考を続けたその後に訪れる高貴な瞬間である.私程度の経験であれば,”分かった”ことは,既に世界中の多くの研究者が既知としていることである.しかし,世界のだれも知らない事実を”分かった”という偉大な先人達の発見とは,ある種の予知なのではないか?第8章の副題は『物理学への挑戦』とあるが,そもそも物理学における偉大な発見は理論の予知なのではないのか?発見は過去の積み重ねによるものと理解されているが,それだけでは説明できない何かがあるのではないか?テレビドラマであれば,主人公がタイムスリップして未来の技術を過去に伝えて,それが未来につながるということになっているが,頭の中でそれができればそれは偉大なる発見として人類史に残っているのではないか.これは言い過ぎか?だとするなら,『第9章 意識に共鳴する機械』にある『地球全体の人類の集合的無意識』を発見に照らしてみると,歴史に残る発見が同時に別の場所で複数生じている事実と照らし合わせることができないか.歴史は”第一発見者”しか扱わないので我々はこのことに気づかないが,実際には集合的無意識を文章にして発表したものだけが歴史に名を残しているのではないか?  全ての物理学の法則が空間の次元に対して対称であるにもかかわらず,時間だけが一方向であることが説明できない今,本書が主張する超心理の存在を否定できなくても当然であろう.これだけ検証の難しい分野で地道な実験を重ねながら研究を推進している著者(本学情報コミュニケーション学部教授)に敬意を表したい.(2013/06/16)

黄金比はすべてを美しくするか?:最も謎めいた「比率」をめぐる数学物語,マリオ・リヴィオ,斉藤隆央訳,早川書房,2012
 黄金比が絵画や建造物の美しさと関連しているという話を耳にしたことがあったが,どうやらそれは誤りのようだ.本書を読めばそのことが分かる.むしろ黄金比と深く結び付いているのはフィボナッチ数列のようだ.これは黄金比もまた自然界が生み出す数のメロディーと関係することを示している.
 本書において個人的に興味深かったのは準結晶の話であった.『準結晶は,原子の集団(準単位格子)が,密度を最大にするようなパターンで隣の集団と原子を共有した構造をしているのだった.言い換えれば,準周期的な詰め込みは,ほかより安定した(密度が高く,エネルギーが低い)系を生み出すわけだ.(p.323)』準結晶がペンローズタイルへ,そして,黄金比へと繋がる.だったら….(2013/06/16)

エントロピーがわかる−神秘のベールをはぐ7つのゲーム,アリー,ベン−ナイム著,中島一雄訳,講談社ブルーバックス,2010
 熱力学第2法則,すなわち,エントロピー増大の法則を知っていれば,エントロピーは乱雑さを示す指標であるという説明でエントロピーという概念を理解できた気持ちになる.それでは,エントロピーはエネルギーを温度で割った単位を持っているのはなぜか?もちろん,熱力学の教科書にはその説明があるが,エントロピーを統計力学を通じて情報理論と結び付けられることを学ぶと,先の単位は”不思議”となる.さらに,「高校数学でわかるボルツマンの原理,竹内淳著」のp.109には,「このエントロピー増大の法則は自然現象の観察によって経験的に導かれた(経験則)です.」とあるが,だとするなら例外はないのか?また,運動学の法則は時間に対して対称なのに,熱力学第2法則が時間に対して非対称なのはなぜか?  これら疑問に答えられなくても,熱力学を利用すればエアコンや,エンジンの効率を計算することができる.さらに,熱力学におけるエントロピーとそれに付随する法則が,化学,機械工学,統計力学,果ては情報理論などさまざまな学問に影響を与えてきた.しかし,未だ熱力学に付随する法則が神秘的だと言われる.本書はその理由の根源に切れ味鋭く,具体的な例をふんだんに使って説明を試みている.私が本書を読破し,あえてのその神秘性を一言で表すと,「人間の寿命が短い」となるだろうか.文句なくお薦めの一冊であるが,エントロピーに悩んできた人でないと,著者に共感できないかも.(11/04/23)

たまたま−日常に潜む「偶然」を科学する,レナード・ムロディナウ,田中三彦訳,ダイヤモンド社,2009
 脳科学の進歩は人の不可解な行動の理由を明らかにしている.本書でも「不確かな状況の中で評価と選択をするとき,…しばしば直感を使う」が「不適切でさえある決断へと導かれてしまう可能性がある」のは,「偶然的状況を評価する脳部位」と「情動を扱っている脳部位」が密接な関係にあるためとしている.つまり,感情が優先されてしまうのだ.例えば,面接において第一印象が良いと,他の客観的な情報は無視されることがある.歴史的に見ても人類が行ってきた決断,たとえば開戦,が最適な結論でない場合が多数あるのは,決断の多くが感情に支配されているからと考えれば納得できる.本書ではこの脳の特質が顕著に現れる例として,ランダムネスの問題を取り上げている.ランダムネスの問題に取り組む時に人類の脳が本来持つ能力ではきわめて不十分なのだ.そのことを示し,かつとても興味深い事例が幅広い分野から数多く取り上げられている.これが本書の醍醐味であり,著者の豊富な人生経験があってこそ記す事が可能となったのだ.
 もし,あなたがギャンブラーなら第3章を,裁判官や医者なら第6章を,研究者なら第7章から第9章を,投資家や政策決定者なら第10章を熟読することをお勧めする.さらに,第10章を読んでランダムネスに対する対処方法を身につけよう.(10/03/07)

宇宙創成,サイモン・シン,青木薫訳,新潮文庫,2006
 ビックバン理論が科学界で認められるまでの人間ドラマ.サイモン・シン氏の3作目となっている.宇宙論に関する科学的な知識を得るための啓蒙書としてだけでなく,ノンフィクション作品としても一級品であり,人類が科学に対する態度の変遷をも的確に示している.さらに,訳者があとがきで指摘しているように,「科学的方法とは?」の問に対する答となっている.
 私が最初に本屋でこの本と出合った時,タイトルを見て,正直,食指が動かなかった.それは,前2作のイメージが強く,どうしても読み物として楽しむことができないように感じたからである.そんな先入観が全くの誤りであることに気がつくのにたいして時間は必要なかった.理工系学生必読の書.お勧めです.(09/11/03)

元素生活−Wonderful life with the elements,寄藤文平,科学同人,2009
 駿河台キャンパスに出かけた途中で三省堂書店神保町本店に立ち寄った.理学書は5階なので,エレベーターで直行する.目的の本が見つからなかったため,エスカレーターで下ることにした.確か4階だったと思う.この階に用は無いので,すぐにエレベーターを乗り換えるつもりが,目の前の平置き台にこの本があったため,思わず近づいて手に取った.ぱらぱらめくって,最初に思いだしたのが「元素周期 萌えて覚える化学の基本」である.科学の啓蒙というコンセプトは賛同するが,イラストを多用する書籍(いわゆる漫画)に最近はあまり魅力を感じなくなってしまったので,前回は購入しなかった.今回は,4章の元素の食べ方と5章の元素危機は面白そうだったので(実際,面白かった.)購入することにした.そして,購入後の3階に下るエスカレーターに乗っているときに気づいた.罠だったことに.(09/08/29)

魂の重さは何グラム?科学を揺るがした7つの実験,レン・フィッシャー,新潮文庫,2009
 この図書紹介ページを作成するようになってから,読書中に興味深い文章を見つけると付箋を貼る習慣がついた.すると読後に貼られた付箋紙の数が,その本の私にとっての興味の度合いを示すようになった.大学時代に物理学を,さらに成人学生として生物学を修め,イグノーベル賞受賞者でもある著者の博識は敬意と羨望に値し,多数の付箋紙が必要となった.これらの中から一つだけ挙げるとすれば,科学的信念と宗教的信念と類似と相違についてである.「科学的信念も宗教的信念と同じく,一人あるいは二人が心に抱く信仰箇条のようにスタートすることがしばしばだ.違うのは持続の仕方で,…,いっぽう科学的信仰は,その予測が観測できる実在と一致するときにだけ持続していく.これは科学的信仰をいくらかでも余計に正当化するものではない − それはただ多くの人にとって,より具体的で納得のいく仕方で支えられているのである.」ほかに「必要な謎の小カタログ」も秀逸.(09/08/15)

新しい高校物理の教科書,山本明利,左巻健男編著,講談社ブルーバックス,2006
 米国では4年制大学の理系学部に入学を検討している高校生は通常のPhysicsではなく,AP (Advanced Placement) Physicsという科目をとることが多い.この科目はレベルが高く,全米統一試験に合格すれば大学の単位として認められるし,この単位を持っていると,大学入試にも有利となる.AP Physics用の教科書が数種類出版されているが,これらの教科書(私は4種類ほど持っている)は内容が充実しているだけでなく,図や写真を多用して難しい内容を分かりやすく説明することに多大な労力を図っている.ただし,難点はともかく重く,これを持って電車通学をすることは困難と想像される.(米国だから許されるのだろうか)ともかく,この教科書から「ゆとり教育」などという言葉が感じられることはない.
 本書は「物理」という学問を理解するための「書籍」である.理解を容易にするためにとられた手段は,人類が歩んできた物理学上の発見の歴史にほぼ沿って説明が進んでいくことにある.この保守的な手段こそ,体系化された学問を若い時期に学習する方法として,結局,ふさわしいと考えている.また,各節の最初に「問い」という形で問題が提起されているのも,良い構成だと感じる.ただし,演習問題がないため,真の意味での学習用「教科書」としては使えない.いくら説明が分かりやすくても,学問体系を理解するのに,頭の中で汗をかくことは避けて通れないのだ.電車の中で読むのには適当な大きさと重さである本書にボリュームアップも望まない.願わくば続編「新しい高校物理の演習書」の出版である.(09/04/05)

高校数学でわかるボルツマンの原理,竹内淳,講談社ブルーバックス,2008
熱力学において,学ぶ際に出てくる式はそれほど難しくないのに,様々な原理を正しく理解するのがとても困難であることを分かった人は,実は熱力学を正しく理解しています.そして,熱力学を極めるためにはエントロピーとそれに続く自由エネルギの理解が欠かせません.ここまで到達しても尚,次に待ち構えるのは抽象的なエントロピーを具体的な粒子の運動に結びつける山(作業)です.本書は,ボルツマンの原理に向かって一直線に熱力学から統計力学へと駆け抜けているが,そのことがボルツマンの原理の理解を容易にしている.第6章での場合の数から統計力学の中心極限定理へ,そして,エントロピー増大の法則へと続く説明が素晴らしい.(09/02/22)

解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯,ウェンディ・ムーア,矢野真千子訳,河出書房新社, 2007
多くの書籍は最初の数ページに本文と関連した図を掲載している.これらの図と本のタイトルから推測される本書の内容は「ジキルとハイド」となっていまう.実際,ジョン・ハンターはジキルとハイドのモデルでもある.しかし,ジョン・ハンターは決して奇怪な人物ではない.むしろ,優秀な医者であると同時に歴史的に重要な解剖学者である.そして生物の進化に関するアイデアを博物館という形で示すという壮大なスケールを持った賢人である.確かにこのコレクションの中には刺激の強すぎるものもある.特に生殖に関する展示品はそうだろう.(本書を読むとその理由が分かる)だが,目をそらしてはならない.ここに真実を明らかにするヒントが隠されているのだ.彼の一生は医学と科学に身をささげた壮絶な物語であり,学ぶべき点を多く含んでいる.
 現在,彼のコレクションは2箇所に分かれている.一つはThe Royal College of Surgeons of England所属のHunterian Museumである.もう1箇所はUniversity of Glasgowの Hunterian Museum & Art Galleryである.前者のウェブサイトは展示内容を見ることができるが,実際にその前に立った時の臨場感にはかなわないだろう.私もチャンスと勇気があれば….(09/01/02)

ガリレオの指,ビーターアトキンス,斉藤 隆央訳,早川書房,2004
 最近,エントロピーと対称性について深く掘り下げて考える必要に迫られました.そこで,本書を再度読み返してみることにしました.2度読んでも新たな発見があり,また,前回よりも深く理解することができて,感動が広がりました.エントロピーに関する説明も秀逸です.
 なぜ,熱機関には低温源が必要なのか?熱源からエネルギーを引き出すとエントロピーは減少してしまう.エントロピー増大の法則を満たすためには,少しのエネルギーで膨大なエントロピーを生成する場所が必要だ.それこそが低温源の役割なのである.
 第10章の算術―理性の限界では,「数学が不完全」という信じられない話でまとめられています.かなり難解ですがカントールの無理数が有理数よりも多くあることの証明が理解できれば,何とかついていくことができます.そして,この章を読み終えてなぜかホッとするのは私だけでしょうか.お勧めの一冊です.(08/11/07)

 「対称性は条件を絞り込み,指針となり,力となる」原子の結晶構造だけでなく,生物が生み出すパターンの中にも対称性が隠れている.パターンが力学によって生み出される限り,対称性を秘するのは避けられない.研究とはパターンの中に潜む対称性を明らかにすること.そういいたくなる.この本は対称性以外にも,DNA,エネルギ,エントロピ,量子,宇宙論と科学の知識を幅広く扱っている.正直,難解な上にボリュームもある.でも,是非読み通して欲しい.どんな分野の研究者になろうともこのくらいの知識はもっていて悪くない.まだ,かけだしの研究者だった時,化学の知識が必要となり大学の本屋でもっとも有名と思われた物理化学の教科書を購入した.訳者のあとがきを読んでいてようやく同じ著者であることに気がついた.本を書くという才能はひとつの分野に留まらないようである.(06/12/31)

記憶力を強くする−最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方,池谷裕二,講談社ブルーバックス,2001
回りの人から「記憶力が悪い」といわれる.確かに自分でも認めざる得ない時がある.ところが,研究の事になると抜群の記憶力を示すときがある(と,自分では信じている.)それでも,「もっと記憶力が欲しい!」
最新脳科学に教えてもらった暗記法の中から,なるほどと感心したものを三つ.「グループを作って物を覚える」これはチャンク化と呼ばれるが,英語の勉強でもチャンクという言葉が出てくる.「目の記憶より耳の記憶の方が容易」人類進化の過程において文字の獲得は比較的新しい.その前は伝聞だったので音の記憶の方が慣れている.つまり,声に出すというのは結局効率の良い勉強法ということになる.「記憶が海馬にある一ヶ月が復習のチャンス」脳科学によって記憶のメカニズムが明らかにされたことで,一ヶ月という期間が明確になった.本書にはこれら以外にも暗記法として知っておくと便利な事項がいくつも述べられている.最後に,記憶するより思い出す(検索)方が「脳にとってそれは想像を絶するほど煩雑な仕事」というのは,今のインターネット社会にも当てはまる普遍の真理なのだ.(08/08/17)

動物の運動,ジェームズ・グレー,柳田為正訳,岩波書店,1963
膝の研究のために生田図書館の奥を探している際に発見した本.1951 年にグレー教授がイギリス王立科学研究所で行った子供向けのクリスマス講義の内容を本にしたものである.実際には写真や図による説明だけでなく実験も行われたようであるが,この本からは伝わってこなかった.今ならDVDを付録にしただろう.内容は,子供向けということもあり,動物の歩く,走る,飛ぶについて平易な解説にとどまっているが,重心移動の観点から4足動物の移動方法を理論的に解き明かした箇所は興味深い.例えば,馬は四本足に対して頭の文だけ重心が前にあるので,後ろ足一本だけを上げるのは簡単だが,その逆は難しい(p.60).イモリは足を前方に出す際に胴体をs字や逆s字に曲げながら進む (p.67).(08/08/15)

鉱物と宝石の魅力−つくられかたから性質の違い,日本で取れる鉱物まで,松原聰,宮脇律郎,サイエンス・アイ新書,2007
前半は鉱物の生成や性質の説明である.例えば,「ブルーダイヤモンドとイエローダイヤモンドの発色は,炭素原子がホウ素原子や窒素原子で置き換えられたことによる結晶格子のゆがみが主な要因である.」鉱物が結晶構造をもっているということをあらためて認識した.後半は鉱物の写真が数多く掲載されている図鑑となっている.説明を読みながら綺麗な鉱物の写真を眺めていると実物が欲しくなる.ちなみにハーバード大学のHarvard Museum of Natural HistoryのThe Mineralogical and Geological Galleryは一見の価値有.(08/08/09)

物理学とは何だろうか(上,下),朝永振一郎,岩波新書,1979
大学1年生の教養課程で熱力学を学んだ時,さっぱり理解できなかった.まだ,機械工学の工業熱力学の方がエンジンという具体的な描像が得られる分,理解が容易だった.その10年後,エントロピーとは何か−「でたらめ」の効用,堀淳一著を読んで,少し分かった気になった.さらに十数年後,この本と出合ってカルノー,クラペイロン,トムソン,クラウジウスの偉大さが理解できた.そして「熱法則の数学化」こそが私が求めていた説明であった.エントロピーが熱量を温度で割ることで定義できるのはなぜか.それを覚えるのではなく理解したければ,この部分を熟読すればよい.(08/08/08)

熱力学で理解する化学反応のしくみ,平山令明,講談社ブルーバックス,2008
大学1年生の後期に設置されていた「化学II」の教科書には,反応熱を含んだ化学反応式が多数掲載されていた.正直,ほとんど理解できなかった.その後,機械工学の専門科目で熱力学を学ぶようになるとエンタルピー,エントロピー,自由エネルギーの概念を理解することが要求された.エンタルピーがエネルギーであることは容易に理解できたが,エントロピーとは何だろう?としばらく悩んでいた.ある時,「エントロピーとは何か,堀淳一著」に出会ってから,エントロピーの概念はかなり理解できるようになった.現在(08/03/12)調べるとこの本は「品切重版未定」となっているが,図書館で借りても読むだけの価値がある.さて,残ったのは自由エネルギーである.本書は鮮やかにこの難問を解決してくれた.読み終えるまでに蛍光ペンと付箋紙が大活躍する参考書となった.材料科学のテキストを読む際にはかならず自由エネルギーを使った現象の説明が載っているので,本書で訓練を積んでおけば役に立つこと請け合いだ.(08/03/12)

自然における左と右(第三版),マーティン・ガードナー,紀伊国屋書店,1990
本書は,初版は1964年で第三版は1990年という,最先端の物理学を扱っていながらとても息の長い本である.最先端の物理学を対称性という観点から切り開いていくのだが,左右の鏡面対称から初めて,スーパーストリング理論に届くまでにかなりの紙面を費やしてしまい,完読するにはかなりの忍耐を要するのは仕方がないであろう.それでもなお読むだけの価値はある.興味を引いたのは,(1)鏡は左右は逆転するのに上下は逆さまにならない論理的な説明,(2)パスツールが発見した酒石酸とブドウ酸の旋光性の違い,(3)鉄の磁化の説明,(4)李と楊が提示した「弱い相互作用においてパリティが保存するかどうか」,の4つである.各項目の内容についてはこの本で確認してください.(08/02/24)

「量子論」を楽しむ本,佐藤勝彦監修,PHP文庫,2000
量子論を解説した本はたくさんあります.これらの本はほぼ同じ話題を取り上げます.黒体放射,相対性理論,光量子仮説,量子条件,波動関数,不確定性原理等が話題となります.この本もほぼ同じ構成ですが,多世界解釈と量子論の工学への応用が特色となっています.パソコンや携帯電話で重要な半導体の理論が量子論をベースにしているところからも,今後すべてのエンジニアにとって量子論は教養となるでしょう.そんな時の導入としてお勧めの一冊です. (07/12/14)

非対称の起源,クリス・マクマナス,大貫昌子訳,講談社ブルーバックス,2006
昔,右脳を鍛えることがブームとなりました.左脳は論理,右脳は発想を司るというのが根本にあったのです.この本でも同様の内容が取り上げられていますが,事はそんなに単純でないことが,つまり片方の脳だけを鍛えれば人生が成功するなどということはないことがわかります.むしろ,それぞれの役割を果たす機能は脳全体に散らばっていて,例えば左脳は論理,右脳は常識を扱っているけれども,それらの間に協調関係がなければ,出てくる結果はまったくちぐはぐなのです.
 心臓が左にある理由は見事に説明されています.生物を構成するアミノ酸がL-アミノ酸であることは知っていましたが,D-アミノ酸の重要性については知りませんでした.さらに,原子の非対称性についてもわかりやすい説明があります.人類の右利きについても遺伝子モデルを交えた説明があります.この本の紹介が散文調になってしまうのは,内容の幅の広さに由来しています.ブルーバックスとしてはボリュームがありますが,科学書としてはかなり面白く,しかもためになる知識の集大成です.副題をつけておきます.「世界は螺旋 21でできている」(07/09/17)

物理学への道 上下,西山 他,学術図書
某大学の一般教養の物理学の教科書ですが,タイトルがユニークで,内容も教科書の割には読みやすいと思います.難しいクイズを解くつもりで,演習問題に取り組むのはいかが?


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