推薦図書(社会・歴史)
Heart of a Samurai,Preus Margi,Amulet Books,Kindle版,2010
 わかりやすい英語で記述されているので英語の学習にお勧め。2011年のNewbery Honor Book(米国の児童文学の賞)を受賞。ジョン万次郎の恋がリアルであったことに感動します。
(2019/11/10)

工学部ヒラノ教授の事件ファイル,今野 浩,新潮文庫,Kindle版,2015
 とにかくJABEEは教員の受けが悪い.JABEEは実施するのが大変な割に目に見える効果、特に学生確保のための宣伝材料,が少ないので,一旦,受審しながら廃止した学科もある.『なお,教育内容に自信を持っているアメリカの一流大学,例えばスタンフォードやハーバード大学は,アメリカ版JABEEの認定を受けていないし…』とあるが,MITは受審している.
 個人的にJABEEの最大の利点は,資格が取れるという宣伝に使えたり,カリキュラムや採点がグローバルスタンダードになったりすること(実際には少々近づいていると思うが)より,成績問い合わせに対する対応が迅速かつ正確になったことだ.資料が整理されているので,学生が部屋に尋ねてきて不平を言っても,すぐに成績+答案を見せながら結果の理由を説明できる.むかしあったのは,設計製図の授業で「朝まで一緒に作図していた友人はCなのになぜ私はFなのか.」というクレームである.整理された図面の束から両者の図面を引っぱり出したら,明らかにクレーム学生の図面の完成度が低い.改め問いただすと「私は明け方に寝てしまったので….」ということだった.ちなみに,最近ではこの手のクレームほとんどない.直近のクレームは「友人はSなのに,なぜ私はAなのか.」だった.これも見てみると,Sには1点足りなかった.本人はそのことを知り満足して帰っていった.
(2018/08/30)

WONDER, R. J. Palacio, Random House LLC., kindle版, 2012:New York Times bestseller
 文章を語る人物が章ごとに交代する形式で記述され,その時々の主役が自分自身の気持ちを語ることによって,真実が明らかにされていく。こんなに難しい主題を扱うこの物語をどのようにしてまとめるつもりなのかが,読み進めていくうえで心配になったが,graduationでまとめられていた。graduationがどの国の教育制度においても重要であることを改めて認識できた。英語学習の観点からは,一つの場面が数ページでまとめられていて,それがとても読みやすい。お薦め。
(2018/08/25)

工学部ヒラノ教授,今野 浩, 新潮文庫, kindle版, 2013
 大学に入学したときに度肝を抜かれた授業がいくつかある。1年生の物理は英語の教科書なのに、いきなり本気ででちんぷんかんぷん。”試験さえできれば単位は出すので、興味がなければ、授業に来なくても良い。”と高らかに宣言して、”30分たったら戻ってくる。”と言って教室を出て行った数学の教授。第1回目がうん×で、自分のうん×を観察する課題を出したら、下宿を和式トイレに変えた学生の話を美談とする保健の教授。
 その中の一つが永井陽之助先生の政治学である。日本の高度成長を支えたのは自民党の派閥政治である。というのは、たいした知識も無く、大学(と先生)の多くは××なのでは。と考えていた私には????である。米国での在外研究直後だったので、延々とその話。近眼なので、大教室のたまたま最前列に座っていた時に机の上にあったのが、後輩に勧められて読んでいた、本多勝一(書名は忘れた。生協で購入)だったので、たまたまそれを見た教授は凄い嫌な顔をされた。授業中に著者に一言触れてもいた。(内容は忘れた)でも、授業は面白かったし、話の内容が大人で大学に来た気がした。正直凄いな、と思った。
 まさかその時、自分があちら側になるとは、ヒラノ教授以上にあり得なかった。でも、上の話のような真似は決してできない。まじめというのもあるが、やはり大物でないとできないのだろう。何故、教壇に立つようになったのか。そして、その後何が起きたのか。機会があったら話すかも。
(2018/08/25)

化学探偵Mr.キュリー シリーズ, #1 - #5,喜多喜久, 中公文庫; kindle版, 2013 - 2016
 トリックに化学の知識が応用されている短編推理小説集となっている.トリックを解明する際に科学の知識を用いる例は珍しくないが,全編に渡って化学(薬学を含む)の知識を用いているケースは珍しいと思う.この分野は門外漢なので教務深く読むことができた.さらに,主人公が私立大学の准教授という設定なので,今どきの私立大学の実態や理系の学生達の実験室での日常が描かれている.研究分野は異なるが同じ教員という立場からその内容には共感できた.著者の実体験に基づいていると推察する.
(2017/03/12)

謎の独立国家ソマリランド,高野秀行,本の雑誌社(Kindle),2014
 2016年2月4日『アフリカのソマリアの首都モガディシオからジブチへ向けて飛行していたダーロ航空のエアバスA321機で2日、爆発が起きて機体に穴が開き、男性1人が死亡した。複数の米当局者は3日、イスラム過激派組織アルシャバーブによる犯行の可能性があるとの見方を示した。』
(Newsweek日本版,http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/02/post-4465.php)
ソマリアの国の中にソマリランドがある.その国(地域?)は武装解除に成功した.それでは,上のニュースは一体どういうことなのか?その答えは本書を読めばたちどころに理解できる.軽い語り口の中にも,国家とは何かを考えさせられる深い内容の一冊.お薦め.
(2016/02/16)

世界飛び地大全,吉田一郎,角川文庫,2014
 私が通った小学校では,徒歩と電車とバスで通う3種類の児童がいた.私はバスで通う児童であったが,ある友達は電車で通っていた.彼らは徒歩でそれなりの時間をかけて隣の駅にたどり着き,さらに電車で一駅乗って通っていた.彼らが使っていた駅のそばにも小学校はあるが,学区が異なるのである.私は神奈川県川崎市に住んでいたが,この電車で通っていた友達は岡上という東京都に囲まれた川崎市の飛び地に住んでいた.当時,岡上が川崎市に属する理由を教わった気がするが,廃藩置県の際に生まれたのだろうくらいにしか理解できていなかった.その後,町田市こそ公民権運動の結果として後から政治的に生まれた東京であるということを知った.とするならば,岡上の住人は元々の地域に残るためにいかほど努力をしたのだろうか.
 本書で紹介されている飛び地はいずれもいわくつきのものばかりである.ロシアの飛び地のカリーニングラード.アメリカの飛び地のアラスカ.etc.飛び地ではないが植民地も紹介されている.中でもスペインにあるイギリス領のジブラルタルは住民がスペインの帰属を望んでいないという複雑な土地だ.先日テレビで空港と一般道が交差している様子が紹介されていた.土地がなくても空港が必要という要請の苦肉の策である.他にも九龍城砦の歴史も興味深い.
(2014/12/14)

本能寺の変−431年目の真実,明智憲三郎,文芸社文庫,2013
 歴史は権力者によって書き換えられる.とするなら,真の歴史を探し,正し,広めるのは歴史学者の仕事である.しかし,本書にもあるように,その責務を負うべき学者がその時代の権力者の影響を受けることが避けられないとするなら,人々が真の歴史を知ることは難しい.1億年前の恐竜に関する研究が進み,真の恐竜の姿が次々と明らかになっているが,400年前の歴史でさえも真の姿がこれから明らかになることを予感させる一冊.お勧め.
(2014/09/04)

硫黄島の星条旗,ジェイムズ・ブラッドリー,ロン・パワーズ,島田三蔵訳,文春文庫,2002
 太平洋戦争に関する書籍やテレビ番組を読んだり見たりして感じるのは,いかに多くの兵士が無駄に死んでしまったのか.ということである.戦争について論じるのは荷が重いので,常に感じていること含めて,本書を読んだ感想を列記するにとどめる.
・日本はそもそも勝ち目がないとわかっていたのに,短期決戦で大勝すれば敵国の戦意が消失し,有利な条件での和平に持ち込めると読んだ.
・日本の短期決戦での大勝のために兵士を酷使することをいとわなかった.
・そもそも日本の計画の中に長期戦がないので,長期戦となった場合に全ての前線は想定外の戦いとなっている.このことが戦争によらない多くの犠牲者(戦死ではない)を出した.
・どんなに戦略が優れていても,戦いは現場で起きているので,兵士の士気が上がらなければ勝てるはずもない.士気が”主義”で上がると勘違いした日本と衛生下士官が海兵隊員に同行した米国の差は大きい.
・一方が勝てないとわかっているのにも関わらず戦いが続いているということは,双方にとって悲惨な状況しか生まれない.
・上官のエゴは常に存在する.それは戦勝国(一例がp.245にある.)か敗戦国かを問わない.
 エンジニアリングとは様々な制約の中でモノを生み出すための学問である.不戦という制約の中で生き残る道を探すことはできないだろうか?
最後に,本書を読んで初めて感じたことを一つ.
・写真は真実よりも芸術に近い.
(2014/08/12)

ニュートンと贋金づくり:天才科学者が追った世紀の大犯罪,トマス・レヴェンソン,寺西のぶ子訳,白揚社,2012
 全く知らなかった.フックとニュートンの確執については知っていた.しかし,ニュートンが晩年の一時期にイングランドの造幣局監事を勤めていたことは,知らなかった.推理小説でよくあるのは警察でない街の隠れた天才が犯罪を解決するものである.場合によっては,実在の人物をモデルにした主人公が事件を解決する小説さえある.しかし,本書はこの類とは全く異なるドキュメンタリーである.そして,ニュートンがその才能を,そして時に財産さえも,惜しげもなくイングランドの通貨安定だけでなく犯罪の解決にさえ捧げたことが記されている.銀貨の製造に関する部分を引用する.『新任の監事は,鋳造プロセスの性能を一つひとつ点検し,溶融の工程をつぶさに観察して,….各道具の性能を計測し,…明らかにした.その経験を機械類だけでなく人にも当てはめた.….おそらく史上初の時間動作研究を行った.….当初は一週間に一万五千ポンド製造するのも難しいと考えられていたが,…,六日間で十万ポンドという記録的な生産を果たした.』あっぱれである.犯罪の解決に対しては,情報収集と記録という手法で取り組み,見事な成果を得ている.プリンピキアを読んでも犯罪を解決できない.しかし,プリンピキアを著述するために必要となる方法論は,あらゆる問題の解決に応用できる.ありがたい.この事実を盾にして,学生に勉強するように強く迫ることにしよう.
(2013/08/11)

「いらっしゃいませ」と言えない国:中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂,湯谷昇羊,新潮文庫,2013
 成都のイトーヨーカドーが開店したのが1997年11月ということである.私が明治大学で職を得たのが同年10月であるから,ほぼ同じ年月を歩んできた.このころすでに中国への渡航経験があり,また友人も2名いたので,中国という国をおぼろげながら理解しているつもりであった.従って,本書で述べられている開店前後の苦労は理解できるし,驚くこともない.むしろ,ここまで耐えることのできる登場人物の粘りに驚かさせる.しかし,『牛乳おばさん』の話を読めばわかるように日本人だけががんばったから成功したのではない.個人の力が結集できれば人数以上の相乗効果が生まれるのであって,大切なのは戦略を持った協調である.国籍で能力や人柄は決まらない.日本と中国の関係はいまも難しい局面にあるが,そのことを忘れてはならない.
(2013/06/16)

文明崩壊:滅亡と存在の命運を分けるもの,ジェレド・ダイアモンド,楡井 浩一訳,草思社文庫,2012
 小学生の頃,イースター島のモアイ像は世界の不思議の一つであった.あの大きな像をどのように運びどのようにして建てたのか.上に帽子を乗せた方法は?ある本には宇宙人の仕業との記述もあった.この本には現在分かっているモアイ像の制作過程とその背景が明確に示されている.この本の中には,アナサジ族の遺跡,マヤ遺跡,アンコール遺跡などが取り上げられているが,どれもその当時の人々が当時の技術を生かして作った珠玉の作品であることが示されている.そうであるなら,なぜこの優れた文明を生みだした場所は衰退し,そこに住んでいた人は消えてしまったのか?この理由を社会科学的な観点から解明したのが本書である.
 現代社会はその多くを石油に依存している.世界中の大都市は石油なしではその存在を維持できないであろう.しかし,石油の産地と大都市が隣接している必要はない.日本で利用している石油は,はるか遠くの産油国からタンカーで運ばれ,ガソリンや電気等のエネルギー源に変換され,自動車や家庭の電化製品の使用の際に利用している.一方,本書に従うと,古代の文明社会の多くは森に依存している.そして,都市は森に隣接していなければならない.もちろん,本書で示されているように,都市の繁栄と衰退を決める条件はもっと複雑である.しかし,森が最も鍵となっているのは事実であろう.森が枯れれば,都市は消える.
 本書は上下2巻のボリュームがあり,読みとおすまでにそれなりの時間がかかるが,価値ある一冊(実際は2冊)であることに間違いない.さらに,江戸時代の日本が持っていた,優れたエコシステムを教えてくれる.本書で取り上げられた場所をgoogle earthで確認した.その情報をまとめたkmzファイルをアップロードした.御参考まで.
(2013/02/24)

その科学が成功を決める,リチャード・ワイズマン,木村博江訳,文春文庫,2012
 まさしく究極のtips集だろう.覚えておけば役に立つ内容が満載であるが,一つだけあげると,「複雑な問題にかんしては,考えすぎは即断と同じくらい良くない.大切なのは決めるべきことを頭に入れ…無意識に出番をあたえること.」だそうだ.なお,本書は様々な研究の成果をまとめたものであり,巻末の参考文献数がそのことを物語っている.
(2012/12/09)

海賊とよばれた男,百田尚樹,講談社,2012
 小説ではあるが,”この物語に登場する男たちは実在した.”とあり,人物だけでなく会社も多くが実在していた.しかも,身近な人間がこの小説のモデルとなった会社に勤めていたため,”労働組合がない”等の逸話が実話であることを知った.この結果,感情移入が容易となり,多くの逸話に涙することとなった.お気に入りの逸話の一つはBOAがこの会社を助けた話.米国という国の恐ろしいくらいの懐の広さと,日本国内における発展でさえ世界的な視野と人脈が欠かせないことを思い知る.
(2012/09/30)

ネゴシエイター:人質救出への心理戦,ベン・ロペス,土屋晃・近藤隆文訳,柏書房,2012
 人質を救出する有名な映画の一つは「ランボー」だろう.映画だけでなく小説でも多数あるはずだ,しかし,この本が秀逸なのは武力を行使しない救出に終始していることだ.武器の一つはお金だが,お金より,そして機関銃よりも重要な武器は交渉術である.幾つかの実例が述べられていて,緊迫した交渉の状況が生き生きと描写されているが,著者の今後の仕事が容易になるように罠が仕掛けてあるように感じる.(例えば,交渉の際の金額)また,被害者の心のケアに関する描写が新しい.誘拐された者の家族が受ける心の傷ははかりしない.そのトラウマを克服する方法−EMDR(眼球運動による脱感作および再処理)は,役に立つかもしれないが,残念ながら本書にはその詳細は記載されていない.
(2012/09/15)

日本の歴史をよみなおす(全),細野善彦,筑摩書房,2005
 日本の中世のおもな産業は農業であると習いました.石高が豊かさの指標であり,年貢がそれを支えていて,コメが基本になっていると習いました.そして,”百姓”とは農作業に従事する人という意味でした.しかし,”百姓は決して農民と同義ではなく,たくさんの非農業民−農業以外の生業に主としてたずさわる人々をふくんでおり,そのことを考慮に入れてみると,これまでの常識とは全く違った社会の実態が浮かび上がって”くるのです.つまり,日本の人口の多くは”百姓”に分類されるのですが,これは商業や工業に携わる人が含まれているようなのです.そういえば日本は明治維新の直後から,西洋の技術を導入し,富国強兵政策によって近代化が進み,農業国から工業立国へと変貌を遂げたと習うのですが,良く考えてみれば基礎技術なしに工業製品など作れるわけがない.つまり,明治維新より前に日本にはもともと工業がある程度栄えていた国だったのです.確かに,明治時代に西洋の技術を導入し,鉄道,造船,そして近代製鉄が発展したのは事実でしょう.しかし,基礎技術は既にあり,そしてそれらに従事する昔でいう百姓,今でいう技術者がそれなりの数存在したのでしょう.だからこそ,これほど急激に世界に高品質な製品を輸出できる国になれたのです.エンジニアを育てる仕事に就いた今,そのことを確信できます.
(2012/06/28)

米国キャンパス「拝金」報告,これは日本のモデルなのか?,宮田由紀夫,中公新書ラクレ,2012
 日本の大学は過渡期に差し掛かった.増やせるだけ増やした大学数は,日本国内の高校生だけを相手にしているだけでは生き残れない.また,たとえ生き残ったとしても大学内で何らかの淘汰が生じるはずである.そこで,数の解決策として,留学生30万人計画が始まった.さらに,全入時代は質の問題も浮き彫りにしたため,教育評価のための自己点検・授業評価を導入して,認証機構を構築した.他に,ランキング,産学連携,大学スポーツ,インターネット講義,9月入学等,最近の大学は様々な外圧にさらされている.これらに対応するためにもっとも簡単な方法は先行して成功している例をまねることであろう.
 世界の大学ランキングで米国の有名大学は上位に位置しているため,日本の大学は米国に習うべきとの雰囲気を生んでいる.しかし,今の米国の状況を本書のような視点から解析すれば,単なる追従だけではいけないことがよく分かる.教育は「経験財」なのだそうだ.何回も購入することはできない.しかも,評価することも難しい.そうであればランキングにどんな意味があるのか.結局,自分の卒業した大学が世界で一番素敵な大学だと思えればそれでよいのではないか?もちろん,大学教育(機械工学?)に意味がないとか,何を教えても良いというつもりはないし,ランキングを上げるための努力を全くしなくて良いと主張するつもりもないが,その一方でランキングが全てを表していることもないと思う.時には無視する強い信念とランキングには反映されることのない部分で良質な教育を生み出しているという自負がほしい.米国の大学を参考にすることを否定しないが,同時に本学としてあるべき独自の姿を追求する姿勢が必要と考える.本書にはそのヒントが多数ある.
(2012/04/24)

大学キャリアセンターのぶっちゃけ話 知的現場主義の就職活動,沢田健太,ソフトバンク新書,2011
 研究室の学生の就職活動を見ていると,良い意味でも悪い意味でもゲーム感覚というのがぴったりだと思う.ゲームには勝つという要素が付いて回るので,そのための努力が必要となるという意味で肯定的な要素は有るが,あくまでゲームなので“勝てば官軍”という意味で否定的な側面も多分にある.さらにウェブによる就職活動がゲーム的要素をますます助長し,対人的な接触が薄くなれば,会社を選ぶ判断材料は感動よりも見栄になる.つまり,有名企業のみがターゲットとなり,真の意味で自分に向いている会社との出会いがないまま就職活動が終わってしまうのだ.そもそも企業が有名なのか無名なのかというのは消費者向けの製品を作っているかどうかだけである.もちろん,私だって学生が世間的に有名な会社に就職が決まれば正直嬉しい.でも,それが将来にわたる幸せにつながるかどうかは今の時点で決して分からない.逆に世間的に有名でない会社に就職して立派に活躍している卒業生もいる.是非,自分に合った会社を見つけてほしい.最後は自分で会社を作ってもよい.私には出来なかったけど,そんな卒業生もいる.そして,この本にもあるように,大学は教養を身につけるところなのでしっかり勉強して卒業してほしい.余計な雑音に耳を貸す必要はない.遊ぶだけでいい加減に終わった大学生活など,就職活動には役に立たないし,そもそも人生の役に立たない.言い古されたセリフだが努力は裏切らないというのは本当だ.なお,本書p205-6の事例に一瞬目頭が熱くなった.
(2012/03/11)

紅茶スパイ 英国人プラントハンター中国をゆく,サラ・ローズ,築地誠子訳,原書房,2006
 紅茶と緑茶が同じ木で,違いは製法だけ.とは知らなかった.杭州が茶の交易ルートにあり,マルコポーロの時代から豊かで“高貴な町”とは知らなかった.ダージリンやアッサムは知っていてもインドの紅茶の起源が中国にあることは知らなかった.ヨーロッパで最初に飲まれていたのが紅茶ではなく緑茶とは知らなかった.イギリスで紅茶を飲む習慣が産業革命に影響を与えていたとは,さらに,そのことがフランスやドイツとの差につながっていたとは知らなかった.そして,これらすべてと東インド会社が関係していたとは知らなかった.もし,次にロンドンを訪問することがあったらチェルシー薬草園に行かなくては.
(2012/02/17)

マネー・ボール,マイケル・ルイス,中山 宥訳,武田ランダムハウスジャパン,2006
 野球を題材にした本はいくつかあり,通常その焦点は試合にある.なぜなら勝ち負けにドラマの本質があるからだ.ところが,この本は異色だ.試合の話もあるにはあるが,トレードが主役であり,それに彩りを添えるのが選手の評価方法であるからだ.”だれが本当に上手なプレーヤーなのか?”その答えを従来と異なった“計算法”で導くことで一世を風靡したジェイムズ氏が,ある意味この本の主役であろう.世に研究とはいろいろあるが,画期的な成果にたどりつくのはほぼ同じ道(常識を疑う)となっていることを再確認することができる.研究者が研究に疲れた時に一読すべき良書.
(2012/02/06)

乾燥標本収蔵1号室 大英自然史博物館 迷宮への招待,リチャード,小林朋則訳,中央公論社,2011
 大英自然史博物館に潜む人物(表に出ない人々なので“住む”というよりこの表現の方がふさわしい.)の物語集である.研究者と論文は切っても切れない関係にあることが本書でも記されているが,私自身とても身につまされる.さらに,分析装置の発展が博物館に多大な影響を及ぼしていることも,想像に難くなかったが,良く分かる.お気に入りのエピソードの一つは,ジェフリー・タンディというcryptogamsの研究者のcryptogramsの話で,cryptograms関連の本を既に数冊読んでいるが,この話は初めてであった.最後に,本書で紹介されている“The encyclopedia of life”にアクセスしてみた.Wikipediaより専門性に特化していると感じた.前半の動植物より,後半の鉱物の方がお気に入り.
(2012/01/22)

ナチを欺いた死体:英国の奇策・ミンスミート作戦の真実,ベン・マッキンタイアー,小林朋則訳,中央公論社,2011
 米国サウスカロライナ州のチャールストンは英国植民地時代から独立戦争にも南北戦争にも名を記す米国有数の歴史的な町である.ここのシタレル士官学校(The Citadel)には,イギリス海軍潜水艦セラフ(HMS Seraph)の記念碑がある.これは,第2次大戦での英米両国の協力を記念したものである.実は,一度だけこのチャールストンに行ったことがあるが,この事実を知らなかったので記念碑を見に行ってはいない.見学したはずの古い町並みはほとんど記憶になく,近所の空母Yorktown(http://www.patriotspoint.org/explore_museum/)の方が鮮明な記憶として残っている.
 将来を確実なものにするためには,歴史に学ぶしかない.さらに,何かに勝つためには戦略を練るしかない.その意味で本書には一読の価値がある.「欺瞞が成功するためには,騙される側が程度の差はあれ,自ら進んで騙されたいと願っていなくてはならない.」「嘘を真実だと無意識に思いたがる心,…『希望的観測』は,いろいろな形で表れる.」これは,研究にも当てはまる場合があって恐ろしい.
 このウェブには掲載しなかったが,同著者による「ナチが愛した二重スパイ,白水社」も面白い.
(2012/01/07)

ごく平凡な記憶力の私が1年で全米チャンピオンになれた理由,ジョショア・フォア,梶浦真美訳,エクスナレッジ,2011
 回りからは記憶力が足りないと思われている私でも,「いい国作ろう鎌倉幕府」や「水平リーベ僕の船…」等の有名な記憶のための決まり文句や,自作の「斜対,斜隣,隣対」(サイン・コサイン・タンジェント),さらには,小学生の時の九九はそれなりに覚えたものである.この本を読むと,もっと脳の働きに沿った合理的な記憶法を知ることができる.その中の記憶法が書かれた書籍の一つに作者不詳の「ヘレンニウスへ」という修辞学の本が紹介されている.本書の出だしはこの本の物語となっているが,本書の内容とつながるのはしばらく読み進めてからであり,その時になって初めて出だしの物語の奥深い意味が分かる構成になっている.
 正直,本書を読むまでは,”記憶”という脳の働きを甘く見ていた.私は興味のあることは何の苦もなく覚える(正確には覚えている)ことができる半面,日々の生活に必要な事項や,事務的仕事の事項を覚えるのはとても苦手である.同時に語学も苦手であったが,そのことで記憶力を鍛えようと考えたことはなかった.しかし,本書を読み終わった今,薄々気が付いていたことであるが,「語学力向上に暗記は避けて通れない.」ということである.人類の進化とともに発展した脳の働きに沿った記憶方法で”暗記”することが,ある種の合理性を持って語学力を向上させるのであり,本書から私はそのことを強く認識した.ただし,本書でも触れられているように,本書で取り上げられている記憶術を全米チャンピオンになるくらい鍛えてみても,日々の生活に役に立つ記憶を鍛えるのはさらに困難である.久しぶりに本書を手にとってページをぱらぱらめくっていたところ,妻に「全く成果が出ていない.」と言われたことからもそのことが分かる(笑).本書は,タイトルにある事実を物語として楽しむことと,記憶という脳の神秘を学ぶことが同時にできる.文句なくお勧めの一冊.
(11/12/25)

威厳の技術[上司編],田中和彦,幻冬舎新書,2009
 大学の理系の研究室なら世界中どこでも同じだと思うが,研究室には数名から十数名の学部生や大学院生が所属し,彼らはほぼ毎日研究室に来る(もちろん,そうでない学生も多数いるが.)ので,研究室とは差し詰め会社の一部署の様相となる.学生が社員だとすると教授は管理職となるが,給料は払っていない場合が多い(逆に米国なら払っていない方が少ない.)ので,当然,上司の立場は会社よりずっと弱い.しかも,大学の教員の多くは,小中高の教員とは異なり,教育学を修めたことがなく,この私も例外ではない.従って,研究室を運営することは,多くの理系の教員にとってかなりの負担であるはずだ.私はこれまでの経験から「学生との距離感」が大切だと考えている.学生との関係は近すぎても遠すぎてもいけないが,適切な距離というのもが固定されて存在しているわけではない.状況によって変化してしまうし,毎年メンバーの半数以上が入れ替わることが距離の見積もりを一層困難にする.実際時々炎上する.
 私自身は学生の主体性を重んじるを良しとするが,そのためどうしても「学生に甘い.」という印象を学生達に与えてしまうようである.研究だけでなく,研究室の運用に関しても学生の提案は可能な限り受け入れる方だ.そのためかしばしば学生から軽く扱われているように感じる時がある.例えば私に意見を求めないで,学生たちが勝手に自分たちの考えで物事を進めてしまうことがあるのだ.結果,ある頃から「威厳がほしい.」が口癖になってしまった.そんな時,学生達から卒業の記念として本書がプレゼントされた.
 本書中には「先生とはこうあるべき」と考えていたことと同じ,上司の取るべき幾つかの行動が見受けられ,会社も研究室も運営するのは同じ技術が必要であることが確認できた.しかも,本書を読むことによって,私の中でばらばらだった「技術」が,まとまった形で認識することができたのは収穫であった.しかし,結局,「威厳の力=こわいと思われること」だそうなので,もっと畏れられるよう鬼のような形相を習得するしかないようである.転んで鼻の頭にけがをして,絆創膏を貼っているようではまだまだ先が長い.
(11/04/02)

日本軍のインテリジェンス―なぜ情報が活かされないのか,小谷賢,講談社選書メチエ,2007
 サイモンシン著「暗号解読」の中で太平洋戦争時に日本軍の暗号が米軍に解読されていたことを知った.さらに,イギリス軍はドイツ軍の暗号も解読していた.このことから暗号解読に関しては,英米の方が進んでいると認識していた.ところが,上野千鶴子著「日本人は…」を読むと実は日本軍も米軍の暗号をかなり解読していたことを知った.その引用元が本書である.本書によれば日本軍は様々な情報を持っていた.1941年に総力戦研究所(詳しくは本書を参照)が行ったシミュレーションでは日本敗北を敗北までの期間だけでなくソ連軍の満州侵入まで付して予想している.つまり,正確な情報を持っていたということである.それでは,なぜそれらの情報が活かされないのか.その理由を明らかにする例の一つが,陸軍が米軍のストリップ暗号を解読していたにもかかわらず,海軍にはそのことを伝えていなかったという事実にある.いわゆる「縦割り」である.NHKが放送した「日本人はなぜ戦争へと向かったのか」と合わせてみると,本書が述べる縦割り(本書中ではセクショナリズム)の弊害をさらに良く理解できる.今の日本にもその問題は依然存在している.我々は同じ過ちを二度と繰り返してはならない. (11/03/27)

それでも日本人は「戦争」を選んだ,加藤陽子,朝日出版社,2009
 人は誰でも自分自身の行為は正しいと信じている.また,それがたとえ自分自身が直接関与した行為でなくても,自分が所属する集団が行った行為であれば正しいと信じる.そこに疑いの余地を挟むことができるようになるためには,その行為からの距離,あるいは時間,が必要となる.そして最近になってようやく日本人はあの戦争を客観的に議論できるようになった.と感じる.本書で明らかなように,多くの日本人はあの戦争を選んだのだ.国益という名のもと,満州,朝鮮,台湾を日本の物とするために,あの戦争へと向かっていった.もちろん,当時,戦争以外の方法で事態を収める道が模索され続けていたし,流れを決定してしまう偶発的な事件があった.国民の中には,さらに軍隊の中にも,戦争に反対していた人々がいたのは事実であるが,それでもなお,「戦争」を選んだのは,やはり日本人という集団(組織)なのである.あの戦争へと導いたチームにすべてを任せてしまったのだから.
 「組織」とは,個人が病気等で抜けても別の個人がすぐにそれを補完し,全体の行為に支障をきたさないように構成された仕組みである.だから,誰もが他のメンバーの代替ができるように均質化される.特別な「個」は,たとえそれが稀に見る才能であっても,不要どころか,害ですらある.個人は組織の中に埋没し,外部からは認識できないが,日常・通常の業務であれば何の支障はない.ところが,外部の状況が大きく変化し,組織の目的・目標も変えなければならない状況に追い込まれると,組織の中の一部の「個」の持つ才能を生かさなければならなくなる.そこで,組織の中にサブグループとしての「チーム」が構成される.チームのメンバーはそれぞれが他のメンバーとは異なった特殊な才能を持っていて,余人をもって代えることはできない.チームの目標は単純なほどよく,組織はチームに全幅の信頼を与える代わりに,チームは我が身を削ってでも組織の利益を最大化する.「組織」と「チーム」の例として,「JAXA」と「はやぶさプロジェクトチーム」の関係が分かり易い.
 あの戦争において,組織を日本人,チームを政府あるいは軍隊と考えることできる.確かに組織はチームを信頼していた.しかし,チームは果たして自己犠牲で組織を守ろうとしたであろうか?チームは組織の犠牲でチームを守ろうとしたのではないだろうか?もちろん,この論法はあまりにも単純であるが,江戸時代の「家」の感覚を引き継いでいた当時の日本人においては,当然の帰結と想像するに難くない.本書にも出てくるような一部の国際感覚や倫理観に優れた日本人は確かにいたのだが,残念ながらチームのメンバーとして,十分な活躍ができなかったようだ.そのことが悔やまれる. (10/08/07)

トレイシー 日本兵捕虜秘密尋問所,中田整一,講談社,2010
 スポーツと戦争の違いはルールの厳格さにある.ルールを厳格に守らなければいけないのはスポーツである.ところが,その一方で勝敗についてはスポーツは偶然の要素が侵入する余地があるが,戦争の方はその余地が少ない,あるいはほとんどない.太平洋戦争において,”もし,××が○○であったら….”を題材にして勝敗を推察した小説も見受けられるが,どのドキュメンタリを読んでも,”必敗”という結論しか出てこない.なぜなら,勝敗を決める根底にあるのは,”戦術”というよりは”戦略”,さらには当時の社会状況にあるからだ.たとえ,”戦術”が素晴らしくて(真珠湾攻撃)一回は勝利したとしても,情報を軽視する軍隊にとってその次の戦いに勝利することは難しい.情報なくして”戦略”は立てられない.しかし,もっと大切なのが社会状況だ.当時の日本の社会状況は個人(いわゆる国民)を大切にしていなかった.人の命を軽く見る軍隊がその国民から尊敬の念を保ち続けることはできない.これは,ルール(軍隊でいえば規則)を守るというレベルではない.人の本質的な心の問題なのだ.情報を重視するのは,人的被害を最小にして相手に損害を与える方法を探るためにある.人的被害に配慮しない軍隊に情報を重視する発想が生まれないのは必然である.本書は情報を引き出す行為が人命軽視の社会状況と結びついていたことを明らかにしてくれる.
 本書の中に,硫黄島の塹壕の中で投降してきた日本兵とその日本兵を捕獲した米兵との間のシーンが描かれている.彼らの共通の言語はフランス語であった.日本兵はフランス留学を夢見て神田駿河台のアテネフランセでフランス語を学んでいた.イタリア系アメリカ人の米兵はパリに留学していた.フランス語で行われたわずか3時間の尋問は,最後は交流となり,その後の一生に大きく影響を及ぼした.学ぶ努力は必ず報われる. (10/05/22)

ルポ貧困大国アメリカII,堤未果,岩波新書,2010
 もしこの報告が真実なら悪夢というより他はない.「第1章 公教育が借金地獄に変わる」で報告されている現実.多くの日本人にとって,クレジットカードでの支払いが借金と感じることは無い.それは,引落額以上に預金残高があることが一般的であるからだ.ところが,引落額が預金残高を上回れば,それはすなわち即借金となる.敢えて厳しく言えば,クレジットカードの利用は借金への近道なのだ.現金よりもクレジットカードの利用の方が一般的な米国では,ローン(つまり借金)は日常的な生活習慣であると想像することは容易である.このような社会にあれば,この本にあるように『教育』という健全な投資のために『借金』をすることは,ネガティブというより,むしろポジティブな行為であろう.そこからの帰結として,『教育ローン』とは,本来あるべき投資の形態となる.ところが,これはあくまでその『教育ローン』が一般的な商行為として許される規則の中に収まっていればの話であって,この章で述べられている『教育ローン』は通常なら決して手を出してはならない類の『ローン』である.理由はここでは述べない.本書を読んで欲しい.
 私は教育は国の義務としての投資だと考えている.かなりの額を必要としながら短期的には利益が出ない.(そもそも金銭で量れるような利益は出ない.)それでも,その国が発展するためには(実は人類が発展するためには)高等教育は決して欠くことはできない.それどころか,地球環境,戦争,地域紛争,核廃絶,etc,それら全てを解決するために必要な行為は,次の世代の人材を高等教育によって育成することである.そのことにまじめに取り組めば,お金としての利益を生み出すことはできない.米国の大学の学費がなぜこうまで高騰しているのか.その理由は利益を生むという至上命題にある.私立大学に勤めながら敢えて苦言を呈せば,本書でも述べられているように,教育を商売と直結させてしまってはいけない.もちろんそれは直接的に利益を生む行為をしないほうが良いと意味ではなく,愚直な部分もあるくらいがちょうど良いという意味である.
 なお,本書の第2章と第3章はある程度知っていた事実であるが,第4章はまったく知らなかった事実が述べられていてであり衝撃的であった. (10/02/28)

しがみつかない生き方「ふつうの幸せ」を手に入れる10のルール,香山リカ,幻冬舎新書,2009
 「<勝間和代>を目指さない.」新聞広告にも帯にも使われているこのキャッチコピーのインパクトは大きい.私もほぼこの衝撃に打ち負かされて本書を購入した一人である.
 私もこの10年間,日本は変わったと感じる.「資本主義社会の充実=社会全体の幸せ」という単純な方程式を信じていた.自由競争社会は「ルールさえ破らなければなんでもあり」の風潮を助長した.しかし,この不況下において,「じっくりと考える」時間を与えられてみると,先の方程式は解が発散することに多くの人が気づいたと思う.そもそも「富」は集中する性質を本質的に持っているのである.グローバル化された完全な資本主義社会では,ある場所(人とは限らない)に富が一旦集中してしまうと,そこを基点に世界中からさらにそこに富が集中する.だとするなら資本主義に関して完全な自由競争などこの世界には存在しない.スタートラインの位置がまちまちなのだ.
 競争に勝った時の根拠はルールにある.ところが,自由競争の基準となるべきルールさえも高々「人」が定めるものであるなら,恣意的に変更されてしまうことが身にしみて分かった.ビジネスモデルとは,極端に言えば,富を集中させるルール作りともいえる.最初にルールを作った人が確実にアドバンテージを持っている.改変できない社会のルールが存在したらそれはそれで恐ろしい.だからこそルールは変更できるようにしておかなければならない.しかし,ルールがあるからといって,その競争に勝つことを目的とするだけでは,決して社会全体は幸せにならない.ルールは決して絶対尺度ではない.「ルールにしがみついてはいけない」.
 そもそも,敗者がいるから勝者が存在できるのである.「勝者になることにしがみついてはいけない」.特に完全勝者は決して目指さない.たとえ敗者になってもがっかりしない.敗者に敬意を表するくらいの社会が理想なのである.本書でも社会の狭量化に危惧を抱いている.これからの日本が懐の大きな社会へと変貌するように願う.
 大学生は就職活動中に落ち込みやすい.希望する会社の内定が貰えなかった時,将来の夢が絶たれてしまったと感じ,自己否定へと結びつくこともしばしば.そんな時に,本書を読むと良い.少し元気が出る. (09/09/27)

奇跡のりんご「絶対不可能」を覆した農家 木村秋則の記録,石川拓治,幻冬舎,2008
 主人公はオートバイやトラクタのエンジンが好きだ.ところが,「無農薬で野菜や果物を作る.」このフレーズには現代の農業を否定する響きがあるし,「無肥料」となれば,痩せた作物を想像してしまう.しかし,「奇跡のりんご」は現代の科学技術の方法論を屈指して,まったく新しい農業の体系を作り上げてしまった.目指すものが「無農薬」であったかもしれないが,達したのは『総合農業技術』であり,植物・昆虫・肥料・気象・細菌等の広範囲な知識を纏め上げて,究極のりんごを作るための新しい学問体系といえる.「りんごが彼の学術論文であり,唯一無二の業績なのだ」
 そして,この学問体系は他の農作物の栽培に応用できると思う.「トマトなどは茎が三メートル近くの高さに育ち,驚くほどたくさんの実をつけていた.りんごの木よりも高いトマトなど見たことがない.」のだから.しかも,りんごの価格にまでこだわりがある.一般のりんごと同じ価格で販売できなければならないというコスト意識は,エンジニアリングの研究方針に適合している.まるでエンジニアの成功物語を読んでいるのかと錯覚するくらい,エンジニアリングでもある.お勧めの一冊. (09/03/13)

「分かりやすい教え方」の技術,藤沢晃治,講談社ブルーバックス,2008
 同じ授業を長年続けていて不思議なのは,同じように教えていても学生の理解が進む年と,そうでない年があることである.こちらとしては毎年同じ内容なので上手になることはあっても下手になることはないと信じたい.そして,受けて側は毎年変化するので,受けて側の問題と見ることができる.しかし,はたして本当にそうであろうか?同じように教えているようで,年によって差があるのではないか?自分自身の心構えも毎年同じとは限らないので,これが影響しているとも考えられるのではないか?今年度は上手に教えることができなかったのではないかと自責の念にとらわれていたので,この本の購入は自然な流れであった.
 本書の教えるの定義(p.41)が秀逸である.キーワードは「信頼関係」と「定着」である.確かに信頼される人物からの教えはすぐに身につくであろう.そこで思い当たるのは,生徒と信頼関係を作れた年が「教える」もうまくいくことになったのだろう.どんなに分かりやすい資料を配布して,懇切説明しても,それだけでは「うまく」いかないのである.ただし,「信頼関係」はどうやって築くのだろう.この本にもあるように「教える」とは同時に学ぶことなのだ.
 本書は分かりやすく教える技術を網羅している.どの項目も斬新というより当たり前のことなのだが,簡潔な文章としてまとめられると改めて目が見開かされた思いである.そして,クライマックスのp.180の「与える」よりも「引き出せ」となる.「ときには,わざと『分かりづらく』せよ.」これこそ「教え方」の奥義であろう.機械設計製図2はこの思想が随所に生かされている「分かりづらい」授業・実習なのである.だれも褒めてはくれないけれど…. (09/03/07)

超格差社会アメリカの真実,小林由美,文春文庫,2006
 本書は単行本として2006年に発刊され,2009年に文庫本化された.私がボストンに滞在していたのが2005年なので,まさしく時期を同じにしている.著者は26年に渡り米国に暮らしていたそうなので,滞在期間1年の私が"同感"という感想を述べるのはおこがましいのかもしれないが,それでもなお,"同感"と述べたい.そして,「どうしてこんなに格差があるのだろう.」という私の疑問を見事に解消してくれた著者に心から感謝したい.  本書によって補強された私の考えの一つは,「日本の教育の将来は独自の道を模索し,進むべき.」である.少子化による大学全入時代は,米国は既に経験したことである.それでもなお,米国の有名大学は世界一流であるのだから,日本は見習うべきであるという議論は当然だし,私もそれが正解だと信じていた.しかし,今は異なった意見である.米国の大学はアメリカが置かれている立場を最大限に生かして,教育と研究を一体化させることで大学の水準を保ってきた.これをそっくりそのまま日本の大学がまねても決して成功しないであろう.日本は基礎教育に重点をおき,訓練を必要とする教育を決しておろそかにしない社会の風潮を,そして,教育を尊敬する社会的コンセンサスを確立すべきである.次に世代に必要となるのは,エネルギー,環境,食料だ.この3つを見据えた技術に関する,まず教育,そして,研究に力を注ぐべきであろう.
 既に私は米国に憧れだけを抱くような状態ではない.いろいろな問題が山積みとなっていることを十二分に知っている.それでもなお,また海外に長期に滞在して研究する機会があり,行き先を自由に選べるとしたらやはり米国を選ぶだろう.その理由は大学の中では本書の第7章に描かれている「心地よさ」であり,生活では第4章に描かれている「バイタリティ」や「好奇心」に惹かれるからである.でも,次回はもっとうまく立ち回るつもりである. (09/02/15)

ダイヤモンド,マシューハート,鬼澤忍訳,早川書房,2002
 久しぶりに読み返してみた.昔と違うのはインターネットが発展して世界中の情報が瞬時に得られる環境を手に入れたことだ.本書はブラジル,南アフリカ,カナダ,イギリス,オーストラリア…と様々な地域が話題となる.そこで,読書と平行して登場地域の検索を行った.その結果を以下に示す.これらのWebサイトの中にはダイヤモンドの採掘場を上空より確認できるページもある.あるいは有名な宝石の写真もある.本の内容がこれらの画像情報によってさらに膨らんでいく.私はこの新しい読書の方法を"調読"と名づけたい.以下,今回調べた内容をリンクしてみた.読書の際に利用していただけると幸いです.
第1章  
  • ブラジル,ミナス・ジョイナス州(Estado de Minas Gerais)の解説  
  • Brazilian Diamonds(旧Black Swan Resources)のWebページ  
  • パトス・デ・ミナス (Patos de Minas)の地図  
  • 周大福のWebページ
    第2章  
  • パイロープ−ざくろ石
    第3章
  • ヴァール川:南アフリカ,orange riverの支流  
  • キンバリー:上空から見た写真  
  • プレミア鉱山(Cullinan Diamond Mine):南アフリカ,現在はカリナン鉱山  
  • オラパ(Orapa):ボツワナ,ダイヤモンド鉱山の航空写真
  • ジュワネン(Jwaneng):南アフリカ,ダイヤモンド鉱山の航空写真  
  • マッケンジー川(Mackenzie River):カナダ  
  • ノーマンウェルズ(Norman Wells):カナダ,川沿いの飛行場  
  • エクセター湖(exeter lake northwest territories canada):カナダ,航空写真  
  • イエローナイフ:カナダ
    第6章  
  • チャーターハウスストリート(17 Charterhouse st. city london):デビアスのロンドン本店
    第7章  
  • ハイデラバード(Hyderabad):インド  
  • ゴルコンダ(Golkonda, Golconda):インド,14世紀の王国の首都
  • ゴルコンダ:宮殿の航空写真  
  • コヒヌール(Kohinoor):有名なダイヤモンド  
  • ホープダイヤモンド:有名なダイヤモンド
    第8章  
  • ナマクアランド(Namaqualand):南アフリカ北西部一帯  
  • クラインシー(Kleinzee, Kleinsee):ナマクアランド内の都市
  • クラインシー:航空写真  
  • アレクサンダーベイ:南アフリカ,ナミビアとの国境の町  
  • ポートノロス(Port Nolloth):南アフリカ  
  • アーガイル鉱山(Argyle pipe):鉱山の解説
  • アーガイル鉱山ダイヤモンド鉱山の航空写真
    第11章
  • グジャラート州:インド
  • スーラト:インド
  • リオ・ティント(Rio Tinto):世界的な鉱山会社
  • ロージーブルー(Rosy Blue):インドのダイヤモンド会社
  • Bharat Diamond Bourse:ムンバイの新しいダイヤモンド取引所
    第12章
  • レイ(Rae):ドグリブ族の居住地
  • Snap Lake:カナダのデビアス所有の鉱山
  • 紛争ダイヤモンド
    その他
  • ダイヤモンドの基礎:ベルギー在住の日本人(?)
    (09/01/14)

  • 就活のバカヤロー,石渡嶺司・大沢仁,光文社新書,2008
     ずばり面白い.しかし,わが身を切られるようで痛いところも多々ある.名文句を2つ上げる.
    「就活=選考に通ることだと思い込んでいる.…回答はあってないも同然,点数もつかない.もちろん序列も生まれない.」
    「答えは出すものではなく,探すもの.」
    これらは「就活の座右の銘」と同時に「大学教育の座右の銘」として使える.結局,そういうことである. (08/12/29)

    数学で犯罪を解決する,キース・デブリン,ゲーリー・ローデン,山形,守岡訳,ダイヤモンド社,2008
     米国で放映されている人気ドラマ「NUMB3RS」の脚本に協力している二人の数学者(いずれも大学教授)による著書である.「NUMB3RS」は天才数学者の弟がFBI調査官の兄の事件の解決に協力するストーリーで,日本の某ドラマと少し似ている.しかし,リアリティではこちらに軍配が上がりそうだ.本書はドラマで取り上げた数学的手法の解説書となっていて,実際の犯罪捜査での例も示されている.
     十数年前にゆとり教育が議論された時,社会に出たら算数は役に立っても,数学は役に立たないので….という風潮があった.これは,数学を使うのは科学者かエンジニアに限定されると考えられていたからだ.しかし,金融が金融工学となり高度な数学を必要とするように,犯罪捜査も高度な数学が必須であることを本書は示している.そして,暗号も高度な数学を必要とするのは”暗号解読”に記述されている通りである.はっきり言おう.社会が数学を必要としている.
     日本では理系は”ネクラ”のイメージが付きまとう.しかし,このドラマの主人公の数学者は”かっこいい”のである.日本の理系の未来は”かっこいい”にかかっている.”ネクラ”のイメージを”かっこいい”に変えるヒントがこのドラマにはあった.主人公の数学者はともかく説明がうまい(ドラマだから当然だが).FBI調査官は,はっきり言えば数学の素人なのだが,彼らが理解しなければ,いくら数学が素晴らしくても捜査の役に立たない.捜査官達に説明するシーン,このシーンが”かっこいい”のである.そうだ!我々はこのシーンから”かっこいい”を学ばなければいけない."Awesome or Death!" この番組は日本ではCATV等に契約しないとなかなか見ることができないが,私は米国での学会出張の際にDVDを買って来て見ている.日本の理系の未来のためにぜひ地上波で放映を!(本の紹介から脱線したが,ドラマを見てくれれば本書は自然に手に取るはず.)(08/12/07)

    死因不明社会−Aiが拓く新しい医療−,海堂 尊,講談社ブルーバックス,2007
     「チームバチスタの栄光」の著者による死亡時画像病理診断(Ai)の啓蒙書である.Aiの定義,必要性,効果,現状,未来が描かれている.驚くのは死亡診断書にまつわる現状,解剖率の低迷(これは犯罪の温床を意味することが専門外の人間でも容易に想像がつく),厚生労働省(いや,あらゆる省庁,のみならず…)の無策である.飛行機などの事故による大量死は血のにじむような努力で原因究明がなされるので,それが当たり前のように思っていた.しかし,個人の死とはこんなにも弱いものだったのか.現代社会は「mass」が重要視されすぎている.「massこそ力」の考えはやがて「global」へと続いている.しかし,小さい個々の積み重ねによって得られる知見をおろそかにしてはならない.量だけを重要視する組織・社会はかならず滅ぶ.
     2005年のわずか1年間米国にいただけなので,米国の医療保険制度を批判する身分でないのは十分承知で敢えて述べたい.本書のp.234に「そんな当たり前のことができない医療制度はどこか間違っている.…経済効率優先で医療制度を構築した米国を無批判に後追いしている我が厚労省の愚作が原因….」とある.米国では1年間に3回ほど病院に行った.その地域には数多くの病院があり,私が訪れた病院もとてもきれいで立派でしかも空いていた.米国人にそのことを褒めたつもりで言ったら,「この国の社会保障はおかしい.」と痛烈に反論された.後で,医療保険制度がないため多くの人が病院に行けないことを知った.そういえば受け入れ先の大学では数十万円ほどの大学の医療保険に勧誘された.また,ある会合で,「アラブの石油王が入院して退院したら建物一つ寄贈した.その病院はサウジアラビアに事務所がある.」との話を伺った.その時は石油王のすごさに感心したが,良く考えてみればこの町に住んでいるたくさんの人はこの話をどういう思いで聞くのだろう.マイケルムーア監督の「シッコ」で描かれている社会を日本が模倣したらどうなるか.良く考えてみよう.「無知は罪」なのである.(08/08/30)

    チーム・バチスタの栄光,海堂 尊,宝島社,2006
    おもしろいので三日間で読み終わりました.ミステリーなのでこれ以上は書きません.退屈しているとき,例えば,骨折して自宅療養している時などの読書には最適です.(08/08/07)

    ケンブリッジのカレッジ・ライフ,安部悦生著,中公新書,1997
    安部氏は本学経営学部の教授であり,本書は安部氏より謹呈された.1992年3月から1993年9月までのケンブリッジ大学の滞在記となっている.私も1994年4月と1997年4月のそれぞれ1週間であるがケンブリッジのチャーチルカレッジに滞在したことがある.その時はこの不思議な大学とカレッジに惹かれたが,複雑な仕組みや習慣を理解することができなかった.国際会議では異例ともいえる3食全員集合や着席したバンケット.決しておいしいとはいえない食事.スポンジケーキに練乳をかける(!).寮の中にパブ.貧弱なシャワー.そして,UniversityとCollegeの関係.本書においてそれらすべてが取り上げられている上,私の間違った認識も改められた.ケンブリッジのカレッジでもおいしい食事はいただけるのだ.
    最近のイギリスの大学,特に工学系は,米国や他の先進諸国に圧倒された結果,随分体質が変わったと聞いているが,そこはイギリスのこと.まだまだ,ハリーポッターの光景が残っていることを期待してやまない.イギリス留学の参考書として一読をお勧めします. (2008/08/03)

    ロゼッタストーンの解読,レスリー・アドキンズ,ロイ・アドキンズ著,木原武一訳,新潮文庫
    エジプトの古代文字,ヒエログリフを解読したシャンポリオンの一生の物語である.素晴らしい発見であればあるほどその栄誉をめぐって争いが生じるが,ここでもその例に漏れない.この物語ではシャンポリオンのハッピーエンドで終わっているだけでなく,ライバルのヤングについてもその真の業績が示されていて,救われた気持ちになる.しかし,有名な科学的新発見の中にはハッピーエンドとならない物語も存在するのは事実(ここでは具体例は示さないが)であり,研究者の一人として考えさせられる問題である.
    本書の第9章「翻訳者」ではシャンポリオンのエジプト旅行が生き生きと描かれている.そこで,シャンポリオンと同じ道をインターネットを使ってバーチャルツアーしてみよう.まず,Google Earthをインストールする.このソフトは地球上の全ての場所を上から見ることができるだけでなく,その場所の情報を検索したり,写真を表示したりすることができる.ここでは,都市名を表示するだけなく,「レイヤ」の「ジオグラフィック ウェブ」で「Panoramio」と「Wikipedia」をチェックしておく.これにより,目的の場所を探すのが用意となる.
    次に文章に従って出てくる都市をGoogle Earthでさがすのであるが,その際,都市名の英語表記を知っていると便利である.私が調べた限りではあるが,それらは次の通り.
    ・Tura,Memphis,Saqqara,Beni Hasan,Dendera,Karnak,Luxor
    ・Aswan,Philae,Abu Simbel,Wodi Halfa,Kasr Ibrim
    ・Ramesses IV (Tomb KV2 at Valley of the Kings)
    なお,最後は有名な王の名前である.ぜひ,実際に試して欲しい.シャンポリオンの言葉が心にしみてくる.ちなみに,ここで出てくるヤングと材料力学で用いる材料定数の一つであるヤング率のヤングは同一人物 (2008/07/19)

    背信の科学者たち(論文捏造,データ改ざんはなぜ繰り返されるのか),ウイリアム・ブロード,ニコラス・ウェイド著,牧野賢治訳,講談社ブルーバックス
    私はプロの研究者であるから,論文を書くことによって自身の研究を世に広め,その結果を生活の糧としている.もちろん,大学に勤めている身であるから教育者でもあるが,大学での評価が研究に依存しているのは事実であるから,プロの研究者であることに違いはない.(ちなみに,そうではないと考える人も居る.)論文を書くという行為は自己表現の一部であって,その論文に欺瞞があればそれは自分自身に欺瞞があることになると考えている.それでは,欺瞞の定義とは何だろう.欺瞞の定義を知ることによって,いままで意識してこなかった論文を書くという行為の重みに逆に気がつかされることになった.幸か不幸か私が研究のテーマとしている分野は世間の脚光を浴びることは少ない(これは,私自身が自分の分野の研究が重要でないと考えているわけでは断じてない.)ので,本書で紹介されているような世間を騒がすような欺瞞の例を垣間見た経験はない.しかし,本書で述べられているように,現代の科学界における学協会や学会誌のシステムそのものが(知らず知らずのうちに)欺瞞の温床を作ってしまっているという主張には共感できる.確かにシステムの改善は必要であろう.しかし,科学界は善意なくして成立しないという認識の方が私は重要であると考える.プロの研究者となった全ての人に読んで欲しい本である. (08/05/11)

    ホノルル,ブラジル,管啓次郎,インスクリプト
    著者は明治大学理工学部総合文化教室の教授である.知っている人が書いたエッセイを読むというはじめの体験だった.読みながら著者の顔が浮かぶというのは悪くない.しかもこんなにも多彩な経験をお持ちだったとは知らなかったので,なおさらである.2年程前にある飲み会でたまたま隣に座った時「海外ではどのような場所に滞在されていたのですか?」と尋ねた事があった.その時,どことなく困った顔をされた記憶が残っている.この本を読めば,この質問が如何に愚問であるかがわかる.とても飲み会の席で説明できるような「短い話」ではないのである.ボストンでもブラジル料理を食することができる.しかし,本場にはかなわないだろう.今度,機会があったらアメリカ南西部に行ってみたいと思う.(06/12/31)

    国家の品格,藤原正彦,新潮新書
    科学,特に数学は論理が他の何よりも優先されます.論理的に正しくないものは認められないのです.しかし,社会は違います.善悪は論理だけでは判定できないのです.論理的に突き詰めても意味がない場合もあります.それでもなお科学を否定することはできませんし,その必要もありません.大切なことは多様性を認めることだと思います.今,世界の中で日本は確かに特殊な国だと思います.海外に出ると実感できます.しかし,このままで行くとone of themになってしまうでしょう.そのようにならないために教育を充実しましょう.教育だけが未来を作ります.

    憲法九条を世界遺産に,太田光・中沢新一,集英社新書
    タイトルから想像していた内容とは全く異なる,ある意味哲学書です.二人の対談集で,ところどころに(笑)の文字を見かけますが,とてもそれどころではない深い内容です.戦争やアメリカや宮沢賢治に対して全く中立でかつ鋭い意見にただただ脱帽です.「個人レベルの問題と国家レベルの問題を混同するのは間違っている.」その通りです.

    見えざる敵ウィルス,ドロシー,H,クローフォード,青土社
    工事中
    ヒトはなぜ人生の3分の1も眠るのか,ウィリアムデメント,講談社
    工事中
    脳を鍛える,立花隆,新潮社
    工事中
    ねじとねじ回し,ヴィトルト,早川書房
    工事中

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