推薦図書(数学)
数学で生命の謎を解く,イアン・スチュアート,水谷淳訳,ソフトバンク クリエイティブ社,2012
 生物の多様性が損なわれていることは,世界中の両生類が絶滅しつつあることからも明らかである.そのことは人類にどんな影響を及ぼすのか.全くないということはない.『ヒトゲノムはウィルス由来の配列を含んでいる.』,『多くの生物の遺伝的系統には,明らかな進化上の祖先よりもたくさんの生物種が関わっていることを,このことは意味している.』なのだから.
 生物の持っている形状の幾何学は不思議だ.ただ,ここでは,『第四の次元からやって来たウィルス』の章にある,『空間の次元とは,そのなかに属しているものを特定するのに必要な,互いに独立した座標の数である.』という記述が心を引いた.この章のかなりの部分は群論をマスターしていないと理解が困難であった. (2014/08/11)

数学でわかる100のこと,いつも隣の列のほうが早く進むわけ,ジョン,D,バロウ,青土社,2009
 本書はまるで関連のない話が数学を軸として100個も描かれている.副題はあくまでのその中の一つを取り上げただけであって,タイトルの方が内容を的確に表している.一つ一つの話題に対して数学的なアプローチで説明を試み,現象を文章だけで理解できるように工夫されているため,式が文章中に出てくるのは僅かでしかないが,一読で全てを理解するのはやはり難しい.それでも,理解できれば日常あるいは仕事で役に立つTipsがちりばめられている. 例えば,「33.公平な離婚調停−双方が納得できる解決策」では,様々な場面で使える財産(お金でも部屋の広さでも何でも良い)の分け方の説明がある.財産を二人で分けるのであれば,それらを一直線上に並べるというのがプロセスの第一歩であるが,この続きは本書を参照のこと.なお,三人以上ならそのプロセスはニューヨーク大学(といっても,バッファローとかストーニーブルクスとかいろいろあるけど)の特許というオチです. 他にも,「30.そんなことは信じない!」「32.秘書の問題」「81.損失回避」等は,お気に入りである.なお,「17.うわっつら」の球の体積に式の4πr3は4/3πr3の誤り. (09/08/23)

解読!アルキメデス写本(羊皮紙から甦った天才数学者),リヴィエル・ネッツ,ウィリアム・ノエル,吉田晋治監訳,光文社
 「アルキメデスは人類史上最も偉大な科学者である.」と言われても,王冠が純金かどうかを確かめる方法を見つけた人くらいのことしか思い浮かばない.ガリレオがアルキメデスへの賞賛を書き残していることも本書ではじめて知った.でも,それでも私は普通の人なのだ.著者の一人だって,最初はアルキメデスとピュタゴラスを取り違えていたのだから.
 本書はアルキメデスの写本を現代に甦らせるプロジェクトの物語である.薄汚れた羊皮紙の写本の中には判別不能になりかけた2000年以上前の知恵をこの世に甦らせるのだ.このプロジェクトで明らかになった一つに「ストマキオン」の章の最初のフォリオの内容がある.「ストマキオン」とはアルキメデスの時代のパズルだ.様々な形をした14個の小片を隙間なく詰め込んで正方形にする.もっと簡単なものならおもちゃ屋さんで買えるだろう.アルキメデスは答えがいくつあるかを”計算”したことが,本書で明らかにされる.図形の回転や置換で可能性を検討し,重複するものを削除する.基本的な概念は点群で学ぶものと同じだ.群論恐るべし.いや,恐るべしはアルキメデスのほうか….
 本書を読むことで「アルキメデスの数学の奥深さ」を知り,「古代の知識の継承の難しさ」を学び,「大いなる成功の裏にある偶然が重なっただけの脆さ」を理解できる.つまり,一冊で何度でもおいしいのである.それは専門がまったく異なる二人の著者が交互に幾何学と写本の歴史について渾身を込めて記述している本書の構成にある.著者の一人も告白しているように,二人をつないでいるのはアルキメデスに対する畏敬の念だ.二人だけでなく,このぼろぼろになってしまった写本を解読するという難事業に参加した全ての人たち共通の思いでもある.それほど,アルキメデスは偉大なのだ.そのこと,特に幾何学を我々が理解できるように解説してくれた著者の一人に感謝したい. (08/10/05)

フェルマーの最終定理,サイモン・シン,青木薫訳,新潮文庫
この本は数年前に単行本で読んでいたが,2006年に文庫本でも発刊された.これをきっかけにして再度読み直してみたのだが,やはり大変面白い.どのエピソードもとても興味深いのだが,ここでは結晶に関係した2つだけを紹介する.ひとつは「ペンローズのタイル張り」である.「1984年,ペンローズのタイル張りと同じ原理(並進対称性を持たないということ)の構造を持つアルミニウムとマンガンの合金が発見されたのである.」現在では準結晶と呼ばれているものであり,精力的に研究が行われている.もうひとつはケプラーの球体充填問題である.ここではfccが取り上げられているが,話は充填率に重きが置かれている.なお,ケプラー予想の経緯は別の書に詳しい.(しかし,同じような主題を取り扱っていても,こちらの方が圧倒的に面白い.)
8年間にわたって一つの問題に取り組むことがどんなに困難なことかを想像するに難くない.自分にそれができるのか自信はないし,比較すること自体がおこがましいのかもしれない.ただ,日本人の活躍にほっとするのも事実.最後に,科学書を一冊だけ推薦するとすれば,この本になるでしょう.(07/09/02)

なぜこの方程式は解けないか?,マリオ・リヴィオ,早川書房
私の本職は材料力学,破壊力学,材料強度学ですが,材料の変形に興味があります.金属材料の変形は結晶構造の影響を受けるため,x線回折や電子線回折によって結晶構造を調べたり,TEMで直接原子の並びを観察したりします.そこでは結晶群を知らなければなりません.そんなきっかけから群論を学ぶことになりました.この本に書かれているガロアの話はほかの本で読んだことがあったのですが,方程式を解くために群論ができたという話は感銘を受けました.「正二十面体の回転群と五次方程式の解の置換群が同型である.」今考えていることはいつの日か方程式で解けるのだろうか….ちなみに「37パーセントルール」は中古車選びから歯医者の選択にまで(人道的な観点を除けば結婚相手の選択も)使えるそうです.(07/09/02)

暗号解読,サイモン・シン,青木薫訳,新潮社
お勧めの一冊です.エニグマの仕組みは是非理解するまで何度も読んでください.まさに”機械式”暗号器の真骨頂です.(2005)
2007年7月に新潮文庫上下巻となり読みやすくなりました.改めて読み直したので読後感を追加します.特に興味を引いた話題は4つ.その中のひとつは上にも書いた「エニグマの解読」です.最初の3章はこの章の理解のためにあります.ただし,「ビール暗号」の話だけは異色です.本当にこの数字は書籍暗号なのでしょうか.「ナヴァホコード」とはある言語がそれを使わない人にとっては暗号として成立するという話です.内容はしんみりとしたものですが,英語でも苦しんでいる私にとっては暗号であるということに実感できます.ここから話は古代文字へと展開します.「線文字Bの謎」では古代の文字が解読できるまでの一例を理解しながら読むことができます.解読に必要なのは「論理」「知識」「推理」「運」ですね.まだまだ解読されていない古代文字があるそうです.最後に補遺が下巻にあるため,上下巻は同時に購入することをお勧めします.(07/09/02)

オイラーの贈物―人類の至宝eiπ=-1を学ぶ,吉田武,ちくま学芸文庫
数学の本としてはたいへんよくできています.文庫本というところも秀逸です.ただ,教科書に近いので,独習書と割り切って読んだ方が良いでしょう.電車の中でクロスワードパズルを解くなら,この本を読むことをお薦めします.
上の公式は2006年8月18日の「たけしの誰でもピカソ」でも取り上げられていました.

虚数の話,ポール・ナーイン,青土社
工事中
虚数 i の不思議,堀場芳数,講談社
工事中
円の歴史,ゼブロウスキー,河出書房
工事中
無限に魅入られた天才数学者たち,アミール,D,アクゼル,早川書房
工事中
美しくなければならない;現代科学の偉大な方程式,グレアム・ファーメロ,紀伊国屋書店
工事中
オイラー,フェルマン,シュプリンガ
工事中

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