振動波動論 第2回 本編

振動波動論 第2回 本編質問エネルギー積分の式変形単振動一般解の様々な表現についてn階の微分方程式と一般解形の一般解 (復習)形の一般解cos形とsin形の線形結合表現での一般解複素指数関数を用いた一般解 (線形結合表示)複素指数関数を用いた一般解の導出 (複素解)導出する解法の方針について複素解の導出複素解とcos形, sin形との一般解との対応単振動の一般解の様々な表現のまとめ単振動の幾何学的表示ペンデュラムウェーブ (余談)紹介問題解答このような単振り子群を実現するためには, の間にどのような関係があればよいか? の間の関係式を導出せよ各単振り子の長さを用いて記述せよ重ね合わせの原理原理重ね合わせの原理の成立を確認重ね合わせの原理が成り立たないケース (非線形項)非線形項非成立の確認非線形振動非線形振動としての単振り子概要エネルギー保存則の導出振り子の最下点からのポテンシャルエネルギーの導出周期の導出ポテンシャル中の運動一般的な力 の場合のエネルギーの概要単振動のポテンシャル一般的なポテンシャル (局所的には単振動になる場合)一般的なポテンシャル (単振動にならない場合)ポテンシャルが単振動になるかどうかのまとめ

 

質問

エネルギー積分の式変形

授業資料p7で mvdv/dtを1/2md/dt(v^2)の変換がよくわかりませんでした。

逆に式変形していった方がわかりやすいかもしれません:

md2xdt2dxdt=kxdxdtmd2xdt2dxdt+kxdxdt=0m(ddtdxdt)dxdt+kxdxdt=0mdvdtv+kxdxdt=0        (v=dxdt)mvdvdt+kxdxdt=0  m12ddt(v2)=m12(2vdvdt)=mvdvdt  m12ddt(x2)=m12(2xdxdt)=mxdxdtm12ddt(v2)+k12ddt(x2)=0ddt(m2v2+k2x2)=0

 

 

 

単振動

一般解の様々な表現について

前回は, 一般解をcos形で記述していた. これはsin形や複素指数関数を利用した形に書き換えることができる. ただし, どれも本質的には同じで一般解が数種類あるわけではないことに注意.

 

n階の微分方程式と一般解

一般解: あらゆる初期条件に対応できる解のこと. あらゆる初期条件の可能性は任意定数で表現する.

n階の微分方程式: 最大n階までの微分を含む方程式

n階の微分方程式には「一般解がn個の任意定数を含む」という性質がある.

 

cos形の一般解 (復習)

前回と同様に, 下図のようなバネによるおもりの微小な単振動で考える.

simple-harmonic-oscillation_spring_solution

運動方程式:

md2xdt2=kx

から計算していき, 前回同様にエネルギー積分すると

md2xdt2dxdt=kxdxdtmd2xdt2dxdt+kxdxdt=0mvdvdt+kxdxdt=0        (v=dxdt)m12ddt(v2)+k12ddt(x2)=0ddt(m2v2+k2x2)=0  ddt(m2v2+k2x2)dt=0dtm2v2+k2x2=C        (C:)m2(dxdt)2+k2x2=C

となる. さらに, これも前回同様に C=k2A2とおいて変数分離すると

m2(dxdt)2=k2(A2x2)dxdt=±km(A2x2)1A2x2dx=±kmdt  1A2x2dx=±kmdtcos1xA=±(kmt+ϕ)    (ϕ: 積分定数)  xA=cos(±(kmt+ϕ))x=Acos(±(kmt+ϕ))(1)  x=Acos(ωt+ϕ)    (ωkm, cos(θ)=cosθ)

となり, cos関数を用いた一般解となる.

 

sin形の一般解

(1) において, ϕは積分定数のため, 任意の値であるから, ϕϕπ2 と置きかえても良い. 実際に置き換えると, 式 (1)

(2)x=Acos(ωt+ϕπ2)

となる.

cosの加法定理

cos(α±β)=cosαcosβsinαsinβ  cos(απ2)=cosαcosπ2+sinαsinπ2=sinα

したがって, 式 (2) sin関数を用いた一般解 :

(3)x=Asin(ωt+ϕ)

となる.

cos形の式(1)sin形の式(3)の両者は書き換えを行ったにすぎず, 本質的には同じものである. 一般解が2通り存在するわけではないことに注意.

 

cos形とsin形の線形結合表現での一般解

(1) : x=Acos(ωt+ϕ) において, cosの加法定理 : cos(α±β)=cosαcosβsinαsinβ を適用すると,

x=Acos(ωt+ϕ)=AcosωtcosϕAsinωtsinϕ

となる. ここで, 任意定数 A,ϕ を別の任意定数 A1Acosϕ, A2Asinϕ に置き換えれば,

cos形とsin形の線形結合表現の一般解 :

(4)x=A1cosωt+A2sinωt

となる. これも書き換えを行ったにすぎず, 本質的にはcos形の式(1)sin形の式(3)と同じものである.

 

複素指数関数を用いた一般解 (線形結合表示)

単振動の一般解は複素数の指数関数 (複素指数関数) でも表現できる. 物理の量子論などではこちらを使用することが多い.

cos形とsin形の線形結合表現の一般解の式 (4) において,

  • 実数xを複素数z=x+iyに拡張し,

  • 実数の任意定数 A1,A2 を複素数の任意定数 C1A1+iB1,C2A2+iB2    (B1,B2:) に拡張し,

  • 三角関数の複素指数関数表示の式 : cosθ=eiθ+eiθ2, sinθ=eiθeiθ2i を適用する

とすると,

x=A1cosωt+A2sinωt    z=C1cosωt+C2sinωt=C1eiωt+eiωt2+C2eiωteiωt2i=C1eiωt+eiωt2iC2eiωteiωt2=C1iC22eiωt+C1+iC22eiωt

となる. ここで, 複素数の任意定数C1, C2 を, 別の複素数の任意定数 C1C1iC22, C2C1+iC22 に置き換えると

複素指数関数を用いた一般解 (線形結合表示) :

(5)z=C1eiωt+C2eiωt

となる.

 

実際, 三角関数ではなく, 複素指数関数を用いて計算する理由の1つとしては, 計算の簡便さがある. この場合, 複素指数関数を用いた一般解の式 (5) が何らかの計算から得られ, それを現実として我々が認知できる実数空間に変換する必要がある.

具体的には, 複素数zと元の位置座標xとが z=x+iy という関係にあることから, zの実部がxに対応する:

Rez=x

したがって, 複素指数関数を用いた一般解 (5) が得られたのなら, その式の実部をとってやれば, 元の位置座標 x となる. 実際に計算してみると

x=Rez=Re[C1eiωt+C2eiωt]=Re[C1iC22(cosωt+isinωt)+C1+iC22(cos(ωt)+isin(ωt))]      (C1=C1iC22, C2=C1+iC22,: eiθ=cosθ+isinθ)=12Re[(C1iC2)(cosωt+isinωt)+(C1+iC2)(cosωtisinωt)]=12Re[C1cosωtiC2cosωt+C1isinωtiC2isinωt+C1cosωt+iC2cosωtC1isinωtiC2isinωt]=12Re[C1cosωtiC2cosωt+iC1sinωt+C2sinωt+C1cosωt+iC2cosωtiC1sinωt+C2sinωt]=12Re[(C1cosωt+C2sinωt+C1cosωt+C2sinωt)+i(C2cosωt+C1sinωt+C2cosωtC1sinωt)]=12Re[2(C1cosωt+C2sinωt)+i0]=Re[C1cosωt+C2sinωt]=Re[(A1+iB1)cosωt+(A2+iB2)sinωt]=Re[A1cosωt+iB1cosωt+A2sinωt+iB2sinωt]=Re[(A1cosωt+A2sinωt)+i(B1cosωt+B2sinωt)]=A1cosωt+A2sinωt

となり, cos形とsin形の線形結合表現の一般解の式 (4) に帰着することが確認できた.

 

複素指数関数を用いた一般解の導出 (複素解)

複素指数関数表現の一般解として, よく使われる形がもう1つあるため, それも導出しておく. 今回は, これまでに得られた一般解の式変形によって導出するのではなく, あえて単振動の共通の運動方程式から導出してみる.

導出する解法の方針について

具体的には「複素関数の微分方程式の複素解を考え, その実部 or 虚部が単振動として現れる」という方針で導出する.

すなわち, 単振動の共通の運動方程式

d2xdt2=ω2x

を複素関数z(t):

z(t)=x(t)+iy(t)      (x(t), y(t):)

を用いて拡張した:

(6)d2zdt2=ω2z

という複素関数の微分方程式の複素解を考えるということである.

(6)は, 線形な微分方程式であることから, 左辺にまとめると

(d2xdt2+ω2x)+i(d2ydt2+ω2y)=0

となる.

複素数が0になるということは, 実部も虚部も共に0になることと等価である. ゆえに,

d2xdt2+ω2x=0d2ydt2+ω2y=0

が同時に成立しなければならない. これらの式は, これまでにやってきた単振動の計算と数学的には全くの等価である.

したがって, 複素関数の微分方程式だと思って複素解を求めた後に, その実部 or 虚部をとってやっても単振動の解として成立することがわかる.

 

複素解の導出

実際に複素関数の微分方程式:

d2zdt2=ω2z

の複素解を導出していく. zを2階微分して, またzになるため, 解を指数関数型:

z=CeΛt     (C,Λ:)

と仮定し, 代入すると,

C(Λ2+ω2)eΛt=0

となる.

ここで, C=0は意味のない解であり, eΛtは (指数が負の無限大でない限り) 0にはならないため,

Λ2+ω2=0

となるようにΛを決めればよい. したがって,

Λ=±iω

となる.

Λ=iωの場合を考えると,

z=Ceiωt

となる.

複素平面, 複素数の極座標表示の際にやったように, 任意の複素数C

C=Aeiϕ   (A,ϕ:)

と置くことができるので, これを代入すると

複素指数関数表現の一般解 (複素解):

z=Aeiϕeiωt=Aei(ωt+ϕ)

が導出できた.

また, この複素解は, 下図のように複素平面上の円運動と対応する.

complex-plane-circle

 

複素解とcos形, sin形との一般解との対応

あとは, この複素解の実部をとってやれば良い.

オイラーの公式から

z=Aei(ωt+ϕ)=A(cos(ωt+ϕ)+isin(ωt+ϕ))

となることから, 複素解zの実部Re z

Re z=Acos(ωt+ϕ)

となり, cos形の一般解と対応することが確認できた.

 

また, 虚部をとってやれば, 複素解zの虚部Im z

Im z=Asin(ωt+ϕ)

となり, sin形の一般解と対応することが確認できた.

 

単振動の一般解の様々な表現のまとめ

cos形の一般解

x=Acos(ωt+ϕ)   (A,ϕ:任意定数)

sin形の一般解

x=Asin(ωt+ϕ)   (A,ϕ:任意定数)

cos形とsin形の線形結合表現での一般解

x=A1cosωt+A2sinωt   (A1,A2:任意定数)

複素指数関数表現での一般解 (線形結合表示)

z=C1eiωt+C2eiωt   (C1,C2:複素数の任意定数)

複素指数関数表現の一般解 (複素解):

z=Aei(ωt+ϕ) Re z=Acos(ωt+ϕ)Im z=Asin(ωt+ϕ)

 

単振動の幾何学的表示

円運動は数学的にcos,sinで表される. したがって, 単振動を円運動で表現することができる.

半径A, 初期角度ϕ [rad], 1秒あたりの回転角度がω [rad/s]という速度で回転する, 等速円運動を考える.

下図にその円運動を示す.

simple-harmonic-osc-circle

この円運動の位置のx成分やy成分に単振動が対応している.

x(t)=Acos(ωt+ϕ)y(t)=Asin(ωt+ϕ)

また, 上記の円運動のx,y 平面を複素平面と捉えれば, そのまま複素指数関数表示の図と対応する.

以上のことから, 一般解の表現はcos形, sin形, 複素指数関数表示等のどれでも本質的には同じであることが示された.

 

また, 円運動と単振動の対応から, ϕ, ωの意味も

文字円運動単振動
ϕ初期角度初期位相
ω1秒あたりの回転角度角振動数

と対応がつく.

 

ペンデュラムウェーブ (余談)

紹介

前回紹介したように, 単振動 (単振り子の微小振動) の角振動数はω=gl であったので, 単振り子の周期は T=2πω=2πlg となり, 紐の長さによってのみ変化するものであった.

実際, 紐の長さが異なる独立な単振り子を, 同じ位置から同時に振動開始させると, 各単振り子はそれぞれの周期でバラバラに振動する.

しかし, 各単振り子の紐の長さをある特定の条件に沿ったものにすると, 単振り子群が揃ったり揃わなかったりと, 視覚的に興味深いパターンを見せる. この特徴的な単振り子群はペンデュラムウェーブと呼ばれる.

実際の例が下図である:

YouTubeリンク

 

では, 「各単振り子の紐の長さをある特定の条件に沿ったもの」とは何だろうか? ペンデュラムウェーブを下記の問題と捉え直して実際に各紐の長さを求める.

 

問題

紐の長さが異なる独立な単振り子をN個用意する. n番目の単振り子の長さをln  (ln1>ln)とし, 振れ角をθn, 周期をTnとする. これらの単振り子を微小な振れ角 θ だけ傾けて手で固定し, 静止させる. その初期状態から一斉に手を放し, 同時に微小振動させるとする. この時,

(1) 最初は各振り子が同じ振れ角で振動開始するが, (2) 段々とずれていき, (3) Tall2秒後にnが奇数番目の単振り子同士, 偶数番目の単振り子同士の振れ角が等しくなり, (4) Tall秒後には全ての単振り子の振れ角が再び等しくなり, そこから再度ずれて振動していく

となるようにしたいとする (下図はn=10,...,30についての横軸 θn, 縦軸 n でのプロット).

(1)(2)(3)(4)
oscillations_TAll40.0_t0.00oscillations_TAll40.0_t0.25oscillations_TAll40.0_t20.00oscillations_TAll40.0_t40.00
ペンデュラムウェーブ (t=0, 0.25, 20, 40で一時停止)
  1. このような単振り子群を実現するためには, TnTall の間にどのような関係があればよいか? TnTall の間の関係式を導出せよ

  2. 各単振り子の長さlnTallを用いて記述せよ

 

解答

このような単振り子群を実現するためには, TnTall の間にどのような関係があればよいか? TnTall の間の関係式を導出せよ

Tall秒経過の時点で, n番目の単振り子がちょうどn回振動すれば良いので,

Tall=nTn

という関係式を, 各単振り子が満たせばよい.

各単振り子の長さlnTallを用いて記述せよ

単振り子の周期は T=2πlg と記述できるので

Tn=2πlng  ln=g(Tn2π)2=g(Talln2π)2    ( Tall=nTn)(7)=g(Tall2πn)2

となる.

全体が40秒周期で揃うような単振り子群を作りたいと考えた場合, Tall=40[] となるので, 各単振り子の紐の長さ ln は式 (7) より, 各番号 n に応じて下表のようにすれば良い.

番号 n12345678910
ln [m]40.528510.13214.50322.53301.62111.12580.82710.63330.50040.4053
番号 n11121314151617181920
ln [m]0.33490.28140.23980.20680.18010.15830.14020.12510.11230.1013
番号 n21222324252627282930
ln [m]0.09190.08370.07660.07040.06480.06000.05560.05170.04820.0450

この内, nが10番目から30番目までをピックアップし, シミュレーションしたものが上記動画である. (PCの処理能力のせいでシミュレーション内部の時間周期 TAll=40 秒と, 実時間としての周期 約60秒 とが異なっているので注意)

ピックアップせずに, 上表のすべて (nが1番目から30番目まで) についてシミュレーションさせてみると下記動画のようになる.

 

重ね合わせの原理

原理

単振動の共通の運動方程式 :

(8)d2xdt2=ω2x

これは, 両辺ともにxの1次なので, 線形微分方程式である.

非線形の例 : x2, xdxdt, sinx ...

この時, 線形微分方程式の性質として 重ね合わせの原理 : 解の重ね合わせ (複数の解の線形結合) も解になる が成り立つ.

すなわち, ある線形微分方程式の2つの解x1, x2に対し, その線形結合 :

ax1+bx2   (a,b:)

も, 元の方程式の解となるということを意味する.

 

重ね合わせの原理の成立を確認

実際に, 単振動の共通の運動方程式 (8):

d2xdt2=ω2x

において, 重ね合わせの解が導かれることを確認する.

2つの解をx1, x2とすると, 

(9)d2x1dt2=ω2x1(10)d2x2dt2=ω2x2

という2つの等式が成り立つ.

任意定数a, bに対し, a倍した式(9)と, b倍した式(10)を足し合わせると

ad2x1dt2+bd2x2dt2=aω2x1+bω2x2

となり, 両辺をまとめると

(11)d2(ax1+bx2)dt2=ω2(ax1+bx2)

となる.

この式 (11) は, 単振動の共通の運動方程式 (8)と同じ形である. したがって, ax1+bx2も元の運動方程式 (8)の解となり, 解の重ね合わせが確認できた.

 

重ね合わせの原理が成り立たないケース (非線形項)

非線形項

元の微分方程式に非線形な項が含まれていると, その解には重ね合わせの原理が成り立たない.

非線形項が含まれるような振動現象は, 非線形振動, 非調和振動などと呼ばれる.

非線形の例 : x2, xdxdt, sinx ...

 

非成立の確認

具体的に確かめてみる.

例として

(12)d2xdt2=cx2

という非線形微分方程式を考える. ここで, cx2の部分がxについての非線形項である.

この微分方程式 (12)の解がx1, x2 (0) であったとすると,

(13)d2x1dt2=cx12(14)d2x2dt2=cx22

が成り立つ.

 

簡単のため, これらの重ね合わせの解として x1+x2が存在すると仮定する.

この重ね合わせの解 x1+x2を, 元の微分方程式 (12) に代入すると,

(15)d2(x1+x2)dt2=c(x1+x2)2

となる.

両辺を分解すると,

d2x1dt2+d2x2dt2=cx12cx222cx1x2

となる.

ここで, 解x1, x2に関する方程式 (13), (14)が成り立つため,

(d2x1dt2+cx12)+(d2x2dt2+cx22)=2cx1x2

と整理した場合の左辺は0になる.

一方, x1, x2はそれぞれ無意味な解 (0) ではないため, 右辺の 2cx1x2 は0にはならない.

したがって, 2cx1x2 という余計な項により, 仮の重ね合わせの解 x1+x2を代入した式 (15) の不成立が確かめられた.

ゆえに, 非線形微分方程式 (12) には x1+x2といった重ね合わせの解が存在しないことが確認できた.

 

a, bという任意定数を考えた場合,

  • ax1+bx2という重ね合わせの解が存在するならば, x1+x2という重ね合わせの解が存在する

が成り立つ.

しかし, 上記のように, 非線形微分方程式においては x1+x2という重ね合わせの解が存在しない. したがって, その対偶である

  • x1+x2という重ね合わせの解が存在しないのであれば, ax1+bx2という重ね合わせの解が存在しない

が成り立つ.

ゆえに, 非線形微分方程式において, ax1+bx2という重ね合わせの解は存在しないことが確認できた.

 

非線形振動

非線形振動としての単振り子

概要

非線形項の例は

x2, xdxdt, sinx ...

などが挙げられる. xの1次以外, ということなので, その種類は非常に多い.

例えば, 以前に紹介した単振り子も, その振動角が微小でない場合は非線形項が残る.

simple-pendulum_solution

x方向の運動方程式が

(16)md2xdt2=mgsinθ

であり, 振り子の弧について x=lθ と置き換えることで

(17)d2θdt2=glsinθ

と整理した. 以前はここで微小振動ゆえの近似 sinθθ を行ったことで,

(18)d2θdt2glθ

という単振動の共通の運動方程式への帰着を確認した.

しかし, 微小振動でない場合は, 式 (17) のように非線形であるため, 単振動とはならないことに注意が必要である. 前回「微小振動」とあえて明記していたのはこのためである.

 

(17) の単振り子現象についての具体的な計算は完全楕円積分を使う (導出は後述). ただし定性的な面から考えると, ブランコ等で経験的に知っているように, 振動角が大きい単振り子もやはり振動現象となる. 微小振動の単振り子とのわかりやすい差異は周期である.

微小振動の単振り子の周期T0

(19)T0=2πω=2πlg

のように, 紐の長さのみに依存する. しかし, 振動角が大きい場合は, その最大振動角 (最大振幅) にも依存するようになる. 最大振幅が大きいほど周期が大きくなり, 振り子の等時性が成り立たなくなる.

 

エネルギー保存則の導出

元の運動方程式 (16)x=lθ と置き換え左辺に集め,

mld2θdt2+mgsinθ=0

とする.

ここからエネルギー積分を行う.

 

ちなみに, エネルギー積分の計算過程で, 速度をかけて時刻で積分 ([Nmss]) と計算する心は, エネルギーの次元 (仕事と同じ [Nm]) に合わせるためである.

すなわち, 仕事が

(W)=F(x)dx   [Nm]

であるから, 微小な移動量 dx

(dx)=(tdxdt)(dt)

として置き換えると

(W)=F(x)dxdtdt   [Nmss]

となる. このため, 速度をかけて時間で積分することでエネルギー次元の式が導出できる.

 

本題に戻り, 左辺に集めた運動方程式にx方向の速度vx(t)=dxdt=ldθdtをかけ, 時刻tで積分すると

ml2d2θdt2dθdtdt+mglsinθdθdtdt=0 dtml22ddt((dθdt)2)dt+mglsinθ dθ=0 dt

となり,

12m(ldθdt)2mglcosθ=C   (C:)(20)12m vx(t)2mglcosθ=C

のようにエネルギー保存の式が求められる.

 

振り子の最下点からのポテンシャルエネルギーの導出

(20) の左辺 第1項 (12m vx(t)2) が運動エネルギー, 左辺 第2項 (mglcosθ) が位置エネルギー (ポテンシャルエネルギー) である.

この保存則は任意の時刻で成立する. したがって, 振り子のある時刻での点 (θ, t) と振り子の最下点 (θ=0, t=t0) とを比較すると,

12m vx(t)2mglcosθ=12m vx(t0)2mglcos0  12m vx(t)2+mgl(1cosθ)=12m vx(t0)2

となる. この左辺 第2式 mgl(1cosθ)は, 振り子の最下点を基準とした位置エネルギーである. したがって, 最下点の時刻の運動エネルギー (右辺) が, 角度が大きくなるにつれ, 運動エネルギーと位置エネルギー (左辺) に分配されていくと解釈できる.

pendulum-potential

 

周期Tの導出

具体的に周期Tを導出していく.

(20) において, 任意の時刻tと, 最大振動角 (最大振幅) θmaxとなる時刻 t1とを比較すると,

12m(ldθdt)2mglcosθ=12m(ldθmaxdt)2mglcosθmax

となる. 時刻t1において, x方向の速度は0のため

dθmaxdt=0

となるから, 整理すると,

12m(ldθdt)2mglcosθ=mglcosθmax12ml2(dθdt)2=mgl(cosθcosθmax)(dθdt)2=2gl(cosθcosθmax)dθdt=±2gl(cosθcosθmax)

となる. ここで, cosの倍角公式 cos2α=12sin2α から

cosθcosθmax=(12sin2θ2)(12sin2θmax2)=2sin2θ2+2sin2θmax2(21)=2(k2sin2θ2)    (  ksinθmax2)

となるので,

dθdt=±2gl(k2sin2θ2)

となる.

θtとでの変数分離:

dt=±12lg1k2sin2θ2dθ

をし, それぞれ積分する. 振動現象なので, 最下点 θ=0から最大振動角 θ=θmaxまで積分することは, 時間にして T4 (周期の4分の1) に相当する. したがって, 積分は

0T4dt=12lg0θmax1k2sin2θ2dθ(22)T4=12lg0θmax1k2sin2θ2dθ

となる. ここで,

sinθ2ksinϕ

とおくことにする. この置き換えの両辺をϕで微分すると

12cosθ2dθdϕ=kcosϕ

となり, dθについての式に整理すると,

dθ=2kcosϕ1cosθ2 dϕ=2kcosϕ11sin2θ2 dϕ=2kcosϕ1k2sin2ϕ dϕ

となる. これを式 (22) に代入しようとすると, 積分範囲は

  • θ=0 の場合

sinθ2ksinϕ より,

sin02=ksinϕ    0=ksinϕ    sinϕ=0    ϕ=0
  • θ=θmax の場合

sinθ2ksinϕ より,

sinθmax2=ksinϕsinθmax2=sinθmax2sinϕ    (  (21), ksinθmax2)    sinϕ=1    ϕ=π2
変数θϕ
上限θmaxπ2
下限00

と変わる.

したがって, 式 (22) T4=12lg0θmax1k2sin2θ2dθ の周期Tは, sinθ2=ksinϕ, dθ=2kcosϕ1k2sin2ϕ dϕ より

T=412lg0π21k2k2sin2ϕ2kcosϕ1k2sin2ϕ dϕ=4lg0π211k2sin2ϕ dϕ

となる. これは, 第1種完全楕円積分:

K(k)=0π211k2sin2ϕ dϕ=π2n=0((2n1)!!(2n)!!)2k2n

に他ならない.

(2n)!!は2重階乗を示し,

(2n)!!=(2n)(2n2)(2n4)42(2n1)!!=(2n1)(2n3)(2n5)31(1)!!1

のように, 偶数なら偶数のみの階乗, 奇数なら奇数のみの階乗を指す.

したがって, 非線形振動としての単振り子の周期T 非線形振動としての単振り子の周期T :

T=4lgK(k)=2πlgn=0((2n1)!!(2n)!!)2k2n=2πlgn=0((2n1)!!(2n)!!)2(sinθmax2)2n(23)=2πlg(1+(1!!2!!)2sin2θmax2+(3!!4!!)2sin4θmax2+)

と導出できた.

 

微小振動の場合の単振り子 (単振動) の周期T0は, 式 (19) より, T0=2πω=2πlg のように, 紐の長さ l のみに依存していた. しかし, 振動角に制限のない非線形振動の場合は, 式 (23) のように θmaxも寄与していることがわかる.

また, θmaxが十分小さい場合, 式 (23)θmaxの高次項が消え, 単振り子 (単振動) の周期T0に帰着することもわかる.

 

振り子の周期Tの振動角依存性を見るために, TT0の比 Tratio :

TratioTT0=2πK(k)=n=0((2n1)!!(2n)!!)2(sinθmax2)2n

を考える. θmax[0,π2]でグラフにしてみると,

pendulum_theta_max_vs_period-ratio

となる.

θmax=0ではT0と一致するが, θmax を大きくするにつれ, その差がどんどん大きくなることが確認できる.

ポテンシャル中の運動

一般的な力 f(x) の場合のエネルギーの概要

一般的な力 f(x) がかかる運動方程式:

md2xdt2=f(x)

について考える.

両辺にdxdtをかけ, 時刻tで積分すると

md2xdt2dxdtdt=f(x)dxdtdt12mddt(dxdt)2dt=f(x)dx12mdv2dtdt=f(x)dx    (  v=dxdt)12mv2C=f(x)dx    (  C:)

となり, エネルギー保存則:

(24)12mv2f(x)dx=C

となる. ここで, 左辺 第2項を ポテンシャル:

U(x)=f(x)dx

と書くとき, このU(x)を系のポテンシャルエネルギー, あるいはポテンシャル, 位置エネルギーという.

このように, 力の積分がポテンシャルエネルギーなのだから, 両辺 x で微分すれば ポテンシャルと力:

f(x)=dU(x)dx

も成り立つ. また, エネルギー保存則 (24) の左辺 第1項を 運動エネルギー:

K=12mv2

と呼ぶ. したがって, エネルギー保存則 (24)

K+U(x)=C

と書き換えられる. この運動エネルギーKと位置エネルギーU(x)の和を 力学的エネルギー:

E=K+U

と書く. Eはもともと積分定数 C だったので時刻に依らず, 一定である.

このように, 力が位置だけで決まる1次元の運動においては, 力はポテンシャルから導かれ, 全エネルギーは保存され, エネルギー保存の法則が成り立つ. また, その力を保存力と呼ぶ.

2次元, 3次元の運動では, 保存力は下記のようにもう少し厳密に定義される.

保存力 (より厳密な定義) : ある物体が力Fによって, 点P1から点P2へと移動した場合, その力がなす仕事W

W=P1P2Fdr

となる. ここでWが経路によらず一定の場合, その力Fを保存力と呼ぶ.

また, その場合のポテンシャルをU(r)とする場合, 保存力F

F=U(r)=(Ux,Uy,Uz)

と記述できる.

p1p2

 

単振動のポテンシャル

md2xdt2=mω2xmd2xdt2+mω2x=0md2xdt2dxdt+mω2xdxdt=012mddt((dxdt)2)+12mω2dx2dt=012mddt((dxdt)2)dt+12mω2dx2dtdt=0dt12m(dxdt)2+12mω2x2=C12mv2+12mω2x2=C    (  vdxdt)

単振動のエネルギーは

:  12mv2:  12mω2x2

となり, ポテンシャルは下図のような放物線を描く.

energy_simple-oscillation

位置xにおいてポテンシャルからかかる力は

f(x)=dU(x)dx

である. したがって, ポテンシャルの傾きに応じて, 内側の方向 (上図ならx方向) の力がかかっている.

 

一般的なポテンシャル (局所的には単振動になる場合)

一方, 下図のような, より複雑なポテンシャルの中での運動も考えられる.

energy_general-potential

この場合でも基本的には位置xにおいてポテンシャルからかかる力が

f(x)=dU(x)dx

であるため, ポテンシャルの傾きに応じて, x方向の力がかかっている. そして, 極小点x0を中心に振動する. ポテンシャルの形が放物線ではないため, 単振動ではない. 例えば, 伸び切ったバネによる振動などが挙げられる.

しかし, このような場合でも, 極小点x0 近傍では放物線とみなせることが多い. そのような場合, その微小な振動は単振動となる. これが多くの現象に単振動を見出すことができる理由である.

 

一般的なポテンシャル (単振動にならない場合)

一見すると放物線のようだが, 極小点x0付近で平坦になっている場合も考えられる. すなわち,

d2U(x0)dx2=0

のように, 凹凸がない場合である.

energy_general-potential-flat

この場合, ポテンシャルの概形が放物線ではないため単振動でないだけでなく, 極小点近傍でも放物線にはならないため単振動にはならない.

 

ポテンシャルが単振動になるかどうかのまとめ

以上の例で確認したように,

  • 変数xが大きく, ポテンシャルの概形が放物線ではない場合

  • 極小点x0近傍が d2U(x0)dx2=0 のように平坦で, 放物線とならない場合

には, 単振動にはならない.

 

 

 

Index