振動波動論 第1回 本編
振動波動論 第1回 本編自由度 (degree of freedom)質点例位置ベクトル, 速度, 加速度位置ベクトル速度加速度振動波動現象の例自由度ごとの例自由度1自由度2身近な振動現象の例自然界の例工業的な例普遍的な現象共通の運動方程式バネによる単振動運動方程式一般解一般解の導出単振り子次回以降の準備 (複素数と三角関数)複素数, 複素平面 (詳細版)複素数の歴史複素数に至るまでの数の拡張複素数の四則演算共役 (きょうやく)絶対値複素平面複素数の各性質の複素平面上の対応オイラーの公式式導出される公式極形式複素数, 複素平面 (ざっくりまとめ版)三角関数と複素指数関数複素指数関数複素指数関数の三角関数表現
自由度 (degree of freedom)
質点
大きさを無視できるような物体を記述する場合, その物体を質点と呼ぶ → 質点と呼べるかどうかは具体的な条件による
例
地球
OK : 太陽の周りの公転を記述する場合
NG : 地球自体の自転を記述する場合
位置ベクトル, 速度, 加速度
位置ベクトル
空間における質点の位置を示す. 自由度によって変数の数が異なる
自由度 : ある系の位置を一意に決定するために必要な独立な量の個数
自由度1 :
自由度2 :
自由度3 :
自由度1 | 自由度2 | 自由度3 |
---|---|---|
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速度
位置ベクトルの時間の1階微分 :
加速度
位置ベクトルの時間の2階微分 :
振動波動現象の例
自由度ごとの例
自由度1
バネによる単振動 | バネにつるしたおもりの単振動 | 単振り子 | 水面に浮かぶ浮きの上下運動 |
---|---|---|---|
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自由度2
2連のバネ振動 | 2重振り子 | 回る振り子 |
---|---|---|
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身近な振動現象の例
自然界の例
原子, 分子の振動 (熱等)
惑星の公転, 自転
心臓の鼓動
光 (電磁波)
水面波
地震
音
工業的な例
時計の振り子
モーターの回転
EMS (低周波治療機)
触覚伝送 (低周波)
普遍的な現象
上記の各現象は, 変数は違うが, どれも振動現象として扱うことができる. → (細かいファクターを抜きにすれば, ) 共通の運動方程式で記述可能 → 普遍的な現象といえる
共通の運動方程式
単振動現象に共通して現れる式を 共通の運動方程式 :
と呼ぶ.
以下で, 実際に具体例を見ていく
バネによる単振動
例として, 下図のようなバネによる単振動の微小振動について考える.
おもりの質量を
運動方程式
上図では, 振動中心よりも
となる.
これは
一般解
この運動方程式を解き, 位置
となる. これを一般解と呼ぶ. 各変数, パラメター, 特徴的な物理量については下記の通り.
変数 | パラメタ | 特徴的な物理量 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
名称 | 時刻 | 位置 | 振幅 | 角振動数 | 初期位相 | 位相 | 周期 | 振動数 |
単位 | s | m | m | 1/s | 無次元 | 無次元 | s | Hz = 1/s |
文字 |
ゆっくりな振動 | 素早い振動 |
---|---|
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一般解の導出
実際に運動方程式
から一般解を導出していく.
ここでは,
(0) 運動方程式 (
両辺に
時刻
となり, エネルギー保存の式が導出された:
変数分離して積分
ここで
とおくとする.
さらに,
となり, 一般解
定義式
で記述でき, バネによる単振動が共通の運動方程式
角振動数
復元力のパラメタ: | 質量 (慣性): | 角振動数: | 位置: | |
---|---|---|---|---|
バネ強い = | そのまま | → | 素早い振動 | |
バネ弱い = | そのまま | → | ゆっくりな振動 | |
そのまま | 質量小さい = | → | 素早い振動 | |
そのまま | 質量大きい = | → | ゆっくりな振動 |
このように, 共通の運動方程式の形で記述することにより, 各系の特性を知ることができる.
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単振り子
別の例として, 下図のような単振り子の微小振動について考える.
おもりの質量を
おもりにかかる力は下図の通り.
となる. ここから, エネルギー保存の式を導出する.
式
となる.
さらに,
と書けるが, 微小振動では
とみなせる.
ゆえに, 式
となり, 微小振動として近似された運動方程式となる.
ここで
両辺に
となり, エネルギー保存の式が導出された.
次に, 振幅を
エネルギー保存式
変数分離して積分
ここで
とおくとする.
さらに,
が導出できた.
この一般解の振動数は,
また, 定義式
と記述でき, 単振り子の場合も共通の運動方程式
次回以降の準備 (複素数と三角関数)
ここまでは単振動の解を
以下は詳細版とざっくりまとめ版の2段構成になっている. 詳細版については細かい内容も記述しているので, それが不要であればざっくりまとめ版に目を通すだけでも良い.
複素数, 複素平面 (詳細版)
複素数の歴史
複素数は, 16世紀にカルダノが3次方程式の根の公式を発見 (実際にはタルタリアとの物議がある) し, ある条件のとき,
その後, 18世紀末から19世紀初頭に複素数を平面上の点で表すというアイディアが発展し, 複素数の全体像が次第に明らかになっていき, 現在では複素数は自然科学・工学で不可欠な言語となっている. すなわち複素数を考えると, 普通は隠れている調和と法則性が見えてくる.
複素数を表す平面(複素平面)を考えると, 複素数の性質が具体的にも直観的にもより良く理解できるようになるため, 複素数を取り扱うときは, 常に複素平面を描いて考えると良い.
複素数に至るまでの数の拡張
自然数(natural number)
例:
↓
整数(integer)
例:
↓
有理数(rational number)
例:
+
無理数(irrational number)
例:
↓
実数(real number)
有理数と無理数をまとめて実数と呼ぶ.
+
虚数(imaginary number)
2乗して負になる数を純虚数(imaginary number)と呼ぶ.
方程式
↓
複素数(complex number)
実数と虚数の和または差からなる数
: 複素数 の実部 (real part) ( ならば は虚数となる) : 複素数 の虚部 (imaginary part) ( ならば は実数となる)複素数は「
( は実数)」の形にただ一通りに表される.
任意の実数
3次方程式, 4次方程式, などの高次の代数方程式
すなわち,
複素数を係数とする
複素数の四則演算
2つの複素数
について が成り立つ2つの複素数は
が成り立つとき, 互いに等しい逆に
ならば が成り立つ
複素数
について が成り立つ複素数の四則演算は, 実数の場合と同じように行うことができる(ただし,
)加法の交換則・結合則:
乗法の交換則・結合則:
分配則:
加法・乗法の単位元の存在:
加法:
減法:
乗法:
除法:
複素数の逆数
(上の除法で分子が の場合)加法・乗法の逆元の存在
例)
共役 (きょうやく)
複素数
の共役複素数(complex conjugate): が実数ならば だから が虚数ならば だから次の関係が成り立つ
絶対値
複素数
の絶対値 :
すなわち, のとき だから
逆に,
ならば, となるから,2つの複素数
の積の絶対値 : すなわち,任意の2つの複素数の積の絶対値は, 各々の絶対値の積に等しい
2つの複素数
の商の絶対値 : すなわち,任意の2つの複素数の商の絶対値は, 各々の絶対値の商に等しい
2つ以上の複素数があるとき, 実数の場合と異なり, 複素数の間に大小の順序関係は存在しない. 一方, 複素数の絶対値は実数であるから, 順序関係が定義できる.
複素平面
実数は直線(数直線)上の点で表される ↓ 2つの実数の組からなる複素数は, 平面上の点で表すことができる.
平面上の直交座標系
横軸 (
複素数全体の集合
複素平面上の点と複素数が1対1に対応することから, 複素数
複素数の各性質の複素平面上の対応
実軸に関して折り返した点は複素共役に対応
複素平面において, 原点
から点 までの距離 : すなわち, の絶対値は, 原点から点 までの距離に等しい
2点
の間の距離 :
また, 下記の不等式が成り立つ
オイラーの公式
式
虚数
で定義する.
複素関数としての指数関数の導入の際に再び出てくる(定義する)が, 今のところ天下り的に式
導出される公式
また, オイラーの公式から次の公式が導かれる:
極形式
直交座標の代わりに
と表わす方法を「極形式」という.
ここで,
は の偏角と呼ばれる (アーギュメント・ゼット)と表す与えられた複素数
に対して, その偏角 は一通りには決まらず, の不定性が残るこの不定性を除くためには, 例えば
等と約束する( でも でも良い)どれか特定の範囲に決めた(例えば
)ときの偏角を と書き, 偏角の主値と呼ぶ (以後, 特に断らない限り, 通常は偏角は主値を取るものとする)すなわち, arg
の可能な一つの値を とすると, も の偏角となる に対しても極形式は成り立つが, このときの は決めようがないため, の偏角は定義しない「偏角」の言葉の意味:正の実軸からどれだけずれているか(偏っているか)を表す量 (この観点からは,
ととるのが自然かもしれないが, 何でもよい. )
共役:
※ 偏角は,
複素数, 複素平面 (ざっくりまとめ版)
実数と虚数との和・差を複素数と呼ぶ.
複素平面 : 複素数を実部と虚部の空間に対応させたもの
三角関数と複素指数関数
実数の指数関数の拡張として, 複素数での指数関数 (複素指数関数) を定義し, 三角関数との関係を見ていく.
複素指数関数
まず, 実数
関数
となる.
さらに, この右辺の無限級数を複素数
を考える.
この無限級数
を除けば収束し, の場合は, となり は実数になるため, 式 と一致
となる.
したがって, 無限級数
と定義する.
この指数関数
の場合, の場合,指数法則 :
指数関数の微分:
, ( : 定数)
といった性質を持つ.
複素指数関数の三角関数表現
の場合
複素数
となる. 和の中身を
となる.
一方,
となる.
したがって, 式
オイラーの公式 :
と書き直せる. これはオイラーの公式と呼ばれる.
の場合
複素数
となる.
三角関数の複素指数関数表現
以上の式
のように, 複素数を用いた指数関数で表現することができる.
このことを用いると, 運動方程式の一般解
として記述することができる (具体的な導出は次回).