自由度 (degree of freedom)

質点

大きさを無視できるような物体を記述する場合, その物体を質点と呼ぶ → 質点と呼べるかどうかは具体的な条件による

  • 地球

    • OK : 太陽の周りの公転を記述する場合

    • NG : 地球自体の自転を記述する場合

revolution_rotation

 

位置ベクトル, 速度, 加速度

位置ベクトル

空間における質点の位置を示す. 自由度によって変数の数が異なる

自由度 : ある系の位置を一意に決定するために必要な独立な量の個数

  • 自由度1 : r=(x)

  • 自由度2 : r=(x,y)

  • 自由度3 : r=(x,y,z)

自由度1自由度2自由度3
position_dof1position_dof2position_dof3

速度

位置ベクトルの時間の1階微分 : v=drdt

加速度

位置ベクトルの時間の2階微分 : a=d2rdt2=dvdt

 

振動波動現象の例

自由度ごとの例

自由度1

バネによる単振動バネにつるしたおもりの単振動単振り子水面に浮かぶ浮きの上下運動
phenomenon_example_dof1_1phenomenon_example_dof1_2phenomenon_example_dof1_3phenomenon_example_dof1_4

自由度2

2連のバネ振動2重振り子回る振り子
phenomenon_example_dof2_1phenomenon_example_dof2_2phenomenon_example_dof2_3

 

身近な振動現象の例

自然界の例

  • 原子, 分子の振動 (熱等)

  • 惑星の公転, 自転

  • 心臓の鼓動

  • 光 (電磁波)

  • 水面波

  • 地震

  •  

工業的な例

  • 時計の振り子

  • モーターの回転

  • EMS (低周波治療機)

  • 触覚伝送 (低周波)

 

普遍的な現象

上記の各現象は, 変数は違うが, どれも振動現象として扱うことができる. → (細かいファクターを抜きにすれば, ) 共通の運動方程式で記述可能 普遍的な現象といえる

共通の運動方程式

単振動現象に共通して現れる式を 共通の運動方程式 :

(1)d2xdt2=ω2x

と呼ぶ.

以下で, 実際に具体例を見ていく

バネによる単振動

例として, 下図のようなバネによる単振動の微小振動について考える. おもりの質量をm, バネ定数を k, おもりの変位をx とする.

simple-harmonic-oscillation_spring

運動方程式

上図では, 振動中心よりも x 軸の正方向におもりがあるため, バネによる力は x 軸の負の方向にかかる. そこで, 運動方程式は

()()=()(2)md2xdt2=kx

となる. これは ωkm と置くと共通の運動方程式 d2xdt2=ω2x に帰着する.

一般解

この運動方程式を解き, 位置 x の時刻 t についての関数を求めると

(3)x(t)=Acos(ωt+ϕ)

となる. これを一般解と呼ぶ. 各変数, パラメター, 特徴的な物理量については下記の通り.

 変数 パラメタ  特徴的な物理量  
名称時刻位置振幅角振動数初期位相位相周期振動数
単位smm1/s無次元無次元sHz = 1/s
文字txAωϕωt+ϕT=2πων=1T

simple-harmonic-oscillation_graph

x(t)=Acos(ωt+ϕ)
ゆっくりな振動素早い振動
A=10, ϕ=2, ω=1A=10, ϕ=2, ω=2
simple-wave_omega1.movsimple-wave_omega2.mov
simple-wave_omega1simple-wave_omega2

一般解の導出

実際に運動方程式 (2)

md2xdt2=kx

から一般解を導出していく.

ここでは, (0) 運動方程式 (N) に対して (1) 速度を掛けて (Nms) (2) 時刻で積分する (Nmss=Nm=J) ことで, 運動方程式 (力の次元 N) から, エネルギー保存則 (エネルギーの次元 J) を導出する という手法 (エネルギー積分) を実施していく.

 

両辺にdxdtをかけて

md2xdt2dxdt=kxdxdtmd2xdt2dxdt+kxdxdt=0m(ddtdxdt)dxdt+kxdxdt=0mdvdtv+kxdxdt=0        (v=dxdt)mvdvdt+kxdxdt=0m12ddt(v2)+k12ddt(x2)=0ddt(m2v2+k2x2)=0

時刻tで積分

ddt(m2v2+k2x2)dt=0dtm2v2+k2x2=C

となり, エネルギー保存の式が導出された:

m2(dxdt)2+k2x2=C    (C: 積分定数)

C=k2A2とおくと

m2(dxdt)2=k2(A2x2)dxdt=±km(A2x2)

変数分離して積分

1A2x2dx=±kmdtcos1xA=±(kmt+ϕ)    (ϕ: 積分定数)xA=cos(±(kmt+ϕ))x=Acos(±(kmt+ϕ))

ここで

(4)ωkm

とおくとする. さらに, cos は偶関数なので, cos(x)=cosx であることから

(5)x=Acos(ωt+ϕ)

となり, 一般解 (3) が導出できた.

 

定義式 (4) ωkm より, 元の運動方程式 (2) md2xdt2=kx 共通の運動方程式 :

d2xdt2=ω2x

で記述でき, バネによる単振動が共通の運動方程式 (1) に帰着することが確認できた.

 

角振動数ωが定義式 (4) ω=km として記述できるため, この例における各物理変数の振動への寄与は下記の通り:

復元力のパラメタ: k質量 (慣性): m 角振動数: ω=km位置: x
バネ強い = k 大きいそのままω 大きい素早い振動
バネ弱い = k 小さいそのままω 小さいゆっくりな振動
そのまま質量小さい = m 小さいω 大きい素早い振動
そのまま質量大きい = m 大きいω 小さいゆっくりな振動

このように, 共通の運動方程式の形で記述することにより, 各系の特性を知ることができる.

k=1,m=4  ω=1/2k=1,m=1  ω=1k=4,m=1  ω=2
spring_k1_m4.movspring_k1_m1.movspring_k4_m1.mov
spring_k1_m4spring_k1_m1spring_k4_m1

 

単振り子

別の例として, 下図のような単振り子の微小振動について考える. おもりの質量をm, 重力加速度をg, 天井からのおもりまでの紐の長さをl, おもりの変位をx, 垂直線からの傾きをθとする.

simple-pendulum.png

おもりにかかる力は下図の通り.

simple-pendulum_solution

 

x 方向の運動方程式は, 重力mgx成分がかかっているため,

(6)md2xdt2=mgsinθ

となる. ここから, エネルギー保存の式を導出する. (6) において, 振り子の周 x は, x=lθ なので,

md2(lθ)dt2=mgsinθ(7)d2θdt2=glsinθ

となる. さらに, sinθはテイラー展開によって,

(8)sinθ=θ13!θ3+15!θ5+...

と書けるが, 微小振動ではθは微小であるから, 式(8)の高次の項は無視でき, 近似的に

sinθθ

とみなせる. ゆえに, 式 (7) は,

d2θdt2=gl(θ13!θ3+15!θ5+)(9)glθ

となり, 微小振動として近似された運動方程式となる. ここで ωgl と置くと, 微小振動として近似された運動方程式 d2θdt2glθ が共通の運動方程式 d2xdt2=ω2x に帰着する.

両辺にdθdtをかけ, 時刻tで積分すると

d2θdt2dθdt=glθdθdtd2θdt2dθdt+glθdθdt=0ddt(12(dθdt)2+12glθ2)dt=0(10)12(dθdt)2+12glθ2=C    (C: 積分定数)

となり, エネルギー保存の式が導出された.

 

次に, 振幅をA, 初期位相をϕとして, 運動方程式から一般解を導出する.

エネルギー保存式 (10) において, C=12glA2とおくと

12(dθdt)2=12gl(A2θ2)dθdt=±gl(A2θ2)

変数分離して積分

1A2θ2dθ=±gldtcos1θA=±(glt+ϕ)    (ϕ: 積分定数)θA=cos(±(glt+ϕ))θ=Acos(±(glt+ϕ))

ここで

(11)ωgl

とおくとする. さらに, cos は偶関数なので, cos(x)=cosx であることから, 一般解:

θ=Acos(ωt+ϕ)

が導出できた.

この一般解の振動数は, ω=gl となる. したがって, 振動数 ωを大きくするためには, 紐の長さlを小さくすれば良い.

 

また, 定義式 (11) ωgl より, 微小振動として近似された運動方程式 (9) d2θdt2glθ

(12)d2xdt2=ω2x

と記述でき, 単振り子の場合も共通の運動方程式 (1) に帰着することが確認できた.

 

 

 

次回以降の準備 (複素数と三角関数)

ここまでは単振動の解をcos を用いて表現していたが, 実は, 他の形式でも表現することができる. 具体的な紹介は次回以降で行うが, ここではその準備として, 複素数と三角関数との対応をみていく.

以下は詳細版ざっくりまとめ版の2段構成になっている. 詳細版については細かい内容も記述しているので, それが不要であればざっくりまとめ版に目を通すだけでも良い.

 

複素数, 複素平面 (詳細版)

複素数の歴史

複素数は, 16世紀にカルダノが3次方程式の根の公式を発見 (実際にはタルタリアとの物議がある) し, ある条件のとき, 1 という奇妙な数が現れることに気づいて以来, 長い間, 虚数は単なる想像上の数として扱われた.

その後, 18世紀末から19世紀初頭に複素数を平面上の点で表すというアイディアが発展し, 複素数の全体像が次第に明らかになっていき, 現在では複素数は自然科学・工学で不可欠な言語となっている. すなわち複素数を考えると, 普通は隠れている調和と法則性が見えてくる.

複素数を表す平面(複素平面)を考えると, 複素数の性質が具体的にも直観的にもより良く理解できるようになるため, 複素数を取り扱うときは, 常に複素平面を描いて考えると良い.

 

複素数に至るまでの数の拡張

自然数(natural number)

例: 1,2,,n,などの数 a,bを自然数とすると, その和a+b, 積ab自然数

整数(integer)

例: 0,±1,±2, などの数 方程式a+x=b が常に解をもつために, 自然数にゼロと負の数を加えた数の集合整数

有理数(rational number)

例: x=ba(a0) 等の数 任意の整数a,bに対する方程式 ax=b(a0) が常に解をもつために, 整数に分数を加えた数の集合有理数

+

無理数(irrational number)

例: ±2,±3,,π, 等の数 方程式 x2=3 の解 ±3 や, 円周率πや自然対数の底e など, 有理数 (整数の分数) として表せない数無理数と呼ぶ

実数(real number)

有理数と無理数をまとめて実数と呼ぶ.

+

虚数(imaginary number)

2乗して負になる数を純虚数(imaginary number)と呼ぶ. 方程式 x2=1 などが解をもつために, 新たに導入した2乗して負になる数虚数 特に2乗して-1になる数を虚数単位 (imaginary unit) iと呼ぶ ( i2=1 ).

複素数(complex number)

実数と虚数の和または差からなる数 α=a+bi (a,b は実数)を複素数と呼ぶ

  • a=Reα: 複素数αの実部 (real part) (a=0ならばαは虚数となる)

  • b=Imα: 複素数αの虚部 (imaginary part) (b=0 ならば αは実数となる)

  • 複素数は「 α=a+ib (a,b は実数)」の形にただ一通りに表される.

 

任意の実数a,b,c (a0)を係数にもつ2次方程式 ax2+bx+c=0(a0) は, 常に複素数の範囲に解x=b±b24ac2aをもつ (係数 a,b,cが複素数であっても, 必ず複素数の範囲に解をもつ)

 

3次方程式, 4次方程式, などの高次の代数方程式 αnxn+αn1xn1++α1x+α0=0 を考える (αn,αn1,,α1,α0は任意の複素数). この方程式が常に解をもつためには, 数の範囲をさらに広げる必要はない.

すなわち, 複素数を係数とするn次方程式は, いつでもn個の解を複素数の範囲にもつ(重根は別々に数える) ということが知られている. したがって, 数の範囲の拡張は複素数で終わり, 実数と同じように, 四則演算や極限を考えることができる数の体系であることがわかる.

 

複素数の四則演算

  • 2つの複素数α=a+bi, β=c+diについて α=βa=c, b=d が成り立つ

    • 2つの複素数はa=c, b=dが成り立つとき, 互いに等しい

    • 逆にα=βならば a=c, b=dが成り立つ

  • 複素数 α=a+bi=0について α=0a=0, b=0 が成り立つ

  • 複素数の四則演算は, 実数の場合と同じように行うことができる(ただし, i2=1, (i)2=1

    • 加法の交換則・結合則:α+β=β+α,(α+β)+γ=α+(β+γ)

    • 乗法の交換則・結合則:αβ=βα,(αβ)γ=α(βγ)

    • 分配則:α(β+γ)=αβ+αγ

    • 加法・乗法の単位元の存在:α+0=α,α1=α

    • 加法:(a+bi)+(c+di)=(a+c)+(b+d)i

    • 減法:(a+bi)(c+di)=(ac)+(bd)i

    • 乗法:(a+bi)(c+di)=ac+adi+bci+bdi2=(acbd)+(ad+bc)i

    • 除法: a+bic+di=(a+bi)(cdi)(c+di)(cdi)=(ac+bd)+(bcad)ic2+d2=ac+bdc2+d2+bcadc2+d2i(c+di0)

  • 複素数の逆数 1c+di=cc2+d2dc2+d2i (上の除法で分子が1 (a=1,b=0)の場合)

  • 加法・乗法の逆元の存在 α+(α)=0 α1α=1(α0)

 

例)α1=1+i,α2=3+2i に対して

  • α1+α2=4+3i

  • α12+2α2+i=(1+i)2+2(3+2i)+i=(1+2i1)+2(3+2i)+i=2i+6+4i+i=6+7i

  • α2α1=3+2i1+i=(3+2i)(1i)(1+i)(1i)=33i+2i+22=5i2

  • α1α2+α2=α2(α1+1)=(2+i)(3+2i)=6+4i+3i2=4+7i

 

共役 (きょうやく)

  • 複素数α=a+bi の共役複素数(complex conjugate): α=abi 

  • Reα=Reα=α+α2

  • Imα=Imα=αα2i

  • αが実数ならばImα=0だから α=α

  • αが虚数ならばReα=0だから α=α

  • 次の関係が成り立つ

    • (α)=α

    • (α1±α2)=α1±α2

    • (α1α2)=α1α2

    • (α1α2)=α1α2(α20)

 

絶対値

  • 複素数α=a+biの絶対値 : |α|=a2+b2,|α|2=αα

ααの積はαα=a2+b2となり, 常に実数で, 値は正かゼロである. この正の平方根 +a2+b2αの絶対値と呼ぶ

  • |α|=0α=0 すなわち,

    • α=0のとき a=0,b=0だから |α|2=0

  • 逆に, |α|=0ならば, a=0,b=0となるから, α=0

  • 2つの複素数α=a+bi,β=c+diの積の絶対値 : |αβ|=|α||β| すなわち,

    • 任意の2つの複素数の積の絶対値は, 各々の絶対値の積に等しい

 αβ=(a+bi)(c+di)=(acbd)+(bc+ad)i |αβ|=(acbd)2+(bc+ad)2=a2c22abcd+b2d2+b2c2+2abcd+a2d2=a2(c2+d2)+b2(c2+d2)=(a2+b2)(c2+d2)=a2+b2c2+d2=|α||β|
  • 2つの複素数α1=a+bi,α2=c+diの商の絶対値 : |α1α2|=|α1||α2|(α20) すなわち,

  • 任意の2つの複素数の商の絶対値は, 各々の絶対値の商に等しい

      |α1α2|=|(ac+db)+i(bcad)c+id|=|(ac+bd)+i(bcad)c2+d2|=(ac+bd)2+(bcad)2c2+d2=a2c2+b2d2+b2c2+a2d2c2+d2=(a2+b2)(c2+d2)c2+d2=a2+b2c2+d2|α1||α2|=a2+b2c2+d2
  • 2つ以上の複素数があるとき, 実数の場合と異なり, 複素数の間に大小の順序関係は存在しない. 一方, 複素数の絶対値は実数であるから, 順序関係が定義できる.

 

複素平面

実数は直線(数直線)上の点で表される 2つの実数の組からなる複素数は, 平面上の点で表すことができる.

real-line_complex-plane

平面上の直交座標系 (x,y) をとり, 複素数 α=a+biを, x座標, y座標がそれぞれa,bである点(a,b)に対応させればよい. 複素数z=x+iyxy平面の点(x,y)を対応付けるとき, この平面を複素平面 (complex plane) という.

横軸 (x軸) = 実軸 縦軸 (y軸) = 虚軸 と呼ぶ.

複素数全体の集合C:複素平面 実数全体の集合R:複素平面の実軸に相当

複素平面上の点と複素数が1対1に対応することから, 複素数αのことを, 複素平面上の点αと呼ぶこともある

 

複素数の各性質の複素平面上の対応

  • 実軸に関して折り返した点は複素共役に対応 complex-cojugate

  • 複素平面において, 原点Oから点α=a+biまでの距離 : a2+b2=|α| すなわち, αの絶対値は, 原点から点αまでの距離に等しい complex-abs

  • 2点α1=a1+b1i, α2=a2+b2iの間の距離 : (a1a2)2+(b1b2)2=|α1α2| complex-2-distance

 

また, 下記の不等式が成り立つ

  • |Reα|,|Imα||α||Reα|+|Imα| distances_Re-Im

 

オイラーの公式

虚数iθを変数とする指数関数eiθを天下り的に

(13)eiθ=cosθ+isinθ

で定義する.

複素関数としての指数関数の導入の際に再び出てくる(定義する)が, 今のところ天下り的に式 (13) の右辺を略して表す記号として左辺のeiθというものを定義する. これを用いると, 複素数zは極形式によってz=r(cosθ+isinθ)=reiθ, z=reiθと表される.

 

導出される公式

また, オイラーの公式から次の公式が導かれる:

  • |eiθ|=|cosθ+isinθ|=cos2θ+sin2θ=1

  • eiθ1eiθ2=ei(θ1+θ2)

  • (eiθ)1=1cosθ+isinθ=cosθisinθ(cosθ+isinθ)(cosθisinθ)=cosθisinθ=eiθ

  • (eiθ)n=einθ

  • enπi=(1)n,e(n+1/2)πi=(1)ni

  • cosθ=eiθ+eiθ2,sinθ=eiθeiθ2i

  • ddθeiθ=ieiθ,d2dθ2eiθ=eiθ

 

極形式

直交座標の代わりに

(14)z=a+bi=r(cosθ+isinθ)

と表わす方法を「極形式」という.

polar-form

ここで,

  • a=rcosθ, b=rsinθ

  • r=|z|

  • θzの偏角と呼ばれる

    • θ=argz (アーギュメント・ゼット)と表す

    • 与えられた複素数zに対して, その偏角θは一通りには決まらず, 2πn (n=0,±1,±2,)の不定性が残る

    • この不定性を除くためには, 例えば 0θ<2π 等と約束する( π<θπ でも a<θa+2π でも良い)

    • どれか特定の範囲に決めた(例えば π<Arg(z)π)ときの偏角を Arg(z)と書き, 偏角の主値と呼ぶ (以後, 特に断らない限り, 通常は偏角は主値を取るものとする)

    • すなわち, argzの可能な一つの値をθとすると, θ+2πn(n=0,±1,±2,)zの偏角となる

    • z=0 に対しても極形式は成り立つが, このときのθは決めようがないため, 0の偏角は定義しない

    • 「偏角」の言葉の意味:正の実軸からどれだけずれているか(偏っているか)を表す量 (この観点からは, π<Arg(z)πととるのが自然かもしれないが, 何でもよい. )

  • 共役:z=abi=r(cosθisinθ)=reiθ

 

※ 偏角は, zlogz のような複素数を考える場合, またn乗根を求める場合などで深い意味をもつようになる.

 

複素数, 複素平面 (ざっくりまとめ版)

実数と虚数との和・差を複素数と呼ぶ.

:z=x+iy    (x,y:, i:, z:):Re z=x:Im z=y:z=xiy:eiθ=cosθ+isinθ(15)():z=A(cosθ+isinθ)=Aeiθ    (A:, θ:)():|z|=A=zz=(xiy)(x+iy)=x2+y2    (A:)

複素平面 : 複素数を実部と虚部の空間に対応させたもの

complex-plane

 

 

 

三角関数と複素指数関数

実数の指数関数の拡張として, 複素数での指数関数 (複素指数関数) を定義し, 三角関数との関係を見ていく.

複素指数関数

まず, 実数xを指数に持つ関数exを考える.

関数exをテイラー展開すると,

ex=1+x+12!x2+13!x3++1n!xn+(16)=n=01n!xn

となる. さらに, この右辺の無限級数を複素数z=x+iyに拡張したもの:

  1+z+12!z2+13!z3++1n!zn+(17)=n=01n!zn

を考える. この無限級数 (17)は,

  • |z|=を除けば収束し,

  • y=0 の場合は, z=xとなりzは実数になるため, 式(16) と一致

となる. したがって, 無限級数 (17) を用いて, 複素数z=x+iyの指数関数ez

ez1+z+12!z2+13!z3++1n!zn+(18)=n=01n!zn

と定義する. この指数関数ezは, exと同様に

  • z=0の場合, ez=e0=1

  • z=1の場合, ez=e1=n=01n!1n=n=01n!=e

  • 指数法則 : ez1ez2=ez1+z2

  • 指数関数の微分: dezdz=ez, deczdz=cecz (c: 定数)

といった性質を持つ.

 

複素指数関数の三角関数表現

z=iy の場合

複素数zが虚数iyである場合を考える. ezの定義式 (18)  ezn=01n!znz=iyを代入すると,

(19)eiy=n=01n!inyn

となる. 和の中身をnの偶数奇数で分けると

eiy=n=012n!i2ny2n+n=01(2n+1)!i2n+1y2n+1(20)=n=012n!(1)ny2n+in=01(2n+1)!(1)ny2n+1

となる. 一方, cosysinyをテイラー展開すると

(21)cosy=112!y2+14!y4+=n=012n!(1)ny2nsiny=y13!y3+15!y5+=n=01(2n+1)!(1)ny2n+1

となる. したがって, 式(20)は,

オイラーの公式 :

(22)eiy=cosy+isiny

と書き直せる. これはオイラーの公式と呼ばれる.

 

z=iy の場合

複素数zが虚数iyである場合は, z=iyの場合と同様に計算すると

eiy=n=01n!(1)ninyn=n=012n!(1)2ni2ny2n+n=01(2n+1)!(1)2n+1i2n+1y2n+1=n=012n!(1)(1)ny2n+in=01(2n+1)!(1)(1)ny2n+1=n=012n!(1)ny2nin=01(2n+1)!(1)ny2n+1(23)=cosyisiny

となる.

 

三角関数の複素指数関数表現

以上の式 (22), (23)によって, 三角関数は

cosy=eiy+eiy2siny=eiyeiy2i

のように, 複素数を用いた指数関数で表現することができる.

このことを用いると, 運動方程式の一般解 (3) x(t)=Acos(ωt+ϕ)

x=C1eiωt+C2eiωt   (C1,C2:複素数の任意定数)

として記述することができる (具体的な導出は次回).