後藤田正晴・村山富市・岡野加穂留『若者と語る』(毎日新聞社、2002年)

   西川伸一「まえがき」

 オーラル・ヒストリー(oral history)とよばれる研究手法がある。政治家など公人の公的生涯について本人にインタビューし、その証言から政策決定のプロセスに迫ろうというものである。インタビュー記録は本人の同意のもとに公開され、研究者のみならず一般国民の共有財産となる。

 アメリカにはオーラル・ヒストリーのプロジェクトを担う独立した公的機関や制度があるというが、わが国においては、オーラル・ヒストリーはようやく確立されつつある研究手法といってよかろう。これまで、中曽根康弘『天地有情』(文芸春秋、1996年)、後藤田正晴『情と理』(講談社、1998年)、竹下登『政治とは何か』(講談社、2001年)などがこの手法によって刊行されている。インタビュアーはいずれも第一線の政治学者である。

 その一人である御厨貴(みくりや・たかし)政策研究大学院大学教授によって、『オーラル・ヒストリー-現代史のための口述記録』(中公新書)が2002年4月に出版された。オーラル・ヒストリーの準備、実施、および記録の整理などをいかにすべきか、プロのワザを披露したものである。

 これを学生がやろうというのであるから、本書はきわめて野心的な試みである。

 明治大学政治経済学部の新入生を対象とした本を出版する----この企画がスタートしたのは、2002年1月下旬のことであった。教務主任(現学部長)の飯田和人教授を中心に、岡野加穂留名誉教授・明大元学長、大六野耕作教授、さらには総合政策研究所・基礎マスコミ研究室講師の方に顧問役をお願い、いかにしたら新入生が開いてくれるような本になるか、何度かブレーンストーミングを繰り返した。そしてたどり着いたのが、学生をインタビュアーにして著名人に「突撃」させるというものであった。

 各界著名人が好ましかろうということで、経済界や文壇にも候補者を探したが諸般の事情から実現させることはできなかった。しかしその分、政治家と政治学者の組み合わせというまとまった構成になったのではなかろうか。

 インタビューに参加した学生は、以下の出身母体から選ばれている。

   大学院政治経済学研究科政治学専攻・大六野研究室の院生(3名)

   政治経済学部・西川ゼミの学部学生(3名)

   政治経済学部総合政策研究所・基礎マスコミ研究室の学部学生(4名)

 彼ら10名を後藤田班、村山班、岡野班にばらばらに振り分け、院生を各班の班長とした。

 御厨教授の教えをまつまでもなく、学生たちは周到な準備をしてインタビューに臨んだ。巻末の「インタビューを終えて」にあるとおりである。学生という「斬新な」インタビュアーを迎えて、元副総理の後藤田正晴先生、元首相の村山富市先生が、これまで両先生の著作には触れられていない興味深い話を随所にサービスしてくださった。これら貴重な証言が本書の刊行によって後世に伝えられると思うとゾクゾクしてくる。

 また、岡野先生のパーソナル・ヒストリーをここまで体系的に紹介したのも本書がはじめてであろう。「政治学者の誕生」に立ち会う臨場感を味わうことができる。それは、学生時代をいかに過ごすか、いかに勉強すべきかの格好の指針を与えてくれる。

 本書が、新入生のこれからはじまる政治経済学部での勉強のきっかけになってくれれば、これに勝る幸せはない。  最後に、この企画に参加した学生たちに厚く御礼申し上げたい。彼らの並々ならぬ熱意がなければ、本書は到底出版の運びにならなかったであろう。

   2002年10月1日

                       本書編集人の一員として

                    政治経済学部助教授 西川 伸一


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