ツケ払いの1年

   西川伸一  * 『政経論叢』(明治大学政治経済研究所)第66巻第3号「編集後記」掲載

 1997年が暮れようとしている。金融機関の相次ぐ経営破綻に耳目を疑った1年だった。

 バブル絶頂期には、金融機関は土地さえあれば資金をどんどん貸し出し、融資のための審査は形式にすぎなかった。さらにバブル末期になると、切り立った垂直の絶壁でも、横に倒せば土地とみなせるということで、融資の担保になったという。無茶苦茶にもほどがあろう。こうしたツケがいま回ってきているのである。

 ツケといえば、産業革命以来人類が排出を激増させてきた二酸化炭素。このツケがたまって、南太平洋の島国は水没の危機にある。温暖化防止京都会議はツケの支払い方をめぐる話しあいだった。一応の合意をみたが、ツケをためこんだ国々が「完済」を約束したとは到底いえまい。

 国内政治に目を転じると、省庁再編を目指す議論も、肥大化した政府組織のツケ回しをいかに清算するかに要約できそうだ。結局、行革会議は、現行の22省庁を1府12省庁に半減させるなどの最終報告を決定した。未決着の大蔵省改革、「郵政公社」というマヌーバー、そして「国土交通省」なる巨大公共事業官庁の出現、等々。先送りされたツケも少なくない。

 こうしてツケ払いに追われて今年が終わる。

 「どなた様に限らず現金でお願いいたします。」私がたまに昼食をとる飲食店のレジに貼ってある言葉である。勘定を払って「ごちそうさま」といって店を出るときのすがすがしさ。いま必要とされているのは、この単純明快な論理なのかもしれない。

 それでは、新年が皆様にとりまして佳き年でありますように。


 1997年12月18日記


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