「進歩」のジレンマ

   西川伸一  * 『QUEST』第9号(2000年9月)「編集後記」掲載

 ☆今号の特集は医療問題。医学の進歩は人類を本当に幸福にするのかと、ときに考え込んでしまう。たとえば出生前診断。これを受ければ胎児がダウン症児かどうか確定できる。ダウン症と宣告された父母はきわめて重い決断を迫られる。

 ☆ヒトゲノムの解読。これも人類に明るい未来をもたらすのか。確かに先天的な病気の予防には大きな力を発揮しよう。一方で、自分の子どもに高い知能や芸術、スポーツの才能を与えたいと願う親が、その遺伝子を受精卵に移植してやることも不可能ではない。

 ☆もちろん、こうした「遺伝子強化」の医療を受けられるのは、先進諸国の人々である。人類はやがて、デジタル・デバイドならぬ遺伝子デバイドにより二分化されることになるのか。ハックスリーが『すばらしい新世界』で描いた逆ユートピアへの第一歩だ。

 ☆総選挙の結果、社民党の躍進とは対照的に、共産党は6議席を減らした。テレビの開票速報を見ていたら、不破委員長をはじめ当選者がみな判で押したように、謀略ビラを敗北の言い訳にしていたのにはあきれた。以前はソ連東欧の崩壊、そして今回は謀略ビラ。自分たちの選挙戦術は「科学的に正しい」のだから、負けた原因は外に求めるしかないのだろう。その姿勢こそ敗北の本質ではないのか。

 ☆丹野清秋さんが亡くなった。ついにお目にかかれずじまいに。合掌。


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