「新しい仲間(新任教員紹介)・小山田朋子先生」

西川伸一『政経フォーラム』(明治大学政治経済学部)
第28号、70-72頁。

 憲法・危機管理行政学ご担当の小山田朋子先生をご紹介いたします。政治学科と地域行政学科の1年生の必修科目である憲法につきましては、これまで長い間、法学部に担当教員を委嘱してまいりました。必修科目には専任教員を充てたい、と考えられた飯田和人・前学部長および大六野耕作・現学部長のご尽力の結果、理事会よりようやく専任教員枠をいただくことができました。そして公募ののち、書類選考、模擬授業、口頭試問を経て、2009年度より小山田先生をお招きすることになりました。
 小山田先生は国際基督教大学教養学部社会科学科をご卒業ののち、東京大学大学院法学政治学研究科基礎法学(英米法)専攻修士課程に進学されました。その後、同博士課程に進まれ、2007年には博士(法学)の学位を取得されています。また、2008年度には日本学術振興会特別研究員に採用され、その55名のポストドクターのうち唯一人のスーパーポストドクターに選ばれました。
 ここに、小山田先生が提出された公募書類があります。そこには、「私は、「自己決定権」という視点から大学卒業論文、修士論文、博士論文を書きました。主に米国法における「医療における自己決定権」に焦点をあてて研究を行っています」と書かれています。ちなみに、博士論文は『医学と利益相反──アメリカから学ぶ』とのタイトルで、2007年に弘文堂より刊行されました。
 自己決定権は、いまでは患者の権利の最も重要な権利のひとつとみなされています。かつては、患者と医師との関係はパターナリズム(家父長的温情主義)を基本にして、医師が患者を指導すべきであると考えられていました。しかし、1970年代以降アメリカでこのパターナリズムが批判され、医療は患者の自己決定によることが求められるようになったのです。医療技術の発展による治療法の選択肢の拡大、患者の権利意識の向上、さらには人々の価値観の多様化などがその背景にあります。
 医療行為をめぐるこうしたパラダイム転換は、インフォームド・コンセントのあり方に大きな影響を与え、さらに患者と医師の利益相反問題の議論にもリンクしていきます。山崎豊子の小説『白い巨塔』は、これらの論点を先取り的に提示しているのだと思います。そして、小山田先生は、まさしくこの流れをアメリカ法とアメリカでの訴訟を素材に縦横に研究されてきました。いまでは、厚生労働省科学研究費による「患者の権利」についての研究会の一員に招聘されるなど、インフォームド・コンセントや医療倫理の専門家として確固たる地位を築かれています。
 一方で、小山田先生は本学に着任される以前に、3年間の非常勤講師(憲法など)としてのキャリアをおもちです。大教室であっても双方向の授業に心がけられ、学生からの授業評価は上々だったとのことです。公募書類に戻れば、「教えることから私自身発見できることも多く、非常にやりがいのある仕事だと感じました」とあります。この熱意で、大学に入ったばかりの学生たちを「しごいて」下さるはずです。
 さて、口頭試問では、失礼を承知の上で、うちで骨を埋めてほしいがいかがでしょうかと敢えてお聞きしました。また、教育・研究はもちろん、校務をいとわずにやっていただきたいとも率直に申し上げました。いずれも肯定的なお返事をいただき、安堵した次第です。人柄的にはとても明るい方だという印象を受けました。
 面接のやりとりで私が一番記憶に残っているのは、「studentでありたい」とおっしゃった点です。ご案内のとおり、studentには学生という意味に加えて、研究者、学者という意味もあります。これらの意味を包含するstudentとして、謙虚かつ真摯に、教育・研究、さらに校務に取り組んでいかれるものと期待しております。
 実は、小山田先生は学生時代には政治思想も学ばれており、着任前には政治経済学部のスタッフになることを楽しみにしておられたとうかがいました。研究棟の廊下などでお会いすると、思わず「後悔してませんか」と確認したくなる衝動を必死で堪えています。冗談はさておき、「市民の学」の殿堂たらんとする政治経済学部にふさわしい憲法講座の学風を、確立していかれることでしょう。
 また、学部に国際交流委員会が設置され、ノースイースタン大学との学生交流が実施されております。小山田先生は学生時代には英語でのディベートで英語力を鍛えられ、すでに学部学生時代にトフルで高スコアをマークされています。学部の国際交流にも活躍していただけるかと存じます。院生時代にはボランティアで、イギリスからの留学生のチューターをなさった経験もおありです。
 ちなみに、一昨年の大学基準協会の認証評価で、学部の教員年齢の偏りが指摘されました。学部の年齢構成、さらにはジェンダーバランスの点からも、適任の方にお入りいただいたと考えています。
 以上、小山田先生の人物点描とさせていただきます。先生が政治経済学部を舞台に、思う存分のご活躍をされることを祈ってやみません。



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